☆朝夕の娯楽★天声人語&素粒子。麻生、出て51★

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401文責・名無しさん
天声人語 2009年4月27日(月)付

 英語にスパルタン(古代スパルタ風の)という言葉がある。質実剛健、飾り気がないといった
意味で、スポーツカーの試乗記などで目にする。何であれ、一切の無駄をそぎ落とし、機能を追
い求めた姿は美しい。

 その意味で、これほど美しく、スパルタンな島はなかろう。35年ぶりに上陸が許された長崎
市沖の端島(はしま)だ。海底の石炭を休みなく掘るためだけに、小さな岩礁の周りを埋め立て、
高層アパートがひしめく「軍艦島(ぐんかんじま)」の異形となった。

 陸上競技場を二つ並べたほどの島に、昭和30年代には5千人以上が暮らし、集合住宅の実験
場といわれた。小中学校、病院、映画館、寺社も一つずつ。無人となる74年まで、すべてのも
のに存在理由があった。

 80年代、ほど近い池島の海底炭鉱にもぐったことがある。「まず600メートル降ります」
の言葉にこわばったものだ。地の底を進んだ穴の先で、重機がうなりを上げていた。過酷な仕事
は鉱員や家族を一つにする。端島の生活にも濃密な連帯感が満ちていたと聞く。

 閉山前から島を見てきた写真家、雜賀(さいが)雄二さん(57)が語る。「残すべき場所だ
から、もっと早く手を打つべきでした。それでも、あの姿を前にすれば誰しも何かを感じ取る。
近現代史や人間の未来を考えるきっかけにもなる」。

 かつては強制連行の外国人も働いた。高度成長の初期を支え、島民もろともエネルギー革命の
波にのまれた不夜城に、今度は観光資源の期待が寄せられる。人工地盤の下に折り重なるいくつ
もの記憶をたどれば、廃虚はおのずと語り始めるだろう。