朝日新聞大阪本社7月24日付 私の視点
◆竹島問題 教育の場に押し付けるな
君島和彦 東京学芸大教授(東アジア近現代史)
今年2月、李明博・韓国大統領の就任式に出席した福田首相に、
李大統領は未来志向の新時代を築くために、いわゆる歴史問題で
日本に謝罪や反省を求めないという姿勢を示した。
新たな関係が築かれようとする矢先に、日本政府は、
日韓が領有権を主張している「竹島(韓国名・独島)」について初めて記述した
中学校の学習指導要領解説書を公表し、歴史問題をまた引き起こしてしまった。
解説書によれば事実上、「竹島は日本の固有の領土」と教えることになる。
このことが「竹島・独島」を実効支配している韓国から強い反発を受けることはわかっていた。
近くは北海道洞爺湖サミットでも、李大統領は福田首相に解説書への記述をしないよう求めていた。
日韓関係の悪化に対して渡海文部科学相も町村官房長官も、
外交関係では韓国政府に「大人の関係」を求めていくと述べている。
しかし、「大人の関係」は解説書を公表する前に対処するべきことであって、
公表してからでは、日本側の主張を認めなさいという一方的な押しつけでしかない。
これでは「未来志向の関係」は築けない。
領土問題は政府間で決着をつけるべきことである。
ロシアが「不法に占拠」(解説書)している北方領土問題は一向に解決しないが、
日本政府は、李大統領が言うように「竹島・独島」を国際紛争地域にしようとしているのだろうか。
李大統領は、日中韓共通の歴史教科書の作成を検討するように指示し、
韓国政府は日韓の歴史共同研究委員会でも「竹島・独島」問題を取り扱うよう働きかけるという。
しかし、領土問題は、そのようなことで解決できることではない。
研究者が「竹島・独島」は日韓いずれかの領土だという結論を下したとして、
両政府はその結論を受け入れるだろうか。