10日付 東京版3面 企画連載記事「聞く」
東大名誉教授 多田富雄さん@ この国は病んでいる
多田富雄さん(74)=写真=は世界的免疫学者で「能」作者、文筆家にして、第1級の障害者である。脳梗塞に倒れて7年。日々、後遺症と闘い
ながら、何とか左手だけでパソコンを打ち、命の言葉を紡いできた。最近、社会に向けた発言が増えている。パソコンを通じて聞いた。
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このごろ、私はこの国の行方を深く憂えています。ひと言で言えば、私には国自身が病んでいるように思われます。
戦後の復興期には、私たちも貧しかったが、少なくとも人間らしい健康な日常がありました。そして誰もが意見をもっていた。学生だって時には
反体制運動に走るくらい元気がありました。
ところが最近は、暮らしの原理ともいえる憲法を改正する国民投票法案が強行採決されても、文句も出ないし、デモらしいデモも起こらない。
昭和の日本には社会の中心となる健全な中流が育っていました。日本はこの健全な中流に支えられていたのです。それが過剰な競争と能率
主義、市場原理主義で「格差」が広がり、もはや中流はろくに発言できなくなった。健康な社会ではなくなった。
一昨年4月から施行されたリハビリの日数制限、そして今年始まった後期高齢者医療制度など、市場原理主義にもとづく残酷な「棄民法」とし
かいいようがありません。
日本はいつからこんな冷たい国になってしまったのでしょう。病にかかっているとしか見えません。
(この連載は都丸修一が、写真は中井征勝が担当します)
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