☆朝夕の娯楽★天声人語&素粒子。49退場★

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547文責・名無しさん
天声人語 2008年7月24日(木)付

 江戸の昔から食通を堪能させてきたからか、ウナギの出てくる小咄(こばなし)は多い。たと
えば、ウナギとタコが鞘(さや)袋を拾う。鞘におさめた刀をすっぽり包む細長い革袋だ。それ
を股引(ももひき)にするから欲しいと、タコが言う。

 ウナギは「8本足の1本だけ股引をはいても仕方なかろう」と自分のものにしようとする。タ
コが「では、おぬしは何にする」と尋ねると、ウナギいわく「かば焼きの時の火事羽織」。

 その迷案もむなしい、きょうの「土用の丑(うし)の日」である。ウナギにはご難だが、1年
で一番売れる日だ。炎暑の店先にのぼりが立ち、香ばしい匂(にお)いが流れれば、つい行列を
してまで食べたくなる。恒例の「国民行事」に、しかし今年は影が差している。

 昨年来、中国産への不信が募っている。あおりで国産は値上がりを続けてきた。そこへ水温を
保つ重油代などが高騰し、夏場を前に値は跳ねた。国産にこだわれば、店で食べても自宅で食べ
ても、懐はかなり痛む。

 「国籍偽装」の後遺症も残る。〈土用前ウナギの沙汰(さた)に食傷し〉と小紙の川柳欄にあっ
た。だまされた後、「国産」と言われて素直に信じられるかどうか。高値に疑心があいまって、
ウナギ離れが起きるのではないか。そんな暗雲が土用の日差しを曇らせる。

 小咄の一つに、ウナギを焼く匂いで飯を食う男が出てくる。店の主がお代を求めると、銭の音
をチャリンと鳴らし、「匂いのお代は音で払う」。かば焼きが高根の花だったころの笑い話だろ
う。財布の中身をはかりつつ、国産か否かで心が揺れる夏の一日になりそうだ。
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今日の天人は、どうにもあまり腹が減らない感じ。致し方なし、か。
「中国産」への不信ではなく、含まれた毒に対する不信であり、毒をまぶして平然と出荷する人
への不信であり、その事実を隠す嘘への不信であり、その不信を避けるために産地を偽装する嘘
への不信であり、そのような行いをする人への不信であると、ワシは思う。
不信の先は、「中国産」でも「ウナギ」でもない。常に「人」に向けられている。