【産経抄】10月13日
ボクシングの亀田3兄弟とその父親の「ワル」ぶりには「定評」がある。
もっともそれは、話題になるためのマスコミ向けパフォーマンスかもしれ
ないという気がしていた。だが一昨日の大毅選手の試合をテレビで見て
「筋金入り」のように思えてきた。
▼相手のチャンピオン、内藤大助選手を「ゴキブリ」とののしったうえ、
反則を連発、最後は内藤選手をかつぎ上げて投げてしまった。最近ボク
シングのルールが変わったのかと思ったほどだ。結果的には33歳のチャ
ンピオンの人気を高めただけで終わった。
▼この試合についてサンケイスポーツ評論家の矢尾板貞雄さんが同紙に
書いた一文が的を射ていた。「何が何でも倒せばいい、という考え方では
結局勝つこともできない」と大毅選手に忠告する。「ボクサーの品格」をしっ
かり認識してから再起してほしいとも述べておられた。
▼矢尾板さんは元東洋フライ級チャンピオンである。それだけにこの言葉
には重みがあるが、「勝てばいい」で「品格」を失いつつあるのはボクシング
だけではない。日本伝統の柔道や相撲の世界も「国際化」とともに急速に
この傾向が強まっている。
▼柔道では相手に襟や袖を持たせず、足などを取るレスリング型が横行
している。しっかり組んで技をかける日本の柔道はもはや風前の灯火(とも
しび)のように見える。相撲の方も、礼儀が失われたうえに取組も跳んだり
はねたりという「品格」とはほど遠い土俵になってしまった。
▼勝ち負けよりも品格や型を重んじてきたのが日本の武道である。ボク
シングのような外来のスポーツでも日本人である以上、それを軽視していい
わけがない。むろん政治家や経営者、それに一人一人の生き方にも必要
なのは言うまでもない。