【天声人語】2006年09月21日(木曜日)付
街頭に戦車が並び、首相が非常事態を宣言する。タイ・バンコクからの報道は、軍が政権交代
に絡むクーデターの異様さを刻々と伝えてくる。近代の日本では、クーデターは、旧陸軍の青年
将校らが「昭和維新」などを掲げて企てた1936年、昭和11年の二・二六事件があった。
きのう日本では、「政権交代」が投票で行われ、安倍官房長官が21代目の自民党総裁に選ば
れた。票は、雪崩をうって安倍氏になびくとみられたが、麻生外相、谷垣財務相も一応の存在感
は示したようだ。
戦後生まれで初めての総裁・首相の誕生となる。安倍氏も当選後のあいさつでそれを強調して
いたが、戦後は、あの戦争を挟んで戦前の昭和と深くつながっている。常に、昭和の時代を総覧
しながら国政にあたってほしい。
若さは一つの魅力だが、政界での経験の少なさを懸念する向きもある。それがむしろ、利権に
しがみつく政権党の古い体質を破る力になればいいのだが。海千山千の面々が取り囲む中で、か
じをうまくとれるだろうか。
二・二六事件当時の岡田啓介首相は、襲撃されたが危うく難を逃れた。「総理大臣になると、
見えなくなるものが三つある」。そう述べたと伝えられる。
「一つは金である。権力によって不自由をしなくなるから……つぎには人間が見えなくなる。
とり入ってくる側近にかこまれて、ほんとうの人材を見失うからだ。そして最後には国民が見え
なくなる」(戸川猪佐武『日本の首相』講談社)。安倍氏が、戦後生まれで初の「裸の王様」に
ならないようにと願いたい。
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まあ、文章のまとまり具合はいい感じだと思う。
最後の言葉『「裸の王様」にならないようにと願いたい』の吐き棄て感がまたいい。
色々な意味で安倍総裁就任を祝いたくないという、怨念めいたものがにじみ出ているね。