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710文責・名無しさん
【天声人語】2006年06月21日(水曜日)付

一般にはなじみが薄いが、たまに目にする言葉に「ディシプリン」がある。英語では「discipline」で、
規律、鍛錬、しつけ、懲罰などの意味がある。サッカーでは、チーム全体の「共通理解」や「約束事」
といった戦術面での徹底を指す意味で使われることが多いという。

経済の世界では、こんなふうに使われていた。「新しい自由な社会においては、みんながある道徳律
というか、ディシプリンを持つようにならないといけないと思うんです」。10年前、当時副総裁だった
福井俊彦日銀総裁が述べた(岡本行夫対談集『ニッポン再生最前線』)。

福井氏は「今の日本人は規制に慣れすぎて自らのディシプリンを持っているのか」とも述べた。規制
緩和が進んだ21世紀の社会を展望し、それぞれが己を律するものをきちんと持つべきだという趣旨
にはうなずける。しかし、それを徹底するのは容易ではないようだ。

福井氏が、99年に村上ファンドに投資した1千万円は、昨年末には2倍以上に膨らんでいたという。
福井氏は、利殖のためではなく、村上世彰・前代表を「激励する意味」で出資したと述べたが、総裁に
就任した後も拠出し続けた。

日本では、預金金利が極めて低い状態が長く続いている。立ち止まって凍結したような預金残高に
ため息をついている側からみれば、「倍増」などは特別な世界の出来事のようだ。

福井氏は、この国の金利を左右する重い立場にあったし、今もある。自らに課したディシプリンに
照らしながら、今後の処し方を考えるべきだろう。