平成18(2006)年3月22日[水]
開花宣言の出たばかりの桜を愛(め)でながら勝利の美酒に酔った。先週の小欄で、ワールド・ベースボ
ール・クラシック(WBC)に散々毒づいたからきまり悪いけれど、世界一となった王ジャパンの快挙をたた
えたい。
▼大量得点へはずみをつけたのは三塁手の今江。韓国戦での落球を、「日本に帰って生きていけない」
とまで思いつめていたというエピソードをアナウンサーが紹介した次の瞬間、センター前ヒットが飛び出した。
▼そして追いすがるキューバを突き放すタイムリーヒットをイチローが放つ。韓国のファンにファウルボー
ルの捕球を妨害されて激しい憤りをみせたり、挑発的なコメントをあえて口にした。「孤高の求道者」のイメ
ージが強い男が気迫をむき出しにしてチームを引っ張った。国を背負って戦うことの重み、それを乗り越え
たときの喜びの大きさを教えてくれた。
▼米国本位の大会運営や“身内びいき”にしか見えない疑惑の審判が物議をかもした。それにもかかわ
らず、米国は準決勝に進めなかった。主催した米大リーグ(MLB)の筋書き通りにはいかなかったものの
、野球の魅力を世界に伝えたという意味では、成功だったのではないか。
▼地元メディアの論評のなかに、米国の野球はいつのまにか、他国に追いつかれ、追い抜かれたとの
指摘もあったという。もちろん世界中のトップ選手がMLBに一極集中している事実は変わらない。三年後
の第二回大会には米国チームの目の色も変わっているだろう。
▼ただ野球に限らず、ときに独善がすぎて、自らのルールを押し付け、なんでも一番になりたがるお国
柄である。謙虚な気持ちにさせる瞬間があったとしたら、これこそWBCの最大の功徳ではなかろうか。