☆朝夕の娯楽★天声人語&素粒子。42(死に)至る病★
【天声人語】2006年02月14日(火曜日)付
70歳になったら、トイレでも歌わないし、シャワーを浴びる時も歌わない
――。テノール歌手パバロッティが、2005年の70歳の誕生日を限りに引
退すると述べたと報じられたのは4年前だった。その人が、トリノ冬季五輪の
開会式に登場して歌った。
本人のテーマソングともいわれた「誰も寝てはならぬ」で、イタリアの作曲
家プッチーニのオペラの中の曲だ。テレビで見る限り、「私は勝つ。勝利する」
と歌い上げるくだりは、突き抜けるような驚異的な往年の声の張りを思わせる
ものがあった。
今回の登場の経緯は分からないが、パバロッティは北イタリアのモデナの出
身だ。生家は貧しく、12歳の時には伝染病で命を落としかけたこともあった
という。歌手として大成した後も、ふるさとには強い愛着を抱いていた(M・
ルイス『三大テノール』ヤマハミュージックメディア)。
過去のオリンピックの開会式を顧みると、84年のロサンゼルス五輪のあた
りから大がかりな機械仕掛けのテレビ向けの演出が多くなってきた。そんな流
れの中で、一個の生身の人間の内側から発せられる朗々とした歌声は懐かしく、
そして新鮮でもあった。
「今こそ最悪の時だ。やるべきことはすべてやった……ついに舞台へ出る時
が来た。最後の死の行進が始まる」。パバロッティは、舞台に立つ直前の心境
をこう述べている。
トリノという舞台の上でも、選手たちは極度に緊張したり、それを解きほぐ
したりしているのだろう。それぞれに「最悪の時」と戦いながら、滑り、舞い、
競っている。
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天人子が見たトリノ・オリンピック開会式の感想でした。以上です。