『産経抄』ファンクラブ 第48集

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 きのうまでの五日間、「ちょっと風邪気味で…」と夜の街も早々に退散し、一目散に帰
宅した。家人が録画したNHKドラマ「ハルとナツ」を一刻も早く見るためだ。

 ▼戦前、家族とともにブラジルに渡った姉と一人だけ日本に残らざるを得なかった妹の
人生を描いたドラマで、「おしん」の橋田壽賀子さんが脚本を書いた。「なぜ七十年も音
信不通だったの」と最後まで不思議だったが、姉役の森光子さんから子役まで芸達者がそ
ろい、「橋田ワールド」にすっかりはまってしまった。特に姉妹の父・忠次役の村田雄浩
さんの好演が光る。

 ▼日本の敗戦を信じない「勝ち組」だった忠次が元海軍士官から、日本に戻った息子の
戦死を知らされる場面はハンカチなしには見られない。凡百の脚本家なら安易に反戦的セ
リフを吐かせる場面で、今年八十歳の橋田さんは二人に「海ゆかば」を歌わせた。軍歌嫌
いのNHKにしては珍しい。

 ▼橋田さんはインタビューで、最も描きたかったのはブラジルの過酷な環境下で一生懸
命生きた忠次だったと言い、こう語る。「日本人から捨てられているのにもかかわらず、
日本を愛して愛して愛して死んでしまう人。そういう人は、今いないんですよ。日本を愛
している男が」

 ▼残念ながらそうかもしれない。「もうかれば何をしてもいい」とカネもうけに狂奔し、
なんでもかんでも「経済効果」に置き換えたがる輩(やから)のなんと多いことか。

 ▼神戸・北野の異人館街近くに「ハルとナツ」の生き別れの舞台となった国立移民収容
所(今は一部が資料室になっている)が昔と変わらぬ姿でたっている。明日からの連休、
異人館を訪ねる人はぜひ、足をのばしてみてほしい。先人たちの汗と涙の跡から何かを感
じるはずだ。

ブラジルの「勝ち組、負け組」
http://homepage3.nifty.com/yoshihito/kachigumi.htm

国に見捨てられ、移民先で迫害され、「一等国民」のプライドもつぶされてもなお
軍歌をうたう人たちの姿こそこれ以上ない反戦メッセージ