3/19 私の視点 ウイークエンド
猪瀬 直樹 作家
◆運輸多目的衛星 膨大な税金ムダ遣い
H2Aロケットの打ち上げ成功の祝賀ムードの陰で、すでに1600億円以上の税金が無駄に
使われている。
打ち上げ後に「ひまわり6号」と命名された衛星は、もともと「運輸多目的衛星(MTSAT)」と
いう聞き慣れない呼称だった。気象衛星なら、なぜ最初から「ひまわり」と呼ばなかったのか。
打ち上げ前、国土交通省は「くらしを支える新たな星。気象観測と航空管制に活躍します」と
カラー刷りのポスターを配り、正当化に懸命だった。
だが、航空管制のための人工衛星は、すでに有名なインマルサット(国際移動衛星機構)のものがある。
最新型インマルサットは大西洋、インド洋、太平洋の赤道上空に3基の静止衛星を配置し全地球を
カバーする。日航や全日空だけではなく世界のエアラインはインマルサットを利用中だ。日本政府が
独自に航空管制の衛星を持つ必要はない。
インマルサットがグローバルな航空通信サービスを提供し始めたのは94年からだ。旧運輸省航空局が
独自の衛星製作に着手したのは、直後の95年2月。これが第一の判断ミスだ。
運輸多目的衛星は99年3月に完成したが、同年11月にH2ロケットの打ち上げが失敗。ここで
撤退していれば傷は浅かった。
インマルサット衛星は次々に技術が進み、性能が飛躍的に向上している。航空局が衛星を再びつくると
決めたのは02年3月で、完成したのが04年3月。これは99年の焼き直し版、すなわち95年の
水準のものだ。最新型インマルサット衛星とのデータ通信速度の差は40倍に、回線容量は7200倍に開く。
新幹線のぞみが時速270`の時代、旧型の在来線をのこのこ走らせるようなものだ。しかも06年に
2号機も打ち上げる。
衛星は太平洋の真ん中に1個では意味がない。航空機が太平洋上空に入ったらわざわざ運輸多目的衛星に
切り替えるとでもいうのだろうか。馬鹿げている。
失敗した旧1号機で256億円(打ち上げ費用と衛星制作費)、今度の新1号機で317億円、
06年に予定している2号機が296億円、計869億円。
さらに、この衛星のための地上施設に1040億円かかった。99年4月に神戸市に、03年1月に
茨城県常陸太田市にそれぞれ建設した航空衛星センターが計509億円。神戸に93人、常陸太田には
74人を配置。神戸センターの職員は6年間仕事がなかった。航空局航空衛星・航空交通管理センター
準備室長は「訓練をしています」と釈明した。
他にハワイとオーストラリアの2ヵ所に標定局、札幌、東京、福岡、那覇の4ヵ所にモニター局という
施設があり、建設と維持費などで531億円かかる。
まだうちあげられていない2号機の分も含め、しめて1909億円也。なぜこんな無駄遣いをするのか。
「空港整備特別会計」という5千億円規模の便利な財布があるからだ。国際的に見て非常に高額な
着陸料などの空港使用料や航空機燃料税を主な財源とする。
あるものは使おうと、ところてん式に不必要な地方空港を次々とつくったのもこの空整特会である。
道路整備特別会計がどんどん道路を造るのと同じ構造だ。
予算には一般会計と別に31の特別会計があるが、特会の中身をほとんど審議しない国会は役人に
なめられている。869億円の打ち上げ費用と衛星製作費のうち一般会計の気象庁負担分は
274億円にすぎない。
「ひまわり6号」という呼称は、税金の無駄遣いを隠蔽するためではないかと怪しむのである。