2月6日朝日新聞 15面オピニオン
時流自論 「ヨン様」と「ジョンイル」姜尚中
「ヨン様」に代表される韓流ブームの勢いはすごい。韓国はまるであこがれの別天地に生ま
れ変わったと錯覚するほどだ。こんな現象は有史以来のことではないか。だが、その一方で
「悪の権化」であるかのような「ジョンイル」(北朝鮮の金正日総書記)バッシングもすさま
じい。
「ヨン様」と「ジョンイル」。朝鮮半島の分断国家を象徴するようなふたりのキャラク
ターは、どこかで結びつくものがあるだろうか。ふたりが顔を合わせ、同じ言語で談笑してい
る姿を想像してみることはふとどきなことだろうか。それは失望と怒りをかい、韓流ブームも
一挙になえてしまうことになるだろうか。
確かに、洋ナシのような体型にポリエステルのパンツスーツを着込み、先のとがった上げ底
靴を履いて意地悪そうなやけに大きいサングラスをかけている独裁者は、「ヨン様」とは比べ
ものにならないくらい不細工で高慢そうに見える。
それでも、「ヨン様」と「ジョンイル」は、ともに民族と言語の一体性をもった朝鮮半島に
属しているのであるから、ふたりの出会いなどありえないと決めてかかる方がむしろ不自然
だ。
実際には、「ヨン様」の国と「ジョンイル」の国は、両者を分かつ分断線を怨嗟の象徴とみ
なし、100年の近代史をずたずたに引き裂いてきた関係に終止符を打ちたいともがき苦しん
でいるのである。
―――――――――――――――――――――――