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日本の将来への最大の不安は保守主義の知恵の喪失である。事件への多くの政治家と
メディアの対応は、ここ数年私が感じているこの問題性をあぶり出した。
戦後保守政治を支えた大きな要因は、目配りが利き、バランスがとれた保守主義の知恵
だった。社会党や朝日新聞が異を唱えても、現実的な判断も加え、時には「革新派」の
政策を我が物にするしたたかさで日本を運営していく。そうした大人の知恵にこそ、
保守主義の強みと安心感があったのだ。自民党はそういう大人の政党であり、読売新聞も
そういうメディアではなかったのか。
それが最近、そうしたバランス感覚と目配りが影をひそめ、ひたすら勇ましい言説が
声高に唱えられ、主流となっている。今回単純な自己責任論が日本中を席巻したのも、
最大の発行部数を誇る読売新聞がその点のみを強調する論陣を張ったことが、一つの
大きな原因ではないか。
自己責任論それ自体は正しい。NGO(非政府組織)がすべて善玉のような風潮は明らかに誤りであり、
私自身、NGOに見られる独善性を厳しく批判してきた。ただ、政府や
自衛隊にはできず、NGOにしか果たすことのできない重要な社会的任務があることも
忘れてはならない。若者に公共心を持てと言っておきながら、間違いをしでかすと人格
攻撃まで行うような態度は、大人がとるべき態度ではない。
憂鬱な思いで報道や論評を読むことが多かったこの3週間、救いもあった。私が最も
素直にうなずくことができたのは、4月14日付朝日新聞朝刊の船橋洋一氏と、
4月16日付読売新聞東京本社版夕刊の櫻田淳氏の論評だった。後者には、政府と
NGOの相互補完的な役割がまさに保守主義の知恵をもって説かれていた。
メディアが国民に情報を伝え、論評によって国民に判断の材料を与える力はかつて
ないほど高まっている。力のある者は、その力を、細心の注意を払って抑制的に
用いなければならない。かつて「進歩派」のメディアはこの原理を忘れて行動する
ことが多かった。今は「保守派」のメディアを担う方々に、この意味を真剣に考えて
いただきたい。そう強く願う。