やっちゃった!今日の朝日のドキュン記事 その41

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目を覆いたくなるようなファルージャでの惨劇。日本中が息を殺して見守った人質事件……。イラク情勢がますます騒然とするなか、
なぜか少し前に見た映画「ラストサムライ」を思い出していた。武士道がテーマとされて話題となった、トム・クルーズ主演のハリウッド
映画である。 ご覧になっていない方々のために、ごく簡単にあらすじを説明しよう。
明治維新後、政府は近代的な軍隊を育てるため、米国からオールグレン大尉を指導者に迎える。しかし大尉は官軍に抵抗する士族・
勝元盛次に捕らえられ、その一族と一緒に暮らすことになる。やがて、質実で規律正しく、義のために死をいとわぬ勝元らの武士道
精神に心酔し、ともに官軍に挑んで命がけで戦う――。 勝元を演じた渡辺謙がアカデミー賞助演男優賞の候補になったことも手伝
って、日本人の気持ちがくすぐられたのだろう、今年、ちょっとした武士道ブームが起きた。 新渡戸稲造の名著『武士道』がよく売れた。
そこでは、実は武人がめったに刀を抜かないことも強調されているのだが、国家・主君への忠誠や自らの名誉のために死をいとわぬ
精神こそ武士道の神髄だと受け止めるむきは少なくない。イラクへ向かう自衛隊員らを防衛庁副長官が「武士道の国の自衛官の
意気を示してもらいたい」と激励したのは、いささかきわどい話だった。

 もとより映画はフィクションだが、勝元のモデルは西郷隆盛だとされている。明治維新の功労者でありながら、
時代に取り残された士族の不満を背景に新政府に抵抗し、逆賊として西南戦争で命を絶った西郷は、確かに
勝元と重なり合う。 勝元らは侍姿を変えず、弓矢と刀しか使わないという現実ばなれの設定であるが、鉄砲や
大砲を備えた数万の官軍に対し、わずか500人の手勢で挑む壮烈な戦場シーンは迫力満点、さすがハリウッド
映画だった。 だが、これぞ武士道だと感激する声が多いと聞けば、水もかけたくなる。
冷たく言えば、勝元は結局のところ時代の流れに乗ることができず、無謀な戦いで部下の命を道連れにしてし
まった武将ではないか。敵だとはいえ、同じ日本人でほぼ農民出身ばかりのおびただしい兵士の命のことを考えた
様子もない。その意味では、いま自爆攻撃をし、同胞を巻き込んでまで激しく抵抗するイラク武装勢力とどこが
違うのか、と。 いや西郷は違う、そんな絶望の戦いに自らを追い込むには深い苦悩があったのだ、という反論が
あるだろう。立場も思想も違う福沢諭吉が西郷の反逆を擁護したのも有名だ。滅び行く士族らの反乱に殉じた
西郷の戦いは、過去を乗り越えるために時代が用意した宿命だったのかもしれない。 だが、それならイラクはいま、
まさに激動の変革期にある。命を惜しまぬ武士の戦いを潔いとたたえるなら、米英軍に命がけで挑むイラクの
武装勢力はどうなのか。すべてをテロリストだと切って捨てることができるのか。 たとえ彼らが歴史の流れに
乗れない旧勢力だったとしても、米国流のやり方に耐えきれないイスラムの意地や美学もあるのではないか。

263馬鹿宮啓文 ラストサムライ 武士道とイラクの抵抗と 3:04/04/25 12:29 ID:IcO304Sx
西郷はあの時代、こう言って西洋文明を厳しく批判した。

 「実に文明ならば未開の国に対しなば慈愛を本(もと)とし、懇々説諭して開明に導く可(べ)きに、左は無くして未開曚昧
(もうまい)の国に対するほどむごく残忍の事を致し、己れを利するは野蛮じや」(「南洲翁遺訓」から)
いまも同じだというつもりはない。だが、「民主主義」の理想を掲げて異文化・異教の国を力でねじふせようとするいまの
米国を見たら、西郷は何というだろうか。 しかも、黒船来訪に始まった強烈な外圧があったとはいえ、明治維新は日本人
の手によってなし遂げられた。それに比べていまのイラクには、米英軍の攻撃によって変革を強いられた不幸が横たわる。
ここではまだ自前の政権もできていない。

さて、日本人5人が相次いでイラクの武装勢力に捕まって大騒ぎになったが、被害者の解放を日本で待っていたのは
冷たい視線の渦だった。被害者らは米国や日本政府よりむしろ武装グループに同情や共感をもっていたのではないか
――そんないら立ちが、バッシングの背後に感じられる。
では、ラストサムライではどうだったか。オールグレン大尉は日本の武装勢力に捕らえられた末、共感どころかすっかり
同化してしまい、事もあろうに作戦まで練って、一緒に日本政府の軍隊に襲いかかったのだ。今度の人質どころの騒ぎ
ではない。
そんな主人公だというのに、日本の観客はこぞって満足し、喝采(かっさい)を送っていたのではないか。
人間の感情とは何とも勝手なものである。 (2004/04/25)