>>339 ゼロサン時評 イラク派遣を考える
呉 智英(評論家)
スイスを見習うべきか
外交・安全保障のグランドデザインを描くのに、スイスの例が参考になる。
スイスはイラクに派兵していない。永世中立国だからだ。そこにあるのは外国に対する
絶対的不信感である。昨年まで国連にも加盟しなかったぐらいだ。国際会議などは
よく行なわれるが、外国人の受け入れそのものにはきわめて消極的だ。
とにかく自分の国さえよければいいという内向きの国である。当然、国民皆兵で、
成人男子には兵役の義務がある。それもあってか、一九九一年まで女子参政権を
認めない州もあるほどだった。非情なまでの合理主義である。
スイスは、実は、半製品も含めた武器輸出大国である。現代の武器には、
ハイテク精密部品が不可欠だ。諜報・公安機器は言うまでもない。そうしたものが、
輸出先でどう使われようが知ったことではない。自分の国の中でなければ、むしろ
「商品」の需要が増えたほうがいい。
こうした商品のお得意様は、後進国の独裁者である。軍事力強化に商品が売れるだけではない。
独裁者は民衆の犠牲の上に築いた財産を、世界一安全なスイス銀行に預金する。その運用益も大きい。
さて、こうした独裁者は早晩必ず失脚する。スイス銀行の預金は匿名である。独裁政権を打倒した
新政権は、口座名も金額も特定できず、莫大な預金は銀行から永遠に引き出せない。
世界には戦乱があったほうがいい。自分の国さえ平和ならば。これ、選択肢の一つとして
検討はしてもよかろう。