産経新聞2003年11月17日 9面「一筆多論」論説委員 石川水穂
石原慎太郎・東京都知事の日韓併合をめぐる発言をTBS系の情報番組
「サンデーモーニング」が誤報し、石原知事は名誉棄損罪での告訴も辞さない
構えだ。知事が都内の集会で「その歴史を百パーセント正当化するつもりはない」
と述べたのに、「正当化するつもりだ」と正反対の字幕をつけて放送したのだから
単なる間違いでは済まされない。
TBSは謝罪し、「テープの語尾が聞き取りづらく、番組スタッフが誤解した」
と釈明した。だが、石原知事の発言は先月二十八日で、問題の「サンデーモーニング」
は今月二日に放映された。その間、新聞各紙は石原氏が、「正当化するつもりはない」
と述べたと繰り返し書いている。スタッフが一紙でも読んでおれば、簡単にチェック
できた。「聞き取りづらく」は、釈明にもなっていない。
当日の拉致被害者を支援する集会における石原氏の日韓併合に関する発言を、
できるだけ正確に要約すると、こうだ。「私たちは決して武力で侵犯したんじゃない。
朝鮮半島の国々が分裂しすぎてまとまらないから、彼らの総意で(中略)日本人の
手助けを得ようということで、世界中が合意した中で日韓合併が行われた。(中略)
私は日韓合併の歴史を百パーセント正当化するつもりはない。彼らの感情からすれば、
いまいましい屈辱でもありましょう」
抑制された発言である。だが、朝日と毎日はこれを批判的に報じ、産経と読売は、
拉致事件で北朝鮮に経済制裁などを求めた発言だけを取り上げた。
韓国のメディアは朝日と毎日の報道に呼応するかのように、一斉に「妄言」と反発し、
韓国外交通商省も「非常に遺憾」とする論評を発表。北朝鮮の民主朝鮮は「破廉恥な
言動」と非難した。しかし、日本の国民世論は、そのようには動いていない。
(つづく)
(つづき)
今年五月末、当時の麻生太郎・自民党政調会長が東大で行った講演でも、同じような
現象が起きた。麻生氏は日本が戦前・戦中に朝鮮半島で行った創氏改名について、
およそ次のように述べた。
「当時、朝鮮の人たちが日本人のパスポートをもらうと、名前に『金』などと
(朝鮮名が)書かれ、それを見た満州の人たちが『朝鮮人だな』といって、仕事が
しにくかった。朝鮮の人たちが『(日本式の)名字をくれ』といったのが創氏改名の
始まりだ」
創氏改名の重要な側面を分かりやすく説明している。朝日はこれを社説で取り上げ、
「ソウル大でぜひ講演を」と麻生氏に呼びかけた。ソウル大は麻生氏に招待状を送った
と朝日は報じたが、続報はない。
自民党内でも、野中広務・元幹事長が「韓国の盧武鉉大統領の訪日直前の発言であり、
礼を失している」と麻生発言を強く批判したが、同調する声は少なかった。麻生氏は
「言葉が足りなかった」と陳謝したが、発言は撤回しなかった。
十七年前の昭和六十一年、藤尾正行文相は文芸春秋のインタビューで「日韓併合は
韓国側にも責任がある」と発言。これに韓国が反発し、藤尾文相は罷免された。
昭和六十三年、奥野誠亮国土庁長官は日中戦争の発端となった盧溝橋事件(昭和十二年)
に関する発言を中国から批判され、辞任した。その後も、永野茂門法相や桜井新環境庁
長官、江藤隆美総務庁長官らが、南京事件や日本の朝鮮統治をめぐる発言で、次々と
辞任した。当時と比べ、日本の世論は様変わりした。もはや、一部のマスコミが望む
方向には、簡単に動かなくなったといえる。