10月16日 朝曰新聞社説(1/1)
■中国の有人宇宙飛行――共に祝いたい
「感度良好(良い気分です)」―中国初の宇宙飛行士となった楊利偉(ヤン・リーウェイ)
飛行士の第一声だ。15日午前、歴史的な有人宇宙船「神舟(シェンチョウ)5号」が甘粛省
の酒泉衛星発射センターから長征2Fロケットに乗り宇宙という無限の大空に羽ばたいた。
発射後、胡主席は「神舟5号は重大な歴史的一歩だ」と語り、旧ソ連・米国に続く3番目の
有人宇宙船打ち上げに成功したことを内外に誇示した。
「中華民族1000年の夢の実現」と歓喜に沸く中国は勿論、欧米のメディアも速報でニュース
を伝え、米航空宇宙局(NASA)も「人類の宇宙探査史上、重要な業績だ」―と祝福の言葉
を送った。ロシアも歓迎を表明し下院から全国人民代表大会(全人代)宛に祝電が送られた。
私たちもアジアの友人として打ち上げ成功を共に喜び、無事の帰還を祈りたい。
無論、ここまでの道のりが平坦だったわけというではない。55年、米国の5年にもわたる
引きとめを振り切って銭学森博士が祖国に戻り、中国の宇宙開発の歴史が幕開けしたが、中ソ
対立のあおりを受けてソ連の技術者が引き上げ、独力での開発を余儀なくされた。幾多の苦難
の末、70年に初の人工衛星「東方紅1号」の打ち上げに成功し、92年に有事飛行計画を発足
させて以来、コツコツと取り組んできた。今回の成功は正に50年来の努力の結晶であろう。
今回の成功で世界の衛星技術の協力関係と競争は新たな段階に入る。中国にとって衛星ビジ
ネスは重要な外貨獲得源だ。商業衛星など宇宙開発分野で米国の「独占」を阻む思惑もある。
一方で、民生用途のみならず軍事という微妙な側面も併せ持つことから一部では「中国の宇宙
技術の軍事的側面に注目すべきだ」との警戒感も浮上している。しかし、ともあれ、今回の飛行
が直接の脅威になるわけではない。今回の成功以前に、既に中国は十分なロケット技術を蓄積
しつつバランス感覚をもった技術運用に関して実績があるからだ。いたずらに不安を煽るのでは
なく冷静な情勢分析が必要とされているのではないか。
日欧は、いまのところ他天体への科学探査機の技術では中国をリードしている。しかし、
中国の主力である長征ロケットは、日欧のロケットの相次ぐ事故を尻目に96年以来連続29回
打ち上げに成功しており、2010年ごろには月に無人探査機を送る計画もある。コスト面から
も中国は優位に立っており、もはや正面から競争するのは得策と言えないのではないか。今後は
適切な国際的分業と協力体制の模索を図ることが関係国全ての共通の利益と言えるだろう。
神舟5号の船内では、楊氏が五星紅旗(中国国旗)と国連旗を掲げるポーズをとった。今回の
打ち上げ成功が中国の国威発揚に留まらずに、全人類の利益を代表しており、宇宙開発において
も協調の精神が大切だという考えの表れだろう。「宇宙大国」に相応しい度量が、いまや中国の
自信を裏打ちしている。
このように中国の宇宙技術が「世界一流クラブ」の仲間入りをしたことで、国内では中国向け
ODAを再検討すべきだというだいう議論がある。果たしてどうか。確かに中国は「大国」の
仲間入りをし、日欧を凌ぐ勢いで急速に技術レベルを向上させている。しかし、だからと言って
ODAを減額せよという議論は性急に過ぎる。中国の宇宙開発は一面においてある種の象徴的な
行事とも見て取れるからだ。国内の実地の生活は無論、先進国とは大きな隔たりがあり、宇宙開発
とODA論を一体で議論するには無理がある。
福田官房長官は「技術力が高いということで我が国としてどうこういうことではない。今後どう
するかは日中全体 を見て判断する」と発言した。冷静な判断であり、同感である。むしろ、宇宙
開発に関してコストの安い中国と無理に競争せず、日中協調体制によりお互いに長所を生かしつつ、
アジア独自の宇宙開発戦略を提示するという道があっても良いのではないだろうか。米国の技術に
依存する期間の長かった日本にとっても意義深いことであり、日本の長所である経済力を生かす
という意味で、この共同宇宙開発をODAという形でさりげなく後押しするいう選択肢があって
もいい。
「神舟」と名付けたのは江沢民国家主席(当時)だ。中国の宇宙開発に詳しい、シンクタンク
「未来工学研究所」の稗田浩雄・技術・国際関係研究センター長によれば、「神」は宗教の神では
なく、「神々しい」「神秘的」に近い意味という。宇宙の神秘を探るアジア共同の舟の夢を大いに
語り、靖国参拝問題や遺棄化学兵器問題などを乗り越え「日中感度良好!」となりたいものだ。