■《天声入語》
1934年江西省瑞金の共産党軍は国民党軍の包囲網を逃れ西部の陜西・甘粛省を
めざした。長征の始まりである。1万2500キロにも及んだ長征の過程で毛沢東は
共産党の指導力を握り、人民の心を掴んだ。始めは敗走でしかなかった長征の果てに
国共内戦の勝利があった。
55年毛沢東の指示の元で中国の宇宙開発が始まる。初の人工衛星を最初の長征ロ
ケットで打ち上げに成功したのが70年。ソ米仏と、2カ月余り先行した日本に次ぎ、
世界で5番目だった。
そして昨日、長征2Fロケットに載せた中国初の有人宇宙船「神舟5号」の打ち上
げに成功。中国がソ米に次ぐ3番目の有人宇宙飛行を実現させた。楊利偉宇宙飛行士
の「良い気分です(感覚良好)」という第一声は長い開発の歴史を思えば控えめだ。
この打ち上げ成功に毛利衛さんは「日本が自力で有人宇宙飛行を考えるよりもっと
大きな見方が必要」と述べた。H2Aによるひまわり後継機の打ち上げ失敗、代替衛
星の製造の遅れなど、宇宙開発でトラブルが続く一方、事実上の偵察衛星の打ち上げ
だけが粛々と進む日本には厳しい一言だ。
現在ひまわりの代替としてアメリカからゴーズ9号を借りているが、後継機問題は
日本一国の問題ではない。世界気象監視計画において日本が分担していた東経140
度を中心とするアジア一帯全ての国々の気象予報に影響を及ぼす危急の事態だ。
年間1兆円にのぼる中国の宇宙開発予算に比べ日本は年間2000億円でしかない。
3団体もあった日本の宇宙開発団体が今年1つに統合されたが、効率化への道程はま
だ長い。宇宙大国の名乗りを上げた中国との技術協力を考えるのは自然な流れだろう。
アジアの時代と言われる21世紀に中国が踏み出した歴史的一歩は大きい。日中が
協力して「感覚良好」となるかどうか。宇宙への長征はまだ始まったばかりだ。