中日新聞 10月31日朝刊
・コイズミを問う 争点の現場から第2回 憲法
母をどうしても説得できない。
「戦争反対だけど、よそから攻められちゃな。軍隊は要る」と、
八十すぎの母は主張する。
「攻めてくるわけないよ」と反論し、憲法九条の歴史的意義などを
説いてみるが、「だって、ミサイル飛んできただろ。攻められたら、
おまえどうする?」こう詰め寄られると反論しきれない。
名古屋市東部に住む川田茂=仮名=は、昭和十三年生まれの六〇年安保
世代。学生時代は「こわごわながら」デモで安保反対を叫んだ。就職後は
仕事一筋。全共闘世代の妹に「大勢順応派」と言われたが、息子と遊べない
ほど忙しかった。
退職して自分の時間ができた時、護憲市民団体「第九条の会なごや」へ
入会した。「平和こそ生活の土台」との素朴な思いを、ささやかな行動で
示したかったからだ。
「だが、母すら説得できずに…」。大正生まれの母の素朴な軍事抑止論。
それに押し切られる自分の非武装平和論。憲法改正への動きは、川田の
戸惑いを置き去りにするかのような早さだ。
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文責・名無しさん:03/10/31 10:24 ID:fIDZENZ/
「憲法改正を言うと右翼だとかタカ派だというとり方が今まであった。
そうではない」。小泉純一郎の国会発言のように、ついこの間まではタブー視
されてきた改憲への取り組みが、ついに「公約」にまでなった。
自民党が「改憲」なら、民主党は「創憲」。言葉は違っても、政権を争う
両党は「憲法見直し」では一致している。中日新聞が中部地方の両党の衆院選
立候補予定者に行った調査では、九条改正派が六割だった。
政治家だけではない。有権者調査でも七割強が改憲容認と出た。米中枢
同時テロ、北朝鮮核疑惑、イラク戦争。不安の増殖が世論を変えた。
小泉は党執行部に二〇〇五年までに党の改正案をとりまとめるよう指示した。
改正のため、国民投票の方法を定める法案は、早ければ、来年の通常国会に
提出される。
憲法を屋台骨とする日本にとって、分岐点となる選挙といえる。
石川県加賀市の三谷小学校の校庭わきに、憲法九条の条文が刻まれた石碑が立つ。
近くで農業を営む西山誠一(72)が建てた。昭和六年生まれの元軍国少年。
九歳の時、父は「軍神」になって靖国に祭られた。
熱心な真宗門徒の西山は区長会の会長だった十一年前、戦死者を祭る忠魂碑の
移転に直面した。区の公的支出で移転費を賄うのが納得できない。
そもそも、忠魂碑は父親をいまだに軍神として祭っている。「父を戦争から
解放させたい」。そんな思いもあった。
案じた末、一案を思いついた。移転費用に見合う額で、西山が区から忠魂碑跡地を
買った。その代金で、区は忠魂碑を移転。西山は、跡地に「九条の碑」を建てた。
五十年間、日本が非戦を貫いたことへの感謝を込めて。
碑の前で今、西山は「九条は変えられてしまうかもしれない」と懸念を口にする。
「たとえそうなっても、この条文は永遠にたたえられるべきものです」とも話す。
「非戦平和が信条」という西山に「敵が攻めてきたらどうする?」と尋ねた。
遠慮がちながら毅然とした口調で西山は答えた。「殺されても戦争はしない。
戦争に行くのが死ぬ覚悟なら、それを拒否するのも死ぬ覚悟。これは世論が
どうこうではなく私の心の問題です」。
(敬称略)