中日新聞2003年9月18日
内なる朝鮮第三部(4)
・“国内亡命”共鳴ライブ
ライブの冒頭、金時鐘(キム・シジョン)さんが拉致に触れて言うんです。
「朝鮮人の一人として人前で朗読できない立場にあります」と。一方で、
この一年に出会った在日の人から感じるのは彼ら自身の自己主張。直視
しない日本人に「在日という自分たちがここにいる。こんな経緯で日本に
いますよ」って。どちらの思いも知り、何ともいえない気持ちになりますね。
| 前衛的な即興演奏をバックに、在日朝鮮人の詩人・金時鐘さん(74)が
|自作の詩をよむ朗読ライブ。日本人ミュージシャンの港大尋さん(33)が
|発案し、昨年十月から開いてきた。詩人は<9・17日朝会談><9・11米テロ>
|<8・15終戦>と真剣に向き合い、在日が受身から脱して日本で生きる意味を問う。
ライブはこの夏も東京、名古屋など四か所で開きました。同じステージに
立つと時鐘さんの立場が伝わってくる。彼は言います。「日本は原爆で戦争の
殉難国となり終戦で過去の罪から解放された。ところが戦後自立すべき朝鮮は
いまも南北に分断され、開放は六十年近くカッコの中に閉じ込められたまま」って。
朝鮮人と日本人で、双方の歴史の見方が全く違う。今、拉致で頭がいっぱいで、
日本はどんどん国内で閉じてますよね。「日本は日本、朝鮮は朝鮮」と信じ、
「はざま」にいる在日の人が目に入らない。ライブに人も来ない(笑)。万景峰
(マンギョンボン)号で家族に会いにいく人の気持ちって考えますか。拉致は
正当化しえないけど、なるべく客観的に、公平な立場に立とうと思うんです。
| 世代も体験もかけ離れた在日詩人と日本人音楽家をつなぐのは「日本の内に
|いながら、外にいる感覚」という。
国の中で亡命する−。時鐘さんとはそんな感覚を共有してる気がします。日本
嫌いなのではなく、「日本や日本語とは何か」「国家は何をしているか」を常に
検証する。一歩ひいて客観的に見るという意味の亡命です。
僕の場合、自分の音楽が既存のジャンルのどこにも属せなくなった。そんなとき、
日本と日本でないものの境界にいる時鐘さんの詩と出会った。彼の詩は、言葉の
配列、リズムが普通の日本語と違う。そもそも「国語」というのは近代以降の
思想、ナショナリズムの現われじゃないかな。実は人の数だけ言葉がある。
「港語」「金時鐘語」があると思うんですね。
みんなが少しずつ差があって異質。なのに単一民族説が叫ばれ、今は日本特殊論
も盛ん。半分空想ですけど、将来的に移民が増えて、日本語を話す日本人が三割に
なる。そのとき、日本と呼べるのかな。
二十世紀にナチズムの傷を負ったヨーロッパは実験中です。国が一つで固まらず、
自ら流動化して国境線を弱めてます。9・17以降、日本は北朝鮮を敵とする見方で
凝固している。ライブがこの時期に重なったのは偶然でしたが、長い目で見れば
必然だったかなと。今こそ、他者に対してどこまで開けるか。はざまの視点が大切
ですから。
112 :
文責・名無しさん:03/09/18 14:20 ID:JFzthx54
| 過去の暗部を直視するのはつらく、今の北朝鮮には共感しがたい。それでも他社の
|視点を持つメリットとは。
まず差別の問題。私たちは知らないうちに差別意識を持ってしまう。
それと難しいかもしれないけど、本当のことを知りたいという気持ちは満たされ
ますよね。たとえば僕は歴史を知ったうえで、韓国のソウルへ行って焼肉を食べたい。
知らないで食べてうまくても、当たり前で…。歴史を知ったうえで「うまい」と
思えればより幸せじゃないかなあ。
港大尋さん
フランス語で「国家に抗する社会」を意味する名のバンド
「ソシエテ・コントル・レタ」のリーダー。演奏や作曲、詩人とのコラボレーション
(共同制作)など幅広く活動。言葉やリズムの実験に満ちた作品を発表する。
東京都府中市在住。
金時鐘さん
元山(現北朝鮮)生まれ。済州島(現韓国)で育つ。南朝鮮だけの分断国家樹立に
向けた単独選挙に反対した四・三事件にかかわり、日本へ逃れた。詩集「新潟」、
評論集『「在日」のはざまで』など。