MBSの近藤こんにちは近ちゃんについて

井筒　そこから、つきあいは始まった。飲み友達いうんでもないね。らもさん、飲み方が半端やないから。
でもいつやったか、大阪のお初天神の前あたりで飲んだことあったね。
らも　うん。そんときいろいろ昔のやんちゃ話を聞かしてもろて。お初天神の前に商店街のアーケードがあるんやけど。
井筒　お初天神いうのは『曽根崎心中』に出てくる、お初と徳兵衛の神社ですわ。
らも　そのアーケードの骨組みに上がって、そのままブウラブウラしながら歩いたことがあるって話に感激した。
鮫肌　うわーっ、めちゃくちゃパンクですね。それ、酔っぱらって？
らも　シラフでやったらキチガイや。
井筒　クスリやってたからやろ。
らも　×××やってたん？
井筒　もっと前ですけどね（笑）。
鮫肌　やってたんですか？　やってたんですか？
井筒　やってたよ（笑）。らもさんにしろ、俺らの世代、なんでも吸うねん。
鮫肌　そんなの、胸張らんといてくださいよ（笑）。
井筒　いやいや胸張るよ。僕がピンク映画を撮ってるころ、よく新宿御苑なんかで夜中、盗み撮りしてたんよ。許可なんて出ないからね。
で、疲れてくるでしょ。そしたら、撮影部の助手が持ってんのよ。レンズのボックスからレンズやなしに×××を出してくんの。
らも　っふふふふふふ（笑）。
鮫肌　どんな現場や（笑）。当たり前のように？

井筒　そう。ほんで、それでまず親方、要するにキャメラマンに打つんですよ。キャメラ回しながらレンズ覗いたまま、オイ！って袖口をめくり上げて。
それを横で見つつ、「うわーぁ、撮影部も相当やっとんなぁ、演出部も負けてられへん！」みたいなね。徹夜2、3日してるんだもん。
そうでもしなきゃ撮りきれないんだよ。300カットぐらいあるの、たった4日間で上げなきゃなんないだから。もう引きでも寄りでもどうでもいいんですよ。
鮫肌　とりあえず撮ってしまえ、と。
井筒　そう、とりあえずファックシーンを撮ってたらいいんです。もうギャグもなんもないんやから。だから、「打ってくれー！」いうてね（笑）。
俺の記憶ではね、新宿御苑の水道で×××をといだような気がするの。
アトム　蒸留水やなくて、水道水で。
井筒　うん。だからほんとにうすーい××××××やと思うねん。俺、あとでやくざの友達にそんな話したら「それは嘘だ」って言われた。
「水道ではできないよ」「いや僕、しましたよ」「いやできないよ」って言い合いなって。
鮫肌　やくざと（笑）。
井筒　やくざの組長に「まぁまぁ、もういいじゃないか、その話は」って仲裁してもらった（笑）。
アトム　実際効いたんですか？
井筒　効いてた。3〜4時間シャキッとする。それで10テイクぐらい先がわかるの。
これ撮ってあれ撮ってパッ、パッ、パッ、パッ、パッ。覚醒しまくりよ。朝までシャキーッとしよる。
アトム　現場、全員がそうなんでしょ。
井筒　全員そう、もうキャメラマンなんてシャキーン！

井筒　インディアンの血が混ざってるとかいうて、頭にクジャクの羽根つけてインディアンの格好しとるんですよ。その娘が「これ、すごく効くのよ」いうて、
５ミリ四方ぐらいの、ブラウンシュガー色したセルロイドみたいなヤツ出してきて。舌の上にぴっと置いて、「水で飲んだらあかん。紅茶で飲め」って紅茶作ってくれんねん。
それ、じーっと待って、言われたとおりにその先輩と飲んだら、家が崩れてきてな。
一同　（爆笑）
井筒　壁がガンガン落ちてくる。「助けてくれーっ！」いうて。それで俺は外へ出たんや。もうパニックで一緒だった先輩がどこへ行ったかもわからへん。
アトム　ラリってる二人がはぐれてしまった？
井筒　もうあれですよ、孤児や。
鮫肌　ＬＳＤ孤児（笑）。
井筒　それ、大阪の豊中いう街の一軒家でやったんやけど、戻る家もないわけや。崩れてしもたんやから。それで、街中を歩き回ってね。
鮫肌　危ないなぁ。
井筒　そしたら、大工さんが４、５人で普請している家の前まで来たの。その大工さん全員がドクロ仮面みたいに見えるねん。
アトム　それって真っ昼間にやったわけですね。
井筒　真っ昼間や（笑）。で、ドクロがみんなノコギリとかカナヅチ持って俺の方に来やがんねん。殺されると思って逃げて。
アトム　追いかけてきたんですか？
井筒　そう。多分俺がなんか叫んでたんやろね。で、助けようと思って追いかけてくれてたんやろうけど。怖くて。
その後の記憶が全然ないんやけど、パッと気づいたら豊中の警察署やねん。救急車に乗ったのは覚えてんねん。そのときも周りにドクロがおったわ。
鮫肌　それって救急隊員でしょ（笑）。

井筒　で、その次、意識が戻ったら精神病院にいた。６人部屋なんですよ。なかなかないで、こんな経験（笑）。精神病院にはこん棒を持ったようなヘンなおじさんとかいたけど、もうドクロには見えなかった。
鮫肌　やっと抜けたんや。
井筒　それで「俺はまともやから出せ！」ってかけあったんやけど、「そういうふうに言わないの」とか完全にキチガイ扱いですよ。
鮫肌　だいたいキチガイって「俺はまともだ」って言うもんね。
井筒　巣窟の電話番号を伝えて「そこへ電話してくれ」と頼んでも、「そんなデタラメ言わないの」とかそんな対応や。
アトム　結局どうやって出はったんですか？
井筒　先輩たちが居場所を探し出してくれたんや。その先輩は、地下鉄の御堂筋線を何十往復もしてたらしい。その人も言うてたよ、「ドクロだらけやった」って。その話を聞いたとき、思わず手ェ握り合ったもん（笑）。
アトム　らもさんはＬＳＤ体験ないんですか？
らも　似たヤツは１回あるけどね。
アトム　似たヤツというと？
らも　大阪のミナミで遊んでたら、外人が「エォエスディ？」とか言うて近づいてきたんよ。
「いえす・あい・どぅー」ってこたえたら、ＬＳＤのシートを出してきてね。「いくつ欲しい？」って訊くから、「２０個」いうて。シートにはミシン目が入れてあるわけ。その１個が５ミリ四方ぐらいで。
アトム　で、２０個もですか？
らも　友達多いから。それを家で友達と飲んだんだけど、しばらくしたら体中が、ムズムズムズムズしてきて。でっかい音で音楽かけて６、７人で踊りだしたんよね。踊りだしたら、もうとまらへんねん。
で、何時間もずうーっと踊ってたわ。トイレに入ったとき、壁紙の模様がむにゅむにゅむにゅーと動いたりそういうのは見たけど、あれはなんかホワイト・ライトニングというヤツで、本物のＬＳＤじゃなかったみたいね。
井筒　俺の場合、家屋崩壊やったもんね。家が崩れる前までは、メキシコ人の手の血管がトカゲになって浮き出してきたり、外の天気が、晴れかと思うと、雨、台風、また晴れ
……みたいに３秒おきに変わったりしてたんやけど。

井筒　そんなん別に言うたってええねや。憲法で保障されてんねや、表現の自由いうのは。何やったっていいんだよ。
鮫肌　法に触れること以外はね（笑）。
井筒　俺ら映画界の人間が自負してんのはそこですよ。テレビの人間っていうのは規制されることいっぱいあるんですよ。
しょうもないことで自主規制してみたり。僕が東映で作った『ガキ帝国』のパート２、『ガキ帝国　あくたれ戦争』ってのがあるんだけど、
それ、いろいろあってビデオで出ないんですよ。僕が一番好きなフィルムなんだけどね。公開にあたってもいろいろあった曰くつきの作品で（笑）。
暴走族の事務所に飾ってある日の丸の旗を主人公が引き剥がす５秒間ぐらいのシーンがあったんだけど、業務試写をやったら、宣伝部の重役が出てきて。
そのシーンをカットしろと言うわけですよ。カットするっていっても、いったんプリントしてしまうと、サウンドトラックも何もかもできてるわけだから、
一切合切台なしになるんですよ。それが全国百何十館で９月の十何日に封切るというわずか１ケ月前の話で。もう一回ダビングし直すにももうお金ないわけ。で、もめてね。
鮫肌　結局どうなったんですか？
井筒　公開のためには東映の言うこと聞くしかないがな。その夜、ガーッ飲んだわけよ。また宣伝部が銀座の行きたくもないような天ぷら屋に連れていきやがんねん。
鮫肌　高級な、ね。
井筒　宣伝部の人間なんて「監督、今日のことは……」って言葉にはしてるてるけど、心の中では「なんやこのクソガキが！」って思うとるわけですよ。
だって５０歳ぐらいのおっさんやもん。俺まだ当時３０歳や。「今日はバーも行きましょ」どうのこうの、「ホステスも」どうのこうの……言われたって、
やかましい！　俺ら、そんなノリちゃうんじゃ！って。で、飲むほどに、愚痴大会になって、わーっ！って飲んでるうちに朝ですよ。それで気ィついたら四谷署にいたの。

鮫肌　うわはっ、また捕まってんねや（笑）。一体なにしたんですか？
井筒　いや、もう何十本も交通標識とか倒してやな。器物破損、東京都条例違反、道路交通法違反、それから集団暴行罪……。
鮫肌　てんこ盛りですね（笑）。
井筒　俺のかたわれの製作主任は原宿署に入っとうねん。で、もう一人、主人公の役者は赤坂署かなんかって感じで……。
アトム　分散留置ですね。
井筒　ずっと手錠かけられたまんまですよ。接見しに来た弁護士が言うには「まぁ年越すぐらいは頑張ってくれ」ってことで。
「ちょっと待ってくれよ、おい、まだ９月やないか」いうて（笑）。東映とかいろんなところから嘆願書を書いてもろたりしても何の役にも立てへんねん。
それが一人逃げてたヤツが戻ってきたりして。罰金刑で済んだんや。僕は逃げてるヤツがいるなんて言わへんかったんやけど、それぞれの調書をつき合わせたら、つじつまが合わなくなってるわけ。主犯は僕でしょ。
鮫肌　主犯なんだ（笑）。
井筒　で、デカが「あなたが隠していたい気持ちはわかるけど、言うたら、うまくかけ合って罰金刑になるようにするから」と取り引きを出してきよってん。けど、そんなヤツの言うこと、信じられへんやん。警察やもん。権力の犬だもん。
鮫肌　一番の犬。犬中の犬ですからね。
井筒　犬中の犬（笑）。国家権力もええとこや。で、２、３日だんまりを決め込んでたんですよ。そしたら、弁護士も「言わないかぎりたぶん年越えますよ。封切も全部ダメになりますよ」って言うわけ。
もうニュースで報じられてるし、世間はみんな知ってるわけ。うちのおかんも６時のニュースで見よってんもん（笑）。
鮫肌　「うわーっ、うちの息子が」って（笑）。
井筒　で、名前しゃべったんですよ。で、大阪からお縄になって、俺と同じ四谷署の房に来たのが北野誠。対面した瞬間、「監督、会いたかったですぅー」とか言うてもうベソかいとんねん。
「お前の顔なんか見たないわい。帰れ、アホ」いうてんけど（笑）。

井筒　もう載ってるよ、リストに。
鮫肌　まだ残ってますかね（笑）。
井筒　しっかり残してるから、この国は。ほんまやで。なんかあった時はすぐ指紋照合する国になってるんだから。俺なんか何回も残してるからね。
鮫肌　残しすぎじゃないですか（笑）。
井筒　なんも悪いことできない。うっとうしいわ。銀行強盗でも一回やりたいと思うんやけどな。
鮫肌　いっそのことね、おらー！って（笑）。
井筒　ほんまに。人間には衝動っていうのがあるから。不条理やない。条理なんですよ。
こういう社会に生きてると、どうしてもね。クスリやったっていいんだよ、別に。自由の国なんだから。
鮫肌　それはちょっと自由を拡大解釈しすぎのような気も……（笑）。
井筒　そうか。でも、いいんだよ。リバティ！
鮫肌　おっ、井筒監督が急にアメリカ人になったぞ（笑）。
井筒　リバティやないわ、俺らはやっぱりフリーダムやわ。リバティっていうのは法の中の自由。そんなのどうだっていいんだよ。
俺はアナーキーにいきたいんですよ。そんなの知ったこっちゃない。
捕まって、牢獄に入るのも人の勝手だから。人生はそんなもんでしょ。人を殺してもいいとは言わないけど、いいじゃん、自分の人生なんだから。