>>329 (前略)
ネットで横行
「ネット上に『嫌韓厨房』と呼ばれる連中がいる。韓国が嫌いな『厨房=中坊』、
つまり『中学生ぐらいの知識しか持たない坊主』の意。彼らは、何度も日本が
謝っているのに謝罪を求める韓国はひきょうだ!などと書き込む。それがW杯
以降増え、『日本は素晴らしい』という気分に結びつく」と評論家の荷宮和子が
言う。
ネットの横行するナショナリズム。荷宮は著書「声に出して読めないネット
掲示板で、「嫌韓」「在日うざい」「これだから女は」「低学歴、必死だな」などの
「反朝日・反サヨ(左翼)」的な言葉を挙げている。
いわば戦後民主主義的な「韓国、在日、女性、学歴などへの差別批判」が
きれいに反転した形だ。社会学者の北田暁大は「『何となくナショナリズム』とも
言うべき気分。思想の実質は <<<ここは切れて読めない>>>言葉を語る
欲望だけが噴出している」という。
空念仏と認識
昨年、雑誌「世界」に載せた論文「嗤う日本のナショナリズム」が話題になった
北田。一九八〇年代のテレビから今のネットに至るメディア空間で、「お約束を嗤う
内輪空間」が成立したと指摘。それがいつしか「嗤い」を媒介に、内輪のコミュニ
ケーション形成が自己目的化する過程を分析した。
戦後民主主義的な価値観が、なぜ「お約束」と<<<ここは切れて読めない>>
「彼らにとって平和や民主主義といった理念は、学級委員のきれい事にすぎない。
自分たちを建前や絵空事でなく、本音を語るタフな現実主義者と考えたがっている」
と北田。
>>333 荷宮はそこに、社会に広がる「負け組」」の不安を見る。「自分をひとかどの人物と
思いたいがため、自分より弱い存在をけなし強さを気取る。そこから露骨な差別主義、
強い日本にあこがれる心理が出てくる。 従来のような素朴な反戦主義を一言で
言えば、<<<ここは切れて読めない>>> いされかねない空気が充満している」
(中略)
「最近リアリズムという名の下に。歴史や過去の由来といった大きな状況を切り離し、
『今』だけを見詰めてよしとする思考が、日本のあらゆる局面を覆っているように感じる」
と言うのは、精神科医の香山リカ。
香山リカは「プチナショナリズム症候群」で、若者が屈託なく「ニッポン!」を叫んだ
W杯以降の「屈託も重みもない愛国主義」を指摘した。
「私は日本で生まれたのだから日本が好きなのは当たり前とか、日本が攻撃されそう
なら守るのは当たり前1−といった形を取る。現実主義というより余りにも底のない
素朴な正論で、議論にもならない」
それは若者ばかりでなく、あらゆる層に広がる。例えばカジュアルな服装を好むが
収入は多い、新しい知識層。 「彼らは一見、とても柔軟でスマートだが、自分たちとは
異なる層への警戒感が強く、安全の確保に熱心。 やはり日本は強い国であって欲しい
とか、他国にヘコヘコしていてはダメだという意見が、あっさりと出てくる」
(以下略)
(敬称略・金子直史=共同)