☆朝夕の娯楽★☆天声人語&素粒子。15代将軍★

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566文責・名無しさん
■《天声人語》

投票所は、異様な雰囲気に包まれていた。20XX年、選挙史上初めての
「マイナス投票制度」が導入されたのだ。

一票の使い道が激変した。当選させたくない候補に対して、マイナスの
一票を投じることが認められた。プラスとマイナスの票を合算したのが
最終得票となる。20世紀の末ごろから下がり続けた投票率は20%を
切ることもしばしばだった。不投票に対して罰を用意している外国の例も
検討されたが、生ぬるいと、この制度に踏み切った。

こんなにも有権者は「マイナス投票」を待っていたかと驚くほど、投票所は
にぎわい、迷子まででた。投票率は、軒並み前回の倍以上に跳ね上がった。

喜びかけた選管を打ちのめしたのは、開票後の各地からの報告だった。
圧倒的と見られていた候補にはマイナス票も集中し、差し引きで1千票
ほどしか残らなかった。プラスの投票が極端に少なかった所では、
マイナス1万票の知事が誕生した。

昨日、現実の投票所の一つである東京の小学校では、満開の八重桜の
下で淡々と投票が進んでいた。汗ばむほどの陽気のせいか、投票用紙に
向かっていて、ふと「マイナス投票」を夢想した。

選挙では、積極的に当選させたい人をというのではなく、「より悪くない人」を
選ばざるを得ないこともある。度重なれば、足も遠のきがちになる。昨日の
東京や神奈川の知事選のように、有権者の半数以下しか投票しないような
選挙も増えた。もちろん、制度としての「マイナス投票」は劇薬だが、
夢想した人も少なくはないのではないか。