地村さん、朝日に質問状「約束破り記事を掲載」

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これは週刊金曜日より悪質だ!「取材ではない」と嘘をついて訪問
【週刊文春1月23日号】(1月16日発売)

「よくもまああんな嘘が平気かでつけるもんや。週刊朝日に抗議文を送った日に、保志ら
に会ったU記者と鈴木健編集長から電話があって、二人は『申し訳ありません」と非を
認めてわしに謝罪した。その後に、なんで嘘のコメントを出すんや。嘘をつき通すんな
ら、地村家は朝日新聞社の取材は今後いっさい受けない。今回は徹底的に抗議する。裁
判になっても仕方がないと思うてます」
地村保志さんの父、保さんがそう怒りを露にした。

発端は、十四日に発売された週刊朝日。「本誌独占」「地村保志・富貴恵夫妻誰にも
言えなかった真実」と題した記事には、五ページにわたって記者と・夫妻との一間一答が
掲載されている。
ところが、この"スクープ記事"は地村夫妻に掲載の了解を得ていなかったばかりか、
記者が夫妻を編し討ちにした「雑談」だったのだ。

保さんが経緯を説明する。
「年末の十二月二十九日、面識のあった週刊朝日のU記者から電話があって、いまこっちに
来ているのでまた話を聞ぎたいと言うてきた。わしが「今日は他のマスコミの取材
が入っとるから無理や」と答えたら『わかりましたと』言うた。ところが、わしが取材
を受けている留守中に記者が自宅に来たんや。いまから思えば確信犯やったんやろう。
保志は『週刊朝日の人が父ちゃんを訪ねてぎて、待たしてくれと言われたんで、家に
あげた。父ちゃんの客やから断れんかった。別に取材じゃないと言われたんで、お茶を
出して雑談しただけやとと言っている』
保さんは夫妻の生活の場でもある自宅での取材は受けておらず、近所の喫茶店やホテ
ルで取材を受けるようにしている。要するに、U記者は保さんの不在を知って自宅を訪
れたのである。
保さんが続ける。
「保志らもU記者に『これは取材じゃないですよね』と何度も確認したと言っている。
U記者はメモも取ってなかったし、録音機も出してなかった。
保志は『自分が承諾したと思われたら、ほかの被害者や家族会、救う会の皆さんにも
申し訳が立たん』と言って怒っている」

騒動を聞いた蓮池薫さんは保志さんに電話してこう言ったという。
「週刊朝日から一億円とってやれ」
冗談めかした言い方だが、薫さんも週刊朝日の卑劣なやり口に怒っているのだ。
保志さん本人から事情を聞いた薫さんの兄、蓮池透さんもこう言う。
「雑談だと思っていた北朝鮮での生活のことなどいろいろ聞いてくるので、保志さん
は途中から警戒してはぐらかして答えていたと言っていました。ところが、記事にはや
りとりが一言一句掲載されており、記事を見て初めてこっそり録音されていたに違いな
いと思ったそうです」

一連の経緯だけを見ても、週刊朝日の行為には弁解の余地はないが、この記事には別
の問題もある。救う会の西岡カ副会長が嘆息する。
「披らは犯罪の被害者であり二十四年ぶりに日本に帰ってきたばかりでマスコミの
事情にも疎い。しかも、子供を北朝鮮に残していて自由に話せない。その特殊な状況を
慮って、家族がマスコ、各社に本人たちへの個別取材をしないように要請してぎた。
『週刊朝日』が加盟している雑誌協会や地元の記者クラプも合意している。報道の自由
はわかりますが、合意を破ってまで『雑談』を報じる理由がどこにあるのでしょうか」

十二日に関係者から記事の掲載を知らされた地村夫妻と保さんは記事を読んで驚傍
し、翌日に二一人の連名で週刊朝日の鈴木健編集長に抗議文を送った。
<地村・浜本家と小浜記者クラプは、保志・富貴恵は北朝鮮に子供が残っている微妙な
立場だから個別取材には一切応じないが、その代わり節目で代表取材に応じ家族が定例
に会見を開くなどという合意を結んでいます。この合意には週刊朝日の発行所である朝
日新聞社も参加しています。
この記事は明らかに合意を破るものであります。私たちとしては今後も記者クラプとの
合意を尊重していきたく願っており、そのためには合意を破った朝日新聞社に対して保
の記者会見への出席をやめていただくことなビを検討しています>

そして、「記事にしない」はずの「雑談」を掲載した理由と記者クラプとの合意を破
った理由を糾している。
U記者と鈴木編集長はその日のうちに相次いで保さんに電話を入れて謝罪し、「明日
謝りに行ぎます」と釈明した。夜になって、朝日新聞社広報部が小誌を含めたマスコ
ミ各社の取材に回答したが、冒頭に記したように、その回答が保さんの怒りをさら
に増してしまったのだ。

小誌への回答はこうだ。
「『週刊朝日』編集部としては地村保さん、保志さん・富貴恵さんご夫妻から取材の承
諾を得たものだと理解して記事にしました。地村さんご夫妻に対して『取材ではない』
と話したことはありません。
また、取材当日は保さんと約束をしておりました。ただ、結果として地村家から抗議を
受けるようになってしまったことについては、取材先との意思の疎通が充分でなかった
ものと反省せざるをえないと考えております」
地村家の言い分とはまったく食い違う。
そもそも個別取材は受けないと決めている地村夫妻が週刊朝日だげに承諾を与えるは
ずがないし、保さんもU記者と約束などしていない。

矛盾だらけの朝日の弁明

朝日新聞社が事実経過の詳細を述べずに「意思の疎通」の問題にすり替えようとして
いるのは明らかだ。
実はこの日、朝日新聞社内では鈴木編集長への詳細な聞き取りが行われていた。そこ
で鈴木編集長はこんな説明をしていた
「地村夫妻への取材は保さんが二回セッティングしてくれた。一回は保さんが同席した
が、今回の記事は同席していない方のもの。夫妻から『これは記事になるのですか』と
聞かれたときも『いずれ記事になる』と答えている。
何月何日号に掲載するという説明はしていなかったが、あくまでも取材を前提に申し入
れたものだ」

保さんと夫妻が喫茶店にいた際に、U記者がアポなしで現れて保さんに取材をしたこ
とはあるが、夫妻は取材には応じていない。しかも、この説明は明らかに論理矛盾を起
こしている。
朝日新聞関係者が言う。「取材を前提として会っているのならば、なぜ夫妻が『これは
記事になるのですか』と記者に聞いているのか。それに、取材なのに現場でメモを
取っていないのはおかしい。
記事を読めば、録音していたのは間違いないだろう。隠し縁りをしていたとすれば、取
材を前提に話を聞いたという説明にも矛盾をきたす」
十四日朝、小誌が再度取材を申し入れると、広報部はこう言って回答を留保した。
『週刊朝日』編集長が地村保さんにお会いし、今回の取材経緯について詳しくお聞き
しているところです」

その日の昼過ぎ、鈴木編集長は山口一臣副編集長とともに保さんに会ったが、それは
「取材経緯を聞く」というものではまったくなかった。

保さんが言う。
「朝日が用意したホテルの部屋に入るなり、二人は『申し訳ありませんでした』と平謝
りや。二人とも土下座しよった。副編集長は涙も流して謝っとった。U記者はいまだに
わしに了解を得ていたと言うとるそうや。わしは『そらおかしいで』と言うたが、むこ
うは謝るばかり。それ以上やっても水掛け論になるから、文書できちんとこちらの質問
に答えてほしいと言いました」
事実経過をウヤムヤにしたまま、泣き落としで和解を迫ろうとしたのだ。広報部に謝
罪した理由を間うと、「取材・記事化について認識の違いがあったことがわかった」と
またもや強弁するばかりで経緯についてはあくまでも答えようとしない。朝日新聞は、
地付家に詫びるだけでなく、読者に対しても事実関係を明らかにする必要がある。

朝日が訴えたかった「真実」

さらにこの「独占雑談」には大きな問題がある。記事を読むと、朝日側の巧妙な意図
が透けて見えてくるのだ。
救う会の佐藤勝巳会長が呆れて言う。「一読して言いようのない違和感を感じました。
記者は北朝鮮での生活や他の拉致被害者のことについて根掘り葉掘り聞いているんで
すが、われわれもいまの段階では五人にそうした質問はしないように気をつかってい
る状態なんです。例えば、北朝鮮での監視員について、富貴恵さんにそれは『監視員
じやなくて、指導員』であり、で『私らを世話する意味』でついてくるだけだと言わ
せているが、これでは北朝鮮はそんなにひどい国ではないと読者をミスリードしてし
まう。この記事に。『真実』なんてありまぜん。むしろ十二月に五人で行った新潟で
の記者会見のほうがよっぽど『真実』を語っている。
例えば自身が拉致されたことについて、保志さんはこう答えている。

<あそこ(拉致された小浜公園)に僕らが行ったから、僕らが連れていかれたんであっ
て、ほかの人が行っていたら、その人が連れていかれたんでしょ。そういうこと思う
と、僕らでよかったなと。僕らは苦労したけども、それはまあそれでよかったんじやな
いかなと思っている>

保志さんが拉致されたことを「よかった」と語ったことが「誰にも言えなかった真
実」と言いたいのだろうか。
また、消息不明の拉致被害者について知っているかと何度も尋ね、夫妻に「知らな
い」と言わせてもいる。記者の質問をはぐらかすような夫妻の受け答えを勝手に「真
実」としているので、記事の内容は歪みに歪んでしまう。

救う会の荒木和博前事務局長がこう言う。
「こんな記事が出れば、彼らはますます真実を喋れなくなってしまう。彼らの北朝鮮で
の四半世紀に及ぶ生活は、いまだ口にできない壮絶な苦しみがある。なのに、北での
生活について自由に喋れないという大前提に、週刊朝日はまったく触れていない。こん
な編し討ちのような形で行った雑談を『真実』としで流布させるのは、北朝鮮のプロパ
ガンダに与した『週刊金曜日』の曽我ひとみさんの家族へのインタビユー記事と同様
の悪質さを感じます」

記事の最後は保志さんのこんな言葉で締めくくられている。
<(北朝鮮は)行って生活してみると、みんなが思っているほどは怖くないですよ>
これが朝日新聞社が訴えたい「真実」なのだろう。