総連用地売却報道 セコム、全国紙に異例の「謹告」
「記事は事実無根」と抗議 報道へ介入の危険も
「朝鮮総連が東京都品川区の朝鮮学校用地売却を計画」と報じた産経新聞の記事
(六月十九日付)について、セコム株式会社(木村昌平社長)は三十日、産経新聞
をのぞく全国紙などに「謹告」と題して「事実無根」とする広告を載せた。
産経新聞の記事は、売却交渉の相手を「大手警備保障会社の系列企業」としてい
るだけだが、同社は「セコムのことではないかと、問い合わせが寄せられた」とし
ている。記事への抗議を、広告の形で行うのは異例だ。
「謹告」では、「大手警備保障会社の系列企業が用地の購入をほぼ内定したと報
じられた件で『セコムのことではないか』といった問い合わせが多数寄せられた」
とした上で、グループ企業を含めて調査した結果、「事実無根と確認した」と説
明。「誤解を生む報道ははなはだ遺憾」としている。広告は全国紙などに掲載され
たが、産経新聞への出稿はなかった。
産経新聞はセコムからの抗議に「匿名で書いており、セコムかどうかは明らかに
していない。記事にも自信がある」としてきた。
セコム広報室は「記者会見などを行ってきたが、引き続き問い合わせや指摘があ
る。周知徹底することが必要、との考えから『謹告』という形式を取った」と説
明。産経新聞への出稿は、抗議の最中なので差し控えた、としている。
今回の問題について、桂敬一・立正大教授(ジャーナリズム論)は「企業が、謹
告という名の広告で記事に抗議するのは異例だ。お金で買った広告で相手(産経新
聞)の信用を傷付けるやり方は、広告の悪用につながりかねず、由々しきこと。抗
議するならば裁判を起こすのがふつうだ。一方、産経新聞は記事に自信があるのな
らば、紙面を審査する報道検証委員会を通じて、記事の書き方や内容に落ち度がな
かったかを明らかにすべきだ」と話す。
また、山中正剛・成城大学名誉教授(広報論)は、「広告には、広告主が一方的
に勝手なことを言うことができないという広告倫理がある。個々の記事に対してこ
ういった広告が掲載されるようになると、報道への介入などの危険性も生まれてく
るのではないか」と述べた。
◇
■自ら言及「土地購入持ち掛けられた」
「朝鮮総連が朝鮮学校用地売却を計画」と報じた産経新聞の記事についてセコム
は、「謹告」を掲載するまでに、売却交渉相手とされる「大手警備保障会社」とは
セコム以外に考えられないとの認識を示すとともに、当該の土地の購入を持ちかけ
られていた事実を明らかにしている。同時に、同社は「十七億円で購入が内定した
などの事実はない」として、「法的措置に訴える」などと産経新聞に抗議していた。
掲載日の十九日午後、セコムの役員が産経新聞社を訪ね、「これはセコムのこ
と」と言及するとともに、取材の狙いや情報が社内から漏洩(ろうえい)したかど
うかなど経緯について問い合わせた。産経新聞は、担当者が「情報源などについて
は言及できないが、問題の記事は朝鮮総連が朝鮮学校用地売却を計画していること
を報じたもので、持ちかけられた側の信用を侵害する意図などなく、そのために企
業名を匿名にした。記事の中の大手警備保障会社がセコムかどうかは、当方として
は明らかにしない」などと説明した。また、複数の関係者から取材を行っており、
内容には自信を持っていると伝えた。
しかし、同社は翌二十日に抗議文を産経新聞に届けた。抗議文の中で同社は、改
めて「この記事を読んだ読者が当社を指していると認識するのは明らか」と自社を
対象とした記事であるとするとともに、購入を持ちかけられたことを明らかにし
た。しかし、同時に「直ちに購入の意思がないことを表明している」として、「記
事は事実無根」と主張、法的措置も辞さないとしている。また二十日夜になって、
突然、産経新聞以外のマスコミ各社を集め記者会見し、「産経新聞の記事は事実無
根」などと産経新聞の記事を同様に非難した。
これに対し、産経新聞は重ねて「複数の関係者から綿密な取材を行い、関連資料
も入手したことから記事の事実関係については間違いないことを確認した」とし
て、記事の訂正、謝罪の考えはない旨を回答した。
その後、セコムは三十日付の全国紙などに「謹告」を掲載し、産経新聞の取材を
再び批判した。
産経新聞広報部の話「記事化に当たっては、信頼すべき複数の関係者に取材して
おり、記事の内容については自信を持っております」
◇
≪記事要旨≫
在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)が東京都品川区内の朝鮮学校用地を十七億円
で売却することを計画、大手警備保障会社の系列企業がマンション建設用に購入す
る交渉が進んでいることが十八日、明らかになった。関係者によると、交渉にあた
っている総連幹部は「日本政府の経済制裁が科される前に売却代金を送金するよう
本国から指示された」と説明しているという。都が総連関連施設への固定資産税の
免除見直しの検討に入っているため「課税逃れが狙い」との見方もある。
売却が計画されているのは、品川区西五反田四丁目の「東京朝鮮学校第七初級・
中級学校」跡地約三千七百四十四平方メートル。同校は平成十二年四月に都教育委
員会に休校届を提出。建物は残っているが土地は民間業者に委託、駐車場として運
用されている。土地・建物の所有者は学校法人「東京朝鮮学園」。
関係者によると今年三月、朝鮮総連の首脳級幹部が都内の不動産業者に仲介を依
頼し、大手警備保障会社の系列企業が十七億円で購入することがほぼ内定。しかし
系列企業側は総連からの直接購入に難色を示し、間に都内の会社役員らをはさみ
「迂回(うかい)」する方針に転換した。
購入を持ちかけられた会社役員は産経新聞の取材に対し「日本人を拉致し、核で
日本を脅している国に多額の資金を還流させる取引には問題がある」と述べ、購入
関与についての結論を保留していることを明らかにした。