454 :
高橋1:
辺見庸氏との共著がある高橋哲哉氏が9日付西日本新聞で
香しいデムパを発していたので以下紹介。
「日朝 何が問題か」(下)
植民地支配の責任を
今こそ問われる歴史認識
九月十七日の日朝首脳会談は、日朝平壌宣言を発して国交正常化交渉に道を開いた。
だがその直後から、日本のマスメディアの報道は日本人拉致事件一色に塗りつぶされ、
朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)への敵意と憎悪を煽(あお)る異常な展開となった。
北朝鮮が認めた拉致事件の顛末(てんまつ)はたしかに衝撃的なものだったし、
疑惑の全容解明にもほど遠い。「金正日総書記の一片のおわびだけでは済まされない」
という被害者家族の思いは当然で、重大な人権侵害事件として十分な解決が追求される
べきだろう。
しかしだからといって、マスメディアが「北朝鮮憎し」の感情に火を付けて回るのは
危険極まりなく、社会的責任を放棄した暴走だといわざるをえない。メディアのこうした
姿勢が、在日朝鮮人やその子供たちへのいわれなき嫌がらせ、物理的・精神的な暴力が
広がる一因ともなっており、猛省を促したい。
(2へ続く)
455 :
高橋2:02/11/12 00:47 ID:/GIQi08Z
◆敵対関係の中で
メディアと世論が拉致事件にのみ関心を集中させていく中で、すっかり陰に
追いやられてしまったのは歴史認識問題である。今この国の議論では、もともと
イノセント(無辜(むこ))な民主主義国家日本があり、もともと邪悪な犯罪国家
北朝鮮があって、後者が前者に襲いかかったのが拉致事件だ、とでもいうかの
ようにすべてが進行している。だがいうまでもなく、拉致事件は冷戦下での南北
および日朝の敵対関係の中で生じたのであり、さらにその前提には、日本の朝鮮侵略と
植民地支配の歴史があったのである。
日朝首脳会談で問われた最も本質的な問題は、日朝関係の根源にある植民地
支配責任に、日本がどのような態度をとるかということだった。
これは単に日本と北朝鮮だけの問題ではない。日韓基本条約(一九六五年)で日本は
植民地支配の不当性を認めず、謝罪も賠償もせずに「経済協力」方式で過去を「清算」
しようとした。これが一種の不平等条約で真の解決にならなかったことは、韓国で九〇
年代以降、謝罪と補償を求める被害者が続出したこと、九五年には日韓条約破棄と再締結を
求める国会議員百六人の決議が行われたことなどに明らかである。
日朝首脳会談には、日韓条約を超えて日本の朝鮮植民地支配全体を問い直し、真の和解の
基礎となる解決を見いだすことが期待されていたのであり、会談前に韓国や日本で相次いで
出された市民アピールにもそれは表れていた。
(3に続く)
456 :
がはは ◆n6LQPM.CMA :02/11/12 00:48 ID:uVmNAF1D
辺見の意見が納得しちゃうのは、小説家として歴史を大局の視点から
見ていること。まさしくユートピアだな。
俺も拉致事件は怒ってるが、相対的に日本の強制連行の問題を持ち出す
あたりは的を射ているとしかいいようがない。
457 :
文責・名無しさん:02/11/12 00:50 ID:nwXOwpm9
9月17日を境に、日本の左翼は完全に壊れたな
458 :
高橋3:02/11/12 00:50 ID:/GIQi08Z
◆「一片のおわび」
しかし、期待は見事に裏切られた。平壌宣言は、日本側が村山首相談話(九五年)に
沿った「おわびと反省」を表明する代わりに、日韓条約方式の「過去の清算」を北朝鮮に
認めさせるものだった。まさに「一片のおわび」と引き換えに、日本は植民地支配を
合法とする解釈を維持し、賠償も補償もしないですませることに「成功」したのである。
というよりむしろ、経済的・外交的に追い詰められた北朝鮮が従来の賠償要求を取り下げ、
この「成功」の目途がついたからこそ日本は首脳会談に応じた、というのが実態であろう。
ここで思い出されるのは、一昨年に南アフリカのダーバンで開かれた国連主催の第三回
世界人種差別撤廃会議である。この会議でとりわけ注目されたのは、アフリカ・カリブ海諸国が
欧米諸国に対して過去の奴隷貿易と植民地支配の謝罪と賠償を求めたことだった。
会議は紛糾し、宣言では、奴隷制と奴隷貿易が「人道に反する罪」であることを明記する一方、
「謝罪」については「心から遺憾の意を表する」にとどまった。植民地支配がアフリカ諸国の貧困の
一因だったことを認め、欧州各国が「経済支援策を講じる」必要性が明記されたものの、賠償責任は
盛り込まれなかった。
その後、欧米諸国は、「人道に反する罪」は現在行われている「奴隷貿易」に限るので、過去の
ものには及ばないとまで言い始める。結局「一片のおわび」だけで責任は認めず、「経済協力」
方式で逃げ切りを図ったのだ。
(4に続く)
459 :
高橋4:02/11/12 00:53 ID:/GIQi08Z
◆被害者の声無視
日本もこの会議で、韓国から「慰安婦」問題を、北朝鮮から植民地支配責任を
追及された。しかし日本政府は、正面から応答せず、アフリカ・カリブ海諸国の
追及に対しても、「人道に対する罪」や賠償を認めない「JUSCANZ案」(日・米・
加・豪・ニュージーランドの案)の提案者となった。つまり日本は、旧植民地
宗主国として、被害国への責任をかたくなに否認する欧米諸国の側に立っている
のである。
日本の論壇では、日本人拉致事件は許されざる犯罪だけれども、朝鮮植民地
支配は当時から米国・英国などに認められていたことで、今日の価値観で裁いては
ならないなどという暴論がまかり通っている。真実は、当時も今も一貫して、
日本は欧米諸国とともに植民地支配の被害者の声を無視し、自分たちの論理を
押しつけ続けているのである。植民地主義の時代はまだ終わってないのだ。
これはまた、逆にいえば、日本が植民地支配の責任を適切にとり、朝鮮民族の
人々との和解に成功すればそれは世界史的意義をち、他のケースの先例になりうる
ということでもある。
正常化交渉の行方は予断を許さない。真に問われているのは私たちの歴史認識で
あることを忘れないようにしたい。
【たかはし・てつや】東京大学大学院総合文化研究科助教授、哲学専攻。1956年
生まれ。従軍慰安婦問題などにかかわりながら日本の戦争、戦後責任について論評。
著書に「記憶のエチカ 戦争・哲学・アウシュヴィッツ」(岩波書店)
「新 私たちはどのような時代に生きているのか」(辺見庸との共著、同)「戦後責任論」
(講談社)など。近刊に「思想読本7 (歴史認識)論争」(筆者編、作品社)。