【神】新潮、朝日の欺瞞を糾弾【降臨】

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週刊新潮 10月3日号

それでも国交回復を急げというのか「朝日新聞」

 例えるなら、今回の拉致問題は誘拐殺人という凶悪犯一味の親分がしぶしぶ
犯行を認めただけの話だ。一方で、かどわかされた被害者の安否は依然不明の
まま。それでも、ともかく彼の国と国交回復を急げという論調を展開し続けて
いるのが朝日新聞である。その論調は、北朝鮮側の言い分そっくり。

 小泉首相の訪朝では、日本のマスコミで唯一、共同通信が文書による金正日
・朝鮮労働党総書記インタビューに成功したが、朝日新聞社内ではこんな騒動
があったという。「かつて朝日は2度金日成をインタビューして記事にしてい
ます。それで今回は箱島信一社長自らインタビューを申し込んだという話が社
内で広まったのです。訪朝直前の土、日、月の社長スケジュールを空け、いつ
でも自社の小型飛行機を向こうへ飛ばせるよう整備していると。ただし、その
噂は新型飛行機の竣工式に箱島社長が出席したことが原因でした」(朝日新聞
の関係者)
 朝日の社員にとって、今回の訪朝はそれほどの関心事。社内でそんな噂が出
るほど、北朝鮮に肩入れしてきたのである。で、拉致や不審船の事実を目の当
たりにしてなお、その報道姿勢は相変わらず。
 首相訪朝の翌9月18日付朝刊では、1面で木村伊量政治部長による書名記
事を掲載。<痛ましい歴史、直視して>と一見、もっともらしいタイトルで、こ
う書いている。<冷静さを失っては歴史は後戻りするだけである。(中略)北
朝鮮との間に残された戦後処理問題を解決し、大局的見地に立って関係を正常
化することが、日本の国益にも北東アジアの安定にも資する。
 どの国も「負の歴史」をおっている。過去の日本がそうなら、北朝鮮もそう
である>
 そもそも拉致問題は歴史を振り返る話ではない。25年という気の遠くなる
年月を経て、ようやく北朝鮮が犯罪を認めただけだ。それも今になって加害者
が一方的に8人の死亡と5人の生存者を白状したに過ぎず、それすら真偽は不
明。過去の歴史どころか、今現在未解決の凶悪犯罪なのである。にもかかわら
ず、その相手に対し″大局的見地に立って関係を正常化しろ″とは、言いも言
ったり。
 おまけに、同日2面の朝日社説では、<悲しすぎる拉致の結末 変化促す正
常化交渉を>と題して、こう続く。<拉致問題とともに日本にとって重要なこと
は、北朝鮮と普通の会話ができる関係をつくることである。(中略)
 補償問題について、経済協力方式での合意は今後の正常化交渉の土台となり
うるものだ。政府はこの好機を生かして、北朝鮮とまともな関係をつくるべき
だ。
 このことは、日本だけの問題ではない。北東アジア地域さらには世界全体の
緊張緩和と安定化にもつながろう>
 何が何でも、国交正常化交渉を急げと言わんばかりの論調なのだ。9月22
日付社説でも、こんな調子。国交正常化は長きにわたる課題なのだが、首相の
訪朝目的はその交渉に入るかどうかの見極めにあった。(中略)
 総合すると、正常化交渉の再開を決めたことは間違っていなかった>
 そして、こう結んでいる。<ためらわず、正常化交渉を再開させることであ
る>
 新聞評論家の片岡正巳氏が話す。「たとえば18日の社説を読むと、初めは
拉致のむごたらしさを書いているが、そのうち″しかし″とか″それでも″と
なる。そうして結論は国交正常化の方が大事となっています。何より朝日は国
交回復が第一義なんです」
 朝日OBのジャーナリスト、稲垣武氏もこう言う。「朝日は、拉致問題を日
朝関係のなかで起きた″悲劇″と報じているが、これは朝鮮総連の言い分と同
じ。まるで他人事みたいに″悲劇″と書いているだけで、その怒りもない。悲
劇の原因をつくったのは一体誰なのか、肝心のことには触れてないのです。妙
に北朝鮮に理解を示し、問題を乗り越えて日朝交渉を成功させようという主張。
人道主義という仮面をかぶった偽善というほかありません」

 被害者を″邪魔者″扱い

 もっとも、朝日の北朝鮮贔屓は今に始まったことじゃない。北朝鮮との関係
は、古く71年の後藤基夫、92年の松下宗之の両東京本社編集局長(当時)
による金日成インタビューに遡る。稲垣氏が続ける。「後に社長になった松下
氏のインタビューはひどかった。国際原子力機関(IAEA)の核査察問題が
焦点だったのですが、金日成の査察を受け入れるという言葉をそのままタレ流
しただけ。結局、査察を受け入れず、言わせっ放しの報道で、その後も朝日は
何の説明もしていないのです」
 その92年4月2日付1面記事のリード文を引用すると、<日朝国交正常化
交渉の行方は日本側の決断にかかっている、と(金日成主席は)表明。北朝鮮
独自の社会主義建設に強い自信を示した>
 まるで朝鮮労働党の機関紙のような持ち上げ方なのだ。「この時は、すでに
ラングーン事件や大韓航空機の爆破事件の後。拉致問題も持ち上がっていたが、
わざわざ北朝鮮に出かけていって、そんな肝心なことも聞いていないのです。
そのくせ金日成が映画の『釣りバカ日誌』を見たなんて、どうでもいいことを
報告しているんです」(元朝日新聞研修所長の本郷美則氏)
 李恩恵こと田口八重子さんの拉致問題の渦中にもかかわらず、記事はいっさ
い拉致に触れていないのだ。ある文芸評論家によれば、「インタビューでは取
材チームはペンもメモ帳も持つなと言われたようです。取材後、北朝鮮側が書
いた速記録を渡されたなんて話まである。実際、かつて中国の周恩来元首相イ
ンタビューでも同じ事があったらしいが、これでは単なる北朝鮮のPRですよ」
 これで報道機関とはおこがましい限り。先の稲垣氏はこんな体験談まで披露
する。「私が週刊朝日のデスクをしていた頃、(原敕晁さんを拉致した)辛光洙
が韓国で身柄拘束された事件があり、記事にしたのです。すると、朝日社内の
駆け出し記者から文句を言われた。おそらく幹部から指示されて文句を言って
きたのでしょうが、、社内ではそこまで北朝鮮シンパが浸透しているのです」
 97年2月に横田めぐみさん問題が浮上したときも、他紙に比べ、朝日だけ
は申し訳程度の報道だった。
 その朝日の報道姿勢は、ことここに至っても、変わっていないのである。「今
月18日の天声人語には、″北東アジアの安定という政治目標の前に拉致問題
はかすんでしまう″とまで書いています」
 拓殖大海外事情研究所の佐瀬昌盛所長がこう指摘する。「朝日の論調では3
5年の植民地支配があったから北朝鮮による拉致が起きたかのようになってい
るが、それは韓国だって同じ状況でした。植民地支配と拉致とは別問題であり、
国交正常化という外交交渉と拉致とも次元の違う話。朝日は、それらを一緒く
たにし、正常化交渉のテーブルの場で拉致問題の解決を図ればよい、という北
朝鮮に都合のいい逃げ口上を展開しているだけでしょう。しかし、その拉致問
題は解決どころか、ますます疑惑が深まっている。この状況で正常化交渉を再
開すべきではありませんよ」
 日本にとって国交回復を急ぐ理由はない。実際、ここに来て、10月交渉再
開の雲行きが怪しくなっている。
 最後に北朝鮮での生存を伝えられた蓮池薫さんの実兄のこんな言葉を紹介す
る。「朝日は3年前の99年8月の社説で、″人道的な食料支援の再開など、
機敏で大胆な決断をためらうべきではない″とし、さらに″日朝の国交正常化
交渉には、日本人拉致疑惑をはじめ、障害がいくつもある″と書いている。″
障害″なんです私たちは。要するに日朝国交回復の″邪魔者″。これが朝日の
本音でしょう。ひいては外務省や日本政府にとっても、そうだったのかもしれ
ません」
 この言葉を聞いてもまだ、国交回復を急げというのか。