週刊新潮5月15日号
変見自在 高山正之
富市の古証文
北朝鮮の核が騒がしくなったころ朝日新聞に奇妙な特ダネが載った。
「日本の核武装・利点なし」の見出しで、何でも防衛庁がこっそり核保有
の是非を検討した。しかし日本が核を持つと言えば周辺諸国は騒ぎ、米国も
容認しないだろう。日米安保もおかしくなるから「日本の核武装など検討に
も値しないと結論した」というのだ。
日本には戦わないという憲法がある。それにつけこんでろくでもない国が
日本人を拉致したり、竹島や国後島を取ったりした。そんな非道をされても
日本は手も足も出せない。
非核三原則もある。まともな軍備も性根もたないのに、そのはるか先の核
装備を云々するなど百年早いことぐらい防衛庁でなくたってみんな分かって
いる。
おまけにこの結論が出たのが「8年前の村山富市首相当時」と記事はいう。
富市と言えば中国をあがめ北朝鮮を敬ってやまない人だ。だから彼らと同
じに日本人が大嫌いで、神戸大震災では救援を手控えて多くの市民を死なせ
たし、一番嫌いな自衛隊員は丸腰でPKOに行かせた。
そんな首相の下で防衛庁が「危険な近隣諸国に対処するために核装備は必
要」と結論するはずもない。いわば、できレース。競輪で言う群馬群馬だ。
それがなぜ今、朝日の一面トップになったのか。ヒントは記事の中にあっ
た。
「日本の核など検討にも値しない」という結論は「8年たった今も変わら
ない」のくだりだ。どうもこれを言いたかったらしい。
確かに日本が憲法を改める、核はともかく、まともな軍備をもつと言えば
周辺諸国は騒ぐ。騒がせる朝日が言うのだからこれ以上確かなことはない。
ではもう一つの「米国が容認しない」はどうか。
あのころ米国は冷戦に勝ったものの気がつくと経済は大赤字。「結局、日
本が勝っただけ」という日本脅威論が渦巻いていた。防衛庁の次期戦闘機の
自主開発に米国が文句をつけてきたのも脅威論が元だった。
日本の核も自立も容認されなかったのは事実だ。
ところがやがて日本のバブルははじけ、逆に米国は未曾有の好景気に入る。
その一方で対米テロが本格化し、中東に不安が生まれ、アジアで中国の覇
権主義が脅威に成長する。世界はこの8年で大きく様変わりしていった。
それを受けて米の対日政策も大変わりした。
ブッシュ政権の米通商代表R・ゼーリックは米国が押し付けた平和憲法を
早く捨てて「自主性をもってアジアの安全保障の任に当たれ」と言い出した。
ブッシュも北朝鮮を「悪の枢軸」に名指しした。米国は過去、アジアの悪
いことはみんな日本のせいにしてきた。日本を封じ込めていればアジアに問
題はないという姿勢だった。それを戦後初めて改めたのだ。
9・11のあとはもっとすごくなる。通常の軍備は当たり前、その先の核
装備も考えろという声がわんさと飛び出してきた。
まず米国の主流ネオコンを代表する論客C・クラウトハマーがワシントン
・ポスト紙で「北朝鮮に対する日本の核武装カード」を論じた。追いかけて
元大統領候補J・マケインも「日本の核開発に反対すべきでない」と語る。
英タイムズ紙が「日本は核問題をタブーにしないで東アジアの安保を考え
ろ」とやればチェイニー米副大統領までが「日本は核も含めて考えるときだ」
とNBCの番組で発言した。
朝日にこの声はいっさい載らなかった。愛する中国や朝鮮に災いする国際
世論は「知らしむべからず」と考えてのことだろう。
いい具合に富市の古証文がある。これで「8年前と何も変わっていない」
と読者をたぶらかそう。
そんな苦労してまで嘘を書くなら珊瑚に落書きしていてもらった方がまだ
いいと国民は思っている。
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文責・名無しさん:03/05/31 15:54 ID:7G0FOvRB