高山正之再び登場!新潮「変見自在」

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113エスキモーの不運
週刊新潮 6月13日号 変見自在

エスキモーの不運

 岡崎久彦氏が産経新聞に連載中の「百年の遺産」の中で米国の特性は「君子豹変」
だと書いている。
 どう豹変するのかの例に、氏は「パナマ」を取り上げている。太平洋に登場した
日本に対抗するため米国は大西洋の艦隊をすぐに太平洋に回航できる運河が欲し
かった。
 最適地は当時コロンビアの一州だったパナマだ。それで米国は住民をけしかけて
独立運動を起こさせ、人的物的に支援した。
 独立が果たされると米国は支援の謝礼にと、新国家の真ん中を貫く形で運河用地
を取ってしまった。不便?独立させてやったのに何を贅沢言うか、と言う具合だ。
 その米国が日本の満州国建国を知るや激しい非難を浴びせた。中国から満州を
切り離し独立させるのは「満州の利権が目当てだ」と。
 日本はパナマで見せた米国のあくどさは持ち合わせていないと弁明するが、
聞く耳を持たない。百歩譲って利権目当てだとしても、「アンタに言われる筋合い
はない」と反論も出るところだ。
 しかし米国はこの時、もうそのような帝国主義的野心を悪とみなす「価値観の違
う国になっていた」、つまり豹変していたから、日本を批判したっていいというわ
けだ。
 もう少し歴史話を続けると米国のパナマ式領土獲得の手法は一八三〇年代のテキ
サス乗っ取りから始まる。
 米国はメキシコにお願いして入植者を送り込み、その数がメキシコ人より多くな
ったところで独立運動を起こさせ、アラモの悲劇を経て独立すると、やがて米国に
編入した。
 次がハワイで、この時は米軍艦が出かけて米国系市民のクーデターを支援し、
リリオカラニ女王を退位させてハワイ王朝をつぶした。後はテキサスと同じ。
114エスキモーの不運:02/08/21 17:35 ID:8BF9wszy
 リリオカラニは「アロハ・オエ」の作詞者だ。その文人女王を「淫乱で残虐」と
非難して善良な民を守るためのクーデターと称したものだ。
 そしてフィリピン。米国はスペインの圧制から人々を救うという大義を掲げたが、
スペインが降伏するとこの約束を反故にして米国の植民地にした。裏切りに怒る住
民や民兵を徹底的に弾圧し「二十万人を虐殺、もしくは餓死させた」(米上院公聴
会)
 米国も結構、好き勝手に悪さをやってきたが、ある時点で「あれはよくなかっ
た」と思っただけで、ごめんなさいでもなく手のひらを返すように他人様を非難で
きるのかという疑問は残る。
 早い話、米国がいつも日本を批判する口実に「東南アジアで残虐の限りを尽くし」
というのがある。日本は身に覚えはないけれど言われるままベトナムにもフィリピン
にも謝罪し、賠償してきた。
 でも米国がフィリピンにごめんなさいとか、二十万人分の賠償をしたとかは聞いた
こともない。
 先月、下関で開かれた国際捕鯨委員会(IWC)も同じような過去がある。「鯨は
人間の最高の友達」(ポール・マッカートニー)だから、捕鯨などもってのほかと主
張する米国は実をいうとメルヴィル(白鯨)の時代から一九六〇年代までほぼ百年間
も鯨を乱獲し続けてきた。
 鯨の油脂が自動車のエンジンオイルや機械油に最適だったためだが、それに変わる
合成油ができた途端に豹変して捕鯨反対を打ち出した。
 鯨を絶滅の危機に追い込んだ張本人なのに、そのことへの謝罪も反省もないのはこ
の国の性格からしょうがない。
 今回の総会では捕鯨禁止の例外として「日本の沿岸捕鯨はだめだが、米国のエスキ
モーのそれは構わない」という米国案が史上初めて日本の反対で潰された。自分だけ
は何をやっても許されると信じていた米国はかなりびっくりしたらしい。
 豹変は構わないが、君子とは何か、いい機会だからよく考えた方がいい。