朝日新聞 2001年11月5日 夕刊2面
窓 論説委員室から
「おかしい人」
小泉純一郎首相の靖国神社参拝は政教分離を定めた憲法に違反するとして、韓国
在住の旧日本軍人・軍属の遺族らを含む約700人が違憲確認などを求めて提訴し
た。
コメントを求められた小泉首相は「話にならんね。世の中おかしい人たちがいる
もんだ。もう話にならんよ」と、原告らを批判した。
首相一流のぶっきらぼうさを差し引いても、ずいぶん乱暴なコメントだ。靖国参
拝に反対する原告らを「変な人たちだ」「かわっている」と切り捨てたのである。
福田康夫官房長官の「そういうことを言って、小泉純一郎の信仰を妨げるという
のはそれこそ憲法違反じゃないですか」という反論にも首をかしげる。
原告らは別に、小泉氏の個人的な信仰を問題にしているわけではあるまい。
「内閣総理大臣である小泉純一郎が参拝したんですよ」と福田氏が言うように、
国を代表する首相の参拝だから憲法上の問題になる。
参拝が宗教的活動に当たるのかどうか。特定の宗教団体である靖国神社を助け
ることになるのかどうか。そうしたことが問われている。
参拝前、小泉首相は戦没者へ敬意と感謝をささげたい、という「気持ち」を強
調するだけだった。テロ対策特別措置法の審議でもそうだったが、首相はち密な
憲法議論が好きではないようだ。
せっかく裁判所という審判の場を得たのである。堂々とした憲法論で自らの行
動を説明して欲しい。〈悠〉