>>63 面白い記事を見つけましたので、書き出しときます・・・
はじめに
NYMEX(ニューヨーク・マーカンタイル取引所)に上場されているLight Sweet Crude(通称WTI)取引を頂点とする、
世界の石油の価格体系およびトレード構造がほぼ現在の形になったのは、80年代の末である。米国では80年代に、
国内の石油製品と天然ガス市場の規制緩和からエネルギー商品の市況商品化が進んだ。
同時に、当時ウォールストリート・リファイナリーと呼ばれた米国の投資銀行が一躍を担い、店頭取引市場が拡大していた。
米国でのこれらの動きは、ニューヨークやヒューストンを中心に進んでいったが、世界の他の地域、ロンドン、ロッテルダム、
シンガポールなども自由貿易の恩恵を受け、石油のトレーディングセンターとしての地位を確立した。
NYMEXのWTIは、ヒーティングオイル(暖房油)の石油先物初上場に5年遅れて83年に、IPE(国際石油取引所)のブレントも同様に、
ガスオイル(軽油)の上場に8年遅れて88年に上場された。米国と欧州の石油市場を代表するNYMEXとIPEの先物市場は急速に成長し、
そこに店頭取引市場がニッチを補完することで、欧米における石油のデリバティブ市場はひとつの完成した市場となった。
90年にWTIは、金融商品以外の先物商品の中で最も出来高の大きな商品となった。その後に湾岸危機が起き、ボラティリティー
(価格変動率)が100%を越える状況でも取引が成立するのを証明したことで、NYMEX市場は石油市場でのさらに磐石な地位を得ることとなった。
90年代の後半には米国内の電力卸売市場の規制緩和と相俟って、NYMEXは電力を含む総合エネルギー市場の様相を帯びるようになった。
Enron(エンロン)を筆頭として、電力・ガスの公益事業会社が活発に石油市場にも参加するようになったのは90年代も後半のことである。
そして世紀が変わり、株式バブルの終焉と共に、これらのエネルギー企業は撤退するか、規模を縮小するかの選択を余儀なくされ、
市場でのプレゼンスを失うことになった。現在では、それに変わる存在として再度ファンド(投資信託資金)に注目が集まっている。
本稿では、NYMEXを中心としたデリバティブ市場とその参加者、特に投機家に焦点をあてて現在の市場構造を浮かび上がらせることを意図している。
1.NYMEX Light Sweet Crude(WTI)取引
NYMEXに代表される先物市場は、現物の受渡しが行われるか、もしくは先物価格がその最も重要なファンクションである
現物価格の値決めに使われない限り、究極的にはゼロサムの投機の場に過ぎない。また、WTIのように、世界の石油価格の
大勢を決定付ける高い指標性を帯びることと、広い顧客層を背景とした高い流動性を持つことで、石油価格の変動により
生じるリスクを転嫁することができる市場となる。
本来、NYMEXのWTIは、オクラホマ州クシンでの現物の受渡しを条件とする米国の現物市場を反映する商品であるが、受渡し供用品
(先物市場で受渡しできる商品)には国内他原油種と共に輸入原油があり、北海ブレントやナイジェリアのボニーライトなどの
スイングバレルと呼ばれる経済性で何処にでも輸出できる国際的な原油種が入っており、海外の市況も反映するよう設計されている。
クシンは、オクラホマ州の奥内陸部に位置するパイプラインのハブである。
過去には、ルイジアナのメキシコ湾岸に位置する原油輸入基地から繋がるパイプラインのキャパシティーが小さく、同域周辺での
リファイナリー需要が上がる間クシンクッションと呼ばれるボトルネック現象が時折発生した。地域的な需給の引き締まりの影響から
価格が高騰するWTI取引を、世界の石油市場のベンチマーク(計測指標)として位置することへの正当性が疑問視される事態となった。
原油の輸入基地があるために、より国際市場の影響を受け易いルイジアナ州に産するLLS原油をその代替として推す声が、時として
市場では強くなっていた。しかし、その後は様々な形でパイプラインの増強が行われ、ロジスティックスに起因する問題は発生し難くなっている。
WTIは、NYMEXの石油製品とのクラックスプレッド(原油と石油製品価格の差でリファイナリーの精製マージンを意味する)取引が頻繁に
行われ、夏のガソリンや冬の暖房油市況に強く影響を受ける。大西洋間の原油価格差トレードであるWTI対ブレント取引は、欧米の
原油トレーダーにとって最も重要な指標で、このスプレッド(異商品間や同一商品の限月間取引およびその価格差を指す)が膨大な
輸入原油を必要とする米国市場の空腹度を現す最たるものである。
店頭市場では、国内の他原油種との価格差取引などが盛んに行われている。これ以外にもWTIを絡めた多種多様な取引が行われており、
この一面から、WTI価格は相対的に決定される要素が大きいと言える。後に詳しく述べる米国の先物行政を司る
CFTC(商品先物取引委員会)は、先物取引に関する強力な調査権を持つが、彼等が現物の受渡しを伴う先物市場の適性を調査する
項目の中に「先物契約が納会(最終取引日)を迎える時に、その商品の現物価格を反映しているか?」
「納会を迎える当限月の価格と次の限月の価格差は、現物市場の需給を反映しているか?」がある。
この二つの設問が示す通り、納会までは先物市場と現物市場は必ずしも一致した動きをする必然性はない。
この両市場は、納会を迎えるまで競合し影響を与え合い、その後両価格は収斂していく。
市場では、米国の原油需給を見るには、当限月と次の限月との価格差が絶対価格(アウトライト)よりも適しているとする。
絶対価格は、限月間の価格差よりも国内原油以外のエレメントや投機筋の影響を受け易いことが背景にある。
成熟した先物市場では、限月間や他商品とのスプレッド取引が極めて頻繁に行われる。NYMEXでも40〜50%の取引がスプレッドで、
実際の市場は、2つの市場−アウトライトとスプレッド−から成り立っている。
ローカルズと呼ばれる場立ちには、もっぱらスプレッドのみを取引する専門家も多くいる。市場が薄い時に、彼等の取引量に占める
価格差取引は5割を越えると言われる。ヘッジャー(現物および店頭取引を行うトレーダーで、その反対売買を先物市場に
保険繋ぎする者)は、商流が一定である時には、ヘッジのポジションを限月間格差で先限月に移す取引が基本となる。
一般的に、石油当業者のヘッジはスプレッドの形を取ることが多い。投機家以外のトレーダーがWTIの売りか買いを単独で行う場合、
特に投機的トレーディングでは長期にわたりポジションをとることは希有である。スワップハウス
(店頭デリバティブ市場での値付け業者)を含む当業者が長期的にポジションを取る時には、何らかの形で総合的な石油市場で
反対売買が行われていると考えられるため、マーケットニュートラルとなり、市場への影響は比較的少ない。
アウトライトで長期的に残るポジションが市場に与える影響は極めて大きく、投機筋、特に代表的なファンドの動向が市場で
注目を集める理由である。
<個人投資家(Investors)>
表-1の統計は、NYMEXが年間の取組残高を業種別に分けた枚数(1枚=1,000バレル)をもとにしている。
この5年間に見られる変化の中で最も目を引くのは、個人投資家の割合が大きく増加していることである。
米国では、1979年の11月に先物市場の手数料が自由化された。それを契機に先物産業界は構造変化に見舞われ、
業者は手間のかかる個人顧客相手よりも大口顧客の開拓に注力するようになり、またそれらの顧客を
ファンドの購入に向かわせる営業戦略を取るようになった。これにより、先物市場における個人参加の割合は
長期にわたり10%を越えることはなくなった。
米国では、一般的に投機好きな個人投資家を富裕層の顧客と想定し、“Doctors and Dentists”と称するが、
投資資金に限りがあるために市場への影響は軽微と見られてきた。ここ数年の取組残高の増加は、
株式市場の低迷と期を一としていることから、資金のシフトが起きたと考えられる。
90年代を通し、米国の株式市場は膨大な個人投資家群を創出し、インターネットによる取引が盛んになっていたが、
先物市場でもインフラの整備が進み、インターネットによる取引が簡単に出来るようになってきたことも背景にあると思われる。
90年の中盤以降には、一部のブローカーが積極的に、基本仕様がファンドと同じ
トレーディングソフトを販売する業者と組み、個人顧客に取引の勧誘を行い始めた。
コンピューターが出すチャート分析による売り買いのシグナルに従う取引である。
類似するプログラムを有するファンドと市場での取引パターンが重なることで、
取引量が増えた個人投資家の短期的な市場に与える影響が大きくなったことは想像に難くない。
<流通業者(Marketers)>
一方、流通業者の割合の減少が目立つが、米国の石油製品市場ではこの間に地域的な供給の問題などが多発し、
地域間での価格差の振れが大きくなっていた事を考えると、べーシスリスク(先物価格と現物価格の格差)の少ない
石油製品そのものの市場か、店頭デリバティブ市場に移ったものと考えるのが合理的であろう。
<ファンド(Funds)>
80年代において、商品市場で一般的にファンドと称されるものはコモディティー
(商品)ファンドを意味していたが、90年代に入り、それ以前は金融市場に特化していた
ヘッジファンドがコモディティーファンドとは異なるアプローチで商品市場に参入してきた。
ヘッジファンドは、株式市場で買いと同時に売り(ヘッジ)を行う取引手法が名前の由来とされている。
基本的には株式間の歪み/ミスプライスに注目した裁定取引であった。米国の金融市場では、
80年代の後半には既にその存在が広く認識されていたが、ジョージ・ソロス氏の率いる
クォンタムファンドなどの活躍で一躍時代の寵児になったのは、90年代に入ってからである。
80年代はコンピューターテクノロジーが急速に進化し、クオンツと言われる数理解析が
容易に行えるようになってきた。後述するマネージドフューチャーズの発展も、所謂ITの進化の申し子である。
ヘッジファンドは、市場価格を計量的に分析し、それを基に裁定取引を行うトレーディングモデルをいち早く取り入れた。
同様に、彼等は様々な手法を開拓し、それらが細分化されていくことになった。その中にはグローバルマクロファンドがある。
投資家の視点から、かつてはグローバルマクロの一部と見なされていた商品ファンドはオールタナティブ(代替)投資の中の
独立したひとつのカテゴリーとされ、Managed Futuresと呼ばれるようになっている。殆どのヘッジファンドは、米国内の規制と
煩雑でコストのかかるSEC(証券監視委員会)への登録義務を逃れるために、ケイマンなどのオフショアで登記している。
しかし、国内での信託運用の受託や顧客の勧誘などが出来ないため、最近ではSEC登録業者が増加してきている。
株式市況の低迷が続き、ここ数年はグローバルマクロファンドとマネージドフューチャー以外の多くのヘッジファンドは、
株式投資信託と同様に低調な成績が続いてきた。これを背景に、年金基金などの大手機関投資家はこの二つの取引手法を
広く受け入れるようになり、市場規模は拡大している。ヘッジファンド総合でも、この4月から6月の運用資金の流入増加は
四半期で最高を記録したが、その内の1/3はグローバルマクロとマネージドフューチャーに向かった模様だ。
エンロンの崩壊と、それに続く米国エネルギー会社のトレーディングからの撤退により、数多くのトレーダーが職を失うこととなった。
エンロンのトレーディング部隊は利益率が高く、問題発覚後も、切り売りできる同社の重要な資産のひとつと見なされていた。
UBSが買収を決定するまでに、その存続を維持すべく様々な努力が為されたことが優秀さの証明であった。
エンロン、アクィラ、ダイナジーなどで働いていた秀でたトレーダー達の多くは、失職後にヘッジファンドやCTAに新しい働き口を見つけた。
また、一部の資産を有するトレーダーは自らファンドを立ち上げた。これにより、90年代には数少ない存在であったエネルギー専門の
ファンドトレーダーが、多数存在することになった。この元エネルギー会社のトレーダー群は、ファンドに移って以降も前職からの
トレーディング手法を踏襲しており、市場におけるファンドトレーダーと石油トレーダーの差が一段と縮むこととなっている。
マネージドフューチャーは、基本的に先物市場で恒常的に価格の動きのみに注目した取引を行う。
一方、大手のグローバルマクロは、マクロ経済を視点とした所謂ヘッジファンド的な取引を行う傾向が強く、
石油先物市場での取引はひとつの選択肢に過ぎない。当然、取引手法の違いから、両者の市場でのポジションが全く反対になることがある。
ロンドンの商品市場では、両者を混同しないためにミクロファンドとマクロファンドと呼ぶことがある。
<グローバルマクロ>
マクロ経済、市場分析により定性的に判断して取引を行う傾向が強い。
エネルギー関連株はエネルギー商品価格次第の要素が大きく、乱高下し易い。
このヘッジをエネルギー先物市場や店頭市場を使う事がある。
これは、典型的なヘッジファンドの手法である売りと買いがセットのマーケットニュートラルである。
92年にクアンタムファンドが英国銀行を向こうに回して行ったポンドの売りや商品市場では、
90年代中盤にLME(ロンドン金属取引所)の銅市場で行った三度にわたる住友商事との攻防の末の最終的な成功などがある。
石油市場では、ドイツの鉱山会社の子会社が破綻し、彼等が持つNYMEXでの巨大なヘッジポジションが
94年初頭まで市場価格を低迷させていた。
市場の内部事情により実体以上に安値になっていたWTIに目を付けた複数のヘッジファンドが買いに入ったことで
市況は回復し、その後の半年にわたる上昇相場を作ることになった。
90年代後半は、地政学的な理由などで市場に参入する事が目立つようになった。
以前はイベントドリブンと言われ、何らかの大きな出来事、地政学的な事象や市場の歪みなどが発生した時にのみ
市場での存在が確認できたヘッジファンド(グローバルマクロ)であったが、最近では、
投資銀行やエネルギー会社からの人事を吸収することで、取引手法はさらに多様化している。
特に、エネルギー会社からの移行組は、石油のファンダメンタルを理由とした取引を行う傾向が強い。
店頭市場では市場規模の大きな石油の取引量が増加しており、市場への直接的、間接的な影響力は大きくなってきている。
<Managed Futures>
CFTCに規制され、実際のトレードはCTA(Commodity Trading Adviser)と呼ばれる投資顧問会社が行う。
87年のブラックマンデー時に、機関投資家が金融市場で大きな損失を出す中で好成績を残し、
運用の一手法として金融市場でも注目されるようになった。
90年代、特に後半には株式市場での順張りが好成績を出したが、CTAは長期にわたり守勢にまわることを余儀なくされた。
これが、2002年には他の投資商品を凌駕する結果を出した。3年間にわたる証券市場の低迷が、
投資家をして商品市場の魅力を再確認させ、新しい資金が入ってくるようになった。
90年代S&P500のリターンでは年率平均17.3%となっていたが、この3月までの一年間はマイナス24%のリターンとなった。
投資家間で最もポピュラーなCTAの成績を表すBarclayCTA Indexでは、2002年で12.8%のリターンとなっている。
90年代の株式バブル時には伸びなかった運用資産も、この6月末にCTA資産で最高の665億ドルとなっている。
ファンドオブファンドの数が増え、そのポートフォリオの中でヘッジファンドと組み合わせるようになっている。
CTAのポートフォリオに占める75%は、金融商品である。米国先物市場の出来高のうち8割は金融商品に占められており、
市場規模が市場の流動性そのもの故に当然のことである。
CTAの多くはトレンドフォロータイプと呼ばれるシステムを使っており、去年の市場の動きは、そのシステムに合致するものであった。
このシステマチックトレードは、クオンツ分析モデルを使い、市場のトレンドの発生および終了を発見し、そのシグナルに従い市場に注文を入れる。
取引注文は、参入時も撤退時も、ストップロスの形で入れられる。移動平均線に準ずる動きをする傾向があり、
最高値、最安値で売買のシグナルが出ることはない。重要なことは、意思の決定に人為を介さないようにすることである。
かつて、殆どのCTAはこのトレンドフォロー型のプログラムを用いていたが、現在では50%前後になっている。
金融工学が発達し、様々なプログラムが開発されてきたことと、商品の専門知識を持ったトレーダーが入ってきたことが背景である。
不安定要因が市場にある時、金利安・株安時にオールタナティブの投資先(分散投資)として歴史的に注目される傾向がある。
しかし、マネージドフューチャーはリターンの振れが大きく、保守的な投資家層の受けは良くないのが実状である。
投資環境の変化次第で人気離散の憂き目に遭遇する可能性もあるが、しばらくは現在のブームといえる状況が続きそうだ。
<金融関係者>
現在までレギュレーションYと呼ばれる銀行法により、米国の銀行およびその傘下にある会社は
現物商品の取引を禁止されており、同様に商品先物市場、店頭市場双方での現物受渡しは原則禁止されている。
例外は、この銀行法が施行される以前に本業の一部として既に現物商品の商いを行っていた
モーガンスタンレーやゴールドマンサックスなどの投資銀行のみである。
特にモーガンスタンレーは、米国で中間留分輸入の最大手であり、NYMEX市場でも現物受渡しの常連参加者である。
最近では、ユナイテッド航空と包括的なジェット燃料供給契約を結ぶなど、独自な動きを展開している。
一方、現金決済で取引が終了するスワップなどの石油の店頭取引には殆どの大手投資銀行が参加しており、
一部の商業銀行も参加している。これらの銀行は大規模なトレーディングデスクを持ち、デリバティブ市場で盛んに取引を行っている。
この一群は一般的にスワップハウスと言われ、金融界を背景にした広範な顧客層を持ち、価格を顧客に提示し約定される事でリスクを取り、
収益機会を探す売買を繰り返す。一部のデスクは、取引量の70〜80%は投機で、方針として自己の取引での利益追求が中心となっている所もある。
大きなリスクを取る事が出来るのは、優れたリスク管理手法が確立されている反映である。
米国では、70年代後半から80年代前半にかけて株式手数料と金利が自由化された。その間、グラススティーガル法に基づき、
分離されていた商業銀行と証券会社(投資銀行業務を含む)の業務上の垣根は、互いの領域を侵食し合うことで事実上無くなり、
金融の大競争時代を迎えることになった。投資銀行でも、当時の4大投資銀行のうちディロンリードなど保守的な企業が力を失い、
変わってトレーディング部門の強いゴールドマンサックスやソロモンブラザーズが台頭するようになってきた。
トレーディングの対象商品は、本業である株式、債券や為替に加え、貴金属やスワップまでと多種多様にわたってきた。
顧客のために新しい商品を開発すると共に、リスクを軽減し、自己の利益を追求するビジネスモデルである。
当初は商品の中でも、貴金属や非鉄金属を取引していたトレーダーが、より裾野が広く収益機会の大きいと思われる石油に移ってきた。
コンタンゴやバックワデーションなどの金融用語が金属市場を経由して石油市場でも用いられている所以である。
<フロアートレーダー>
一般的にローカルズと呼ばれ、市場代表者として立会場のピットで取引を行っている。
取引の開始から終了まで、自己の取引について繰り返し利益を追求する。
彼等以外にも、フロアーブローカーと呼ばれる、基本的に顧客のオーダーを約定する事を
生業とする業者が居る。個人からビッグローカルズと呼ばれる会社組織の大手まである。
大手は、ブローカー業務を兼務しているところが多い。小口の売買を頻繁に行い、
日計りの取引を中心に行うスカルパーと呼ばれるタイプと、オーバーナイトでも
ポジションを持ち越すタイプに分かれる。
ピットに常時居るために、ブローカーA社から出る大口のオーダーは、
ヘッジファンドAというような内部事情に詳しく、それらの情報も重要な売買の判断材料となる。
一日の中で売り買いを繰り返すため、市場に流動性を与える重要な役割を果たしている。
一日の出来高に占める彼等の取引量は、4〜5割あると言われる。市場が薄い時には、
ローカルズが短期的な市場の流れを決めることがある。
通常の状況では、売りと買いの両方を唱えるローカルズが、市場の方向性に気付き
片方のみの唱えとなる時に、市場の様相は一変する。
フロアーの取引では集団心理的な側面が大きく作用する。
ニュースがなくても価格が動く時には彼等の存在が必ずあり、彼等自身が市場の内部要因となっている。
NYMEXのフロアーで取引を行うには、Seatと呼ばれる会員権が必要である。
会員権の値段は、その取引所の人気のバロメーターである。石油や天然ガスなどの、
ボラティリティーが高く取引量も大きな商品を持つNYMEXの会員権は、現在160万ドル近辺で取引されていて、
年初から約45万ドルも値を上げており、ここでも投機的な動きが発生している。
ローカルズには、この会員権を所有者から借りて取引している者が多くいる。
リース料は月に約1万2〜3千ドルで、実労日換算をすると一日約600ドル程度になり、
この金額がローカルズの基本コストとなる。
<石油トレーダー・メジャー>
所謂コマーシャル(当業者)ヘッジャーの分類に入るが、トレーディングデスクは、企業のポリシーにより、
前述の投資銀行と何ら変わらない積極的な市場リスクを取る所もある。
メジャーでも、エクソンモービルのようにナチュラルヘッジを標榜し、先物市場には一切参加していない企業もあるが、
今では希有な存在となった。トレーディング会社であるGlencoreやVitolなどと、
石油資産(アセット)を持つBP、ELFなどのメジャーの間に、デリバティブ市場での取引基本姿勢に大きな差はない。
差があるのは、資産のポートフォリオを運用するトレーダーの存在であるが、彼等も、その意志次第では
投機的なポジションを取れるようになっているケースが多い。
投資銀行、メジャー、トレーディング会社間でのトレーダーの移動が頻繁に起きていることが、これを証明している。
90年前半に、NYMEX市場でヘッジャーの取引手法が変わったといわれる。
本来、現物のポジションに対して取るヘッジポジションは、先のポジションが閉じられるまで維持されるものであるが、
ヘッジをした先物で一度利益を確定した後に、再度ヘッジを行うといった行為が日常的に行われるようになってきた。
所謂ヘッジ取引のオプティマイゼーションである。
オプティマイゼーションとは、何かを可能な限り最適な状態にしようとすることであるが、
この場合はヘッジ取引によるリターンを最大にする事を指す。
しかし、リターンがリスクの量に比例することは自明の理である。
投機的な取引は管理できる範囲内で許されるようになり、ここにトレーディングマネージャーの活躍する
余地が生まれ、管理を行うためにVAR(バリューアットリスク)などの計量的にリスクを分析する手法が実際に応用されることになり、
それらの情報をトレーダーに供給するミッドオフィスが誕生した。
背景には、米国の堅調な株式市場において、投資家が企業に対してリスクを軽減し収益の最大化を望む風潮があったと考える。
2.原油市場のマニピュレーションを抑える動き
WTI以外のベンチマーク原油は北海Brent(ブレント)と中東のDubai(ドバイ)であるが、三つの原油種は、共に
恒常的な生産量の減少に見舞われてきた。北海原油、北アフリカ、西アフリカや大西洋岸向け中東原油等
世界の2/3近くの原油価格がブレントにリンクしているが、ブレントはしばしば価格操作の対象になってきた。
2000年には、米国のリファイナリー、当時のTosco(現在のConocoPhilipps社に買収された)から、
アルカディアは、輸入原油の値決めに使われる15ディズブレント(15 days Brent)の価格を吊り上げたために、
彼等の購入する原油のコストが上がったことを理由に訴えられ、その後に1千万ドルを支払うことで解決している。
この買占めにより玉締めを簡単に行うことが出来る状況は、一部のトレーダーにとって抑え難い魅力となっていた。
価格調査会社Platts(プラッツ)は、これに対処するためにコントラクトの内容を変更した。BPが権益を持つ
Forties(フォーティーズ)原油とノルウェーの原油であるOsberg(オズバーグ)をBrent原油に加えることで、
月に20カーゴしかなかった価格指標原油が100カーゴになった。これはBFOと呼ばれ、15ディズブレントに変わり
北海原油の新しい指標とされた。
現物市場では、2002年の春、米国のSPR(戦略石油備蓄)向けにシェルやセンプラがブレント原油を米国に向けた事で
価格が高騰し絶対値と共にWTI/ブレントの価格差が大きく縮んだ。これにより、ブレント価格にリンクする
世界の原油が米国に向かい難い状況が生まれた。ベンチマークであるブレントの現物がほんの少し動くと、膨大な量の
他の現物原油価格が影響を受ける。これらの動きは最終的にリファイナリーのコストとなっていく。
Dubai原油でも同様なことが起きていたが、Plattsはブレントでの動きに先立ち、Dubai原油にOman(オマーン)原油を
加えることで価格操作を難しくした。
米国の先物市場での価格操作については、取引所、さらにはCFTC(商品先物取引委員会)が厳格な管理を行っており、
店頭市場で起きたような事例は報告されていない。過去3年間に、複数のエネルギー会社がCFTCから訴えられてきたが、
その多くは取引に関するステートメントや、その他の保管を義務図けられている書類の不備が対象となっていた。
これらの企業は、多いところで数千万ドルの罰金を払わされている。この厳しい規制環境下で支払うべき代償を考えると、
米国で先物取引を行う企業のコンプライアンスに対する意識は高くならざるを得ない。
3.CFTC(商品先物取引委員会)
米国の先物市場、および取引を独占的に行う独立機関で商品取引法(CEA)の執行を行う。この委員会の
目的は、価格操作を防止することで市場の信頼性を維持し、詐欺的あるいは害のある取引行為から市場の
利用者を保護することとしている。管轄する取引は現在では為替から店頭取引にまで及び、
その権限は参加者の取引行為の規制まで及ぶ。健全な市場とは競争原理が働くことである、との理念が
規制の根底にある。
現在調査中の、BPのトレーダーに対する不当取引の嫌疑のひとつはWash Tradeで、同限月の同商品を
同じ値段で同時に売りと買いを行い、取引の量を膨らませることで何らかの利益がある時に行われる。
これは非競争的な取引とされ違法行為に当たる。公共への先物取引に関する情報提供もCFTCの責任と
なっており、そのひとつがコミットメントオブトレーダーズレポートである。
CFTCのコミットメントオブトレーダー(COT)の見方
CFTCは、毎週火曜日の先物市場取引が終了した時点の取組高を、大口投機家(Reportable Non
Commercial)、ヘッジャー(Commercial=当業者)と小口(Non Reportable)に分類し、
それぞれの売りと買いの枚数を週末に公表している。
一般的に、大口投機家はファンドと同義であると見られてきた。この数字は、市場における
ファンドの動きを実証的に確認する唯一の手段であるために、市場の内部要因を分析する時には
必ず使われる。昨今は、特にファンドの取引が市場に与える影響が大きく感じられる機会が増え、
この数字に注目が集まり易くなってきている。
実際、市場参加者が感じていたファンダメンタルの環境以上にWTI価格が高騰し、その後にこの
COTでの大口投機家の買い枚数が過去の水準の上限にある事が週末の発表で確認され、ファンドは
買い増しが出来ないとの思惑が広がり月曜日に急落を演じたこともあり、この数字そのものが
一人歩きし始めた感が有る。
先物ブローカーは、CFTCに毎日電子的に顧客毎の取り組みを報告する義務を負っている。
さらにWTIの場合では一度でも取組高が300枚を越えたポジションを持つと、顧客はCFTCに
Formといわれる書類の提出を求められ、これを怠った場合は10万ドルの罰金が科せられる。
Formには職種および取引の目的を書く欄があり、ここに記入された情報を基に、300枚を越える
ポジションを持つ顧客は大口投機家とヘッジャーに分けられ公表される。
市場のアナリストやマスコミは、通常、大口投機家の売り枚数と買い枚数の差であるネット
ポジションの動きにのみ注目している。つまり、大口投機家の総合建玉のうち、ネットでの
売り建て・買い建てのポジションのみが市場に影響を与えるという前提に立っている。しかし、
最近の大口投機家の動きは、このネットポジションの動きを追うだけでは明らかに出来ない構造に
なっていることが分かってきている。さらにこの大口投機家のポジションは、必ずしもファンドを
代表する物ではないことが分かってきた。
COTによると、2002年の大口投機家のポジションは全体の23%を占めるが、NYMEXの規定するファンドは
6.5%にしか過ぎず、大きなかい離がある。CFTCは、規定する投機家の中にNYMEXが規定する
フロアーブローカー、個人投機家、ファンドおよび金融関係を入れており、その他をヘッジャーとしている。
投機家とヘッジャーを分ける際、投資銀行の場合スワップのマーケットメークを行っている部門をヘッジャーとし、
その他の自己取引を行っている部門は投機家としている。NYMEXは両者を金融関係とし、分けていない。
我々は、明確な解答を未だ得ていないが、ヘッジファンドの一部は金融関係に入っているものもあると想像しているが、
金融関係とファンドを足しても18.4%である。これらからCOTのWTIにおける大口投機家とは、ファンド(CTA)、
ヘッジファンド、投資銀行の自己取引部門、一部のラージローカルや個人投資家が混在していると想像できる。
結論として、ファンドは市場に影響力を持つが、その動きに付和雷同して取引を行う様々な投機家群がいることで、
影響力が増していると考えることが出来る。