どうせ毒男だしツンデレ小説でも書く 第3話

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1Mr.名無しさん
毒男のためだけのツンデレ小説を書くスレ。
でも萌えられたらツンデレから多少離れてても良し。
絶対にsage進行。

初代
http://etc4.2ch.net/test/read.cgi/male/1110367127/
第2話
http://etc4.2ch.net/test/read.cgi/male/1120669390/
ログ置き場
http://dousedokuodasi.hp.infoseek.co.jp/

はてなダイアリー - ツンデレとは
http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%C4%A5%F3%A5%C7%A5%EC
2ch検索: [ツンデレ]
http://find.2ch.net/?BBS=ALL&TYPE=TITLE&STR=%A5%C4%A5%F3%A5%C7%A5%EC&COUNT=50

職人さん方、いつもクオリティの高い作品ありがとうございます。
2 ⊂二二二( ^ω^)二⊃ ◆boooonnIMw :2005/10/30(日) 23:12:03
((((っ^ω^)っブーン
3Mr.名無しさん:2005/10/30(日) 23:12:15
保守
4Mr.名無しさん:2005/10/30(日) 23:12:26
あばばばばばばばあばばばばば
5Mr.名無しさん:2005/10/30(日) 23:15:47
ツンデレ保守。
漏れもツンデレ小説挑戦してみっかな…
6Mr.名無しさん:2005/10/30(日) 23:17:16
>>1
乙だ。
しかし、ついに3スレめか。初代1は今頃どうしてるんだろうな・・・
7Mr.名無しさん:2005/10/30(日) 23:31:23
即死会費
8Mr.名無しさん:2005/10/31(月) 00:20:48
クーデレの話で前スレ埋めてしまった
9Mr.名無しさん:2005/10/31(月) 01:50:08
回避
10Mr.名無しさん:2005/10/31(月) 17:51:20
別に落ちても悔しくないけどたまたま通りかかったから保守してやる。
11Mr.名無しさん:2005/10/31(月) 23:37:33
だれも来ない・・・
12前スレ973:2005/11/01(火) 01:00:02
すまん、俺が言ってたのは「>>1にログ置き場のurl貼っていいんだっけ」ってことだ。
全く覚えてないけど前スレの1が省略してるから意味あったのかなって。
まぁ俺自身は貼っててもらっていいんだが。
とにかくも>>1乙。
13Mr.名無しさん:2005/11/01(火) 01:05:08
>>12
第2話のスレが立ったときにはまだまとめサイトできてなかった。
だから書いてなかっただけ。
14前スレ973:2005/11/01(火) 01:25:35
>>13
あ、そうだっけw
ならモウマンタイな。dクス
15Mr.名無しさん:2005/11/01(火) 16:53:35
日課保守
16Mr.名無しさん:2005/11/01(火) 21:25:00
ttp://www13.plala.or.jp/co-ichi/tdslot.html
ひまつぶしにドゾー
17Mr.名無しさん:2005/11/02(水) 16:53:13
保守
18Mr.名無しさん:2005/11/02(水) 18:06:58
前スレ保存しそこねた
19Mr.名無しさん:2005/11/02(水) 20:03:17
>>16
ワロタ
20Mr.名無しさん:2005/11/02(水) 23:16:35
捕手
21Mr.名無しさん:2005/11/03(木) 13:32:25
補修
22Mr.名無しさん:2005/11/04(金) 12:12:28
ほしゅ
23Mr.名無しさん:2005/11/04(金) 17:18:15
捕手
24ツンケンした彼女20:2005/11/04(金) 21:59:58
朝の肌寒い時間、喫茶店にて。
「それで? 今日はどうかした?」
時間通りやってきた幸枝に、お決まりの台詞を投げかける。
「つれないねー。久しぶりの再会なのに。涙くらい流しても罰は当たらないんじゃない?」
返ってきたのは軽口。特に用事なんてなさそうに思える。
「最近会ってなかったから、たまにはいいかなって思って」
「まさか、それだけ?」
先の質問を繰り返す。流石にそれだけで呼び出されては堪らない。
「そういうわけじゃないけど」
なんとも歯切れの悪い口ぶりは幸枝らしくもない。何か含むものがありそうだった。

「朝お義姉さまと会った?」
話に脈絡がない。彼女が何か関係在るのだろうか。
「会ったけど?」
「意外と早起きなんだね。美人は低血圧だと思ったのにな」
少し悔しそうに言う。幸枝は予想が外れるのが何より嫌いなのだ。

話題に触発され、つい先ほどの様子を思い出す。
外出の準備をしていると、彼女に声をかけられた。
「何処へ行くの?」
幸枝との待ち合わせを告げると、剣呑な目つきで一瞥し、無言で居間へと戻っていった。
何か気に障るようなことでもしたのか、身に覚えがないのが一層嫌な予感がする。
最近あんな表情を見ることもなかったのだが――。
25ツンケンした彼女21:2005/11/04(金) 22:00:18
不意に幸枝は目を細め、爆弾発言を投下した。標的は一人。
「ふうん。ね、あの娘のこと好きなんでしょ?」
『お義姉さま』から『あの娘』へ、それは幸枝の内心を表す些細な変化だったが、
その時気がつくには少々冷静さを欠いていた。
「なっ、何を」
二の句が告げない。正直、焦っているのだ。
「美人だしねー。好みのタイプでしょ、確か」
これは心外だ。まさしくその通りだけれど、それだけで人を判断するつもりはなかった。
「顔に出てるよ。単純なんだから」
不満を見て取ったのか、茶化すように言う。
「うるさいな」
これだから、幸枝は苦手だ。昔から、口で勝った記憶がない。
「家帰ったら気をつけなよ。多分機嫌悪いから」
長年付き合った従妹は、一言だけ残し、もう用済みとばかり席を立った。

残されたテーブルの会計票を見ながら考える。
幸枝の言葉は、的を射たものとしか言いようがない。
あの日以来、どんな出来事にも彼女の姿があった。食事、家族の会話、買い物――。
冷たい態度と最近の穏やかな態度。何を考えているのかわからない表情と怒った顔。
それらが印象に残ると同時に、病室での姿が目に焼きついて離れない。
強く意識したことはなかったが、惹かれている自分を認めないわけにはいかなかった。
――幸枝の用事はなんだったのだろう。ふと、そんなことを考えた。

店の外、徐々に暖かくなる駅前通り。
晴れ晴れとした空を見上げ、雪枝は一人呟いた。
「はあ。お節介だったかな」
26Mr.名無しさん:2005/11/04(金) 22:08:39
新スレ一発目投下キタ━━━( ゚∀゚ )━(∀゚ )━(゚  )━(  )━(  ゚)━( ゚∀)━( ゚∀゚ )━━━!!!!

そして波乱の予感!!!
27Mr.名無しさん:2005/11/04(金) 22:36:03
>>24-25職人様、乙でありますっ!! アイカワラズ(・∀・)イイ!!
28Mr.名無しさん:2005/11/05(土) 03:20:37
乙!
29Mr.名無しさん:2005/11/05(土) 10:53:33
キキキターキ━━ (*`Д´)=○)Д゚) ´Д゚)・;' タァ━━!!
30Mr.名無しさん:2005/11/06(日) 02:11:24
深夜に保守
・・・・・>>24-25 ハァハァ
31Mr.名無しさん:2005/11/06(日) 13:07:12
ふぉ
32Mr.名無しさん:2005/11/06(日) 16:26:41
 保 守  ⊂二二二( ^ω^)二⊃ だ お
33Mr.名無しさん:2005/11/06(日) 22:52:55
前スレ保存した人いないかな?
専用じゃないんでうぷキボン!
お願いツンデレの人
34Mr.名無しさん:2005/11/06(日) 22:57:15
まとめサイトの中の人はもういないのか?
更新されてないようだが・・・
35Mr.名無しさん:2005/11/07(月) 02:01:26
寝る前に保守><
36Mr.名無しさん:2005/11/07(月) 18:05:26
hosyu
37前スレ535 ◆TBcre.iPI. :2005/11/07(月) 19:39:36
>>18
>>33
しょうがないわね。持ってるからあげるわよ。

ttp://www.vipper.org/vip138101.zip.html

か、勘違いしないでね!!べ、別にアンタ達が困ってるからうpしたんじゃないんだから!!
た、たまたま保存してて、、、
え?なんでわざわざうpしてくれたかって?
そ、それは、、、そ、そう!
うpろだ使った事なかったから、使ってみたかっただけなんだからね!!

(・・・・・・まったく・・・私がいないとスレも保存し忘れるんだから・・・)

あっ、そうそう、今日中にとってよね。削除もやってみたいんだから!!

--------------------------------------------------

受信パスはスレタイのカタカナ部分です。

えっと、今新作を作成中です。
前スレでチラっと書きましたが内容は中国人留学生の女の子が
お調子者に恋をする話です。(鈍感男はむずかしかったので変えました)
もうちょっと(?)したら晒しますので今しばらくお待ちください。

それと新スレになったのでコテもつけようかなと思います。(酉はそのままで)
コテは GRAND SWORD で行きます。
理由は・・・まぁググってみて下さい。
好きな○○ラーの○○曲名ってことで。

長文すんません。ではまた。
38Mr.名無しさん:2005/11/07(月) 19:53:24
>>37

期待してるよ〜
39Mr.名無しさん:2005/11/07(月) 20:51:47
>>37
乙ンデレ
40Mr.名無しさん:2005/11/08(火) 02:42:36
>>37
41Mr.名無しさん:2005/11/08(火) 20:09:08
>>37オメガモエス
42Mr.名無しさん:2005/11/09(水) 12:18:51
ほしゅ
43Mr.名無しさん:2005/11/10(木) 03:33:50
続きはまだかい?
44Mr.名無しさん:2005/11/10(木) 17:54:23
来年だとオモワレ
45まとめさいと中身:2005/11/10(木) 23:47:38
またしばらくネットに繋げない状態だったんで
本当に申し訳無いんだけどモウ一度前スレうpしてくれないかな(;´Д`)
46Mr.名無しさん:2005/11/11(金) 00:11:39
>>45
乙。
つ【前スレ】 ttp://www.vipper.org/vip139522.zip.html

解凍パスワードは>>37に同じ。
47まとめさいと中身:2005/11/11(金) 01:59:06
・・・(;´Д`)ウウッ…
解凍できない件について…すまんこ…

パスあってると思うんだけど…
48まとめさいと中身:2005/11/11(金) 02:20:09
ごめん事故解決しました。
ありがとう。
49Mr.名無しさん:2005/11/11(金) 04:36:28
いいヤシだな
5046:2005/11/11(金) 15:11:28
目的は果たしたようなので消しますた。
51Mr.名無しさん:2005/11/12(土) 00:26:09
乙ンデレ
52Mr.名無しさん:2005/11/12(土) 00:26:20
ほす
53Mr.名無しさん:2005/11/12(土) 19:24:39
いやageんなよ
54Mr.名無しさん:2005/11/13(日) 12:38:28
フォーしゅ
55Mr.名無しさん:2005/11/13(日) 22:30:37
保守しますよ
56Mr.名無しさん:2005/11/14(月) 20:36:32
hoshua
57ツンケンした彼女22:2005/11/14(月) 22:41:04
帰宅して最初に目にしたのは、猫と遊ぶ彼女の姿。
動物嫌いじゃなかったのだろうか。唖然としてみていると不機嫌に問いかけられた。
「たまと私が遊んじゃいけないの?」
たまじゃなくて のま、なんて言えば火に油を注ぐようなものだ。触れれば火傷は免れない。
「いや、意外だったから……」
「別にいいじゃない」
話が続かない。それはきっと――。
「帰り早いのね。喧嘩でもしたの?」
なんでもないことのように聞く彼女。言葉に棘があるのはお馴染みのことだ。
「いや、幸枝とはそういうのじゃなくて」
弁解するように言う。何を弁解するのだろう、とは考えなかった。
「別に興味ない」
「従妹なんだよ」
彼女は一瞬驚いたような顔を浮かべたが、すぐに表情から消した。
「付き合ってないの?」
「ないです」
居心地の悪い空気が辺りを覆う。
「……好きな人とかって、いるの?」
58ツンケンした彼女23:2005/11/14(月) 22:41:53
時として、ふと大胆な行動をしてしまう。難儀な性格だと自分でも思うけれど。
うまくいくんじゃないかという淡い期待と、ほんの少しの打算がそこにはあって。
完全に勢いってわけではなかったけれど、とにかく言ってしまった。覆水盆に返らず。
どうして彼女がそんなことを聞くのか、言ったらどうなるのか、冷静に考えることもできなかった。
とはいえ、正直な話、あんなことになるなんて思ってもいなかったのだ。

「君が好きだ」
幸枝の意味深な言葉。彼女の不自然な態度。場の雰囲気に呑まれて。
幾らかの言い訳は思いついたけれど、最後の引き金はつまるところ自分の意思で。
いざ告げてしまえば、それは意外にもあっさりとしていて、なんでもないことのように終わった。

彼女の顔は軽く蒼ざめて、この状況にふさわしいものとは到底いえない。
見開かれた目は怯えの色を帯び、視線を逸らすと、再び合わせようとしない。
「どうして、そんなこと言うの?」
短い沈黙の後、ぽつりと彼女は言った。
59ツンケンした彼女24:2005/11/14(月) 22:43:13
了承でも拒絶でもなく、疑問。確かに曖昧な言葉だったけれど、その反応は予想外だった。
「どうして……って」
「義理でも私たちは兄妹なのに、そんなこと言える訳ない!」
激情に駆られて大声をあげる彼女。何がなんだかわからない。
目に涙を湛えて訴える姿は、ひどく絵になっていて。今そんなことを考える自分に嫌悪感を抱いた。

「私は……家族だって、言い聞かせてたのに、それなのに……どうしてっ!」
今更のように気が付く。両親が再婚した自分たちにとって、それは禁忌。
相手のことを家族だと認識していれば抱くはずのない感情、そして言葉。
つまりは、彼女を家族として見ていなかったということで。
それは裏切りとも言える。今まで散々家族面してきたのに、手のひらを返したように――。
何にも考えてなんかいなかった。彼女にとって、どれだけ家族という言葉に重みがあるか、
いや、彼女だけじゃなく、誰にとっても、家族ってものはある種聖域なのだけれど。
彼女は怖いくらいに真剣に考えて、悩んでいたのだ。

「いつの間にか好きになってた! ダメだと思っても止まらなかった!
私は我慢していたのに、どうしてそんなに簡単に言うことができるの?」
思いの丈をぶつけるように言う彼女。聞いてる方が恥ずかしくなる言葉。
話は飛躍して、前後の意味は繋がっていなかったけど、思いだけは伝わった。

独白は続く。
「幸枝さんが羨ましかった。あんなに楽しそうに話してる貴方、見たことなかった。
悲しくて、嫉妬して、そんな自分が嫌になって。どうして私の心を掻き乱すの?
一人悶々と悩むのはもういやなの……そばにいてくれないと、いやなの……」

そこまで言うと、軽く息を吐き、毅然とした表情を作る。
「だから……そう、だからそんなこと言われたら、もう、抑えきれない。
本当は、どうしようもないくらい……嬉しいんだもの」
そう言うと、頬を朱色に染め、涙で濡れた顔で微笑んだ。
「責任、とって」
60デレデレした彼女:2005/11/14(月) 22:44:13
暖かな陽射しの差し込む午後。
椅子に座り雑誌に目を通していると、視界の隅に白い何かがあった。
それは、たま(改名された)を膝に乗せ、落ち着かない様子で、こちらを窺ってくる彼女。
雑誌から顔を上げると、覚悟を決めたのか、おずおずと用件を話し始める。
「あの……その……ね。……名前でよんでほしいなって」
頬を軽く染めつつ小声で言う。初々しい仕草は普段より幼く見える。
「ん、何?」
あえて聞いてみる。もう一度聞きたいと思うのは、意地が悪いのだろうか。
「だから静香と呼んでって言ってるでしょ! だって……ああ、もう」
頭を抱えて髪をバサバサ振る。こんな仕草もかわいいと思ってしまうあたり、病は重症だ。
「静香」
「……っ」
静香はその端整な顔を、可哀想な位真っ赤に染めてしまう。
「…………うれしい」
自分でも意識していないだろうその笑みは、いつも以上に綺麗で、
逃れようもないくらいに心を掴んで放さないのだった。

――了――
61後書:2005/11/14(月) 22:48:50
長々とお付き合い頂きありがとうございます。
見切り発車で始めた投下でしたが、なんとか完結させることができました。
ところどころ誤字脱字や矛盾、強引な展開があり、力不足が悔やまれますが、
楽しんでもらえたらうれしいです。
62Mr.名無しさん:2005/11/14(月) 22:50:19
>>60
うおおおおおおおきたきたきたきたキタ━━━( ゚∀゚ )━(∀゚ )━(゚  )━(  )━(  ゚)━( ゚∀)━( ゚∀゚ )━━━!!!!
これで終了してしまうのは寂しいが、激しく萌えさせてもらった。
いやあ乙だった。今心の底からおまいさんに捧げたい言葉はこれだ。

        グッジョブ!!           ∩   ∩
       _ _∩           (⌒ )   ( ⌒)       ∩_ _ グッジョブ!!
        (ヨ,,. i             |  |  / .ノ        i .,,E)
グッジョブ!!  \ \          |  |  / /         / /
  _n      \ \   _、 _  .|  | / / _、_    / ノ
 (  l     _、 _  \ \( <_,` )|  | / / ,_ノ` )/ /    _、_    グッジョブ!!
  \ \ ( <_,` ) \         ノ(       /____( ,_ノ` )    n
    ヽ___ ̄ ̄ ノ   |      /   ヽ      | __      \     l .,E)
      /    /     /     /    \     ヽ   /     /\ ヽ_/ /
63Mr.名無しさん:2005/11/14(月) 23:28:08
いやいや面白かったし
とても更新が待ち遠しかった。
25話も続いたとは思えないほど引き込まれました
お疲れ様です。次回作にも期待しております
64Mr.名無しさん:2005/11/14(月) 23:51:48
>>61
GJ。
良いツンデレでした。
漏れの好きな漫画のツンデレカップルもこうなって欲すぃぜ…
65Mr.名無しさん:2005/11/15(火) 01:16:44
GJ!!!!!!!!!!!
長期連載お疲れ様です。
66Mr.名無しさん:2005/11/15(火) 01:53:15
グジョーブゥー(´ω`*)
67Mr.名無しさん:2005/11/15(火) 04:25:51
おつかれー

面白かったお!
68Mr.名無しさん:2005/11/15(火) 12:08:08
お疲れ!!
いやマジで面白かった。
しかも読みやすい!!
次回作も今から期待大!!
69Mr.名無しさん:2005/11/16(水) 08:19:14
次はいつかな?
70Mr.名無しさん:2005/11/16(水) 17:37:43
生まれ故郷を離れて8年目、
差出人の名のない手紙に誘われて
ふらふらと生まれ故郷に帰ってくることになった。

車窓から香る海の匂いで目が覚めた。
どうやら、暖かな日差しに当てられて眠ってしまっていたようだ。

海・・・
そういえばあいつ、今頃どうしてるかな

「や〜い」
「泣き虫〜」
真っ直ぐ延びた一本道を抜けると
聞きなれた声が聞こえてきた。
浜へと降りる小さな階段の先には子供たちが女の子を取り囲んでいた
1組の加藤たちだ。
いつも3人でつるんではくだらない弱いものイジメをするつまらない連中。
その日も同じように誰かをいじめていた。
いじめられているのは背の低い、僕と同じか少し年下の女の子。
僕はいつもの光景に興味を示さずに、
浜辺の木陰でアイスをかじりながら横になった。
その間も加藤たちのイジメは続く。
加藤たちは泣いている女の子に砂をかけてげらげらと笑っている。
71Mr.名無しさん:2005/11/16(水) 17:49:39
どうでもいい。
心の中でつぶやいた。
3対1でも負けるとは思わなかったが、あとあと面倒になるだろう。
わざわざ知らない奴のために面倒な目にあうこともない。
僕はそう思っていた。
けれど、その女の子の泣き顔が見えた瞬間、僕は何かがわかった気がした。
浜辺に落ちてる手ごろな石と木の棒を拾うと、加藤たちに全速力で突っ込んだ。


加藤たちを追い払い後ろを振り返ると
砂まみれになった女の子の砂をパタパタと払ってやる
「ぐすっ・・ありがとう」
女の子は鼻をすすりながら礼を言った。
礼を言われると気恥ずかしくなってくる。
「おい、早くいくぞ」
「行くって・・どこに?」
「どこって、バカか?きまってんだろ」
「?」
「りゅーぐーじょうだよ!」
「え?」
「え?じゃない!さっさと案内しろ」
「あたしカメじゃないよ〜」
「浜辺でいじめられてると言ったらカメと百年前からきまってるんだ!」
72Mr.名無しさん:2005/11/16(水) 17:57:18
「なんてこった、たからがもらえるとおもって助けたのに」
わざとらしく僕は肩をすくめる
「たからなんてむりだよ〜・・・」
女の子は泣きそうな声をあげる
「じゃあアイス」
「アイス?」
「おまえを助けてる間にアイスとけちゃったからな、べんしょーしてくれ」
「うん、わかった。それくらいならできるよ!」
今度は女の子が笑う。僕の手を取って走り出した。
僕はそのまだ少し砂のついた顔にドキりとした。
さっきまでの泣いて時の顔と違って、笑顔がとってもかわいかったから。
73Mr.名無しさん:2005/11/16(水) 20:24:05
おっ、新作キタよこれ。
wktk
74Mr.名無しさん:2005/11/16(水) 20:33:19
幼女か!
75Mr.名無しさん:2005/11/16(水) 21:20:43
回想と思われ
76Mr.名無しさん:2005/11/16(水) 22:08:12
落ちすぎ浮上
新作いいね
77Mr.名無しさん:2005/11/17(木) 16:06:26
捕手
78Mr.名無しさん:2005/11/17(木) 22:54:57
別に落ちてるからってageる必要ないんじゃ・・・
79Mr.名無しさん:2005/11/18(金) 15:24:31
>>78
すいません……保守。
80Mr.名無しさん:2005/11/18(金) 17:42:11
>>79
君もう二度と来なくていいよ
81Mr.名無しさん:2005/11/18(金) 19:12:11
>>80
落ち着けw

>>79
どまー
82Mr.名無しさん:2005/11/18(金) 19:49:01
新作っていうかほんと内容とかパクリとかそんなレベルなんで
職人さん降臨するまでの繋ぎっていうか
CMみたいなものと捉えてください。>>70

とりあえず続き考えます。
83Mr.名無しさん:2005/11/19(土) 18:15:27
>>82
乙。
待ってる。
84GRAND SWORD ◆TBcre.iPI. :2005/11/20(日) 03:25:08
肌寒くなった昼下がりの学食、一番日の当たらない席で中国人留学生のファンは一人で昼食をとっていた。
周りでは他愛もない会話で盛り上がる学生達で溢れていたが、その輪の中にファンが入る事はない。
いや、正確にはもう入る事はない。
昨年の夏休み前まではファンもその中にいた。夏休みになりファンは母国中国に帰国した。
その時期にあの反日運動が起きた。
日本の現状を知っているファンは必死に母国の同世代の人間に今の日本の状況を話した。
今の日本はそんな国ではないと。
しかし、自分の言葉は加熱した母国の若者には届かず、無念の思いを抱いたまま日本に戻って来た。
そんなファンを待ち受けていたのは日本の友人達の変化だった。
帰国する前は”ファン”と親しく呼んでいた友人達がどこかよそよそしく、また呼び方も”ファンさん”と
壁を作った呼び方へとなった。それからファンは一人で行動をするようになった。
 
 私は学ぶ為にここにいる。思い出を作りに来たわけではない。

そんな思いがファンをどんどん孤立させていった。
定食を半分食べ終わろうかという所でファンの前の席に一人の女性が座り、笑顔で話しかける。
「またコロッケ定食?好きだね〜」
そう言いいながらバッグからサンドイッチを取り出す彼女。
彼女の名前は林美月。時間があればいつもファンと共に行動する。
「ワタシ、日本の食べ物、コロッケ一番好きネ」
「ファン、知ってた?コロッケばっかり食べるとコロ助になるんだよ?」
「コロスケ?何?」
「言葉の最後が”ナリ〜!”ってなっちゃうのよ」
「そんな事なるわけないヨ、美月、おかしいネ!」
口元に少しだけ笑みを浮かべるファン。美月は父親が日本人で、母親が中国人。
その事で子供の頃、ひどいイジメにあった経験があり、最近のファンの気持ちが分かるつもりだ。
実際、美月はファンを”ファン”と呼びつけにし、以前と変わらない態度で接していた。
そんな美月にファンも少しだけ素直になれるのであった。
85GRAND SWORD ◆TBcre.iPI. :2005/11/20(日) 03:27:31
 (まだ寝てるネ...)
ファンの視線の先には熟睡している一人の男子学生がいた。
彼の名は金子大栄。特別かっこいい訳でもなく、不細工な訳でもない。
お洒落には無縁で茶髪でもなく、ピアスもしていない。指輪・貴金属類もつけていない。
かと言っていわゆるアキバ系でもない。ごくごく普通の大学生。
最近ファンは大栄を無意識に目で追っていた。そんな時、決まってファンは自問自答する。
 (なんで私、大栄ばっか見てる?)
 (もしかして...)
 (そ、そんな事ないヨ!)
 (ワタシ、何考えるの人?今、講義中ダヨ!)
 (でも...)
こうしてファンは講義に集中できず、ただ時間だけが過ぎていた。


今日最後の講義が終わり、次々と講堂から人が出て行く。その気配が目覚まし変わりとなり、
ようやく起きる大栄。
「今日も熟睡出来た?」
美月が大栄に話しかける。
「ん、ああ、昨日夜中にアルゼンチン対イングランドやっててさ、最後まで見たから眠い眠い」
「アンタが眠いのはいつもじゃん」
大栄の家と美月の家は2軒挟んだご近所で、いわゆる幼馴染。幼稚園〜中学校と同じだったが高校は別々。
この時二人とも、ようやくお互いの顔を見ずにすむと思っていたが二人とも
偶然に同じ大学を第一志望とし、合格。
こうなれば二人とも腐れ縁と思ったのだろう、常に行動を共にするようになった。
「んじゃ悪いんだけどいつものようにノートを...」
「ハイハイ、分かってるわよ。あ、そういえば大栄、今日バイトの...」
この二人の関係と言えば恋人同士...
ではなかった。
86GRAND SWORD ◆TBcre.iPI. :2005/11/20(日) 03:28:54
大栄から見れば、ノートをとる便利屋。美月から見れば幼馴染の延長からくる面倒をみるべき相手。
本人同士はそう思っていても、普段行動を共にしていれば外部から見れば付き合っていると思われる。
最初の頃は大栄も美月もそれを強く否定していたが、いくら否定しても信じてもらえないので
かってにしろといった感じになっている。
そんな二人のやりとりをファンはいつもモヤモヤした気持ちで見ていた。
 (大栄と美月、いつも一緒ネ...やぱり二人、付き合うの人?)
 (付き合うの人なら...)
ブン、ブンと左右に首を軽く振り、頭に浮かんだ言葉を振り払うファン。
少しだけ、やるせない思いを持ちながら、スッと席を立ち、帰ろうとするファンを呼び止める声。
「あ、ファンちょっとまって!」
声をかけたのは美月だった。
「何?」
その声に立ち止まるファン。
「これから三人で飲みにいかない?大栄、今日がバイトの給料日なの」
「何言ってんだ?オマエ?」
嫌な予感がする大栄。
「いつもノート貸してるんだから、おごってくれてもいいじゃん」
ファンはちょっと躊躇した。大栄と飲めるのは嬉しいが美月もいる。自分は邪魔にならないだろうかと。
「大丈夫だよね、ファン。よし、決定!」
美月はそう言うとスタスタと講堂を出て行く。
「え、あ、で、でも...」
とまどっているファンを見て大栄が近づく。
「まったくしょうがねーな。じゃあ行こうぜ、ファン」
そういうと大栄はファンの背中を押し、講堂を出る。
「ちょ、ちょっと、、、押す、アブナイね!!」
「嬉しいだろう?俺と飲めるなんて」
大栄がからかうように言うとファンは振り向かずに答える。
「だ、誰が!美月に誘われたから...行くだけネ!!」
そう答えたファンは大栄の手のぬくもりを背中に感じながら微かに笑みを浮かべていた。
87Mr.名無しさん:2005/11/20(日) 12:18:59
片言の日本語でのツンがこれほど萌えるとは思わなかった。
GJ!
88Mr.名無しさん:2005/11/20(日) 18:25:56
前スレの535さん?
乙です。続き待ってます
89GRAND SWORD ◆TBcre.iPI. :2005/11/21(月) 02:30:50
>>86
「大栄のおごりにカンペ〜!」
美月は何故か中国チックな乾杯をし、三人だけの飲み会が始る。
大栄と美月は生ビール。ファンはカルアミルクを注文していた。
中国のビールは常温が当たり前で、注文時に言わないと冷えたビールは出てこない。
店によっては冷えたビールが無いところもある。
日本に来てすぐに歓迎会を開いてもらった時、生ジョッキについている氷を見て
ファンは衝撃を受けた。だが日本のビールはファンには辛すぎた。
隣に座っていた女の子がカルアミルクを飲んでいて、少し飲ませてもらったところ、
こんなに美味しい飲み物があるんだと感激して以来、ずっとカルアミルクを飲み続けている。
「ファンはいっつもカルアミルクだよな」
正面に座った大栄が覗き込むようにファンに問いかける。
「ワタシ、これ一番好き。美味しいヨ」
「俺、飲んだことないんだよね、ちょっと拝借...」
そう言ってファンの前に置いてあるグラスを取り一口飲む大栄。
「あっ...」
思わず声が出るファン。
自分が飲んだグラスを大栄が使っている。
 (これって...間接キ...)
頭の中で最後の ”ス” の言葉が浮かぶ前に体中の血液が
ものすごいスピードで駆け巡るのをファンは覚えた。
 (や、やだ...ワタシ、何考えるの人?み、みんなよくすることネ!!)
実際、ファンも他の人のグラスを使って飲み物を飲んだ事もあるが
その相手が大栄だと特別に意識してしまう。
「うっわー、甘いな〜これ」
ファンの前にグラスを戻す大栄。
「か、か、か、、、勝手にワタシの飲む、イケナイの人ネ!」
恥ずかしい気持ちを隠すように言葉を荒げるファン。
「え、だっていいじゃん。飲みたかったんだから」
90GRAND SWORD ◆TBcre.iPI. :2005/11/21(月) 02:34:51
 (飲みたかったのは...カルアミルク?そ、それともワタシが飲んだカルアミルク?)
どんどんドつぼな妄想をするファン。ドキドキしている自分が二人に気づかれないか内心ドキドキしていた。
「大栄、そういうトコだらチない!ワタシ飲む、少なくなった!」
そう言って残ったカルアミルクを一気に飲み干し、気を紛らわそうとするファン。
「ほらファン、そんなにムクれないの。おかわり頼むから」
諭すようになだめる美月。
「早くおかわり、持って来るネ!!」
自分と大栄が使った空のグラスを二人に気づかれないよう、
嬉しそうな目でファンは少しだけ見つめていた。

「俺、ションベン」
そう言って席を立つ大栄。
「ちょっと、ファンがいるんだから言葉選びなさいよ」
「ションベン?何?」
初めて聞く言葉に疑問を持つファン。
「ションベンはションベンだよ。おしっこシャー!!」
ファンの目の前で立ちションのポーズをする大栄。
カーっと真っ赤になったファンはオシボリを投げつける。
「バカ大栄!!さっさ行くの人ネ!!」
オシボリを受け止め、笑いながら席を立つ大栄。
「まったく、大栄はデリカシーないの人!!」
「まぁ、あれが大栄らしいっていうのかな?」
美月がフォローめいた言葉を口にする。
 (美月はいつも大栄のそばにいるネ)
 (大栄の事、きっとなんでも知ってる...)
 (本当に二人は...付き合ってるの人?)
アルコールの勢いも手伝ってファンは美月に聞いてみた。
「...美月、聞いてイイ?」
「ん?何?」
91GRAND SWORD ◆TBcre.iPI. :2005/11/21(月) 02:38:09
「その...美月は...」
「私が?どうしたの?」
「美月と...大栄...」
最後まで言う前に全てを察し、笑い出す美月。
「なんで笑う?!!ワタシ、一生懸命聞いてる!!」
「あ、ああ、ゴメンゴメン。で、でもおかしくって」
それでも笑い止まない美月。
「もうイイ!」
「あっ、ほんとごめんって。答えるから、、あ〜、おっかしい!」
聞きたいけどやっぱり聞きたくない、ファンは葛藤していた。
プイっと横を向き、でも、耳は美月が発するであろう答えに集中していた。
「付き合ってる訳ないじゃない。みんな誤解してるんだよ」
パッと目を見開き、クルっと美月の方を見るファン。
「こーんな小さい時から一緒なんだもん。恋愛対象になんかならないって」
手を膝下まで持っていき、肩をすくめる美月。
「そ、そう、そうなんダ」
自分では気づかなかったが一瞬にして満面の笑みを浮かべるファン。
「あれ?なんだかファン、嬉しそうだね」
「べ、別に、、う、嬉しくないヨ!!ワ、ワタシ、中国人、大栄日本人、だ、だから...」
4杯目のカルアミルクを手にし、モジモジしながらグラスに口をつけるファン。
「へ〜、ファンが大栄をね〜」
覗き込むようにファンを見つめる美月。
「ち、ち、ち、違う、、か、勘違いネ!!」
一気にグラスを飲み干すファン。
「おっ!ファン、いい飲みっぷりだな。二人で何話してたんだ?」
タイミングよく帰ってきた大栄。
「女の子同士の話し。ね〜、ファン?」
そう言ってツンツンとファンのほっぺたをツツく美月。
ますます真っ赤になるファンはやり場のない恥ずかしさを大栄にぶつけた。
「大栄!!ワタシ、おかわり!!早くするヨ!!」
92GRAND SWORD ◆TBcre.iPI. :2005/11/21(月) 02:41:39
>>88
そうです。
性懲りもなくまだ書いてますww
93Mr.名無しさん:2005/11/21(月) 06:56:26
最初ファンが男だと勘違いして、BLツンデレ小説になるのかと思った
海皇記ってマンガの主人公がファン=ガンマ=ビゼンなもんで。
それはそれとして新作乙です!続きまってます。所で「大栄=だいえい」でよろし?

.ps よっぽどプロレス好きなんですね、コテが・・・・w
94Mr.名無しさん:2005/11/22(火) 01:44:03
グランドソードって。小橋だよね?

作者さん俺にも続きオかワリネ!
95Mr.名無しさん:2005/11/23(水) 19:18:43
支援&期待☆
96Mr.名無しさん:2005/11/23(水) 21:08:35
全スレで書いたものです。
まだこのスレが続いてて良かった…と言うことで保守
97Mr.名無しさん:2005/11/23(水) 23:02:55
祝日・・・・・保守しときますね・・・・・・。
98GRAND SWORD ◆TBcre.iPI. :2005/11/24(木) 01:36:41
>>91
店を出た三人は駅へと向かっている。
自分の気持ちが確実に美月に気づかれたたファンは、恥ずかしさを紛らわす為、
あれからさらに3杯のカルアミルクを飲み、美月にもたれかかるように歩いていた。
「在黄沙的季〜」
「今の...中国語?」
「うん。黄砂の季節、、、、って言ってるみたい」
ファンの酔いは相当のものだった。駅に着き、券売機の前に来た三人。
「ファン、一人で帰れる?」
「拾枯木!」
「今度は何だって?」
「......枯れ木を拾う、だって」
お手上げだっていうポーズをとる大栄。
「しかたない、送っていくか」
ファンが住む最寄駅までの切符を3枚購入し、三人は電車に乗り込んだ。

「ほらファン、アンタん家がある駅に来たよ」
「おーい、家までの道教えてくれ〜」
二人でファンに尋ねるが既にファンは夢の中だった。
一向に起きる気配のないファンを挟んで困った顔を合わせる大栄と美月。
「しかたないな、そこに公園あるからちょっと休んでくか」
「そうね、じゃあ、私、コンビニで飲み物買ってくるから先に行ってて」
美月はコンビニへ、大栄はファンを引きずるように公園のベンチへと連れて行った。
99GRAND SWORD ◆TBcre.iPI. :2005/11/24(木) 01:41:22
「ぐっすりねむってら」
大栄の肩にもたれかかるように眠るファン。
寝返りをうったのか、ビクっとファンの体が動き、バタンと大栄の腿に頭が落ちる。
「痛ッ!」
思わず大声を上げる大栄。その声にファンはうっすらと意識を取り戻し始めた。
 (...う〜...ココ...どこ?)
それと同時にコンビニで買い物を済ませた美月がやってきた。
はたから見れば大栄がファンを膝枕しているように見える。
美月はその姿をみて当たり前の様にからかう。
「あら、大栄も男だったのね〜」
「ば、馬鹿な事言うな!勝手にこうなったんだ」
少しだけ慌てる大栄。
美月はクスクス笑いながら大栄の横に座る。
「そういえば大栄は何でファンの事をファンって呼び続けるの?」
「へ?何でって?」
「ほら、反日問題があってから、みんなはファンとの距離を置いたのに」
「ん〜、別に俺には関係ない話だしな、それに...」
「それに?」
「オマエやファンといると楽しいだろ?」
そう言いながら大栄はファンの頭をポンポンっと軽く叩く。
ファンには二人の会話の全てが聞こえていた訳ではなかったが大栄が発した
”ファンといると楽しい”という言葉ははっきり聞こえていた。
 (楽しい...大栄は...ワタシといると楽しい...)
 (ワタシは…べ、べつに大栄といても、楽しく…ナイ……?)
 (で、でも…た、大栄、ワタシいない、つまらないの人、しかたライネ)
心の中で精一杯強がってはみたが大栄の言葉が嬉しかった。
ファンは膝枕されている自分の頬を気づかれないよう、少しだけ強く押し付けていた。
遠くから金属音に似た音が聞こえる。目の奥がジーンとしてくる。とても不愉快な感覚。
二日酔いの目覚めがファンに訪れる。
「う〜...」
少しだけ目を開けると見慣れない部屋の壁紙が飛び込んでくる。
ガバっと上半身をベットから起こす。
誰の部屋かは分からない、でも明らかに女性の部屋でないことは乱雑な室内をみれば一目瞭然だった。
「ど・・・どこ?ココ?」
ファンは自分がおかれている状況が飲み込めなかった。
両手て髪を数回かきあげ、視線がベットの下へと向いた、
その先には窮屈そうに寝ている大栄の姿があった。
 (大栄?!?!?!?!?)
 (も、もしかして、、、大栄の部屋???)
 (ワ、ワタシ、大栄のベットで寝たの人?)
大栄がいつも使っているベットで寝ていた。その事実はファンをパニックに陥れるには十分すぎる程だった。
 (そ、そう!!朝は、、、歯、歯磨きする...)
 (ち、違うヨ!!!さ、、先に、あ、朝ごはん......)
 (じゃ、じゃなくテ...何でワタシここにいる???)
少しずつ平常心を取り戻すファン。物音を立てないよう、ベットから出て大栄のそばに座る。
寝顔を見ていると公園での大栄の言葉を思い出した。
 ”ファンといると楽しい”
その言葉で、ファンの中である思いがよぎる。
 (ワタシ、、何か大栄にしてあげるの人?)
無意識に大栄のホホに手を当てる。吸い寄せられるように顔を近づけるファン。
寝息をホホで感じるぐらい近づく。
 (な、、、何してる?ワタシ...これからどうするネ?)
考えとは別にゆっくりと目を閉じ、そして、少しずつ唇が大栄の唇に近づいていく。
20cm、10cm、5cm...  
101Mr.名無しさん:2005/11/24(木) 06:17:57
わくてかwwww
102Mr.名無しさん:2005/11/24(木) 21:56:42
>>100
なんちゅうところで切るんだ
ワクテカが止まらないじゃまいかヽ(`Д´)ノ ウワァァァン
103Mr.名無しさん:2005/11/25(金) 16:39:40
期待保守
104Mr.名無しさん:2005/11/25(金) 21:58:23
作者様、お願いです。
いい加減、射精させてください!!
105Mr.名無しさん:2005/11/26(土) 16:51:00
hoshu
106Mr.名無しさん:2005/11/26(土) 18:51:03
保守
107Mr.名無しさん:2005/11/27(日) 14:01:47
補修
1080526[約束]:2005/11/27(日) 18:15:27

5月26日木曜日、それは突然の出来事だった

(やば、ノート忘れた)
地理の授業が始まる直前、ノートを忘れた俺は少し困っていた。
(誰かにルーズリーフでももらうか。でもだれに・・・)
高校3年になって、クラスには仲の良い友達はいない。
今年は受験があるためか、去年とは全然違う雰囲気だ。
みんな、自分のために勉強をがんばっている。

「あぁ〜うぁ〜」

とりあえずうなってみたがそれで問題が解決できるはずもない。
しかも右斜め前の席のやつに睨まれた。
別にお前の人生狂わしたりなんかしないからほっとけっての。
こういう優等生タイプは苦手だ。
絶対俺のことを見下してやがる。
ノートのことなんてどうでも良くなってきたそのとき

「どうしたの?」

声をかけてきたのは先週隣になったばかりのゆか。
ハンドボール部に入部している彼女は結構かわいいし運動も出来る。
後輩の面倒見もいいらしい。
実は小学校からの同級生だったりする。
あんまり話したことないからどうでもいいけど。

「どうかした?」

1090526[約束]:2005/11/27(日) 18:20:09

たぶん、不機嫌そうな顔をしている俺にみかねて声をかけたのだろう。
ちょっと微妙な顔をしていた。

「あ〜・・・実はノート忘れて」
「ルーズリーフとかは?」
「まぁそれがあれば困ってないわけで」
「ふ〜ん」
「・・・」
「・・・」

うおい!(゚Д゚;)
今のは流れ的に「じゃあ私があげよっか」ってなるはずだろ!
そして渡すときに時に手と手が触れ合って2人の関係は(自粛

「・・・」

もういいや。素直に言お。

「ねぇ、ルーズリーフ貸してくれない?」
「え?あ、うん。1枚で良い?」
「できれば2枚・・・」
「まぁいいけど・・・はい」
1100526[約束]:2005/11/27(日) 18:23:23

彼女はかばんの中からルーズリーフを取り出し、俺にくれた。

「ありがと。助かる」
「ちゃんと返してよね」
「へいへい。じゃあ出世返しで良い?」
「なにそれ?ギャグのつもり?ふざけないでよ」
「・・・はい」

去年は結構使えたギャグなのに、今年はもう使えないらしい。
やっぱりみんなギャグどころではないのだろう。
今年は大学受験だ。
みんなが気張るのも無理はないが、俺はこの雰囲気があんまり好きじゃない。
もっと、切磋琢磨とかそういうのをすればいいのに。

「・・・」

教室には教諭の声とシャーペンの音だけ。
たぶんこれは、世界で一番性能の良い導眠剤だと思う。
さらに外には雲ひとつない青空が広がっている。
これはもう、寝るしか、ない・・・



1110526[約束]:2005/11/27(日) 18:24:39



「・・っと」
「・ょっと」
「ちょっと」

目が覚めると、目の前にはゆかがいた。
どうやらもう授業はおわったらしい。
日直が黒板を消している。

「やっとおきたわね」
「ぅぅん・・・あと5分・・・」

今のせりふはもちろん故意にいった。

「ちょっと、おきなさいよ」
「あぁ〜もう朝か。母さん、朝飯は?」
「・・・本気で起こるわよ」

今年はこのギャグも使えない。
お笑いの賞味期限はほんとに早いものだ。
1120526[約束]:2005/11/27(日) 18:25:52

「あんたねぇ、せっかく私が貸してあげたのに、寝るってどういうことよ」
「いや、その、なんていうかごめん」
「別にあやまれって言ってるんじゃないわよ。何でってきいてんの」
「ほら、あれだあれ。パナウェーブってやつ?白装束の」
「・・・」
「・・・ごめんなさい、春の陽気に負けました。すみません」
「もう、あんたっていつも・・・」
「ん?なに?」
「はぁ、もういいわ。次寝たりしたら授業中でもたたき起こすからね」
「はいはい」
「はいは一回でよろしい」
「はい」

もう逆らう(ごまかす)のはやめよう。
次ぐらいは殴られそうなきがする。

「あ、チャイム」
「もう、あんたのせいで予習できなかったじゃない!」
「んなもん知るかよ」
「あっ!しかも今日和訳当たってるんだった。どうしてくれんのよ!」
「そんなこといわれてもなぁ」
「もういい!これからはあたしに話しかけないで!」
「叫んでる暇があったら訳やれよ」
「うるさい!」

隣で必死に辞書を引いている彼女の姿は、妙に滑稽でかわいかった。



つづく
113Mr.名無しさん:2005/11/27(日) 18:35:00
新作キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
3スレ目になってもまだまだ勢いは衰えませんなあ
いいことだ
114Mr.名無しさん:2005/11/27(日) 19:26:52
正統派だ
115Mr.名無しさん:2005/11/27(日) 22:15:48
・・・・・・保守
116Mr.名無しさん:2005/11/27(日) 22:24:23
いいねぇ学園モノは。。青春アミーゴ><
117Mr.名無しさん:2005/11/28(月) 04:40:12
いいね!
ホシュ
1180526[約束]:2005/11/28(月) 18:13:40
>>112

昼休み。

「おまえさぁ、噂になってんぞ」
「はぁ?何が?」

この学校は公立では珍しく屋上が開放されている。
今日もいつものように、恭平と昼飯を食べていた。

「あれだよ。お前が隣のやつと痴話喧嘩してたってやつ」
「痴話喧嘩ってお前、あれはそんなんじゃねぇよ」
「じゃあ何だよ。もう話しかけないで!とか言われたんだろ?」
「確かにそれは言われたけど、まぁ何ていうか・・・そう、SMプレイだ」
「SMプレイだぁ?」

咄嗟に出たのはSMプレイ。
全然違うかもしれないが、自分的には案外的を射ている気がする。
別に自分がMというわけじゃない。
どっちかというとSだ。

「そうだよ。俺がわざと怒られるようなことをして、相手の怒りを買ったんだ」
「それ、SMプレイか?」
「当たり前だろ。俺が人に恨まれるような人間に見えるか?」
「・・・この前ニセのラブレターを俺に渡したのは誰だよ」
「あれは全然もてないお前を不憫に思ってだな」
「嘘つけ。西田と一緒に物陰で笑っていやがったくせに」
「わかった、それは認める。でも俺は面識ないやつにまでそんなことするやつじゃないだろ?」
「まぁ、確かに。お前微妙に人見知りするしな」
1190526[約束]:2005/11/28(月) 18:15:28

食べ終わったサンドイッチとコーヒー牛乳をゴミ箱に投げた。
しかしそれは大きく外れて、下へと落ちていってしまった。

「あ、やば!」
「あ〜あ、お前あとで呼び出しだな。新しい生活指導、相当きついらしいぞ」
「・・・はぁ」

なんか今日はついてない気がする。
教室といい屋上といい・・・
厄日か?

「さっさと拾いにいってこいよ。今ならまだ間に合うかもしれないぞ」
「あぁ、淡い期待を抱いていってくる」
「あ、ちょっとまった」
「ん?」

恭平は胸ポケットから2枚の紙を取り出し、俺に渡した。

「なんだよこれ」
「みてわかんねぇか?映画のチケットだよ。しかも今流行の純愛映画」
「へ〜。で、これを何で俺に?」
「それは秘密だ。一身上の都合だ」

こいつ、また振られやがったな。
ってか付き合う前から映画のチケットなんて買うなよな。
ほんとバカなやつ。
1200526[約束]:2005/11/28(月) 18:16:32

「でも2枚もらっても、使い道がない」
「喧嘩したやつを誘って仲直りしろ。それが無理なら妹とでもいけ」
「・・・両方嫌な場合は?」
「それを俺に返せ。いまならまだ売れる」
「わかった。どっちかと行くよ。ありがとな」
「あぁ。お返しはこの前借りた金でいいからな」

この前貸した金は確か5000円。
・・・まぁ、失恋のお見舞金ということで多めに見てやろう。

「早く行けよ。もしかしたらフラグたってるかもよ?」
「んなことあるか。じゃあな」

駆け足で屋上を出た。
屋上を吹く風が何かを告げていた。
・・・何か嫌な予感がする。
叙情的な妄想が浮かんだときは決まって何かがおこる。
18年生きてきて、学んでも繰り返すことだけど。


1210526[約束]:2005/11/28(月) 18:17:30


やっぱり、嫌な予感が的中した。
見覚えのある顔が、わなわなと震えながらうずくまっている。

「うぅ〜・・・」
「あ、あの、どうなされましたか?」
「あぁん?」

彼女が振り返った瞬間、一瞬般若が見えた。
これは、マジで、ヤバイ。

「あっれ〜?頭にコーヒーかかってる?もしかして屋上から降ってきたとか?」
「・・・あんた、もしかして」
「えっ、俺は全然ゴミ箱に入れようとしてはずして落としてなんかないよ?」
「あ・ん・た・ね・ぇ」

今度は鬼が見えた。
・・・死ぬ。

「ご、ごめんなさい!悪気はなかったんです!」
「どうしてくれんのよ!制服にしみが付くじゃない!」
「ごめんなさいごめんなさい!制服はちゃんとクリーニングに出してかえしますから」
「それに頭にたんこぶできたじゃない!」
「てめぇがよければよかったんだろ・・・」
「何かいった?」
「ごめんなさい、何もいってないです!どうかお許しを!」

俺はとりあえず謝りまくった。
地面に頭を何度も打ち付けた。
もちろん、傷にならない程度に。
1220526[約束]:2005/11/28(月) 18:18:07

「ごめんなさいごめんなさいほんっとにごめんなさい!」

そろそろ折れやがれ!

「はぁ・・・もういいわ。あなたもわざとしたワケじゃないようだし」
「あ、ありがとうございます!この恩は一生忘れませぬ!」
「おおげさよ、ばかね・・・」

そういった彼女は一瞬笑っているように見えたけど、たぶんそれは幻想だろう。
頭を打ち付けすぎた。

「あんた、額から血が出てるじゃない!」
「え、マジで?」

触ってみると手にべっとりと血が付いた。
血は体温と同じだから気付きにくいらしい。
何かの漫画で読んだ。

「もう、しょうがないわね・・・ほら」

そう言うとゆかは白いハンカチを俺の額に当てた。

「っ!」
「あっ、ごめん!痛かった?」
「い、いや、大丈夫」
「ちょっと待っててね、ハンカチぬらしてくるから」

ゆかは小走りで水道まで行き、ハンカチをぬらして戻ってきた。
123Mr.名無しさん:2005/11/28(月) 18:20:22
(・∀・)イイヨイイヨー
期待
1240526[約束]:2005/11/28(月) 18:24:54

「ちょっとしみるかもしれないけど・・・」
「あ、あぁ」

ここで俺は、ふとあることに気が付いた。

「どう、痛む?」
「まだちょっと」
「バカね、アスファルトに頭を打ち付けるからよ」
「お前のせいと言えなくもないけどな」
「元はといえばあんたが悪いんでしょ!自業自得よ!」
「はいはい」
「もう・・・」

どうやら彼女は気付いてないらしいが、もう言ったほうがいいかもしれない。

「なぁ」
「ん、なに?」
「それ、どこで買ったんだ?」
「・・・?」
「だからその青いやつ」
「青い?何が?」
「濡れてて見えてるやつだよ」
「このハンカチのこと?・・・青くないけど?」
「だーかーらー」
「もう、はっきり言いなさいよ!」
「推定Cカップのフロントホックのブラジャーが透けてるって言ってんだよ!」
「・・・」
「・・・」
「こ、このばかぁーーー!」
「ぐはぁ!」
1250526[約束]:2005/11/28(月) 18:25:58

一瞬で意識がとんだ。



5限6限と、ゆかは一言も話してくれなかった。
話しかけても徹底的に無視された。
何となくむかついた俺は小声で悪口を言ってやった。
言う度にゆかは反応したが、一度もこっちは向かなかった。
クラスからは、笑い声が漏れていた。


SHRの時間、担任から重要な話があった気がするが覚えていない。
俺の興味はまったく別の方向に向いていた。
「もう許してくれてもいいじゃん」
「・・・」
「っていうかブラジャー透けてたのは俺のせいじゃないし」
「・・・」
「コーヒーかぶったのも俺のせいじゃな」
「それはあんたのせいでしょ!」

がたん、と立ち上がるのをリアルで初めて見た。
みんなの注目が、彼女に集まる。

「どうした?何かあったのか?」
「・・・いいえ、なんでもないです」
「ならいいが・・・それじゃ日直」
「きりーつ、れい」
1260526[約束]:2005/11/28(月) 18:26:25

俺は急いで教科書をかばんに詰め、教室を出ようとした。
しかし、つかまった。

「どこにいくのかなぁ〜?」
「えっと、その、帰ろうかな〜なんて」
「へ〜、帰るんだ。私のことほったらかしにして、帰るんだ」
「じょ、冗談にきまってるじゃないですか!ゆか様のためならたとえ火の中水の中」
「じゃあさ、今日の落とし前、どうつけてくれんの?」
「どうっていわれても・・・」

1.なにか奢る
2.現金を渡す
3.ラブホテルへGO!

「じゃあ、3番で」
「はぁ?3番って何よ?」
「だからラブホ・・・じゃなくて、そ、そうだ!これ!」

俺は胸ポケットから映画のチケットを取り出し、ゆかに渡した。
1270526[約束]:2005/11/28(月) 18:27:00

「これは?」
「いま流行の純愛映画のチケットだよ。お前、純愛映画とか嫌いか?」
「嫌いじゃないけど・・・」
「じゃあこれで勘弁してくれよ。今度の土曜、一緒に行くってことで」
「な、なんで私があんたとなんか!」
「別にいいだろ。それとも、一緒に行きたいやつでもいるのか?」
「そんなの、いない、わよ・・・」
「じゃあ決定な。それで今日の件は許してくれ。クリーニング代も払うからさ」
「・・・うん。わかった」
「やけに素直だな。もしかして、俺と一緒に映画に行くのがうれしいとか」
「ば、ばかいわないでよ!だれがあんたなんか」
「はいはい。じゃあ土曜11時に駅前でな」
「ち、遅刻とか、絶対しないでよね!」
「わかってるって。じゃあな」
「あ、うん」

彼女は、確かに笑っていた。



つづく。
128Mr.名無しさん:2005/11/28(月) 20:10:21
キタ━━━(;´Д`);´Д`);´Д`);´Д`);´Д`)━━━━!!
皆うまいなぁもう><
129Mr.名無しさん:2005/11/29(火) 01:35:22
マジでうまいな・・・マンセーばっかでどーたら言われそうだが実際上手いんだから仕方ないよな
130Mr.名無しさん:2005/11/29(火) 03:54:59
いいねー
続きいつかな?
131Mr.名無しさん:2005/11/29(火) 05:40:38
ぜ、全然おもしろくないわよっ!








だ、誰も夢中で読んだりなんてしてないんだからね!!
1320527[EVE]:2005/11/29(火) 18:42:03

朝、目が覚めると、全身を倦怠感が襲った。
これはたぶん、月に一度のアレだ。
・・・月に一度のアレって、何かエロいな。
時計を見ると時間は8時30分。
完全に遅刻だ。
俺は大して慌てることもなく、起き上がった。

「ねむ・・・」

カーテンを開けて伸びをした。
朝日を体に当てると、目覚めが早くなるらしい。雑学番組上情報。
ふと枕元をみると、そこには一枚の紙切れがあった。

『散々起こしたけど起きないから、先に行ってる』

これはたぶん、妹の沙(なぎさ)の書置きだろう。
最近、帰ってくるのが12時を超えることが多い。
昨日は2時すぎまで遊んでいやがった。
今度キツークお仕置きしてやる。
俺はクローゼットから制服を取り出し、一度着て、すぐに脱いだ。
遅刻したとき、授業の途中で教室に入ると言いようもない、いや〜な空気が教室に漂う。
俺はアレが大嫌いで、中学のころからずっと、遅刻=欠席と考えている。
今年は受験だから授業抜かすと大変かも・・・と思ったが、別にどうでもいい。
勉強なんかより、睡眠のほうが大切だ。
だって、人間の一次欲求だぞ?

「・・・」

一旦一回に降りてうがいをして水を飲み、部屋に戻った。そんで寝た。
学校に電話するのを忘れた。
1330527[EVE]:2005/11/29(火) 18:42:37




「・・っと」
「・ょっと」
「ちょっと」

目が覚めると、目の前にはゆかがいた。
どうやらもう授業はおわったらしい。

「やっとおきたわね」
「ぅぅん・・・あと5分・・・」

今のせりふはもちろん故意にいった。

「ちょっと、おきなさいよ」
「あぁ〜もう朝か。母さん、朝飯は?」
「・・・本気で怒るわよ」

何かこの会話、昨日もしたような・・・
デジャブ?

「やっと起きたわね」
「あぁ、おはよ」
「その様子だと、またずる休みでしょ?」
「うるせー睡眠不足だ」

毎日夜中の4時まで起きているもんだから、月に一度はこうやって学校を休む。
ゆかがそれをしっていたとは意外だ。
1340527[EVE]:2005/11/29(火) 18:43:20

「・・・とりあえず、何でお前がここに?」
「先生に頼まれてプリント持ってきたのよ。ほら」

ゆかは鞄からプリントを数枚出し、俺に渡した。
進路について、と書かれたプリントを見て、ちょっと嫌な気分になった。

「わざわざありがとうな」
「私は、その、クラスにあんたの家を知ってる人がいなかったから来ただけで」
「そんなこといっちゃって、ホントは一番に立候補したんじゃないの?」
「ば、ばか言わないで!別にあんたの部屋が見たいとか思ってないわよ!」
「・・・俺の部屋がみたかったんだ」

俺がそう言うと、彼女は自分の失態に気付いたらしく、顔を真っ赤にさせて怒り出した。
やばい、かわいい。

「ううううるさい!もういい!せっかく人がわざわざ届けてあげたのに。もう帰る!」
「ちょ、待てよ」
「離しなさい!」

部屋から出ようとするゆかを止めようと立ち上がって彼女の腕をにぎった瞬間、振りほどかれた。
そんなに強い力ではなかったはずだが、俺は布団に倒れこんでしまった。

「うっ・・・」
「ど、どうしたの?」
1350527[EVE]:2005/11/29(火) 18:44:17

どうしたのかなんて自分でもわからない。
ただ頭がぼ〜っとして、目の前がちかちかする。
・・・それだけだ。

「・・・」
「ちょ、ちょっと、返事しなさいよ」
「・・・」
「・・・」

別にゆかをからかっているわけではなく、ほんとに返事が出来ない。
のどが焼けるように熱い。
ゆかは俺に近づくと、額に手を当てた。
その手はものすごく冷たい。

「すごい熱・・・!」
「はぁ、はぁ」
「どうしよう・・・あ、風邪薬とかないの?」
「一階の、リビングに」
「すぐとってくるからちょっと待ってて!」

そう言うと彼女は部屋から飛び出した。
俺は布団につっぷくしているのだから、もちろんパンツがみえた。
白と水色のシマシマ模様か・・・一部の方々に大うウケだ。
そんなバカなことを考えているとゆかが薬と水を持ってあがってきた。
1360527[EVE]:2005/11/29(火) 18:46:17

「おまたせ。薬って、これであってる?」
「あ、あぁ」
「自分で飲める?」
「・・・無理かも」
「もう、しょがないわね」

彼女は俺の背中に腕を回し、俺を起こすと、薬と水を俺に飲ませた。
飲ませてくれる、と聞いて、てっきり口移しですると思っていたのでガッカリした。
もちろんこんなことは口に出せない。
というか、さっきから変なことばっかり頭に浮かんでくるような・・・

「さ、布団に入って」
「悪いな」
「あら、あんたにしてはやけに素直ね?」
「・・・うるせ」

俺は布団をかぶると体を丸めた。
寒い、寒すぎる。体が芯から凍える感覚がする。
もう5月の終わりだってのに。

「寒いの?」
「あぁ」
「毛布とかは?」
「どこにあるかわからん」
「じゃあどうすんのよ・・・」
1370527[EVE]:2005/11/29(火) 18:47:31

彼女はひとしきり考え、一つの結論を出した。
は、いいが、何か一人で悶絶している。

「寒さを和らげるにはこれしか。で、でも、そんな」
「お〜い、どうかしたか」
「・・・うん、やろう」

彼女は意を決したように頷き、俺の布団の中に入り込んだ。

「おま、何を」
「こ、こうすれば暖かいでしょ!昔の人は人肌で冬をしのいだんだから」
「でも、おまえ・・・」

ゆかの体はとても細くて、やわらかくて、暖かくて。
もうなんていうか最高だ。
体中の温度も一気に上がった。
そう、体中の温度が。
そんでもう、何かがきれた。

「どう?寒いの直った?」
「・・・」
「返事しなさいよ」
「・・イコー」
「え?」
「サイコーだ!」
「きゃっ?!」
1380527[EVE]:2005/11/29(火) 18:52:17

俺はゆかに思い切り抱きついた。
もう、ほんと、サイコーに気持ちいい。
ずっと抱いていたい。

「ちょ、ちょっと、何するの!離しなさい!」
「何ていうか、NA○Aもびっくりの新素材?テンピュールとはまた違う、病み付きになる感触・・・」
「ちょっと、やめ・・・・」

ゆかはなんだか体をくねくねとさせている。
逃げようとしているのかは知らないが、俺からはもう逃れられない。

「あぁ、サイコー」
「いいかげん、やめ・・・」
「別にいいだろ、減るもんじゃないし」
「そんなこと関係な、い・・・」

俺はずっとずっと、ゆかを抱きしめ続けた。
そして知らない間に眠ってしまった。


つづく。
139Mr.名無しさん:2005/11/29(火) 18:54:23
サイコー!
ほんのりエロスがいい
140Mr.名無しさん:2005/11/29(火) 18:57:15
ちょwwwwおまwwwwww
何この展開www

テラモエス(;´Д`)'`ァ'`ァ
141Mr.名無しさん:2005/11/29(火) 21:02:26
おまwwwwwwwwwwwwwエロスwwwwwwwwwwwwwwwww

GJ!!
142Mr.名無しさん:2005/11/30(水) 01:04:31
やっべ、すっげ、こーゆーのにマジ弱い俺(*´Д`)ハァハァ
1430527[EVE]:2005/11/30(水) 18:28:38
>>138


目が覚めると、もう外は暗かった。
時計を見ると10時。
結局俺は何時間寝ていたんだろう?

「ふぁ〜」
「・・・すぅ」
「うわぁ?!」

吐息を耳に当てられ、俺はおもわず飛び上がってしまった。
その拍子にすっころんで、床に頭を打った。

「いって〜・・・」

頭の中がパニクっている。
あぁ、こういうのを『あたふた』っていうのか。

「ぅぅん・・・」

とりあえず、状況を整理してみよう。
まず俺は今日、遅刻しそうだったから学校を休んだ。
そんでもう一回寝て、それから・・・
その先を思い出した瞬間、背中に冷たいものが流れた。

「マジ、で・・・?」
1440527[EVE]:2005/11/30(水) 18:29:58

信じたくなかった。
俺があんなことをしたなんて。
信じられるはずもなかった。
でも、目の前で眠っているゆかが、紛れもない証拠だ。
まじでどうしよう・・・

「・・・う」
「う?」
「あぁ〜よく寝た・・・あ、おはよ」
「お、おはよ」

ゆかはまるで何事もなかったかのように俺におはようといった。
もしかしたら何も覚えてないのかもしれない。
それならば、好都合だ。

「あ、そういえばあんた、もう熱さがったの?」
「え、たぶん・・・」
「そう、よかった。それにしても、いきなり抱きついてくるなんて、びっくりしたわよ」
「覚えて、るのか?」
「当たり前じゃない。ちょっと苦しかったけど、わたしも気持ちよかった」
「そ、そうか」

・・・寝ぼけてるのか?
言動がちょっとふつうじゃない気がする。
これは早めに処理したほうがよさそうだ。
1450527[EVE]:2005/11/30(水) 18:31:37

「もう10時だけど、親は心配してないのか?」
「あ、やばっ、私もう帰るね」
「あぁ・・・」

ゆかは鞄を手に取ると、駆け足で部屋を出た。
と思ったら引き返してきてこう言った。


「明日のデート、楽しみにしてるからね」



つづく。
146Mr.名無しさん:2005/11/30(水) 19:02:46
ああっ優しい!!!!!!!
147Mr.名無しさん:2005/11/30(水) 19:50:40
なんだよこの甘い青春は
ちくしょう萌えるじゃねーか
148Mr.名無しさん:2005/11/30(水) 22:44:45
投下ハヤ━━(━(━(-( ( (゚∀゚) ) )-)━)━) ━━イ !!!!!

とりあえずGJ

実は新着レス見ただけで中身読んでない。今から読むお ⊂二二二( ^ω^)二⊃
149Mr.名無しさん:2005/11/30(水) 22:48:07
ヤベェ急速にデレが来てる・・・いいなぁ・・・はぁ・・・・
150Mr.名無しさん:2005/12/01(木) 03:23:27
いいねいいね
151Mr.名無しさん:2005/12/01(木) 04:48:50
工房に戻りたい…

はっ!いかん!もう少しで惑わされるトコだった
ちきしょうちきしょう!
俺もこんな青春味わいたかった
(⊃Д`)
152Mr.名無しさん:2005/12/01(木) 16:18:16
粉雪が舞う寒空の下、とある公団住宅の屋上に二人はいた。吐く息は白く、寒風が肌を刺すように感じる。
保太郎を呼び出した玲は何も言わず、キレイにラッピングされたチョコを手渡す。

「なぁ、聞いてもいいか?」
「何?」
「どうして毎年1日遅れるんだ?」
「別に・・・迷惑?」
「い、いや、迷惑とかじゃなくて・・どうせならさ」
「どうせなら?」
「当日にもらいたいじゃん。こういうのって」
「余り物をあげるんだから遅れてもしかたないでしょ?」
「そ、そっか。余り物か・・・余り物ね・・・・・・」
「それに・・・」
「それに?」
「私以外はお母さんだけでしょ?もらえるの」
「あ、そ、そうか、そうだな・・・ははっ・・・」
「じゃ、帰るね」
「あ、ああ」

エレベーターのボタンを押す玲の背中に保太郎の声が届く。

「毎年ありがとうな」
「別に、、お礼なんていらないから」

エレベーターが到着し、一人乗り込む玲は呟いた。

「・・・余り物なんかじゃ・・・・・・ないんだよ・・・」
「当日渡すのが・・・恥ずかしい・・・の・・・・」
153Mr.名無しさん:2005/12/01(木) 17:02:02
最初からツンデレ全開ですね><
154Mr.名無しさん:2005/12/01(木) 17:59:36
これは読みきりだろwwww
155Mr.名無しさん:2005/12/01(木) 18:18:40
>>152
桜が咲き始めた4月中旬。いつもの屋上に二人はいた。
「最近料理始めたの」
「あっそ」
「どれだけ上達したか確認したいんだ」
「ふ〜ん」
「だからアンタ食べに来てよ」
「何で俺が?」
「つべこべ言わないで来ればいいの。そうね、今週の土曜日、家に来て」

用件だけ伝えると玲はエレベーターの方へ歩き出す。

「お、おい、俺の予定勝手に決めんなよ」
「こなかったらタダじゃおかないからね」

エレベーターが到着し、一人乗り込む玲。
動き出したエレベーターの中で玲は胸を押さえながらつぶやく。

「・・・手料理、私の手料理を・・・保太郎が・・・」

取り残された保太郎はある事を思い出す。

「あ、今週の土曜って誕生日じゃん、俺」
「ま、いっか。予定ないし、タダ飯食えるし」
156Mr.名無しさん:2005/12/01(木) 18:19:29
小学低学年まではよく来ていた玲の家。ここ数年、来ることはなかった。

「おじゃましまーす」
「誰もいないから。リビングでテレビでも見てて」
「今日は何をご馳走してくれるんだ?」
「なんでもいいじゃない。それよりリビングから出ちゃダメだからね」
「わかりましたよ。おとなしくしてますって」

キッチンから小刻みに聞こえる包丁の音。頻繁に開閉される冷蔵庫。
1時間が経った頃、玲がリビングに現れた。
手には綺麗に盛り付けられたサラダ。

「葉っぱだけ?」
「そんな訳ないでしょ」

続いて運ばれてきたのはビーフシチュー。

「おっ、大好物!」
「そう、偶然ね。作ってみたかったのよ」
157Mr.名無しさん:2005/12/01(木) 18:21:23
「うっめーな、これ」
「ちょっと、音立てないで食べなさいよ」
「だってマジ美味いんだもん。食が進むって」
「褒めても何もでないわよ」

和やかに食事をする二人。突然、玄関の鍵が回る音がした。
予期せぬ訪問者に玲は狼狽する。リビングに入ってきたのは玲の姉だった。

「あら〜、誰もいないのをいい事に男連れ込んでんの?」
「ち、違うわよ・・・」
「って、なーんだ保太郎じゃん」
「ちーっす」
「あれ?このビーフシチュー・・・」
「な、なんだっていいでしょ!早く出てってよ!!!」

動揺する玲。訳が分からない保太郎。一人ニヤニヤする姉。

「はいはい、お邪魔虫は出て行きますよ、ねぇ、保太郎、そのお肉柔らかいでしょ?」
「すっげー柔らけーって、マジ」
「そこまでするには、長〜い時間煮込まないとならないんだよ」
「も、もう!お姉ちゃん!!」
158Mr.名無しさん:2005/12/01(木) 18:28:53
笑いながらリビングを後にする姉。

「なぁ玲、このお肉、そんなに長い時間煮込んだのか?」
「・・・」

ホホを赤らめ、だまって頷く玲。

「もしかして・・・」

視線が定まらない玲。保太郎が何を言うかドキドキしている。
(俺の為、、、とか言うの?ちょ、ちょっとそんな事言われたら・・・)

「もしかして、お前ってすっごいヒマ人なのか?」

玲は忘れていた。保太郎が重度の鈍感だと言うことを。
手にしているスプーンが今にも保太郎目掛けて投げつけられそうになる。

「ちょっと保太郎。アンタ面白すぎ!それじゃ玲がかわいそうだよ〜」

リビングに戻ってきた姉は玲を優しく抱きしめる。

「おーよしよし、ワラワの胸で泣くがよい」
「や、やめてよ!お、お姉ちゃん!!!
「早く食べないと冷めちゃうぞ、食べようぜ」

無邪気にシチューを頬張る保太郎を半ばあきれた感じで玲姉妹は見ていた。
159Mr.名無しさん:2005/12/01(木) 18:48:06
暇になったらこっちにもよろしく

なにそのツンデ霊www1人目
http://hobby7.2ch.net/test/read.cgi/occult/1131190956/201-300
160Mr.名無しさん:2005/12/02(金) 04:22:00
続き乙!
1610527.5[兄妹]:2005/12/02(金) 18:43:51

「やっぱり明日は9時に駅前集合。遅れないでよね! ゆか」

珍しく毎週欠かさず見ている深夜ドラマが終わってすぐに、そんなメールが送られてきた。
でも、ゆかとメールアドレスを交換した覚えはない。
・・・あぁ、優依のやつか。どうでもいいけど。

「ただいま〜」

玄関から沙(なぎさ)の声がした。
只今の時刻、夜中の1時30分。
今帰ってきた沙は中二、しかも3日連続こんな調子。
これは、本気で怒らなければ。

「あれ、まだ起きてたの?」
「ここに座りなさい」
「シャワー浴びてからね。汗かいちゃっ」
「いいから座れ」

いつもとは違う空気を感じ取ったらしく、沙はおとなしく俺の前に座った。
でも顔はとても不満そうだ。
生意気なやつめ。

「今何時だと思ってる?夜中の1時30分だぞ?こんな時間まで遊んでいいと思ってるのか?」
「いいじゃん別に。友達と遊んでただけなんだし」
「お前、14歳だろ?限度も分からないのか?」
「だってみんなも遅くまで遊んでるし・・・」
1620527.5[兄妹]:2005/12/02(金) 18:44:22

みんなも、か。
それを聞いて、親にゲームを買ってとおねだりしたときのことを思い出した。
微妙に懐かしいな。

「みんなに合わせることも大事だと思う。でも、やりすぎだろ?わかるか?」
「・・・うん」
「恩着せがましいかもしれないけど、俺も、母さんも、お前のことが大事なんだよ」
「・・・」
「だからあんまり心配かけさせないでくれ。な?」
「・・・うん、ごめんなさい。明日からはできるだけ早く帰ってくるようにする」
「やっとわかってくれたか」
「ほんと、ごめんなさい」
「わかってくれたのならもういいよ」

シュンとしている時の沙はとてもかわいい。
俺は手を伸ばし、沙の頭を優しくなでた。
そういえば最近、こんなことしてなかったな・・・

「お兄ちゃん、くすぐったいよ」
「あぁ悪い。風呂はどうする?」
「あ〜、入ろうかな」
「じゃあすぐ入れよ。お湯入れたてだから」
「うん、ありがと」

俺が手を離すと沙はバスタオルを持って浴室へむかった。
一番風呂が最近の日課だったけど、まぁいいや。
離した手には、何かくすぐったいような感触が残っていた。


1630527.5[兄妹]:2005/12/02(金) 18:44:56


風呂から上がって自分の部屋の布団の中で本を読んでいると、ノックの音がして、扉が開いた。

「お兄ちゃん、起きてる?」
「寝てる〜」
「そっか・・・」

沙は寂しそうに部屋を出ようとした。
こんなの、予想外の反応だ。
いつもなら、寝てて返事できるわけないじゃん!とか言ってくるはずなのに。

「ちょっとまて、起きてるから。どうした?」
「うん、その・・・」
「ゆっくりでいいから言ってみ」
「一緒に、寝ても、いいかな、って」
「・・・はい?」

一緒に寝るってのはえ〜っと、つまりは添い寝ってことか?
でもそんなこと言うやつじゃないし・・・
も、もしかして、私と同じ墓に入ってっていうプロポーズ・・・
って、家族なんだから一緒の墓に入るのは当たり前か。

「・・・だめ?」
「え?いや、全然いいけど、急にどうした?」

覚えている限り、最後に一緒に寝たのは二年以上前。
最近じゃ、私の先にお風呂入らないで!とか言ってくるのに、どういう風の吹き回しだろう。

「・・・だめ?」
「・・・いいよ。ほら、入れよ」
1640527.5[兄妹]:2005/12/02(金) 18:47:23

俺は一度布団から出て沙を中に入れ、そして布団に入った。
シングルの布団だから2人入るとすごく狭い。
でも、すごく暖かくて優しい感じがする。
急に一緒に寝ようだなんて、もしかしたら、何か言いづらい相談でもあるのかもしれない。
相談に乗るのも兄の役目だろう、うん。

「・・・」
「・・・」

微妙に気まずい空気が辺りを包む。

「ねぇ・・・」
「ん?」
「お兄ちゃんは、その、私のこと」
「好きだよ」

自然と、好きだよといっていた。
あたりまえのことなんだけど、自分でも不思議なくらいポンとでてきたから、かなり驚いた。
沙はそれを聞くと満足そうに笑った。

「そっか、うん、ありがと」
「急にどうした?」
「私も、お兄ちゃんのこと、大好きだよ」

そういうと沙は、俺にギュッと抱きついてきた。

「お、おい、どうしたんだよ」
「なんでもない。久しぶりにお兄ちゃんに甘えたかっただけ」

胸元に冷たいものを感じた。あぁ、沙は泣いているのか。
1650527.5[兄妹]:2005/12/02(金) 18:47:48

「最近、あんまり話してなかったよね?だから・・・」
「わかったから、もう何も言うな」
「だから・・・っく、ひっく」
「わかってる・・・」

俺は沙の頭を、ちょっと強めになでた。
すると沙は、堰を切ったかのように、声を上げて泣き出した。

「私、怖くて・・・なんだかわからないけど、とても不安で・・・」
「うん・・・」
「本当は、お兄ちゃんとも、お母さんとも、仲良く話がしたいのに、気がつくと避けちゃってて・・・」
「うん・・・」
「二人とも、もう私のことなんか嫌いになっちゃったのかなって思ったら、何かもう、全部いやになって、それで」
「うん・・・」

沙は、とても、淋しかったのだろう。
友人が心の支えにならないとは言わない。
でも家族は、とてもとても、大切な存在だと思う。
俺にも少なからず反抗期はあったから、沙の気持ちは痛いほどわかった。
そして俺は、沙を支えることが出来る。
1660527.5[兄妹]:2005/12/02(金) 18:49:06

「沙は、無理しすぎなんじゃないかな。勉強とか、いろいろと」
「・・・ひっく」
「頑張るな、とは言わない。ただ、俺や母さんの前では休んで欲しいんだよ」
「うん、うん・・・」
「だから、さ。いつでもこうやって甘えてくれればいいんだ。機嫌が悪かったら邪険に扱うかもしれないけど」
「うん・・・」
「俺も母さんも、お前の家族なんだから」
「お兄ちゃん・・・」

沙はよりいっそう強く、俺に抱きついてきた。
俺も沙を、ギュッと抱きしめた。
はたから見れば、バカな兄妹のように感じるかもしれない。
でも俺たちにとってこれは、とても大切な、大事なことなんだ。

「私も、お兄ちゃんのこと、大好きだから・・・」
「わかってるって。それに、母さんも、な?」
「うん・・・」

それからずっと抱き合いながら話をした。
ただの日常の話だったけれど、それは、とても大事な時間だったようなきがする。
そしてそのまま眠りに落ちた。




つづく。
167Mr.名無しさん:2005/12/02(金) 19:14:15
ちょwww
妹フラグ、キタコレwwwww

嵐の予感を感じるのは気のせい?
続きを果てしなく待たせてもらうってばよ
168Mr.名無しさん:2005/12/02(金) 20:57:26
ちょっwwwおまっwwwwwwwww
何このエロゲwwwwwwww

ひたすら王道爆進なのにこんなに萌えるのはなぜ(;´Д`)'`ァ'`ァ
169Mr.名無しさん:2005/12/02(金) 21:20:02
兄妹キタ━━━(;´Д`);´Д`);´Д`);´Д`);´Д`)━━━━!!!
(*´Д`)ハァハァ/lァ/lァ/ヽァ/ヽァ ノ \ア ノ \ア / \ ア / \ ア
リアルとの差が欝すぎるぅぅぅぅぅぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああwせdrftghyじゅきぉp;@:「」
170Mr.名無しさん:2005/12/02(金) 21:31:05
    //\⌒ヽペペペタタン
   //  /⌒)ノ ペペタタタン
  ∧∧_∧∧ \ ((∧∧_∧∧
 ((; ´ДД`)))' ))((・∀∀・ ;)) <おおおおまいらももちつつけけ
 //  ⌒ノノ ( ⌒ヽ⊂⊂⌒ヽ
.((OO ノ )) ̄ ̄ ̄()__     )))
 ))_)_)) (;;;;;;;;;;;;;;;;;;;)(((_((
171Mr.名無しさん:2005/12/02(金) 23:08:05
>>158

玲は保太郎の食べ方に違和感を感じる。

「ねえ、なんでニンジン食べないの?」
「嫌いだから食べないだけだけど」
「い、いいから食べなさいって」
「いいだろ?少しぐらい残したって」
「せ、せっかく人が作ってあげたんだから!ほ、ほら!!は、早く!!」
「なんでそんなにせかすんだ?」
「そ、それは・・・・・・」

玲はアルファベット4文字分、ニンジンをカットしていた。
それに気づかれない内に食べて欲しいと願っていた。
まさか保太郎がニンジン嫌いとは・・・

「あれ?このニンジン・・・」
「え、な、何?な、何かへ、へ、変だった?」
「文字に見えるけど?」
「そ、そう?」
 (ど、どうしよう・・・・ばれちゃうよ・・・・)
172Mr.名無しさん:2005/12/02(金) 23:19:15
文字型にカットされたニンジンを救い上げる保太郎。
玲はいてもたってもいられずだまってうつむいた。

「これは・・・ひらがなの ”へ” かな?」
(違うわよ・・・・)
「うーん、アルファベットの ”L” にも見えるなぁ」
(・・・っ!ちょっと・・・ど、どうしよう・・・気づかれちゃうよ・・・・)
「なぁ、まだあるの?」
「し、知らないわよ!か、勝手に探せばいいじゃない!」
(だ、ダメだって!探されたらばれちゃうじゃない!!ワタシのバカ!!)

ニンジン探索を続ける保太郎。玲はまともに保太郎を見る事が出来なかった。

「おっ!あったあった。えーっとこれは… ”0” か?」
(数字じゃないって・・・・)
「さっきがアルファベットだったから・・・・ ”O" かな?」
(ああ、もう、、、だめ・・・恥ずかしい!!)
「わ、わ、ワタシちょっと、、」

逃げ出すように席を立ち、廊下へ逃げる玲。その間も保太郎はニンジン探索を続ける。
数分後、真っ赤なホホを両手で隠すように戻ってくる玲。

「全部見つけた。分かったよ」
「な、なな、何が・・・分かったの?」
「この料理の中に隠していたんだな。ごめんな、気がついてやれなくて」
(私の気持ち・・・伝わったの・・・?)
173Mr.名無しさん:2005/12/02(金) 23:36:40
玲の心臓は今にも張り裂けんばかりの鼓動を繰り返す。
全力疾走した後でもこんな鼓動を感じた事はなかっただろう。

「1文字目が ”O” だろ?んで2文字目が ”L” で・・・」
(なんで ”O” からなのよ! ”L” からでしょ?)

カットされたニンジンをスープの上に順番に並べる保太郎。

「ほら!これが隠してるものだろ!俺ってコナンレベルじゃん!!」
「・・・・・・」

並べられた文字は OLIVE だった。

「隠し味にオリーブ使ったって意味だろ。どうりで何か違うビーフシチューだと思ってたんだ」

玲は保太郎が鈍感だという事は知っていたつもりだ。でも、まさかここまでとは・・・
ここまでしても気づいてくれない保太郎に声を荒げる玲。

「な、バ、バカじゃない!!普通に切ったら棒みたいな形になることぐらい分からないの?!!」
「バカってなんだよ。せっかくじっちゃんの名にかけて謎を・・・」
「うるさいわね!!この鈍感!!はやく食べて出てってよ!!!」
「な、なんだよ!勝手に誘っておいて今度は帰れ?意味わかんねー」
「アンタが悪いんだから!!」
「もういい!俺帰る!ごちそうさん!!アバヨ!!」

荒っぽくリビングのドアを開け保太郎は帰っていく。

「保太郎の・・・・バカ・・・・」

手作りのバースディケーキが入っている冷蔵庫のファンの音が
玲の耳にはいつもより大きく聞こえた。
174Mr.名無しさん:2005/12/02(金) 23:51:45
保守太郎・・・じゃなくて保太郎ちゅわぁぁっぁぁぁぁぁぁlん 行っちゃだめぇぇぇぇぇっぇぇぇ


GJ
175Mr.名無しさん:2005/12/03(土) 00:08:05
急にサブタイがなくなったな。

まあどっちにしても激しく萌えるからいいけど
GJ
176Mr.名無しさん:2005/12/03(土) 15:57:14
此処の職人レヴェルタカスwwww
1770528[起転]:2005/12/03(土) 18:32:15
>>166

「お兄ちゃん、起きて。目覚ましなってるよ」
「ん・・・あと5分・・・」
「もう・・・きゃっ?!」

俺は思い切り沙(なぎさ)を抱きしめた。

「あ〜きもちい〜」
「ちょっと、やめ・・・」

やわらかくて暖かくてフニフニして、最高の抱き心地だなこれは。
テンピュールなんか、比べ物にならない。
・・・何か前にもテンピュール以上のものがあったような。

「やめてってば」
「昨日はそっちから抱きついてきたくせに〜」
「それは・・・」

沙はちょっと涙目になった。
泣かすのはさすがにやばいな。
俺は沙を解放し、起き上がって伸びをした。

「休みの日に目覚ましなんて、珍しいね」
「あぁ、友達と映画観にいく約束しててな」

時計を見ると、8時34分。
まだまだ待ち合わせには余裕の時間。
1780528[起転]:2005/12/03(土) 18:32:47

「へぇ〜何の映画?」
「何か最近流行ってる、恋愛映画?」
「ふ〜ん」

しつこく鳴る目覚ましを止めて携帯を見ると、メールが一件。
恭平からだ。

『どこまでいったか報告よろしく』

・・・どこまでいったかって、要するにアレか。
残念ながら、お前の期待に添えられそうもないよ、恭平。
アレを手なずけるのは相当難しそうだ。

「何時に待ち合わせ?」
「確か駅前に11・・・」

嫌な予感がした。
何か肝心なことを忘れているような・・・
待ち合わせは、11時、だよな?

「どうしたの?」
「・・・ああっ?!」

俺は急いでメールをチェックした。
そして、そこには確かに、9時に待ち合わせ、と書いてあった。
1790528[起転]:2005/12/03(土) 18:33:10

「や、やばい!遅れる!」
「え?何時に待ち合わせ?」
「9時だ9時!」

俺は飛び起きると下におりて顔を洗い、服を着替え、パンを口にほおばり、玄関に走った。
そして家から出ようとすると、沙が上からおりてきた。

「お兄ちゃん!今日は何時に帰ってくるの?」
「わからん!とりあえず晩飯までには戻るから。じゃあ行ってきます!」
「いってらっしゃ〜い」

黒い靴を履いて外に飛び出した。
とりあえず、全力疾走。
遅れたら、殺される。




「はぁはぁはぁ・・・」

やっと駅に着いた。
途中で気付いたけど、自転車でくればよかったんだ。
何でわざわざ走って・・・しかも携帯忘れたし。

「・・・ふぅ〜」

段々落ち着いてきたので、駅の周りを見渡す。
現在時刻は8時58分。
でも、ゆかの姿はどこにもみえない。
1800528[起転]:2005/12/03(土) 18:33:44

「8時に来たことにするか・・・」

噴水前のベンチに腰を下ろす。
正直、かなり疲れた。
持久走とかは全くもって苦手だ。

「ちょっと」
「え?」

後ろから突然声をかけられ、驚いて振り向くと、そこにはかわいらしい女の子が居た。

「えっと、何か用?」
「何か用?ってあんた、喧嘩うってんの?」
「意味が良く分からないんだけど・・・って、もしかして、ゆかか?」
「もしかしてって何よ。あたしを誰だと思ったわけ?」

ゆかはいつもポニーテールだけど、今日はツインテールだった。そして化粧もしていた。
それだけで、こんなにも見違えるなんて。

「いつもと髪型が違うからさ、わからなかったんだよ」
「・・・髪型?」
「目が悪いんだよ。両目とも、0.1もないし」
「えっ、そうなの?でもあんたが眼鏡してるとこなんて見たことない」
「家ではたまにしてる。でも学校ではする必要がない」
「あんた、授業中なにしてんの?」
「世界中のみんなが幸せになりますように、って祈ってる」
「・・・へぇ〜」
1810528[起転]:2005/12/03(土) 18:34:14

かわいそうな子を見るような目で見られた。
・・・やばい、Mに目覚めそう。
まぁ実を言うといつもはコンタクトをしてるんだけど、何となく黙っておこう。
今日遅れそうになって、コンタクトを忘れたことも。

「・・・本当は」
「え?」
「お前のことを、見つめてる」
「・・・ばか」

ゆかは呆れたように、駅に向かって歩き出した。
俺もその後を追う。

「そういえば、何で9時に変更したんだ?」
「お昼からより、朝から見たかったの。それだけ」
「何で朝から見たかったのかを聞いてるんだけど・・・まぁ別にいいけどな」

映画館はこの駅から3駅ほどいった街中にある。
この駅周辺に映画館がないわけではないが、まぁ、なんていうか、ポルノ一色。
高校生が入れる映画館は少ない。

「ちょっと、なにしてんの。はやくしなさいよ」
「へいへい」

俺は切符を買うと、ゆかの後に続いて改札を通った。
そして電車に乗った。
1820528[起転]:2005/12/03(土) 18:34:53




「なぁ」
「なに?」
「呼んだだけ」
「そう・・・」

土曜日なのに、電車は意外と空いていた。
田舎なのか都会なのか分からない、見慣れた街が流れてゆく。
・・・詩人か俺は。

「なぁ」
「なに?呼んだだけ、とか言ったら怒るわよ」
「うっ・・・なぜそれを」
「・・・もういい」

ゆかは呆れたように(実際あきれているのだろうけど)そっぽをむいた。
怒ってる顔もかわいいと思ったけど、そんなこと言ったらなにされるか分からない。
だからやめて、別のことを言うことにした。

「その服、似合ってるよ」
「・・・何よ急に」
「お前の私服ってあんま見たこと無いけど、それって普段着か?」
「そ、そうに決まってるじゃない。もしかして私が今日のためにおしゃれしてきたとでも思ってんの?とんだ思い違いね」

そんなことは全く言ってないけども。
1830528[起転]:2005/12/03(土) 18:35:42

「それにその髪型は?」
「こ、これはただちょっと気分を変えたくなっただけよ。別にかわいくみせようとかそういうのじゃ・・・」
「・・・お前、かわいいな」
「ななな何を急に言い出すのよ!からかってんの?!」
「あぁ、ごめん、『かわいそう』の間違いだった」
「・・・本気で、殺すわよ」

一瞬、殺気を感じた。
しかもかなり真剣なやつ。
蛇に睨まれたかえるの気持ちを一瞬で理解した。



つづく。
184Mr.名無しさん:2005/12/03(土) 19:18:49
すげぇまじで上手いw
185Mr.名無しさん:2005/12/03(土) 19:27:10
致命的なミスが・・・, >>179, 俺は飛び起きると下におりて顔を洗い, →俺は急いで下におりて顔を洗い
186Mr.名無しさん:2005/12/03(土) 19:30:31
変な余白&さげ忘れごめんなさい・・・
187Mr.名無しさん:2005/12/03(土) 19:48:19
うめえええええええええええええええええええええええええええええええええええええ

GJ
188Mr.名無しさん:2005/12/03(土) 20:45:55
漏れの勘違いかもしれんが…
コレ書いてるの1スレ目の毒男の中の人?

まぁ、どうでもいいか
乙です。続き待ってます〜
189Mr.名無しさん:2005/12/03(土) 23:08:41
ツンデ玲か?
190Mr.名無しさん:2005/12/04(日) 14:30:38
期待保守
191Mr.名無しさん:2005/12/04(日) 15:02:23
保守太郎
192Mr.名無しさん:2005/12/04(日) 16:26:21
>>188
違います
1930528[起転]:2005/12/04(日) 16:27:25
>>183

目的の駅に着くと、すぐに映画館に向かった。
上映まであと10分。
席のことを考えると、丁度良い時間だろう。

「お前って、誕生日いつ?」
「何よ急に?」
「ちょっと気になって。人にプレゼントあげるのが好きなんだよ、俺」
「へぇ、そうなんだ。かなり意外」

実を言うと、プレゼントをあげるのが好きなのではない。
変なプレゼントをあげて、もらったやつのリアクションを見るのが好きなんだ。

「で、いつだよ?ちなみに俺は12月24日」
「クリスマスイブなの?全く似合わないわね」
「うるさいよ」
「あたしは・・・今日」
「え?」
「だから、今日が誕生日なの」
「えっ、まじで?それならもっと早く言えよ。プレゼント用意してないし」
「別にプレセントなんていらないわよ。あんたと一緒に居れるだけで十分」

・・・今なんかすごいこと言われたような気がするけど、スルーしよう。
本人は気付いてないみたいだし。
それにしても今日が誕生日だったとは、不覚。
1940528[起転]:2005/12/04(日) 16:28:27

「ついたわよ」
「映画館なんて3年ぶりくらいだな・・・」
「私なんて5年ぶりよ。さ、入りましょ」

チケットを買うときに、何となく手を繋いでみた。
ゆかはかなり驚いたが、顔を赤くして手を握り返してきた。
そして映画が始まった。




1950528[起転]:2005/12/04(日) 16:28:53




映画の内容は、最近ありがちな純愛もの。
恋人が死んで主人公が過去を振り返るとかそんな感じ。
正直、こういうのはあまり好きではない。

「・・・」
「・・・」

俺とは違い、ゆかはかなり映画にはまっていた。
やっぱりこういう映画は女の子向けなのかな。
せっかく買ったポップコーンを一口も食べず、食い入るようにスクリーンをみつめている。
気がつくと、そろそろクライマックスらしい。
周りからすすり泣く声が聞こえる。
もちろん、となりからも。

「っく、ひっく」
「・・・」

死んでしまった恋人に、主人公が泣きながらキスをするクライマックスシーン。
ゆかは俺の手を、ギュッと握り締めてきた。
その手はちょっと汗ばんでいたけれど、離そうとは思わなかった。


1960528[起転]:2005/12/04(日) 16:29:27



「ふぁ〜、疲れた〜」
「・・・」

上映が終わって映画館から出ると、季節外れの日差しが目に染みた。
6月なのに30度超えるとか、地獄だ。
休日出勤であろうサラリーマンが、死にそうな顔をしながら目の前を横切った。

「これからどうする?」
「・・・っく」

ゆかはまだ泣いていた。
まだ感動している、というわけではない。
実はさっき観た映画、最後は主人公が自殺して終わる、バッドエンドの映画なのだ。
ひっぱってひっぱって自殺。
だから、相当ショックを受けたのだろう。

「・・・喫茶店でもはいるか」

俺はゆかの手を引いて近くの喫茶店に入った。
休日の真昼間なのに、そこは妙に空いていた。

「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
「二人です」
「ではこちらのお席へどうぞ」

窓際の席に、腰をかけた。
目の前に水がだされる。
1970528[起転]:2005/12/04(日) 16:30:08

「ご注文がきまりましたら、お呼びください」
「どうも」
「あと・・・」
「はい?」
「・・・ごゆっくり」

ウェイトレスは最低限のことだけ言うと、さっさと店の奥に消えてしまった。
店の中には俺たちに二人と、渋い店長(マスター?)の三人だけだ。
・・・妙な空気が流れる。

「映画、どうだった?」
「・・・おもしろくて、悲しかった」
「ああいうのが好きなのか・・・・意外だな」
「どういう意味?」
「もっとこう、宇宙人相手に銃をひたすら打ち続ける、みたいな映画が好きなのかと」
「ばかにしてんの?」
「いや、率直な意見」
「そう・・・」

会話が続かない。
俺はこういう空気が死ぬほど嫌いだ。
一緒に居る意味がわからない。

「・・・」
「・・・ちょっとトイレいってくる」

ゆかは席を立つと、お手洗いへと向かった。
なんとなく俺はほっとした。
あの空気にはこれ以上耐えられない。
1980528[起転]:2005/12/04(日) 16:30:39

「はぁ・・・映画の選択ミスか・・・」
「彼女なら、大丈夫ですよ。強い子ですから」
「え?」

突然、店長がしゃべりだした。
何の前振りもなく。

「あなたに今必要なのは、彼女を慰めることではない」
「はぁ・・・」
「見守ってあげることですよ」

店長はにっこりと笑い、親指をぐっとたてた。
この人、絶対にミステリ小説好きだ。
言動が明らかにおかしい。
それにあの付け髭。
間違いない。

そうこうしてるうちに、ゆかがトイレから戻ってきた。
その顔は、笑顔だった。

「何変な顔してんの?さ、行きましょ!」
「あ、あぁ。行くってどこに?」
「それは、行ってからのおたのしみ」

ゆかに引っ張られて店を出た。
中を見ると、店長が親指を立ててにっこりと笑っていた。
・・・やつは何者だ!

1990528[起転]:2005/12/04(日) 16:31:09



「あ〜気持ちい〜」

ゆかに引っ張られてつれてこられたのは高台にある公園。
そこの広場は芝で覆われていて、休日になると家族連れがよくお弁当を広げている。

「こんなところで、何をするつもりだ?」
「決まってるじゃない、お弁当よお弁当」

そういうとゆかはかばんからお弁当箱と水筒を取り出し、同じくかばんからだしたシートの上にそれをのせる。

「あけてみて」
「あぁ・・・」

弁当箱を開けると、そこにはカラフルな料理が詰まっていた。

「これ、もしかしてお前が?」
「当たり前じゃない。私だって本気になれば、これくらいできるのよ」

ゆかはエッヘンと言って胸を張った。
擬音ダヨそれは。まぁいいけど。

「ほんとすごいな、これ。ありがたくいただくよ。箸くれ」
「はいはい」

かばんの中を漁るゆか。
漁り続けるゆか。
段々と変な表情になってきているゆか。
2000528[起転]:2005/12/04(日) 16:31:41

「まさか箸忘れたとか・・・?」
「そ、そんなはずは・・・あ、あった!」
「脅かすなよ。早くくれ」
「・・・けど」
「けど?」
「一つしかない・・・」
「・・・」

これはあれか。
一つの弁当を二人で、もとい、あ〜んをしろってことか。
・・・ありがとう神様!

「じゃあ、あれしてくれよ」
「あれって?」
「あ〜ん」
「・・・」
「ほら早く、あ〜ん」
「あ、あ〜ん」

顔を真っ赤にしながらゆかはたまご焼きを俺の口に入れた。

「おいしい?」
「・・・うん、うまいよ」
「味付けとか、大丈夫?」
「あぁばっちり」
「ほ、ほんとに?よかった・・・」
「じゃあ次はこっちの番。ほれ、あ〜ん」
「あ、あ〜ん」

俺はバランをゆかの口に入れた。
2010528[起転]:2005/12/04(日) 16:32:11

「おいしい?」
「・・・あんた」
「味付けとか、大丈夫?」
「・・・殺す」

ヤバイ、と思った瞬間には、もうゆかの拳が目の前まで来ていた。
そしてそのまま気を失った。





「・・っと」
「・ょっと」
「ちょっと」

目が覚めると、目の前にはゆかがいた。
どうやらもう日が暮れたらしい。

「やっとおきたわね」
「ぅぅん・・・あと5分・・・」

今のせりふはもちろん故意にいった。

「ちょっと、おきなさいよ」
「あぁ〜もう朝か。母さん、朝飯は?」
「・・・本気で怒るわよ」

何かこの会話、昨日も一昨日もしたような・・・
デジャブ?
2020528[起転]:2005/12/04(日) 16:32:50

「もう、なかなか起きないから心配したじゃない」
「誰のせいだ誰の」
「元はと言えば、あんたが悪いんでしょ!」
「はいはいすいませんねぇ」

起き上がってあたりを見渡すと、もうほとんど誰もいなかった。
時計を見るともう7時。
日も完全に落ちている。

「さ、片付けてかえりましょ」
「そういえば、弁当は?」
「あぁあれ?全部食べちゃった」
「・・・まじでか」

弁当のことを考えると、おなかが鳴った。
みっともないったらありゃしない。
どうでもいいけど。

「・・・なぁ」
「なに?あんたも片付け手伝いなさいよ」
「お前この公園来るのはじめてか?」
「そうだけど、どうして?」
「あそこ見てみろよ」

俺は草むらを指差した。
そこには不気味に動く影。
重なり合う男と女。
声も少し聞こえる。
2030528[起転]:2005/12/04(日) 16:33:27

「ここは夜になるとカップルで溢れるんだ。ああいうことをするために」
「・・・」
「でも普通は夜中に多いんだけどな」
「・・・」

てっきり、ば、ばかじゃないの?!早く帰るわよ!とか言われると思った。
しかし、予想に反して、ゆかは下を向いて黙っている。
なんとなく様子がおかしい。

「おい、どうした?腹でも痛いのか?」
「・・・」
「歩けないほど痛いなら俺がおぶって」
「あたしたちも、ああいうことしよっか?」
「え?」

ゆかは急に俺に抱きつき、押し倒した。
笑っているような、泣いているようなゆかの顔。
今、俺とゆかの距離は15センチにも満たない。
目の悪い俺でも、ゆかのまつ毛の一本一本までよくみえる。

「きゅ、急になんだよ?わるいものでもたべ」
「ん・・・」

俺の口をふさぐように、ゆかは俺の唇に自分のそれをあわせた。
なんだか不思議な感触。
頭の中も、何かがぐるぐると回っていて正常に思考できない。
2040528[起転]:2005/12/04(日) 16:34:22

「・・・」
「・・・」

長い、長いキス。
時間の感覚がないから、もしかしたらそれは1分にも満たなかったかもしれない。
ゆかはそっと、唇を離した。

「・・・どう、だった?」
「・・・」

応えられなかった。
今、自分に何が起こっているのかまるで理解できなかった。
わかるのは、目の前にゆかがいる、ということだけ。

「・・・私、かえるね」
「あっ・・・」

ゆかはかばんをもつと、駅のほうへ走っていってしまった。
呼び止めようとしたが、うまく言葉が出ない。

それに呼びとめたとして、何を話せばいい?

「・・・」

俺はずっと、そこに立ち尽くしていた。
ゆかの唇の感触を、必死に思い出しながら。



つづく。
205Mr.名無しさん:2005/12/04(日) 17:01:31
すげぇwwww話の運び方うますぎwwwwwww
切ねぇwwwwwww

GJwwwwwwこれリアルタイムで見れてる自分が嬉しいwwww
206Mr.名無しさん:2005/12/04(日) 18:10:25
ゆか…(*´Д`)
207Mr.名無しさん:2005/12/04(日) 19:16:36
ちょwwwwwwっをまwwwwwwwwwwwwwwww



GJ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!1111
208Mr.名無しさん:2005/12/04(日) 22:19:40
うはhyはじゃkだだああfであ
209Mr.名無しさん:2005/12/05(月) 00:16:54
ツンデレというかツンエロwwwwwwwwww


wktk
210Mr.名無しさん:2005/12/05(月) 19:36:28
保守
211Mr.名無しさん:2005/12/05(月) 19:47:55
毒男氏の話しって完結してる?
212Mr.名無しさん:2005/12/05(月) 21:15:06
覚えてないww今のガおもすれーからそれでいいや、と思ってる俺ガイル
213Mr.名無しさん:2005/12/05(月) 23:14:49
それもそーだなwww保守www
214Mr.名無しさん:2005/12/05(月) 23:34:44
>>211
してない。未完のまま…

未だに続き待っている漏れガイル
215Mr.名無しさん:2005/12/06(火) 18:22:48
保守
216Mr.名無しさん:2005/12/06(火) 23:36:53
保守
217Mr.名無しさん:2005/12/07(水) 01:40:38
次はまだかい?
218Mr.名無しさん:2005/12/07(水) 02:51:48
>>73
「変わらないな」
俺が2両編成の電車を降りて目にしたた故郷の感想はこれに尽きる
けれど「変わってない」ただそれだけのことがことが嬉しかった。
8年も都会という竜宮城で過ごした俺は
浦島太郎になっているんじゃないかと不安だったのだ

「さてどうしようか」
携帯を取り出して時間を見ると正午を指していた。
腹も減り、荷物も重かったので故郷、津出麗村散策は生家に寄ってからだ

おぼろげな記憶と懐かしい道を辿り15分程歩いた先にそこはあった
古い日本家屋の生家。
当然チャイムなどついていないし鍵もかかってないド田舎の家だ
ガラガラと戸を開けてさっさと上がり込む
219Mr.名無しさん:2005/12/07(水) 03:15:52
「おーい婆ちゃん今帰ったぞー」
玄関から呼び掛けるとどたどたと階段を降りてくる足音がした
「婆ちゃん年の割に若いな」
足音を聞く限り、かなり元気なようだ
「お婆ちゃんじゃないわよ!」
しかし階段から表れたのは20そこらの女
「て、なんで姉貴がうちにいんだよ!」
「あんたこそ8年顔も見せずにどういうつもり…よっ!」
姉貴はそのままダッシュで向かって来た
この女は危ない!と幼い記憶の警鐘が鳴った時には
すでに胸に掌底を食らって俺は家の外まで吹っ飛んでいた。
「八年の恨みじゃ」
反転した世界でふんと鼻を鳴らす姉貴が見えた
220Mr.名無しさん:2005/12/07(水) 03:52:29
「たく!久々にあっていきなりDVかよこのアマ」
荷物を置いて一段落した俺はこの粗雑な姉貴とテーブルに向かいあって座っている
「八年もなんの連絡よこさないのが悪いんでしょ!掌底の一つや二つで文句言うな」
なんて女だ。
この鈴葉姉は近所の二つ上の腐れ縁みたいなもので
老後の独り暮らしに不便してる婆ちゃんの世話をしてくれてるらしいが
うちの婆ちゃん虐待してないだろうな…と少し不安になる
「向こうの生活は色々忙しかったんだよ」
忙しいから‥という言い訳が少し卑怯な気がして俺は姉貴から目を反らした
「そ…、でも連絡くらいはよこしなさいよ」
姉貴はそうした俺の様子から心境を察したのかそれきりその件は不問になった。
「ほら、おねぃちゃん特製珈琲でも飲んで落ち着きな」
「おねぃちゃんて誰だよ。そんな人間知らん」
くだらないことをいいながら珈琲の入ったカップを差し出す姉貴と
減らず口を叩きつつそれを受け取る俺
なんとなくこいつを前にしていると落ち着いてしまう。これが母性なのか
胸にこみあげてくる何かを珈琲を飲んで押しとどめる

「薄っ!この珈琲まず…」
口にした珈琲はほとんどお湯の味と香りしかしなかった
221Mr.名無しさん:2005/12/07(水) 03:59:17
「あんまり濃いの飲むと寝れなくなるでしょ?胃にも悪いし」
まだ昼過ぎだし、胃腸とか気にするタイプじゃねえだろおまえ…
それでも不味い珈琲をほっ、と幸せそうに飲む姉貴を見てると
自然に珈琲を飲みほしていた
「…おかわり」
「んん〜?おねぃちゃん珈琲は不味いんじゃなかったの?」
八年前よりもずっと綺麗で魅力的になった幼馴染と
八年の隔たりを感じさせない二人の間が何より嬉しい
「はい惣一」
「ん」
珈琲を渡し姉貴は笑顔で言った
「おかえり」
「あぁ、ただいま」
222Mr.名無しさん:2005/12/07(水) 04:07:18
保守がわりに
223Mr.名無しさん:2005/12/07(水) 08:21:26
やっぱ大人になると女ってきれいになるのか?とかくだらないこと考えながら保守。
224Mr.名無しさん:2005/12/07(水) 08:40:37
おねぃちゃんいいよいいよー
225Mr.名無しさん:2005/12/07(水) 11:41:42
保太郎の続きっていります?
続きはノープランなんですけどね…
226Mr.名無しさん:2005/12/07(水) 11:50:35
>>225
もちろんだ。読者としては書いてくれるものなら読みたい。

それと、このスレでは需要聞いたりすると逆に叩かれたりする事があるから、
これからはやめたほうがいいと思われ。
227Mr.名無しさん:2005/12/07(水) 12:30:36
>>226
即レスサンクス
おでがんばる

それと忠告ありがとう
気つけるよ
228Mr.名無しさん:2005/12/07(水) 12:56:11
作者叩くなんて非常識なヤツいんのかよ・・・それが毒男クオリティか
                             ⊂二二二( ^ω^)二⊃ブーン
229Mr.名無しさん:2005/12/07(水) 17:14:20
新参。初めて書いてみたんで、書き方とか殆どパクってます。
内容もなんかインスパイアっぽいですが。。。。。


校庭の木の葉もひらひらと舞い落ち、風もすっかり寒くなった。
季節ごとにぐらいしか変わらない、いつもの窓越しの風景を、
ボーっと、気の抜けた顔で俺は眺めていた。
教室の前の方では中年のおっさんの先生がなにやら難しいことを話している。

ふと、誰かの視線を感じた。焦って先生の方を見るが、
相変わらず教科書を読み続けているだけだ。
しかし、次の瞬間、すぐに視線の主が誰なのか解った。

「・・・・・・」

隣の席のゆりが何やら不満に満ちた表情でこちらを無言で見ている。
上目遣いにも似たそれは、軽く胸がドキッとした。
数秒見詰め合って、その空気に絶えられなくなった俺は

「・・・・・何?」

と質問した。するとゆりは少し驚いた顔をして

「・・・・別に」

と言って教科書に目を向けた。俺はそれ以上追求せずに、再び外に視線を戻した。
ゆりがまたちらっとこっちを見たのが解ったが、気づかないフリをして、
授業が終わるのをぼんやりと待ち続けた。
230Mr.名無しさん:2005/12/07(水) 17:16:14
――――やっと、今日最後の授業になった。科目は英語。
これも全然駄目なので、また外の風景を眺めることにした。
いい加減見飽きてくるのだが、授業をまともに受けるよりマシだと思っている。

そしてまた、例の視線を感じた。今日で何回目だろうか。
振り向くと、またゆりが俺を見ていた。もちろん表情は良いものではない。

「・・・だから何?」
「・・・・ちる」
「え?」
「・・・・気が散る」
「は?」
「・・・・だから、気が散るって言ってるでしょッ!」

それなりの声量だったが、席が後ろで、CDでリスニング中だったので先生には聞こえなかったが、
周りの席の奴らはこちらを見てきた。
しかし、ゆりは何事も無かったかのようにこっちを少し睨み付け、授業体勢に戻った。
俺は何がなんだかよく解らず、授業を終えて、放課後帰ろうとしているゆりをつかまえ話しかけた。

「なぁ、何で気が散るんだ?」
「・・・・・あたし帰りたいんだけど」
「教えてくれたっていいじゃんか」
「・・・別に」
「別にってことないだろ。あんなに睨み付けてたくせに」
「睨み付けてなんか無いじゃない」
「大差ないよ。あれは」

俺がしつこく問いただすと、ゆりは観念し、睨みながら言った。
231Mr.名無しさん:2005/12/07(水) 17:16:58
「うるさいわね!ただあんたが授業を真面目に受けてないから気が散って集中できないだけよッ!」
「へ?」
「だから、今まで我慢してたけどいい加減目障りになって気が散るのよッ!」

思わず絶句してしまった。なんだ、そんな事だったのか。

「別に、俺が外を見ていてもお前が気が散ること無いだろ」
「・・・気が散るって言ったら気が散るの!だから今度からは真面目に受けてよ!」
「なんでお前にそんなこと言われないといけないんだよ。関係ないだろ」
「いーからッ!真面目に受けて・・・うわッ」

前に一歩出たゆりの右足がバランスを崩した。片手に重たそうな荷物を持っていたためだろうか。
そしてそのまま俺のほうへと倒れると言うベタな展開へ。

ドサァ

倒れてきたゆりをまともに受けて俺まで床に倒れたと言うのは言うまでも無い。
俺の上にゆりが乗るという形になった。

「痛ッ・・・気をつけろよ・・・」
「あ、あ、ごごめ・・・・な、な何変なトコ触ってんのよッ!」
「お、お前が倒れてきたんだろうが!」
「も、もう知らないッ!」

顔を真っ赤にし、ゆりはそう言うと思いっきり俺に体重をかけて立ち上がり、走って行ってしまった。
一部始終を見ていた周りの連中の視線にも構わず、俺は

「あいつって結構胸あるんだな」

なんて事を考えていた。
232Mr.名無しさん:2005/12/07(水) 17:17:25
翌朝、俺はいつも通り学校に登校し、ゆりのことが気になっていたので
教室に入って本を読んでいたゆりに話しかけることにした。

「なぁ、昨日は・・・」

俺が話しかけるや否や、ゆりは勢いよく立ち上がり

「きっききき昨日は、そそ、その、ご、ごごめん。そ、そしてあぁああぁりがとう!」
「・・・・へ?」

ゆりは、顔を真っ赤にしおどおどしながら想像もしなかった言葉を発した。

「だ、だだだから、あ、あんたのおかげで、けけ、ケガしなくてすんだから・・・」
「あ、ああ。俺もしつこく質問して悪かったな」
「・・・そ、そ、そうよッ!元々、あ、あんたが悪いんじゃないッ!」
「・・・・開き直ったか」
「う・・・うるさいッ!」
「まぁ、俺もあれから考えて、これからは出来るだけ授業真面目に受けるよ。
だからもう気が散ることは無いだろ」
「え・・・?あ、あれはもう、べ、べ別にいいわよ」
「・・・あ?」
「だ、だから、そ、そそのなんというか、あんたがと、隣だと、ど、どっちにしろ・・・」
「・・・?どっちにしろ?」
「と、とにかく!べ、別にもうどうでもいいからッ!」
「・・・ぷっ」
「な、何よッ!」
「いや、なんというか・・・・かわいいな」
「・・・・な、な!な、何てこと言うのッ!」

赤かったゆりの顔がさらに真っ赤になった。なんというか面白かった。
だからついでにもう一言言ってみた。
233Mr.名無しさん:2005/12/07(水) 17:17:50
「はは、俺、ゆりのそういうトコ好きだぜ」
「・・・・・ももも、ももうッ!バカにして!!こ、ここ殺すわよッ!!!
そ、それとなんであんたにしし、し下の名前で呼ばれないといけないのよッ!」
「まぁいいじゃん。こっちの方が呼びやすいし」
「よ、良くないわよッ!!し、し死ねッ!!」

そんなこんなやっている間に、チャイムが鳴りHRが始まった。
ゆりは真っ赤な顔で、「フンッ!」と言って席に着いた。そして俺も。
まぁ、隣なんだが。

授業中や休み時間はあまり喋らなかった。
そして昼休み。俺はゆりに話しかけることにした。

「なぁ、今日弁当一緒に食べないか?」
「・・・な、何であんたと一緒に食べないといけないのよ」
「まぁいいじゃん。今日いつも一緒に食べてる小林休みだし。
それともゆり、他の奴と食べる予定あるのか?」
「・・・べ、別に無いけど」
「じゃあ決まりだな。外で食うか?」
「な、何でそうなるのよッ!だ、誰もいいなんて言って無いじゃないッ!」
「何だよ、そんなに俺と食べるのが嫌なのかよ。
いーよ、他の奴と食べるよ」

そう言って、軽くショックを受けながら去ろうとしたその時、
ゆりに腕を掴まれた。

「だ、だ誰も嫌なんて言って無いじゃないッ!
・・・わ、わかったわよ。あ、ああんたがそこまで言うなら付き合ってあげる」
「何だよそれ」
「う・・・うるさいッ!私外が良いわ。行きましょ」
234Mr.名無しさん:2005/12/07(水) 17:19:43
そう言ってゆりは、掴んだままの腕をそのまま引っ張って、
中庭まで連れ出された。外は陽が照っていて、12月だというのに
寒くはなかった。そんでもって、カップルが結構いた。
うちの学校は男女交際についてそこまで厳しくないので
当たり前といえば当たり前の風景だ。
俺はゆりに掴まれてた腕を払って、ゆりの手を握りしめた。

「な、なななな何すんのよッ!!」

ゆりは手を離そうとしたが、俺は離さなかった。

「こういう場所じゃ、こっちの方が自然だろ」

と、何処かで聞いたことがあるような台詞を口にしてみた。
確か電車がどうたらこうたらの。

「・・・そ、それもそうね」

そう言ってゆりは、もう手を離そうとしなかった。
数分歩いて、空いていたベンチを見つけ、そこに座ることにした。
またゆりの手を握りたいと思ったのは、ゆりの手が気持ちよかったからだろう。
弁当が入っているバッグを漁り、取り出そうとした。
235Mr.名無しさん:2005/12/07(水) 17:20:10
・・・・・が、何処にもなかった。まるで無いのが当たり前のように。
焦っている俺を見て弁当を開きかけていたゆりが口を開いた。

「・・・・・どうしたの?もしかして・・忘れたとか?」
「はいその通り。」
「・・・馬鹿じゃないの?」
「はい馬鹿です」
「どうするのよ?」
「そりゃ、ゆりの弁当分けて貰うしかないだろ」
「・・・・・わかったわよ。仕方ないわね」

冗談のつもりで言ったつもりだった。
・・・でも今なんか予想に反した言葉が返ってきた気がする。

「は?」
「だから、弁当分けてあげるって言ってるでしょ。ほら、あーんして」

・・・・しかも、食べさせてくれるらしい。いくら何でもこれはやりすぎだろ。
236Mr.名無しさん:2005/12/07(水) 17:21:21
「まじで良いの?」
「え?良いわよ」
「・・・恥ずかしくないって言うか抵抗感じないのか?」
「・・だってこういう場所じゃこういうのが自然なんでしょ。
あんたが言ったじゃない」
「・・まぁそうだけどさ・・・。お前って優しいな」
「な・・・なな何言ってるのよッ!べ、別に今日はこ、こういう時のために弁当の量少し多く
してきたとかそういうのじゃ無いからッ!ほ、ほら、早くあーんしなさいッ!」
「あーん」

なんか今凄いことを聞いた気がするが、俺はゆりに言われるがままに口を開けた


「・・・ど、どう?わ、私が作ったんだけど・・・。おいしい?」


続きます。
237Mr.名無しさん:2005/12/07(水) 19:37:03
ツンとデレの揺れ方が激しいなw
だがそれはそれで一つの書き方か。続き待ってるYO
238Mr.名無しさん:2005/12/07(水) 23:11:51
保守するぜ
239Mr.名無しさん:2005/12/08(木) 04:40:44
おっ、新作だ
240Mr.名無しさん:2005/12/08(木) 06:56:39
まんこ
241Mr.名無しさん:2005/12/08(木) 18:40:19
いいじゃなぁ〜いいいじゃなぁ〜い

期待保守
242Mr.名無しさん:2005/12/08(木) 22:10:37
>>173
訳もわからず玲に怒鳴られ、憤慨している保太郎。
自宅へ戻ろうとエレベーターのボタンを押したとき、
ケロロ軍曹のオープニング曲が携帯から流れた。

「LRです。何かありましたでございますか?!」
「こちらGS21。そちらの近況を報告せよ!!」

電話の主は親友の健二。彼らはお互いをコードネームで呼び合う。
特に用事もない時でも健二はちょくちょく保太郎に電話を入れていた。
普段、自分の事を話さない保太郎だが、ムカムカしていたので先程の玲との事を健二に話した。

「……ってな訳でさ、かなりムカついたんだよね」
「それって……フラグ立ってんじゃないの?」
「フラグ?まっさかー」
「いや、絶対幼馴染フラグだって!マジかよ、スネーーーク!!」
「……」
「その玲って子はカニ系?」
「いや、あんなにうるさくないけど…」

電話口でゲームの登場人物を次々と出してくる健二。保太郎はただ、生返事をするだけだった。
まさか玲が…いや、そんな事はないだろうと自分に言い聞かせる保太郎だった。
243Mr.名無しさん:2005/12/08(木) 22:13:05
「とにかく、保太郎氏はその子んとこ戻った方がいいって」
「いや、でも…」
「だってせっかくの三次元だよ?」
「うーん…」
「コードネームLR!!これは命令であーーーる!!」

怒りにも似た健二の口調に促がされ、保太郎は玲の家へと戻る事に決めた。

一人残されたリビングで玲は後片付けをしていた。
パッと見は普段通り洗い物をしているが、下唇をギュっと噛み締めていた。
少しでも気を抜くと瞳にたまった涙がこぼれてしまうからだ。
 (せっかく素直になれそうだったのに…)
 (私が悪いんじゃなくて…アイツが悪いのよ…)
 (…やっぱ言葉じゃなきゃダメなのかな…アイツ、鈍感だし)
 (ケーキも作ったのに…)
一通り後片付けが終わり、冷蔵庫からケーキを取り出すと、飲み物を取りに来た姉と視線が合う。

「あら、保太郎の為にケーキなんて用意してたの?」
「べ、別にアイツの為なんかじゃ…」
「しかも手作りじゃん。恋する乙女は健気ですわねー」
「そ、そ、そんなんじゃないって!!た、たまたま作ってみたかっただけなの!」
「それにしても飾り気のないケーキよね」
「だ、だから…アイツの為じゃないから」

玲が作ったケーキはスポンジに生クリームが塗ってあり、上にイチゴが数個載っているだけの
至ってシンプルな物だった。よく板チョコにメッセージが書かれているものがあるが
そういった類の物は一切ない。
でもそのケーキの一部には保太郎への思いが隠されていた。
244Mr.名無しさん:2005/12/08(木) 22:32:37
(*´Д`)ハァハァ/lァ/lァ/ヽァ/ヽァ ノ \ア ノ \ア / \ ア / \ ア
み・・・短い・・・・orz
245Mr.名無しさん:2005/12/08(木) 22:35:55
na・・・namagorosi・・・ハァハァ



つ・・・続きを・・・スネー(ry
246Mr.名無しさん:2005/12/08(木) 23:36:59
マジカヨスネーク orz
247Mr.名無しさん:2005/12/09(金) 02:36:58
http://hobby7.2ch.net/test/read.cgi/occult/1131190956/377
こんなタイプ分けとかあるのか、知らんやった
248Mr.名無しさん:2005/12/09(金) 22:17:44
249Mr.名無しさん:2005/12/09(金) 23:53:43
>>243

玲の家のチャイムを鳴らす保太郎。出てきたのは姉だった。

「どうしたの?忘れ物?」
「いや、ちょっと…玲に話があって」

これはきっと楽しい話が聞けるかもしれない、姉は直感的に悟った。
いつも以上のテンションで玲を呼ぶ。

「ちょっとー!玲!白馬の王子様が戻って来たわよー!!」

姉の言葉にドキッとする玲。

(保太郎…戻ってきてくれたの?!!)
(ダ、ダメ!今行ったらきっと私、信じられないぐらいの笑顔になってる)

「ちょ、、ちょっと待たせておいて」

そう言って玲はトイレに入り、気持ちを落ち着かせる。
数分後、玄関へ向かうとそこには不機嫌そうに立つ姉しかいなかった。

「あれ?保太郎は?」
「さっさと来なさいよ!せっかく楽しい場面に立ち会えると思ったのに!!」
「それより何か言ってなかった?」
「あー、なんかいつもの場所にいるって言ってわよ」

その言葉を聞いた玲は姉を押しのけるよう、屋上へと向かった。
250Mr.名無しさん:2005/12/09(金) 23:55:55
屋上に着くまでの、エレベーターの時間が長く感じる。
このエレベーターが屋上に着き、保太郎に会えば長年秘めた思いが実るであろう。
屋上に着き、保太郎の姿を確認すると、努めて冷静を装い、歩み寄る玲。

「な、何?話って?」         
「俺、お前に話したい事があるんだ」
「だ、だ、だから何って聞いてるんでしょ?」
「何ていうか…言いにくいんだけどさ…」
「は、早く言いなさいよ。私だってヒマじゃないんだから」 
「俺さ、好きなんだよ」
「…」              
  (ちょ、ちょっと!ストレートすぎない?)
  (も、もう!デリカシーがないんだから…)
  (……じゃなくて、、私も、、素直に自分の気持ちを伝えなきゃ)
  
保太郎の告白に答えようとする玲。しかし保太郎は玲の返事を聞かず言葉を続けた。
それは玲が想像もしていなかった言葉だった。

「何よりもさ、好きなんだ。ゲームが」
「へっ、え?」
「お前さ、俺の事好きみたいだけど、俺はゲームキャラの方が好きなんだよね」
「なっ…」
「お前がさくらさんみたいだったら俺も考えたんだけどなぁ」
「……」
  (さくらさんって誰よ?)
  (ていうか私よりゲームキャラクターの方が良いって訳?)

言いようのない悲しみが込み上げてくる玲。

ピシャーン!!!

保太郎のホホを打ち抜く乾いた音が夕暮れの中に響いていた。
251Mr.名無しさん:2005/12/10(土) 00:05:15
ええええええええええええええええええ
252Mr.名無しさん:2005/12/10(土) 01:02:53
ちょwwwwwwwwwwww衝撃のフラグクラッシャーwwwwwwwwwwwww
253Mr.名無しさん:2005/12/10(土) 09:27:08
>>250
( ゚д゚ )
254Mr.名無しさん:2005/12/10(土) 18:36:40
>>250
乾燥した保太郎のカサカサの唇にまで、その痛みが伝わる。
目の前では大粒の涙をこぼす玲。
初めてみる玲の涙に、保太郎は静かに口を開いた。

「ゴメン…」
「…」
「俺、こういう時、どうしたらいいか分からなくて」
「…」
「そ、その…な、何ていうか…」
「……もういい、何も聞きたくない」

保太郎に背を向け、帰ろうとする玲。保太郎は追いかけギュッと後ろから玲を抱きしめる。

「本当は…ずっと前からさ…そ、その…」
「…」
「何ていうか…お、お、お、俺さ…」
「…何よ…」
 (今更何だっていうのよ…)

玲を抱きしめる腕に一段と力を込める保太郎。

「ちょ、、ちょっと、痛いわよ…」
「恥ずかしいんだよ、言葉に出すのが」
「えっ?」
「本当の気持ちを言葉に出すのが」
「そ、それって…」
255Mr.名無しさん:2005/12/10(土) 18:37:14
「お、お前だってそうなんだろ」
「な、何の事?」
「言葉で言えないから、その、、ニンジンを文字にしたりして」
「さ、さぁ…た、たまたまああいう形に…」
「ほら、お前も俺も素直じゃないし…」

保太郎が何を言いたいか、それは自分を抱きしめている保太郎の腕から十分玲に伝わっていた。
ああ、保太郎も自分と同じで言葉にするのが恥ずかしんだ、
だからオリーブとか、ゲームキャラクターとかを口にして誤魔化していたんだと。
それが分かると玲はいつもの調子を取り戻す。

「まったく、男なんだからちゃんとしなさいよ!」
「だ、だからこうして抱きしめてんじゃん」
「な、何バカな事言ってるのよ!そ、それに誰が抱きしめろって言ったのよ!」
「あ、ゴ、ゴメン」

保太郎は抱きしめた腕をほどこうとする、しかし、玲は自分の腕を保太郎の腕に絡ませる。

「玲?」
「だ、誰がほどいて言いって言ったのよ……」

もう少しだけ、あと少しだけ、保太郎の腕の中に包まれたいと玲は思っていた。

「まったく、俺はどうすればいいんだ?」
「う、うるさいわね!もう少しだけこうさせてあげてるんだから感謝しなさいよ!」
「ハイハイ、ワロスワロス」
「何よ、ワロスって?」
「今年の流行語大賞候補」
「は?何言ってるの?聞いたことないわよ。それより…」
256Mr.名無しさん:2005/12/10(土) 18:38:24
「それより?」
「……でとう………」
「何?」
「誕生日、おめでとう…」
「あ、忘れてた。そうか、今日、俺の誕生日だ」
「か、感謝しなさいよ、私から祝ってもらえるんだから」
「はは、そうだな」
「そ、それとね…」
「何?」
「き、今日、ケーキを作ってみたから、ついでに食べてみない?」
「うっそ、俺の為にか?」
「ち、ち、ち、違うわよ!た、たまたま作ってみたかったから…」
「どうせまたどっかにメッセージか何か隠してあるんだろ?」
「……!!」

図星だった。この後に及んで素直になれない玲はスルリと保太郎の腕をすり抜け、
一目散にエレベーターに向かって走り出す。

「早く来ないとケーキ全部食べちゃうから!」
「ちょ、、、おま、、、俺の為のケーキだろ!」
「見つけられる物なら見つけてみなさい!!」
「よーし、ジッチャンの名にかけて見つけてやるってばよ!!」


玲が保太郎の為に作った手作りのケーキ。この時、既に玲の姉が半分以上
食べてしまった事など、知る由もない二人だった。

 〜 完 〜
257Mr.名無しさん:2005/12/10(土) 19:00:03
乙!!面白かったw
258Mr.名無しさん:2005/12/10(土) 19:40:55
GJ!!
正統派ツンデレにさんざん萌えさせられたよ

もしよかったらまた書いてもらいたいもんだ
259Mr.名無しさん:2005/12/10(土) 20:00:29
GJ!GJ!!GJ!!!

オチにもワロタw
260Mr.名無しさん:2005/12/10(土) 20:42:05

>>250のコペルニクス的転回には恐れ入った
261152:2005/12/10(土) 21:56:14
本当は>>152単発だったんだけど何となく続けちゃったんだよね
保太郎も実はツンデレだったって書きたかったんだけど
うまく書けなくて中途半端になっちった 文才ねーな、俺

何かいいの思いついたらまた書こうかな…
当分ROMって勉強でもすっか

読んでくれた人、ありがとねー
262Mr.名無しさん:2005/12/10(土) 22:34:55
グジョーブゥー!オチいいね!
263Mr.名無しさん:2005/12/10(土) 23:44:03
GGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGJJJJJJJJJJJJJJJJJJ!!!!!!!!!!!!!!
264Mr.名無しさん:2005/12/11(日) 13:32:52
乙保守
265Mr.名無しさん:2005/12/11(日) 18:51:37
保守
266Mr.名無しさん:2005/12/12(月) 02:48:35
まさにツンデレだな。ちゃんとツンツンしてるw
267Mr.名無しさん:2005/12/12(月) 11:33:06
エロゲオタなのがいいですね
2680701[二人・プラス]:2005/12/12(月) 18:57:35
今数えてみたら49レスもあったので、あらすじ的なもの。

隣の席ツンデレ→怒らせてしまう→お詫びに映画の約束→次の日主人公休む→ツンデレ家来る→何故か一緒に寝る→帰る
→妹いろいろ→映画館デート→喫茶店→公園でお弁当→寝る→起きる→キスされる→(一身上の都合により今は省略)→今回
2690701[二人・プラス]:2005/12/12(月) 18:58:15

「お兄ちゃん、起きてよ」
「ん〜・・・」
「遅刻するってば」

クーラーを付けっぱなしにして寝たせいだろうか、何か体中がだるい。
時計の針は8時15分を指している。

「あ〜今日は遅刻していくから」
「嘘!そういっていったことなんかないくせに」
「一回ぐらいは、あるって」

実際一回も無かった。

「もう、早く起きてよ。涼子ちゃん待ってるよ」
「あ〜先に行けって伝えといてくれ。俺は、もうだめだ・・・」
「ちょっとお兄ちゃん!・・・もう」

沙(なぎさ)はあきらめて部屋を出て行った。
これでようやく安眠できる。
俺はクーラーをけし、窓を開け、扇風機を回して眠りについた。



2700701[二人・プラス]:2005/12/12(月) 18:58:41



起きると10時過ぎだった&3時間目が体育ということを思い出したので、初めて遅刻して学校に行くことにした。
いつも通っているはずの道も、たった2時間違うだけでこんなにも雰囲気が違うとは驚きだ。
たまには遅刻もいいかもしれない。

「ん・・・?」

携帯がなったので見てみると、新着メールが一通。

「またさぼり?早く学校きなさいよね ゆか」

顔文字を一つも使わないし、最後の署名は絶対に抜かない。
間違いなくゆかからのメールだ。
今は・・・現代文の授業中のはず。
まぁいつも通り自習なんだろう。
授業中にメールを送ってくるほど、ゆかは不真面目ではない。

「今学校にむかってる、と」

送信ボタンを押そうとして、やっぱりやめた。
急にあらわれて、驚かしたほうがおもしろそうだから。
さ、さっさと学校へ行きますかね。



2710701[二人・プラス]:2005/12/12(月) 18:59:10




学校に着くと、ちょうど2時間目と3時間目の間の休憩時間だった。
といっても次は体育なので、教室には男子しかいない。
女子だけに更衣室があるとか、差別だ。

「あれ?お前が途中で来るなんてめずらしいな。何かあったのか?」
「別に。何となくきただけだ」

みんな特に興味があるでもなく、着替えを済ましてグラウンドへ向かっていた。
・・・何となく悲しいような。
俺も体操服に着替え、グラウンドへ向かった。



2720701[二人・プラス]:2005/12/12(月) 19:00:01



「ちょっとそこのあなた」

グラウンドに向かう途中、誰かに呼び止められた。
振り返ってみると、知らない女の子が一人。

「・・・俺?」
「そう、あなた」
「何?何か用事でも?」
「人に何か聞くときは、まず自己紹介しなさい」
「はぁ?」

何言ってるんだこの女は。
人に名前を聞くときは、の間違いだろ。
頭おかしいのか?

「・・・」
「何黙ってるの?早く名乗りなさい」
「嫌だね」
「なぜ」
「何か気に食わないから」
「そう。私は加奈子よ」

・・・え〜っと。
何ていうか、支離滅裂?
会話が全くかみ合ってない。
2730701[二人・プラス]:2005/12/12(月) 19:00:53

「加奈子って呼んでいいわ」
「・・・」
「私は放送部にはいってるの。お昼に流す音楽を選ぶ担当」

あぁ、あの放送はこいつがきめてたのか。
ヘヴィメタだったりロカビリーだったり、いつもめちゃくちゃな選曲。

「あぁ、今から家庭科室でパンケーキを作るの。後で持っていくわ」
「え?」
「あなた、何年何組でいらして?」
「3年9組だけど・・・」
「そう。じゃあまた後で」

変な女、加奈子はすたすたと行ってしまった。
あまりの不条理さに唖然としていた俺にお構いなしに、授業開始を告げるチャイムが鳴った。



つづく。
274Mr.名無しさん:2005/12/12(月) 19:02:51
続き&新キャラキタ Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒(。A。)!!!

まーた期待が高まりましたよwktk
275Mr.名無しさん:2005/12/12(月) 19:59:49
>>273
うほっ三角関係のヨカンWWWW
276Mr.名無しさん:2005/12/12(月) 20:01:13
すまん誤爆した
277Mr.名無しさん:2005/12/12(月) 20:06:34
続き乙

たがいちいちレス数えるなよ…
何か自慢にしか見えないんだが
278Mr.名無しさん:2005/12/12(月) 20:48:24
何の自慢なんだよwwww
279Mr.名無しさん:2005/12/12(月) 21:18:57
>>277
(; ^ω^) 悪いけど男のツンデレには興味ないんだお
280Mr.名無しさん:2005/12/13(火) 00:47:49
久々に保守
281Mr.名無しさん:2005/12/13(火) 16:17:18
補習


に出ないと単位が危ない件
2820701[二人・プラス]:2005/12/13(火) 17:28:10


「今日は男女混合のバレーをします。チームはこのまえの班で・・・」

本当は男子がバスケ、女子がバレーのはずなのだが、手違いで体育館が使えないらしく、急遽男女混合バレーをすることになった。
バスケのほうが得意だけど、バレーもそこそこ得意なので、別になんでもない。

「なぁ、お前と俺って班同じだったっけ?」
「ん?確か俺とお前とゆかと〜(あと三人)だった気がする」
「あぁ、そうだったな。絶妙なチームワークが先生に好評だったっけ」

俺がレシーブ!ゆかがトス!恭平がスカ。
これこそが最強のチームワーク・・・なわけねぇよ。
ノリツッコミレベルが3下がった。

「はい、じゃあまずは1班対2班ね。よーいはじめ!」

この先生の口癖は「よーいはじめ!」だ。
・・・うん、どうでもいいか。




「ちょっと」
「え?・・・がはっ!」

呼ばれた振り向いた瞬間、顔に激痛が走った。
これは・・・ソフトボール?
投げた相手はやつに決まってる。
2830701[二人・プラス]:2005/12/13(火) 17:28:32

「いって〜!!」
「あんたなんでここにいるのよ。いつもみたいにさぼりじゃなかったの?」
「鼻血は・・・でてないな。いって〜」
「質問に答えなさいよ!」
「あ〜うるさいな。ってか何でいきなりソフトボールをぶつけられなきゃならんのだ?ばかかお前は」
「ソフトボール?私じゃないけど?」
「え?・・・じゃあ」

遠くを眺めると、優依がわらいながら走っていた。
・・・あいつかいな。

「早く質問に答えなさいよ。何であんたがいるわけ?」
「・・・お前の顔を、一秒でも長くみていたいから?」
「何で疑問系なのよ・・・」

つっこむ所そこかよ。まぁいいけど。
ゆかは俺に近づくと、そっと耳打ちをした。

「心配したんだから。休むときはメールぐらいしてよ」
「あぁ、わかったよ。そのかわり」
「そのかわり?」
「今日お前の家行くから」
「え?!今日?・・・別にいいけど」
2840701[二人・プラス]:2005/12/13(火) 17:29:21

「またクッキー焼いてくれよ」
「え?うん、いいよ。じゃあ代わりに・・・えっと」
「何だよ?」
「・・・まぁそれは家に着いてからでいいや」
「どうせエロイ頼み・・・がはっ!」

顔面を殴られた。
さっきソフトボールが当たったところをピンポイントで。
関係ないけど、女性の「男性にされてうれしいこと」の一位は頭撫でらしい。
お昼のワイドショー情報。

「・・・調子に乗らないでよね」
「冗談だよ。ってか殴るなよ・・・まじで痛い」
「あっ、ごめん。じゃあちょっとこっちむいて」

ゆかのほうを向くと、唇にやわらかい感触を感じた。

「お前・・・」
「痛いの、なおった?」
「・・・あぁ」

クラスメイトが笑っていたけれど、気のせいに違いない。

あぁ、絶対気のせいだ。


2850701[二人・プラス]:2005/12/13(火) 17:30:18

体育が終わって教室に戻ると、中にはやつがいた。

「・・・なんでここに」
「あら、私も今来たところよ」

だから会話がかみ合ってないって・・・
いつ待ち合わせしたんだよ。

「今からみんな着替えなんだよ。だからとりあえず外で待っててくれ」
「もう、せっかちなんだから」

意味不明な発言を残し、加奈子は教室の外へ出た。
みんなが着替え始める。

「なぁ、今の誰?」
「何か今朝急にからまれたんだよ。お昼の放送の人らしい」
「へぇ〜結構可愛いな」

言われてみればそうかもしれない。
変な言動に圧倒されて顔を見るのを忘れてた。
ってか今朝コンタクトしてくるのを忘れたせいで顔がよく見えない。
そうか、かわいいのか。でも。

「・・・気をつけろ、あいつ頭おかしいから」
「何だよそれ」

友人はそれ以上何も聞いてこなかった。
まぁ聞かれても答えられないけど。
そしてみんなの着替えが終わった。

2860701[二人・プラス]:2005/12/13(火) 17:31:00

「ケーキってドイツ語でトルテっていうらしいの」
「へぇ〜」
「三行半はゴメン!って感じですわね」
「ソウデスネ」
「じゃあ一口食べてみなさい。9割は焦げてしまいましたけど」

100%投げやりな俺。
特に抵抗することも無く、ケーキを口に入れた。

「どう?立てば芍薬座ればボタン、歩く姿は百合の花でしょう?」
「・・・ふつう、だな」

もうホント、頭がおかしくなってきそうだ。
何もかも、全て、違う!
でもケーキの味は全然普通。

「あぁよかったわ。危うくさじを投げるところだったの」
「さいですか」
「じゃあ帰るわね。あ、言い忘れたけれど、私りんごは苦手なの。それではごきげんよう」

・・・寝よう。
としたらゆかが話しかけてきた。

「今の、誰?」
「僕には何もわからないんだっ!」

僕って言って、寒気がした。
散々だ。もうほんとに寝よ・・・


2870701[二人・プラス]:2005/12/13(火) 17:31:25


昼休み。

「ねぇ、お昼どうするの?」
「ん?いつも通り屋上だけど」
「そう・・・」

俺は登校途中に買ったパンとコーヒーをもって屋上の恭平の下へと向かった。
後ろからなんとなくゆかの視線を感じた。

「うぃ〜っす」
「・・・また来たのかよ」

屋上には、恭平と優依がいた。
いつも一緒にお昼を食べているメンバー。
と言っても西田はたまにしかこないけど。

「またってなんだよ?もうくるなって意味か?」
「そうじゃなくて、お前、ゆかちゃんはどうしたんだ?」
「どうしたって何が?」
「何で一緒に飯を食わないのかを聞いてるんだよ」
「一緒に飯?・・・なんで?」
「なんでってそりゃ・・・」
「恭平君は、気を使ってるのよ。いらない気をね」
「ゆかと一緒に飯、ねぇ・・・何かありえない」
「いやまぁ、お前はそれでいいだろうけどさ。ゆかちゃんはどうなんだよ?」
「ゆかは・・・あぁ、確かに一緒に食べたそうにしてたかも」
「じゃあ一緒に食べてやれよ。」
2880701[二人・プラス]:2005/12/13(火) 17:32:22

ゆかと一緒に飯、か。
完全に盲点だった。
でも一緒に食べる気は無い。

「お前が優依と二人っきりになりたいって言うなら協力するけど?」
「・・・もういいよ」

恭平はあきらめたように立ち上がり、ゴミ箱にコンビニの弁当のからを入れた。
俺もパンのごみをゴミ箱に投げ入れ、立ち上がった。

「ゆかに俺を取られても悲しくないか?」
「・・・とりあえず死ね」



つづく。
289Mr.名無しさん:2005/12/13(火) 18:03:03
乙!続き待ってました!
290Mr.名無しさん:2005/12/13(火) 18:18:56
乙ンデレ
291Mr.名無しさん:2005/12/14(水) 06:45:02
乙彼様
292Mr.名無しさん:2005/12/14(水) 13:17:01
乙!!!!!!!!!!11
293Mr.名無しさん:2005/12/14(水) 14:06:43
ageないようにね
294Mr.名無しさん:2005/12/14(水) 15:39:43
ごめん俺だ・・・すまん!
2950701[二人・プラス]:2005/12/14(水) 18:12:49
>>288

放課後、帰り道は一人と決まっている。
でも今日はゆかの家にいく約束をしている。
下駄箱で靴を履き替え外に出てゆかを待っていると、雨がぽつぽつと降り出した。

「うざいな・・・」
「そうね・・・」
「うわっ?!」

びっくりして横を向くと、そこには優依がいた。
あまり困っていなさそうな顔で。

「急にあらわれるなよ」
「いや、そっちが急にあらわれたんでしょ?私はずっとここにたってた」
「うん、まぁ、そうなんだけど」

優依は非常に扱いづらい。
何をしでかすか分からないのは、散々学習させられた。

「ねぇ、折り畳み傘持ってる?」
「二つ持ってるけど、お前にはかさない」
「相合傘をしたいなんて・・・私に気があるの?」
「ちがうっつーの。お前今日俺にソフトボール当てただろ?体育の時間」
「あてるつもりはなかった。今は後悔している」
「何だそれは。とりあえず、お前には貸さないからな」

貸さない=傘無いとかいうへんなダジャレを思いついた。
笑いレベルが8下がった。
2960701[二人・プラス]:2005/12/14(水) 18:13:32

「しょうがない、自分のを使うか」
「もってんのかい!」
「じゃ、また明日」

優依は傘をさすと、足早に帰っていった。
本当に、掴めないやつだ。

「・・・良い夫婦漫才だったね」
「え?あぁ、まぁな」
「へぇ、認めるんだ」
「・・・お前、もしかしてやきもち焼いてる?」
「そ、そんなわけないでしょ!さぁ早く・・・」

俺は強引にゆかの顔をこちらに向け、キスをした。

「ちょ、ちょっと、いきなり何するのよ!誰か見てたらどうするの!」
「誰も見てないって。ってか体育の時間にやったやつはだれだよ」
「あれは、その」

顔を真っ赤にさせてうつむいているゆかを見ていると、無性に抱きしめたくなってきた。
でも今は我慢。今日はゆかの部屋で思う存分にほにゃららできるのだから。

「お前、傘は?」
「・・・ない」
「じゃあ初相合傘?二人の初めての共同作業?」
「へ、変な風に言わないでよ。さっさと帰りましょ」
「ちょっと待てって」

ゆかと相合傘をしながら、ゆかの家へ向かった。
何となくいつもよりどきどきしていた。
2970701[二人・プラス]:2005/12/14(水) 18:14:44



ゆかの家の前に着くと、大きな黒い車が目に入った。
・・・もしかして。

「・・・ごめん、今日は無理みたい」
「あぁ、わかってるよ」
「ほんとゴメン!じゃあ」
「また明日・・・」

ゆかは足早に家の中に入っていった。
あの黒い車はゆかの父親のもので、父親がいる日は基本的に家にはあげてもらえない。
何でもものすごくきびしいパパなのだとか。
高3にもなってパパって・・・
かわいいからいいけど。
俺はとぼとぼと自宅への帰路についた。



2980701[二人・プラス]:2005/12/14(水) 18:15:07


「ただいま〜」
「おかえりなさい」
「あれ、母さん?何でいるの?」
「今日は仕事が休みなの。沙に言っておいたはずだけど?」

そんなこと全然きいてない。
いや、言ってたかもしれない。俺が覚えていないだけで。
まぁどうでもいい。

「きょうはゆかちゃんの家には行かないの?」
「あぁ、父親がいるとかで・・・って別にいつも行ってるわけじゃないだろ」
「行かなくてもずっとメールしてるって、沙に聞いたわよ」
「そういえば沙は?」
「今日もお友達の家ですって。でも7時前には帰るって電話があったわ」
「ふ〜ん」
「今日の晩御飯はすき焼きよ」
「・・・うれしくない」

すき焼き、というか牛肉は脂っこくてあんまり好きじゃない。
肉と言えば鶏にきまってる。あとウサギも好き。
俺はお茶とお菓子を持って自分の部屋へあがった。
そして部屋に入ろうとすると、中に気配を感じた。

「沙はいないし・・・あいつか」

俺は扉を開けた。
2990701[二人・プラス]:2005/12/14(水) 18:15:28

「おそい〜〜!待ちくたびれた〜〜!」
「・・・約束なんかしてないだろ」
「ちゃんとメール送った〜〜!」
「え?」

俺はポケットから携帯を取り出した。
しかし、液晶にはカレンダーが表示されている。

「嘘つくなこのちびすけが」
「嘘じゃないもん!ちゃんと送ったよ!」
「でも携帯には何も」
「パソコンに!」

・・・ばか?

「学校でパソコンが見れるわけないだろ。あと勝手に俺の机を漁るな」
「エッチな本とか全然無かったけど、どこに隠してるんだ!はけ!」
「ないよそんなもん」
「嘘つくな!あと使用済みのコンドームはどこだ!」

10歳児の涼子の口から『使用済みコンドーム』という言葉が出てくるとは。
世も末だな・・・ってかあれの模型にゴムをつける練習をするのってほんとなのか気になる。
俺はお茶とお菓子をテーブルに置いて、涼子の前に座った。
3000701[二人・プラス]:2005/12/14(水) 18:17:07

「なぁ」
「ん?」
「・・・リョコ」
「うっ」
「リョコリョコリョコ」
「うぅ・・・」
「リョコリョコリョコリョコリョコリョコリョコ・・・」

涼子は何故か『リョコ』と呼ばれるのが大嫌いだ。
子ども扱いされてるとでも思うのだろうか。

「どうしたリョコ?なにか言ってみろよリョコ」

・・・何か語尾に『にゃー』ってつけてるみたいな気がしてきた。

「うぅぅぅ・・・」
「リョコたん、お菓子食べまちゅか〜?それともまだママのおっぱいのほうがいいかな〜?」
「・・・」
「かえるリョコリョコ3リョコリョコ、あわせてリョコリョコ6リョコリョコ」
「・・・」
「どうしたんでちゅか〜リョコたん。おねしょでもしたんでちゅか〜?」
「・・・ふぇ」

あ、やりすぎた。
3010701[二人・プラス]:2005/12/14(水) 18:17:35

「ふぇ〜〜〜〜〜ん」
「え?おい、な、なくことないだろ」
「うぇ〜〜〜〜〜ん」
「ほら、お菓子やるから」
「そんなのいらないもん!うぇ〜〜〜ん」
「じゃ、じゃあお茶でも飲むか?リョコ」
「・・・」

あ、またやってもうた。

「お前なんか、農夫の角で頭打ってしねーーーー!!!」

農夫・・・?あぁ、豆腐ね。
涼子はそう叫ぶともの凄いスピードで部屋を出て行った。
ついでにドアノブを壊された。

「はぁ、疲れる・・・あ」

そういえば今日は母さんがいるような。

「俺のほうが泣きたいよ・・・」

晩飯抜きが決定した。



つづく。
302Mr.名無しさん:2005/12/14(水) 19:41:29
リョコモエスwwww

GJ!!!
303Mr.名無しさん:2005/12/14(水) 19:53:50
りょこりょこりょこりょこりょこりょこりょこりょこりょこりょこ

モエス
304Mr.名無しさん:2005/12/14(水) 21:28:41
人物のまとめ頼むよ
増えてきてわからなくなった
305Mr.名無しさん:2005/12/15(木) 16:25:29
GJ
306Mr.名無しさん:2005/12/15(木) 16:36:40 BE:336548148-
>>304

[メイン]
ゆか:ツンデレ@隣の席。高3。
沙(なぎさ):妹withブラコン気味。中3。
涼子(リョコ):うるさいお隣さん。小4。
優依:クラスメイトもしくは相方。高3。
加奈子:お昼の放送の中の人。高2。

[サブ]
恭平:友人。高3。
母さん:おかあさま。30代。
マスター:喫茶店経営者。たぶんバツイチ50代。


[最初から読むのがメンドクサイ人へ送る、あらすじっぽいもの]
隣の席ツンデレ→怒らせてしまう→お詫びに映画の約束
→次の日主人公休む→ツンデレ家来る→何故か一緒に寝る→帰る
→妹いろいろ
→映画館デート→喫茶店→公園でお弁当→寝る→起きる→キスされる
→(都合により今は省略)
→初めての遅刻登校→加奈子に翻弄される→ゆかの家に行く約束
→優依と夫婦漫才→パパがいるから今日はダメ→リョコリョコリョコ
→つづく
307Mr.名無しさん:2005/12/15(木) 17:56:31
>>306

エロゲのフローみたいで分かりやすい
308Mr.名無しさん:2005/12/15(木) 19:54:40
誰もいない昼下がりの給湯室。沙織は手作りの弁当を健一に渡す。

「これ、食べて」
「えっ、僕の為に作ってくれたんですか?」
「昨日友達が家に来て、たくさん作って余ったの」
「余り物でも嬉しいです。沙織さんの手作りですから」
「捨てるの勿体無かったし、いわゆる残飯処理ってヤツね」
「ひっどいですねー、餌付けされるんですか、僕」
「つべこべ言うなら返して」
「あっ、嘘です。どうもです。おいしく頂きます」

ペコリと頭を下げ、給湯室を出ようとする健一はお茶を用意している沙織をからかう一言を残す。

「本当は僕の為に作ってくれたんでしょー」

ガシャーン
沙織は手にしていた湯のみを滑らせ、床に落としてしまう。

「アンタがくだらない事言うから割っちゃったじゃない!!」
「うっひゃー、怖い怖い。退散しまーす」
「あっ、こら!待ちなさい!!」

健一の姿が見えなくなった頃、小さな小さな声で沙織は呟く。

「…アンタの為に作ったんだよ……」
309Mr.名無しさん:2005/12/15(木) 20:19:19
はぁ・・・クリスマスも一人で2ch・・・欝


とりあえず乙
310Mr.名無しさん:2005/12/15(木) 22:51:32
>>308
沙織からもらった弁当を綺麗に食べた健一。ここでひとつ問題が発生した。

「弁当箱、どうやって返そうかな?」

そろそろ昼休みも終わり、みんな席に戻ってくる。
全社員30人程のソフト開発会社。ノコノコと返しにいったらどんな噂が流れることやら。
あれこれ考えている内に時計は13時になった。

「とりあえずメールで聞くとするか」

右斜め前に座っている沙織宛てにイントラネットメールを送信する健一。

  【 ご馳走様でした。すっごく美味かったっす。
    また作って下さいよ〜。なんちって。
    さて、どうやって弁当箱返せばいいっすか?  】

少しして沙織からメールが届く。健一はメールを開封する。

  【 洗って返すのが礼儀じゃない?会社で出来ないなら家で洗ってきて。
    明日には返して  】

このメールに健一は困惑する。洗って返すのはもっともだ、しかし、明日は土曜日で会社は休み。
しかも明日は健一にとって3ヶ月前から楽しみにしていたイベントがあったのだ。
311Mr.名無しさん:2005/12/15(木) 22:52:56
「まいったな…明日はゆかなさんの公開放送なのに」

場所は都内某所。健一の家からは片道2時間はかかる。あまり出ない都心なので
公開が放送が終わったらそのままアキバ探索を計画していた。
どちらを優先するか…健一はあまり悩まずささっとメールを沙織に送る。

  【 すんません!!明日はどーしても用事があるので日曜でもいいっすか?  】

さすがに用事があるといえば向こうも折れるだろう、健一はそう思った。
間もなく沙織からの返信が届く。

  【 湯のみが割れたんだけど。誰のせい?
    いいから明日持ってきて。○○駅西口11時
    こなかったらタダじゃおかないから 】

「ふもっふ!!!」

心の中で健一は叫ぶ。沙織が指定してきた駅はまさに明日行こうとした場所だった。
沙織の申し出を無視し、公開放送に行ってもバッタリ遭遇したらどうなる事やら。
観念した健一は弱弱しいキータッチで返信する。

  【 ……了解しましたよ…綺麗にして持っていきまつ…】

うつむきながら送信ボタンをクリックする健一。そのメールを開封した沙織は
誰にも気づかれないよう、微かに微笑した。
312Mr.名無しさん:2005/12/15(木) 22:54:11
「あれ?お姉ちゃん、出かけるの?」
「うん、ちょっとね」

土曜日朝8:00、沙織はドレッサーの前で髪型を整えている。
無意識に鼻歌を歌う沙織を見て妹は何かを感知した。

「ひょっとしてデート?」

滑らかに髪を滑るブラシがピタっと止まる。

「あー、そうなんだ、そうなんだ!!ね、ね、どんな人?」
「そ、そんなんじゃないよ」
「だっていま明らかに動揺したじゃん」
「こ、これは、、、え、枝毛が引っかかったの!」
「ふ〜ん、枝毛ねー、こーんなサラサラな黒髪なのに〜?」

沙織の髪に頬ずりする妹。からかわれている事に気づき、少しだけ恥ずかしくなる沙織。

「いいからどきなさい!!間に合わなくなっちゃうでしょ!」
「おー怖っ!そんなツンツンしてたら犬も寄り付かないわよーだ」

攻撃を受ける前に退散する妹。沙織は鏡にうつる自分に問いかける。

「ねぇ、沙織…あなたは何でいつも素直じゃなの?」

後ろで妹の笑い声が聞こえてくる。聞き耳を立てていたらしい。
独り言を聞かれ、死ぬほど恥ずかしい思いをした沙織はクッションを手にし、
妹を追い掛け回した。
313Mr.名無しさん:2005/12/16(金) 00:22:45
>>312
イイヨイイヨー
314Mr.名無しさん:2005/12/16(金) 01:05:53
自分と重ねると欝・・・になりながらも乙&GJ
315Mr.名無しさん:2005/12/16(金) 01:58:04
うあ、なんかコレいい・・・
316Mr.名無しさん:2005/12/16(金) 19:58:29
>>312
約束の時間より30分早く待ち合わせ場所に到着した健一。
いつもなら待ち合わせに遅れるばかりの健一だが今日は意気込みが違った。
公開放送はあきらめた。でも、せめてアキバ探索はさせてくれ!
さっさと用事をすまし聖地へ向かいたい一心だった。
そんな健一の目の前では次々と待ち合わせ相手が来るカップルがやたら目につく。

「さすが都心の土曜日だな」

カップルばかり見ててもしかたない、健一の視線は無意識に女子高生のスカートに向かう。

「さすが都心の女子高生だな…」

心の中でニヤニヤする健一。すると後ろからひざカックンをされる。
突然の不意打ちに健一はその場にくず折れた。

「やったー!成功!成功!」
「イタタタッ……」

振り返ると無邪気に笑う沙織がいた。
あまりにも笑っているので健一は何だか照れくさくなる。

「わざと転んであげたんですよ……」
「それにしては慌てたみたいだけど?」

笑いながら手を差し伸べる沙織。健一はその手を掴む。
 (沙織さんの手って、こんなにやわらかいんだ…)
健一は急にドキドキし始めていた。
317Mr.名無しさん:2005/12/16(金) 20:00:18
「あ、え、えっと、有難うございました」

健一はリュックから弁当箱を取り出し、沙織に渡す。

「ちゃんと洗ってきた?汚れ残ってない?」
「もう削れるぐらいこすって来ましたよ、、、、たわしで」
「えっ、ちょ、ちょっと!」

慌てて弁当箱を開けようとする沙織を見て健一は笑い出す。

「やーい、引っかかった!そんな事しないっすよ」
「あー、騙したな!」
「さっきのお返しですって」
「ひっどーい」

この数分で猫の目みたいに笑ったり怒ったりする沙織。
健一はそんな沙織を社内で見たことがない。ふと疑問に思う。

「何か今日はいつもと違いますね、沙織さん」
「え、そ、そうかしら?」
「何か良い事あったんですか?」
「べ、別に何もないわよ、そ、それより…」
「何っすか?」
「お昼ご飯食べない?」
「えっ、うーん…」
「私の手作り料理を食べさせてあげたんだからおごりなさいよ」
「だってあれは残り物…」
「はい、決定。近くに美味しいパスタ屋があるから」

有無を言わさず健一の背中を押す沙織。心の中で健一の背中に向かって話しかける。
 (良い事は…アンタと一緒にいる事じゃない……)
318Mr.名無しさん:2005/12/16(金) 20:02:50
書いててリアルで寂しくなってきた…
社内恋愛ってこんな感じなのかな……いいな、いいな
心が折れそうだ…
319Mr.名無しさん:2005/12/16(金) 20:04:32
ワラタ、泣いた。
320Mr.名無しさん:2005/12/16(金) 22:13:14
ヽ(`(`(`(`ヽ(`Д´)ノ ウワ・ウワ・ウワ・ウワ・ウワアァァァン!!
もうすぐクリスマスウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!!!!!!!!!1


乙!GJ!
321Mr.名無しさん:2005/12/16(金) 22:14:46
>>318
イ`。おまいの妄想を、漏れは楽しみに待ってるぞ・・・・
322Mr.名無しさん:2005/12/17(土) 00:40:58
>>317
沙織お気に入りのパスタ屋に入る二人。窓際の席へ通される。

「早く決めてね」
「え?メニュー見ないんですか?」
「ここではいつも同じ物を食べるから」

沙織はメニューと真剣ににらめっこする健一を見つめていた。
1,2分迷った健一はおもむろに顔を上げる。

「ダメだ。わかんないっす。僕、ナポリンタンとカルボナーラしか知らないし…」
「どっちかでいいんじゃない?」
「いや、せっかくこういうトコ来たんなら他の食べたいし…」

他愛もない会話を続けていると店員がオーダーを取りに来る。

「どうする?待ってもらう?」
「いや、大丈夫です!出たトコ勝負で。先にどうぞ」
「えっと、私はホウレン草のクリームパスタで」
「じゃあ、僕も同じのを」
「えっ…」
「いやー、沙織さんお気に入りなら間違いないかなと思って」

同じ物を注文した毛に健一にムスっとする沙織。

「あれ、まずかったですか?」
「別に、好きなもの食べればいいじゃない」

そう言って沙織はプイっと窓の外を見る。同じ物だと出来ない事があるからだ。
 (それじゃ、お互いのパスタを交換出来ないじゃない…バカ!!)
323Mr.名無しさん:2005/12/17(土) 00:41:50
「うまいっすねー、これ!!」
「当然でしょ?私のお気に入りなんだから」

自分が気に入っているパスタを目の前で嬉しそうに食べる健一を見て
沙織は先程の不機嫌が吹き飛んでいた。

「僕、週末って結構牛丼が多くて」
「あら、吉野家って今、牛丼なかったんじゃないの?」
「吉野家なんて邪道ですよ!僕が行くのは本当の牛丼専門店ですから」
「ふーん、そうなんだ」
「そこは量が半端じゃなくて、ちょっと甘めで、僕、大満足なんっすよねー」
「何だか美味しそうね。そうだ、今度そこに連れてってくんない?」

思いがけない申し出に思わずパスタをノドに詰まらす健一。
その店はとても女性を連れていけるような店ではなかった。

「ちょっと、大丈夫?」
「ゲホッ、、む、、無理っす…連れて行けないっす…」
「何でよ?」
「うー、何て言ったらいいんだろ…立ち食いソバみたいな感じで、女性客なんていないし」
「ふーん、そうなんだ。じゃあ諦めるわ。それより」
「何ですか?」

そう言って自分の携帯を取り出す沙織。
324Mr.名無しさん:2005/12/17(土) 00:43:47
「健一君の携帯って赤外線使える?」
「使えますよ。便利ですよね」
「私、使い方わからないのよ。ねぇ、私のに送ってみて」
「いいっすよ。ちょっと待って下さい」

そう言って携帯を取り出し、電源を入れる健一。

「いちいち電源切ってるの?」
「あっ、さっき話した牛丼屋って携帯禁止なんで、メシ食う前に電源切るクセがついちゃって」
「ふーん、頑固オヤジがいそうな店なんだね」
「えっとそっちの携帯でメニュー開いて………」

沙織の携帯へ自分のアドレスと番号を送信する健一。

「ふーん、そうやるんだ。私も送ってみていい?」
「いいっすよ」

今度は沙織が自分のアドレスと番号を健一の携帯へ送信。

「何か合コンみたいっすね」
「な、何バカな事言ってるのよ!」
「だってアドレス交換とかってするみたいじゃないですか」
「こ、これは、やり方を教えてもらっただけなんだから!か、勘違いしないでね!!」
「これで赤外線通信はバッチリですね。おっと、パスタが冷めちゃう」

沙織は赤外線のやり方は十分知っていた。これは健一のアドレスと番号が入手でき、
かつ、自分のを教えるという一挙両得作戦だった。自分の携帯に表示されている健一のアドレスと番号を嬉しそうに見ている。

「赤外線って言っても赤い線は出てませんよー」

からかう健一のパスタに、沙織は数的タバスコを投入した。
325Mr.名無しさん:2005/12/17(土) 00:47:02
>>321
ありがとう。楽しみにしてもらえるなら俺ガンガル
頑張ったから続き書いてみた。

でも…
やっぱ心が折れてたみたいだ…
誤字スマン

>>324 最終行
× 数的タバスコ
○ 数滴タバスコ 
326Mr.名無しさん:2005/12/17(土) 01:26:08
乙ドンマイ
327Mr.名無しさん:2005/12/17(土) 01:59:48
このスレまとめ

【連載中の作品】
GRAND SWORD ◆TBcre.iPI. 氏の作品
>84 >85 >86 >89 >90 >91 >98 >99 >100

0526[約束]
>108 >109 >110 >111 >112 >118 >119 >120 >121 >122
>124 >125 >126 >127
0527[EVE]
>132 >133 >134 >135 >136 >137 >138 >143 >144 >145
0527.5[兄妹]
>161 >162 >163 >164 >165 >166
0528[起転]
>177 >178 >179 >180 >181 >182 >183 >193 >194 >195
>196 >197 >198 >199 >200 >201 >202 >203 >204
0701[二人・プラス]
>269 >270 >271 >272 >273 >282 >283 >284 >285 >286
>287 >288 >295 >296 >297 >298 >299 >300 >301
あらすじ的なもの>268 登場人物整理>306

七誌さんの作品1
>70 >71 >72 >218 >219 >220 >221

七誌さんの作品3
>229 >230 >231 >232 >233 >234 >236

七誌さんの作品4
>308 >310 >311 >312 >316 >317 >322 >323 >324
328Mr.名無しさん:2005/12/17(土) 02:00:46
【完結した作品】
ツンケンした彼女(前スレ>960からの続き)
>24 >25 >57 >58 >59
デレデレした彼女
>60

七誌さんの作品2
>152 >155 >156 >157 >158 >171 >172 >173 >242 >243
>249 >250 >254 >255 >256


七誌さんの作品については初出が早い順の番号。
コテ酉や、簡単なタイトルをつけない職人さんが多いので
どのレスの続きなのか投下の最初に示してもらえるとまとめやすいです。
そういった意味では今回のまとめは非常に助かりました。
間違い等あったら遠慮なく指摘どうぞ。
329Mr.名無しさん:2005/12/17(土) 02:09:12
投下、まとめ共に乙
330Mr.名無しさん:2005/12/17(土) 09:50:42
おお、まとめさん乙!
職人さんもガンガレ〜
331TS ◆Jr4wb2zZIE :2005/12/17(土) 13:15:22
まとめさん、乙です
七誌4、2です
わかりやすいようにコテ付けました
健一の続きは以降このコテでいきますね
332Mr.名無しさん:2005/12/17(土) 13:21:26
>>331
乙。
次回のまとめのときに書き換えますかね。
333Mr.名無しさん:2005/12/18(日) 16:47:58
hoshu
334Idea-Real-Ist:2005/12/18(日) 17:32:53 BE:294479647-

目覚ましが鳴っている。
時間は6時50分。
目覚ましはベッドからぎりぎり手の届かない所に置かれている。
そうしないと、なかなか起きれないから。
ベル音だとびっくりするので電子音。そこは重要。
ベッドから起き上がって目覚ましを止めた。

「・・・」

僕はベッドに身を投げた。
起き上がるわけでもなく、そのまま眠るわけでもなく、自然体のまま。
全身に重くのしかかる倦怠感も受け止めて。
いろんなことを考え、諦め。
少しの期待と大きな絶望で。
自分の存在する意味を。
考える。
僕はこの時間が、好きだ。
そして僕の邪魔をするやつは、とても憎い。

「おきてるー?」

そう言いながら扉を開けたあずさを、僕は睨んだ。
あずさは少しうろたえたが、すぐに元の笑顔に戻った。
335Idea-Real-Ist:2005/12/18(日) 17:34:27 BE:42068922-

「おきてるんなら返事ぐらいしてよ」
「・・・」
「ねぇ」
「・・・」
「ねぇってば」
「・・・」
「なに無視して」
「うるさい!」

僕はあずさを思い切り怒鳴りつけた。
流石のあずさも本気で驚いているようだった。
この行動に、裏も表も、何も無い。
言うなればそれは衝動で。
抑制のきかないものだった。

「いちいちうるさい。うざいんだよ。とっとと出ていけ」
「別にそんな言い方しなくたって・・・」
「聞こえないのか?出ていけって言ってんだよ。出ていかないのなら死ねよボケ」
「・・・うん」

彼女の今の返事は、果たしてどちらへの答えだろうか?
わからない。わかりたくもない。僕には関係ない。

「じゃあ下で待ってるから」
「・・・」
「・・・あと」
「なんだよ」
「おはよう」

そういって彼女は扉を閉めた。
336Idea-Real-Ist:2005/12/18(日) 17:35:15


1階へおりると、いいにおいが鼻をくすぐった。
今日のメニューはたぶんベーコンエッグ。
焼きたてのパンにのせて食べよう。

「おはよう、母さん」
「おはよう」
「今日の朝ごはんは母さんが作ったの?」
「えぇ。たまには母親らしいこともしないと、忘れられてしまいそうで」

そう言って笑う母さんは、何か物寂しげだった。

「さっき大きな声が聞こえたけど、何かあったの?」
「・・・それ、知ってて聞いてるでしょ」
「あら、そんなことないわよ。あなたがあずさちゃんにヒドイことを言ったなんて全然知らないわ」
「知ってるじゃんか」

僕は苦笑しながらテーブルに座った。
リビングでは、あずさがテレビを見ている。
いつも通りの星占いを。

「そういえばあなたたち、明日は暇かしら」
「何で?」
「せっかくの休みだから、どこかへ出かけようと思って」
「僕は暇だけど」

僕はあずさの方を見た。
337Idea-Real-Ist:2005/12/18(日) 17:35:56

「わたしも暇。そこにいるやつほどじゃないけど」

あずさの声には少し怒気が含まれていた。
まぁ仕方ない。結構ひどいこと言ったし。

「じゃあOKね」
「で、どこに行くの?」
「そうね・・・それは考えておくわ。それより二人とも、時間はいいの?」
「え?」

テレビを見ると、もう7時30分だった。
50分に家を出ないと、学校には間に合わない。
あずさはとっくに支度を終えているけど、僕はまだ朝ごはんさえ食べていない。
というか。

「母さん、ご飯、まだ?」
「・・・あら」

大して慌てることもなくキッチンに料理をとりに行く母親を見て。
僕は、笑った。

338Mr.名無しさん:2005/12/18(日) 17:49:55
お、新作だね
wktk
339Mr.名無しさん:2005/12/18(日) 18:16:37
逆ツンデレktkr?
340Mr.名無しさん:2005/12/18(日) 19:38:55
ワクテカしつつ保守
341TS ◆Jr4wb2zZIE :2005/12/18(日) 22:29:28
>>324
パスタ屋を出る二人。会計はもちろん健一だった。
健一は思った。どうやって沙織から逃げようか。
時計は1時30分を少し回った、ここから聖地まで30分弱。
夕方に閉まる店が多いから3時間は探索出切る。そう思っていると沙織が話しかけてくる。

「ねえ、これからどっか行くの?」
「え、あ、いや…」

用事があります、と素直に言えばもしかしたらついて来るかもしれない。
それだけは避けたい、でも、何もないと言えばどこかにつれ回される…
どう答えるのがベストか、、健一の頭脳はフル回転していた。
とりあえず探りを入れてみるか…

「沙織さんは何か用事あるんですか?」
「……」

話しかけるが沙織はうつむいたまま黙っている。

「沙織さん?聞いてます?沙織さーーーん!」

何度も呼びかける健一。でも沙織は黙ったままうつむいている。
いや、顔を上げる訳にいかなかったのだ。
342TS ◆Jr4wb2zZIE :2005/12/18(日) 22:30:08
 (ちょ、ちょっと、、、何でいるのよ!)
沙織と健一が立ち話している場所からすぐ側のクレープ屋に、沙織の妹が友達と並んでいた。
出掛けに妹にからかわれていたので今、健一を一緒にいるのを見られるのが恥ずかしかった。
もちろん、妹が側にいることなど知らない健一は容赦なく沙織に話しかける。

「さ・お・りさーんってば!」

 (もう!そんなに呼ばないでよ!!見つかっちゃうでしょ!?)
クレープを買い終えた妹とその友達は運悪く沙織と健一の方へ歩いてきた。
 (ど、どうしよう…)

追い込まれた沙織は突然健一の手を握り、駅とは反対方向へ歩き出す。
とにかく妹にバレないよう、その場を立ち去りたかった。

「えっ、ちょっと…さ、沙織さん?」

突然手を握られ、とまどう健一。先程より強く握られた手のひらが熱く感じられる。
ただただ、ドキドキしながら戸惑うばかりの健一だった。
無我夢中にその場から離れた沙織。数分したところで立ち止まった。

「ど、どうしたんですか?急に」

妹がいたから逃げ出した、、何て事は口が裂けても言えない沙織はとっさに嘘をつく。

「こ、この辺にいいお店があるらしいから連れて来てあげたのよ」
「え、で、でも、この周りって…」
「何よ?文句あるの!!!」

沙織も自分がどこにいるか分からない。何故、健一が戸惑っているんだろう?
ぱっと辺りを見渡す沙織の目は真ん丸になった。
適当に逃げ込んだ地域はラブホテル街だった。
343Mr.名無しさん:2005/12/18(日) 22:45:20
ちょwwっをまwwwwww
強烈なツンとデレの悪寒wwwwwww

ワクワクテカテカ
344Mr.名無しさん:2005/12/18(日) 22:45:23
ぐふふ・・・GJ・・・
345Mr.名無しさん:2005/12/19(月) 00:19:32
職人さん乙。
最近職人降臨率高いな。
346Mr.名無しさん:2005/12/19(月) 02:10:07
(*´Д`)'`ァ'`ァ
347Mr.名無しさん:2005/12/19(月) 09:38:09
ラブホ(*´Д`)ハァハァ/lァ/lァ/ヽァ/ヽァ ノ \ア ノ \ア / \ ア / \ ア

テラGJ!!
348Mr.名無しさん:2005/12/19(月) 22:09:58

    _  ∩
  ( ゚∀゚)彡 ラブホ!ラブホ!
  (  ⊂彡
   |   | 
   し ⌒J
349TS ◆Jr4wb2zZIE :2005/12/20(火) 01:01:01
>>342
エレベーターを降りる二人。目の前には部屋のルームナンバーが点灯している。
鍵を差す健一。その手は震えている。
部屋へ入ると沙織は真っ直ぐに浴室へと向かう。
健一は一人ベットに腰掛ける。

「マ、マジで沙織さんと…」

風俗経験はあるがいわゆる素人童貞。いくら相手が年上とは言え、ここは自分がリードしなければ…
そんな責任感が健一にのしかかる。

「ま、ま、まずはゴムチェック…」

洗面台に水をため、ティッシュの下に置いてある2個のゴムを水に浮かべる。
泡は立ってこない。とりあえず一安心。
でも、困った事がおきた。

「あ、お、俺、自分で付けた事ない…」

健一は焦った。いざとなったらAVで見た腹出し?でも遅れたらどうしよう…
あぁ、こんな事なら昨日たくさん自分でやっておけばよかった!
あれこれ悩んでいるとシャワーを浴び終えた沙織がバスタオル1枚で出てきた・・・
350Mr.名無しさん:2005/12/20(火) 01:05:47
ちょ、おま、そこで切るのかよ!!!!11111
351TS ◆Jr4wb2zZIE :2005/12/20(火) 01:08:29
「…ちょっと…聞いてる?」

沙織が健一に呼びかける。
独身男性の妄想スピードはこれほどまでに速いのか。
実際、二人はまだラブホテル街にいた。ホテルには入っていなかったのだ。
健一の脳はすさまじい速さで妄想していた。

「わ、私、場所間違ったみたい・・・」

沙織は自分の非を素直に認めた。
しかし、妄想暴発の健一には何も聞こえなかった。

「しゃ、しゃおりさん!!!!!」
「えっ、ちょ、、、、ちょtっと!!どうしたの???」

いきなり沙織の肩を抱きすぐそばのホテルへ入ろうとする健一。
妄想と現実の区別がつかなかった。
沙織はあっけにとられる。いくら自分が間違ってこんな場所に連れてきたとはいえ
さすがに強引に連れ込まれるのは…

「ば、バカじゃないの?!!!じゅ順番って物があるでしょ!!!」

バッチーーーーン!!!

昼下がりのホテル街に容赦ないビンタの音が響き渡った。
352TS ◆Jr4wb2zZIE :2005/12/20(火) 01:10:08
>>350
おまい、ちょっと早漏wwww
夜はこれからだぜエwwwww
353Mr.名無しさん:2005/12/20(火) 01:15:19
うはwwwwww
見事に釣られたwwwwww
354TS ◆Jr4wb2zZIE :2005/12/20(火) 01:18:32
気がつくと沙織は自分の部屋にいた。
あれからどうなったか覚えてなかった。
覚えているのは健一をひっぱたいた…それだけは覚えている。

「アイツ…あの時どんな気持ちだったんだろう…」

抱きしめるクッションに力がこもる。

「私さえ、そ、、そ、、、その、、、、その気だったら…」

ボッと顔から火が出る感じを覚える沙織。抱きしめたクッションに顔をうずめる。

「迫られてたら…私・・・」




時を同じくして自分の部屋に戻った健一。
いつもならエロゲーをしている時間だ。
白川三姉妹攻略途中にもかかわらず、クリックする右手がすすまない。
普段ならスキップする会話を一言一句目を通す。

「はぁ…あんな事になるならもっとエロゲのフロー作るんだった」
「絶対フラグ立て間違えた!!!!」
「リセットプリーーーズ!!!!」

こうして悶々とした土曜の夜をすごした二人だった。
355Mr.名無しさん:2005/12/20(火) 02:18:08
白川三姉妹wwwwwww
356Mr.名無しさん:2005/12/20(火) 05:13:36
姉汁かよwwwwww
さっきまでやってたwwwww
357Mr.名無しさん:2005/12/20(火) 16:21:21
ちょwwwwwwwリアリティwwwwwwwwwGJwwwwwwww
358TS ◆Jr4wb2zZIE :2005/12/20(火) 23:43:59
>>354
湯船に入っている沙織はずっと健一の事を考えていた。
いつから好きだったんだろう?何で年下を好きになったんだろう?
初めて同じプロジェクトに入った?忘年会で隣の席になった時?
レクレーションで行ったバーベキュー?
どれもこれも思い当たる…
顔半分を湯船に沈め、ブクブクブクッと泡を立てる。

「アイツが、、悪いんだから………」





「恭子タン…」
「やっぱ長女っていいもんだ」
一人のルートをコンプした健一。あれから気を取り直し、ゲームに没頭していた。
ふっと時計を見ると23時を回っている。

「風呂でも入るか」

洗面室に行きふと鏡に映る自分の顔を見た。

「ははっ、、ほっぺが少し赤いや」

沙織に叩かれた左のホホが少し赤らみ、頬骨の辺りに微かな引っかき傷があった。
359TS ◆Jr4wb2zZIE :2005/12/20(火) 23:45:58
風呂から上がった健一。数分間携帯とにらめっこしている。

「そういえば今日、番号教えてもらったんだよな」
「やっぱ、、、あやまった方がいいよな」

電話をかけようとした健一だったが叩いた時の沙織の言葉を急に思い出す。

  ”ば、バカじゃないの?!!!じゅ順番って物があるでしょ!!! ”

「確かに順番って言ってたよな」
「!!!」
「それって…まさか…で、でも…」





部屋の電気を消し、ベットに寝そべりながら携帯を見つめる沙織。
健一の番号を表示しては消す、それを何度も繰り返し、オデコに携帯を当てる。

「早く電話してきなさいよ!もう!!」
「しょうがないわね、こっちからかけてあげますか」
「まったく、、」

健一の番号を表示し、通話ボタンを押す。
プッ、プッ、プッ……
しかし呼び出し音がなる前に電話を切る沙織。

「……アンタからの…電話が、、欲しいんだよ…」
360Mr.名無しさん:2005/12/21(水) 00:52:04
まったくもうデレまくりじゃないか
(;´Д`)'`ァ'`ァ
361Mr.名無しさん:2005/12/21(水) 01:12:11
っっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!
そこで切れるんか。うぬぅ・・・
362Mr.名無しさん:2005/12/21(水) 01:17:27
俺は杏子たんが好き
363Mr.名無しさん:2005/12/21(水) 13:56:54
ぼくもあんずたん
364Mr.名無しさん:2005/12/22(木) 10:52:18
あんずたんsage
365Mr.名無しさん:2005/12/22(木) 20:16:30
    _  ∩
  ( ゚∀゚)彡 あんずたん!あんずたん!
  (  ⊂彡
   |   | 
   し ⌒J
366Mr.名無しさん:2005/12/23(金) 08:45:36
杏子保守
367Mr.名無しさん:2005/12/23(金) 09:35:16
保守
368Mr.名無しさん:2005/12/23(金) 11:26:09
もうすぐクリスマスでつね('A`)
保守
369TS ◆Jr4wb2zZIE :2005/12/23(金) 12:16:25
>>359
あれから10日がたった。沙織も健一もお互い会話をしていない。
仕事上、会話をすることがあったが必要最低限の会話だけしていた。
沙織は健一からの言葉を待ち、また、健一はどう話せばいいか分からずにいた。
すれ違う二人の心、しかし運命の日は突然やって来た。

「かんぱーい!!」

師走のとある日。居酒屋で忘年会が催された。
一次会ではお互い遠くの席に座っていたが、相手に気づかれないよう視線を送る二人。
トイレへ席を立った沙織の後を追いかける一人の女性。
それは今年入社したあずさだった。

「沙織さん、ちょっといいですか?」
「何?」
「ずばり聞きます。健一さんの事どう思ってます?」
「ど、どうって…な、何が?」
「何となくなんですけど…沙織さんてもしかしたら健一さんの事好きなんじゃないかなって」
「そ、そ、そんなことないわよ!何言ってるの?あずさったら酔っ払ってんじゃない?」

激しく動揺する沙織。まさか勘付いている人がいるなんて。
「本当ですか?」
「しつこいわね、ありえないでしょ?!」
「あー、安心したー!じゃあ私、アタックしても大丈夫ですね」
「え…」
「それだけ確認したかったんです。もうすぐクリスマスですしね」

そう言って席にもどるあずさ。沙織はしばしその場に立ち尽くしていた。
370TS ◆Jr4wb2zZIE :2005/12/23(金) 12:18:22
突然のあずさの告白宣言。思いもよらぬところからライバルが出現した。
その事が頭から離れない。チラっと健一の方を見るといつの間にかあずさは健一の隣にいた。
寄り添うように雑談している健一とあずさ。沙織は気が気でなかった。
 (くっつきすぎじゃない?)
 (鼻の下伸ばして…みっともない)
お互いの飲み物を交換して飲んでいる二人。
 (ちょ、、ちょっと!!それって間接キスじゃないの!!)
楽しそうな健一の顔を見て、沙織は何だか寂しい気持ちになる。
 (やっぱり、年下の子がいいのかな…)
 (素直じゃない私は…ダメなのかな…)
グラスの中の氷がカランと音をたてる。沙織はうつろげな目でその様を見ていた。

一次会も終わり二次会へ移動する。健一は家が遠いので一次会で帰るらしい。
二次会に参加するつもりだった沙織は迷っていた。健一を追いかけるか、どうしようか。
 (迷ってたら…あずさが先に…)
 (でも、、何て言えばいいの?)

「じゃあすみません、お先に失礼します」

一行から離れ、駅へと歩き出す健一。その後ろ姿を見て沙織は決心する。

「私、家の用事があるのでやっぱり帰ります!!」

呼び止める酔っ払い上司を無視し、健一を追いかけるように沙織は歩き出した。
会社の一行が見えなくなった場所まで来て沙織は健一を呼び止める。

「健一君!待って!!」
371TS ◆Jr4wb2zZIE :2005/12/23(金) 12:19:01
「え、えっと…」
「あ、そ、その…」

駅から少し離れた駐輪場の片隅に沙織と健一はいる。
お互い言いたい事があるのに言葉にだせない。ただ時間だけが過ぎていく。

「沙織さんからどうぞ…」
「何でよ…こ、こういう時は男からでしょ……」
「…」
「…」

譲り合いながら重苦しく、また、期待感に溢れる時間が過ぎていく。
健一は大きく深呼吸し、意を決して口を開いた。

「この前はすみませんでした!」
「……」
「僕、どうかしてました」
「そ、そうね、どうかしてなきゃあんな事出来ないわよね、でも…」
「でも、、何ですか?」

 (私だからそうしたの?)
心では思っても口に出せない沙織。自意識過剰とも思えるので聞き出せなかった。

「な、何でもないわよ!そ、それよりさっきは随分楽しそうだったじゃない?」
「えっ、さっきって?」
「しらばっくれるつもり?あずさと楽しそうにしてたじゃない?!」
「いや、、、別に普通に話してただけですけど」
「ふーん、こーんなに鼻の下伸ばしてたけど?」

そう言って沙織は両手を上下に広げる。
372TS ◆Jr4wb2zZIE :2005/12/23(金) 12:19:48
「それってもしかして、ヤキモチですか?」
「バ、バカな事…い、い、い、言わないでよ!な、なんでアンタに…」
「違うんですか…ヤキモチだったら嬉しかったのに」
「えっ…」
「あっ、いや、、その、、、、まいったな…そんなに飲んでないのに」
「ど、どういう意味よ…」

思いもしなかった言葉に戸惑う沙織。もしかして、もしかして。

「僕、沙織さんの事、、」
「だ、だ、だから何よ…」
「そ、その、、何ていうか……」
「お、お、男だったら、、、はっきりしなさいよ!!」

健一も沙織も恥ずかしさを堪えるので一杯だった。耐え切れず口調が強くなる沙織。

「好きです!沙織さんが好きです!」

沙織の言葉に勇気ずけられ、思いのたけを口にする健一だった。

「健一君……」
「でも僕、年下だし、頼りないし、、男らしくないんで…」
「そ、そうね…ホント頼りないわよね」
「そうですよね…やっぱ…ダメですよね…」

沙織は自分の腕を組み健一の前に歩み寄る。

「何勝手に決めてるの?」
「えっ?」
373TS ◆Jr4wb2zZIE :2005/12/23(金) 12:20:45
「だ、誰もダメだなんて言ってないでしょ?」
「沙織さん?」
「まったく、、アンタが頼りないなら私がソバいてあげないとね」
「それって…OKって事ですか!!」
「さぁ?それより私が頼れる男になるんだよ!私だって…」
「な、何ですか?」

沙織は健一の両耳を自分の手でふさぎ、小声でささやく。
「私だって甘えたいんだよ…」

そう言って両手を健一の耳から離す。

「今、何て言ったんですか?」
「アンタがいい男になったら教えてあげるわよ!」
「えー、教えてくださいよー!」
「ほら、早くしないと終電なくなるわよ」

そう言って沙織は健一に微笑みながら駅へと走り出す。
健一も嬉しそうに後を追いかけた。

「え、あ、ちょっと待ってくださいよー」

駅まで数十メートルの距離、沙織と健一はどちらかともなく手をつなぎ、
クリスマスの行き先をあれこれ言い合いしながら歩いていた。
374TS ◆Jr4wb2zZIE :2005/12/23(金) 12:22:24
忘年会翌日、昼下がりの給湯室。あずさは手作りの弁当を沙織に渡す。

「これ、食べてください」
「えっ、何で私に?」
「昨日友達が家に来て、たくさん作って余っちゃって」

沙織は思った。何だかどこかで聞いたことあるフレーズだなと。

「でも、私もお弁当持ってきてるし」
「…本当は…沙織さんのために作ったんです……」
「えっ、どういう事?」
「私…沙織さんの事が好きなんです!!!」
「はっ?な、何言って……」

急に沙織に抱きつくあずさ。
沙織はビックリしあずさを突き飛ばす。

「な、何考えてるのよ!」

慌てて給湯室を出る沙織。その背中にあずさは自分の思いをぶつける。

「私、あきらめませんからー!!」

女子トイレに逃げ込んだ沙織は昨日のあずさの言葉を思い出していた。

   ”あー、安心したー!じゃあ私、アタックしても大丈夫ですね”

「あれって、、健一君の事じゃなくて、、私だったの!?」
「健一君に相談して…でも…頼りになるかな…アイツ……」

〜 完 〜
375Mr.名無しさん:2005/12/23(金) 12:26:44
グッジョーーブ!
ニヤニヤしたぜ
376TS ◆Jr4wb2zZIE :2005/12/23(金) 12:27:31
長くなりましたがこれで終わりです。
読んでくれた人ありがとうです。

実は>>349>>351>>354を書いてる時、かなり泥酔してましたwww
そのせいでそれ以降の話の流れが当初と違ってしまい
後半は無理やりねじ伏せた感じになっちゃってすんません

それではこの3連休は……
いや、なんでもないです。
では、またどこかで
377Mr.名無しさん:2005/12/23(金) 12:36:07
乙・・・鬱だああああああああああああああああああああ
378Mr.名無しさん:2005/12/23(金) 13:01:44
UMEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE


とってもGJでした
379Mr.名無しさん:2005/12/23(金) 15:05:53
>>376
オチにワロタww

GJ!!
380Mr.名無しさん:2005/12/23(金) 20:57:15
(3∀3)グジョーブゥー

・・・あずさたん(*´Д`)'`ァ'`ァ
381Mr.名無しさん:2005/12/24(土) 01:18:56
オチうめえwwwGJwwww
382Mr.名無しさん:2005/12/24(土) 07:36:55
あずさが弁当になにかいれてるんじゃないかと一瞬思った俺はクリスマス女の子と一緒wwwwwwwwwwwwwwwww










PCの中から出てきてくれないけど
383Mr.名無しさん:2005/12/24(土) 10:59:31
( ゚д゚ )女の子と一緒・・・?
384Mr.名無しさん:2005/12/24(土) 14:13:40
>>388
出ていけ!!!!!!!!!!111111
385Mr.名無しさん:2005/12/24(土) 14:19:25
>>382
あー改行長くて下まで読んでなかった・・・うは・・・・おk・・・・うぇ・・・・っうぇ
386Mr.名無しさん:2005/12/24(土) 17:05:13
>>382 のクリスマス風景

http://vipper.jpn.org/www/upload/src/VIPphoto19704.jpg

(⊃д`)
387382:2005/12/24(土) 17:34:43
俺は誰がなんと言おうと幸せだ!!!!!!!11
388Mr.名無しさん:2005/12/24(土) 18:36:19
いたいけキタw
389Mr.名無しさん:2005/12/24(土) 21:01:35
今日KFC食ったが(一人で)なんか骨んとこが血生臭かった・・・欝
昔はもっと骨までおいしかった気がするんだがなぁ

保守
390Mr.名無しさん:2005/12/25(日) 05:14:04
 
391Mr.名無しさん:2005/12/25(日) 17:01:20
sageても保守になりますよ。レスがあればDAT落ちしないし(違ったらスマンコ
392Mr.名無しさん:2005/12/25(日) 19:37:24
あってるよ
393390:2005/12/25(日) 20:12:40
ageてスマソ
でもカキコ増えたyo
・・・・って誰かツンデレ待ってマース
394Mr.名無しさん:2005/12/26(月) 01:50:19
夜更かしをしながら深夜バラエティを見ていた時地震がおきた。
「結構揺れたな…」
テレビに目をやると、この地域の震度は3らしい。

コンコンッ

部屋のドアをノックする音が聞こえ、ドアがゆっくり開けられる。
「ねぇ…起きてる?」
自分の枕を抱えた2歳上の姉貴が脅えた顔で立っていた。
「今、寝たから」
「ウソ、地震が怖くて起きたんでしょ」
「いや、別に。それより何か用?」
「ア、アンタが地震に脅えてないか見に来てあげたのよ…」
「全然大丈夫だけど?」

カタカタカタッ…

余震と思われる緩い揺れを感じた。
ビクッっと体を縮めた姉貴は慌てて俺のベットへ身体をもぐりこませる。
「おい、なにやってんだよ、人のベットで」
「ど、どうせ怖いんでしょ?だ、だから今日は特別に一緒に寝てあげるわよ」
そう言う姉貴の肩は小刻みに震えている。
何だ、自分が怖いのか。
「じゃあ、今日は一緒に寝てもらおっかな」
「へ、変な事したらタダじゃおかないからね!!」
そう言った姉貴は俺の左半身にがしっとしがみついた。
「結構、胸あるんだな」
「バ、バカな事言わないでよ!!このスケベ!!!」
「ハハッ、冗談だって」
そう言って俺は姉貴の髪を撫で、また姉貴もさっきよりギュっと俺の身体に抱きついてきた。
395Mr.名無しさん:2005/12/26(月) 02:15:16
エロいな。
396Mr.名無しさん:2005/12/26(月) 09:39:10
震度3でビビる姉貴モエス
397Mr.名無しさん:2005/12/27(火) 00:18:55
妄想スレとはいえ近親相関はやめとけよ
398Mr.名無しさん:2005/12/27(火) 11:37:19
(;^ω^)んなこと言ったらVIPはどうすんだお
399Mr.名無しさん:2005/12/27(火) 17:21:53
VIPだからいいんじゃねーの

保守代わりとはいえあまり雑談するのもアレなんで
400Mr.名無しさん:2005/12/27(火) 19:05:16
☆ゅ
401Mr.名無しさん:2005/12/28(水) 02:12:12
>>394
続きまだ?
402394:2005/12/28(水) 08:34:24
スマン、読み切り
403Mr.名無しさん:2005/12/28(水) 18:49:40
>>402
続きが気になるとこで切るなよw
404394:2005/12/28(水) 20:30:10
>>403
じゃあ続き選んでくれ

1 姉はブラコン
2 親バレエンド
3 姉弟セクロス

どれかで年内ひっぱってみせる
405Mr.名無しさん:2005/12/28(水) 20:43:32
>>404
おれ403じゃないけど1がいい!!!!!!
406403:2005/12/28(水) 20:53:59
>>404
では1を頼みます。
ついでに3…はこの板じゃ無理かw
407Mr.名無しさん:2005/12/28(水) 20:54:21
1にいっぴょ
408394:2005/12/29(木) 09:15:08
じゃあまず名前決めるか
姉は真希、弟は祐樹

他の職人さん来るまで&年内限定の保守代わりって事で
409394:2005/12/29(木) 09:36:01
いつもと違う目覚ましの音で目覚める真希。
「うーん・・・」
祐樹はモゾモゾしている真希の鼻をつまむ。
「・・・ッブッ・・グッ・・・クハッ!!!」
「おきた?」
真希は数秒、ボーっと周りを見渡し、そして自分の頬を撫でている祐樹に驚く。
「・・・ちょ、ちょっと!何でユウがいるの???!!!」
「てか、姉貴が勝手に人のベットに入ってきたんじゃんか」
「あ・・・そ、そうだったっけ?」
「いい歳なんだから震度3とかでビビんなよ」
「だ、だから・・・アンタが怖がってんじゃないかなーって」
「あっ、また地震かな?」
「きゃっ!!」
慌てて祐樹に抱きつく真希。
「やーい、ひっかかった。やっぱ怖いんじゃん」
「だ、だ、だから・・・違うっていってんじゃん!!」
プイっと祐樹とは反対の方に体を向ける真希。
「姉貴、おっもしれーなー、俺、メシ食ってくるわ」
「勝手に行けば。アンタがいない間にエッチな本でも探しておくから」
「そんなもんねーって。それより姉貴の胸の方がエロいぞ」
「えっ・・・」
第2ボタンまで外れているパジャマの胸元を指差す祐樹。
真希は祐樹に向かって力の限り枕を投げつけた。
410Mr.名無しさん:2005/12/29(木) 09:56:26
うはwwwwwwwwwwww姉貴と顔すら合わせない俺セツナスwwwwwwwww
会話なんかあったもんじゃないお(´・ω・`)


GJ保守
411Mr.名無しさん:2005/12/29(木) 12:23:24
>>409
おまwwwww
テラモエス(*´Д`)ハァハァ
412Mr.名無しさん:2005/12/29(木) 16:46:03
なんで俺には姉がいないの?
413Mr.名無しさん:2005/12/30(金) 05:35:53
  12月…

 4時過ぎに授業が終わり、半数ほどの生徒が下校していく。夕日で真っ赤に染められた教室。
何か幻想的だった。
 俺は一人下校していく生徒たちとは違う方向に歩みを進める。
 5分ほど校内を歩き、ある教室の前に立つ。
 その教室からは授業が終わったにも関わらず、賑やかな話し声が聞こえ、まだ人がいること
を教えている。
 その教室のドアには女子生徒が書いたらしい字でこうあった。
『文化祭実行委員会室』
 と。

「ちゃーっす」
 いつものように適当に挨拶をして中に入る。何人かは適当に挨拶を返してきた。
 それぞれが思い思いの場所で作業をしていた。
 そして、教卓で一人書面と睨めっこをしている、女生徒。
 みんなに『委員長』と呼ばれ、恐れられている生徒だ。
 顔立ちは恐ろしいぐらいに整っていて、目が釣りあがっている。さらにワインレッドのフレーム
のメガネをかけている。そのせいか、余計に顔立ちがきつく見えている。

「ちゃっす。いいんちょ」
 軽く挨拶をしてみても
「……」
 無言でこっちを見た(睨んだ?)だけだった。一瞬だけ目があったけど、すぐにそらされてまた
プリントと睨めっこを始めた。
 軽く溜息をついて、今日の作業に入ろうと荷物を置いて、作業にかかった。
414Mr.名無しさん:2005/12/30(金) 05:52:43
 作業を始めようとすると
「せんぱぁーいっ」
 と後からタックル。というよりものしかかり。
 荷物を置こうとしてたから、中腰だった。危うくこけそうだったけど…それなりにふくよかな胸の感触に免
じて許そう。

「何やってたんすかぁ?いつもより遅いっすよ?」
 いつもどおりのキーの高い声で耳元に話しかけるてくる。茜だ。一個下で、どういうわけかまとわり付い
てくる。
「あーもー…邪魔だからあっちいっとけ」
「ぶー」
「ぶーじゃない」
 と軽くデコピン。「はぅっ」何て声を上げるが、まだ俺の背中に乗っている。
 それをみて周りのやつらがクスクスと笑う。
「ほら、笑われてんじゃんか…」
「理由教えてくれたら、どいてあげてもいいっすよ」
 ぐにぐにと俺の上に乗ったまま体を動かす。わざとやってんのか…こいつ…
 胸の感触に神経のほとんどを奪われながら、溜息をついた。
 俺が溜息をついているのにあちこちから
「あー熱い熱い」
「あんまし見せつけんなってー」
 などなど、囃し立てる声があがる。
「違うって!」
 なんて俺も言い返してしまった。こうなると収拾が付かない。
 教室は一気に騒がしくなり、ほとんどが作業の手を止めて俺を弄り始めた。茜はニコニコしながら俺の上
にのったまま。
415Mr.名無しさん:2005/12/30(金) 05:58:37
「エヘン!」
 教卓からわざとらしい大音量の咳払いが起きた。
 一気にみんなの視線が教卓に注がれる。

 そこでは…委員長が-273℃の視線でみんなを睨んでいた。
『お前らさっさと働け』
 と無言で訴えているようだった。
 その視線で、全員が凍りついた。校長さえも黙らせるという、魔の視線だ。
 気まずい沈黙が流れる。

「さ、さぁー仕事仕事」
 と誰かが言ったのを皮切りに、ようやく全員が解凍される。
 ほとんど誰も喋らずに黙々と作業をこなしていった。
416Mr.名無しさん:2005/12/30(金) 06:07:48
 18時になった放送が流れる。
 それを聞いて、みんなが作業の手を休め、それぞれに帰り支度を始めた。
 委員長も俺も、帰り支度を始める。
 テキパキと帰り支度を終えた委員長が
「本日はコレで解散します。女子生徒は家が近い男子生徒に送ってもらうように」
「それでは、お疲れ様でした」
 よく通る、凛とした声でいい終えると、みんなに向かって一礼した。
 それに応えるように、好き勝手に挨拶をし、教室を後にする。

「今日こそ送ってくださいよぉー」
 茜が俺の制服の袖を掴み、ぶんぶん振ってくる。
「まだやることあるからまた今度な。あ、お前送ってってやれよ」
 茜に好意を寄せているという噂の後輩を捕まえて、話しかけた。そいつは二つ返事で快諾した。

「えーまたこの人っすかぁ?」
「俺んちとお前んち、真逆の方向だろうが。お前にそこまでやる義理はない」
「ぶー」
「ほら、さっさと帰る。遅くなんぞ?」
「先輩も言ってるし、帰ろ?茜ちゃん」
「あーい」
 ぶーたれる茜を無理やり帰した。

 俺は私用と今日の進度の報告のために職員室へ向かった。
417Mr.名無しさん:2005/12/30(金) 06:21:25
「はい」
 と委員長に報告書を渡される。実行委員顧問への報告は、どういうわけか俺の仕事になっている。
「お疲れさんっと」
 それだけいって、委員長から報告書を受け取る。あとは委員長が戸締りの確認をして、俺は報告が終わ
り次第帰る。委員長も勝手に帰ってるし。

 職員室での報告。委員長が予算のことだの、進度のことだの、全部書いてるから俺はいうことがない。
 顧問と軽く挨拶を交わし、職員室をあとにした。

 誰もいない、真っ暗な廊下。自分の足音が、やけに大きく聞こえる。明かりらしい明かりは非常灯ぐらい
のもで、薄気味悪くなる。
 何気なしにポケットに手を突っ込んだ。いつもならあるはずの感触がない。
「あ、携帯忘れた」
 俺は小走りで教室に戻った。

 教室に着くと、委員長がちょうど鍵をかけて帰る頃だったらしい。
「悪いっ!いいんちょ!ちょっと開けて!」
「何よ…」
 とめんどくさそうに睨まれる。
「いや…携帯忘れて…」
「これ?」
 と胸のポケットから俺の携帯を出す委員長。
「あ…あんがと…」
「藤原君って意外とドジね」
「ぅ゛…」
「今度から忘れないように、首からぶら下げるのでもつけたら?」
「ヤだよ。アレダサいし」
418Mr.名無しさん:2005/12/30(金) 06:32:02
「じゃあ今度から忘れないこと。私が見つけれたから良かったものの…」
「大丈夫。忘れないって」
 手の上でポンポンと投げる。何度か投げ上げてから、委員長がどこから携帯を出したのか思い出した。
 一つ、邪なネタが頭に浮かぶ。
 携帯を頬に当て、じっとしてみた。

「…何してるの?」
 相変わらずキツい視線…というよりも不審者を見る目をする委員長。まぁ、頬に携帯を当てる人間なん
てそうそういないけど。
「いや、いいんちょの胸の温もりが」
「ッ……」
 といい終わるか終わらないかの間に、カバンが飛んできた。
 軽く避けると、今度は
「バカッ!変態!」
 と耳まで真っ赤にした委員長の罵声が飛んできた。さすがに罵声は避けれなかったけど。
「知らないっ」
 そういって、委員長は踵を返して、下足棟の方に歩いていった。
「ちょっ!いいんちょっ!カバン忘れてるって!」
 委員長のカバンはやけに重たかった。が、我慢して持って、委員長の後を追った。
419Mr.名無しさん:2005/12/30(金) 10:31:33
いいんちょぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!1テラGJ
420Mr.名無しさん:2005/12/30(金) 10:54:46
委員会いいよ委員会
421Mr.名無しさん:2005/12/30(金) 13:18:49
また王道ものが出てきたなー
ええもちろん萌えましたとも

期待
422394:2005/12/31(土) 11:13:46
共学テラウヤマシス・・・
高校男子校だった俺からすれば桃源郷だ

そんな訳で新作も来たん&年明けるから俺の
保守変わりは終了って事で
第一、思いついたまま書いたから続きなんて書けるはずがねー!!
んじゃよいお年を

保守
423Mr.名無しさん:2005/12/31(土) 12:31:32
双子の姉は委員長
424Mr.名無しさん:2005/12/31(土) 13:29:47
保守
425Mr.名無しさん:2006/01/01(日) 01:15:53
新年保守
4261201:2006/01/01(日) 02:14:19
>>418の続き

 とまぁ普通なら、途中で委員長にカバンを渡したりするもんだと思うが、俺はそうしない。
 委員長とは違うコースで校門まで走り、校門で委員長を待ち伏せた。

「寒ッッ!」
 中とは全く違う温度差。いくら制服の下に着込んでいても、寒さは凌げない。しかも風もキツい。
「こりゃ…普通にやった方がよかったか…?」
 自分のカバンを地面に置き、驚くほど重いカバンを抱えて背中を丸める。
 背中を丸めたぐらいで、寒さが和らぐわけでもなく。

「ざみ゛ぃ…」
 もう何分間、人が全く通らない校門前でじっとしているんだろうか。
 なんというか…帰りたくなってきた。
 既に学校の電気はほとんどは消えていて、誰かが出てきてもわかりそうにない。
 ひょっとしたら、委員長は先に帰ったかもしれない。
 …帰るか。

 明日カバンは返せばいいし。と勝手に決め込んで帰ろうとしたときだった。

「ちょ…ちょっと…なっ何勝手に帰ろうとしてんのよ…」
 はぁはぁと肩で息をしながら、委員長が話しかけてきた。
「いや、カバンは明日返すつもりで」
「わったしの…カバン…」
 相変わらず肩で息をしている。どうも走ってきたらしい。
「その前に落ち着こ?」
 返事をするのも辛いらしく、委員長は首を二回縦に振った。
4271201:2006/01/01(日) 02:30:57
「ほら、吸ってー」
 すぅー…と深く息を吸い込む委員長。胸を反らす、普通の深呼吸。意外と胸が大きかった。
 委員長は着やせするタイプ…と
「はい。吐いてー」
 はぁー…と背中を丸め、息を吐く。こんな俺に合わせてくれる辺り、結構ノリはいいらしい。

「で、私のカバン、どうするつもりだったの?」
 今までの弱々しい話し方ではなく、いつも通りの委員長に戻っていた。
「だから、持って帰って、明日返す…つもりだったんだけど」
「私が予習復習できなるじゃない?」
 キッと睨まれる。蛇に睨まれた蛙、マングースに睨まれた蛇の気分だった。
「んー…委員長頭いいし、一日ぐらい大丈夫だって」
「そもそも、藤原君が」
「ってか、帰んない?ここにいたら、凍死しそう…」
 わざとらしく体を丸めて、寒さをアピールする。委員長のカバンは俺の腕の中だ。
「凍死って…大げさな」
 はぁと溜息をつかれる俺。
「あのねぇ。藤原君がそのまま」
「俺帰るわ」
 今から委員長が話すつもりなんだろうけど、無視して自分のカバンを拾い上げ、外に向かって歩いた。
「あ、こら!せめてカバン返しなさいっ!」
 とたとたと小走りで追ってくる委員長。
 俺に追いついた瞬間に、委員長が俺からカバンを取り返そうと、腕を掴む。
 でも、無視して歩みを進める。
「きゃぁっ」
 委員長が可愛い悲鳴を上げた。そのまま俺の腕を放さずに、俺と一緒に歩き出した。
428Mr.名無しさん:2006/01/01(日) 02:32:38
>>426
聞くということはあるということだな。
ハードSMとかスカトロとかあまり過激なのがなければいいんじゃね?
初代スレではセクロスから始まる話もあったしな。フェラ描写もあったりしてね。
4291201:2006/01/01(日) 02:44:26
「あのさ…」
「何よ」
「いいんちょって、家こっちであってんの?」
「うん。私電車通学だし」
「あ、じゃぁいっか」
 5分ほどお互い無言で歩いてから、俺から委員長に話しかけた。
 その間ずっと委員長は本気で俺からカバンを取り返すつもりだったらしく、何度か俺の腕を剥がそうと、
力を込めてきた。だが、彼女の力では俺の腕力の敵わなかったとみえる。

「ねぇ」
「ん?」
「いつになったらカバン返してくれるの?」
 相変わらず俺の腕を掴んだまま、委員長が話しかけてきた。
「ってか、このカバン何入ってんの?無意味に重いじゃん」
「質問に質問で返さない…教科書と英和と古語辞典とノートとペンケースよ。コレぐらい普通でしょ?」
「俺電子辞書派だし」
「使い方わかんないもん…じゃなくて、私のカ・バ・ン!!」
「あぁ。家まで送るから、家着いたら返すよ」
 委員長が機械が苦手とは…人は見かけによらないもんだな。
「え?!いっいいわよっ!!藤原君も遅くなるじゃない!」
「大丈夫。すでに遅いし」
「でっでも…悪いわよ。やっぱり」
「いいって。女子生徒は男子生徒に送ってもらうようにっていったの、誰だっけ?」
 解散時の言葉を思い出して、委員長にいってやる。かなり暗くなってるので、顔は見えてないだろうけど
、俺は思いっきりニヤけてた。
「それについては問題ないわ。私は一人で大丈夫よ」
「ほー…腕力で俺に勝てないのに?」
「……」
「それに…腕組むぐらいラブラブなんだし、いいじゃん。別に」
「え?!あっ!でもっ!これはっ!」
「はいはい」
 俺に弁明しつつも、委員長は腕を放さなかった。
4301201:2006/01/01(日) 03:01:25
 委員長をちまちまと弄りながら歩いていると、いつの間にか駅前の広場に着いていた。
「藤原君。定期出してよ」
「へ?なんで?」
「私のカバン、藤原君が持ってるじゃない。定期はカバンの中にあるから、出してくれないと困るの」
「あぁ…忘れてた」
 もちろん、嘘だ。こんな存在感のある重いカバンを忘れるわけがない。
「えーっと?」
 委員長のカバンを普通に開ける。
「ちょっとっ!どこ見てんのよ!定期はサイドに入ってるの!」
「あ、そなの?」
 サイドをごそごそと漁ると、ピンクというよりも桜色のパスケースが出てきた。
 へぇー…意外と可愛い趣味で。
「ほい」
「ありがと。それより女の子カバンを勝手に開けるなんて…どういう神経してるのかしら」
「いや、普通場所教えない?」
「普通の神経の人は、まず、場所を聞くものよ」
「さいですか…」
 お互いにかなりの食い違いがあるらしい。
 俺はポケットからICタイプの定期を出して、改札を通った。
 委員長は磁気式らしく、改札に入れて通っている。
「ふーん…ひょっとして、いいんちょって新しいもの苦手?」
「うーん…どっちかっていうと苦手ね。なんていうか…慣れないっていうか」

 委員長と一緒に電車を待つ。
「次快急だけど」
「私は○○駅で乗り換えだけど」
「んじゃ快急乗るべさ」
「どこの言葉よ…」
4311201:2006/01/01(日) 03:26:20
 この時間にしては珍しく、ほとんどが空席だった。乗車効率をほとんど考えない、ボックス型のシートでも
だ。電車が動き出すと同時に、委員長は適当な窓際の席に座った。その真横の席に座る。
 どうやら、俺が横に座ったのが気に食わないらしく、少し眉をひそめて俺のほうを見た。
「…なんでわざわざこっちの席に座るのよ…向こう空いてるじゃない」
「いいじゃん。ラブラブだし」
 委員長をからかうつもりでいってやる。さっきは暗くて表情がわからなかったけど、今はよくわかる。
 言った瞬間に委員長は顔を真っ赤にし、慌てて窓の外を見だした。そして、溜息。
「わーったよ。あっち座るってば」
 委員長のカバンを抱えたまま、向かいの席に座る。せっかく移動したのに、委員長の視線は外に向いた
ままだった。

 それからお互いに言葉を交わさなかった。
 委員長はずっと難しい顔で外を見たままだし、俺は特に話しかけるネタがないからだ。
 昨夜のお笑い番組とか、そういうネタならいっぱいあるが…どうも委員長のイメージではない。
 かといって、中途半端なニュースのネタを切り出せば、委員長に馬鹿にされかねない。
 彼女は彼女なりに何か悩みを抱えているようで、俺は恐らく彼女の悩みとは全く別次元の悩みを抱えて
いた。

『まもなく○○に到着です。次は××まで止まりません』

 アナウンスが流れる。
 いくら悩み事を抱えているといえど、そこは委員長。乗り過ごすようなヘマはしないだろう。
 徐々にスピードが落ちて、ドアが開く。それでも委員長は動こうとしなかった。
「いーんちょー?着いたよー?」
 呼びかけても微動だにしない。
「俺先に降りるよ?」
 と降りる振りをして立ち上がる。立ち上がった俺に対して、委員長は道を譲るように足をどけた。
「お客さーん。○○ですよー」
 もう一度座り、声をかける。それでも動こうとしない。そうこうしているうちに、ドアが閉まってしまった。
4321201:2006/01/01(日) 03:37:57
「なぁ。いいんちょってば」
 ぽんと委員長の膝に手を置く。
「ふひゃぁっ!!」
 予想以上のリアクションと大声。おかげで車内の注目が俺たちに集まった。
 しかも、その視線がどうも非難の色を帯びている。
 いきなり大声を上げた女子高生の膝に手を置いている男…ってこれ痴漢じゃん!
「なっ何よっ!びっくりするじゃない!一言ぐらい声かけなさいよ!」
「あ、ごめん…」
「もぅ…」
 お互いにわざと大声で会話をする。
「ホントに…藤原君のせいで恥かいたじゃない」
「いや…悪かった…ってかさ」
「何よ」
 いつもよりも棘が大目なのは気のせいか?
「なんか…悩みでのあんの?俺でよければ相談乗るけど」
「別に…なんでもないわよ…」
「そっか…ならよかった…」
「ってか、○○過ぎたけど?」
「えぇ!?」
 と慌ててドアの上の案内を見る委員長。その電光掲示板には無情にも『次は××』と書かれていた。
「……」
 ボーゼンとなってる。ここまで間抜け面の委員長を拝める機会なんてそうそうないだろう。
「いいんちょーんちって、どこ?」
「○×…」
「なら、××でも乗りかえれるじゃん。反対のホームでさ」
「そ、そうよね…」
4331201:2006/01/01(日) 03:44:06
 ××についた。反対のホームまで駆け足。
 俺は息を切らせることはなかったが、委員長は早くも息切れだ。
 やっぱり運動は苦手らしい。

 反対方向の各停に乗った。委員長は駅に着くごとに駅の名前を確認していた。
 まるで初めて電車に乗った子供みたいで、結構可愛かった。
 ずっとニヤけ面だったらしく途中で何度も「何よ」「別に」という意味のない会話を交わしていた。

 ○×につき、そろって改札をでる。

「家までどんぐらい?」
「歩いて10分ってとこかしら」
「ふーん」
 といい、勝手に歩き出す。
「道わかるの?」
「知らない」
 はぁ…と溜息をつかれた。
「こっちよ」
 俺の腕を取り、二人で歩き出した。
 ちなみに、委員長のカバンはまだ俺が持っている。
434Mr.名無しさん:2006/01/01(日) 03:47:30
志村、目欄目欄!!
4351201:2006/01/01(日) 03:52:00
「しっかし…今日は色々と収穫があったなぁ…」
「収穫?あ、次の角左ね」
 お互いに密着し、足並みをそろえて歩く。
 どっからどう見ても、ラブラブカップルだ。俺はいいたくてたまらないのだが、いうと今度は腕をつねられ
そうで怖い。
「ほら、いいんちょの可愛いとこたくさん見れたし」
「かっ可愛くなんかっ!」
「いや、じゅうぶん可愛いって」
「…知らない」
「いつも仏頂面だけどさ、今日のいいんちょめちゃくちゃ可愛かったし」
「…もぅ…好きにいってなさい」
「照れてる照れてる」
 多分、俺は今日一番のニヤけ面だろう。
「かぁいいなぁ…この野郎」
 思わず頭をガシガシと撫でそうになる。そんなことしたら、絶対にビンタが飛んでくるだろう。
「……えっと…そこを右に曲がったとこだから」
「うぃうぃ」

 曲がり角に着いたところで、委員長が止まった。
「あれ?ここ右じゃないの?」
「うん…あの…もう大丈夫だし、カバン返して?」
「おっけ」
 といいつつ右に曲がりそのまま直進。もちろん、腕を掴んでいる委員長を半ば引きずる形だ。
「ちょっちょっと!」
「ん?大丈夫。家の前まで持っていってやるって」
「違うわよっ!!私の家通り過ぎてるの!」
「へ?」
4361201:2006/01/01(日) 04:02:56
 結局、委員長の家はちょうど曲がり角のところだった。つまり、委員長が止まったところが玄関だったわ
けだ。
 俺はそんなこと知らない。まぁ、委員長には悪かったと思ってるけど。

 帰りの電車の中、一人ドアにもたれかかる。
 まだ手に委員長の重たいカバンの感触が残っている。
 ひょっとしたら、委員長の手の平にマメとかあるかもしれない。
 マメがあるからどうのってわけじゃないけど。

「ただいまー」
 玄関を開けると、むわっとした熱気が襲い掛かってくる。
「おかえりー」
 Tシャツにショートパンツの姉貴が部屋から出てきた。
「姉貴…暖房付けすぎ…」
「うっさいわねぇーアンタが電気代払うんじゃないから、いいでしょ?別に」
「ったく…そのカッコ…嫁入り前の女のカッコじゃねーな」
「あら?おガキ様には刺激が強すぎて?」
 口の前に手をかざし、嫌らしく笑う。
「童貞捨ててるっての。姉貴に欲情するか」
「最近近親ブームじゃん?」
「うっげ。吐き気してきた。食欲失せた」
「そう?ちょうどよかった。由紀の分作ってないのよねぇー」
「いつものことじゃんか…」
 溜息つきながら、制服を脱いで袖をまくり、キッチンへ向かった。
437Mr.名無しさん:2006/01/01(日) 04:11:01
童貞捨ててるんでつかそうでつか・・('A`)
438Mr.名無しさん:2006/01/01(日) 13:49:02
初夢でふでおろしした俺が保守
439Mr.名無しさん:2006/01/01(日) 14:27:33
。。。。
440Mr.名無しさん:2006/01/01(日) 18:17:54
こりゃ近親フラグかもわからんね」
441Mr.名無しさん:2006/01/01(日) 19:50:12
童貞捨ててるんなら近親いける?
442Mr.名無しさん:2006/01/02(月) 17:01:09
ほしゅ
443Mr.名無しさん:2006/01/02(月) 22:18:09
☆ゅ
444晴れのちハレ!:2006/01/03(火) 10:17:05
 14時22分。私は相対性理論の中にいた。
 曰く、「ストーブの上に一分間手を置くと一時間にも感じられるが、かわいい女の
子といっしょだと一時間も一分にしか感じられない。それが相対性」
 四時間目に体育を終わらせたあと昼ごはん食べてラストに古典の授業を受ける、
というのはストーブに手を置くのとどっちが苦痛なのかしらね。
 もうエアコンも不要になった10月の教室では居眠りした頭が並び、まどろんだ
空気が教室中を漂っている。
 特についさっき中間テスト代わりの創作ダンス発表なんてものから開放された
女子は全滅に近い勢いで机につっぷ──突っ伏して──
 ──
 ──── 
 ──────
 あ、すいません、今ちょっと寝ました。
 一番下っ端の書記(2年)とはいえ仮にも生徒会役員に名を連ねる斉藤タズサ、
この程度の事で堂々と居眠りするわけにはいきません。
 ずれたメガネを直して視線を黒板から右に移せばもう終わった文化祭の各種連
絡事項やタイムスケジュール。その横に貼られているのは生徒会選挙のお知らせ
と立候補受付。そんなものはこれまで授業のたびに読み続けて文章だってそらん
じられる。
 掲示されたプリント類から視線を上にあげて時計を確認。14時25分。時間は進
まない。
 このペースで行ったら授業が終わる前に私は老衰で死ぬに違いない───って
だから寝るな、私!
445晴れのちハレ!:2006/01/03(火) 10:18:08
 視線を窓の向こうに動かす。
 2階の教室から見下ろしたグラウンドでは、隣のクラスがサッカーの授業中だっ
た。
 一人の男子に目を留める。
 自軍のゴールに向かってきた相手からあっさりボールを奪い、そのまま動かずに
フォワードへカウンターパスを決めたあの男。
 彼がゴール付近から動かない理由は体力が無くてコート中を走り回りたくないか
ら、であることを私は知っている。
 なにしろ私がこんなに眠いのも、あの引きこもりのひ弱気質のモヤシ野郎のせい
に決まっているのですから。

 

 若干唐突ですが、生徒会は各クラスから選ばれた学級委員長男女1名づつと、
そして選挙を経て承認された役員で構成されます。
 役員の内訳は会長(3年)、副会長(3年)、会計(3年)、副会長(2年)、書記(2年)
の5名。
 先ほど言ったように私は書記、そして今年の選挙では会計に立候補。実は会計
が一番面倒で前年からの役員がやるのが通例だから。そして余ったもう一人がそ
のまま会長に、というのが毎年の決まりごと、というかお約束だったのですが。
 ですが、あの男は、あの虚弱体質副会長(2年)は「今年やったらもう十分」と身
勝手なセリフを吐いて早々に不参加を表明しやがりやがったからさぁ大変。
446晴れのちハレ!:2006/01/03(火) 10:18:58
 おかげで今に至るも会長に立候補するものはおらず空白状態。副会長はどこか
のお調子者が立候補してくれたおかげで埋まったのですが、会長の候補に関して
は出る人がいるという噂すらまったく聞かないお手上げ状態。私は彼の説得と別
の立候補者探しと通常業務とに追われて大忙し。
 あぁまったく彼はいったい何が不満だと言うのでしょう。そんなに生徒会は面倒
なのか、でも去年からの仕事だって大抵は私がやってあげてたじゃないですか、
それだというのに何がそんなに面倒なんだか。
 そりゃこの前も備品の買出しの荷物持ちで休日1日連れまわしたりしましたけ
ど、ご飯食べて、ついでに服やケータイ見て回って彼も結構楽しそうだったじゃな
いですか。それも私の勘違いだったりするんでしょうか。それとも……。
 それとも私と一緒にやるのがイヤなのか。
 もし、本当に、そう、だったら……?
 …えー、えーと、だとしても、それを確かめる権利くらい私にはあるはずです。こ
んなシュレーディンガーさん家の猫みたいな半分生きてて半分死んでるような有り
得ない宙ぶらりん状態なんて御免です。さっさと蓋を開けて可能性を収束させてし
まえばいい話。
 とりあえず今日こそを彼を捕まえて問い詰めてやるとしましょう。最近の彼はさっ
さと家に帰ってしまって放課後は捕まらない。捕まえるなら授業終了後。あのサッ
カーが終わって、グラウンドから教室に移動するまでの間に捕まえるのが一番
確実でしょう。
 あれこれ考えていたら14時34分。
 終業のチャイムまであと少し──鳴った!
447晴れのちハレ!:2006/01/03(火) 10:20:12
 教室の中心地にある自分の席から、椅子を引く派手な音と共に立ち上がる。
 「生徒会の業務がありますので失礼します!」
 背筋を伸ばして堂々と教室を突っ切る。まだ終了を告げてない教壇の教師を
横目に流して、勢いよくドアを開けて廊下へ。
 視界を確認、廊下は無人。前方に障害物ナシ。
 呼吸をひとつ。体勢を鎮めて、
 ──全力疾走!
 白い廊下を踏みしめて、果てまで並ぶ窓の青を駆け抜ける。授業から開放さ
れる教室を、等距離に配置された掃除用具ロッカーを次々追い越して走る走る!
 がらっ「うわぁ!」教室のドアが開いて横から出てきた女子とぶつかりそうに
なるがギリギリかわす。「急いでるんですー、すいませーん! 」「気をつけろー! 」
怒る彼女を置いてまだまだ走る。
 廊下を突き当りまで走って右へ90度回転、見えた階段に向かうと階段下の踊り
場めがけてダイブ、スカート翻して着地、踊り場を曲がれば1階の昇降口が見下ろ
せる。
 彼の教室とグラウンドの位置関係を考えれば必ずここの階段から上がってくる
はず……、見えた。学校指定のジャージの群れ。よし予想通り。
 その群れにダイブしそうになって、さすがにそれはやめて階段を駆け降りる。
 2クラス合同のジャージの群れ。だがそこから彼一人見つける事なんて、この
私にかかれば簡単なこと。
 ──ほら、すぐに見つけた。
 迷わず、まっすぐ、彼の元へ。
 「今日こそはっきり返事を聞かせてもらいますからね、今からさっさと私に付き
合いなさい!」
 私は彼の手首をつかんで高らかに宣言。
 「……え、えーと、告白?」
 「ちがうわっ!」
448晴れのちハレ!:2006/01/03(火) 10:21:15
 「まったく、あなたがはっきりしないから私がこうやって学校を走り回ることになる
んです。少しは私の苦労というものをですね……、聞いてますか!? 」
 くどくどお説教を繰り返しながら左手で生徒会室のドアを開ける。右手はまだ
彼の手首を掴んだまま。逃げられると困りますからね。えぇ。そうですとも。
 「わかったから。ゴメンって。とりあえず逃げないから離してよ」
 ふむ、しょうがないからそろそろ離してあげるとしましょう。一緒に教室に入った
のと同時に手を離す。開いた右手でドアを閉める
 生徒会室といっても実態はただの空き教室。作りは自分たちが勉強している
教室と何の違いもありません。ただなぜか机や資料が置いてある本棚に混じって
冷蔵庫と給湯ポットが置いてあったりしますが。ちなみにコーヒー紅茶も常備。
 彼はその冷蔵庫に向かって一直線。まず下を空けて「あー、飲み物何も無い」と
つぶやくと今度は上を空けて「お、やった。残ってた」と喜色一杯の声を上げる。
 何がそんなに嬉しいのかと後ろから覗く。
 「呆れた。コンビニのアイスキャンディーがそんなに嬉しいんですか?」
 「体育の後だし、そりゃ嬉しいよ」
 冷凍庫から姿を現すソーダ味のアイスキャンディー。棒が2本刺さってて真ん中
で分けられるタイプ。
 「斉藤さん、半分食べる? 」
 喜色満面の笑顔をこちらに向けて聞いてくる。その笑顔に一瞬ひるむ。視線を
そらして適当な椅子に腰掛ける。
 「そ、そうですね。私も走って疲れましたし。いただきます」
449晴れのちハレ!:2006/01/03(火) 10:22:07
 ビニールを破って、中のアイスキャンディーを半分こ。
 渡された片割れを一口なめる。
 口に広がる澄んだ水色の味。
 「これ、結構旨いでしょ、特に運動の後はさ」
 「えぇ、そうですね。本当に美味しい。……で? これで誤魔化せるとでも?」
 目つきを強くして机をはさんで目の前に立つ彼の顔を見る。ちょっと困った顔。
 この1年、私は彼にこんな顔ばかりさせてきた気がします。
 「残念、誤魔化せないか」
 「当然です。ていうか私をどういう人間だと思ってたんですか」
 「意外に甘い物好き」
 「え、まぁお菓子全般嫌いなものはありませんが──、ってちがうっ!
 その意外にって言うのはどういう意味ですかっ、てそれもちがう、だから!」
 「会長選には出ないよ」
 もう半分ほど食べたキャンディーを片手にいつも通りそう言った。そして続ける。
 「ウチのクラスの女子がやってもいいってさ。明日には立候補の手続きしに
来るから」
 ──なん、ですと。
 「だからこれで斉藤さんも候補者選びなんてもうしなくていいよ。あとは選挙を
待つだけ。どうせ対立候補はいないし信任で落ちるなんてありえないし」
 言い終えると、彼はアイスキャンディーの残りの半分を一口で食べ終えた。
 ──こうなってしまうことは予想済み、だからさっさと説得してしまいたかった
んです。
 「そー、そう、そーですか。まぁ、そうね。別にね、私としては会長職に穴が開か
なければ別に誰でも、えぇ。ほんと。別に誰でもいいですけどね」
450晴れのちハレ!:2006/01/03(火) 10:23:07
 今回は向こうの手回しが予想より早かった。それほどまでに本気でやりたくな
かったということですか。あーチクショウ。
 手にしていたアイスキャンディーをガリガリ一気に齧り尽くす。その冷たさで痛さ
が麻痺するくらいに。
 あぁそうだ、こうなったら蓋を開けてシュレーディンガーの猫にも止めを刺してし
まうとしましょう、もうヤケですから。
 「……そんなに、私と生徒会を続けるのは嫌ですか。そんなに私と一緒は嫌
ですか」
 口に出してしまうともう戻せない、それでも止まれない。
 もう、止める必要も無い。
 「そんなに、私が嫌いですか」
 立ち上がってまっすぐに彼と向き合う。時が止まる音が聞こえた。そして時が
本当に止まったと、私はそう思った。
 「──へ?」
 間の抜けた、時が動き出す音。
 「──俺が、斉藤さんを、嫌ってる?」
 イマイチ理解してなさそうな顔と声でそう繰り返す。その呆けたリアクションが
さらにムカつく。
 「いちいち確認しない!拒絶したのはそっちです!」
 「えっ、え?、怒ってる? だって俺より頭良いし真面目だよその子、俺だとまたいろ
いろ大変だよ、迷惑掛けたくなかったし」
 「それは別に迷惑だとは思ってません。この一年、副会長と書記、それなりに
上手くやってきたじゃないですか。これからだってきっとそれなりに上手くやって
いけます!」
 あぁ私は間が抜けてる、詰めが甘い。どうして勢いあまってこんなことまで喋っ
てしまうのか。
451晴れのちハレ!:2006/01/03(火) 10:24:28
 しばらく黙って考えていた彼が恐る恐る口を開く。
 「……えーと、間違ってたら怒ってくれて良いけど、もしかして来年も俺と一緒
でも良かったの?」
 「だからそういう直球ストレートな質問を……あぁー、もう!どうでもいいでしょう、
そんな事は!」
 バンバンと机を手のひらでたたく。
 「いや、大事な事なんだけど。えーと。その、つまり。……いいや。任期終って
からにしようと思ってたけど、今でも」
 今度は彼が、私をまっすぐ見つめる。私の心臓が跳ね上がってまた時が止まる。
 「副会長と書記が、会長と会計になってもダメだと思ったんだ。『それなり』じゃ
嫌だったんだ。俺は」
 「──へ?」
 今度は私が間の抜けた音で時間を動かす。
 「だから、あー…、迷惑掛けたり居残りしたり、そういうのも良かったけど、もう
少しちゃんとした関係になりたいっていうか、えーと……」
 箱が空いた。私は生きてる猫か死んだ猫か。こういう宙ぶらりんのままが
一番つらい、心臓が壊れる。だから。
 「わかりませんよ、はっきり言ってくれないと」
 緊張してる表情筋を総動員して必死の笑顔。だからはっきり言ってほしい。
 彼もちょっと困ったいつもの、私の好きな顔を浮かべる。
 「好きです。書記じゃなくて、副会長じゃなくて、そういうの抜きで、俺と一緒に
いてください」
 ──ま、結局。
 こっちがアレコレ必死で憶測したことなんて全然当たらないものなんですね。
 「そうですね、しょうがありません。きっと私を好きになってくれるような物好きは
貴方が最後でしょうから。ずっと一緒にいる事にします」
 世の中、蓋を開けてみないとわからない。
452Mr.名無しさん:2006/01/03(火) 10:29:54
終わり

ただのインスパイア作品なのに相当時間がかかってしまった
まさか年を越すとは予想外。

まだまだ全然おわんない ラスト一時間の授業です♪
453Mr.名無しさん:2006/01/03(火) 10:41:06
すげ・・・技術あるなぁ・・・GJ・・・・
( ゚д゚)b
454Mr.名無しさん:2006/01/03(火) 10:49:34
おお、朝から職人さんが。
乙ンデレ〜。
455Mr.名無しさん:2006/01/03(火) 14:40:15
>>452
上手いな
いや、正月からいい萌えをもらった
GJ
456Mr.名無しさん:2006/01/04(水) 01:13:45
保守
4571201:2006/01/04(水) 02:37:38
 にちゃり…くちゃり…
 湿った生暖かいものが唇の上を這い回る。
 ときどき唇を割って歯にソレが当たる。
 わずかな進入を許しながらも、俺はソレの侵入を拒む。
 決して不快なわけではない。ヌルヌルとしたその感触と暖かい温度で気持ちよくなってくる。
 でも俺はソレから逃げようと必死で首を動かす。
『由紀くぅん…なんで嫌がるかなぁ…?気持ちよくない?お姉ちゃんのディープキス』
 いい終わるともう一度さっきの感触。
 必死でお姉ちゃんをどかそうと肩を押すが、体重をかけているらしく、動く気配すらない。
 さらに腰の辺りに馬乗りされている。俺のできる精一杯の抵抗が、首を動かすことだった。
『素直じゃないなぁ…ココはシたいっていってるよ?』
 ぐにぐにと腰を動かされる。俺のモノとお姉ちゃんのアレが密着している。そうされるだけで出そうになって
しまう。
 でも、このまま出してしまうとせっかく買ってもらった制服を汚すことになる。
『お姉ちゃんが素直にしてあげるね♪』
『やだよ…もう止めてよ…亜樹姉ちゃん…』
 ジジジ…とチャックを開けられる。
 そんな俺の声を無視して、器用に俺を押さえつけたまま、モノを取り出す。
 すでに臨戦体制に入っていた。先走りを先端に塗りつけられる。
 初めて他人に触れられた。恥ずかしさで頭が真っ白になる。
 片手で先端だけを愛撫される。俺は何もできず、ただ翻弄されていた。
 お姉ちゃんが腰を浮かせる。今がチャンスとばかりに逃げ出そうとした。
『だぁめ…』
『痛いっ』
 モノをキツく握られる。その簡単な動作で俺の自由は奪われた。
『ほら…こんなに元気になってるじゃない』
 ゆるゆるとしごかれる。
 亜樹姉ちゃんが大きな口を開けて、モノに近づこうとする。
4581201:2006/01/04(水) 02:38:16
『だめだよっ汚いよっ』
 俺の抗議も無視され、モノが口に頬張られた。
 未知の感覚でさらに思考回路がショートする。
『やだっ出ちゃうっ』
 いえたのはそれだけだった。ビクビクと腰が震え、亜樹姉ちゃんの口の中に射精していた。
 気だるい。もう手も足も動かす気にならない。
『たくさん出たね…お姉ちゃん興奮しちゃった…』
『由紀くんのまだ元気だねぇ…』
『よしくんまだ初めてだよね?お姉ちゃんにちょうだいね…』
 もう何もわからない。
『亜樹姉ちゃん…なんでこんなことするの…?』
『お姉ちゃんが愛してるからよ』
 モノの先端にヌルヌルとした感触が伝わる。俺はただ、今まで見たことない表情をしている亜樹姉ちゃん
を、ぼーっと見つめていた。
『はぁ…』
 先端が急に熱くなる。脳天まで痺れるほど気持ちがいい。
『んぁあ!』
459Mr.名無しさん:2006/01/04(水) 02:41:29
近親かよ
萎えた・・
460Mr.名無しさん:2006/01/04(水) 02:44:21
俺は一向構わん!
4611201:2006/01/04(水) 02:54:33
「ッッッ!!」
 布団を跳ね除けて起き上がる。
 全身がヘンな汗で濡れていて、パジャマまで冷たくなってしまっている。
 思わず顔を拭う。唇に這い回る舌の感触がやけにリアルだった。
 さっきまでのことは夢だったらしい。
 はぁ…と溜息をついて寝転がる。
 どうも股間の辺りがヌルヌルとして、いやに冷たい。
 布団を持ち上げると、あのイカ臭いというか、なんとも形容しがたいあの臭い。
 はぁ…と俺はもう一度溜息をついた。

 こっそりとパンツとパジャマを洗濯する。もちろん、布団も濡れタオルとティッシュで処理する。
 シャワー浴びよ…
 時計を見るとまだ6時前だった。
 なんであんな夢…
 色々と考えてみる。多分姉貴にいった『童貞を捨てた』ってことが鍵になってるんだと思う。

 亜樹姉ちゃんってのは8歳上の姉貴の同級生で、よく家に来て遊んでいた人だ。
 姉貴と違って垂れ目気味で、優しい人だった。
 最初は二人とも『お姉ちゃん』と呼んでたけど、だんだんと区別するために姉貴を『春姉ちゃん』(姉貴の
名前は春香だ)と呼び、彼女を『亜樹姉ちゃん』と呼んでいた。
 ちなみに、夢のできごとは俺が中学に上がってからすぐのことだった。

 シャワーを浴び終わり、簡単に身支度をし、朝飯を作る。7時前になったので姉貴を起こしに行った。

「姉貴ー」
 ドンドンと部屋のドアをノックする。
 しばらく待ってみるが、一向に起きる気配を見せない。
 アレ…うるさいからやなんだよなぁ…
 毎日繰り返される恒例行事の準備をしに、キッチンへ向かった。
4621201:2006/01/04(水) 03:13:47
 左手にフライパン。右手におたま。
 そう、よくマンガで出てくるアレだ。
 アレを装備したまま、部屋のドアを開ける。
 相変わらずの熱風が襲い掛かってくる。姉貴の部屋は春夏秋冬問わず27度に設定されている。
 そして、全裸にシーツ一枚で寝ている姉貴。普通はこの姿だけで欲情できるんだろうけど、こっちはほぼ
毎日繰り返されてるから、見慣れてしまっている。ついでにいうと、シーツは腹の部分にしかかかっていな
い。
 俺がドアを開けたせいで温度が若干下がったらしく、寒そうにシーツで体を包もうとする姉貴。
 だが、俺は再び眠りの世界への逃亡を阻止する。

 フライパンの裏底をお玉で叩く。
 ぐゎんぐゎんぐゎんぐゎんと大音量で鳴らす。
 姉貴に徐々に近づいていく。目覚ましがなっていると勘違いしたのか、腕だけ伸ばして辺りを探る。
 鳴らすのを止め、フライパンとおたまを姉貴の耳に近づける。
 音が止まったと思い、姉貴はもう一度寝ようと丸くなった。
 懇親の力を込めて、思いっきり鳴らす。
「ひひゃぁっ!?!?」

 姉貴が跳ね起きた。
 それから俺の顔を思いっきり睨みつける。
「由紀…」
「起きない姉貴が悪い。さっさと服着て飯食ってね」
「ヤダ。もっかい寝る」
 そういってまた寝転がる。俺は再びフライパンを叩き始めた。
「…アンタ本気でウザいわよ?」
「また遅刻するじゃん。こっちだって『起こさない由紀が悪い〜』なんていわれんの、気分悪いし」
 めんどくさそうにシーツから出てくる姉貴。
 それだけ確認すると、俺は姉貴の部屋を後にした。
463Mr.名無しさん:2006/01/04(水) 03:19:29
あれ、よく見たら近親違うのかい
紛らわしい
464Mr.名無しさん:2006/01/04(水) 05:22:51
>>452
GJでチュw
465Mr.名無しさん:2006/01/04(水) 06:39:57
支援と期待☆
466Mr.名無しさん:2006/01/04(水) 09:08:30
なんかすげえよ、ここ
書籍化のにおい
467Mr.名無しさん:2006/01/04(水) 10:30:20
補手
468Mr.名無しさん:2006/01/04(水) 11:31:21
乙!!!!!!!
ツンデレなら近親でも構わん!
469Mr.名無しさん:2006/01/04(水) 11:35:53
とりあえず一回抜いてきた
470Mr.名無しさん:2006/01/04(水) 12:01:49
>>466
次からはsageような
471Mr.名無しさん:2006/01/04(水) 13:17:54
保守
472Mr.名無しさん:2006/01/05(木) 08:42:35
473Mr.名無しさん:2006/01/05(木) 17:38:00
ほしゅ
474Mr.名無しさん:2006/01/05(木) 22:14:19
475Mr.名無しさん:2006/01/06(金) 00:20:02
なんかいいなここ
俺もなんか書くかー
476Mr.名無しさん:2006/01/06(金) 00:25:51
>>475
期待
477475 ◆I2gKArcSuk :2006/01/06(金) 00:52:50
>>476
いまプロット作ってる
478Mr.名無しさん:2006/01/06(金) 00:54:01
期待してるぞー
479Mr.名無しさん:2006/01/06(金) 00:55:36
なんとなくやってみたら・・・

◆I2gKArcSuk の検索結果 約 211 件

偽防止という意味では変えたほうがいいかもしれんな
480475 ◆yVoA9C7lzI :2006/01/06(金) 01:43:11
なんでimoでこんなに一致するんだよw
481Mr.名無しさん:2006/01/06(金) 09:42:45
保守
482Life life(475) ◆yVoA9C7lzI :2006/01/06(金) 10:29:48
『昨日からの雨は全国的に降り続き、明日の夕方にはあがるでしょう。この雨が上がれば……』

「……ん、寝てたのか……」
 時計を見ると夜の十一時少し過ぎ。ボーっとする頭を働かせて、今の状況を考える。
 確か、学校から帰っていつも通りコンビニ弁当で夕食を済ませ、疲れていたのでベッドに横になって……。
 そのまま寝たわけか。
 電気は消してあるのに、テレビはつけっぱなし。テレビから放出される光が、部屋をチカチカと彩っている。
 とりあえず、喉が渇いた。ベッドからノロノロと立ち上がり、冷蔵庫に向かう。
 ミネラルウォーターを取り出し、キャップをあけてそのまま口をつける。この辺りが一人暮らしのいいところだと、回転の遅い頭で考える。

 ――サー……。

 昨日から降り続ける雨は、まだ降っているらしい。夜に聞く雨音は不思議と心地よい。
「ふう……」
 満足いくほどに水を飲み終える。半分ほど残っていたミネラルウォーターは、底に少しだけ残る程度になっていた。
「ふぁ……」
 小さく欠伸を漏らす。
 まだまだ貪欲に睡眠を求める体に逆らうことなく、再びベッドに潜り込む。
 鳴り続ける雨の音。鳴り続けるテレビ。っと、テレビは消さないとな……。
 ニュース番組……いや、天気予報か。
 雨が降っていようが降ってなかろうが、結局やることはいつもと変わらない。
 目を閉じると、再び眠りが訪れた。


 時刻は七時半。目覚ましが鳴る十五分前に目が覚める。寝起きが悪い俺には珍しい。
 カーテンを開けると、まだ雨は降り続いている。
 いつも通りに準備を済ませ、買い置きのパンと缶コーヒーで朝食を済ませ、空っぽの鞄を持って玄関へ向かう。ボロいローファーに足を突っ込み、ドアを開ける。
 ……そういえば、昨日天気予報で言ってたな……。この雨が上がると何か来るって。
 まぁ、天気予報なんだから、台風とかその類が関の山か。
 ビニール傘を手に取り、学校へ足を向けた。
483Life life(475) ◆yVoA9C7lzI :2006/01/06(金) 10:30:59
 学校に到着し、相変わらず誰からも挨拶されることなく座りなれた席に着く。窓際の最後列。
 いつもクラスから……いや、集団から外れている俺には丁度いい席だと思う。
 相変わらず、雨が止む気配はない。今日は校庭に出来た水溜りでも眺めて一日を過ごすことにしよう。
 それにしても、いくら梅雨とは言え毎日雨だな。そう考えると、雨季は高湿度で高温。やっぱり日本もアジアの一カ国なのかと考える。


 そうして何事も無く、一日の授業は終了する。
 今は担任のHR。連絡事項を話し、すぐに出て行った。
 まぁ、俺の生活なんてこんなもんだ。
 なんとなく日々を過ごしている。大抵の高校生はこんな感じじゃないだろうか?違いはせいぜい部活とかバイトとか、そんなものなのだろう。
 俺がそのどちらにも属さないのは、一貫してやる気がないからなんだけど。


 学校帰り、コンビニ袋をぶら下げて帰路に着く。
 差し掛かったのは、自宅と学校の中間くらいにある交差点。そういえば、二年位前にここで交通事故があったっけ。
 道路の傍らに、誰が置いていっているのかわからないのだが、綺麗な花が飾ってある。
 きっと被害者の家族か誰かが置いていっているのだろう。
 なんとなく手を合わせてみる。別にこれといった意味など無く、本当になんとなく。
 心の中でご冥福をお祈りしますとか考えてみる。別に何の意味があるわけじゃないんだけど。
 そして、思った。
 ……俺、何やってんだ?
484Life life(475) ◆yVoA9C7lzI :2006/01/06(金) 10:32:34
 時折こうやって意味不明な行動に出てしまうのが、俺の悪いところだろうか。
 いやまぁ、言ってしまえばいいところなんて殆ど無いんだが。
(そんなことないよ)
 ……そんな声が聞こえた気がした。
 疲れているんだろうか。
(あれ、聞こえない?)
 うん、やっぱ疲れてるんだな。
 よし、そうと決まればさっさと家に帰って寝るか……。
(ちょ、ちょっと待ちなさいよー!)
 ……これは結構末期らしいな。一刻も早く家に帰って……。
(聞こえてるんでしょー!?さっさと返事くらいしろー!)
 あぁ、なんだよもう。さっきから五月蝿いな、幻聴。
「あぁもううるせー!!」
 叫ぶように言う。
 相変わらず、雨は降り続けていた。
 幻聴から逃げるように、俺は全力疾走で自宅へと走った。
485Life life(475) ◆yVoA9C7lzI :2006/01/06(金) 10:33:35
「はぁ、はぁ、はぁ……」
 なにやってんだ俺……。
 ったく、雨の中走ったせいで体はビショビショ。明日が休みなのがまだ救いだ。
 今日も無事、一日が終了。何かあるとすればやっぱりそれは学校でしかおきるわけ無いんだから、やっぱり今日一日平和に終わったと考えていいんだろう。
 今日、なんか面白いテレビやってたっけ。
 そういえば、天気予報でなんか言ってたな。雨が上がると何か来るって。
 なんだっけな……。
 この時期は日が長いせいか、いまいち今の時間を把握できない。弱まりつつある雨の音を受け流しつつ、うとうとし始めた時。

(や、やっと見つけた!)

 さっきの幻覚が、西側に付けられた窓のほうから聞こえた。
 幻覚だと思いながらも、そちらに目を向けると……何かいる。
 長い髪の毛の、女の人。半透明で、宙に浮いている。あぁ、とうとう幻覚までも見るようになったのか俺。一体何に、そんなに疲れているんだか。
 屈託の無い笑顔……真っ直ぐに俺を見つめる目線。後ろに広がる空、雲の隙間から見える、沈みかけの太陽。雨はいつの間にか上がってしまったようだ。
 ただ、それだけのことで、胸につっかえていた疑問が解けてしまった。
 あぁ、そうだった。雨が上がると……。

 夏が、来るんだっけ。

             つづく……はず
486Mr.名無しさん:2006/01/06(金) 10:51:12
幽霊だったらKissできないジャマイカァァ( ゚д゚)
487Mr.名無しさん:2006/01/06(金) 11:34:09
愛があれば不可能はないのさ
488Mr.名無しさん:2006/01/06(金) 19:24:11
名作の予感・・・・・GJ!
489Mr.名無しさん:2006/01/06(金) 20:48:35
いわゆるツンデ霊か?
激しく期待

そして
◆yVoA9C7lzI の検索結果 約 4 件
490Life life(475) ◆yVoA9C7lzI :2006/01/06(金) 21:22:17
学校春休みだから一日中書けたんだけど……自分の中でこれだ!って描写が思いつかないまま書いたからところどころおかしいかも
その辺は許してください では >>485の続き

 Life life 二話

 夏休みに突入し、俺は殆ど毎日市営図書館に入り浸っている。
 別に本が好きというわけではない。というか、今までの人生の中で自ら進んで図書館に行くなんて、今年が初めてだった。
 それもこれも、今俺の隣で寝息を立てるこの女……円香さんの所為だ。


 一ヶ月くらい前。彼女は突然俺の前に現れた。
(はじめまして、音羽円香っていいます。よろしくー)
「あ、瀬川志紀です……」
 と、突如俺の部屋に現れた彼女は話す。一体何がなんだかわからず、しどろもどろしていた俺に、彼女はどんどん話を進めていく。
(見てわかるとおり、私は俗に言う『ゆーれい』ってやつね。ほら、空飛んでるし、体も半透明でしょ)
 あぁ、なんだこの幻覚。リアルタイムで俺に非現実的なことをすらすらと話しやがって。
(で、なんであんたの前に現れたかっていうと……)
「これは悪い夢だ、間違いない。よし、寝よう」
 ベッドに潜り込む。
(ちょ、ちょっとぉー!! 起きなさいよー!! これから大切なところなんだからぁー!!)
 あー、五月蝿いなぁ……。
「えっと……耳栓はっと……」
 幻聴に耳栓が効くのかどうかはわからないが、病は気からっていうし。少しくらいなら効力があるかもしれない。
491Life life(475) ◆yVoA9C7lzI :2006/01/06(金) 21:23:27
(あのさぁ、私あんたの頭に直接意志を送ってるから、耳栓とか意味ないよ)
 と、音羽円香とかいう幻覚と幻聴は、ご丁寧にも俺の疑問に答えてくれた。しかも嫌な方向で。
「……もう、どうすりゃいいんだよ俺は……」
 思わず呟いてしまう。精神科にでも行けばいいのだろうか。
(とりあえず、私の話を聞きなさい)
「なんで命令口調なんだよ……」
 偉そうな幻聴だ。まったくもってウザったい。
(じゃあ、お願いだから私の話を聞いて。お願いします)
「ったく、幻聴に付き合ってるほど暇じゃないんだよ……」
 まぁ、実際は何もすること無いから暇で仕方ないんだけど。
「で、何の用事?幻覚さん」
(幻覚じゃないって何回言えばわかんのよっ!!)
「……なんだっけ、自称幽霊な幻覚さん?」
 んなもん、いきなり「私は幽霊です」なんて言われても信用できるか。
(あー、もう。じゃあ幻覚でいいわよ。それで、なんであんたの前に私が現れたかっていうと)
「なんで?」
 自慢じゃないが、俺は霊感なんてものは皆無に等しい。幽霊なんて非科学的なものは、見たことも無ければ信じた事だって一度も無い。
 この目の前にいる人が幽霊だっていうんなら、まずその証拠を見せて欲しいものだが、それも面倒なので話を聞いてやろう。
 幻覚だったらそのうち消えるだろうし。
(あんた、私が地縛霊になって憑いてた場所を毎日通ってたでしょ?)
「どこだそれ」
(事故現場。私はその事故の被害者だから、あの場所に憑いてたのよ)
「ふーん」
 正直、どうでもいい。
492Life life(475) ◆yVoA9C7lzI :2006/01/06(金) 21:23:58
(それで、あんたのこと毎日見てたら、わかっちゃったわけ)
「何が」
(あんたと私は波長が合うってこと。だから、あんたに取り憑いたの。理解した?)
「へー」
 ……ちょっと待て。
 今、なんていった。取り憑いた? こいつと俺は波長が合う?
 ていうか考えてみれば、幻聴とか幻覚っていうのも妙な気がする。何かのテレビで見たのだが、そういうのはもっと断片的なもので、こうやってリアルタイムで会話が出来る幻聴なんて聞いたことが無い。
 それだったら、こいつの言うとおり、幽霊である。その線を疑ってかかるほうが正しいのではないだろうか。
 じっくりと彼女の体を見る。
 半透明。宙に浮いている。
 あー、見事に幽霊の代名詞といってもいいくらいな特徴だな……。
「な、なんだってー!?」
 今更ながら、事の重大さに気付く。
 幽霊に取り憑かれた人間はどうなる? 今まで受け流しながらでしか幽霊特番を見てなかったから、取り憑かれた人間の末路はわからない。
 でも……あまりいい結果にならない気がする。
(い、いきなり大きな声出さないでよっ!!)
「だ、だってだって……幽霊!? マジで!?」
(マジで)
 動揺する俺に対して、この人は冷静。
 自分の絶対的優位は揺るがないから。きっとそんな理由からの冷静だと思う。
(私が幽霊ってこと信じてくれたところで、本格的に話を進めるよ)
「お、俺、殺されるの?」
(それはあんたの態度次第)
 言いながらニッコリと笑う。
 ごめんなさい、お父さんお母さん。僕はこんなところで死ぬかもしれません。
(あんたにはね、私の未練探しを手伝ってもらいたいの)
「お断りします」
(……取り殺すわよ?)
 そう言って、再度ニッコリと笑った。
493Life life(475) ◆yVoA9C7lzI :2006/01/06(金) 21:25:17
 と、そんなこんなで未練探しがスタートした。
 それからの日々は地獄。何かあれば「取り殺すわよ?」の一言。
 しかもこの人、性質が悪いことに、自分のことは完璧に忘れ去ってしまっていた。
 自分について覚えてるのは名前と年齢だけで、それ以外に覚えているものは無い。
 他のことなら覚えてるんだけどな……家族構成とかは。
 未練探しを手伝って欲しい。未練が晴れれば成仏して、晴れて俺も自由の身。
 それなのに、生前の自分に対する記憶がないんだから、未練なんてわかりっこない。それどころか、その手がかりさえ見当たらない。
 どーすりゃいいんだ。
 それで仕方なく、新聞の地方版でも見れば円香さんが巻き込まれた事故のことが載っているのではないかという一抹の期待を抱き、毎日図書館に入り浸っている。
 二年くらい前。そんな曖昧な記憶しかないし、もちろんそんなに前の交通事故のことを覚えている人なんていないから、聞き込みをしたって無意味だろう。
 それ以前に、友達のいない俺が聞き込みなんてできやしない。
 だから、詳細な日付がわからない。円香さんに聞いても「わかんなーい」だから、二年前の新聞全ての地方版に目を通している。
 三日前に夏休みに入り、三日前で一月の新聞全てと二月の新聞を半分くらい。二日前で四月の新聞まで。それで昨日は六月の途中まで。それで今日、七月の上旬を探している最中。丁度円香さんが俺の前に姿を現した辺りの時期。
 円香さんも生身ならいいのだが、幽霊なので物には触れることが出来ない。暇を持て余したあまり、俺のとなりでフワフワと宙を浮き、スヤスヤと寝息を立てている。
 あぁ、呑気なもんだ。
 あんたのために俺はこうやって、毎日頑張って新聞見てるんだからな。
 せめて家に帰ったらマッサージくらい……できないんだよなぁ……。
494Life life(475) ◆yVoA9C7lzI :2006/01/06(金) 21:25:53
 これも違うし、あれも違うし、あぁこの日じゃなかったんだな。
 過去に埋められた新聞という遺物を、次から次へと紐解いていく。俺としては、そのまま硬く結んでおきたかった。
 あぁ、貴重な高校生活の夏休みの中で、俺は一体何をしているんだ……。
 えーと、大手スーパーで生産地偽装……これは違うな。
 少子高齢化がどうのこうの。これも違う。
 100メートルを二本足で歩ける犬……アホか。こんなの記事にするな。
 桜ヶ丘町にて死亡事故。多田圭吾(41)被告は酒を飲んでおり、業務上過失致死の現行犯で……あった!
 文面を読み進めると、円香さんの情報が幾つか連なっている。被害者の名前に「音羽円香」と書いてあるので間違いはないだろう。
 出身高校……桜ヶ丘東高校、俺が今通っている高校と同じだ。
 たしか……学校の図書室には卒業アルバムがあるはずだ。円香さんが死んだのは19歳のころと新聞に書いてあるので、卒業してから事故にあったのだろう。
 卒業アルバムから実家の住所やら電話番号やらが割り出せるかもしれない。
 今でこそ個人情報保護法なんてものが出来たが、二年前ならそんなもの存在しない。小規模な高校なので、アルバムに住所録くらいは載せてある可能性は十分ある。
 一応新聞の記事を持ってきたルーズリーフに書き写し、席を立つ。
「円香さん、帰るよ」
 眠っている円香さんに耳打ちをするように言うと、ゆっくりと目を開ける。
(ふぁ〜……。おふぁよ)
「とりあえず、話は外に出てから」
 図書館では静かに。というか、周囲から見れば俺はぶつぶつと独り言を話しているように見えるのだろうから、それは避けたい。
 外に出て、自転車で走りながら今日の収穫を円香さんに話そう。
495Life life(475) ◆yVoA9C7lzI :2006/01/06(金) 21:26:26
 図書館から外に出ると、夏の暑さが蝉の声と共に俺を襲う。
 襟をパタパタと前後させ、服と体の隙間に溜まった熱気を追い出していると
(生きてるって大変だねー)
 そう、一言。
「円香さんも前まで生きてたんでしょうが……」
 思わずため息をついてしまう。
 かれこれ一ヶ月ほど、それこそトイレだって風呂だって行動を共にしている俺たちは、互いの性格や性質を大筋理解しているように思える。
 例えば、円香さんの性格。普段は勝気で何かあれば「取り殺すわよ」。でもたまに天然。
 みんみんと蝉が五月蝿く求愛をしている中、俺は他人からは見ることができない円香さんと並び、図書室の駐輪場に向かって歩く。
(それで、今日はどうだったのよ。なんかわかった?)
「とりあえず、もっと人が少ない場所に行ってから」
 まだ人がいる。そして人前で円香さんと話すということは、俺が一人でぶつぶつと何かを話す精神異常者の世界に自ら足を踏み入れるようなものだ。
 周囲の目では、なのだが。
 自転車の鍵を開け、跨ってさっさと走り出す。
 まるで空から降るような蝉の鳴き声を聞き流し、田舎道を走った。
(ねぇ、もういいでしょ)
「あーそやね。とりあえず、円香さんの出身高校はわかったよ」
 言うと、隣を平行して飛んでいる円香さんは表立って嬉しそうな顔をする。
「桜ヶ丘東高校。聞き覚えない?」
(志紀が通ってる学校じゃないの)
「うーん、新聞の記録によると、円香さんもその高校が出身ってことになってる」
 一度自転車を止め、記事を書き写したルーズリーフを円香さんに見せてやる。顔を寄せ、ルーズリーフを覗き込む円香さん。
 ……あのー、顔近いんですが。
496Life life(475) ◆yVoA9C7lzI :2006/01/06(金) 21:27:48
(ほんとだね。うん、こりゃ間違いなく私だわ)
「ということで明日、学校の図書室に行くから。確か卒アルが置いてあったはずだから、もしかしたらなんかわかるかもしれないし」
(あ、うん。もしかしたら、私も何か思い出せるかも)
 そうあってほしいところだが……実際どうなるのだろう。
 とりあえず、一刻も早く平穏な生活を手に入れたいものだ。
 というか……一刻も早く平穏な生活を奪還したい。というほうが正しいのだろう。
 再び自転車に跨り、帰路に着く。
 相変わらず、蝉の鳴き声が夏の空に響いていた。


 次の日、学校の図書室に向かった。
 それにしても、夏休みが始まってずっと本に囲まれている気がする。
(ねーえ、私本当にここ出身なの?)
「それを調べるために今日来たんだろ……。何も思い出せないの?」
 尋ねると、小さく頷く。どうやら本当に、自分に関することは消え失せているらしい。
 まぁ、とりあえず卒アルを見てみようと入り口付近に固められた卒アル群から、えと……何年前になるんだ?
 円香さんが亡くなったのは19歳で、二年前の話。つまり今も生きていれば21歳で、21から18を引けばいいから……あぁ、三年前の卒アルか。
「ねぇ円香さん、何組だったかとかも覚えてない?」
 夏休みの図書室なんて、どうせ誰もいない。こうやって普通に円香さんと会話できるのは気が楽だ。
(ごめん、全然覚えてない)
「まぁ、わかってるけど」
497Life life(475) ◆yVoA9C7lzI :2006/01/06(金) 21:28:35
 9クラスくらいだし、新聞の記事を探すよりよっぽどか簡単だ。
 円香さんの年の卒アルを取り、席に座ってパラパラとページを捲っていく。隣から覗き込むように、円香さんも卒アルに目を光らせていた。
 そのときの表情は……なんというか、新しいおもちゃを買い与えられた子供というのだろうか。
 目がキラキラと輝いている。
「知ってる人がいる?」
 うんうん、と何度も頷く。やっぱり忘れているのは自分に関することだけ、なのだろう。
(この人とね、よく一緒に……)
 そこからは延々と、円香さんの思い出話がスタートした。
 ガリガリと頭をかき、次のページへ。
 と、音羽円香の名前を発見する。
「お、あったあった」
 隣にいる円香さんの顔と照合する。
 アルバムに写る円香さんの顔はまだあどけなさが残るものの、基本的に顔の形は同じだ。
 ということは、やっぱりこれは円香さん本人なのだろう。
 次に後ろのページを開くと、やっぱり住所録を見つける。3−Dを上から指でなぞり、円香さんの名前を見つけた。
 もはや円香さんのためになってしまったファイルを開き、ルーズリーフに住所と電話番号を書き写す。ついでに、一応のために当時の担任の名前と電話番号。
「よっし、目的は達成したし、帰ろうか」
(あ、うん。りょーかい)
 アルバムを元あった場所に戻し、円香さんを連れて校内を歩いていく。
 道すがら、今後のことを考えてみる。
 情報を集めるのはこれくらいで限界だろうか。
 円香さんに自分の記憶がない以上、生前の円香さんを知る人間との接触は絶対に必要になってくるだろう。
 なんにしても、生前の円香さんの情報が少なすぎる。こんな状態では、未練なんて到底探し出せはしないだろう。
 とりあえず、円香さんの家族との接触は出来るだろう。連絡先も手に入れたわけだし。
498Life life(475) ◆yVoA9C7lzI :2006/01/06(金) 21:29:08
 ただ、信じてくれるだろうか。
 もし仮に、俺が円香さんの家族として、いきなり見ず知らずの人間が「貴方のご家族が自分に取り憑いています。未練に心当たりはないですか?」なんて言ってきたとして。
 ……普通、信じないよなぁ……。
 仮に信じてくれたとしても、家族が未練を残して成仏していないなんて、やっぱり悲しむだろうし……。
(ねぇ、志紀)
 そうすると、円香さんの家族との接触は、最終的な方法ってことか……。あぁでも、これ以上俺一人で調べることなんて出来そうもないし……。
(志紀ったらー。ねー!)
 あー、どうする俺……。
(しーきー!!)
「え!? あ、何?」
(何? じゃないよもう! 何回呼んだと思ってんの!?)
「三回だな」
(わかってんなら無視するなー!!)
「いや、勘で三回って言ったんだけど。んで、何さ?」
 唇を尖らし、頬を膨らませる。
(私、ここの出身なんだよね?)
「一応、そういうことになってる」
 新聞もそうだし、卒業アルバムにだって円香さんの写真と名前は載っていた。
 ここまで材料が揃っているんだ。その部分に関しては、間違いないだろう。
(じゃあさ、ちょっとその辺を見て回りたいんだけど。もしかしたら何か思い出すかもしれないでしょ)
「ん、まぁそれはいいんだけど」
 どうせ家に帰っても、これ以上俺だけで出来ることなんてないし。
 円香さんの自宅住所と電話番号を手に入れただけで十分だ。
(よし決定! さあ行こう!)
 言いながら、フワフワと俺の前を先行して飛んでいく。
 ……たまには、こんなのもいいかもしれない。
 誰もいない校舎。僅かな隙間から漏れる蝉の鳴き声、運動部の掛け声、ブラスバンド部の演奏。
 夏休みという限定された期間の中でしか体験できない、この空間を。
 うだるような暑さではあるが、まだ校舎内では外の直射日光がない分涼しげだ。
 普段とまったく同じ場所であるはずなのに、人がいないというだけでこんなに違って見えるのか……。ちょっとだけ、新しい発見をした。
 人がいない校舎は寂しげで、それでもなぜか清々しい。
499Life life(475) ◆yVoA9C7lzI :2006/01/06(金) 21:29:43
(志紀ー、案内してよ)
 思い出したように、円香さんが口を開く。
「案内? 本当に、なにも思い出せないのか」
(まぁね。なんで思い出せないんだろうね)
 そんなもの、俺が知りたい。そういうのを思い出してくれれば、未練だって一緒に思い出してくれるかもしれないし。
「案内はいいんだけど、それより円香さん。もっと、円香さんのことを教えてくれない?」
(私の事……?)
 頷く。円香さんの性格やらは理解しているが、そのほかのところは断片的にしか知らない。
「別に思い出せないことは無理しなくていい。覚えてる限りでいいから」
(うーん……。あ、妹の話はどう? それならしっかり覚えてるよ)
「それでもオッケー」
 もしかしたら。本当に、もしかしたら、何かの手がかりになるかもしれない。
 それに、俺自身少しでも、円香さんのことを知っておきたい。なぜかそんな風に思い始めている。
(あの子ね、昔っから私に似て美人でさー)
「……美人?」
(取り殺すわよ)
「ごめんなさい」
 取り殺される前に謝ったほうが身の為だな……。
(でもね、せっかく美人なのに引っ込み思案でさ、彼氏が出来たこともなかったし、友達も少なかった)
 引っ込み思案か……。別に俺は引っ込み思案なわけじゃないけど、彼女が出来たこともないし、友達もいない。
 そういう意味では、俺と妹さんは似ているのかもしれない。
(だから、いっつも私が引っ張ってあげてたなー。それにあの子もお姉ちゃんっ子だったから、いつも私にべったりだった)
 ニコニコしながら話す円香さんを見ていると、なぜか俺まで幸せな気持ちになってしまった。
「へぇ、いいお姉ちゃんしてたんだ」
(ま、まあ、ね)
「で、他の家族とはどうだったんだ?」
(うーん……普通の家族って感じ? そういえばさ、志紀はなんで一人暮らしなの)
「え、俺?」
(私も妹のこと話したんだから、そっちも話しなさいよ。とーかこーかんってやつ)
 それは等価交換のことなのだろう。よくわかってない言葉を無理して使うな。解読が面倒だから。
500Life life(475) ◆yVoA9C7lzI :2006/01/06(金) 21:30:13
「俺、親父と喧嘩してんだよ」
(喧嘩?)
「うん。もう何年も前のことだから、なんで喧嘩したのかさえも覚えてないんだけどさ。中学卒業と同時に家追い出されて、今は母親が送ってくれる仕送りでなんとか生活してる」
(そっか……。仲直りはしないの?)
「今更出来ないって」
 言いながら、思わず苦笑を漏らす。
 したくない、といえば嘘になる。やっぱり俺を育ててくれた父親だ。仲良くやれればそれに越したことは無い。
 だが、相手にその気が無ければ、俺がいくら仲直りしようと考えても、この現状は変わらない。
(うーん、家の家族は皆仲良かったから、そういうのはよくわかんないなー)
 言いながら中空を仰向けになって飛ぶ。
「いい家族に恵まれたんだな。素直に、羨ましいよ」
(んー……あんたも苦労したんだねぇ)
 言ってしまえば今だって苦労しているんだが。
 というより、人生始まって以来最大の苦労をしている最中なのだが。
(それでさ志紀。明日からは何をするの?)
「ん? そうだな……とりあえず考え中」
(えー、何にも思いついてないの?)
「あぁ、仕方ないだろ。円香さんの家族に会いに行こうかって思ってたけど、よくよく考えたらそれって結構無謀だからな」
 どっちにしても、捜査に行き詰ることは間違いないだろうな。
501Life life(475) ◆yVoA9C7lzI :2006/01/06(金) 21:30:51
「で、そろそろ帰ろうかと思うんだけど、どう?」
(え、うん。わかった)
 下駄箱に降り、下足からスニーカーに履き替える。
 こういう面倒なことをしなくていい分、やっぱり幽霊はいろんな点で楽そうだ。
(さって、それじゃあ今日はゆっくりしましょ)
「円香さんはいつもゆっくりしてる気がするんだけど」
(え? それは気のせいだね)
 ため息が出てしまう。
 こうやって俺が頑張っているのに、当の円香さんは「ありがとう」の一言も無い。それどころか、俺が未練探しを手伝うことが、さも当然のような顔をしている。
 が、不思議とその態度に嫌悪感を抱くことが無い。きっと、それは円香さんの人柄なのだろう。
 あとどれくらいで、俺の平穏な生活は帰ってくるのだろうか。
 一週間?
 一ヶ月?
 いや、もしかしたら一年、二年、十年先かもしれない。

 なんにしても、やっぱり今日は蝉が五月蝿くて。
 夏は、まだ始まったばかりだった。

            つづくー
502Mr.名無しさん:2006/01/06(金) 21:35:06
早筆だな…乙ンデレ。
503Life life(475) ◆yVoA9C7lzI :2006/01/06(金) 21:50:19
>>502
普段クラスのやつらに溜まってるうっぷんを小説にぶつけてたら、いつの間にか早く書けるように……
でも、早く書くとその文内容があれになるんですけどね 
504Mr.名無しさん:2006/01/06(金) 21:51:51
ほしゅ
505Mr.名無しさん:2006/01/06(金) 21:55:00
>>503
良作になりそうだ
期待してる

>>504
頼むからsageろ
しかも職人来てるのに保守ってバカか?
506Life life(475) ◆yVoA9C7lzI :2006/01/06(金) 21:56:40
>>505
あ、ありがとうございます
頑張りますんで、よろしくお願いします
507Mr.名無しさん:2006/01/06(金) 21:59:32
(475)
はもう外していいんじゃねーの?
508Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/01/06(金) 22:04:35
>>507
うぃ、外しときます
さって、それじゃあ続き書いてきます
509Mr.名無しさん:2006/01/06(金) 23:46:55
音羽・・・ってモエかんか?あっ、違うよね・・・(・ω・`)なんでもないです
510Mr.名無しさん:2006/01/07(土) 14:12:34
良作期待保守
511Mr.名無しさん:2006/01/08(日) 11:02:08

〃∩ ∧_∧
⊂⌒( ・ω・) はいはい
 `ヽ_っ⌒/⌒c 良作良作
    ⌒ ⌒

期待保守
512Mr.名無しさん:2006/01/08(日) 11:03:15
上げちゃった('A`)
すまんこ
513Mr.名無しさん:2006/01/08(日) 16:09:34
>>512
でもこのスレって上がっても粘着されないよな。もちろんsageるにこしたこたぁないが
514Mr.名無しさん:2006/01/09(月) 17:43:47
一回くらい目に付いても長文読むの面倒なんじゃん?
515Mr.名無しさん:2006/01/09(月) 22:12:52
続きをワクテカしつつ保守
516Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/01/09(月) 23:10:58
ごめん、二日連続バイトだった上に明日から学校始まる・・・
三日に一回くらいになりそ
517Mr.名無しさん:2006/01/09(月) 23:34:48
>>516
乙。
気にスンナ。
自分のペースで書いてくれればいい。
おれたちは読ませてもらうだけなんだから。
518Mr.名無しさん:2006/01/09(月) 23:41:07
そうそう。
変に責任感じる必要無いぞ
まぁ、ヤリ逃げされると寂しいもんがあるがw

こんな所頻繁に来てないで学校ガンガレよ〜
519Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/01/10(火) 00:05:10
どうもです
とりあえず、三話は明日にでも完成予定
殆ど出来てるから、あとは直し
520Mr.名無しさん:2006/01/10(火) 14:02:55
wktk
521Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/01/10(火) 18:32:16
あー、学校始まった……明日からもう平常授業ですorz
ちょっと文章滅茶苦茶かも……ごめんなさい。 >>501の続き

   三話
 夏休みに突入し、もう一週間が過ぎようとしていた。
 一週間の内三日は図書館に通い詰め、他の四日は自宅で作戦会議。
 が、結局話題は円香さんに……というかテレビの内容に反らされ、まったく進んでいない。まぁ、テレビが無くても進まないと思うんだが。
 これ以上やることが無い。否、これ以上やれることがない。少なくても、俺一人の力では現段階までの調査が限界なのだ。霊能力者に相談するという方法もあるのだが、今

はそういう詐欺もよく聞くし、それ以前に金も無い。結局のところ、自分でどうにかするしかない。
 図書館に行っていたついでにオカルトチックな本を読んでみたのだが、どれも助けになりそうなものは無かった。唯一それっぽかったのが『記憶をなくした幽霊の記憶を甦

らせる方法』という項目だったのだが、幽霊の思い出の場所を巡りましょうとか書いてある。そもそも記憶をなくしているのに、何で思い出の場所がわかるんだ?
 ああ、幽霊と生前の頃から知り合いだったという前提条件の下で、か。やっぱり、普通は見ず知らずの人間に頼ってきたりするものじゃないんだな。
(ねぇ、志紀! このレッサーパンダって人形じゃないの!? 立ってるよ!?)
 本来、一番考えるべきなのではないかと思われる円香さんは、ただ流れっぱなしになっているテレビに夢中。内容はニュース番組。風太くんのどこがそんなに面白いのだろ

う。
「そんなことより、これからどうするかを考えるから、円香さんも手伝ってくれよ」
(いやよ。面倒だもん)
「あのなぁ……」
 この人は……成仏したくないのか……。
 まったく赤の他人だった俺では、やっぱりできることは限られる。となると、円香さんの生前を知る存在が必要になってくるのだが……。
522Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/01/10(火) 18:33:22
「それの確保が難しいんだよなぁ……」
 家族なんてもってのほか。友達とかも微妙な線だ。
 信じてくれるわけないし、信じてくれたとしても相手が悲しむのは間違いない。家族の一人が、友達が。成仏できずに現世にとどまっているなんて知ったら、悲しむだろう


 それより、前者の可能性のほうがよっぽどか高いんだけど。
(んー、彼方なら信じてくれるかも。あの子、すぐに人を信じちゃう性質だから)
 言いながら苦笑を漏らす。
 ちなみに彼方とは、彼女の妹さんとのことだ。もちろん名前だけ聞いただけで、本人の姿を見たことなんてないのだが。円香さん曰く『私に似て美人』だそうで。多少突っ

込みどころはあるのだが、取り殺されるのでその辺は省略。
「といっても、妹さんに会いに行けば、結果的に円香さんの両親とも会うことになりそうだしなぁ……。なんとか妹さんとだけ接触できれば……」
 言いながら、円香さんの住所を書き写したルーズリーフを空中で揺らす。テーブルに開かれた地図には赤マル、円香さんの実家だ。
 地図で調べたら、案外ご近所さんであることが判明した。自転車で30分くらい……都会で言えばご近所とも言えないらしいのだが、田舎からすれば30分なんてご近所の

他何者でもない。通う小学校は違うものの、中学校は学区が一緒だ。
「絶対妹さん一人しか家にいない時間帯ってのはないの?」
 それならば、その時間にでも訪問して上手く言いくるめれば……もとい、説得できれば、なんとかなるかもしれない。
(あー、無理無理。お母さんが専業主婦だから。趣味も無いし、近所付き合いも殆ど無いような人だったからさ、友達と遊びに行ったりしてない限りお母さんは家にいるわね


「じゃあ、逆に妹さんが絶対にどこかに出かける時間とかは?」
 それなら街中で声をかけて、上手く言いくるめれば……もとい、説得できれば。
523Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/01/10(火) 18:34:05
(それも無理。彼方は友達いないし、趣味も無いし、習い事とかも無いから。休みの日は絶対家に篭ってる)
 ……お手上げっすか。
 もしかして、このまま円香さんが何か思い出すまでこの生活は続行……?
(ねぇ志紀)
「なんですか」
(志紀ってさ、優しいね)
「……なっ!?」
 唐突に言われ、思わず情けない声を上げてしまった。
「そ、そんなことより! これから一体どうするんだよ」
 円香さんがいれば暇はしないが、これからずっとこの生活を続けていくには無理がある。俺だって一人の時間が欲しいのに、円香さんは無理にでも付いて……というより、

憑いてくる。風呂も、トイレも。
 だから一刻も早く円香さんには成仏していただきたい。
(私わかんなーい)
「……少しは真面目に考えてくれって……あんた成仏したくないのか?」
 別に成仏しなくて俺から離れてくれるっていうなら万々歳なんだが。
(えー、そりゃ成仏したいけど、そんな急ぐものでもないかなって)
「頼むから急いでくれ」
(いやだ。むしろ停滞する)
 ……こいつめ。
524Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/01/10(火) 18:34:47
「なんだ、そんなに俺と別れるのが寂しいのか」
(ち、違うわよっ! 別にあんたと一緒にいるのは案外楽しいからとか、そんなのじゃないんだから!!)
「んー? 本当のことを言ったらどうだ?」
(違うって言ってるでしょ!)
「へー」
 まぁ、どうでもいいんだが。
 ふとテレビに目線を向けると、いつの間にかニュースは終わったようで刑事ドラマが始まっていた。
『いいか、調査の基本は聞き込みからだ』
 と、初老の男が若い男性に話している。どうやらなんらかの事件が起こった後らしい。
「……調査の基本は聞き込みから……」
 その言葉が、やけに頭に引っ掛かっていた。
「なぁ円香さん、俺って聞き込みしたか?」
(え? えっと……)
「してないよな」
(してないわね)
 調査の基本は聞き込みだってのに……ごめんなさい熟練刑事さん。
 そうだよ、最も基本的かつ重要で地道な作業を忘れてたじゃないか。図書館での資料漁りも地味さでは負けていないが。
「うっし、明日からは聞き込み調査。いい?」
(そりゃ、志紀がそう言うんならそれしかないでしょ。どうせ私はなにも出来ないんだし)
 できないんじゃなくてしないの間違えな気がするのだが。
525Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/01/10(火) 18:35:17
 次の日、早速聞き込み調査を開始する。
 一応こちらの身分をはっきりさせるという意味で、学校の制服に身を包んでみた。警察で言うなら『警察です』と言いながら手帳を見せるようなものだろう。それより強制

力などは格段に低いが。
 狙い目は円香さんの実家周辺を歩いている人々。母親は近所付き合いが少ない人だと言っていたが、円香さんは社交的だ。情報を手に入れることだって可能かもしれない。
 いきなり男が死んだ人のことを尋ねてくるなんて、きっと不審がって何も教えてくれないだろう。そう思って制服なのだが……これは少し失敗した。
 まず、暑い。ちゃんとした正装にすると、俺の制服はネクタイ着用だ。服の中に容赦なく夏の熱気がこもる。
 そして、逆に不審だ。夏休みなのに制服を着て住宅街を徘徊している男。考えてみれば、この上なく不審だ。
(ねー、なんで制服なのよ)
 そんな後悔も知らず、円香さんは容赦なく追い討ちをかける。何のためにわざわざ制服を着てきたんだ、俺。
「そんなことどうでもよくて、とりあえず聞き込みだ」
 通学用の鞄から円香さん専用ファイルを取り出し、聞き込みをしなければならない事柄を確認する。
 1.円香さんの生前の様子
 2.……書いてない
 正直に言ってしまえば、1の内容しか思いつかなかった。
 そもそも近所の人から得られる情報なんて高が知れてるだろうし、生前の様子だけでも知れれば大した進歩だ。
526Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/01/10(火) 18:35:50
 と、丁度正面から買い物帰りらしき主婦を発見。見た目、温厚で優しそうな女の人だ。もしかしたら話を聞いてくれるかもしれない。
 早速駆け寄り、声をかける。
「あ、あの、ちょっといいですか?」
 元々人付き合いは得意ではないが、この際そんなこと気にしている余裕は無い。見知らぬ人に声をかけるのには抵抗があるが、我慢しよう。
「ん、なに?」
 どうやら一応、話は聞いてくれるらしい。
「突然申し訳ないのですが……音羽円香という人をご存知ですか?」
 回りくどいのは無しだ。直球勝負。
「……おとわまどか……あぁ、円香ちゃんね」
「知ってます?」
「えぇ、元気でいい子だったわよ。二年前に、交通事故で死んじゃったけど……」
 人選ミスは無かったらしい。
「あの、差し支えなければ円香さんの生前の様子とかをお聞かせ願えませんでしょうか」
「……いいけど、何で?」
 と、不審そうな目で見られる。やはり疑わしいようだ。
 ここからが俺の話術の見せ所。丁寧な口調で怪しさを消す。
「申し遅れました、瀬川志紀と申します。円香さんは、簡単に言うなら私の先輩にあたる人です」
 まず、自分の身分を明かす。
(まぁ、言ってることは間違いないけどね)
 と、隣で茶々を入れる円香さん。お前はいいから黙ってろ。
「あ、そういえば同じ学校の制服ね」
「はい。それで、円香さんの友達の方から円香さんの話を聞きまして、是非色々知りたいと思いまして」
 少し無理があるかもしれないが、俺の足りない脳みそではこの程度の言い訳しか思いつかない。
 本当のことを話しても信じてくれるわけないし……これしか思いつかなかったんだからしかたない。
「ふーん。それじゃ、円香ちゃんの友達って人から聞けばいいんじゃない?」
 やはりそこを突いてきたか。が、それも織り込み済みだぜ。
527Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/01/10(火) 18:36:53
「本当はそうしたいのですが、その人は今遠くに行ってしまっていて、電話番号もわからないので連絡が取れないんです。でも知りたい。学校に伝説を残したような人が、一

体どんな人だったのかを。いてもたってもいられず、こうやってここに来てみた。というわけです」
(ちょっと、私伝説なんか残してないわよ!)
 だからちょっと黙ってろ。
「なるほどねぇ。でもね、私もあんまり円香ちゃんと仲がよかったわけじゃないから、あんまり詳しいことは話せないよ。それでもいい?」
「はい、どんな些細なことでも構いません」
 よし、上手く言いくるめれた。ていうか、もしかしたら俺は話術の才能でもあるかもな。
「すごい社交的な子だったわね。いつもニコニコしてて、元気が良かったわ。ちょっと乱暴なところもあったけど」
 それは知ってる。隣でフワフワしてるこの人を見れば一目瞭然。
(どこが乱暴よ!)
 そういうところだよ。
「それと、彼方ちゃんっていう妹がいるんだけど、いつもその子と一緒に遊んでたわね。円香ちゃんと違って彼方ちゃんは内向的だから」
(妹思いのいいお姉さんってことね)
 得意げに笑う円香さん。頼むから黙っててください、気が散ります。
「彼方ちゃんって言えばね、今も毎日朝早くに円香ちゃんのお墓参りしてるの。あの子もあの子で、姉思いのいい子ねぇ」
「毎日? あの、何時くらいかわかります?」
 どうやらこれは円香さんも知らなかったらしい。あっけに取られたというか、呆然といった感じの表情をしている。
 事故死をしてからずっと事故現場にいて、それからは俺とべったりなわけだから、知らなくて当然だ。
528Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/01/10(火) 18:38:33
「大体……朝の六時くらいだったかな。あ、そうそう。六時って言えばね、今日あそこのスーパーで夕方の六時からタイムサービスなのよ!」
「ほうほう、タイムサービス……へ?」
「それでね聞いてよ、ここだけなんだけどさ、トイレットペーパーが150円なのよ!」
「……あ、あの……」
 ま、まずい。このままでは伝説の井戸端会議に巻き込まれてしまう。
「あ、ちょっとちょっとそこの奥さんも聞いて!」
 だああぁぁ!! 会議の参加者を増やすな!
(ちなみに志紀。この人たちって一回話し始めると二時間は止まらないわよ)
「……マジか……」
 思わず、ため息をついてしまった。
「そうそう、マジなのよー!!」
 ……駄目だ、これは逃げようも無い。


 結局、井戸端会議が始まって二時間と十五分の間拘束される羽目になってしまった。貴重な夏休みのうち二時間十五分もだ。
 まぁ、考えてみれば夏休みっていうのは四十日あって、それを時間で換算すると……40×24だから……960時間。そのうちの四捨五入して2時間なんていったら、ほ

んの2/960、約分すれば1/480なわけで、大した割合でもないような気がする。
529Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/01/10(火) 18:39:28
 と、帰路の道すがら意味も無く頭を働かせる俺。自転車こいでる中で何をしているんだか。
(で、志紀。今日の収穫は?)
「円香さんも隣で聞いてただろ」
 とりあえず、最初のほうに話していたのはもう持っている情報だったので聞き込みの成果とは言わないが、後半部分が知れたのは大きい。
(彼方が毎日私のお墓参りしてくれてたなんて知らなかったなー)
 そう、それだ。
 つまりその時間、妹さんは一人きりになるということで、上手くすれば妹さんとの接触ができるかもしれない。
「よし、そんじゃ明日俺も円香さんの墓参りしてくる。円香さん、自分の家の墓くらいわかるよな?」
(ん、うん。それは覚えてるけど、どうするつもり?)
「先回りして墓参り。で、墓参りしてる間に妹さんとばったり対面という設定で行く」
 それしか思いつかない。それで妹さんに、直接円香さんの現状を話す。
 傷つけるかもしれないが、この際そんなこと気にしてはいられない。俺の平穏がかかっているんだ。
(そっか、なるほど。あったまいい!)
「普通の人間なら思いつくと思うけど」
(私が褒めてあげてるんだから素直に喜びなさいよ)
「わーい、嬉しいなー」
(……なんかムカつく)
『えいっ、えいっ』と声をあげ、俺の頭を拳で殴りつける。が、拳はことごとく俺の頭部をすり抜け、俺はなんの痛みも感じない。
 ああ、やっぱ幽霊なんだな。と、こんなところで実感する。
「なー、円香さん。円香さんの墓ってどこにあるんだ?」
 一応、聞いておいたほうがいいだろう。あらかじめ大まかな場所を知っておかないと、明日家を出る時間が決められない。
(丘並木のそばに霊園があるの知らない? そこにあるんだけど)
「丘並木っていうと、あの桜の花がスゲー咲くとこだよな」
(そうそう。春になると綺麗なんだよねー)
 言いながらポーッと表情を崩す。桜の花が咲き乱れる並木を想像しているのだろうか。
「あそこなら、俺の部屋から円香さんの実家まで行くより近いな」
530Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/01/10(火) 18:40:14
 大体真ん中くらいにあるから、十五分くらいか。六時くらいに墓参りらしいから、一応早めに部屋を出るとして五時半。
(志紀、並木行きたいなーって思うんだけど、駄目?)
「へ? なんでまた」
(なんとなく。駄目かな)
 正直暑いからすぐにでも帰りたいんだけど……よくよく考えてみれば円香さんからこうしたいと言い出したのは初めてだ。未練探しを手伝ってくれとかそういうのは抜きに

して、だが。
 そう考えると、僅かに胸の奥底に、心の境界からギリギリ押し出された部分に。そんな、小さなところに違和感というか、取っ掛かりを感じたのかもしれない。
 ただの気まぐれということも考えられるが……。
「よし、行こうか。どうせここからそう遠くないし」
 一旦自転車の進行方向を変え、来た道を戻る。そっちのほうが近い。
(ごめんね志紀。暑いのに無理させちゃって)
 珍しく、円香さんが殊勝な態度だ。そんな態度を取られたら、こっちも困る。
「別にいいよ。円香さんのためだから」
 言いながら苦笑を漏らす。円香さんのためとは口で言ってても、結局は円香さんが成仏する手がかりになるかもしれないから、という行動原理で動いている俺自身に。
 いやまぁ、円香さんを成仏させるためにといえば円香さんのためとも言えなくは無いが、それの大本は『平穏な生活カムバック!!』なわけだから、やっぱりそれは自分の

ためなのだろう。
(……ん、ありがと)
 そんな俺の内心とは裏腹に、円香さんは俺から少しだけ目線を反らし、ほんの少しだけ頬を染めて、小さく礼を言う。
 ……なんか、すごい罪悪感が……。
531Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/01/10(火) 18:41:04
 それから自転車を走らせること五分。丘並木に到着する。
 正式名称は『桜が丘町並木公園』。つい先ほどまで知らなかったのだが、霊園と密接しているようだ。
 春には総勢160本の桜が咲き乱れ、その中でも一番大きな桜は樹齢300年だとかいう話もある。実際、かなり大きい。
 ただ、ここは夏に来るべき場所ではない。
 なぜかというと、山の中腹に作られているからだ。公園に行くまでに、数えていても途中で面倒になってしまいそうな石段を登り、その後に傾斜のきつい坂道を歩かなけれ

ばならい。
 さらに、近くに浅い池もあり、森に囲まれているこの場所は蚊が生育するには絶好のポイント。
 結果、石段と坂道のダブルコンボで汗が流れ、その臭いに釣られてやってくる蚊の恰好の的になってしまうわけだ。
「痒い……非常に痒い」
 ぼりぼりぼりぼり。
 露出する皮膚という皮膚が悲鳴を上げている。だらしなく伸びた爪により容赦なく剥ぎ取られる皮膚組織。ごめんな、俺を今日まで守ってくれていたのに。
(ほんと、生きてるって大変だわ)
「まったくだ……まだ公園に着かないのか……」
 小学生の頃はよくここに遊びに来たものだが、あの時はこんなにこの坂道が登ることを苦痛に感じていただろうか。
 いや、むしろこの坂道が楽しくて仕方なかった気がする。
 いつの間にか、俺は子供心と言うものをなくしてしまったのだろう。
 当時は友達だっていた。いつも仲良くしていた友達がいた。でも、いつの間にか離れていった。俺ではなく、みんなが。
 きっとそれは、俺が変わったからなのだろう。
532Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/01/10(火) 18:41:41
(ねー、ちょっと休んだらどうよー。顔だけ見ると死にそうよ)
 この人は。円香さんは、もし俺が変わってしまったらどうなるのだろう。ふとそんなことを考えた。
 今はこうやって、円香さんの未練を探すために頑張っている。
 もしこれがなくなったら。円香さんは俺から離れて行くんだろう。
 ……ん? よく考えたら万々歳……。いやいや、違うぞ。何を考えているんだ俺。
 乗りかかった船だし、確かに円香さんは迷惑だけど、いい人であることに間違いはないんだ。この人のことは嫌いじゃない。
 波長がどうのこうのと言っていたが、やっぱり円香さんが俺の前に現れたのには、それなりな意味があるのだろう。
 もし意味はなくても、俺を頼って現れた。それは間違いない。
 だったら、助けてやるしかない。
(しーきー!)
「え、何?」
(志紀ってさ、あんまり人の話聞かないね)
 言いながら頬を膨らます。なんだか最近、円香さんの態度が随分柔らかく……というか、より友達同士みたいな感じになってきた気がする。
「ごめんごめん、ちょっと考え事してたんだよ。で、何」
(少し休んだら? 疲れてるでしょ)
 言われてみなくても疲れてる。自分の体のことだ、自分が一番良く知ってる。
「大丈夫大丈夫。どうせ公園まであと少しだから」
 記憶が正しければ次の緩やかなカーブを曲がり終えると公園の入り口が見えるはずだ。どうせあと少しなんだし、わざわざ休むまでも無い。
 記憶どおり、緩やかなカーブを曲がり終えると、森に隠れていた公園の入り口が見えた。
 1メートルくらいの柱みたいなものに、木の看板で『桜ヶ丘並木公園』と書かれている。
 柱と柱の間をくぐり、久々に公園に足を踏み入れる。
「あれ、ここってこんなに小さかったっけ」
 思わず呟いてしまう。
533Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/01/10(火) 18:42:14
 記憶では、もっと広くて大きな遊具がたくさんあって、そう……例えるならば夢の国にでもいるような気分だったのに。
 それだけ俺が成長したということだろう。かつては凄く大きく感じていたブランコも、シーソーも、ジャングルジムも。今ではこんなに小さいものに感じてしまうのか。
(懐かしいなぁ)
 と、小さく呟いた円香さんを見ると、柔らかな表情を浮かべている。
「思い出でもあるのか」
(ん、彼方と一緒にね、毎年花見してたの。小学生のときから、毎年欠かさず)
「そっか」
 ふと思ったことがある。
 一応覚えてはいるものの、円香さんの記憶と言うものは曖昧な印象を受けるものが多々ある。が、妹さんに関しての記憶。それだけはいつも明確で、確かなものだ。
 ただ単に妹さんと一緒にいた時間が長いからそうなのか。それとも、未練のキーとなる人物が妹さんなのか。
 ……どっちにしても、憶測の域を脱し得ないんだけど。
「とりあえず、疲れたからちょっとベンチで休むよ。円香さんはどうすんの」
(私は志紀と一緒にいるよ)
「まったく、世話が焼けるお嬢さんで」
 言いながら苦笑。まったく、本当に世話が焼ける。
 日が傾き始めている。思ったよりも山登りに時間がかかってしまったらしい。
 傾き始めてはいるものの、やっぱり夏の日差しは強い。日差しから逃げるように、日陰に設置されたベンチに腰をかける。
「で、円香さん。なんでここに来たいって思ったんだよ」
(ん、わかんない。なんとなく来たいなーって思っただけだから……)
「そっか……」
 こういうところから世の中に触れていくことにより、ふとしたきっかけで未練を思い出すかもしれない。
「どうする、ちょっと遊んでみるか?」
 少し休んだだけで疲れが取れるのは、やっぱり若さゆえの特権だろう。幸い公園に人気はないし、少しくらい遊んでも問題ない。
 遊べば汗が出るだろうが、既に服は汗でしっとりと湿っている。今更汗をかいて服が濡れたところで、なんら問題はない。
(遊ぶって言っても、何して遊ぶのよ。私は物に触れないし)
「あ、そっか……」
 考えてみればそうだ。とりあえず、公園の遊具を使って遊ぶということは無理。
534Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/01/10(火) 18:42:48
 鬼ごっことかも無理。平気な顔して自転車と同じ速度で空を飛ぶ円香さんに、追いかけっこで敵う訳がない。
 昔よくやった遊びといえば、高鬼とか影ふみとか……どっちにしても無理。常に俺より高い位置にいる円香さんに勝てるわけ無いし、影ふみなんて言ったら円香さんは影す

らない。
 結局、公園で遊ぶ方法なんて何一つ無いってことか……。
「仕方ない、遊ぶのはあきらめるか」
 流石に俺一人で遊ぶのは無理がある。というか、何が悲しくて高校生が公園の遊具で、一人寂しく遊ばないといけないんだ。
(じゃあ、そろそろ帰らない? 来てみたけど、やっぱり何も無いみたいだから)
 そういいながら、苦笑を漏らす。その後にごめんね、と付け加えた。
「別にいいよ。んじゃ、そろそろ帰りますか……」
 ベンチから立ち上がり、日陰の外に出る。途端に暑さが襲い掛かり、軽い目眩に襲われる。
 登りは大変だが、山を降りるだけなら楽だ。マラソン選手とかは下りのほうが疲れるらしいのだが、俺のような一般市民からすれば下りのほうが楽なのだ。
 つい先ほど通ったばかりの柱と柱の間を潜り抜け、ふと足を止めた。
(どうしたの)
 そういえば、ここに来た目的の一つを忘れていた。
「円香さん、霊園ってどっち?」
 場所の把握。どうせここまで来たんだし、大まかな場所ではなくて、詳細な場所を知っておいて損はないだろう。
(あっち)
 言いながら右を指す。なるほど、小さな道が長く伸びている。この先に霊園があるのだろう。
「一応、場所の把握しておきたいからさ。自分の墓が霊園のどの場所にあるかはわかるよね?」
(なんとなーくならわかるけど)
「よっしゃ、じゃあ行くか」
 体を右に向け、長く伸びる細い小道を進んだ。
535Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/01/10(火) 18:43:42
 五分ほど小道を歩くと、広々とした霊園に出た。森に囲まれており、なぜだろうか。そこだけ別の空間のように思えた。
 聞こえてくる音は、蝉の鳴き声、夏の風音、ざわざわと揺れる木々の葉。
 数え切れなくも無いが、数えるのが途中で面倒になってしまいそうなほどの墓の数々。
 この墓の数の何倍もの骨が、今ここに埋まっているんだなと思うと、不思議な気持ちになった。
 そして、俺の隣をフワフワと浮いている円香さんの骨も、やっぱりこの霊園のどこかに埋まっているのだろう。
「どこかわかるよな?」
(ん、あっち)
 言いながら俺を先行して浮遊していく。俺は黙ってその後に続いた。
 静かな空間に、声を出すことどころか息をすることすらも憚られた。
 この空間を壊してしまうみたいで。
(ここだよ)
 言いながら、丁度霊園の真ん中辺りに位置する墓の前に止まる。墓に書かれている文字を見ると、『音羽家之墓』の文字。音羽なんて苗字は珍しいから、ここで間違いはな

いんだろう。
 他の墓は殺風景なのに、この墓だけは違った。無機質な石色を彩る花と、灰色から緑色へグラデーションする燃えかけの線香。作られて何年くらい経ったものなのかはわか

らないが、光沢がしっかりと残っている墓はこれくらいなものだった。
 なるほど、確かに妹さんは毎日墓参りに来ているらしい。花は最近変えたのだろう、まだ瑞々しい。光沢が残っているのも、毎日掃除をしている証拠だろう。
 こんなに姉思いな妹も珍しい。いや、ここまで姉思いだと『姉に執着している』といってもいいくらいかもしれない。
 墓の前に跪き、両手を合わせる。目を瞑り、頭の中で言葉を喋る。
 俺が絶対成仏させます。
 なんとなくだけど、最初の思いとは違ってきているような気がする。
536Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/01/10(火) 18:44:19
 最初は『付き纏われるのは迷惑だから成仏させる』だった。しかし、今はきっと『成仏させる』だけに変わってきている。
 可哀想だから、という同情からなのだろうか。それとも、何か別の感情があるのだろうか。
 その辺ははっきりしないが、自分の中で何かが変わり始めていることは確かなのだろう。
 蝉の鳴き声が夏の空に響く中、そんなことを考えていた。
(なんか、自分のお墓をお参りしてくれてる人を隣で見てるって不思議な気分だよ)
 言いながら苦笑する。釣られて、俺も苦笑を漏らす。
 たしかに、言われて見ればその通りだ。
 俺は今、隣でフワフワ浮いているこの人の墓参りをしている。もちろん、生まれて初めての経験だ。
「まあでも、墓参りして罰は当たらないでしょ」
(まーね。墓参りして罰が当たったらその人可哀想だよね)
 まったくその通りだ。
「よし、場所は確認したし、今日は帰るか」
 明日はちゃんとお線香とか色々持ってこよう。コンビニに行けば売っているはずだ。
(じゃ、山降りよっか)
 ……そうだった。
 帰るまでに、またあの山道を通らなければ行けないんだった……。
 あぁ、明日は虫除けスプレー必須だな。なんというか、出費が増えるな……。
 と、そんなどうでもいいことに思いを馳せた。

 空は、夏独特の白っぽい青。大きく伸びる入道雲。その下で、蝉の鳴き声に包まれて、俺はただ山道を降りていく。隣を浮遊する彼女と共に。
 夏は、いよいよ本番というところだった。
537Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/01/10(火) 18:46:05
 つづく、を書き忘れた・・・

読み直してみたら主人公が考えてること矛盾してるよ・・・
その辺は見逃してください。あとから出てきた考えが本心ってことで
538Mr.名無しさん:2006/01/10(火) 20:25:34
・・・・・・いい・・・
よすぎるよあんた・・・・・
539Mr.名無しさん:2006/01/10(火) 20:46:47
よくこれだけの長文かけるな。乙&GJ
なんかツンデレといか軽い小説みたくなってるけどおもしれぇwwwwww
540539:2006/01/10(火) 20:47:46
(´・ω・).。o○(地味にタイプミスした・・・)
541Mr.名無しさん:2006/01/10(火) 21:07:11
>>537
激しく乙
続きが楽しみな作品だ
542Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/01/10(火) 21:16:25
一応ヒロイン(円香さん)がツンデレになるように書いてるつもりなんだけど・・・激しく俺の実力不足
ちょっとフリーのギャルゲで資料収集してきます
543Mr.名無しさん:2006/01/10(火) 21:21:16
それより過去スレ嫁
544Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/01/10(火) 21:39:27
>>543
あ、そうか!その手を忘れてた・・・
教えてくれてありがとうございます
545Mr.名無しさん:2006/01/10(火) 23:02:58
内容はともかく、改行に失敗していて非常に読みづらい。
これだけで無駄に評価を落としているような気がして残念。
546Mr.名無しさん:2006/01/10(火) 23:28:57
これはどっちかってーとコピペミスとかじゃないか、
まぁ書き込みボタン押す寸前も確認は大事だけど

一文が長いときは適当なところで改行入れてくれると俺も見やすいが
フォントの大きさ「大」なオレ様的には横40文字が限界だ
547Mr.名無しさん:2006/01/11(水) 02:16:09
先輩♀「おまえあのマネージャーと…キ、キスしてたらしいな」
「いや、あれは向こうからいきなりで…」
先輩♀「この外道が!目ぇつぶって歯ぁ食いしばれ!」

…ちゅ。

「せ、先輩?」
先輩♀「きょ、今日はこのへんで許してやる!
もう誰かに隙をつかれてて唇を奪われるような不覚を取るなよ!」
「は、はぁ」
先輩♀「それと!今のがいちおう…あたしの初めてだからな!」
548Mr.名無しさん:2006/01/11(水) 03:56:24
先輩にぐいぐい引っ張られたい
549Mr.名無しさん:2006/01/11(水) 10:26:46
書籍化の予感
550Mr.名無しさん:2006/01/11(水) 20:01:46
だが断る
551Mr.名無しさん:2006/01/11(水) 21:58:05
>>547
これって単発か?
意外とストライクなんだが
552Mr.名無しさん:2006/01/12(木) 20:09:45
長編書きたいけど、自分の場合は、文才もアイデアも乏しいから、ああいうのは
どうしようもなく仕事やめたいとか、生きるの辛いとか
胸にドロドロしたのが溜ってないと書けない
オナ禁、鬱ゲでもすれば書けなくもないかも
553Mr.名無しさん:2006/01/12(木) 20:16:20
だったら短編書けばいいじゃない
554Mr.名無しさん:2006/01/12(木) 21:07:17
>>552

 さ あ オ ナ 禁 す る ん だ ! !
555Mr.名無しさん:2006/01/13(金) 14:40:10
ほしゅ
556Mr.名無しさん:2006/01/13(金) 18:40:10
路面電車は〜街を抜けるぅ〜う



保守
557Mr.名無しさん:2006/01/14(土) 06:27:16
尻切れトンボが大杉…。姉の続き世みたい
558Mr.名無しさん:2006/01/14(土) 13:58:38
完結するに越したことはないが
たいてい完結しないのでその心積もりで見ましょう
559Mr.名無しさん:2006/01/14(土) 20:45:35
そして今日も保守をする
560Mr.名無しさん:2006/01/15(日) 01:49:55
就寝前に保守
561Mr.名無しさん:2006/01/15(日) 21:06:34
誰もいないことはないと信じて保守
562Mr.名無しさん:2006/01/15(日) 21:24:11
さーいごのー時がおっとずーれてー 夢ーならばー覚めてほーしかったよー



ということで保守しときますね
563Mr.名無しさん:2006/01/15(日) 23:14:40
隣の部屋の楽しそうな笑い声を聞きながら保守 ('A`)
564Mr.名無しさん:2006/01/16(月) 00:59:09
 
565Mr.名無しさん:2006/01/16(月) 03:48:46
ここは山奥のど田舎にある全寮制の学校
ある人は教育方針で、ある人はここでの生活に憧れて
そして残りの多くはワケアリで。
そんな生徒が集まったこの学園で僕は先輩と再会した
566Mr.名無しさん:2006/01/16(月) 15:54:28
どんだんず!じょぐにんさんばだーれもこんじゃ!
保守がわりに何がかぐだちょっと
567Mr.名無しさん:2006/01/16(月) 17:08:51
「な、なげぇ・・・」
僕は目の前にそびえたつような石段を見上げてため息をこぼした。
今日から通う、学校の寮はこの石段の上にある。

一歩一歩と重い荷物を背負い石段を登る。
冬だと言うのに汗が噴出してきた。

「ふぅ・・ちょっと休憩・・」
石段を大方登り終えたところで少し休憩。
体力には自信があったがこの荷物だ。
ただでさえ電車とバスを乗り継ぐこと数時間の長旅の後で疲れている。
石段に腰かけて景色を見渡すと一面は雪景色。
その見事な光景に思わず感嘆のため息が漏れた。
「あれが、さっき通った川沿いの道で、あ、あそこには滝が見える」
初めはこんなど田舎でこれから暮らすとあって滅入っていた気持ちも
この見事な景色を前に幾分か和らいでくる。
さて、もうちょっとだし登り切ってしまうか。
荷物を抱えて再び石段を登り始めたときだった。
「やばっ!遅刻だぁ〜」
声のしたほう、石段を見上げると
「わたったた・・・あ、お、落ち・・」
そこにはつまずいて石段の頂上でよろけている女の子。
少女「わたった・・・お、落ち・・・!」
この石段を転げ落ちたら下手すりゃ死ぬ
とっさに身体が動いた。石段を3段飛ばしで駆け上がる。
少女「きゃぁぁぁ〜〜〜!」
「間に合うか!」
なんとか転げ落ちる寸前に腕を差し出して女の子を抱きかかえた。
が、その衝撃を受け止め切れずに女の子を抱きかかえたまま
2人揃って石段を転げ落ちた。
少女をうまく、頭をぶつけないように抱きかかえながら姿勢を保つ。
568Mr.名無しさん:2006/01/16(月) 17:30:50
少女「う〜・・・いつつつ・・・」
な、なんとか2人とも生きてはいる。
僕は頭を打った衝撃でくらくらする頭を起こし立ち上がろうと・・
少女「ひぁっ!」
「なんだこれ・・・?」
手のひらにはちょっと柔らかくて暖かい感触?
目はチカチカと点滅を繰り返していてよく見えない。
「なんだろうこれ・・・」
ふにふにと手でそれが何かを探る。
少女「い、いやぁぁぁ!痴漢!変態!」
ベチっ!
いきなり頬を張り飛ばされ、視界のピントが合ってくる。
あ、これって・・。
自分が少女の胸を揉んでいたことに気がつきふと退こうと身を離した
が、顔を上げた僕の目に飛び込んで来たのは
ガタガタと石段を僕らのところへ転がり落ちてくる僕の四角い鞄・・・。
あんな重いのが直撃したら石段の下までまっ逆さまだ。
「危ない!」
とっさに少女を抱いて横へ転がる。
少女「きゃああああ〜!な、なにすんの・・ふ、ふむぅっ・・・!」
目測を誤ったか、唇に柔らかい感触。そこから漏れる吐息・・・。
不可抗力とは言えこれはヤバイかも。
僕は急いでがばっと起き上がり身を離した。
少女「ぷ・・はぁ・・な、なっ・・!」
「はは・・は。怪我は・・ないかな?」
努めて爽やかに聞いたつもりだったが声は乾いていた。
少女は瞳に涙を浮かべ、唇をわななかせている。
少女「なんてことすんのよこのばかぁぁあ!!!」
ボフッ・・!
強烈なアッパーをもらって心地よい浮遊感
僕の意識はそこで途切れた。
569Mr.名無しさん:2006/01/16(月) 17:49:05
紆余曲折あって結局ついたのは予定よりも2時間遅くなった。
「すみません遅くなりました」
ずいぶんと若い寮母さんに遅れたことを詫びる。
「この雪だからバスも遅れがちだし気にしないでいいのよ」
柔らかく微笑む寮母さんがまぶしくて思わず目をそらす。
「は、はぁ。すみません」
本当は石段でノビてましたなどとは口が裂けても言えない。
「じゃあ改めて、私がこの寮で君たちのお世話をする
寮母の小川鈴音です。よろしくね」
「今日からお世話になります古関祐介です。よろしくお願いします。」
鈴音「じゃ、早速この寮について案内するからついておいで」
それから一通り、寮母さんの後について一通り寮内をまわった。

鈴音「で、最後にここが食堂ね。朝、晩はここでみんな食事を取るの」
「ここの食事も小川さんが?」
鈴音「そうよ。あんまり人数もいないし、私一人でもじゅうぶん」
「へぇ偉いですね」
鈴音「基本的には私はここかさっきの私の部屋にいるから
何かあったらそこへ来てちょうだい」
「はい」
鈴音「じゃあ何か他に聞きたいことある?」
「んー・・」
570Mr.名無しさん:2006/01/16(月) 17:59:37
「そこを動くなぁぁ〜!!!」
「げふっ!!」
背後から突然衝撃が襲い、僕は前のめりに倒れた。
「とどめ!!」
「ぶげっ!」
容赦なく頭を踏まれて床とキス。
鈴音「冬子ちゃん!」
冬子「鈴音さん!大丈夫ですか!?この変態に何かされませんでした!?」
鈴音「変態って・・・古関君は今日からここで一緒に暮らすお友達よ」
冬子「今日から!?一緒に!?この変態が!?」
鈴音さんとやりとりをしてる間も容赦なく踏みつけてくる足
冬子「このな奴と一緒に生活なんかできません!早く叩き出してくださいよ!」

なんとか足を払いのけて立ち上がる。
目の前には先ほど石段で僕を殴り飛ばした少女。
冬子「ほら、お帰りはあっちよ!さっさと出て行かないと警察に・・」
鈴音「こら、それくらいにしておきなさい」
冬子「やだ!こんな変態と同じ寮に住むなら野宿したほうがマシ!」
571Mr.名無しさん:2006/01/16(月) 18:11:22
こうまで言われてはさすがに僕も頭にきた
「さっきから変態変態って、あれは事故だろ」
冬子「なぁに!事故で済ませる気!?男のくせにさいてー!」
「あのとき俺がああしなかったら今頃おまえは全身打撲で病院行きだぞ」
冬子「ぐっ・・だからって人の・・胸揉んで・・ふぁ、ファーストキスまで・・」
「そんな大騒ぎするほどのことでもないだろ?あの程度の胸」
冬子「な・な・なっ・・!」
鈴音「ちょ、ちょっと2人とも・・・」
2人の間を鈴音さんはおろおろするばかりだ。
「それに唇が触れてしまったのだって俺にとっちゃ不幸な事故だ
こんな狂犬みたいな女とキスしちゃうなんて」
冬子「くぁ〜〜!もう怒った!死なす死なす絶対死なす〜!」
ぶんぶんと、大振りの拳を振り回してくる冬子
「そんな攻撃当たらぬヨ☆」
必要最低限の動きでその攻撃を避けつつ挑発する。
冬子「避けるんじゃないわよ!!」
「やだよば〜か」
「も〜絶対許さない!ピクリとも動かなくなるまでぶん殴ってやるんだから!」
572Mr.名無しさん:2006/01/16(月) 18:22:54
「冬子!いい加減にしなさい!!」
その声でピタリと冬子の動きが止まる。
冬子がぎこちなく振り向いた先
ジト目で睨みつけている小さな女の子がいた。
冬子「い、いいんちょ・・」
?「寮内でのケンカは禁止ってご存知ですよね冬子さん?
暴力なんてもっての他ですよ」
冬子「だ、だってコイツが・・・!」
?「彼はまだここに来たばかりで右も左もわからない転校生ですよ。
多少の無礼は大目に見るのが大人でしょう?」
冬子「で、でもこいつ・・!」
?「いいから!2人とも仲直りして」
「はぁ・・すみませんでした」
その「すみません」はこの小さな女の子に向けたものだったが
冬子への謝罪のものと勘違いしたのか女の子は満足そうだ。
?「うんうん。素直でよろしい。ほら冬子も」
冬子「はぅ・・だって・・・その・・」
?「冬子?いい加減にしないと怒るわよ?」
その圧力に屈してしぶしぶ頭を下げる冬子
冬子「ご、ごめんなさい・・もうしません」


こうして、転校初日は過ぎていった
573Mr.名無しさん:2006/01/16(月) 18:26:23
やばこれ超長くなりそう。
574Mr.名無しさん:2006/01/16(月) 18:45:02
>>580
wktkしすぎてとまりません
575Mr.名無しさん:2006/01/16(月) 19:53:46
これ初めに断っておくけどかなりパクってるから。
投下するしないは別として過疎が続くようなら一応続き書いておく
576Mr.名無しさん:2006/01/16(月) 20:46:47
>>567-572>>565は無関係?
まとめの都合があるんで
577Mr.名無しさん:2006/01/16(月) 21:13:55
(*´Д`)ハァハァ
冬子いいよ冬子
578Mr.名無しさん:2006/01/16(月) 21:42:36
エロゲなノリがよろしいな!

>>576
俺は無関係だと思う。
579Mr.名無しさん:2006/01/16(月) 22:33:27
>>576
>>565を見て書いたけど正直あんまり関係ないっす
580Mr.名無しさん:2006/01/16(月) 22:35:57
おk把握した。
>>565は次のまとめには入れないことでいいかな。
単発というよりただ書き殴っただけっぽいし
書いた本人から続きがあると言われるなら別だが・・・
581Mr.名無しさん:2006/01/16(月) 22:47:00
保守
582Mr.名無しさん:2006/01/16(月) 22:56:10
こっちに移ってきてから2日目。
明日から授業に出るとあって
荷物の整理をしていると時計は6時にさしかかろうとしていた。
「そろそろ夕飯の時間か・・・」
ちょうどいい具合に腹も減ってきている。

ここの食堂は食卓のようなもので
全部で8人程度しか座れない。
それを交代交代で回すので空いてる時間を逃すとなかなか食べられなかったり。
食堂の席に着くと鈴音さんが声をかけてきた。
鈴音「あら、早いのね」
「あ、鈴音さん。なんかお腹すいちゃって」
冬子「はぁ・・疲れた・・お腹すいたぁ・・ってああ!」
そこによろよろと冬子が入ってきた。
「昨日はどうも」
冬子「昨日はあんたのせいでいいんちょーに!」
俺を見た途端に攻撃態勢に入る冬子を煙草をふかす真似などして挑発する。
冬子「ふか〜〜〜!むかつく〜〜!」
鈴音「こらケンカはやめなさい!」
冬子「だってだってだってだってだって〜!!」
鈴音「ごめんね・・祐介君、冬子ちゃん転校生が来て浮かれちゃってるのよ」
冬子「ちっがーーーう!」
「へぇ?ほぉ?ふーん?」
冬子「この・・・後で覚えてなさいよ!」
食堂を出て行こうとする冬子。やれやれ嫌われたものだな。
いいんちょ「あら、冬子ちょうどいいわ。一緒に食べましょ」
そこにいいタイミングで入ってきた委員長が声をかける。
冬子「え、でも・・・」
委員長「いいから、そこあいてるし座りなさい」
委員長が指差したのは俺のちょうど真向かいだった。
冬子「いい・・・あたし後で食べる」
委員長「なぁに?私と一緒のご飯はイヤだって言うの?」
583Mr.名無しさん:2006/01/16(月) 23:03:19
冬子「わ、わかったわよ」
結局、委員長の圧力に負けて冬子はしぶしぶ俺の前に座った。
委員長はその隣に座って鈴音さんとなにやら話している。
どうやらこのじゃじゃ馬も委員長には頭が上がらないらしい。
真正面には天敵とも言える僕が居て、それでも文句も言えないジレンマに
あっちこっちに視線をなげて所在なげにしている。

ふと、目が合う
冬子「・・なにみてんのよ」
「いやべつに」
冬子「そのなんか含みのある態度やめてよ」
彼女には僕の言動や行動がどれもいちいち気に障るらしい。
このままだと息をするだけでも怒られそうだ。
仕方ない。ここは。
「はぁ・・・」
僕はちょっとわざとらしくため息をついた。
冬子「なによ・・」
「冬子さん・・」
冬子「なによ気持ちわるい・・」
「僕は冬子さんに嫌われてとても悲しいです」
584Mr.名無しさん:2006/01/16(月) 23:13:04
冬子「はぁ・・・?」
「僕を好きになってください」
真面目な顔でしれっと言ってのける。
場が静まり鈴音さんと委員長もこちらに注目している。
冬子「な、ななななななっ・・・・!」
大慌ての冬子がおかしくて思わず噴出しそうになるがなんとかこらえた。
冬子「なな、なんであんたを好きにならなきゃいけないのよ!」
「ここで会ったのも何かの縁です。どうか仲良くしてください」
冬子「と、とにかくあたしは!」
「まだ昨日のことで怒ってるんですか?」
冬子「あったりまえでしょっ!よりにもよってあたしの初・・」
いいんちょ「初?」
冬子「とにかく!あんなことしといて簡単に許してもらおうなんて」
「そうですか・・・」
目を伏し目がちに悲しげに呟く。
それを機にまた場が静まり、今度は冬子に少し非難めいた視線が集まる。
冬子「えっ・・・あぅ・・」
585Mr.名無しさん:2006/01/16(月) 23:19:38
委員長「ねぇ、冬子。なにがあったかは知らないけど・・」
冬子「あぁ〜〜!んもうわかったわよ!あんた」
「あんたじゃなくて祐介だ」
どさくさに紛れてファーストネームで呼ばせる。
冬子「ゆ、祐介に突っかかるのやめてあげるわよ・・・」
「じゃ、仲直りの握手」
冬子「うぅ〜〜〜・・・」
おずおずと差し出された小さな手を僕はそっと握って離した。
冬子「一応許してあげるけど、馴れ馴れしくしたらコロスからね・・・」
小声で物騒なことを言ってくる。
けど目をそらした冬子の顔が赤くて、かわいい、と僕は思った。
586Mr.名無しさん:2006/01/17(火) 00:11:37
  _   ∩
( ゚∀゚)彡  テラモエス!テラモエス!
 ⊂彡



>>581に何か言おうと思ったけど作品に萌えたので止めときます
587TS ◆Jr4wb2zZIE :2006/01/17(火) 18:08:23
久しぶりに書く気になったので投下します。
新作の邪魔にならないようにひっそりと。
588TS ◆Jr4wb2zZIE :2006/01/17(火) 18:09:21
マンガ喫茶もカラオケも何もない、地方の海岸沿いの町で生まれ、
気が付けば僕は高校生になった。
毎日が退屈で、気が付けば学校に行かなくなっていた。
共働きの両親はいつからか僕の事をあまり構わなくなり、
学校に行かなくても何も言ってこない。
僕は毎日、登校する時間に家を出て、
そして潰れた工場の倉庫にいりびたっていた。
そんな僕の最近の楽しみはコイツにエサをあげる事だ。
「ほら、今日もたくさん食べるんだぞ」
「みゃーん」
最近ここを自分のネグラにしたノラの子猫が僕の足に体をすり寄せてくる。
僕は家から持ってきた残飯をビニールから出し、子猫に食べさせる。
子猫はものすごい勢いで残飯にむしゃぶりついている。
「そんなに慌てるなって」
食事が終わると毛づくろいをし、どこかへ行ってしまった。
「アイツはいいよな、縛られるものがなくて」
タバコに火をつけ、床に体をほおり投げる。
「何か面白い事、ないかな・・・」
携帯の電波も微妙な片田舎の町で、それを望む事は、”今まで”は無理だった。
でも彼女がこの町に来てから、僕の高校生活は少しずつ変わって行った。
589TS ◆Jr4wb2zZIE :2006/01/17(火) 18:11:11
冬休みになった。僕はいつもと変わらずアイツにエサを持っていってた。
いつも通りの時間に起き、残飯をビニールにつめ自転車を走らせる。
工場に付くと見慣れない自転車が止まっていた。
「誰かいんのか?」
少し気になった。でもアイツのエサの方が優先だ。
いつもの様に鍵の掛かってない倉庫の扉を開ける。
「おーい、エサだ・・・・」
誰もいるはずのない倉庫・・・のはずなのに見知らぬ女がいた。
僕がいつも座っているユンボの運転席に。
子猫は彼女の膝の上に乗り、ノド元をなでられ、気持ちよさそうにしている。
僕は何故だか不快感を覚えた。
この場所は僕だけの場所であり、見知らぬ女があやしているその子猫は僕の唯一の親友だったからだ。
「お前、ここで何してんの?」
あからさまに不快感丸出しで僕はその女に聞く。
「・・・別に」
「別にって、じゃあこっから出てけよ。邪魔なんだけど」
「ここ、アンタん家じゃないでしょ」
「違うけどさ」
「じゃあアンタが出てけばいいじゃん」
明らかに挑発的な言葉で彼女は返事をしてくる。第一印象は最悪。
「ふざけんなよ!俺が先にココを見つけたんだぞ!」
「何ガキみたいな事言ってんの?アンタの秘密基地気取り?」
お互いの語尾が荒くなってきたトコロで子猫が女の膝から飛び降りた。
590TS ◆Jr4wb2zZIE :2006/01/17(火) 18:12:10
「みゃーん」
俺が来るとエサを貰える、と分かっているコイツは俺の足元に来て体をすり寄せる。
「あぁ、分かったよ。今やるからって。待ってろ」
いつもの様にビニールから出し、そしていつもの様に夢中でむさぶる子猫。
「アンタがいつもエサあげてんの?」
「ああ、俺の親友だからな」
「ふーん。猫が親友だなんて寂しいね」
「うるせーな、お前には関係ないだろ」
気が付くとその女はユンボから降りて来ていた。
ご飯を食べる子猫を挟んで僕とその女は向かい合っていた。
「君も大変だねー、こんな生意気な男に親友とか言われて」
そういいながら女は子猫の頭をなでようとした。
「バカ、やめろ!」
「えっ・・・・痛っ!!」
女の手が子猫の頭に触れた瞬間、子猫の鋭い爪が牙をむく。
「コイツは食事中に触れれるのが嫌いなんだよ」
「そういう事は早く言いなさいよ」
「女のクセに生意気な事言ったバツだな」
「うるさいわね・・・イタタ・・・」
見れば結構深くやられている。僕は黙ってポケットからバンソウコウを取り出し女に差し出す。
「倉庫出て右側に水道があるから」
「・・・」
女は黙ってバンソウコウを受け取り、倉庫から出て行った。
591TS ◆Jr4wb2zZIE :2006/01/17(火) 18:14:50
数分後、女は倉庫に戻ってきた。手には僕があげたバンソウコウがはられている。
「もうちょっとマシな柄なかったの?」
バンソウコウを指差し女はそう言った。
僕は少し恥ずかしかった。確かにアニメキャラのバンソウコウはどうかと自分でも思う。
「何だっけ?これって何とか軍曹ってヤツでしょ?」
「何だっていいだろ・・・」
「みゃーん」
ちょうど子猫が食事を終え、いつもの様に毛づくろいをし、外へ出て行った。
「あっ…いっちゃった」
「いつもだよ、メシ食ったら散歩に行くんだ」
「そうなんだ。じゃあ私も帰ろっと」
「2度と来んなよ。ここは俺の場所なんだからな」
「さぁ?それはどうかしら。私はあの子猫、気に入ったからまた来るかもね」
そう言いながら女は倉庫を出て行った。
「ふざけるな!絶対来るなよ!!」
僕は女の背中に向かって大声で叫んだ。
「何なんだよ、あの女」
僕はブツブツ言いながらいつもの様にタバコに火を付け、床に身を投げる。
しばらくして、あの女が戻って来た。
倉庫の入り口から、寝ている僕に向かって缶コーヒーを投げる女。
「何だよ、これ?」
「バンソウコウのお礼」
それだけ言うと女は倉庫から立ち去っていった。
「何なんだ?アイツは」
熱い缶コーヒーを握り締めながら僕はボソっと呟いた。
592TS ◆Jr4wb2zZIE :2006/01/17(火) 18:18:18
久しぶりに書くとダメだな・・・
一部訂正
>>590

× コイツは食事中に触れれるのが嫌いなんだよ
○ コイツは食事中に触れられるのが嫌いなんだよ

若くないのに ら 抜き言葉になっちった  OTZ
593Mr.名無しさん:2006/01/17(火) 19:28:37
期待
594Mr.名無しさん:2006/01/17(火) 20:52:18
イイヨイイヨー
続き期待!
595Mr.名無しさん:2006/01/17(火) 21:28:20
>>592
その程度のミスは脳内変換されて気付かないから無問題だお
( ^ω^)b 乙
596Mr.名無しさん:2006/01/18(水) 00:17:11
設定がいいな
597Mr.名無しさん:2006/01/18(水) 00:37:00
やべぇ、良スレ発見してもた予感。
俺も拝見させておくれよ。ノシノシ
598Mr.名無しさん:2006/01/18(水) 06:30:50
お、いいね期待期待(´ω`*)
>>592
受身の時はら抜き表現とは言わなくね?w
いあ、まぁどうでもいいですハイ
599TS ◆Jr4wb2zZIE :2006/01/18(水) 12:21:45
>>591
翌日、僕は少し寝過ごしてしまい、慌てて残飯をビニールに入れ倉庫へと向かう。
「やっべー、アイツ、腹すかせてるんだろうな」
自転車をこぎながらふと僕は思った。
「あのバカ女、今日はいないだろうな」
倉庫が視界に入って来た。昨日は置いてあった女の自転車は無く、僕は安心した。
「悪い!寝坊した」
勢いよく倉庫の扉を開けると、昨日と同じようにあの女が子猫を自分の膝にのせ撫でていた。
「お前、何やってんだよ」
「私が何しようとアンタに関係ないけど?」
「何度言えば分かるんだよ、邪魔なんだよ」
「あーあ、男のヒステリーって醜いわねー。あ、この子、もうご飯すんだから」
「は?」
「今日は私がお寿司を持ってきてあげたの。すっごく喜んで食べてたから」
床を見るとシャリだけが残っている発泡スチロールの空き容器が転がっていた。
「寿司?」
「そう、アンタみたいに残飯なんてあげてたら可愛そうでしょ」
「マグロとかだけだよな?」
「そんなわけないじゃない、ウニ、イクラ、タコ、イカ・・・」
イカ、タコという言葉を聞いて僕はカッとなった。
慌ててその女にか駆け寄り強めにホホを叩いた。
「痛い!何するのよ!!」
気持ちよさそうにしていた子猫は慌てて女の膝から飛び降りる。
女はお返しとばかりに僕のホホを叩いてきた。
「ふざけた事してんじゃねー!このバカ女!!」
「何がよ!私がこの子にご飯あげちゃいけない理由でもあるの?!」
600TS ◆Jr4wb2zZIE :2006/01/18(水) 12:24:36
「あげた事に文句言ってんじゃねーよ!」
「じゃあ、何よ?女に手上げるなんて最低ね、クズ男!!」
「お前、コイツを殺すつもりなのかよ!」
「はぁ?何、訳わからない事いってんの?」
「猫にイカとか食わしたら腹こわすんだ、それぐらい知らないのか?」
「えっ、、ちょ、、ちょっと、どういう事・・・」
「猫の消化器官って人間とは違うんだ。消化出来ないんだ。最悪の場合・・・」
「う、うそでしょ・・・」
イカやタコが猫によくないのは事実だ。でも少量ならさほど問題はないはずだ。
でも僕はこの女がムカついてたので少しだけ脅してみる事にした。
「最悪の場合・・・死ぬかもしれないんだ」
「死・・・」
みるみる女の顔が青ざめていく。思惑通りだ。
「猫の事、何も知らないくせにエサあげんな。だからもうここに二度とくるんじゃ・・・」
僕が言葉を最後まで言おうとした途中、女は泣きながら僕に抱きついてきた。
「ねぇ、どうしよう!!私のせいで猫が!!猫が死んじゃう!!!」
「ちょ・・お、落ち着けって」
「ごめんなさい!!ごめんなさい!!ねぇ、助けて!!お願い!!あの子助けて!!!」
尋常ではない彼女の取り乱し方に僕はすごく動転した。何故、この女はこんなに取り乱してるんだろう。
それもそうだが別の事も僕を動揺させた。僕の胸に押し付けられる女の胸、鼻にはシャンプーのいい匂い。
背中にまわされた女の手が力強く僕を引き寄せてくる。
やばい、僕は急にこの生意気な女を意識しだした。恐る恐る女の肩に手を置き、少しだけ引き離す。
「だ、だ、大丈夫だから・・・」
泣き顔を見られたくないんだろう、女は俯きながら僕の言葉を聞きなおす女。
「・・・ほ、、ほんと?」
「あ、、あぁ、、大量だったらヤバイんだけど、少しだったら平気だ」
「ほんとに・・・ほんと?」
「本当だって。だから、安心しろ」
601TS ◆Jr4wb2zZIE :2006/01/18(水) 12:27:11
「そう・・・」
涙を拭きながら女は呟く。そして腫れぼったくなった顔を僕に向ける。
「だったら早くいいなさいよ!慌てて損したじゃない」
「早とちりしたのはお前だろ?」
「ちゃんと説明しないアンタが悪いんでしょ?」
さっきまで泣いていたくせにもうこの変わりよう。何なんだ?コイツは。
「それより・・・」
「あ?何かまだあんのかよ?」
「いつまで私の肩、触ってるの?」
「え、あ、ああ、、ゴメン」
僕は滑稽なぐらい慌てて女の肩から手を離した。
そんな僕を見て女はクスクスと笑い出す。
「な、何がおかしいんだよ・・・」
僕は一瞬にして耳まで赤くなった・・気がする。確かに今まで彼女がいた事などない。
女性と会話するのは問題ないが、抱きつかれたり肩を触った事なんてなかったし。
それより僕をドキドキさせたのは・・・この生意気な女が初めて見せた笑顔だった。
そんな僕をほったらかしにし、女は倉庫の入り口でゴロゴロしている子猫の元に歩き出す。
「この子って女の子なんだね」
「そ、そうだけど」
「そうだ、アンタ、名前なんていうの?」
突然、名前を聞いてくる女。いつもなら答えないだろうけど、ドキドキしていた僕は即答してしまう。
「昌広だけど」
「ふーん、昌広ね、じゃあこの子の名前は今日からマサミだから」
「なんでマサミなんだ」
「私の名前が広海だから。広い海で広海。アンタと私の名前から一文字ずつとったの」
「お、おい、勝手に名前つけるなよ・・・」
僕の言葉を無視し、女は・・・・・広海はマサミを抱き上げ、頬ずりしている。
「よかったねー、マサミ。名前が決まって」
無邪気に見える広海の笑顔、僕はずっと・・広海にばれない様に見つめていた。
602Mr.名無しさん:2006/01/18(水) 12:39:41
泣き顔から急に立ち直る場面・・・

( ノД`) モエタ・・・
603Mr.名無しさん:2006/01/18(水) 18:42:47
純粋なラブストーリーもえす
604Mr.名無しさん:2006/01/18(水) 21:12:37
イイネイイネー!
続き期待!

>>587
俺のことはキニシナイでクダサイ。新作と呼べる代物じゃないので。
俺の場合、明日には続き書こうって思っても
その明日って奴がいつまでたっても来ないんだよ。
日付が変わって明日が来た、と思ってもその時には
すでにそれはいつもの、今日、でしかなくなってる。
素敵な明日が来ればきっと
人生を劇的に素晴らしものにしてくれると信じてるんだがね。
いったい明日って奴はいつ来るんだろうな。

要するに何が言いたいかって言うと、続きキボンヌ。
605Mr.名無しさん:2006/01/18(水) 21:25:13
すごく・・・いいです
606Mr.名無しさん:2006/01/19(木) 10:24:27
とっても(´ω`*)ステキ
続き期待
607TS ◆Jr4wb2zZIE :2006/01/19(木) 17:49:21
>>601
それから毎朝、僕と広海は二人であの倉庫で会っていた。
最初の頃はマサミの事を話していた。捨て猫なのか、ノラ猫の子供なのか、とか他愛もない話しを。
いつしか、僕はマサミより広海の事が気になりだしていた。
誰もいない倉庫に若い男女が二人きり。意識するな、という方が無理だと思う。
広海はどうなんだろう・・・僕と同じような事を考えているのだろうか?
ある日、僕は広海の気持ちを少しだけ探ってみる事にした。
いつものように食事を終えたマサミが散歩に出かける。それはすなわち広海も帰るという事でもあった。
「じゃあ私帰るね」
スタスタと倉庫を出ていこうとする広海に僕は話しかける。
「あ、ちょっと待ってくんないか?」
「何?」
「今日、これからヒマ?」
「えっ、なんで?」
「町、行かないか?今から一緒に」
「な、何?・・急に・・・」
「い、いや、ペットショップにでも行こうかなと思ってさ」
町に行く、と行っても行き先なんて考えてもなかった。とっさに出た店がペットショップだった。
「ペットショップ?」
「そ、そう、これからもっと寒くなってくるから、マサミに何か買ってやろうかなって」
慌てて適当な理由をつける。
「何で私を誘うの?」
「何でって・・・」
僕は思わず言葉を飲み込む。広海と二人で出かけたいから・・何て言えるはずもなかった。
608TS ◆Jr4wb2zZIE :2006/01/19(木) 17:50:10
「ほ、ほら、俺が勝手にマサミの面倒みたら、お前が怒るだろ?」
我ながらウマイ切り返しだと思った。広海は腕を組み、しばし考える。
「それもそうね、分かったわ。今日はヒマだから付き合ってあげるわ」
「そうか、じゃあ今から行くか」
広海と二人で町に行く。僕の心は確実に躍っていた。
「あ、その前に一回家に戻っていい?」
「なんで?」
「こんな格好じゃ出かけたくないから」
「別にいいじゃん。デートとかじゃあるまいし」
思わず口にしたデートという言葉に僕は何だか照れくさくなった。
「な、、、バ、バカじゃない!断っておくけどマサミの為にアンタと出かけるんだからね!」
「わ、分かってるよ、そんな事ぐらい・・」
「じゃあ私、着替えてくるから。そうね、1時間後にタバコ屋の前のバス停待ち合わせね」
「1時間かよ!!何の準備するんだ?そんなに」
「うるさいわね!女の子は色々大変なの!!」
「あー、分かったよ。じゃあ1時間後な」
「遅刻したらタダじゃすまないから」
「お前も遅れるなよ」
そういって広海は倉庫を出て行った。
初めて広海と出かける・・僕は誰もいなくなった倉庫の中でブーンをして走り回っていた。
609TS ◆Jr4wb2zZIE :2006/01/19(木) 17:52:47
約束の時間の15分前に僕はバス停に着いた。田舎のバス停には簡易的な小屋みたいなものがある。
僕はその中に入り、広海が来るのを待った。
タバコに火をつけては、立ち上がり、座ってタバコを消す。そしてまたタバコに火をつける。
どっから見ても落ち着きのないガキにしか見えない。でも僕は自分自身を抑える事ができずにいた。
しばらくして約束の時間になり、そして時間ちょうどに広海はやってきた。
僕は広海の姿を見てしばし目を奪われてしまった。
いつもは動きやすそうな格好で、髪の毛も適当に結わえていた。
でも、今、僕の目の前にいる広海は・・・
足元はこじゃれたブーツ、明るめのベージュのロングスカートに、薄いグリーンのコート、
ロングストレートの黒髪は背中の辺りまで届いていた。
何より僕をドキドキさせたのは・・・広海の唇にぬられた明るめのピンク色の口紅だった。
少しだけ・・ほんの少しだけでもいい・・・触れてみたいとも思った。
・・・正直、今まで以上に広海が可愛く見えた。
どこから見ても女の子。これがあの乱暴な広海なのか?
「ちゃんと遅れずに来たのね」
「あ、ああ、、と、と、当然だろ」
広海の問いかけに僕は思わずどもってしまった。我ながら情けない。
「ねえ、バス来るの何分?」
「・・・わかんね」
「先に来てたなら時間ぐらい見ておきなさいよ」
「ゴメン・・・」
いつもなら悪態をついて返す僕だったが、素直に謝ってしまう。
「うーんと、後10分ぐらいか」
時刻表とにらめっこしている広海の背中を僕は物欲しそうな子供のように見ていた。
610TS ◆Jr4wb2zZIE :2006/01/19(木) 18:04:29
>>604
それでも俺は続きを待ってるよ。
人の書いたのって、結構参考になるんだよ。


ここからちょっと独り言

俺の書き方って最初にガーッと最後まで書いちゃうんだ。
んで、少しずつ晒していって、
レスの内容みて修正する→続きを晒す・・・を繰り返してる。
今回の話も最初はペットショップ行く話しなんてなかった。
でもなんとなくレスの雰囲気から追加してみたって感じ。
レスをくれって言ってるんじゃないけど、一言でも感想チックなレスがあると
書きやすいんだ。

レスくれた人、ホントにサンクス。良かったらまたレスしてくれ。

以上、独り言。すまんかった
611Mr.名無しさん:2006/01/19(木) 18:54:32
ブーンして走り回るとことか、ほのぼのしてていいね
612Mr.名無しさん:2006/01/19(木) 20:41:08
女の子らしさをアピールする描写がいい。
ツンデレ(*´Д`)ハァハァ
613Mr.名無しさん:2006/01/19(木) 20:44:52
正直かなりキテますよ兄貴・・・はうぁっ
614TS ◆Jr4wb2zZIE :2006/01/19(木) 22:28:18
>>609
バスが到着し、僕と広海は乗り込む。
昼前という事もあり、空いている席は少なく、二人がけの席に僕らは並んで座った。
「それで何買うか決めてるの?」
「え、あ、ああ、そうだな・・・」
「まさか、何も考えてない訳じゃないわよね?」
「そ、そんな訳ないだろ?」
「じゃあ何買うか教えて」
「それはだな・・・」
バスの座席は微妙に狭かった。気が付くと僕の肩に広海の肩がくっついていた。
問いかけに答えようと窓側に座っている広海の方を見る。
距離にして50センチぐらい、間近でみる広海の大きな目に僕は釘付けになった。
「な、何じっと見てるの?私の顔に何かついてる?」
「い、いや、べ、別に・・・」
何もついてない、と言おうとした瞬間、バスは信号を左折した。
遠心力のせいでバランスを崩した広海の顔が僕に近づく。
「キャッ!」
ホンの数秒、いや、もっと短い時間、広海の顔が僕の胸板の前に来た。
僕の鼻頭に広海の髪が触れる。
女性専用と思われるシャンプーの匂いが鼻腔を刺激する。
バランスをくずした広海の右手が僕のフトトモに置かれる。
僕はもう、パニック寸前。
「だ、だ、大丈夫か?」
広海は何もいわず、パッと僕から離れ、窓の外を見ながら答えた。
「い、田舎の運転って荒いのね」
「は、ハハ・・・そ、そうかもしれないな」
それから僕等は、目的地まで一言も発しなかった。
615TS ◆Jr4wb2zZIE :2006/01/19(木) 22:29:48
「これ、可愛くない?」
「いや、こっちの方がよくねーか?」
「そうかしら、じゃあ、こっちは?」
「それもなかなかいいんじゃね」
僕等はペットショップでマサミの小屋を探していた。
マサミは僕が用意したワラの上で寝起きをしている。
どうせ何か買うならマサミの家を買おうということにした。
アレコレ選んでようやく候補が2つに絞り込めた。
「どっちにする?」
「うーん」
「私はこっちがいいと思うけど」
広海が指差したのは僕が思っていたのと反対の方をさしていた。
僕は迷わず答える。
「じゃあそれにするか」
「本当にこっちでいいの?」
「ああ、お前が選んだのでいいよ」
「そう。あ、あり・・」
「な、何だよ・・」
「な、なんでもないわよ。じゃあ、買いに行きましょ」
「そうだな」
あり・・で止った言葉。広海は何が言いたかったのだろう?僕には分からなかった。
そして二人で選んだウレタン入りの小屋をレジまで持っていった。
616TS ◆Jr4wb2zZIE :2006/01/19(木) 22:31:36
店を出てこれからどうしようか僕は考えた。
出来ればもうちょっと広海と一緒にいたい、、でもそれを切り出すのは何だか恥ずかしかった。
きっと広海は、マサミの事だからって事で来たんだろうし、誘ってもムダなんだろうな。
「俺、これ持って倉庫に戻るよ。お前は帰るんだろ?」
「え、あ、うん・・・」
「じゃあ、また明日な」
「・・・」
僕はそう言ってバス停へと歩き出そうとした。すると突然、広海が僕の腕を掴んだ。
「ね、ねえ、それ、今すぐ持ってかなきゃダメなの?」
「いや、別にそういう訳じゃないけどさ」
「わ、私、この後もヒマなんだけど・・・」
「そうなんだ・・」
「だ、だから・・・」
「だから?何だよ?」
「もう!!ニブイわね!!」
僕の腕を掴んでいる広海の手に力が込められる。
「イッてーーー!!何すんだよ!!」
「なにかないの?女の子が時間空いてるっていってるのにさ!!!」
「何かって・・」
「信じられない!!この鈍感!!アンタなんて知らない!!!」
掴んだ手を離し、広海はスタスタと街中へ歩いていってしまった。
僕はハッとする。もしかして・・・
慌てて広海に追いつき、聞いてみた。
「な、なあ、もしかして、俺とどっか行きたかったのか?」
「さ、さぁ、し、知らないわよ!!鈍感はついてこないで!」
「そうなんだろ?なぁ、どこ行く?カラオケ?あっ、プリクラでも撮る?」
「は、恥ずかしいから大きな声出さないでよ!バカ!!」
広海も同じ事を考えていたに違いない。僕のテンションは必要以上に上がっていた。
617TS ◆Jr4wb2zZIE :2006/01/19(木) 22:35:16
ああ・・・
週末出社になっちまった・・・・
ヘタしたら家に帰れないかもしんね  orzOTZ

明日から週明けまで投下出来ないかも。
そんな訳で次の分も投下しました。

連発してスマンっす。
618Mr.名無しさん:2006/01/19(木) 22:46:23
>>617
いえいえ、気長に待たせてもらうよ
仕事頑張ってな ノシ

つーかイイ・・・
次の展開がすごくなりそうな予感・・・(*´Д`)モヨモヨン
619Mr.名無しさん:2006/01/20(金) 04:07:09
そこで止める・・・(´ω`*)ンアァ
620Mr.名無しさん:2006/01/20(金) 04:13:39
そんなとこで止めるなんてm9(^Д^)プギャァアァン(*'A`)
621Mr.名無しさん:2006/01/20(金) 08:29:38
(*´д`*)
622Mr.名無しさん:2006/01/20(金) 21:48:38
(;^ω^)これはヤバイお・・・超wktk
623Mr.名無しさん:2006/01/21(土) 00:28:28
>>619
不覚にもワラタ
624Mr.名無しさん:2006/01/21(土) 17:33:51
あああああぜってぇ更新されてると思ったのにいいいいいいいいいい
もう楽しみで楽しみで仕方ないのよ・・・(・ω・`)



ついでに保守
625Mr.名無しさん:2006/01/21(土) 19:46:28
('A`)
626Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/01/21(土) 22:23:25
他の人が書くやつが面白すぎて続きを書く気がおきないw
てかツンデレの表現が相変わらず上手くできない
>>616の続きを楽しみにしてます
627Mr.名無しさん:2006/01/21(土) 22:24:56
>>626
バカモノ
そんなこといったらおまいの続きを待ってる俺はどうなるのだ
628TS ◆Jr4wb2zZIE :2006/01/21(土) 22:47:32
>>626
俺も待ってます。
629TS ◆Jr4wb2zZIE :2006/01/22(日) 00:02:45
>>616
それから僕と広海は遅めの昼食をとり、カラオケに行った。
正直、自分が何を歌ったかよく覚えていない。
広海の歌っている時の横顔や歌い声に心を奪われていた。

田舎のバスは本数が少なく、最終も早い。
ギリギリまでカラオケを楽しんだ僕等はギリギリで最終バスに駆け込む。
「久しぶりに歌うと楽しいね」
「そうだな」
楽しかった、広海と一緒に入れた事が、とても楽しく、嬉しかった。
でも、心残りは・・プリクラが撮りたかったかな。
そんな僕の思いが伝わったのか?広海が僕に問いかける。
「そういえばアンタ、プリクラ撮りたいって言ってなかった?」
「そ、そんな事言ったっけ?」
「言ってないなら別にいいけど」
広海はほおづえをつき、窓の外を見る。
僕は何となくだが、広海の事が分かってきた気がした。
こいつがこういう態度をとるときは・・・
「いや、ゴメン、言った、確かに言った。残念だ、撮りたかったなー」
ちょっとわざとらしく、でも撮りたかった事を強調してみる。すると・・
「ほら、やっぱり言ってたじゃん。自分の言った事ぐらい覚えてなさいよ」
「そ、そうだな。でも、もうバス乗っちゃったしな」
「べ、別に、今日じゃなくったって、撮れるでしょ?」
「えっ、!じゃ、じゃあさ、また一緒に遊びに行かないか?」
自分でも驚くぐらいサラッと誘ってみる。
これで断られたら、俺、立ち直れない・・
「しょうがないわね。ヒマだったら付き合ってあげてもいいわよ」
「ホントか?なぁ、次はいつにする?ドコに行く?」
「ちょ、ちょっと・・バスの中なんだよ?はしゃがないで、恥ずかしい!」
出会った頃だったら、ガキと言われて僕はカッとなってただろう。
でも、今の僕はまた広海と出かけられる事が嬉しくて嬉しくてしょうがなかった。
この時、はっきり分かった。僕は広海が好きなんだ、どうしょうもないくらい・・・
630TS ◆Jr4wb2zZIE :2006/01/22(日) 00:04:41
冬休みも終わりに近づいた1月上旬、僕は自分の部屋で自分の財布を眺めていた。
そこには広海と二人で撮ったプリクラが貼られている。
アホっぽい顔で笑っている僕の横に、恥ずかしそうな表情で口元だけ微かに微笑んでいる広海がいる。
ふと、僕は大事な事を忘れているのに気が付いた。
広海はどこから来たんだろう?何歳?冬休みの間しかいないのかな?
ある日突然、広海は僕の前からいなくなってしまうんじゃないかと。
「そんな事はない・・・ある訳ないだろ・・・・」
不安をかき消すよう、僕は布団の中で小さく丸まって眠りについた。

いつもより寒い翌朝、僕は広海に会いにあの倉庫へと向かう。
もう認めるしかなかった。最初は子猫・・マサミの為に通っていたこの道は
いまは広海に会いに行く道へと変わっていた。僕は決めていた。今日、広海に聞こう。
色々聞くのはどうかと思うが、聞かないと不安でしょうがなかったし。
倉庫に入ると僕と広海が買った小屋からマサミが出てくる。
「みゃーん」
いつものように僕の足元に来てご飯を催促する。
「慌てず食べるんだぞ」
マサミに話しかけ、僕はユンボの運転席に座り広海が来るのを待った。
5分・・10分・・・そろそろ来るだろ。でも気が付けば30分が過ぎようとしていた。
「何で・・・何で、来ないんだよ・・・」
夕方まで待ったけど広海はついに現れなかった。それは次の日も、その次の日も・・・
631TS ◆Jr4wb2zZIE :2006/01/22(日) 00:06:37
僕はいつものようにマサミのご飯を持って倉庫に行く。
でも、もうそこに広海の姿はなかった。
「昔に戻っただけだ・・・」
僕は自分に言い聞かせる。
「みゃーん」
いつものようにマサミがご飯をねだりに身体を摺り寄せてくる。
「お前はいいな。お気楽で・・・」
食事を終えたマサミはいつものように散歩へ出かけていった。
一人残された僕は広海が選んだマサミの小屋を見つめる。
「そういや、一度も乾してなかったな」
天気がよかったので天日干しをしようと思い、小屋を持ち上げた。
「何だこれ?」
小屋の下には封筒が置いてあった。
僕は急いで封筒を開け、手紙を取り出す。そこにはこう書かれていた。
632TS ◆Jr4wb2zZIE :2006/01/22(日) 00:09:39
  昌広へ

   初めて名前で呼ぶからとても恥ずかしいです。
   突然だけど、私、ここにはもう来れないかもしれません。
   明日、手術をするの。
   もしかしたらね、、もう、二度と目を開けないかもしれないんだって。
   体が病魔に襲われているのを知ったのは去年の終わりごろ。
   それで、手術前に静養する為におばあちゃん家にお世話になってたの。
   
   自分が病気だって知ってから寝るのがとても怖かった・・・
   寝るときにね、もう目覚めないんじゃないかなって思うの。
   初めて昌広と会った時も、ほとんど寝てなくて、気を紛らわそうと散歩してたら
   ここでマサミを見つけて、、昌広に出会って、、、
   こんな小さなマサミが一生懸命生きてて、守ってくれる昌広がいて・・・
   羨ましかったの。私も仲間に入れて欲しかったの・・
   
   マサミの面倒を見ている昌広が好きだったよ。
   私もね、昌広がソバにいて、私の面倒も見てくれたらな・・なんて思ったけど・・
   無理だよね、私ってやっぱ、わがままだね。

   ”さよなら”も”またね”も言いません。
   もう二度と会えないかも知れないから・・

   最後にひとつだけ神様にお願いしてみる。
   明日、私は朝5時にあのバス停で昌広が来るのを待ってます。   
   それまでに昌広がこの手紙を見つけてくれたら・・きっとまた会えるよね?
   
                                 広海
633Mr.名無しさん:2006/01/22(日) 01:19:59
せ、切ねぇぇぇぇ!!!!!!
胸がキュキュ〜ンて締め付けられるよ(つД`)
634Mr.名無しさん:2006/01/22(日) 01:33:54
全米が泣いた・・・
635Mr.名無しさん:2006/01/22(日) 01:40:31
。゚(゚´Д`゚)゚。えーんえーん
636Mr.名無しさん:2006/01/22(日) 08:16:10
。・゚・(ノД`)・゚・。
637Mr.名無しさん:2006/01/22(日) 12:48:55
(´・ω・`)テラセツナス
638Mr.名無しさん:2006/01/22(日) 13:40:58
結局のところ、広海はどうなってしまったんだ・・・
つーか、これで終わりじゃないんだよね?
639Mr.名無しさん:2006/01/22(日) 17:28:47
これからバス停に会いに行って最後の展開があるはずだ・・・
それまで涙は見せないお!(´ηω;`)ウッ
640Mr.名無しさん:2006/01/22(日) 18:39:42
('A`)
641Mr.名無しさん:2006/01/22(日) 20:16:34
初の泣き要素か?
642Mr.名無しさん:2006/01/22(日) 20:19:49
別に初じゃない
萌えるだけじゃなく泣ける話は今までもいくつかあった
643Mr.名無しさん:2006/01/22(日) 20:32:22
明日は更新がありますように・・・('A`)
644TS ◆Jr4wb2zZIE :2006/01/22(日) 23:19:42
>>632
僕は走った。泣きながら、泣きながらあのバス停まで走った。
広海がいなくなってからすでに1週間が過ぎていた。
今更バス停に行っても何の意味もないのは分かっている。
でも僕は・・・そうせずにはいられなかった。



もうすぐ春がおとずれようとしている。
あの倉庫は取り壊され、更地になってしまった。
僕は両親の反対を押し切り、マサミを家へ連れてきた。
最初はアチコチでおしっこをしたり、親父の服でツメを研いだり・・
しつけも終わり、家族みんなから愛される妹になった。
でもその頃には”マサミ”ではなく、”ミー”と名前は変わっていた。
”マサミ”と呼ぶと僕が広海を思い出してしまうから・・・


3学期から僕は毎日学校へ行くようになった。
でも、毎朝必ず遅刻をする。
更地になったあの場所で僕は毎日待っていた。彼女が来ることを。
でも、彼女は・・広海は来なかった。
645TS ◆Jr4wb2zZIE :2006/01/23(月) 00:02:33
春休みのある日、僕は”ミー”を連れてあの場所へ行った。
”ミー”は思い出の場所なんて覚えてるわけもなく、
ただ、無邪気に走り回っていた。
走り回る”ミー”に僕は大きな声をかける。
「”ミー”、あんまり遠くにいくなよ」
僕はタバコに火をつけ、大の字に寝そべる。
「もう、待ってもしょうがないんだ・・・」
そう呟き、僕は目をつぶった。

しばらくして、僕の腹に何かが投げつけられた。
「グエッ!」
腹に投げられたのは、缶コーヒーだった。
「イッてーな!誰だ・・・」
起き上がり、振り返ると・・・・一人の女がいた。
その女の目は潤んでいて今にも涙がこぼれそうだった。
646TS ◆Jr4wb2zZIE :2006/01/23(月) 00:10:48
「あの猫・・”ミー”って名前なの?」
女は僕に尋ねてくる。
「・・・・・」
僕は答えなかった。いや、答えられなかった。
「何で・・何で・・勝手に名前変えてんのよ・・・」
「・・・”ミー”じゃない・・・」
僕は泣きながら答える。
「・・・じゃあ・・何って名前?」
「・・マサミ・・・・」
「どうして・・その名前なの?」
「俺と・・・お前の名前から・・・」
「・・お前って?」
「・・・・」
「名前で呼んでよ!!」
その女は泣きながら叫ぶ。
「広海!広海だ!!」
僕は広海を抱きしめた。力の限り、強く、強く。
647Mr.名無しさん:2006/01/23(月) 00:35:24

                                 ;゙^;;
                                /  ";,
                                /,._,;  ゙; 
             . + . ;;―-;;'-─ ─y'"'~"゙´"゙ 、     ヾ;;...                 ■ ■
 ■      ■■■    . ヽ、     /   _ノ     ,_ノ ゙彡' .+  ☆        ■ ■
■■■■  ■  ■       "ヽミ      / iニ)ヽ,   /rj:ヽヽ ヾ..                 ■ ■
  ■    ■  ■ ■■■■■ ミ  ,::::: ;〈 !:::::::c!  ' {.::::::;、! 〉 ゙彡'■■■■■■■■ ■ ■
.■■■■ ■ ■■        ゙ミミ :::::::::  (つ`''" ∀ `'ー''(つ  ::;;;.              ■ ■
   ■     ■  +.  ☆   ゙ミミ ::::::::::::::                彡   ☆ . *  +.
   ■     ■          ゙ミ  :::::::::::::::::::.          "つ';彡       +☆ .● ●
648TS ◆Jr4wb2zZIE :2006/01/23(月) 00:36:22
「行かなくて・・・手紙、気づかなくて・・ゴメン」
「今更、謝ったって・・・許さないんだから・・」
「ホント、ゴメン・・・」
僕は泣きじゃくる子供のように、同じ言葉を繰り返した。
「でも、手術が終わってから、分かった事があるんだよ」
「な、何だよ」
広海は抱きしめた僕の腕をほどき、僕の顔を見つめる。
「神様なんて、いない事。それとね・・・」
「それと?」
「ここにくれば・・・アンタ・・昌広に会えること」
そう言った広海は僕の腕の中に飛び込んできた。
「俺、ずっと言いたかった事があるんだ」
「な、何?」
「俺、広海が好きだ」
「・・・」
「お前がいなくなって、寂しかったんだ。広海は・・」
「わ、私は・・私も・・・」
「みゃーん」
気がつくと僕らの足元でマサミがゴロゴロしている。
僕の腕をすり抜け、広海はマサミを抱き上げる。
「わ、私は・・マサミが大好き」
「・・・」
「マサミのついでに・・アンタもね」
「ついで?」
「そ、そう。アンタは・・・ついでなんだからね!」

帰り道、僕はいつものように右手でマサミを抱いて歩いていた。
でも今日はいつもと違う。
僕の左手は、広海の手を握っている。
僕はいつまでも、この手が繋がっていれば と思っていた。
649TS ◆Jr4wb2zZIE :2006/01/23(月) 00:44:12
以上で終わりです。
長文に付き合ってくれてありがとです。

644-646,648、書いてる途中であれこれ書き直してたんで
見づらくなってスイマセン。
最後、どうしようかすっごく悩んで・・・

レスくれた人、ホントありがとう。書く励みになりまつた。
正直、最後の方はかなりプレッシャーだったっす。
期待に応えられたかわかんないけど。

また書く気になったら現れます。
新作期待!!!!
650Mr.名無しさん:2006/01/23(月) 00:46:06
激しくGJ!!!!
651Mr.名無しさん:2006/01/23(月) 01:13:28
まさかまさかのハッピーエンド、俺の心はいま、とても爽や
かに晴れ渡ったような感じでいっぱいだ。

昌広と広海はこれからもずっと、マサミを介して不器用な、
それでいて愛に満ち溢れた人生を紡いでいくんだろうな。

命の危機に直面した広海はきっと、人間として優しく成長し
たに違いない。生命を大切にする者同士、これからは幸せに、
ずっと一緒に暮らして欲しい・・・。

こんな風に俺は感じた。かなり恥ずかしい感想だけど・・・

・・・長文お疲れさまでした。次回作に期待してます。
652Mr.名無しさん:2006/01/23(月) 01:54:19
いいよすごいよ、グジョーブゥー!

・・・ウチのヌコは片手じゃ抱けないおデブちゃんorz
653Mr.名無しさん:2006/01/23(月) 02:15:52
GJです。
最後、デレじゃなくてツン寄りな所にすごくキタ。
なんだろうこの気持ち・・・、これが萌えってやつなのかな(((*´Д`)))ハァハァ
654Mr.名無しさん:2006/01/23(月) 05:00:38
('A`)b
655Mr.名無しさん:2006/01/23(月) 12:21:30
hosyu
656Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/01/23(月) 16:38:41
久々に行きます。正直言ってツンデレとは段々と離れてます……
参考資料を基に円香さんをツンデレにしてみましたが、今までとキャラが変わってしまうのでこのまま行きます
ご都合主義な感じになってますが、見逃してください……
では、 >>536の続き

 空には、大きな入道雲が浮かんでいる。
 太陽に向かって一直線に伸びるように浮かぶ入道雲。朝日に照らされ、真っ白に輝いていた。
 俺と、円香さんの旅は、少しずつ。でも確実に。終焉という場所に近づいている。
 嬉しいかもしれない。でも逆に、悲しいのかもしれない。
 それでも俺は、前へ進むんだ。



  Life life 四話



 目覚まし時計にたたき起こされ、眠たい目を擦りながら自転車を走らせる。
 隣を飛ぶ円香さんも、やはり眠そうな目。幽霊でも睡眠欲はあるみたいだった。
 丘並木まではあと五分程度。現時刻は六時十五分前。念のため早めに出ておいたことが幸いし、速度を少しくらい緩めてもよさそうだった。
657Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/01/23(月) 16:40:50
 昨日は想定外の出来事だったので準備もなにもしていないのだが、今日は下準備万端。線香と円香さんの好物だという明治のチョコレート。もちろん虫除けスプレーも忘れない。
 昨晩のうちに円香さんと話し合ったことを頭の中で確認する。妹さんに今の俺の状況を信じてもらうための道具。
 やっぱりそれは、円香さん本人の他ならない。
 円香さんが言うには、妹さんは人を信じやすいらしい。だが、やはりこんな事を言われれば信じてもらえるわけも無い。詐欺と思われるのが関の山だ。
 だからこそ用意したのは、円香さんと妹さんの思い出話。二人だけしか知らないようなコアなものだ。
 例えば、十月四日はアップルパイ記念日。妹さんが始めてアップルパイ嫌いを克服した日、らしい。それ以来その日では、円香さん自作のアップルパイが振舞われていたそうだ。
 他にも、なんたら記念日というネタを入手しておいた。こんなもの他人に話すわけはないだろうから、記念日ネタを話せば信じてくれるだろう。
 と、情報をまとめていたところで山のふもとに到着する。適当な場所に自転車を止め、早速山道に足を向ける。
 距離を考えると、おそらく妹さんも自転車だろう。周囲に妹さんの自転車が見当たらないことを考えると、妹さんはまだ到着していないらしい。
 朝の山道は不思議と清々しい。昨日は照りつける太陽光線によって着実に体力を奪われたが、今日はまだ陽も低い。夜の冷気で冷えた大気は、本当に夏かと思わせるくらいに冷たかった。
 少しだけ肌寒い。が、心地よい。これからはもう少しだけ早起きをしてみよう。
 夏の朝は、こんなにも心地よかったんだ。
 澄んだ大気も、心地よいそよ風も、夏の空も。
 全てが今このときのために存在しているように、そう思えてしまった。
658Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/01/23(月) 16:41:58
 何とか円香さんをたたき起こし、妹さんよりも先に霊園へ足を踏み入れた。
 やはり不思議と、ここだけは世界が違うような印象を受ける。同じ世界のはずなのに、まるでここだけ隔離されているみたいに。
 同じ大気、同じ空、同じ場所。それなのに、やっぱりここだけは違う。
「さって、どうしましょうかね」
 と、独り言を漏らす。よく考えてみれば、円香さんの妹さんと接触を図るということを決めているだけで、どうやってとかその辺はまったく考えていない。
 とりあえず、折角線香やらお供え物やら持ってきたんだし、妹さんより先に墓参りを済ませてしまおう。
 昨日と同じ道順で音羽家の墓前まで歩き、膝を折って墓の前に屈む。
(またお墓参り?)
「まーな。昨日とはレベルが違うぜ」
 ただ手を合わせて早く成仏してくださいなんてものじゃない。今回は墓参りグッズ満載だ。
 鞄から線香を取り出し、ライターを使って火をつける。
 シュッと音が鳴り、ヤスリとライター石の接点から火花が舞う。ガスに引火し、小さな炎が立ち上がった。
 オレンジ色の光を放つ火の先端に緑色の線香を近づけ、火を移す。
 線香独特の臭いが鼻をつく。この臭いはあまり好きではない。
 正式名称をなんというかわからないのだが、線香を立てる壷みたいなものに煙が立ち上る線香を立てて、昨日のように手を合わせる。
 ……何を考えればいいんだろう。
 昨日のお参りの時に全て考えてしまった。
 とりあえず、成仏してくださいとか妥当なところにしておこう。
「成仏してください成仏してください成仏してください……」
 ぶつぶつと何度も呟く。そして何気なく円香さんを見ると、むくれた表情をしている。
 成仏していない幽霊の目の前で、その墓に向かって成仏してくださいを繰り返せば当然なのかもしれない。たぶん嫌味に聞こえたのだろう。
659Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/01/23(月) 16:42:49
(あんた、わかってやってんの?)
 やっぱりそうだったんだろう。その声は低い。
「だってさ、それ以外考えることないだろ」
(でももうちょっといい様があるでしょ)
「へいへい、そりゃ申し訳なかったですね」
(いつも思うけど、あんたの謝り方って誠意が感じられないのよね)
「お前もお前で成仏させてやろうとしてる俺に対する誠意が感じられないけどな」
(……取り殺すわよ?)
「……またですか。もう何度そのセリフを聞いたことか……」
(へー、そんなこと言っちゃっていいんだ)
 と、背後から黒いオーラを発しつつ言い放つ円香さん。ごめんなさい、普通に怖いです。
「あー、もうじゃあ何を考えればいいんだよ?」
(何も考えなくてただ手を合わせてればいいんじゃないの?)
 それ、墓参りなのか?
「そんなことどうでもいいか……。それより、妹さんはまだなのかな」
 時計を見ると、六時少し前。たぶんそろそろ来る頃だろう。
 結局どうやって声をかけるかとか、そういうのは何も考えてないし。人付き合いが苦手な俺にとって、この点はそれなりに重要だ。
 何か下手なことでも言ってしまいはしないだろうか。
 とりあえず、一旦霊園の入り口まで戻る……と、正面から人影が見えた。
 あちらは俺という存在に気付いていないみたいだが、たぶんあれが妹さんだろう。
 咄嗟に墓の影に隠れてしまう。って、俺なんで隠れてるんだよ……逆に声かけにくくなっただろ……。
 小さな手提げ鞄を持って、なれた手つきで桶と柄杓を棚から引っ張り出している。
 少しだけ近づく。
660Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/01/23(月) 16:43:28
「円香さん、あの娘?」
 声を低くして尋ねる。円香さんを横目に見ると、小さく頷いた。
「で、どう。久々に見ての感想とかある?」
(……大人になったなぁって思った。私の後ろをちょろちょろついてきた頃と違うんだなぁ)
 不思議と寂しそうな表情だった。
 きっと、知っているはずの物がなくなってしまっていたりとか、変わってしまっていたりとかしていた。例えば、昔遊んだ公園が無くなっていた、変わっていた。
 そんな感じなんだろう。
 もう一度妹さんをじっくりと見る。
 ……へぇ、結構可愛いんだな。それと、さすが姉妹ということもあるだろうか。雰囲気が似ている。
 円香さんと同じくらいの長い髪の毛。しかし、円香さんよりも艶がある。顔立ちは整っているし、きっと男性陣からの人気は高いんだろう。
 どうやって声をかけようか迷っている間に、妹さんは墓へと歩いていく。俺が隠れている場所に背を向け、足音も立てず。
 歩き方も綺麗だ。女の子というより、女性という言葉のほうがしっくりくる。一応姉の癖に、円香さんよりも妹さんのほうが大人っぽい。
 墓の影に隠れつつ、そろそろと足音を立てないように後を追う。って、なんかこれから誘拐でもするみたいじゃないかこれ……。
 目的地に到着した頃には、妹さんはもう作業を始めていた。
 俺が供えた線香とチョコレートはそのままだった。
 水を汲んだ桶の中から水の揺れる音が聞こえる。妹さんはというと、布で墓を拭いている最中だった。
 遠目だが、随分と丁寧にやっている。
 俺だったら絶対にそのままにしてしまうような場所も、上手く布の角を使ったりして掃除をしている。
 単に几帳面なだけなのか。それとも円香さんに対する思いからなのか。
661Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/01/23(月) 16:44:16
 どちらにせよ、これだけ丁寧にやっているんだから、他の墓より随分と綺麗なのは当然だ。
 掃除を終えたのか、ビニール袋に布を入れて、鞄から墓参りグッズ一式を取り出す。
 さてと、いい加減覗き見もよくないだろう。
 妹さんが墓参りを終えて片付けを始めたところで、妹さんに歩み寄る。
 足音に気付いたのか、妹さんがゆっくりとこちらに振り向いた。その表情は、無表情のままだ。
「音羽彼方さんですよね?」
 とりあえず本人の確認。無表情を崩さず、小さく頷く。
「少し、いいですか?」
 妹さんは相変わらず無表情のままだった。表情の変化がまったく見受けられない。感情の変化が乏しい人のようだ。
「まず、これから話すことは全部本当のことですんで、そこのとこよろしくお願いします」
 そして頷く。無表情が崩れない。おまけに、声も出さない。人見知りが激しい……なんてレベルなのかこれ。
「ここら辺に、何か見えます?」
 言いながら、円香さんが浮かんでいる場所を指す。妹さんは小さく首を振る。やっぱり見えないみたいだ。
 ていうか、気付かなかったけど円香さん。そんなに自己アピールしても俺にしか見えてないんだから意味無いだろ。手を振ったりとか、空中で宙返りしたりとか、変な踊り踊ったりとか。
(気付け〜、気付け〜)
 無駄なことはやめたほうがいいと思うんだが……って、言っても無駄か。
 というよりも、あんたなんで久しぶりの再会なのにそんないつも通りなんだよ。ちょっと円香さんの泣き顔とか楽しみにしてたのに。
「ここに、あなたの姉である円香さんの幽霊がいます」
「……え?」
 初めて妹さんが声を出した。そして、表情も崩れる。大きく目を見開き、口を半開きにしている。
「といっても……やっぱり信じてもらえないですよね」
「……あ、あの」
「はい?」
「……お姉ちゃんの声、聞こえるんですか?」
「ええ、まぁ……」
 言いながら円香さんを見上げる。と、うんうんと頷いている。
662Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/01/23(月) 16:44:58
「……疑うわけではないんですけど……最近はそういう詐欺も多いって聞きますし……」
 やっぱりそう来たか。まあ、想定の範囲内なんだけど。
「その、だから……私の質問に答えてもらえますか?」
「そりゃ、こっちもそのつもりで来たから心置きなくどうぞ」
 それから場所を移し、公園のベンチに座って色々な質問をされた。
 妹さんの年齢とか趣味とか、あと記念日がどうのこうのという話もやっぱり出た。
 その都度円香さんに質問し、妹さんからの問いを難なく答え、最後の質問を終えてからしばらく沈黙し
「はふぅ……」
 と、小さく息をつく。
「他に質問は?」
「いえ、もう……いいです」
 どうやら信じてくれたみたいだ。まぁ、これだけたくさんの質問に答えれば当然か。
「あの、お姉ちゃんは元気ですか?」
 ……元気……? いや、死んでるんだけど。
 でも元気といえば元気とも言える様な……ああでも結局死んでるんだから元気なんて言えないし……。
(すごい元気!)
 質問に答える円香さん。まぁいいや、本人が元気って言ってるんだから、元気ってことでいいよな。
「すごい元気。だそうです」
「そう、ですか……。あの、それで……今日は何で、わざわざ私に会いに?」
「見ての通り……って見えないか。今ここに円香さんがいるってことは、普通の状況じゃないってわかるよね?」
「はい、そうですね。えっと……すいません、名前を教えていただけますか?」
「あ、まだ言ってなかったですね。瀬川志紀です」
「じゃあ、瀬川さん。……あれ、何の話してたんでした?」
「……なんで俺が彼方さんに会いに来たかって話じゃなかった?」
 ちょっと天然気味なのかな、この娘。
「あ、そうでした。すいません……」
「いや、いいんだけど。それで、話の続き。円香さんがここにいるってことは、簡単に言うと成仏してないってことで、成仏してないってことは」
「未練がある……ですか?」
663Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/01/23(月) 16:45:47
 途中で言葉を遮られ、的確な答えを返してくる。
「そういうこと。んで、彼女は何の因果か、俺に取り憑いてる」
 いい迷惑だ、まったく。
(いい迷惑って何よっ!?)
 人の心まで読むな、アホ。
「いつまでもこの世にとどまってるのは、正しい形じゃないから。成仏させてあげたいんだ。でも、俺じゃ成仏させてあげることができない」
 説明を続ける。妹さんを横目で見ると、神妙な面持ちで俺の話にうんうんと頷いている。
「そこで、円香さんから聞いた話では、円香さんのことを一番良く知っている彼方さんに、どうにか手伝ってもらえないかと思って、今日こうやって来たってわけです」
「……えっと……瀬川さんのそばにお姉ちゃんがいるってことは理解しました。もちろん、信用もします。……でも」
 そこで言葉をつまらせる。
「でも?」
 せかすように答えを促す。心配そうな目で妹さんを見つめる円香さんの表情が印象的だった。
「私に……何が出来るんでしょうか?」
「へ? いや、あの、生前の円香さんの様子とか、未練の心当たりとか……」
 言いながら俯く妹さんに、俺は必死になって『妹さんに出来ること』を挙げ連ねる。
「……生前の様子とかならわかるんですけど、未練の心当たりってなると、ちょっと……」
「さすがにわからない?」
 尋ねると、小さく首を振って空を見上げる。微かに頬が赤い。
「いえ、そういうわけじゃないんです。でも、もしかしたらってくらいだから……それが正しいのかわからないし……」
 あぁ、なるほど。要するに自信が無いってことか。
 心当たりはあるんだけど、それじゃないかもしれない。それじゃなかったら迷惑かける。迷惑かければ嫌われるに違いない。
 俺とは少し違っているが、やはり俺と似ている。一時期は俺もそういう風に考えて、自分の考えがいえなくて。それで今みたいに、物事を斜に構えて見てしまう癖がついたんだから。
 だから、彼女にはそうなってしまう前に、自分に自信を持ってもらうべきなのだろう。円香さんのためでもあるし、何より彼女のためでもある。
664Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/01/23(月) 16:47:41
 俺の推測ではあるが、妹さんのことが円香さんの未練と何かつながりがあると考えていいだろう。
 他については曖昧な記憶ばかりの円香さんが、妹さんのことについてははっきりと覚えているわけだし、それじゃなくても妹さんと接することで生きていた頃のことを思い出し、連鎖反応のように未練を思い出す可能性だってあるかもしれない。
「もし違っていてもいい。別にそれで俺は怒ったりしないから。だから、もし心当たりがあるなら言ってみて」
 言うと、妹さんは自分に言い聞かせるようにコクコクと頷き、ゆっくりとこちらに顔を向ける。
 そうして数秒、大きく息を吸って深呼吸をし
「お姉ちゃんと……お花見に行く約束をしていたんです」
 それだけ言って、また視線をそらした。
「……花見? 丘並木で?」
 問い返すと、はいと言いながら頷く。
「毎年、私はお姉ちゃんとお花見をしていたんです。でも、お姉ちゃんが亡くなった年はお花見ができなくて……来年の春は絶対に二人でお花見に行こうねって、言ってました。こんなのが未練になるかどうかはわからないんですけど……」
「そっかぁ……」
 円香さんにとって大切な妹さんとの約束を果たせなかった。
 ある意味ではそれも、十分未練に成りうるのではないだろうか。
「ということだけど円香さん、どう?」
 空中に浮いて話を見守っている円香さんに尋ねると、腕を組んで考えて
(覚えてないんだけど……それ本当?)
 と返してきた。
665Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/01/23(月) 16:48:40
 ……これはどうなんだ?
 円香さんにとって覚えてないほどにどうでもいい約束という位置だったのか。
 それとも未練に繋がりがあり、未練を忘れてしまったことでそれも忘れてしまっているのか。
「……わかんないな……」
 思わず独り言がもれてしまう。
「お姉ちゃん、なんて言ってましたか?」
「いやね、覚えてないって」
 言うと、わかりやすく妹さんは表情を曇らす。そりゃそうだ、自分が覚えていた約束を忘れられていたんだから。
「あ、でも。もしかしたら未練と繋がってて、未練を忘れてるからそれも忘れたって事だって考えられるから。ていうか、むしろ俺はそっちが本命だと思う」
 なんとか記念日まで覚えているのに、最近した約束を忘れているなんておかしいじゃないか。
 だとしたら、後者のほうがよっぽどか信憑性がある。
(そうなの?)
 他人事のように言葉を発する円香さんはさて置き。
「もし仮にそれが未練だとして……円香さんが成仏するのは来年の春ってことになるのか……」
 それまで俺の平穏な生活は帰ってこないわけか。まぁ、暇はしないからそれだけが唯一の救いではあるが。
「あ、あの……もしよければ、私もお手伝いしましょうか? お姉ちゃんの、未練探し」
「え? いいの?」
 生前の様子を聞いて、運がよければ未練に関する手がかりを手に入れることが出来る程度かと思っていた。
 自分から手伝ってくれるというのであれば拒む理由は何一つ無いのだが……これは予想外だった。
666Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/01/23(月) 16:49:14
 円香さんの話では『引っ込み思案で自分から何か行動を起こさない人』という印象だった妹さんが、自分から手伝うと言ってくれるとは思っていなかった。
 円香さんを見ると、やっぱり意外そうな顔をしている。
「はい、お姉ちゃんが瀬川さんに迷惑……といったらお姉ちゃんに怒られそうですけど。でも、やっぱり迷惑をかけていることは間違いないと思うんです。それに、私自身、お姉ちゃんのそばにいたいですから。その、姿が見えなくても」
 円香さんとは大違いというか、なんというか。
 でもこれで、予想以上に大きな協力を得ることができそうだ。
 生前の様子を良く知っている妹さんがいれば、円香さん思い出の場所とかだって巡ることができるだろうし、俺一人でやっていたことなんかよりもずっとできることは増える。
「じゃあ、こちらからもお願いします。円香さんを成仏させてあげるために、手伝ってください」
 妹さんの正面に立ち、深々と頭を下げた。
 顔を上げ妹さんの顔を見ると、少しだけ笑みを浮かべて、言った。
「はい。よろしくお願いします」

 いつしか、蝉の鳴き声が大きくなっていた。
 たくさんの蝉に囲まれて、夏は進んでいく。俺と円香さんと、そして妹さんも加えて。
 俺たち三人の夏が、今この時から始まった。

          つづく
667Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/01/23(月) 16:50:28
以上です
妹さんとかもっと疑えよとか色々と突っ込みどころはありますが、俺の足りない頭じゃこれが限界・・・
ていうか、思いの外長くなりそうorz
予定だとこれくらいで終わるはずだったのに・・・
668Mr.名無しさん:2006/01/23(月) 17:08:21
>>667
GJ!
669Mr.名無しさん:2006/01/23(月) 19:17:03
面白くなってきたあああああああああああああ


>>668 落ち着け早漏!
670Mr.名無しさん:2006/01/23(月) 20:26:23
  _  ∩
( ゚∀゚)彡 期待!期待!
 ⊂彡


>>668
てゆうかsageろおおあああああ!!
671Mr.名無しさん:2006/01/24(火) 19:55:50
('A`)
672Mr.名無しさん:2006/01/24(火) 22:55:13
このスレまとめ

【連載中の作品】
GRAND SWORD ◆TBcre.iPI. 氏の作品
>84 >85 >86 >89 >90 >91 >98 >99 >100

0526[約束]
>108 >109 >110 >111 >112 >118 >119 >120 >121 >122
>124 >125 >126 >127
0527[EVE]
>132 >133 >134 >135 >136 >137 >138 >143 >144 >145
0527.5[兄妹]
>161 >162 >163 >164 >165 >166
0528[起転]
>177 >178 >179 >180 >181 >182 >183 >193 >194 >195
>196 >197 >198 >199 >200 >201 >202 >203 >204
〜ここまでのあらすじ的なもの>268〜
0701[二人・プラス]
>269 >270 >271 >272 >273 >282 >283 >284 >285 >286
>287 >288 >295 >296 >297 >298 >299 >300 >301
〜ここまでの登場人物整理>306〜

Idea-Real-Ist
>334 >335 >336 >337

1201氏の作品
>413 >414 >415 >416 >417 >418 >426 >427 >429 >430
>431 >432 >433 >435 >436 >457 >458 >461 >462
673Mr.名無しさん:2006/01/24(火) 22:57:27
【連載中の作品】 続き

Life life ◆yVoA9C7lzI氏の作品
Life life一話
>482 >483 >484 >485
二話
>490 >491 >492 >493 >494 >495 >496 >497 >498 >499
>500 >501
三話
>521 >522 >523 >524 >525 >526 >527 >528 >529 >530
>531 >532 >533 >534 >535 >536
四話
>656 >657 >658 >659 >660 >661 >662 >663 >664 >665
>666

394氏の作品
キャラ名前>408
>394 >409

七誌さんの作品1
>70 >71 >72 >218 >219 >220 >221

七誌さんの作品3
>229 >230 >231 >232 >233 >234 >236

七誌さんの作品5
>567 >568 >569 >570 >571 >572 >582 >583 >584 >585
674Mr.名無しさん:2006/01/24(火) 23:01:13
【完結した作品】
ツンケンした彼女(前スレ>960からの続き)
>24 >25 >57 >58 >59
デレデレした彼女
>60

TS ◆Jr4wb2zZIE氏の作品(七誌さんの作品2)
>152 >155 >156 >157 >158 >171 >172 >173 >242 >243
>249 >250 >254 >255 >256

同じくTS ◆Jr4wb2zZIE氏の作品(七誌さんの作品4)
>308 >310 >311 >312 >316 >317 >322 >323 >324 >341
>342 >349 >351 >354 >358 >359 >369 >370 >371 >372
>373 >374

同じく(ry
>588 >589 >590 >591 >599 >600 >601 >607 >608 >609
>614 >615 >616 >629 >630 >631 >632 >644 >645 >646
>648

晴れのちハレ!
>444 >445 >446 >447 >448 >449 >450 >451


394氏の作品については、とりあえず話が完結したわけではないだろうという主観で
連載中に入れました。
七誌さんの作品以外、コテやタイトルがついている作品は話の初出順に並べています。
間違い等あったら(ry
675Mr.名無しさん:2006/01/24(火) 23:04:59
676Mr.名無しさん:2006/01/24(火) 23:19:22
まとめ超乙。毎回思うけどよくまとめる気になるな・・・俺なんてメンドくてやってられんよ
677Mr.名無しさん:2006/01/24(火) 23:19:47
まとめの人、乙ンデレ〜。
678Mr.名無しさん:2006/01/24(火) 23:20:13
オツ GJです。
関係ないけどlivedoorの被害がIT銘柄全体に波及
「はきゅう〜〜・・・」って萌えねぇ?
679Mr.名無しさん:2006/01/25(水) 01:25:17
>>667
GJ!
というか妹!いもうと!

>>678
俺は意味が分からない擬音は苦手だが、言いたい事はよく分かる
680Mr.名無しさん:2006/01/25(水) 07:50:38
('A`)
681394:2006/01/25(水) 10:42:21
まとめ氏オツンデレ!

俺書いてたんだなwwww
よし!せっかくまとめてくれたから
頑張って続き書いてみる!
エロツンデレ姉路線でwwwwwwww
682Mr.名無しさん:2006/01/25(水) 18:48:05
>>678
今年は年中無休で開店!
っていう「むきゅぅぅぅう〜><;」もアリ?
683Mr.名無しさん:2006/01/25(水) 18:50:28
>>681
期待
684Mr.名無しさん:2006/01/25(水) 19:29:51
  _  ∩
( ゚∀゚)彡 新作!期待!
 ⊂彡
685Mr.名無しさん:2006/01/25(水) 23:58:59
うほっほww新作、続編の投下が続いていいかんじじゃないですか!
過疎になったら新しいのか続きかを書けるようにネタ溜めときます
686Mr.名無しさん:2006/01/26(木) 19:32:02
有楽町線の「さくらだもん」に萌えるようなもんか
687Mr.名無しさん:2006/01/26(木) 23:48:00
出版社が注目してます!!!!!!!
688Mr.名無しさん:2006/01/26(木) 23:54:59
>>687
(;^ω^)アンタわざわざageるほど面白い事言ってないよ・・・
689394:2006/01/27(金) 14:15:26
2日かけて続き考えたがムリ!!
正直スマンカッタ

俺は円光さんを待つ事にするよ
690Mr.名無しさん:2006/01/27(金) 21:50:09
保守スクリプト発動

>>585
・転校初日の学校もスムーズに終わった。
クラスの仲間ともけっこう馴染んだし、うまくやれそうだ。
鈴音「あら、お帰り」
「ただいまっす。どうしたんですか?」
鈴音「それが・・ガスが切れちゃったのにこの大雪でガス屋さんが来ないのよ」
この山奥には都市ガスが整備されておらず、
プロパンガスでこの寮のガスをまかなっていた。
「それじゃ夕飯はどうするんですか?」
鈴音「夕飯は予備に携帯用のガスコンロでなんとかなるんだけど・・お風呂が」
「あぁ、それは確かに困りましたね」
鈴音「あ、そうだ!祐介君お願いがあるんだけど・・・」


大きな薪を半分、また半分に割っていく。
切り株の上で薪が左右に飛んでいった。
やり初めてみるとこれがけっこう気持ちいい。
冬子「じーっ・・・」
背後に視線を感じて振り向くと
冬子「わっ・・」
慌てて目をそらすと、寮の庭の掃き掃除を始める冬子。
つまんなそうな顔で箒を動かしている。
鈴音さんか委員長にけんかした罰か何かで言付けられたのだろう。
僕はあえて楽しそうに薪割りを再開する。
実際、これがなかなか楽しいのだ。
一つ、また一つ・・
691Mr.名無しさん:2006/01/27(金) 21:50:43
冬子「じーっ・・」
「ん?」
冬子「あっ・・・」
再びぷいっと視線をそらす様子がなんだかおかしくてつい口元がにやける。
興味はあるのに素直になれないのか。
「ふ〜〜。疲れた」
わざとらしく腰を叩く。
冬子「!・・・」
その言葉にぴくりと反応する冬子
「はぁ〜、まだ薪はあるのに困ったなぁ」
冬子「・・・・」
来た来た・・・くく・・。
冬子「た、大変そうじゃない・・・」
「そうなんだ。これ、けっこう疲れるんだよ」
冬子「そうかなぁ・・けっこう楽し・・簡単そうに見えるけど」
薪と鉈を交互にちらちら見てはこっちに視線を投げかけてくる。
やってみたくて仕方ないといった感じだ。
「やってみる?」
冬子「そ、そうねぇ〜。ちょっとなら手伝ってあげてもいいわよ・・」
「じゃお願いしようかな。怪我するなよ」
冬子「ふふ〜ん。任せなさいよ」
692Mr.名無しさん:2006/01/27(金) 21:51:50
カコン、カコンと軽快に薪を割っていく音が夕暮れの山村に響く
「おお、うまいな」
冬子「あはっ!これおもしろいね!」
楽しそうに薪を割っていく冬子。
いままで怒った顔ばっかり見てきたけど笑うとなかなか可愛いなこいつ。
冬子「よいしょっと、あー楽しかった」
あらかた薪を割り終えて楽しそうに笑っていた。
冬子「けっこうすっきるするね、これ、でも手がちょっとしびれたよ」
「ぷっ、ははっ」
冬子「な、なに笑ってんのよいやらしい・・」
「いや、可愛いなって思ってさ」
冬子「なっ・・なによ・・・いきなり・・誉めたってなんにもないからね」
「いや、こうやって笑いかけてきてくれたの初めてだしさ。
 笑うと可愛いじゃん」
冬子「う・・あぅ・・な、なんか企んでるでしょ・・」
「いや。正直に言っただけだって」
冬子「う〜〜〜っ・・・」
照れてんのか、その様子が可愛くてこっちまで照れくさくなってくる。

それから、今までツンツンしていた冬子の態度が柔らかくなった気がする。
693Mr.名無しさん:2006/01/27(金) 22:12:51
薪割りするツンデレ…
都会のモヤシっ子の俺には
激しくストライクだ!!!!
ぐぅぅぅじょ〜ぶ!
694Mr.名無しさん:2006/01/27(金) 23:36:19
待ってました!
冬子イイ!(゚∀゚)
695Mr.名無しさん:2006/01/28(土) 01:06:10
ギャクニウツニナル・・・('A`)       ・・・が、GJ!
696Mr.名無しさん:2006/01/28(土) 21:04:49
かわいい
697Mr.名無しさん:2006/01/28(土) 22:56:37
ええ話や
698Mr.名無しさん:2006/01/29(日) 16:13:10
ほしゅ
699Mr.名無しさん:2006/01/29(日) 23:52:24
目覚めは快適だった。
時計を見れば7時30分を軽く過ぎた頃だ。
少し寝坊かなと思ったが軽く準備をして朝食を食べて行く分には問題ない。
大きく伸びをして洗面所で顔を洗い準備を済ませる。
鈴音「あら、おはよう」
「おはようございます。鈴音さん」
鈴音「もうみんな朝食食べ終わってるわよ」
「そうなんですか?みんな早いなぁ」
鈴音「そうよ。まだ食べてないのは祐介君と冬子ちゃんだけ」
「はぁ」
鈴音「いま用意するからちょっと待ってて」
朝からテキパキ働く鈴音さんの後ろ姿をぼんやり見ながら朝食を待つ。

冬子「わ〜〜〜〜っ!遅刻遅刻!!鈴音さんご飯っ!」
おおかた朝食を食べ終えた頃に寝巻き姿の冬子がやってきた
鈴音「そこに出てるけど、時間大丈夫なの?」
冬子「少しでも入れなきゃおなかすいて持たないよ!」
いただきますと言うが早いか、朝食をかきこんでいく冬子。
「朝から快食ですね・・・」
その食いっぷりに飽きれて僕が呟く。
冬子「あ、あんた!いたの!?」
ようやく僕の存在に気づいた冬子が慌ててご飯をかきこむのをやめる。
「いや、僕のことは気にせず食べてくださいよ」
冬子「あによっ、なんか文句あんの?」
さすがに僕に見られながらご飯かきこむのは恥ずかしいのだろうか
それまでとはうってかわって行儀よくご飯を食べる冬子。
鈴音「そろそろ時間、平気なの?まだ準備も出来てないみたいだし・・・」
時計はもうすぐ8時20分を過ぎようとしている。
冬子「やばっ!ごちそうさま!」
嵐のように去っていく冬子。
「朝から元気ですねぇ」
鈴音「あれでも、貧血もちで身体弱いのよ」
700Mr.名無しさん:2006/01/30(月) 00:03:49
やばい、これまだ長くなりそう
701Mr.名無しさん:2006/01/30(月) 00:11:00
長期化大歓迎
702Mr.名無しさん:2006/01/30(月) 00:24:32
学校から寮に戻り、ぼんやりと考えていた。
これからのこと、今まで過ごしてきた前の街のこと。
こんがらがった頭を冷やそうと思い、村を散歩することにしよう。
僕はゆっくりと腰をあげ、ふらふらと寮を出る。
重たかった頭も冷たくて澄んだ空気で
途端に霧が晴れたように爽やかになるから不思議だ。

心もち軽くなった足であの石段に差し掛かった時人影に気づいた。
下の方を見てみると、階段の途中で苦しそうに息をついてる生徒がいる。
あれは・・・冬子じゃないか。
僕は小走りに石段を降りて駆け寄った。
気配に気づいたのか冬子は顔をあげ来るしげにこっちを見つめる。
冬子「う〜〜・・ゆうすけぇ」
冬子の顔は血の気が失せていた。
普段あれだけお転婆な冬子もこの時だけはか弱い令嬢に見えるものだと
内心で密かに感心してしまう。
「やぁやぁ冬子さん、調子はどうだい?」
冬子「いいわけないでしょうが・・
もう最悪よ。こんなとこ祐介に見られるなんて」
冬子は口を尖らせると、ぷいっと視線を背けた。
「ま、ここで会ったのも何かの縁ってことで」
石段のてすりにもたれてぐったりしてる冬子を少し強引におぶる。
冬子「え・・・きゃ、ちょっとなにすんのよ!」
「お、おわっと、背中で暴れると石段の下までまっ逆さまだぞ」
冬子が背中で暴れるので少しよろけて見せると
小さく悲鳴をあげてしがみついてきた。
少し屈んで冬子のカバンを指にかけて、寮へと石段を上り始めた。
703Mr.名無しさん:2006/01/30(月) 00:36:41
雪に覆われた寒さの中で冬子の体温を背中に感じる。
「まだまだ、だな」
冬子「え?」
「80のcってとこだろ、イマイチだな」
冬子「くぁーっ!あとで覚えてなさいよっ!」
「はっはっはっもう忘れたお」
首にまわした腕にすこし力が入る。
それが今の冬子の精一杯の反撃だった
それきり冬子はおとなしくなる。

たん、たん。
静香に寮へと石段を登っていく。
真っ白だった景色がオレンジに染まって幻想的だった。
冬子「夕日が綺麗だね」
「あぁ」
冬子「あたし、夕日がこんなに綺麗だなんて今まで気づかなかったよ」
「俺も、今まで当たり前すぎて気がつかなかったな」
冬子「それって、もったいないよね」
「でも、今気づいたろ」
冬子「うん。得した気分だよ」
「そうだな、それに俺はもう一つ得したよ」
冬子「なにを?」
「冬子にもこんな可愛い一面があるってことに気づいたから」
冬子の身体が背中でぴくんと、動いたのがわかった。
冬子「ばか・・」
小声で呟いてそれきりまたおとなしくなった。
704Mr.名無しさん:2006/01/30(月) 00:37:20
大方、石段を登りきって寮への玄関へ足を向ける。
「部屋まで送っていくよ。部屋についたら横になって休みな」
冬子「うん・・」
そう呟いたあとで
冬子「ありがと・・」
消え入りそうな小さな声。
冬子の口からその言葉を言うのにどれだけの勇気を使ったかがなんとなくわかる。
「いつもこう素直なら可愛いのにな」
冬子「あたしはいつだって可愛いわよ」
「はは。そういうことにしておこう」
冬子「うん・・そういうことにしておいて」
しおらしくなった冬子を背中に
ゆっくりと玄関へ向かう途中。
冬子「あ、ねぇ祐介」
「ん?」
冬子「そこの林の切れ間に入ってよ。いいとこがあるんだ」
「部屋に戻って休んだほうがいいんじゃないのか?」
冬子「いいから、ほらほら早く早く!」
「はいはい」
705Mr.名無しさん:2006/01/30(月) 00:40:01
言われた通り、寮の脇の林を少し抜けると、
この山村の景色を一望できる場所についた。
「すげぇな・・・」
雪に覆われ、山村は落ちる夕日でオレンジに染まっている。
冬子「かなりいい場所でしょ?気にいってるんだ。ここ」
背中から下ろした冬子が得意げに言う。
「あぁ。確かにいい眺めだ」
冬子「えへっ。ここはあんまり人が来ないから
委員長とここでよく語りあったりするんだ」
「なんだかんだで委員長と仲いいんだな」
冬子「まぁね。色々怒られたりしてるけど、
あたしにとって大事なお姉ちゃんみたいなかんじかな」
「そういや、冬子に兄弟はいないの?」
冬子「ん・・どうだろ。わかんないや」
「なんだそれ」
冬子は視線を景色の方へ投げかけると呟く。
冬子「ほんと・・わかんない」
夕日に照らされたその横顔は寂しそうだった。
706Mr.名無しさん:2006/01/30(月) 12:37:52
訳あり展開!!
wktk!!
707Mr.名無しさん:2006/01/30(月) 21:41:37
いつの間にかキテル━━(━(━(-( ( (゚∀゚) ) )-)━)━) ━━ !!!!!



         / ̄ ̄ ̄フ\               _       ノ^)
       // ̄フ /   \            .//\     ./ /
      //  ∠/  ___\___  __//   \   / (___
    // ̄ ̄ ̄フ /_ .//_  //_  /      \./ (_(__)
   // ̄フ / ̄////////////         |  (_(__)
 /∠_/./ ./∠///∠///∠//      ∧ ∧ /) (_(__)
∠___,,,__/ .∠__/∠__/∠__/       (´ー` ( ( (_(___)
\    \ \/ ̄ ̄ ̄フ\ \ \_ \  _   /⌒ `´  人___ソ
  \    \ \フ / ̄\ \ .//\  //\ / 人 l  彡ノ     \
   \ _  \//___\/∠_  //   < Y ヽ ヽ (.       \
    //\///_  //_  ///     入├'"    ヽ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   //  //.////////∠/      ヽ-i ヽ__  ヽ
 /∠_//./∠///∠// .\\       `リノ ヽ |\  ヽ
∠____/.∠__/∠__/∠フ\.\\      c;_,;....ノ ヾノヽ__ノ

                                         ぐじょーぶ!
708Mr.名無しさん:2006/01/31(火) 07:52:46
グジョーブゥー
709Mr.名無しさん:2006/02/01(水) 07:52:00
書籍化の匂いがする
710Mr.名無しさん:2006/02/01(水) 08:10:16
訳ありな展開が(・∀・)イイ!
711Mr.名無しさん:2006/02/01(水) 13:04:01
ageんなヴォケ
712Mr.名無しさん:2006/02/01(水) 22:55:06
そういわれるとあげまくりますよ!
713Mr.名無しさん:2006/02/02(木) 00:11:51
      /\___/ヽ
     /       :::::::\
    .|          .::::|
    |  ''''''   ''''''   .:::|
    .|(●),   、(●)、::::|
     \ ,,ノ(、_, )ヽ、,,.:::::/
     /``ーニ=-'"一´\
   _/((┃))_____i |_ キュッキュッ
.. / /ヽ,,⌒) ̄ ̄ ̄ ̄ (,,ノ   \
/  /_________ヽ..  \
. ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

      /\___/ヽ
     /''''''   '''''':::::::\
    . |(●),   、(●)、.:| +
    |   ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::|
  .   |   `-=ニ=- ' .:::::::| +
     \  `ニニ´  .:::::/     +
     /ヽ、ニ__ ーーノ゙\_
    .| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄.|  トン
   _(,,)   つまんね  (,,)_
.. / |           . |  \
/   .|_________|   \
714Mr.名無しさん:2006/02/02(木) 12:15:26
    グッジョブーン!!

  ( ^ω^)   n
⊂二   二二二( E)
  |  /
  ( ヽノ
  ノ>ノ
三レレ


>>712>>713はツンデレ
715TS ◆Jr4wb2zZIE :2006/02/02(木) 23:05:15
「はい、あげる」
「何だ、これ?」
隣の家にすむ幼馴染の二葉。年は俺より2つ下のくせに
俺の事を呼び捨てにする生意気なガキ。
「チョコに決まってんじゃん。どうせ誰からももらえないんでしょ?」
「日本男児たるもの、そんな軟弱なイベント・・」
本当は・・・欲しいです・・・
「強がったって正宗にチョコあげる女の子なんていないって」
「いるじゃん?」
「えっ、だ、誰?」
「今、二葉が俺にくれたじゃん」
「ボ、、、ボ、、、ボクのは、ただの義理だってば!!」
二葉は自分の事を”ボク”と言う。
もう高校生なんだから直せばいいのにと思った。
でも、俺はあえて指摘しなかった。
もし、直されたら俺の知ってる二葉じゃなくなるような気がしたからだ。
「そんなムキになんなよ」
「ム、ムキになってなんかない!!」
「あっれぇ〜?ちょーっとホッペが赤いかな〜」
二葉の顔を下から覗き込む。
次の瞬間、二葉の右ストレートが俺の顔面をとらえた。
「くだらない事言うなー!!土曜日、道場でこらしめてやるから!!!」
そう言って二葉は小走りに走り去っていった。
716Mr.名無しさん:2006/02/03(金) 00:10:25
お、新作?
717Mr.名無しさん:2006/02/03(金) 00:11:37
喜多━━━(;^ω^( ^ω^(#^ω^(´・ω・Σ(゚д゚ ( ゚д゚ )キャンスケ━━━━!!!
718Mr.名無しさん:2006/02/03(金) 15:48:56
ほs
719TS ◆Jr4wb2zZIE :2006/02/03(金) 22:11:35
>>715
「めーーーん!!」
「小手っーーーーーー!!」
威勢のいい声が響き渡る。
二葉のお父さんが師範代の剣道道場。僕は子供の頃から週に2回通っていた。
一般の人はロッカーで着替えるのだが、僕は二葉の家で着替えてる。
「こんちは」
二葉のお母さんに軽く挨拶。
「今日は練習?」
「いや、今日は二葉にこらしめられるみたい」
「あの子も、もうちょっとおしとやかになってくれればねぇ・・・」
二葉のお母さんは小さく笑う。
「無理なのは、おばさんが一番よくわかってるでしょ?」
「そうかもね、、どうしようもなかったら正宗がもらってやってね」
俺は思いっきり顔をしかめる。
「俺に選ぶ権利はなしですか?」
「話は変わるけど、剣道やってみたいって人いないかしら?」
「うーん、周りにはいないかも・・何で?」
「別に深い意味はないんだけどね、何となくよ、何となく」
少しだけ曇ったおばさんの表情が気になった。
気のせい・・・か?
「あ、そう」
「ほら、さっさと着替えて道場行きなさい。二葉が首を長くして待ってるわよ」
「そうだね。じゃあこらしめられてきますよ」
720TS ◆Jr4wb2zZIE :2006/02/03(金) 22:13:23
道場に入ると隅っこの方で二葉が足さばきをしていた。
おいおい、やる気十分だな・・・
「遅い!!さっさと準備しろ!!」
「ここまでジョギングしてきたからすぐ始めてもいいぞ」
「コテンパンにしてやるからなー!!」
他の練習生の邪魔にならないよう、果し合い?が始まる。
「やーーー、めーーん!!!どーーーう」
必死になって打ち込んでくる二葉の竹刀を俺は軽くあしらい、
タイミングを見計らって一撃打ち込む。
「面っ!!!」
俺の体は一瞬にして二葉の横をすり抜け、パシーーンっと乾いた音が道場中に
響き渡った。
正直、二葉は剣道が強くない。というか運動神経そのものが微妙だった。
段持ちの俺にとって、しょせん相手ではなかった。
「相変わらず弱っちいな」
「い、今は手加減しただけだよ・・・」
「じゃあ本気だしてごらん、ふ・た・ばちゃん」
二葉は”ちゃん”づけされる事を極端に嫌う。
案の定、二葉は竹刀をプルプルと震わせ、怒りをあらわにする。
「ボクを本気で怒らせたな!!」
こうして2試合目が始まった。
721TS ◆Jr4wb2zZIE :2006/02/03(金) 22:14:31
さっきより必死に打ち込んでくる二葉。
それじゃ俺から一本取れないって。
俺はタイミングよく竹刀を軽く振り下ろす。
「小手っー!」
剣道において小手を決めるのは、間合いが自分の物になっている証拠。
自画自賛できる小手が決まる。
「い、今のは浅いでしょ!!」
誰が見ても綺麗な一本なのに、二葉は認めようとしない。
「往生際悪くね?」
「違うったら違う!」
ここまでくるとただの駄々っ子。やれやれって感じ。
「お前は俺にかなわないんだからあきらめろって」
「そんな事ないよ!」
面越しにホッペを膨らます二葉。まだまだやる気らしい。
「そんなに悔しかったら俺から一本とってみな」
「くぅー!ボクの事を見下して!!」
「もし、一本取れたら何でも言う事きいてやるよ」
「・・・何でも?」
「ああ、ま、どうせ取れないけどな」
「絶対取ってやるから!!」
こうして3試合目が始まった。
722Mr.名無しさん:2006/02/04(土) 00:43:03
『橘さんと先輩がキスしてたって…』

あれからずっと同じ言葉が頭をグルグル廻っている
「キス…したんだ」
あてもなく歩いていつの間にか河原についた。
苦しさに耐えきれず言葉にしたら涙が止まらない。馬鹿だ、あたし
あんなに遊んでる子なんかと付き合ったらきっと後悔するのに!
思わず相手の子を悪く考えてしまう自分が嫌になる。

でも・・あいつのファーストキスはあたしなんだから
自分を鼓舞するように言い聞かせ、河原の小石を掴む
夕焼けの空に放物線を描いたそれはすぐに水面に沈んだ
でも、そんなのなんの意味もない。
あいつが覚えてないような小さい頃の些細な―
でもそれはあたしにとっては大事で、とても大切な思い出

きっとこれは今まで素直にならなかった、嘘をついてた罰なんだ
でも、今だけ、もう少しだけ、あいつを想って泣いてもいいよね
723Mr.名無しさん:2006/02/04(土) 00:45:30
>>721
GJです!続き待ってます!

新作の邪魔してごめんなさい
724Mr.名無しさん:2006/02/04(土) 05:27:27
マネ「あのー・・・先輩、明日お暇ですか?」
「うん。明日は特に予定ないよ。午前に友達とちょっと練習するくらい」
マネ「そ、そうなんですか。じゃあもし良かったら明日・・
その・・一緒に何処か行きませんか?大会前に息抜きも必要ですし!」
「いいね。行こう行こう」
マネ「ホントですかっ!?わぁ〜ありがとうございます!」
「そんな、お礼言われることじゃ・・あっ!いいとこに、せんぱーい」
ツン「なによ?」
「ちょっと話があるからこっちこっち」
ツン「おめーが来い」
「チッ」
ツン「今こっち来る途中で舌打ちしたろ?あたしにゃ全部お見通しだぞ」
「先輩、明日ヒマですか?一緒に遊びに行きません?」
ツン「シカトかこらあ・・・って、え?それって」
「だから明日空いてるなら一緒に遊びに行きませんかって」
ツン「ちょっ、ちょっと待て。すぐ戻る」

携帯片手に廊下へ消えるツン

ツン「あぁ、うん。明日の予定は全てキャンセルだ。
でももへももない!キャンセルと言ったらキャンセルだ!」

再び戻って来るツン
「あの、廊下からキャンセルだ!とか言う声が・・」
ツン「運が良かったな。明日は奇跡的になんにも予定がないぞ」
「そうっすか。それじゃあ来てくれるんですね」
先輩「っ・・あ、あんたが暇で死にそうな顔してたから仕方なくよ」
725Mr.名無しさん:2006/02/04(土) 05:37:10
(´・ω・)なんか混雑してる?
726Mr.名無しさん:2006/02/04(土) 09:15:19
GJ!混雑してても構わないさ!
727Mr.名無しさん:2006/02/04(土) 13:36:31
>>722>>724は別作品だよな?
728Mr.名無しさん:2006/02/05(日) 00:32:24
両者共にコテを付ける事をお勧めします。
729Mr.名無しさん:2006/02/05(日) 00:54:39
>>715の二葉の声優は田村ゆかり

っていうかとまりwwwww
730Mr.名無しさん:2006/02/05(日) 02:16:07
時間経ってから続き書く作家さんは
レスアンカーつけてくれ
731Mr.名無しさん:2006/02/05(日) 02:19:37
その前にさげなくて良かったのかい?(^^)
732Mr.名無しさん:2006/02/06(月) 06:56:25
733Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/07(火) 00:03:48
ども、お久しぶりです
ちょっとあれから色々あって続きを書くことが困難になってましたが、どうにか書き終えました
妹さんのキャラとか変貌してますが、その辺は許して下さい
では >>666の続き

 夏の空に、カラスが一羽飛んでいる。
 白っぽい青空に真っ白な入道雲をバックに、カラスの黒が映えた。
 あぁ、なんつーか……綺麗だなぁ。
 と、俺には珍しくそんなことを考えていた。



   Life life 五話



「それで、これからのことなんだけど」
 妹さん改め彼方に、これからについての相談をする。ちなみに、呼び捨てなのはあちらから呼び捨てで呼んで欲しいと頼まれたから。
 丘並木から彼方の帰路に付き合っている最中。日はいつの間にか高くなり、蝉の鳴き声も随分と大きくなった。
 田園に囲まれた田舎道。不思議と落ち着く場所だ。
「円香さんの未練が何かわからないから、とりあえず生前の思い出の場所とかそういうのを当たってみようと思う。どう思う?」
 とりあえず、俺が考えることができるのはこれくらいだ。
「思い出の場所……ですか。私が思いつくところって言えば、お姉ちゃんが好きだった喫茶店と、公園と、あと……あ、昔よく遊んだ河原」
「喫茶店と、公園と、河原かぁ……。丘並木はもう二回も行ってるから除外するとして、その三つ?」
 尋ねると、小さく頷く。
(喫茶店と、公園と、河原? えーっと、南風と、西公園と、汐川の河原のこと?)
「俺に聞かれても困るんだけどな。あのさ彼方、喫茶店ってのは南風ってところで、公園は西公園、河原は汐川の河原?」
「あ、はい。お姉ちゃん、その辺は覚えているんですか?」
「ああ、そうみたい」
 だったらはじめから俺にも言ってくれよ……。まぁ、聞いないんだから言ってくれてなくても仕方ないか。
734Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/07(火) 00:04:38
「それで、とりあえずは思い出の場所巡りってことでいい?」
「ええ、そうですね。私にはそれ以外に思いつかないですし……とりあえず、思いつく限りのことをやっていけば、そのうち当たるかもしれないですからね」
 言いながら苦笑を漏らす。
 なんだ、最初はちょっととっつきにくいというか、なんか話しにくかったんだけど、慣れてみればそうでもないじゃないか。
 本当に人見知りなだけで、少し親しくなれば普通と同じようになるってことだな。
 つまり周りの連中は、話しかけても人見知りだから上手く話せない彼方を見て引っ込み思案の暗いやつって勘違いして、それで親しくなろうって思わないわけか。
「……どうしました?」
 言いながら大きい目で、下から覗き込むように俺を見上げる。
「え? い、いや、なんでも」
 知らぬ間に彼方の顔を眺めていたらしい。顔に少しだけ血が集まるような感覚がある。
「クスッ、面白い人ですね」
 そうして、大人びた微笑を浮かべる。
 ああ、なんつーか……めっちゃ可愛いです。
 言いたくは無いが、円香さんだって可愛い部類に入る。整った顔立ちで明るい性格。快活な可愛さとでも言うのだろうか。
 それと対照的に、整った顔立ちではあるが質素。健気な大和撫子的可愛さ。姉妹なのに正反対だ。
 ……いや、姉妹だからこそ正反対なのかもしれないな。
「よっし、それじゃ本格的な行動開始は明日からってことで。今日は家に帰って……」
「私は今日からでも構いませんよ?」
 言い終える前に、彼方が俺の言葉を遮る。その表情はとても楽しそうで、微かに微笑を浮かべている。
「そりゃ、今日からでも大丈夫ならそっちのほうがいいけど……いいの?」
「はい、私のほうは。どうせ夏休みでやることもないですし、友達もいないですから」
「あー、そっか。実は俺も友達いないから、暇なんだよな」
 自分の言葉に思わず苦笑を漏らす。俺の言葉に、彼方は意外そうな表情を浮かべた。
「え、友達いないんですか?」
「まぁ、うん。俺ってひねくれ物だから」
「じゃあ、私たちは似たもの同士ってことですね」
「うん、まあ……そうやね」
 それは初見から感じていたことだった。どことなく、俺と似た雰囲気を持っている。
 性格は大分違うのだが。
735Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/07(火) 00:05:23
「それはいいとして、じゃあ今日から行動開始ってことにする?」
 尋ねると、彼方は小さく頷く。頷いたときの動きに合わせ、髪の毛がふわりと揺れた。
 額に数本の髪の毛が張り付いている。夏の日差しにうっすらと汗を浮かべていた。
「まあでも、これから行っても暑さでグダグダになるだろうから、一旦それぞれ家に帰って準備して、三時くらいにどっかで集合しようか」
 まだ九時くらいなのに汗を浮かべてしまうほどの暑さだ。日中になればもっと暑くなるだろう。
 八月に入ってからというもの、気温は鯉の滝登りの如し。連日記録的猛暑の大安売りが続いている。
 実際、ここ最近の暑さはおかしいものがある。しかし円香さんの所為で日中外に出る機会が多く、段々と暑さに慣れてしまっている俺がいる。
 個人的に夏のすごし方は、なけなしの生活費から出費して購入したスイカを、扇風機の風を全身で感じながら貪るのがベストなのだが。
 そういえば、この夏はまだスイカを食ってないなぁ……とふと思い出した。今日あたり買ってこよう。
「はい、わかりました。じゃあこの辺で。えっと、三時にこの場所でいいですか?」
 言いながら地面に足で円を書く。
「……それはいいんだけど、できれば日陰がある場所にしない? どっちかが遅れたら大変なことになるから」
「大丈夫ですよ、遅れなければいいんですから」
「それはそうだけど……どっちかが早く来すぎるってこともあるだろ」
「私は時間丁度に来ます。瀬川さんがどうするかで結果も変わりますね」
 と、悪戯を思いついた子供のような表情。
「俺も時間丁度に来ることにするよ」
「はい。それでは、三時にこの場所で」
 引いていた自転車に跨り、彼方は田舎道の先へ走っていった。
「さてと、円香さん。俺等も一旦帰ろうか」
 なぜかずっと黙っている円香さんに声をかける。
(あ、うん。りょーかい)
 自転車を持ち上げ、来た道と逆に向ける。跨って、右足に力をこめた。
 舗装されていない砂利道を走り始めると同時に、体が自転車と共に揺れる。
「それで円香さん、なんで黙ってんの?」
 静かな円香さんを見ると、どうも円香さんらしくなくて調子が出ない。
736Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/07(火) 00:06:25
(べ、別に黙ってなんかないじゃない)
「いーや、黙ってるね。なんで彼方がいる時は黙ってんだよ?」
(……あのさ、志紀は私みたいなのより、彼方みたいな娘のほうが好き?)
「へ? うーん、どうだろな……。話してる分なら円香さんみたいに元気な人のが好きだけど、付き合うとかそういう風になると、彼方みたいに尽くしてくれそうな娘のほうが……。 ってか、これと円香さんが黙ってること、何の関係があるんだよ?」
(ん……ちょっと、彼方と話してる志紀、すごい楽しそうだったから。彼方みたいに大人しい娘のほうが好きなのかなーって)
「それで円香さんも少し大人しくしてみたってこと?」
(か、勘違いしないでよ!? 別に私はあんたに好かれたくてそうしてみたわけじゃないんだからっ!!)
「まったく、素直じゃないな」
(ち、違うっ!)
 そうは言っているが、顔が赤いぞ。
 幽霊の癖に赤面するって……その半透明の中身は一体どんな構造になっているんだ。
「とりあえず、彼方には彼方の良さがあるし、もちろん円香さんにも円香さんの良さがあるんだから。そんな無理してほかの事取り入れても、結局中途半端になるだけだろ」
 顔を流れる汗を拭う。正面から吹く風が心地よい。
「円香さんと彼方の良さってのはさ、まったく正反対なんだから。他の真似するより、自分の良さをもっと磨いたほうが賢明ってもんだろ」
(あんた、まだ勘違いしてるでしょ!)
「してないしてない。それにさ、俺は円香さんの元気さは好きだよ」
(あ……うん、ありがと……)
 さらに顔を赤くする。やっぱりその半透明の内部構造が気になって仕方ないのだが。
737Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/07(火) 00:07:08
 自宅に到着し、いの一番で扇風機のスイッチを入れる。
 もちろん風量はMAX。本当はこれで服も脱ぎ捨てたいのだが、円香さんがいるのでそれは自粛。
「あっちぃ〜」
 扇風機の風を受けつつ、携帯会社の販売促進うちわで顔面を扇ぐ。
 真っ赤なシルエットに、白色の文字で会社の名前が出ているが……これって正直言ってあんまり販売促進に繋がらない気がする。
 体の熱が取れたところで、冷蔵庫から冷えた麦茶。コップも冷凍庫で冷やしてあるので、これ以上無いくらいにまで冷えた麦茶を堪能できるというわけだ。
 夏場には最高の至福だと思う。随分と安っぽい至福だが。
 まぁ、貧乏学生には相応といえるんだろうけど。
 麦茶をしまってミネラルウォーターを取り出し、ペットボトルごと扇風機の前に運ぶ。扇風機の風を受けつつ、人工の風を全身で感じる。
「それで円香さん、久々の再会だったわけだけど、実際のとこどうだった?」
 そういえば、久々の再会だった今日という日の感想を、まだ聞いていなかった。
(ん? 別になんとも)
「はぁ? なんだよそれ」
 仲の良い妹との再会が別になんともとは……。彼方が可哀想な気がする……。
(私のほうは見えるでしょ? でも、彼方からは私の姿が見えない。対面してるっていうよりね、ビデオでも見てる気分だった)
 言いながら、少しだけ顔を伏せる。髪で隠れて表情は伺えないが、きっと寂しそうな顔をしているのだろう。
 しかしすぐに顔を上げた。その表情は、いつもの快活な円香さんだった。
738Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/07(火) 00:07:45
(でもね、やっぱり嬉しかったよ。理由はどうであれさ、彼方の元気そうな姿見れたんだから、それで満足)
 そうして、満面の笑みを浮かべた。
 窓から差し込む夏の日差しに照らされ、その笑顔はやけに綺麗だった。
「でも成仏しないんだな……。てことは、それは未練じゃないってことだよな?」
 そういう知識がまったく無いんだからわからないのだが、未練って晴らせばすぐに成仏するのだろうか。
(さあ……私だってそんな知識ないから。テレビとか見ると、いつもお祓いみたいなのしてるよね?)
「そうなのか? 俺テレビなんか殆ど見ないからよくわかんねぇや」
 言いながら苦笑。俺が見るテレビ番組って言ったら、天気予報と朝のニュースくらいで、後はただ適当に流してるだけだから、記憶に残ってるものなんて無い。
(あ、でもやらせとかって噂もあるしなぁ……)
 心霊特番がやらせとかそんなのはどうでもいいんだが、それが事実だとしたら面倒なことになってくる気がする。
 お祓いとかが必要になってくるってことは、結局その道の人に協力をしてもらわないといけないってことで……そうすると金がかかる。
 咄嗟に財布と預金口座の中身を頭に馳せるが、そんな金は逆立ちしたって出てこない。ジャンプしても小銭の音すらしてこないくらいの貧乏人だぞ俺。
 横目で円香さんを見ると、まだ腕を組んで考えている。やらせがどうのこうのということなのだろう。
 まったく。自分のことなのに、なんでこの人はいつも気楽なんだろうな……。
739Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/07(火) 00:08:29
 適当に自宅で時間を潰し、約束どおりに着くように計算して自転車を走らせる。
 時計の指す時間は三時少し前。この場所ならば時間より一分くらい前に着くか、丁度着くくらいだ。
 完璧な時間配分。イッツパーフェクト。
 本日二度目の田舎道を自転車で走る。当然なのだが、朝よりも幾分か……いや、随分と暑い。
 陽が昇り切ってしばらくするとはいえ、30度後半の気温はまだ保たれたまま。拭いても拭いても、汗が流れ落ちてくる。
(暑そうだね。大丈夫?)
「大丈夫じゃない」
 即答してやる。生身の人間なんだ、暑さは大敵だったりする。
 そうして自転車を走らせ、約束の場所に通じる一本道に出る。
 時間はまだ三時前なので彼方は来ていないだろうと思っていたのだが……人影が見えた。
 まさかもう来てるのか……? いやでも、時間丁度に来るって言ってたし……。
 だが、あの人影は間違いなく彼方だろう。あんなに長い髪の毛は珍しいし、こんな暑い中で日向にいる理由は普通無い。
 到着してみると、やっぱりそれは彼方だった。
「お、お待たせっ!!」
 切れる息を整えつつ、ダラダラと流れるタオルをTシャツの袖口で拭う。
「だ、大丈夫ですか?」
 言いながら花柄のハンカチで、俺の汗を拭いてくれた。なんだろう、いい匂いがする。
「ご、ごめん……。ていうか彼方、なんでもう来てるんだよ?」
 時間丁度に来ると言っていたから俺もそのつもりで来たのだが、結果的に待たせてしまった。
「え、あ、あの……べ、別に待ちきれなかったとかそういうわけじゃないですっ! か、勘違いはしないでくださいっ!」
「……俺、別にそんなこと言ってないんだけど」
「そう感じたんですっ! 私はただ、その……友達なんて出来たのが久しぶりだったから、少しでも早く会いたくて……って、何言わすんですかっ!」
「……あぁ、そう」
740Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/07(火) 00:09:08
 あれ、なんだろう。数時間前とキャラが違う気がするんだが。
「あのさ、彼方。何かあった?」
「え、何かと言いますと?」
「いや、さっきまでとキャラが違うから。ねぇ、円香さん」
 言うと、円香さんも深々と頷く。
(私が生きてたとき、彼方はそんな元気に喋ってくれなかったわねぇ……。姉さん悲しいわ)
 よよよ、と涙を流し始める。もちろん嘘泣きだが。
「彼方、円香さんが泣いてるぞ」
「え、え? な、何でですか?」
「生きてたとき、そんな元気に喋ってくれなかったから悲しいんだと」
 いいながら苦笑する。
「わ、私だって二年もあれば色々変わりますから……。変わったのは最近ですけど……」
「え、なんで?」
「なんでもありません。その……聞き流してください。あ、あの、今より前のほうが良かったですか? 元気な人のほうが瀬川さんも好感が持てるかな、と思ったんですけど……」
「い、いや、ちょっとまって。それさっきも円香さんに聞かれた」
 やっぱ姉妹なんだなぁ……。口調やら性格やらはやっぱ違うけど、そもそもの思考回路は案外似ているのかもしれない。
 にしても……円香さんと同じ事をまた彼方にも説明しないといけないなんて……。
741Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/07(火) 00:09:49
 いい加減立ち話もあれだということで、円香さんお気に入りの喫茶店『南風』に入る。
 集合場所から自転車で五分くらいの場所にあり、どちらかというと円香さんの自宅よりも俺の部屋のほうが近い。
 大々的な店というより、民家を改造して作ったというような印象を受ける。看板も慎ましやかなもので、結構近い場所に住んでいる俺でも知らなかった。
 店内に入ると同時に、冷房の涼しさが俺と彼方を包む。円香さんは除外だ。
「文明の利器だな……」
 思わず顔がほころんでしまう。
「とりあえず、どこかに座りませんか?」
 結局彼方の対応は、無理して明るく振舞わないということになって終わった。
「んだね。店員さんが出てこないってことは、空いてる席に座ればいいんかな?」
「はい、この店はそんな感じですね。お姉ちゃんに連れられて何回か来た事ありますけど。ね、お姉ちゃん」
 と言いながら、円香さんがいる方角とはまったく正反対をくるりと向く。
 その様子を見て、俺と円香さんは思わず苦笑を漏らしてしまった。
(そうねー、何回か連れて来たことあったかな。最初に連れて来たときはいやだいやだってうるさかったんだけどね)
 そう言ってさらに苦笑。
「へー。そうだったんか」
(そうそう。それでさ、私が死ぬちょっと前くらいにはね、連れてってくれってうるさかったんだから)
 言いながら俯き
(お姉ちゃん……その、南風行かない?)
「それ物まねのつもりかよ。似てねーって」
(なんだとー!?)
 笑いながら窓際のテーブルを陣取ると、俺が座った隣に彼方。正面に円香さんが座る……というより、浮く。
「お姉ちゃん、なんていってます?」
 いかにも興味津々と言った顔で俺の顔を除きこむ。先ほどまで暑い中にいたこともあり、額に髪の毛がまだ張り付いている。
 暑さからだろうか、僅かに赤みを帯びた頬に不覚にもドキリと心臓がはねてしまった。
「最初はいやだって言ってたんだけど、最後のほうだと自分から行きたいって言ってたことを、姉直々に妹の物まねを添えて語ってくれた」
742Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/07(火) 00:10:53
 僅かな動揺を悟られぬよう、少しだけ無愛想に言い放つ。
「も、もうお姉ちゃん、変なこと言わないでっ」
 ワンテンポ遅れた、円香さんを制する彼方の声。
 やっぱり……可哀想だよな。彼方にとって、円香さんってのはかけがえの無いたった一人の姉だ。
 その姉が目の前にいる。なのに声を聞くことが出来ない。姿を見ることもできない。
 そして姉と自分をつなぐのが、今日の朝まで完璧な赤の他人であった俺。そのたった一人。
 彼方が簡単に信じてくれたのも、単に人を疑わないということもあるのかもしれないが、もしかしたらまだ姉という存在に縋りつきたい気持ちがあるからなのかもしれない。
 実際、彼方が姉に対する執着心というか、表現は難しいが……簡単に言うと頼りたい心だろうか。まだ彼方との付き合いは浅いからよくわからないが、円香さんの言うことを鵜呑みにすれば、それはとてつもなく大きいような気がする。
 でも、疑問に思うのは、なぜ彼方がそこまでして円香さんに頼るのかというところだ。
 引っ込み思案。人見知りが激しい。だからずっと守ってくれた姉に頼る。
 最初の考えはそれだったのだが、どうも違うような気がする。
 少しだけ話しただけだが、彼方は別段引っ込み思案というわけではない。ただ控えめなだけだ。
 慣れてしまえば人見知りもなくなって、どこにでもいる少しだけ大人しい女の子になってしまう。
 頼るべき相手は、彼方なら簡単に見つけることが出来るはずだった。
 それなのに円香さんに頼るのはなぜか。
 そんな疑問が頭に浮かんだ。
「瀬川さん? どうかしましたか」
 そんな思考回路の世界に、彼方の声が脇から放り込まれる。
 頭の中から抜け出して、俺は現実世界に思考を向ける。
 と、彼方が不安そうな顔をして俺の顔を覗き込んでいる。円香さんは円香さんで、心配そうというよりも不思議そうな顔でこちらを見ていた。
「え、あ、ごめん。ちょっと考え事……って、もう店員さん呼んじゃったの?」
 気まずそうな顔でテーブルの横に佇む初老の男性。整った口ひげがいかにもダンディズムだ。
743Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/07(火) 00:11:24
「あ、はい……ごめんなさい、まだ決まってませんでしたか?」
「あ、いや別にいいんだけど……えーと、アイスコーヒー」
(私もー)
「を、二つ」
 注文を終えると、男性はオーダー表に書き込んですぐに厨房へ引っ込んでしまった。
「二つも飲むんですか?」
「いやいや、円香さんもそれっていうから……って、円香さんコーヒーなんか飲めるのかよ」
(失礼ねー。こう見えても私はね、趣味『コーヒー』と言い張れるんだからね。それくらいのコーヒー通よっ!)
「いやそうじゃなくて……円香さんって、飲んだり食べたり出来んでしょ」
(……あ、そうか……)
「……前々から思ってたんだけど、円香さんって結構バカ?」
 円香さんに言った後に、彼方を向いて首を傾げる。私ですか? と言った表情を見せた後に
「えっと……はい」
 控えめに頷く。同時に円香さんの怒号が飛ぶ。
(あんた、恩を仇で返すつもりかーっ!!)
 でもその怒号は彼方には聞こえないのだが。
 うん、やっぱり円香さんはバカだった。
「それはさておき円香さん。思い出の喫茶店に来たわけだけど、なんか思うところは?」
(あー、ごめん。全っ然)
「そっか……」
 俺の表情から言葉の内容を汲み取ったのだろう。彼方も少しだけ残念そうな顔をしていた。
(で、でもほら! まだ最初だし、きっと次に何か思い出すよ! それで駄目ならその次、また駄目なら次の次、それでまた駄目なら次の次の次の……今何回次って言った?)
「知るかっ! ついでに言うと、彼方によって手に入れた情報だと、次の次の次は無いんだけどな」
 残っているのは西公園と汐川の河原。
744Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/07(火) 00:11:59
「彼方、他には何も思い当たらないのか?」
 結局、こうやって彼方に縋るしか手段が思いつかない。俺だけで出来ることなんて全てやってしまったわけだし。
「……ごめんなさい」
 やっぱり思い当たる場所は無いらしい。
 今のところ俺の中で一番の有力候補は『彼方と行く約束をしていた花見』なのだが、それだという確証はどこにもない。
 春まで待って花見をして、それでこれじゃありませんでしたーとかは問題がある。
 今が八月で、四月までは今月を入れてあと八ヶ月。その僅かな期待を信じて無駄な八ヶ月を過ごしてしまうのはいかがなものかと思う。
 まあ、彼方が思い浮かべた思い出の場所はあと二箇所あるわけだし、そこで駄目なら円香さんじゃないけど、またその次を考えればいい。
 俺たちは、時間だけは無限のようにあるんだから。
 最も、夏休みが終わってしまえばそれも少し減るんだが。
「さてと、じゃあ彼方。そろそろ次の場所に行かないか? 結構長居しちゃってるし」
 辺りを見渡す限り客はいないが、もう三十分くらいはいるだろうか。
 喫茶店なんて行かないからよくわからないけど、これは長いんだろう。
 ……ああでも、クラスのやつらが言ってるのを横で聞いてる限りだと、二時間とか平気で居座ってたりしてるみたいだし……。
 と、一人で悩んでいると
「そうですね、そろそろ行きましょうか」
 そう言って立ち上がると、伝票を摘み上げる。
 俺も続いて立ち上がる。
745Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/07(火) 00:12:29
「彼方、ちょっと伝票見せて」
 言いながら奪い取るように、彼方の細い指につままれた伝票を奪い取ると、そのままレジに向かう。
 店員に言われた額をそのまま払い、さっさと店の外に向かうと
「あ、あの、瀬川さん? 私の分……」
「いいよいいよ、どうせ小銭ばっかだったから処分したかったし」
「で、でも札で払ってましたよね……?」
「……い、いいんだよ。とりあえず、札も大量発生してるから処分したかったんだよっ!」
「小銭は……?」
「気にするなっ! 以上、ほらさっさと行くぞ!」
 ふと振り返ると、初老の男性はグッと親指を立てていた。
 どういう意味だそれは。
746Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/07(火) 00:13:04
 夕日が迫る頃、俺たちは今日のフィナーレを飾る汐川の河原で二人……いや、三人で並んで座っていた。
 結局、西公園もこの河原も、円香さんの未練とは関係がなさそうだった。
 一日中動き回って疲れたし、夕日に照らされる街並みを眺めるのもたまにはいいだろうということになって、三人でこうやって河原に座り、ダラダラと喋っている。
 どうでもいいような日常会話とか、円香さんのこととか、彼方のこととか、俺のこととか。
 どうでもいいこと一つ一つが楽しく感じる。俺には友達がいない。だからこうやって会話をする相手もいなかった。
 極力人とかかわりを持たないことで自己防衛をしていたが、こうやって人とかかわりを持つこと。それもまたいいことなのかもしれない。
 やってみれば、案外どうとでもなるもんなんだな。
 川でわいわいと楽しそうに水遊びをしている子供たちを眺めていると。
(ちょっと水遊びしてくるよ。暑さを感じれないから、せめて夏の遊びくらい楽しまないとね。あんたたちも来る?)
 そう言ってふわふわと川に向かって飛んでいく。子供に釣られたらしい。
「俺はパス。着替えないし」
「何をですか?」
 あぁ、聞こえてないんだったな。
「円香さんが水遊びしてくるんだと。で、あんたたちはどうだ? だと」
「私は……ごめんねお姉ちゃん。やっぱり着替えないから……」
(うーん、わかった。じゃあ私一人で遊んでくるね)
「さり気無くあの子供たちに紛れ込めばいいじゃないか。どうせわかんないんだし」
(そうねー、それもいいかー。ちょっと水しぶきたてて驚かせてやろっと)
 語尾に音符がつきそうな発音で楽しげに言って、止めた体を再び川に向けた。
「普通に趣味悪いな……」
 ふう、と小さくため息をつくと、彼方が俺を見ていることに気付く。
 少し赤い顔。なんだろう、彼方と目が合うと、いつも彼方の顔が赤い。
 今の赤さは、夕日の所為なのだろうか。それとも、何か別の物が関わっているのだろうか。
 まあ、どうでもいいか。
747Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/07(火) 00:13:42
「あのさ彼方。ちょっといいか?」
「はい?」
 今日一日のまとめを、円香さんがいないうちにしてしまうことにする。
「今日一日の行動を考えてみると、やっぱり円香さんの未練は約束してた花見だと思うんだけど、どう思う?」
「……さあ……私にはなんとも……。確かに生きていた頃、お姉ちゃんのことを一番知っていたのは私だと思います。でも、今のお姉ちゃんを一番良く知っているのは、他でもない瀬川さんですよ?」
「あ、それもそうか……。考えてみればそうだよな」
「その瀬川さんの目から見てそう見えたのでしたら、やっぱりそれが一番正しいのではないですか?」
「……なるほどなー」
 ふと目線を円香さんに向ける。子供の背後から忍び寄り、原因不明の水しぶきを上げては笑いをこらえている。
 俺の視線に気付くとガッツポーズ。頼むから大人気ないマネはやめてくれ。
「それに……」
「ん?」
 ふと、彼方が口を開いた。
「こう言ってしまうと不謹慎かもしれないですけど……私は今日、お姉ちゃんの未練が見つからなくて良かったって思っているんです」
 言いながら、寂しそうな顔をして子供たちを眺める。その視界の中に、円香さんの姿は写っていないのだろう。
「円香さんの燐片を、もっとそばで感じていたいから?」
 尋ねると、小さく頷いた。
「彼方。聞きたいんだけど、なんでそんなに円香さんに執着するんだ? 執着ってのはちょっと変だけどさ、彼方なら頼るべき相手だって、簡単に見つかるはずだろ?」
 生まれた疑問。それを口にする。
「……なんででしょうね」
 自嘲的な笑みを浮かた。その視線は、円香さんに向けられたままだった。
748Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/07(火) 00:15:02
「お姉ちゃんを感じたいから。それもあります。でも……私は、楽しかったです。今日一日が」
「楽しかった?」
「今朝起きたとき、今日もつまらない一日が始まるんだなぁって思ったんです。お姉ちゃんのお墓参りに行って、家に帰って、家の掃除して……そうやって、友達もいなくて、毎日つまらない生活が、また始まるんだなぁって思ったんです」
 その言葉は、まるで俺自身の言葉でもあるように思えた。
 やっぱり、似ている。俺と、彼方は。
「いつも通りの生活の中に、瀬川さんが現れました。最初は戸惑いました。でも、嘘でもいい、友達になれれば。一人ぼっちの、夏は嫌だから……だから、勇気を出して、私も手伝うって申し出たんです」
「……それで、あんなすんなり信じてくれたわけか」
「はい。正直、最初は信じていませんでした。でも、瀬川さんと接しているうちに、ああ、嘘じゃないんだなって。本当に、そこにお姉ちゃんがいるんだなって、思ったんです」
 そうして、彼方は空を仰いだ。
 先ほどまでの青空とは違う、朱色の空。その空を見上げ、彼方は何を思うのだろう。
「結局、私はこうやって、お姉ちゃんに何かをしてもらわないと、何も得ることは出来ないんですね。昔から……なにも変わってないですね」
 こちらのシリアスな空気とは違い、話題の中心人物はまだ子供たちをからかって遊んでいる。
「……瀬川さん。少しだけ、昔話をします」
「昔話?」
 鸚鵡返しに尋ねる。小さく頷き、再び空を仰いだ。

 そうして、彼方は語り始める。二人の過去。二人だけの、思い出を。
 輝く夕日。響く蜩。そして風の音。
 見上げた空は、オレンジ色の輝いているのに……今日も夏の色だった。

                つづく
749Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/07(火) 00:16:22
ごめんなさい、スゲー長文……
メモ帳で書いてると、自分がどれだけ書いたかわかりにくいっすね
あと、ちょっと話の流れが速すぎることと、終わらせ方も無理があるところなどなど
反省すべきところが多すぎ俺……orz
750Mr.名無しさん:2006/02/07(火) 02:38:34
乙!
長くてもいいっていうか長いほうが俺は好きだぜ!
751Mr.名無しさん:2006/02/07(火) 06:15:58
>>749
乙!
楽しみにしとるよ
752TS ◆Jr4wb2zZIE :2006/02/07(火) 18:43:09
>>721
まず、ごめんなさい。
この続きを日曜日に間違って消してしまった。
デスクトップがアイコンだらけになって
いらないファイルビシバシ消してたら・・・・
思い出して続きを書いてたんだけど何か気分が乗らなくて

そんな訳で715、719-721 はなかった事に。
その変わりに他のを近日中に出しますんで・・・

>>729
誰?田村ゆかりって?
753Mr.名無しさん:2006/02/07(火) 18:59:40
某スレより転載
近代のドイツとオーストリアの関係がツンデレに見えてきたという話題が発展して

965 :イラストに騙された名無しさん :2006/02/06(月) 22:44:01 ID:LPYMQhyD
他「「「日本さーん!」」」
日「ようおまえら、元気か? 飯でも奢ってやるよ」

北「ちょっとあんたたち、どうして日本なんかと仲良くするのよ! あのときのことを忘れたの?」
韓「そうよそうよ。嫌がる私をむりやり……あの屈辱は忘れないんだからね!」
日「そんなこと言って、実はけっこう良かったんだろ?」
韓「な、なに言ってるのよ///」

中「まったく、すっかり生意気になっちゃって。昔はいつもわたしの陰に隠れてたくせに」
日「中国さぁ、昔の俺とはもう違うんだよ。あんまり姉貴風を吹かせないでくれ」
中「まあ、なんて口の利き方!」(あの可愛らしい日本はどこに行っちゃったの…。でも、最近はちょっと頼もしいかも…)

日「まあいいさ。おい、さっさと飯食いに行こーぜ」
他「おっけー」「わーい」「どこいくー?」
北(おなか減ったなぁ…。わ、わたしだって日本と一緒にご飯食べたい……!)
754Mr.名無しさん:2006/02/07(火) 19:00:23
966 :イラストに騙された名無しさん :2006/02/06(月) 23:01:29 ID:h8ysije2
アメリカ「金くれよ、その代わりどこでも守ってやる」
朝鮮「おまえはウリのものニダ、誰かのものになるなんて許さないニダ」
中国「どうせ最後は俺のところへくるんだよ」
トルコ「お前のことは忘れない。」

967 :イラストに騙された名無しさん :2006/02/06(月) 23:39:46 ID:CZISsPYQ
ドイツ「またアンタと組みたいもんだな」
イギリス「あなたにふさわしいのは私だけなのよ」
フィンランド「おお、遠き麗しの君よ」
ノルウェー「一緒に鯨料理でもどうだい?」

イギリスルートだけ百合。
755Mr.名無しさん:2006/02/07(火) 19:01:22
969 :イラストに騙された名無しさん :2006/02/07(火) 05:54:23 ID:EWgv+4y8
つか某国の「昔世話になってた」「構って欲しい」「対等になりたい」
けどとてもじゃないけど自分なんかには振り向いてもらえないからって
あからさまにツンツンしてる様子は明らかにツンデレの一種だろ

ああまで一方的に意識されるとなんかちょっと可愛く見えなくもないよな
・・・ん?

970 :イラストに騙された名無しさん :2006/02/07(火) 08:23:58 ID:Uv6w78qd
日本:元ヤンキー。今は更正して真面目になったが優柔不断。

北:日本の幼なじみ。何かと世話を焼いてくるが、我が儘な性格が災いして学校では孤立している。
アメリカ:巨乳パツキンの転校生。日本の童貞を奪う。


北「もう!アメリカの前だとすぐデレデレして!」
日「い、いやそんな事は……」
北「うるさい!あんたを殺して私も死ぬっ!(核発射)」
756Mr.名無しさん:2006/02/07(火) 19:14:08
のおおおおおおおおおおおおおおおおおおおGJ!!!!
いいなぁ俺にもカワいくて地味な女友達できるかなぁ・・・
757Mr.名無しさん:2006/02/07(火) 19:15:03
おっとリロードしてなくて間に変なのが入ったorz
758Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/07(火) 21:42:03
入試のおかげで休みでした。一日中書いてました
ということで、続きができました
話の進行上、ひらがながやけに多くて読みにくいですが、ご了承ください
では、 >>748の続き

 ぼくは、むかしからへんなこって言われてた。
 おんなのこはぼくじゃなくて、わたしっていうのがふつう。
 こどもはもっとすなおなのがふつう。
 でもね、みんなはしらない。
 ぼくが、いちばん『ふつう』じゃないところ。
 からだにある、いっぱいのあざ。

     Life life 六話

 せみがみんみんないてた。ぼくはひとりで、ずっと、ないてた。
「ったく、ウゼーな……」
 ぼくをみて、お父さんはいつもそう言うの。ぼくは、なにもわるいことしてないのに。
「ねえ、この子の引き取り先、まだみつからないの?」
「あぁ、親戚に当たってるんだけどな……どこも金がないとか、そういうのばっかだ。まったく、使えないやつらだよ」
 そう言って、またいやそうなかおでぼくを見る。
「お前なんて死んじまえばいいのになぁ!」
 それで、ぼくのからだをける。おなか、せなか、あし、うで。
 かおだけはけられたことがなかった。まえにきいたんだけど、かおにきずがあるとぎゃくたいしてるのがばれるから、だからかおはけったりたたいたりしないんだって。
 ぎゃくたいってなんだろう? ぼくがいつもされてることがぎゃくたいなのかな?
 いたい、いたいよおとうさん。おかあさん。やめてよ、いたいよ。
 なんかい言っても、おとうさんとおかあさんはやめてくれない。
 いたいのに。くるしいのに。
 ぼくはもっと、おとうさんと、おかあさんと、なかよくしたいのに。
 みんなのおとうさんとおかあさんみたいに、いっしょにりょこう行ったり、そうして、いつもわらっていたいのに。
759Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/07(火) 21:44:10
「私は……お姉ちゃんと本当の姉妹じゃないんです」
 空を仰ぎ見ていた彼方の口からこぼれたのは、その言葉だった。
「……え?」
「私の幼少時代は、本当の両親からの虐待で埋め尽くされていました。『あの人達』から言わせて見れば、虐待をすることが普通だったらしいですけど。幼い私には、それが普通なんだなって思うしかありませんでした」
 そう言って彼方は、服のボタンを外す。そうして、腹部をさらけ出した。
 そこには、見るだけでも辛くなってしまうような痣が、まだ残されていた。何度も暴力を加えられ、体に染み付いた痣が。
 傷跡とか、火傷の跡とか。
「……驚きましたか?」
 言葉が出なかった。
 小さく、俺は頷いた。
「幼稚園には行かせてもらえませんでした。そして小学校の三年生の頃……私はお姉ちゃんと出逢いました」
760Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/07(火) 21:45:01
 学校には行きたくない。
 ぼくは変な子だから、みんなにいじめられる。
 でも、行かないとお父さんにたたかれる。お母さんにもたたかれる。
 だから、行きたくないけど行かないといけない。
 いつもみたいに一人での登校。
「あー、変なやつだー!」
 わいわいさわぎながらこっちに走ってきたのは、クラスのいじめっ子。ぼくをいつも『変なやつ』っていじめる。
 みんなが何か言ってる。ぼくは聞きたくないから、いつもみたいに耳をふさぐ。
 それで、いつのまにかなみだが出てる。それを見て、みんなはもっとおもしろがってぼくをたたいたりする。
 せっかくお父さんとお母さんから逃げれるのに、学校にいても、家にいても、どっちも変わらない。
 どっちにしたって、痛い。苦しい。悲しい。
 やめてよ。もうやめてよ。
 でも、やめてって言えない。そう言っても、みんなやめてくれないから。
 だからこうやって、がまんするしかない。
「こらー! あんたたちなにやってんのー!!」
 声が聞こえた。
 女の人の声だった。
「やべっ、にげろー!」
 そう言って、みんなとぶみたいに逃げてった。
 ぼくはしゃがんで、ずっとないてた。
「大丈夫? ほら、もういじめっ子はいないよ。お姉ちゃんが助けてあげたんだからね、感謝してよー」
 そんなことばといっしょに、笑い声が聞こえてきた。
 顔を上げると、女の人がいた。セーラー服を着てるから、きっと中学生。
 その人と目が合うと、その人はニッコリと笑った。
 ぼくはなんでか、笑いがこみあげてきて、それで笑った。
761Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/07(火) 21:45:53
「おー、笑ってた方がかわいいよー」
 そう言って、ぼくの頭をなでてくれた。
 お母さんみたい。そう思った。
「私は音羽円香。あなたのお名前は?」
「……かみお、かなた」
「かなたちゃんか。いい名前だね」
「……うん……」
 お父さんとお母さんがくれたもので、ぼくがただ一つ気に入ってるもの。それが、ぼくの名前。
「それで、かなたちゃん。助けてもらったらなんていうのかな? それくらいわかるよね?」
 あ、そうだった。
 いつも先生が、これだけは忘れちゃいけないって言ってる。
「ありが……とう」
 ちょっとはずかしかったけど、がんばった。
 ぼくが言うと、女の人は太陽みたいに明るい笑顔を見せてくれた。
 それでまたぼくの頭をなでて
「よく出来ましたっ!」
 そう言って、ぼくの手を取った。
「学校まで送ってあげる。またあのいじめっ子が来るかもしれないしね」
「……うん」
762Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/07(火) 21:46:33
「それが、私とお姉ちゃんの出会いでした」
「……あのさ、彼方と円香さんって、ホントに血の繋がりはまったく無いのか?」
 尋ねると、彼方は小さく頷く。
「はい。親戚でもなんでもありません。本当に、完璧な赤の他人です」
「……よくそれで養子になれたな?」
「養子になんてなってませんよ。私は……戸籍上ではお姉ちゃんの妹でもないし、今のお父さんとお母さんの娘でもない。まだ、あの人達との家族関係は続いているんです。私の本名は、まだ神尾彼方のまま……」
「本当の両親は……今どこに?」
「さあ……よくわかりません。聞いた話によると、私に対する虐待で捕まった後、博打で負けて借金を負って、それで夜逃げしたと聞いています」
「そっか……」
763Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/07(火) 21:47:17
 それからは、ぼくはいつも円香お姉ちゃんと一緒だった。
 本当のお姉ちゃんみたいに、円香お姉ちゃんはぼくと一緒にいてくれた。
 ぼくは、思った。円香お姉ちゃんが本当のお姉ちゃんならよかったのに。
 円香お姉ちゃんの家に、何回も遊びに行った。喫茶店に遊びに行ったり、公園に行ったり、夏には川で水遊びをした。
 あんまりにも仲がいいから、近所の人たちは私達を本当の姉妹だと思ったみたい。
『あれー、円香ちゃん妹なんていたんだね?』
 そんな言葉を何回も聞いた。私が違うって言おうとすると、絶対に円香お姉ちゃんは
「そうなんですよー。体が弱くてずっと家に引き篭もってたんですけど、最近になって体が良くなったんで、色々連れまわしてあげてるんです」
 そう言って笑って、またどこかぼくの知らない場所へ連れてってくれた。
 円香お姉ちゃんと一緒にいると、たたかれたり、けられたりされた時の辛さを忘れられた。
 本当に、面白かった。
764Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/07(火) 21:47:53
「でもそれは、あまり長く続きませんでした……」
 そうして、目に涙を浮かべた。
 遠くに沈む夕日に照らされて、零れ落ちた涙が頬に光る。
 俺は、黙って次の言葉を待っていた。
765Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/07(火) 21:48:39
「……ここ、どこ?」
 目が覚めると、ぼくはまっしろなばしょにいた。
 まっしろなかべと、まっしろなベッド。ちょっとだけあいた窓からヒューって風が入ってきて、まっしろなカーテンがパタパタって音を立ててる。
 なんだろう、ここ。はじめて見たばしょ。
「あーあ、目ぇ覚ましたのかよ」
 声がきこえた。いちばんききたくない声。
 お父さんの、声。ぼくをたたく人の声。
「ったくよぉ、このまま死んじまえばよかったんだよ、お前なんて。入院なんてしやがって、金がかかるんだよこのバカ」
 またたたかれる。
 そう思って、ぼくはかおをふせた。でも、いつもみたいにならなかった。
 いつもならすぐにいたくなって、なみだが出てくるのに。
 ちょっとだけかおをあげると、お父さんがこわいかおでぼくを見てた。てが、プルプルってふるえてた。
「こんなとこで殴ったら警察沙汰だからな……退院したら覚悟しとけよ」
 そういって、大きなかばんをおいたままへやの外に出てった。
「……お、お父さん」
「あぁ? なんだよ」
「……かばん……」
 かばんをわすれてるよ。
 ぼくはそういいたかった。でも、声がでなかった。
 こわいから。
 ゆうきを出したのに、かばんだけしか言えなかった。
「お前の着替えだ。退院の日までは来てやらないから、その中に入ってる服だけでどうにかしろ」
 ぼくをにらんで、お父さんは出て行ってしまった。
 そういえばぼく、なんで病院にいるんだろう? ぼくはどこもびょうきなんてしてないのに。
 かばんの中を見ようと思ってベッドの上で動くと、足がじわりといたくなった。
 お父さんたちにたたかれたときとはちがう、もっと中のほうがいたい。
 なんだろう? 見てみると、まっしろなほうたいみたいなものが巻いてあった。
766Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/07(火) 21:49:50
 でも、包帯よりずっと固い。それと、つめたい。
 これ……なんだろう?
 うごきにくいから外したいなぁ……。
「うーん……」
 がんばってみたけど、外れない。
 すごい固くて、おもたい。
 ――コンコン。
 音がきこえた。ドアのほうから。
「かなたちゃーん、入るよー?」
 円香お姉ちゃんの声だ。
 ぼくはうれしてくて、いたいのに笑ってた。
「やっほー、お加減いかが?」
 ぼくに手をふってくれた。ぼくも手をふった。
「おかげんって?」
「あー、わかんないかぁ。えっとね、元気?」
 にがわらいして、そう聞きなおした。ぼくは頷いて
「うん!」
 って、答えた。
「はい、お見舞い。りんご好き?」
 学校に行ってきたのかな? ぼくと円香お姉ちゃんが初めて会ったときとおんなじかっこうしてる。
「うん、好き」
「そっか、そりゃいかった」
 にっこり笑って、円香お姉ちゃんはすぐにりんごの皮をむいてくれた。
「はい、どうぞ」
「……あ、うさぎさん」
 しろとあかのうさぎさん。かわいい。食べるのがもったいないくらい。
「ほら、さっさと食べな。しなびちゃうとまずくなっちゃうよ?」
「うん」
767Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/07(火) 21:50:28
 シャリシャリって音がなった。口の中で三十回かんで、飲み込む。
「おいしくてかわいい」
「美味しいのか可愛いのかどっちかにしなよ」
「かわいくておいしい」
「……はは、そう」
 だって、ほんとうにそうなんだもん。
 かわいいし、おいしい。
 あっというまにりんごを食べてしまった。
「ねえ、円香お姉ちゃん。ぼくね、なんでこんなとこにいるの?」
「あ……」
「この足にまいてあるのなに? さっきね、取ろうとしたんだけど、取れなかったんだ」
「……彼方ちゃん、覚えてないの?」
 おぼえてないって、なにを?
 わかんないから、とにかくコクンってうなずいた。
「彼方ちゃんはね、車に轢かれたの。ごめんね、私があんな遠くになんか連れて行ったから……」
「くるま? なんで、円香お姉ちゃんがあやまるの? 円香お姉ちゃん、わるくないよ?」
「……優しいね、彼方ちゃんは」
「うん、ぼくやさしい! あ、でもでも、円香お姉ちゃんが一番やさしい」
「ありがとう」
 そういって、ぼくの頭をなでてくれた。
 やっぱり、みんなが言ってる『お母さん』みたい。
 ぼくは、きっと笑ってる。でも、円香お姉ちゃんの顔は、笑ってなかった。
「彼方ちゃん。もう、会うのは止めよっか」
「……え?」
 いきなり言われて、よくわからなかった。
 会うのをやめる? それって、ぼくと円香お姉ちゃんはもう会わないってことなの?
768Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/07(火) 21:51:10
「ごめんね。私の所為で、彼方ちゃんをこんな目に遭わせちゃって……。たぶんね、これ以上一緒にいると、いつかまた同じ様なことがあると思うから……」
 なんで?
 ぼく、なにかわることしたの?
 ぼくが変だから?
「やだ……」
「……彼方ちゃん、お願い。お姉ちゃんの言うこと聞いて」
「やだよ……やだよっ! ぼくが変な子だから? だからだめなの? だったら、だったらぼくは、ぼくって言うの直すから! だから……」
「…………」
 円香お姉ちゃんは、ずっと黙ってた。
「もっと……すなおになるから……もっと……ふつうの子になるから……だからぁ……うぇ……えっぐ……」
 声がうまく出せない。しゃっくりみたいなのにじゃまされて、声がちゃんと出ない。
 でも、やだよ……円香お姉ちゃんともう会えないなんて……やだよ……。
「ごめんなさい」
769Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/07(火) 21:51:49
「そして、お姉ちゃんは病室を去りました」
 ふと気付くと、水遊びをしていた子供達は帰ってしまっていた。
 暮れかけた夕日は見えなくなり、空は夏の色から夜の色へ変わり始めている。
 円香さんはたった一人、川の中で水遊びを楽しんでいた。
 蜩が、響いていた。
「なんで……円香さんの所為って?」
「後から聞いた話では、その日私はお姉ちゃんと少し遠くまで遊びに行っていたそうなんです。中学生の足だったら楽なところも、小学生の足では楽ではなくて……道路の脇を歩いていた時、私の足がもつれて転んだみたいなんです。丁度その時、車が……」
「……轢かれたのか。それで円香さんは、自分が無理させた所為で彼方が轢かれたって思って、またそうなる前に関係を断ち切ろうとしたってことか」
「たぶん、そうなんじゃないですか? 今更あの時の話なんて聞こうなんて思わなかったから、本当のところはどうなのかわからないですけど」
「なんつーか……円香さんらしいといえば円香さんらしいな」
 思わず苦笑を漏らす。
「それから入院生活は、二ヶ月くらい続きました。退院してからは、まるで地獄のような日々でした」
770Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/07(火) 21:52:29
 久しぶりに学校に行くと、わたしの席にかびんが置いてあった。
 たぶん、これもいじめなんだと思う。でも、いじめられるのはもう慣れちゃったからどうも思わなかった。
「よー、変なやつ。死んだんじゃなかったのか?」
 かびんを片付けて席に座っていると、いじめっ子達がすぐにやってきた。
「……死んで……ないもん」
「なんだよ、死ねばよかったのに」
 みんなもそう言うんだ。
 お父さんもお母さんも、そればっかり言ってた。
「……死なないもん」
 涙が出てきそうだったけど、がんばってがまんした。
 今泣いたら、きっと円香お姉ちゃんに怒られるから。
「おー、初めて口答えした。へー、そんなになぐられたいんだ」
 いつもだまってたたかれてるだけだったわたしがなにか言ったのが、よっぽどめずらしかったのかな?
 それからは、けっきょくいつもといっしょ。
 教室の後ろにつれてかれて、角に座らせられて、それでたたかれて、けられる。
 やめてっていってもやめてくれない。みんな見てるのに、だれも助けてくれない。
 いたい。いたいよ。
「もう……やめて……」
 むりやりだした声も、やっぱりみんなには届かなかった。
 わたしは、これからもずっとこうなのかな……。
771Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/07(火) 21:53:19
 学校が終わって、わたしは急いで円香お姉ちゃんが行ってる学校の前で、一人で待ってた。
 円香お姉ちゃんと会ってから、いつもそうしてた。
 円香お姉ちゃんと会うことだけが、わたしの楽しみだったから。
 そろそろ出てくる時間だ。わたしはウキウキしながら円香お姉ちゃんが出てくるのを待ってた。
 あの人は違う、あの人も違う。
 ……あれ、おかしいなぁ、そろそろ出てくるはずなのに。
 なんで出てこないんだろう。
 ……おかしいなぁ……。
「ねぇ、ちょっといい?」
 わたしに話しかけてきた女の人。円香お姉ちゃんじゃない。
 わたしは小さくうなずくだけで答えた。
「あのね、円香ちゃんなんだけど……もう、あなたと会うつもりはないんだって。ごめんね、私もこんなこと言いたくないんだけど……」
「……うん……わかった」
 めいわくかけたくないから、泣きそうになるのがまんした。
772Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/07(火) 21:53:58
「それから二ヶ月。私はたった一人で生活していました。そりゃ、食事の準備とかは両親がしてくれたんですが……ほとんど一人で暮らしているのと変わらない生活でした。いじめっ子達は私をいじめるのを飽きてしまったのか、段々と私から離れていきました」
「……円香さんとは、それでどうなったんだ?」
「もちろん、今の関係があるってことは、どうなったのかわかりますよね?」
「まぁ……な」
773Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/07(火) 21:54:37
 円香お姉ちゃんと会わなくなって二ヶ月くらいしたときに、見たことの無いおじさんたちがわたしの家に来た。
 お父さん達と何か話して、お父さんとお母さんを連れて行った。
 なんなんだろう?
 わからなくて立っていると、おじさんが一人こっちに来た。
「辛かっただろう? もう、お父さんとも、お母さんとも一緒に暮らさなくていいからね」
 そう言ってニッコリ笑って、わたしの手を取った。
「いやっ!」
 その手を振り払って、わたしは家の外に走った。
 なんでかわからないけど、すごくこわかったから。
「あ、ちょっと!?」
 うしろでおじさんがさけんでる。でも、わたしはいっしょうけんめい走って家の外に出た。
 家の外に出て、わたしはある場所に走った。
 大好きな人の場所。円香お姉ちゃんのお家。
 おじさんが急いで後を追ってくる。わたしはおじさんが通れないような場所をえらんで走った。
 やっと、円香お姉ちゃんのお家につくと、わたしはピンポンを何回もならした。
「はーい。どちらさま……彼方ちゃん?」
 出てきたのは円香お姉ちゃん。おどろいたような顔して、すぐに扉を閉めようとした
「待って! たすけて!」
 わたしの声を聞いて、円香お姉ちゃんはまたとびらを開けた。
 そして外に出てくるのといっしょに、おじさんが追いついてきた。
「……あんた、誰?」
 円香お姉ちゃんの声がこわかった。でも、それはわたしを守るため。
 やっぱり、円香お姉ちゃんはやさしい。わたしを、守ってくれるんだ。
774Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/07(火) 21:55:17
「その後、私は音羽の家に引き取られました。しかし手続きは面倒だと言うことで、私は神尾の苗字のまま、家族として音羽の家で世話になっているんです」
「……そっか……」
「瀬川さん、言いましたよね。なんでそんなにもお姉ちゃんに執着するのかって」
「あぁ……」
「私がお姉ちゃんに執着するのは、お姉ちゃんなら私を守ってくれるという考えがあるからだと思います」
 なるほど……。
 彼方は、俺なんかだと考え付かないくらいに酷い幼少時代をすごしてきた。
 その中、救いの手を差し伸べたのは円香さんだった。
(何々、何の話ー?)
 やっと水遊びに飽きたのか、円香さんはこちらへと近寄ってきた。
 先ほど彼方の話で聞いた円香さんとは大違いと言うか、なんというか……。
「これからのことについて話してたんだよ。な、彼方」
「え、あ、はい」
 いきなり話をふられ、何のことなのかわかっていない様子だった。
 俺の言葉からでしか会話の内容を考えることが出来ないのだから、急にじゃなくたって困るだろう。
775Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/07(火) 21:56:10
(ふーん)
 いかにも興味なさそうに答える。
「さって、それじゃ陽も暮れたし、そろそろ今日はお開きにしようか」
「はい、そうですね。あ、瀬川さん。これ、私の携帯電話の番号です」
 言いながらメモ用紙に書かれた番号とアドレスを俺に手渡す。
「あ、俺携帯持ってないんだわ。家に帰ったら電話するよ」
「持ってないんですか? 珍しいですね」
「いや……正直持ってても使わないからな」
 そう言って苦笑。
 軽く挨拶を交わし、俺達は帰路へついた。

 薄暗くなった田舎道を、円香さんと二人で通り抜けた。
 空に光る夏の第三角形。吹き付ける夏のそよ風。響くコオロギの音色。
 段々と終焉に近づく夏は……まだ終わらない。

              つづく
776Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/07(火) 21:57:45
やってみて思ったんですけど、子供の心理描写って難しいですね……
無理して一人称でやるんでなく、素直に三人称を使うべきでした
本当はこの部分って話の中に無かったから、最初のほうに書いたこととの矛盾を誤魔化すために頑張ったんですが……誤魔化しきれてないorz
777マツ(3日目):2006/02/07(火) 22:01:11
GJ!
778Mr.名無しさん:2006/02/07(火) 22:14:46
GJ!!

女の方から連絡先を渡されてみたいモンだね・・・('A`)
779Mr.名無しさん:2006/02/07(火) 22:23:39
乙カレー

>>778
現実に引き戻すな バカヤロ
780Mr.名無しさん:2006/02/07(火) 23:21:46
超感動巨編の悪寒!!
ワクテカワクテカ
781Mr.名無しさん:2006/02/08(水) 20:16:02
ほしゅ
782枯れない花  第1話:2006/02/08(水) 20:23:34
僕には7つ年下の妹がいる。
子供の頃はどこにいくにも僕の後をついて来た。
買い物や公園、遊園地・・・
その頃の僕にとって妹の美弥は妹と言うよりペットに近い存在。
月日は流れ、僕は高校を卒業し働くようになっていた。

朝7時30分。僕がトーストを食べていると寝ぐせ爆発の美弥が起きてきた。
「おはよ」
俺が挨拶をしても美弥は何も答えない。
黙って食卓の上に置いてあるオレンジジュースをコップに注ぐ。
「何度も言うけどさ、朝ぐらい挨拶しろよ」
毎日のように同じ事を言う。でも美弥は何も答えず、黙ってテレビを見ていた。
「まったく・・・誰に似たんだか」
「今のおばさんくさい」
朝の第一声がおばさんくさい、か。僕はとことん美弥になめられていた。
「俺、そろそろ会社行くから」
そう言って上着を着る。
それでも美弥は黙ってテレビを見続けていた。
「今日晩飯何がいい?」
「何でもいい」
「何でもいいが一番困るんだけど」
「兄貴が決めてよ」
「じゃあ焼き魚でいいか」
「お肉が食べたい」
「だったら最初から言えって。生姜焼きにするから。文句ないな?」
そっけなくうなずく美弥。
僕と美弥の朝はいつもこんな感じだった。
783枯れない花  第1話:2006/02/08(水) 20:24:48
親父が転勤して2年が経つ。仕事一筋の親父に一人暮らしは無理との判断で
おふくろもついていった。
僕は就職してたから今更両親がいなくても問題はなかったのだが
高校に入学したばかりの美弥はどうだったんだろう。

子供らしさが抜け始めた頃に、親の監視下から外れる。
ヘタすれば間違った方向に進むかもしれない、と僕は考えた。
両親がいない分、僕が美弥の面倒をみようとその時決心した。

「親父とおふくろがいないけど、美弥は平気か?」
「大丈夫だよ、お兄ちゃんがいるから」
「そうか、よし、二人で頑張ろうな」
「うん」
「じゃあ家の事は分担してやろう」
「いいよ、お兄ちゃんは仕事してるんだから。私が頑張るから」
「そんな訳にはいかないって。今日から俺は美弥の親代わりなんだし」
「私、平気だって。お父さん、お母さんいなくても」
「はは、強がらなくてもいいって」

二人で暮らすようになった初日、そんな会話をした覚えがある。
でも、二人で暮らすようになってから、素直だった美弥が少しずつ変わった様な気がする。
784枯れない花  第1話:2006/02/08(水) 20:26:14
夕食を作り終え、テーブルに並べる。
みそ汁が入った鍋の火を弱め、僕は2階にいる美弥を呼んだ。
「出来たぞー」
いつもの様に返事もせず、黙って美弥は降りてきた。
「いただきます」
二人そろえて口にだす。これだけは美弥は必ず言う。
農家の家に生まれ育った親父の影響だろう。
食事の途中、美弥が思いがけない質問を僕にして来た。
「彼女っているの?」
「え、い、いや、今はいないな・・」
「今 "も" じゃないの?」
「厳しい突っ込みだな・・ハハ・・・」
「私に遠慮してるんだったら、そういうのはやめてね」
「別に、遠慮なんか・・・」
図星だった。
僕は美弥と二人で暮らすようになってから彼女をつくろうとしなかった。
今はとにかく無事に美弥を卒業させる事が第一。
恋愛はそれからでも遅くはないだろ、そう僕は考えていた。
785枯れない花  第1話:2006/02/08(水) 20:26:54
「そ、そういう美弥はどうなんだよ?」
「何が?」
「付き合ってるヤツとかいるのか?」
よく考えたらこういう事を美弥に聞くのは初めてだった。
あぁ、僕はもう口うるさい親父みたいなんだろうな・・・
「会わせろとか言うの?」
「や、やっぱ、いるのか?」
じっと僕を見つめる美弥。返事が来るのが長く感じる。
「いないわよ」
「いないのか、周りの男達は勿体無い事してんな」
「何が?」
「いや、美弥は十分かわいいんだし」
僕がそういうと美弥の箸がピタっと止まる。
あれ?何かマズイ事言ったか?
「気持ち悪い事言わないで」
「い、いや、本当にそう思ってるからさ・・」
バンっと箸を食卓に置き、席を立つ美弥
「ごちそうさま」
「お、おい、まだこんなに残ってるのに」
「うるさい!もういらない」
そう言って美弥は自分の部屋へ戻ってしまった。
786Mr.名無しさん:2006/02/08(水) 22:12:51
新作にGJ&期待
787Mr.名無しさん:2006/02/08(水) 22:33:19
新感覚だね。続き期待はげ
788Mr.名無しさん:2006/02/08(水) 23:28:18
久しぶりに覗いてみたら作品がイパーイ投稿されてるじゃねぇか(*´Д`)
職人さん達いつも乙ンデレ〜
789Mr.名無しさん:2006/02/09(木) 00:27:02
官能小説的な描写もまじえたら
このスレは100点だな
790Mr.名無しさん:2006/02/09(木) 01:13:03
ツン度が高いのは久々で何かいいな。
791Mr.名無しさん:2006/02/09(木) 20:11:44
gjgjgjjgjjgjgjjgjgjgg!!!!!!!!!11111111111
792枯れない花  第2話:2006/02/09(木) 22:28:59
>>785
夕方、仕事をしている僕の携帯に一通のメールが来た。
送信者は美弥だ。
 ”今日は弥生とご飯食べてから帰る”
弥生はたまに家に遊びに来る美弥の親友。
真面目な子だから遅くはならないだろう。
僕は分かったと一言だけ返信した。

「今日の夜、ヒマっすか?」
もうすぐ会社が終わろうとする頃、隣の席のタカシが僕に話しかける。
「何で?」
「今日、飲み会があるんですけど一人これなくなっちゃって」
「別に足りなくてもいいじゃん」
「それだと人数が合わないんですよ」
「ああ、合コンね」
「ま、そんな感じっす。いきましょうよ」
「うーん・・・」
美弥と二人暮らしになってから忘年会や新年会ぐらいしか
飲みに行ってない。
今日は美弥も出かけるし、たまには外で飲むのもいいかなと思った。
「そうだな、じゃあ顔だけ出すか」
「マジっすか!今日来る子可愛いっすから期待していいっすよ」
「バカ、俺は酒が飲めればいいんだよ」
その時、僕は本当にそう思っていた。
793枯れない花  第2話:2006/02/09(木) 22:30:43
「かんぱーい!!」
勢いよく生ジョッキをぶつけ合う。
仕事の後の中生は一気に仕事を忘れさせてくれる。
「そういえばさ、女の子一人少なくね?」
「仕事で遅れるみたいっす」
女目的でない僕の隣が空いている。
必然的にその子は僕の隣に座る事になる。
「ごめんねー。遅れて」
「おっそいよー!!瑞穂!!」
瑞穂?僕はその名前に聞き覚えがあった。まさか・・・
ゆっくりと瑞穂と呼ばれた子の顔を見ると・・・
「「あー!!」」
僕と瑞穂と呼ばれた子は声を揃え、お互いを指差す。
「何?二人は知り合い?」
「え、あ、えっと・・・」
僕は突発的な出来事への対応が遅い。自分でもイヤになるぐらい。
そんな僕の変わりに瑞穂が的確かつ迅速に答える。
「そ、高校時代のね」

僕は高校時代、サッカー部に所属していた。一応エースストライカー。
で、瑞穂はマネージャー。
よくある話しでエースとマネージャーでの恋人。
でも、その関係は二人が部活を引退した頃終わりを向かえた。
794枯れない花  第2話:2006/02/09(木) 22:31:58
「変わってないね」
「そうか?瑞穂は変わったな」
「どういう風に?」
「なんていうか・・・大人の女って感じか?」
「そ、そんな事言ったって何もでないわよ」
プッ、と僕は軽く吹き出す。
「何がおかしいのよ」
瑞穂は人から褒められると必ずどもる。昔のままだった。
「やっぱ変わってないや」
「いいからいいなさい!」
ほっぺを膨らませながら僕の耳を強めに引っ張る瑞穂。
「イテテテッ・・・やめろって」
「フン!アンタなんて知らない!!」
「いや、でも嬉しいよ。また瑞穂に会えるなんてさ」
「そ、そう。ま、まぁ私はアンタに会えても嬉しくなんてないけどね」
この独特の言い回しが僕は好きだった。


1次会が終わり、皆2次会へと向かった。
そろそろ美弥も帰ってくる頃だから僕は家に帰る事にした。
駅の方へ向かうと後ろから僕のカバンを奪おうとする誰かが来た。
「誰だ・・・って瑞穂か」
「アンタ帰るの?」
「ああ、家の事色々あるからな」
妹が帰ってくるからなんて瑞穂にはとてもじゃないが言えない。
そんな僕の事などおかまいなく瑞穂は僕に絡んできた。
「そんなのいいじゃん。それより二人でどっかで飲みなおそうよ」
「え、あ、いや・・・」
795枯れない花  第2話:2006/02/09(木) 22:32:32
「何?私と二人で飲むのがイヤなの?」
イヤじゃない。むしろ行きたいです。
「あーうー、そのー」
「久しぶりなんだし色々話そうよ!ハイ、決定!!」
「あ、ああ・・・」
完全に瑞穂にペースを握られ、僕と瑞穂は2軒目へと向かった。

それから2時間ぐらい、バーで瑞穂と飲んだ。
付き合ってた頃の話やデートで行った場所、まるで高校時代に戻ったようだった。
「ねえ、今、付き合ってる人いるの〜?」
目がトロンとしてきた瑞穂が聞いてくる。
そういえば昨日、美弥にも同じ事聞かれたっけ。
それを思い出し、思わず笑ってしまう。
「何がおかしいのよ?」
「いや、昨日もさ、妹に同じ事聞かれたから」
「妹?あっ、そういえばいたんだっけ?」
「ああ、これが生意気でさ」
「ふーん、そんな事より恋人は?」
「今はいない」
「そーなんだー」
僕の返事を軽く流す瑞穂。完全に酔っ払ってると思った。
そろそろ僕も終電が近くなってきたので瑞穂に聞いてみる。
「それより終電とか大丈夫なのか?」
「んー、もうないよー」
飲みかけていたジントニックが気管支に直撃した。
「グェ・・ゲホッ・・・ど、どうすんの?」
「うーん、アンタん家に泊めてー」
「泊めてって言われても」
「ハイ、決定ー!行こう行こう!!」
店を出た瑞穂は速攻でタクシーを捕まえ、僕は自宅へ向かうよう運転手に伝えた。
796Mr.名無しさん:2006/02/09(木) 22:37:27
らめぇ><
797Mr.名無しさん:2006/02/09(木) 23:37:45
いきなり急展開の悪寒
ワクテカ
798Mr.名無しさん:2006/02/10(金) 00:07:51
書籍化決定!!!!!!!!!!!
799Mr.名無しさん:2006/02/10(金) 02:59:31
まだはえーよw
800枯れない花  第3話:2006/02/10(金) 13:51:00
さりげなく800ヘトー

>>795
僕の肩にもたれかかり、眠っている瑞穂。
僕は携帯を取り出す。時間は1時を少し回っていた。
「美弥に連絡してなかったな・・・」
携帯を開くと未開封と不在着信を示すアイコンが表示されていた。
メールは22:38、美弥からで内容は”遅くなるの?”の一文。
不在着信は23:55で自宅からで留守電は入ってなかった。
「時間も時間だし、もう寝てるだろ」
美弥に連絡しなかった事に、僕は少しだけ罪悪感を感じていた。

寝ている瑞穂は引きずり出すようにタクシーからおろし、家の玄関を開けた。
「ほら、ブーツ脱げって」
「脱がしてー」
「それぐらい自分でやれよ」
「けち〜」
甘えた声を出しながら、僕にもたれかかってくる瑞穂。
ふと僕は誰かの視線を感じた。
視線の主は、美弥だった。
「お、起きてたのか」
「起きてちゃ悪い?」
「悪くはないけどさ・・・」
1段上から僕を見下ろす美弥の背中に、何か怒りのオーラを感じた。
801枯れない花  第3話:2006/02/10(金) 13:52:11
「その人誰?」
「・・・高校の同級生」
「何で家に連れてきたの?」
「いや、終電逃したから」
美弥の言葉にどこか冷たさを感じた。怒ってるの・・か?
「おやすみ〜」
そう言って瑞穂は横になろうとする。
「お、おい、ここで寝るな」
「どうするの?その酔っ払い」
「うーん、悪いんだけどお前のベットで寝かしてもらえないか?」
「何で私のベットで?」
「俺の部屋に入れるのもアレだし・・・」
「彼女なら別にいいんじゃない?」
さっきよりいっそう冷たさを増している美弥の言葉。
「彼女じゃねーよ」
”元”彼女だから僕は間違った事を言ってない。
「そ、そうなんだ・・・」
そう発した美弥の言葉は冷たさより、安堵感が漂っていた。
「ねー、早く一緒に寝ようよ〜」
寝言なのか、瑞穂が僕に話しかけてきた。
「ば、バカな事いうな」
思わず僕は慌てた。そしてチラっとミ美弥を見る。
「分かったわよ、私のベットにその人運んであげて」
「悪いな」
そういって僕は瑞穂を抱きかかえ、美弥の部屋へと運んでいった。
802枯れない花  第3話:2006/02/10(金) 13:54:12
瑞穂を寝かせ、僕は麦茶を飲もうとリビングへ向かう。
そこにはアクビをしながらテレビを見ている美弥がいた。
俺の帰りを待っててくれた・・・のか?
「な、何か悪かったな」
「別に」
「俺はここで寝るからさ、美弥は俺の部屋で寝ていいぞ」
「いいわよ、私がここで寝るから」
客人用の布団は何セットかあるのだが、圧縮しっぱなしでとても使える状態じゃない。
「ここじゃ布団もないし、疲れが取れないからさ」
「私は平気だって、兄貴が自分の部屋で寝なよ」
こうなると美弥は意地でも引かない。どうやって納得させるかな・・・
アルコールの力も手伝って、僕は普段、口にしない冗談を言ってみた。
「なんなら、久しぶりに一緒に寝るか?」
ガッシャーン。
美弥が持っていたティーカップが床に落ちる。
や、やばい・・・どうやらかなり怒らせてしまったようだ。
一気に酔いがさめ、僕は慌てて否定した。
「じょ、じょ、ジョーダンだって、は、は、はははは・・・」
「・・・・」
何も答えず、じっとテレビを見ている美弥。
僕はこの空気に耐えれなかった。
「お、お言葉に甘えて部屋で寝させてもらうよ。美弥も早く寝るんだぞ」
こうして僕は逃げるように自分の部屋へ退散した。
803Mr.名無しさん:2006/02/10(金) 18:08:02
いい・・すごくいい・・・

  _   ∩
( ゚∀゚)彡  続き!続き!
 ⊂彡
804枯れない花  第4話:2006/02/10(金) 20:18:07
>>803
OK!!

ジャージに着替えベットに入る。
「隣の部屋で瑞穂が寝てるのか・・・」
昔の恋人が隣で寝ている。考えただけでドキドキしてきた。
「実は起きてて、部屋のドアをノックしてきて・・・その後・・・」
酔っているせいか、妄想がどんどん膨らんでくる。
ここ2年程、女性の身体に触れてなかった僕はどんどんモヤモヤしてきた。

コンッコンッ

部屋のドアをノックする音。ま、まさか!!
「ど、どうぞ!!」
声は裏返り、少しだけ大きな声を出してしまった。
ほ、本当に瑞穂が・・・
ガチャっとドアが開き、一人の女性が入ってくる。
「な、なんだ。美弥か・・・」
入って来たのは美弥だった。僕は拍子抜けした声を出す。
「何か用か?」
美弥は何も言わず、ずかずかと僕の方に歩いてきて、そして・・・
「お、おい!」
無言のまま、美弥は僕のベットにもぐりこんで来て、僕の枕を奪った。
「枕は使わせてもらうから」
「はぁ?な、何が?」
805枯れない花  第4話:2006/02/10(金) 20:19:40
「兄貴が一緒に寝ようっていったんでしょ」
「そ、そりゃ言ったけどさ・・・」
まさか本当に来るなんて。
さっきまで瑞穂の事を考えて妄想していた。今は美弥が隣に寝ている。
妹とは分かっているが、女性独特の匂いが僕の鼻孔を刺激し、
体中の血液が下半身に一気に流れ出す。
(バ、バカ!!静まれ!!美弥だぞ?!!)
体は正直なのか、隣に若い女が隣に寝ている、、
その事実だけが本能として体が反応していた。
「ねえ」
「な、な、なんだよ」
「あの人の事好きなんでしょ?」
「そ、そんな事・・・」
否定しようと美弥の方へ顔を向ける。
じっと僕を見つめる美弥の目が潤んで見えた。
や、ヤバイ・・・コイツってこんなに可愛かったか?
「や、やっぱ俺、リビングで寝るよ」
「ダメ、一緒に寝る」
「な、何でだよ・・」
「目、離したらあの人襲いに行く気でしょ?」
襲えるモノなら・・・襲いたいか?僕はその考えを必死に否定した。
「そ、そんな訳ねーだろ!!」
「私と一緒に寝てればそんな事できないでしょ」
「そ、そうだけど・・・」
「じゃあ電気消して。おやすみ」
「あ、ああ、、おやすみ・・」
僕は部屋の電気を消した。
そして、生まれて初めて美弥を ”女” として意識しながら、悶々とした夜を過ごした。
806Mr.名無しさん:2006/02/10(金) 20:44:06
俺も悶々としちまったじゃねえかあああああああ
(*´д`*)ハァハァハァハァ
807Mr.名無しさん:2006/02/10(金) 20:49:33
いい…すごくいい…(*´Д`)ハァハァ
808Mr.名無しさん:2006/02/11(土) 00:55:23
まだ残っているとは、思わなかったです。
みなさん、頑張ってください!

と、言いだしっぺの自分が保守
809枯れない花  第5話:2006/02/11(土) 00:58:32
>>805
ぬくもりを感じていた。
小さな肩を震わせ、時に小さく吐息を漏らす美弥。
「・・・・あっ・・・ん・・・んんっ・・」
僕は今にも爆発しそうな下半身を美弥の入り口へそっとあてがう。
「あっ・・・」
「い、痛かったか?」
「ううん、、平気・・・でも、、何か変な感じ・・」
「美弥、愛してる」
僕は自分の唇を美弥の唇に重ね、一気に美弥の中へ入っていった。
「あああっ!!おにいちゃん!!!!」
優しく抱きしめたはずの腕にありったけの力が込められる。
僕は快楽の波にのまれていった。
「俺、も、もう・・・」
「わた、、わ、、、私、、も、もう、、ダ、ダメ・・・お、おにいちゃん・・」
「美弥!美弥!!!」
背中から腰にかけ、しびれるような快感が支配する。
僕は熱い息吹を美弥の中へ放出した。
810枯れない花  第5話:2006/02/11(土) 00:59:51
パッと目を開ける。僕の視界に部屋の壁が飛び込んできた。
「夢・・・・か」
ホッとしたと同時に言いようのない背徳感を感じる。
何て夢を見たんだろう・・・・
隣で寝ていた美弥の姿はもうなかった。
「瑞穂、送ってかなきゃ」
ベットから出ようと体を起こす。下半身に違和感を感じる。
「何だ?」
ジャージをめくると・・・トランクスの内側に白いネバネバの液体が付いていた。
「マジかよ・・・・」
泣きたくなった。妹とSEXする夢を見るだけでも異常な事なのに
さらに、夢精までするなんて!!
頭を抱え、泣きたい気持ちをこらえていると美弥が部屋に入ってきた。
「おきてたの?」
「あ、ああ・・」
「あの人、さっき帰ったわよ」
「そ、そう・・・」
「迷惑かけてごめん、だって」
「そ、そっか・・・・」
話しかけてくる美弥の顔が見れない。どんな顔して見れば僕は分からなかった。
「何かあった?」
「何でもない、、、、一人にしてくれないか?」
「変なの」
美弥が出て行くと僕は枕に顔を埋め、声を出さないように泣き続けた。
811枯れない花  第5話:2006/02/11(土) 01:01:11
その日、僕は美弥を避けるように外出した。
時間つぶしにパチンコをし、公園でボーッとしていた。
2時間ぐらい経った時、携帯が鳴った。瑞穂からだった。
「昨日はごホントごめんね」
「いいって、あれぐらい」
「でさ、今から時間ある?」
「特に用事はないけど」
「じゃさ、ご飯でも食べに行かない?」
本当は誰にも会いたくはなかった。でも、一人でいると気がめいると思い
僕は瑞穂の誘いに乗ることにした。

結局、夜まで瑞穂と時間を過ごした。
帰り際、人気のない路地裏を歩いていると瑞穂が話しを切り出してきた。
「今、彼女いないんでしょ?」
「ああ」
「好きな人は?」
その質問を聞いた時、なぜか真っ先に美弥の顔が浮かんだ。
何で美弥の顔が・・・
「どうしたの?」
「何が?」
「何か、今、すっごく怖い顔してたよ」
「そんな事ないって」
「私達、もう一回付き合えないかな?」
思いもしなかった瑞穂の告白。
僕は瑞穂の事をまだ好きなんだろう。でも、どこかで何かがひっかかる。
美弥の事?!まさか・・・
突っかかるものを取り払うために、僕は瑞穂の告白に答えた。
「俺もそう思ってた。またよろしくな」
そう言って僕は瑞穂を力いっぱい抱きしめた。
812Mr.名無しさん:2006/02/11(土) 05:50:56
GJ!
813Mr.名無しさん:2006/02/11(土) 08:47:22
兄貴ゴルァ!
814Mr.名無しさん:2006/02/11(土) 17:09:32
大波乱の悪寒!!
815Mr.名無しさん:2006/02/12(日) 00:54:25
  _  ∩
( ゚∀゚)彡 3P!3P!
 ⊂彡
816Mr.名無しさん:2006/02/12(日) 09:00:27
  _  ∩
( ゚∀゚)彡 うP!うP!
 ⊂彡
817Mr.名無しさん:2006/02/12(日) 19:20:38
すげぇえええええええ続き超期待 Σm9(`・ω・' )@m
818枯れない花  第6話:2006/02/12(日) 21:17:00
>>811
「遅かったじゃん。どこ行ってたの?」
家に帰ると美弥は夕食を用意していた。休日は美弥が食事を作る日だ。
「ど、どこだっていいだろ。お前には関係ない」
突き放すように僕は言った。
「ご飯用意したのに何?その言い方?」
美弥の言う事は正論だ。でも、僕は美弥の事を必要以上に意識していた。
早く、あの夢の事を忘れたい。その思いから僕は言う必要のない事を口にした。
「俺、瑞穂と付き合う事にしたから」
僕の言葉に少しだけ表情を曇らせる美弥。
重苦しい沈黙が数秒続いた後・・・
「イチイチ報告する必要ないんじゃない?」
「それもそうだな・・・」
会話が続かない。僕はただ、その場に立ちすくしていた。
美弥はエプロンを外し、黙って玄関の方へ歩き出す。
「お、おい。どこ行くんだ?」
「弥生と約束あるから。ご飯勝手に食べてて」
僕の方を一切振り向かず、はき捨てるように美弥はそう言って出かけていった。
「これでいいんだ・・・これで・・・・」
美弥が作った夕食を見つめながら、僕は搾り出すように呟いた。
819枯れない花  第6話:2006/02/12(日) 21:17:59
あれから2週間が経った。僕はなるべく家に帰る時間を遅くした。
出来るだけ美弥との時間を作りたくなかった。
瑞穂とは毎日メールや電話をし、努めて明るく振舞っていた。

「どうしたの?元気ないじゃん?」
週末、僕は瑞穂と居酒屋に来ていた。
家に居ても押しつぶされそうな空気から逃げたかった。
「そ、そんな事ないよ」
「私と一緒じゃつまんない?」
「だったら付き合わないだろ?」
「・・・」
何も答えない瑞穂。何かに気づいているのだろうか?
「何でそんな風に思うんだ?」
「だって・・・」
瑞穂は黙り込む。何を求めているんだろうか?
「また、付き合いだしたのに、私に何もしてこないし・・・」
「えっ・・・」
「私、魅力なくなった?」
瑞穂が何を求めているのか・・・それはきっと・・・・
「今日、帰らなくても大丈夫か?」
「・・・私は・・・平気だけど、妹さん、大丈夫なの?」
「アイツは関係ないだろ!!」
僕は妹という単語に過剰に反応してしまった。
「そ、そんなにムキにならないでよ」
「ご、ゴメン・・・」
早く、自分の心から”女”として意識してしまった美弥を”妹”に戻したかった。
それからしばらくして、僕と瑞穂はホテル街へと向かった。
820枯れない花  第6話:2006/02/12(日) 21:18:46
部屋の鍵を開けると僕は瑞穂を力の限り抱きしめる。
「ちょ・・ちょっと・・・」
何かを言おうとする瑞穂の唇を僕は塞ぐようにキスをする。
「んっ・・」
僕の背中をかきむしるように動く瑞穂の手。
僕の手は瑞穂の頭を自分の方に強く引き寄せた。
1分ぐらいだろうか、むさぼるようなキスをした後、瑞穂は息を整える。
「私、シャワー浴びてくるね」
「ああ・・」
浴室へ消えていく瑞穂。僕はベットに寝転び、じっと天井を見つめる。
「実際に女を抱けば・・・大丈夫だよな・・・」


「ゴメン・・・」
「お酒飲み過ぎたんでしょ・・いいよ、気にしないから」
立たなかった。酒もそんなに飲んでないのに。
僕はショックだった。ここ数年、SEXをしていなく、自慰行為もほとんどしていない。
なのにもかかわらず、瑞穂を抱いているにもかかわらず、立たなかった。
「アレだったら、口でしてあげるね」
そう言ってベットの中に潜っていく瑞穂。そして僕の下半身をまさぐり始めた。
次の瞬間、僕は思いっきり瑞穂を跳ね除けていた。
「・・・」
「やっぱ、帰ろう」
僕はベットから出て、服を着た。
ホテルを出ると瑞穂は何も言わず、僕のソバから走り去って行った。
821Mr.名無しさん:2006/02/12(日) 21:34:08
描写(゚д゚)ウマー
822Mr.名無しさん:2006/02/12(日) 22:20:48
  _  ∩
( ゚∀゚)彡 うP!うP!
 ⊂彡

823Mr.名無しさん:2006/02/12(日) 23:32:47
単なるツンデレ小説じゃなくなってるΣ(゚д゚ )
いいな。GJ
824Mr.名無しさん:2006/02/13(月) 09:33:46
>>808
ひょっとして、初代1か?

ど、どこほっつき歩いてたのよ、バカ!心配させないでよ……
825Mr.名無しさん:2006/02/13(月) 20:38:08
誰かコレ、電車の時みてーにまとめてくんねぇかなぁ、、、
826Mr.名無しさん:2006/02/13(月) 21:08:27
最近ageるヤツ多いな

ここは絶対sageスレだ
>>1を見ろ
827枯れない花  第7話:2006/02/14(火) 20:12:09
>>820
瑞穂と別れた後、僕は一人で居酒屋に入った。
飲めない日本酒を冷で飲んだ。何本飲んだか覚えてないぐらいに・・・
気が付くと僕はタクシーで自宅に戻っていた。

腕時計を見ると既に3時になろうとしていた。
静かに玄関を開け、靴を脱いでるとリビングから美弥が現れた。
「まだ起きてたのか、子供はさっさと寝ろ!!」
美弥に当たるなんて最低の事だとは分かっていた。
でも、美弥に当たらないと何かやりきれない気持ちで一杯だった。
そんな僕を軽蔑するかの様な眼差しで僕を静かに見つめ美弥が口を開く。
「あの人と一緒だったんでしょ?」
「だったらなんだよ?オマエに関係あんのか?」
「関係ないけど・・こんな時間に帰ってくるぐらいだからフられたの?」
「それも関係ねーだろ?」
「情けないわね、女にフられて、酒に酔って、挙句の果てに妹に八つ当たり?」
「なんだと?!」
カッとなった僕は思わず美弥の胸ぐらを掴む。
そして美弥の体を壁に押し当てた。
「・・・く、苦しいよ・・・」
搾り出すような美弥の声に僕は我にかえる。
「ご、ごめん・・・」
軽く咳をした後、美弥は僕にこう言った。
「最近、兄貴の様子が変だから、ちょっと心配・・・」
こんな遅くまで起きてたのは、僕の事が心配だったから。
美弥の優しさに気付いた僕は黙って美弥を強く抱きしめた。
「な、何?」
828枯れない花  第7話:2006/02/14(火) 20:13:01
「ちょ、ちょっと、苦しいよ・・・」
美弥の言葉が耳に届いてはいたが、抱きしめる腕の力はますます増していった。
目を開けると目の前には美弥の首筋が・・・
次の瞬間、僕は吸い寄せられるように美弥の首筋にキスをしていた。
「あっ・・・」
美弥が漏らす吐息に僕は異常なまでに興奮し、首筋に下をはわす。
「や・・んっ・・・や、やめ、、てってば・・・」
「美弥・・・」
僕は右手を美弥の腰にあて、その腰を僕の下半身へ引き寄せる。
密着した下半身に血液が流れ出す。
僕の下半身が最高潮に達した・・・その時、美弥はありったけの力で
僕を突き飛ばした。
「い、いいかげんにしてよ!!!」
床に叩きつけられた僕を上からにらみつける美弥。
「い、い、妹に発情するなんて・・・兄貴の変態!!!!」
顔を真っ赤にし、美弥は自分の部屋へ駆け込んで行った。
「変態か・・・」
恋人の裸には反応しなくて、実の妹に反応する僕の身体。
美弥の言うとおり、変態以外の何者でもないんだな、と
僕はそう心で思いながら玄関先で眠りについていった。
829枯れない花  第7話:2006/02/14(火) 20:13:58
「頭いて・・・・」
いままで経験した事のない二日酔いで目覚める。
日本酒はもう飲むのやめようと思った。
「あれ・・・」
僕の体には僕のベットに置いてあるはずの毛布が掛けられていた。
掛けてくれる人と言えば・・・美弥しかいない。
あんな事をした僕に美弥は僕の体を気遣い、毛布を掛けてくれた・・・
僕はこの時、はっきり意識した。
美弥の事を好きになってしまった。実の妹を。
どう考えても許される事ではないけど、理屈じゃない。
僕は今後、どのように美弥と接して行くべきか。

数分、僕はその場で考えていた。
「考えてもすぐ答えは出ないだろうな・・・」
とりあえず、夜の事を謝ろうと思い美弥の部屋へ行く。
2回ほどノックをしたが返事はなかった。
そっと部屋を開けてみたが、そこに美弥はいなかった。
「んじゃリビングか」
リビングのドアを開け、辺りを見渡すがそこ美弥はいなかった。
「出かけてるのか?」
ふとテーブルの上を見ると、おかゆらしきものが入った鍋と手紙が置いてあった。
手紙にはこう書かれていた。
830Mr.名無しさん:2006/02/14(火) 20:19:28
コーフンしる(´Д`)ハァハァ
831Mr.名無しさん:2006/02/14(火) 21:05:07
こ、ここで切るなんて…
832Mr.名無しさん:2006/02/14(火) 21:52:10
(*´Д`)ハァハァ/lァ/lァ/ヽァ/ヽァ ノ \ア ノ \ア / \ ア / \ ア
 お、お兄さん、手紙には何て書いてあったんだい?
833Mr.名無しさん:2006/02/14(火) 22:08:50
じ、焦らさないでくれええええええ
834枯れない花  美弥中学生編:2006/02/14(火) 22:56:36
もうすぐバレンタイン。私は弥生の買い物に付き合っていた。
「ねえ、美弥って好きな人いるの?」
「な、なによ、いきなり」
「小学校からずっと美弥の事見てきてるけどさ、誰かにもチョコあげた事ないじゃん」
「・・やっぱりおかしい?」
私は自分でも疑問に思っていた。
弥生はもちろん、クラスメイトは男子の話で盛り上がったりしている。
でも、私はそういう類の話に加わる事が出来なかった。
「愛子達は美弥ってもしかしたレズなんじゃない?とか言ってるし」
「私がレズだったら弥生が無事な訳ないじゃん」
「それもそうね・・」
「本当に好きな人っていないの?」
改めて弥生に聞かれ、私って誰か好きな人っているのかなっと思ってると・・
パッとお兄ちゃんの顔が浮かんできた。
 (えっ、、、な、何でお兄ちゃんを思い出すの・・・・)
「どうしたの?」
「え、な、何が?」
「顔、真っ赤だよ?」
「そ、そんな事ないって、か、からかわないでよ!」
私の顔を覗き込み、キラキラした目で弥生が聞いてくる。
「あー、いるんだ!好きな人いるんだー!!」
「そ、そんなんじゃない!!そんな人いないって」

家に帰って自分の部屋でゴロゴロしている。
机の上に置いてあるお兄ちゃんと二人で撮った写真を眺めていた。
「私・・・お兄ちゃん・・・の事・・」
私はその写真をギュっと抱きしめた。

その日から、私は自分の気持ちを隠すため、お兄ちゃんの事を”兄貴”と呼ぶようになった・・・
835Mr.名無しさん:2006/02/14(火) 23:52:00
兄貴キタ━━━(;´Д`);´Д`);´Д`);´Д`);´Д`)━━━━!!!
836Mr.名無しさん:2006/02/15(水) 10:04:40
これは久々の良作の予感
的は保守
837Mr.名無しさん:2006/02/15(水) 10:56:30
おまいらVIPの方は見てる? 俺はちょっと速度が速くてついていけんのでこっちだけなんだけど、あっちも良作あるんかのう…。
838Mr.名無しさん:2006/02/15(水) 12:36:19
俺はどっちも見てる

VIPは未来アンカ参加型でおもしろおかしくで
面白い
シリーズ物になればまとめもあるし

こっちはまったり、かつ、受け身でほとんどがロムだろ

まぁ、あれだ、面白ければどっちでもいい
839枯れない花  第8話:2006/02/15(水) 21:14:25
>>829
美弥の手紙にはこう書いてあった。

  よっぱらいへ

   どうせ気持ち悪いんだろから
   おかゆにしておいたね
   ちゃんと温めてから食べるように

   それと、ひどい事言ってごめんなさい
   でも、いきなりあんな事されたら誰だって驚くって

   私にも心の準 =======

二日酔いの僕の体を気遣っておかゆを用意してくれた事が嬉しかった。
それより、気になったのは最後の文だった。
手紙は 心の準 で止まっていて、続きの文章はペンで塗りつぶされていた。
でも、ここまで書いていれば続きな何か容易に推測出来る。
「まさか・・そんなはずは・・・・」
僕の心は ”何か” に期待する思いと、そんなはずはないという思いが錯綜していた。
あれこれ頭の中で思いがループしていると、急に空腹感を強烈に感じた。
「ありがたくいただくか」
おかゆを温め、スプーン大盛りの量を口に運ぶ。
「・・・・・っ!!!!!!!!!!!」
そのおかゆは、信じられないくらいしょっぱかった。
慌ててコップに入った麦茶を飲み干す。
後で気が付いたが手紙の裏にはこう書かれていた。

   そのおかゆは妹を襲おうとした罰だから!
   反省しなさい!!
840枯れない花  第8話:2006/02/15(水) 21:15:18
僕は昼過ぎまで、ただボーっとしていた。
今、何かを考えてもしょうがない。美弥が帰ってきたらちゃんと話そう。
僕の思い、そして、美弥の気持ちをちゃんと聞きたかった。
美弥が帰ってくるまでの時間が、永遠のように感じ、でも、
期待に溢れている時間だった。

15時を過ぎた頃、僕の携帯が鳴った。
この着メロは・・・・
「お疲れ様です。何かありました?」
「今どこにいるんだ?」
電話の主は僕の直属上司だ。
「家にいますけど」
「大至急来てくれ。スーツでな」
そう言うと上司は電話を切る。
休日に電話が掛かってくる時は取引先のシステムに障害が発生した時。
僕が担当している取引先のビルは休日であろうと私服厳禁。
シブシブスーツに着替え、取引先へ向かう準備を始める。
「夜には帰れるだろ。その時、話そう」
革靴を履き、玄関を出て鍵を閉めたとき、僕は何かいいようの無い悪寒を感じた。
言うならば、何かを失うような感覚を・・・・
841枯れない花  第8話:2006/02/15(水) 21:16:04
「じゃあ今から新潟に行ってきて」
「はぁ?」
そう言うと上司は会社名義のクレジットカードを僕に渡す。
「着替えとか無いんですけど・・・」
「カードで落としていいから。ブランド物はダメだぞ」

取引先の障害とは取引先の支店で起きたとの事だった。
導入時に僕も新潟支店へ行った事があるが、まさか対応で行かされるとは。
「どれぐらいかかります?」
「けっこう大きいみたいだから・・・最低3日ぐらいか?」
「そんなにっすか?」
「お前だからまかせられるんだ。よろしく!」
出張に行くのは嫌いではない。むしろ好きな方だけど、
美弥との時間が取れなくなる、かつ、僕にとって大切な時期に家を空けるのは
とてもつらかった。
でも、僕も副主任という中途半端な立場上、断る事も出来なかった。
「行ってきます」
トボトボと歩き出す僕を上司が陽気にからかう。
「カードで女買うなよ」

新潟へ向かう新幹線の中で僕は母親へ電話をした。
急に出張になったから、家に来てくれないかと。
母は快く了解してくれたので美弥が一人で寂しい思いをする事はなくなった。
後は美弥にも連絡したかった、でも、どう切り出せばいいか分からなかった。
前だったら簡単に 出張で帰れない とメールするだけで済んだが、
今の心境では余計な事までメールしそうだった。
結局、僕は美弥にメールする事が出来ないまま、取引先へ着いてしまった。
842枯れない花  第8話:2006/02/15(水) 21:16:59
気が付くと新潟滞在4日・・・
完全に上司にだまされた気分だ。
何が3日で終わるだよ!
システムの基幹に重度な欠落部が見つかり、その対応や対策、今後の方針決定などを
行う羽目になっていた。
責任自体は取引先にあるらしく、向こうはかなりの低姿勢で接してくるので
邪険に出来ない。
僕は一日も早く家に帰り、美弥と話がしたいのに・・・

ホテルに帰り、缶ビールとコンビニの惣菜で夕食を取る。
炊飯ジャーのご飯が恋しくなってきた。
そういえば家の方はどうだろう。
結局、美弥には一度も連絡していないし、美弥からも連絡は来ない。
まぁ、母がいるから久しぶりに女同士で盛り上がってるんだろうとも思っていた。
「ちょっと電話してみるか」
携帯を取り出し、家に電話してみる。
「もしもし」
声の主は母だった。
「悪いね、何か急に来てもらって」
「仕事でしょ?気にしなくていいわよ」
「そっちは変わりない?」
「うーん、あるといえばあるんだけど・・・」
歯切れの悪い母の言葉。何かあったんだろうか?
「何かあるなら教えてよ」
「美弥から口止めされてるんだけど・・・」
美弥が僕に対して口止めしていること、僕は気になってしょうがなかった。
「な、何を?何だよ・・教えてくれって」
あまりに必死にお願いする僕に根負けしたのか、母はゆっくりと話し始めた。
「いや、実は一昨日ね・・・・」
843Mr.名無しさん:2006/02/15(水) 21:29:02
昨日なんなんだよ〜!
俺は今日気になり眠れない(;´д⊂)
844Mr.名無しさん:2006/02/15(水) 21:41:26
>>843
おとといだぞ。
845Mr.名無しさん:2006/02/15(水) 21:42:41
ここで切るのか!くそー!
846Mr.名無しさん:2006/02/15(水) 22:03:00
早く早くぅぅぅぅぅぅ!!!!!
これ以上待てねぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!
847Mr.名無しさん:2006/02/15(水) 22:28:25
>>846
いいからsageろ!
848Mr.名無しさん:2006/02/15(水) 22:30:06
最近、ほんとageるやつ多いな・・・
ちゃんと>>1見れ
849Mr.名無しさん:2006/02/16(木) 00:44:27
  _  ∩
( ゚∀゚)彡 続き!続き!
 ⊂彡

850Mr.名無しさん:2006/02/16(木) 01:01:44
毎回、良いところで切るな〜!ってか、こんなんじゃ生殺しだよ〜(〃´Д`)
851Mr.名無しさん:2006/02/16(木) 03:55:11
>>850
sageない奴は生殺しどころじゃすまさんじょ
852枯れない花  第9話:2006/02/16(木) 20:57:53
>>842
母の話しによると美弥は今、入院しているらしい。
一昨日、体育の授業中に強烈な頭痛に襲われ、保健室で休んでいたが
どうにも痛みがとれず、救急車で病院へ搬送された。
担当医からはそんなに大げさな事じゃないと思うけど
箇所が箇所だから一応詳しく検査しましょう、
との事で検査を受けているらしい。
「かあさんも担当医の人からそんなに心配しなくていいって聞いてるから」
「そう・・・でも、なんで美弥は俺に口止めをしたんかな?」
「仕事で頑張ってるアンタに、無駄な心配かけたくないって言ってたけど」
「・・・・」
母の言葉に胸が詰まる。
自分が入院してるのにもかかわらず、僕の事を考えてくれる美弥の気持ちに
胸が押しつぶされそうになった。
「まぁ、美弥の事はかあさんに任せて、アンタは仕事頑張りなさい」
「分かった。そっちは任せたから」
そう言って電話を切る。
飲みかけの缶ビールを飲み干し、僕は持ち帰った仕事に取り掛かった。

次の日から僕は急ピッチで仕事をこなした。ミーティングも以前なら無駄話を
交えながらだったが、一切、それらを省く。明瞭簡潔な進捗で物を進める。
資料作成も無駄な言い回しを使わず、全てをストレートに明記。
気が付けば、週明けにならないと終わらない仕事量が週末に終わらせる事が出来た。
853枯れない花  第9話:2006/02/16(木) 20:59:00
僕は金曜の夜行列車に乗り込んでいた。
明日の始発で帰ってもさほど時間は変わらないのだが、
1秒でも早く美弥に会いたかった。
寝台ベットに寝転び、ガタンゴトンと耳障りな子守唄の中、それだけを考えていた。

駅に付いた。時間は朝の6時30分を少し過ぎた所。
ちょっと早いけど病院に向かうか。
あれ?病院ってどこの病院だ?そういえば聞いてなかった・・・
母に聞こうと家へ電話をするが母は出なかった。
「しょうがない、一度家に戻るか」
こうして僕は6日振りとなる我が家へと帰ることにした。

「ただいま」
リビングへ向かうがそこに母の姿は無かった。
「自分達の部屋か?」
両親の部屋をノックするが返事はない。中を覗いてみたが誰もいない。
「どこいったんだ?まさかと父さんのトコ戻ってるのとか?」
仕方無しに父のトコロへ電話をかけるが、こっちも出ない。
時計は朝7時30分を過ぎていた。ちょっと早い時間だとしても
誰にも連絡が取れないなんて・・・・

それから僕はリビングで2時間程時間を過ごしていた。
出張に行く前に感じた嫌な予感が思い出されてきた。
何か大切な物を失うんじゃないかという、言いようの無い悪寒が・・・・
「馬鹿な事考えるのはよせ!!!」
大声を出し、自分に言い聞かせる。

それから少しして、僕の携帯が静かに鳴り響いた。
854枯れない花  第9話:2006/02/16(木) 21:00:09
「運転手さん、もっとスピード出してください!!」
「お客さん、勘弁して下さいよ。これで精一杯ですって」

膝の上で組まれた僕の手は小刻みに震えている。
その手を時には唇に、時には額に当て、体の震えを抑えていた。
気が付くと左手の親指のツメが半分欠けていた。無意識に噛んでいたようだ。
ひとつひとつの信号がもどかしい。
何故、人間は空を飛べないのか、そんな事まで考えていた。

病院のロータリーに車が止まる。僕は料金も見ず、1万円を運転手に渡す。
「大きいのだとちょっとお釣りが・・・」
「いらないから、早く開けてくれ!」
「そうですか?有難く頂きます」
初老の運転手は申し訳なさそうに僕にお礼を言う。
それよりも早くこのドアを開けてくれ!!
僕は心の中で叫んでだ。

「病院の中は走らないで下さい!」
注意を促す看護婦の声を無視し、僕は階段を駆け上がる。
だだっ広い渡り廊下に置かれた無機質な長イスに、父と母の姿があった。
「久しぶりだな・・・まさかこんなトコロで会うなんてな」
久しぶりに会う父さんはやつれた表情をしたいる。
そして、その声にハリがない。
こんな父さんの声を僕は生まれて初めて聞いた。
「美弥・・・・美弥は!!!!」
小さく言ったつもりの言葉は叫び声に近かった。
そんな僕の頭をそっと両手で母は包み込む。
「今からかあさんが言う事、ちゃんと聞くんだよ・・・」
僕の全神経は母の言葉に集中していった。
855枯れない花  美弥中学生編2:2006/02/16(木) 21:03:03
>>834
結局、私は弥生にそそのかされ、バレンタイン用のチョコを2つ買った。
ひとつはいつもあげているお父さん分。
そして、もうひとつは・・・・

「ねえ、美弥はお父さんにあげるチョコ買ってあるの?」
「恒例行事みたいな物だしね」
「母さんも今年は奮発したの。なんだっけなー、ゴバ何とかってやつよ」
「うっそ!!ゴディバでしょ?私食べたい!!!」
「ダーメ、父さんにあげるのだから」
「えー、ケチー!!!」

夕食後、私はお父さんに買ってきたチョコを渡す。
「美弥も年頃なんだし、父さん以外に渡す相手はいないのか?」
お父さんの言葉の後、私はチラっとテレビを見ているお兄ちゃんの方を見た。
「そんな人いたらお父さん、怒るんじゃない?」
「お、俺はそんなに心は狭くないぞ」
慌ててお茶を飲むお父さんが少し可愛く見えた。
「ね、ねえ、お兄ちゃんはどうだったの?」
「何がだ?」
「とぼけるトコロを見ると、貰えなかったんでしょ」
「ふっふ、これを見てもそんな事が言えるか?」
リビングに置いてある自分のカバンからチョコを5つお兄ちゃんは取り出し、
私に見せびらかした。
856枯れない花  美弥中学生編2:2006/02/16(木) 21:04:33
私は不愉快になった。何も見せびらかせなくても・・・
「ど、どうせ全部義理なんでしょ?!」
「ああ、4つはな」
「・・・・」
という事は1つは本命のチョコって事なんだ。
言いがたい気持ちが私の胸を締め付ける。
「美弥もあげる相手が父さんしかいないのはヤバイんじゃねーか?」
「う、うるさい!!わ、私だって本命チョコあげたもん!!!」
「へー、それはそれは。ごちそうさま」
軽くあしらうお兄ちゃん。
「い、いるのか?そんな相手が!!」
お茶を吹き出し、狼狽するお父さん。
「何だったら貰ってやってもいいぞ。お兄ちゃん大好き!って言ってくれたらな」
笑いながら私をからかうお兄ちゃん。
「で、ほ、本当にいるのか?そ、そんな相手・・・」
お父さんはキョロキョロ視線が定まっていない。
「お兄ちゃんのバカ!!知らない!!!!」
私は顔を真っ赤にし、自分の部屋へ戻った。

部屋に戻りお兄ちゃんにあげる為に買ってきたチョコを見つめる。
「・・・いるんだ。お兄ちゃんの事好きな人・・・」
クッションに顔を埋め、泣きたい気持ちを必死に私は堪えた。

翌日、お兄ちゃん用のチョコを鍋で溶かし、ホットチョコレートドリンクを作った。
誰もいないリビングで、お兄ちゃんへの思いを封印するように、
少しずつ、少しずつ、飲みほしていった。
857Mr.名無しさん:2006/02/16(木) 21:28:11
なんだこの重い展開は!?
鬱エンドか!?
858Mr.名無しさん:2006/02/16(木) 21:59:38
イイヨイイヨー(・∀・)
859Mr.名無しさん:2006/02/17(金) 00:00:07
ほ…本編マジ気になる…

>>851 ゴメンよ
860Mr.名無しさん:2006/02/17(金) 01:05:34
クオリティの高さに書籍化しそうだ(*´д`*)
861枯れない花  第10話:2006/02/17(金) 19:10:47
>>854
母さんの話を僕は途中から、まるで他人事のように聞いていた。
そんなバカな話がある訳ない、自分に言い聞かせる。
渡り廊下の向こうから、白衣を着た一人の男性がこちらに向かってくる。
彼は僕等の前で立ち止まった。
「こちらが美弥の担当の先生よ」
「ご両親から聞いただろうけど、身内としてしっかり気を持って」
「ほ、本当なんですか・・・」
僕は弱弱しい声で確認する。
先生は黙ってうなずいた。

案内された病室のドアに手をかける。
あれほど会いたかった美弥が、このドアの向こうにいるのに僕はドアを
開けるのを躊躇した。
どんな顔で会えばいいのだろう。
こぼれそうな涙をグッとこらえ、僕は美弥がいるドアを静かに開ける。

「な、何だよ・・・これ・・・」
僕の目の前にはベットに横たわる美弥の姿があった。
左腕には点滴がさされ、鼻にもチューブがさされていた。
ベット脇に置いてある何かの計測器が無機質に数値を上下させている。
呆然と見つめる僕の横で先生が、それらの機器が何の目的なのかを
詳しく説明してくれていたが、僕の耳にはほとんど届かなかった。
「今の医学では、悪化させないようにする事しか出来ません」
その言葉だけが僕の耳から離れなかった。
862枯れない花  第10話:2006/02/17(金) 19:12:23
検査で疲れてたのだろう。昼過ぎになって、ようやく美弥が目を覚ました。
「美弥・・・」
僕は出来るだけ優しく、声をかける。
「・・・な、何でいるの・・・・」
精気のない声が僕の涙腺を刺激する。舌を口の中で噛み、涙をこらえた。
「仕事が終わったからさ」
「そう・・」
「気分はどうだ?」
僕が問いかけると美弥は顔を反対方向にそらす。
「・・・・・最悪・・・」
「ど、どこか痛いのか?」
「・・・こんな姿・・見られたくなかった・・・」
「えっ?だ、誰に?」
「兄貴に・・兄貴にだけは見られたくなかった・・・」
それから美弥は一言も発せず、泣き声を上げるのをずっとこらえていた。

翌日、僕は病院に行く前に花屋に寄った。
美弥の病室にはまだ花がなく、あまりにも無機質だったので何か買っていこうと思った。
店の人に進められるがままに数色のスミレを購入した。

「花買って来たぞ」
「別にいいのに。そんなの」
「いや、これがないと病人っぽくないだろ?」
僕は勤めていつも通り、いや、いつも以上におちゃらける事にした。
「どうだ、綺麗だろ?」
「スミレ・・だよね?」
「そうだけど?」
863枯れない花  第10話:2006/02/17(金) 19:13:32
「兄貴が自分で選んだの?」
「当然じゃん、美弥に似合うのは何か真剣に考えたんだぞ」
本当は店の人に勧められるがままなんだけど。
「そ、そうなんだ・・兄貴が選んだんだ・・・」
美弥は、紫色のスミレを軽くなでる。
「気に入らなかったか?」
「あ、兄貴にしては合格かな?」
そう言う美弥、どこか嬉しそうだった。
「やっぱ女の子って、花貰うと嬉しいのか?」
一瞬にして美弥の表情が曇る。
「・・本当は兄貴が選んだんじゃないでしょ?」
「えっ、あ、そ、その・・・」
「このバカ!期待した私がバカみたいじゃない・・・」
「ご、ゴメンな・・・」
訳も分からず謝る僕。美弥は何を期待したんだろう・・・

月曜日の朝、僕は会社に出社し出張の報告書をまとめた。
午後イチで上司に提出し、そしてその場で残っている有給休暇の取得を願い出た。
最初はもちろん却下されたが、事情を説明し何とか2週間は休める事になった。

それから僕は毎日、朝から晩まで美弥のソバにいる事にした。
何日か経つと、看護婦さんとも顔見知りになり、面会時間が過ぎて
病室にいても何も言われなくなった。
美弥が寝付くまでソバにいて、寝付いたら帰るようにしている。
寝顔を見ながら、僕は心の中でつぶやいた。
 「いつか、、、いつか、この目が開かなくなる日が来るのか・・」

ある日の夜、いつもの様に他愛もない話をしていると、急に美弥が黙り込んでしまった。
「どうした?気分でも悪いのか?」
864枯れない花  第10話:2006/02/17(金) 19:15:03
「私は、みんなが当たり前に経験する事を、経験出来ないんだよね」
「きっと、これから起きる事を知らないままなんだよね」
美弥は自分の身体の事を察知している・・・僕はどう答えるべきか?
「そ、そんな事ないって、何馬鹿な事言ってんだよ?」
「いいよ、励ましてくれなくても。分かってるから」
僕はほっぺの内側を奥歯でギューっと強くかみ締める。泣いたらダメだ!!
「女の子だし、やっぱ恋愛してみたかったな・・・」
「・・・恋愛?」
「そう、、手をつないで遊園地に行ったり、買い物したり・・・」
「こ、公園とかは?」
「公園もいいね、ベンチに並んで座って・・・」
「ハトに餌やるとか?」
「黙っててよ」
「すみません・・・」
「それで、夕方になって、夜になって・・・」
「・・・・」
「そっと、私を抱き寄せてくれて・・・キス・・してくれたりして・・・」
僕は美弥の言葉をじっと聞いていた。
「キスってどんな感じなんだろうね・・・・」
気が付くと僕は身を乗り出し、美弥にキスをした。お互いの唇が触れるか触れてないかのキスを。
「だ、誰も、キ、キキ、、キスし、して何て・・言ってないでしょ!!!」
美弥は顔を真っ赤にしてそう言う。僕は黙って美弥を見つめていた。
「で、でも、、た、大した事な、ないのね、、キスって」
「そ、そうか・・・」
「で、でも、、兄貴・・お、お兄ちゃんがもう一回したいって言うんならしてもいいよ・・・」
僕はその言葉に吸い寄せられ、さっきよりも長く、深いキスをした。

美弥は寝る前に僕に教えてくれた。
紫色のスミレの花言葉、、、、それは  ”ひそかな愛”  だった・・・・・・
865Mr.名無しさん:2006/02/17(金) 19:23:24
死んじゃらめぇ
866Mr.名無しさん:2006/02/17(金) 19:24:23
近親なのに美しすぎるな・・
作者すげーよ作者
867Mr.名無しさん:2006/02/17(金) 19:26:31
永久保存版だ
868枯れない花  作者の独り言:2006/02/17(金) 19:27:51
次が最終回っす


書き始めた当初はエンディングがまったく違う物だった
気づいてるだろうけど”兄”だけ名前がない
最終回で明かそうとしてた。名前は 新沢 基栄 って名前で。
当然、オチは夢オチだったんだけど・・・・

途中でハァハァチックいれたり、ツンデレ少ねーなっと思って
特別編とか書き出して、そこまでして夢オチでしたー!だったら俺叩かれると
身の危険を感じて書き直してみた

最終回投下したらひっそりと名無しに戻るんで。
読んでくれてトンクス
最後、つまんなかったら・・・俺の文才がなかったと思ってくれ

 
869Mr.名無しさん:2006/02/17(金) 19:30:03
期待してるぞ
870Mr.名無しさん:2006/02/17(金) 19:41:26
>気づいてるだろうけど”兄”だけ名前がない

すみません、物語に入り込んでてまったく気づきませんでしたorz
871Mr.名無しさん:2006/02/17(金) 19:42:02
お前に文才がない訳がねーよ
最終回、頑張ってくれ
872Mr.名無しさん:2006/02/17(金) 19:48:36
>>作者 充分に文才あっぞー
873Mr.名無しさん:2006/02/17(金) 19:59:36
美弥が妊娠したっていう展開を予想してた俺は、大きく裏切られた
874枯れない花  最終回:2006/02/17(金) 22:09:18
>>864
ある日の夕方、美弥が子供の頃の話しを始めた。
「お兄ちゃん、私に教えてくれたよね?」
「何をだ?」
「ジョンが死んじゃった時、ジョンはどこいっちゃうのって私が聞いたらさ」
ジョンというのは家で昔飼っていた犬の事。
散歩中、スキを見て逃走し、幹線道路ではねられて死んでしまった。
「何て言ったっけ?覚えてないや」
「ひっどい!!適当に答えたの?」
「すみません・・・」
「動物も人間も、星になるんだよって言ったんだよ?」
「あ、ああ、そんな事言ったっけな」
「・・・だからね・・・・」
「何だ?」
「私も・・星になって、お兄ちゃんの事、ずっと見てるから・・・」
僕は涙をこらえる事が出来なかった。
泣いているトコロを美弥に見られたくなかったので慌てて美弥に背を向ける。
「お、俺、花瓶の水取り替えてくるよ」
席を立ち、急いでドアを開ける。
「私は・・・お兄ちゃんの事が・・好き・・・ずっと前から・・大好きだったよ・・」
美弥の告白に、涙が溢れ出てくる。
俺も美弥が好きだ と答えたかったが、言葉にする事が出来ず、ドアを閉めた。
875枯れない花  最終回:2006/02/17(金) 22:10:59
花瓶の水を入れ替えた後、真っ赤になった目元を隠す為、顔を洗っていた。
「はは、、、バレバレだ、かっこ悪ぃな」
廊下を歩きながら僕は自分の気持ちを美弥に伝えようと決心していた。
残り少ない美弥の時間を、僕も一緒に過ごす為に。




病室が視界に入る曲がり角を曲がると、看護婦さんが数人慌しく走り去っていた。
何かあったんだろうか・・・・
1つの病室のドアが開きっ放しになっている。
その病室は、美弥の病室だった。
急いで病室の前まで行くと、そこに美弥の姿はなかった。

ガシャーン!!

花瓶の割れる音が部屋中に響いていった・・・・・
876枯れない花  最終回:2006/02/17(金) 22:12:22
数年後・・・・

僕は会社を辞め、とある天文台で働いていた。
会社を辞める事に両親は反対しなかった。
一度きりの人生なんだから、やりたい事を好きなときにやりなさい、と言ってくれた。

ある日、英語で書かれた1枚のFAXを僕は見ていた。
それは新しい星を見つけ、その星の名前が正式に承認された書類だった。
「よかったな」
「ありがとうございます」
「でも何でその名前にしたの?」
「僕の大切な人の名前なので」
「そうか、で、その人には教えたの?」
「今、伝えました」
僕の机の上に置かれた紫色のスミレを見ながら僕は答えた。

夜、僕は自分が見つけた”MIYA”を見上げていた。
手には紫色のスミレを持っている。
「ごめんな、、見つけるの遅くなって」
スミレをかざしながらそうつぶやくと、”MIYA”は数回、
キラキラと光ったように見える。
きっと僕にこう言ったんだろうな。

「見つけるのが遅いわよ!!でも・・・見つけてくれて、ありがとう・・・」


 〜 完 〜
877Mr.名無しさん:2006/02/17(金) 22:15:49
泣いた(つД`)
878Mr.名無しさん:2006/02/17(金) 22:19:58
うわぁん
879Mr.名無しさん:2006/02/17(金) 22:21:40
。・゚・(ノД`)・゚・。
880Mr.名無しさん:2006/02/17(金) 22:24:20
gj…あれ?なんか目から汗が…
881Mr.名無しさん:2006/02/18(土) 01:16:26
泣けた…切ねぇ…
882Mr.名無しさん:2006/02/18(土) 13:38:19
エロい展開を期待していた俺を許してくれ(ノД`)。゚
883Mr.名無しさん:2006/02/18(土) 21:33:35
全米が泣いた。・゚・(ノД`)・゚・。
884Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/18(土) 23:45:07
>>876
お疲れ様でした。感動しました。物書き(?)として尊敬します、マジで

さてと、自分の役割を発見
俺はあんまりツンデレ分が高いものがかけないということが判明したので、作品と作品の合間に時間つぶしとして作品を投下させていただきます
つーか、普通にただの恋愛小説みたくなってるしorz
ということで、合間である今に前回の続き投下
では、>>748の続きは次のレスからです
885Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/18(土) 23:45:58
 夏の夜は、虫の鳴き声が聞こえてくるのに、不思議と静かに感じる。
 聞こえてくるのは風の音、虫の鳴き声。……それと、円香さんの寝息だけだった。


  Life life  七話


 部屋に到着してすぐ、円香さんは寝入ってしまった。
 随分疲れていたのだろう。
「さってと……彼方に電話してやらないとな……」
 受け取ったメモ帳を片手に、古ぼけた電話のダイヤルをプッシュする。
 えっと……090……1234……5678って、覚えやすい番号だな……。
 受話器を耳に当て、呼び出し音が
『はいもしもしっ!』
 ……始まる前に、受話器の向こう側から彼方の声が聞こえてきた。
「はや……。俺だけど、わかる?」
『あ、はい。瀬川さんですよね?』
「うん。とりあえず、この番号にかけてくれれば出ると思うから。なんか思い出したりとか、思いついたりとかしたら電話よろしく」
『はい、わかりました』
「んじゃ、電話切るね」
 そう言って顔から受話器を離そうとすると
『ちょ、ちょっと待ってください!』
 と、彼方の声が聞こえた。
「ん? なんかあったのか」
『そ、そういうわけじゃないんですけど……あの、もし暇だったらでいいんですけど、お話しませんか?』
 受話器の向こう側で、彼方がどんな顔をしているのかが容易に想像できた。
「ん、いいよ」
 頑張った彼方にご褒美……といったらなんか偉そうだけど、気分はそんな感じだった。
886Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/18(土) 23:46:53
 結局、一時間以上電話をしていた。
 通話代が少々心配だが、楽しかったしまぁいいか。
(志紀、なにあんたニヤニヤしてんのよ?)
 受話器を置いて一呼吸ついていると、背後から円香さんの声が聞こえた。
 慌てて振り返ると、円香さんがじと目でこちらを見つめている。
「お、起きてたのか?」
(まぁね、ちょっと前からだけど。相手は彼方?)
「……じゃなかったら誰だと思うんだ?」
(架空請求とか、マルチ商法とか)
「友達って選択は無いんだな……」
 いやまあ、友達なんていないんだけど。
(で、どうよ? 私の妹は)
「んー? いや、いい娘なんじゃないか?」
(それは、男の目線からして?)
「さあ……よくわかんねぇな。でも、好感は持てると思う」
 可愛いし、ちょっと地味だけどそれはそれで可愛いし……じゃなくて。
「あのさぁ、円香さん。別に俺は彼方とどうこうしようとか考えてないぞ?」
(あれ、そうなの? 電話してる時すごく楽しそうだったから、てっきり惚れたのかなぁって思ってたんだけど)
「ものすごいストレートな勘違いだな……。そういや、彼方といえば」
(ん? 何さ)
 今日彼方から聞かされたことについて聞いてみよう。
 まったく円香さんから聞かされていなかったから驚きもあったし、興味本位からかもしれないのだが……もっと細かい詳細を知りたいと思った。
「円香さんと彼方って、本当の姉妹じゃないんだって?」
(え? あ、うん。彼方から聞いたの?)
「まぁ、な。彼方の両親って、今どうしてるんだ?」
(んーと……彼方には聞いたの?)
「ああ。確か、出所した後博打で負けて、借金負って夜逃げしたって言ってたな」
(それ、彼方が言ってたの!?)
「あ、ああ……」
 驚いたような声と表情だった。
887Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/18(土) 23:47:39
 事実は違うのだろうか。そして、その事実を円香さんは知っているのだろう。
(これから言うこと、彼方には言わないでね?)
「そりゃ、口止めされれば言わないけど……」
(約束だよ?)
「わかったよ、言わないから言ってみろって」
 そう返すと、円香さんは少しだけ小さく深呼吸をして
(彼方のご両親はね、出所した後ちゃんと働いてる。なんだったかな……確か接客業だったかな)
「賭博で負けてってのは、彼方の勘違いなのか?」
(うん、間違いじゃないよ。実はね、彼方を家で引き取ったあと、あっちのお父さんと手紙のやりとりをしていたの)
「手紙?」
(彼方には内緒にしてるんだけどね。折を見て話そうって思ってたんだけど、結局話せないで終わっちゃったね)
 手紙のやりとりかぁ……。
 円香さんの未練がどうのこうのってことはないだろうけど、個人的に気になる。
「相手から来た手紙って、どんな感じの内容だった?」
(んー、もう何年も前のことだからなぁ……。彼方の様子はどうですかとか、迷惑かけてないですかとか)
「そうなんか? 彼方から聞いた感じだと、そんなこと聞いてくるような親じゃなかったのに」
 やはり、本人の記憶と実際の事柄は違ってくるのかもしれない。
 ましてや子供の記憶だ。自分の都合がよくなるように書き換えられていてもおかしくはない。
「その手紙さ、まだ残ってる?」
 個人的に気になって仕方が無い。
(私の部屋がそのままになってれば、たぶんある場所もわかると思うけど……なんでそんなの見たいのよ?)
「え? なんでだろうな」
 自分でもよくわからない。
 個人的に気になると言っても、やっぱり根本には何かの理由があるんだろう。
 その理由は……なんなんだ?
 ただ単に興味本位って言えばそうなんだけど、それだけじゃないような気がする。
888Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/18(土) 23:48:32
 こう、なんて言い表せばいいんだろうか。
 心の奥からギリギリのところに押し出されて、わかるような気がするのだけれどもわからない。
 なんか、不思議な感じだ。今までで一度も感じたことがない気持ちが、ユラユラと俺の中で揺らめいている。
 でも、それが何かわからない。
 不思議な感情が、俺の中に存在している。それだけで、なぜか焦燥感のようなものがこみ上げてくる。
(まぁ、別に見せるくらいならいいんだけど。明日私の家行ってみる?)
「そうだな……どうせだし、一回行ってみるか。円香さんの両親とも会ってみたいし」
 彼方以上の情報が手に入れることが出来るかどうかは微妙なところだが、行って損は無いだろう。
「じゃ、いきなり押し入るのもよくないだろうから、彼方に電話入れとくか……」
 さっき電話を切ったばかりだが、時計を見る限りまだ起きているだろう。
 先ほど押したダイヤルを再び押しなおす。
 コール音が聞こえ始め、3コール目の途中くらいで受話器の向こう側から
『も、もしもしっ!』
 と、慌てたような声が聞こえる。
「あ、俺だけど。電話して大丈夫だった?」
『大丈夫です。あの、ちょっとお風呂に……』
「風呂だったんか……ごめんごめん」
 風呂か……で、慌てて出たってことは……今は寝巻きか……裸?
(今よからぬことを想像したでしょ)
「うぇっ!? そ、そんなこと考えてるわけねぇって!」
 ごめん、思い切り想像してた。
『な、何がですか?』
 受話器の向こうから、困惑気味な声が聞こえてきた。
「ご、ごめん、こっちの話。それで用事なんだけど、明日は暇だったりする?」
『はぁ……。えっと、明日は暇ですけど、何かするんですか?』
「彼方の家、行っても大丈夫か?」
『私の家ですか……大丈夫で……え、私の家!?』
 明らかに声のボリュームが大きくなる。
889Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/18(土) 23:49:16
「そうだけど。無理?」
『い、いえいえ、大丈夫でっ!?』
 ……噛んだな……。
「大丈夫? 舌から血が出てない?」
『ら、らいじょうぶでしゅ……』
「あー、そっか。まあとりあえず、明日昼ちょっとすぎたくらいに行くから」
『は、はい。迎えはいりますか?』
「こっちには円香さんがいるんだよ?」
『そうですね、そういえば。わかりました、おめかしして待ってます』
「はーいよ、俺もおめかしして行きますわ。またちょっとお話する?」
『あー、すいません……私いつも、そろそろ寝る時間なので……。お風呂から出たままの格好だから寒いですし……』
 風呂から出たままの格好。
 あれ、なんだろう。この魔性の言葉は。
 ぜひカメラでパシャっと撮影して写真を俺の住所に送って……。
(あんた、よからぬこと考えてるわね)
 この人は、俺の心が読めるのだろうか。
 ……もしかして、俺がそんなにわかりやすい顔をしてるのか?
「か、考えてないぞ?」
(嘘ね。鼻の下伸びてるし)
 正解は後者だったらしい。
「……ああ考えたさ。何が悪い、それが男ってやつだ!!」
 と、受話器があることをついつい忘れて円香さんに言い放つ。
『……何を考えたんですか?』
 純真無垢な彼方の声が俺の耳を駆け抜けた。
 ……正直、スマンかった。
890Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/18(土) 23:50:07
 次の日、昼を少し過ぎた頃。俺は円香さんと並んで音羽家のチャイムを鳴らした。
 どたどたと家の中から騒がしい音が聞こえ、すぐに玄関の扉が開く。
「い、いらっしゃいませっ!」
 そう言って出てきたのは彼方。たしかに、昨日よりも気合が入った格好をしている。
 昨日は動きやすさ重視という感じのズボンとTシャツだったのだが、今日は真っ白なワンピース。
 真っ黒な髪の毛とのコントラストが綺麗だった。
 対して俺のほうはというと……おいおい、昨日と大差ないぞ。
「よ、昨日ぶり」
(やっほー、彼方)
「あ、昨日ぶりです、瀬川さん」
(私は?)
「……学ばないやつだな。円香さんの声は聞こえないんだって」
 苦笑がもれる。
(あ、そうだった。失敗失敗)
 今更ながらそれを思い出したらしい。
「で、彼方。今日来た理由なんだけどさ……円香さんの部屋ってそのままになってたりしてる?」
 手紙がどうのこうのというのは彼方に秘密ということになっているので、その辺りはぼかして尋ねることにする。
「はい、片付けるのも面倒だからってことで、二年前からそのままになっていますけど……」
「じゃあさ、悪いんだけど見せてもらっていい? ちょっと調べごとがあるんだ」
「調べごと? 何を調べるんですか」
 ほら来た。やっぱ何をってのは気になるんだな。
「ちょっと当時のアルバムやらなんやら。手がかりも少ないからさ、部屋探せばなんかないかなーって思ったから」
「うーん……昨日の夜にちょっと見てみたんですけど、これと言ってめぼしいものはなかったですよ?」
「あー、そっか……」
 ……って、おい。
(大丈夫。絶対見つからないように、ちゃんと押入れの中に隠してあるはずだから)
 そりゃよかった……。
 彼方に聞かれたくないような内容の時は便利だな。円香さんの声が彼方には聞こえないってのは。
891Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/18(土) 23:50:44
 彼方には申し訳ないけど……。
「まぁ、円香さん本人が見ればなんかわかるかもしれないし。とりあえず、円香さんの部屋連れてってもらえない?」
「はい、それはいいんですけど……」
 どうも歯切れの悪い返事をする彼方をみて、なにか問題があるのだろうかと不安になる。
「なんか問題あり?」
「いえ、そういうわけではないんです。その……折角来たんですし、見たらすぐに帰るってわけではないんですよね?」
「他になんかすることあるのか?」
 うん、別にそれ以外の用事はないよな……。
(あんた、鈍いっ!)
 言いながら鉄拳を俺の頭部にぶつける。まあ、そのまま素通りだが。
「何がだよ?」
(今のはね、折角来たんだからゆっくりしていかないか? って暗に言ってるってことに気付け! 大人しい彼方が頑張ってあんたを誘ったんだから、あんたも誘いに快く乗る、それが男ってもんよっ!))
「……そうなのか?」
「ええっと。何の話かはよくわからないですけど……そうってことにしてください」
 よしわかった。
 彼方は俺とゆっくりするってことをご所望か。
「じゃあ、折角だし円香さんの部屋見た後に遊ぶか。こっちもどうせ暇だし」
 そう言ってやると、彼方はパッと明るい表情を見せた。
 まるで子供みたいだな、と苦笑が漏れる。
「はい、何するか考えておきますね」
「はーいよ」
 ぽんぽんと、彼方の頭を手の平で軽くたたくと
「な、なんですか……?」
 不思議そうに尋ねる。だけどその表情は緩んでいた。
「別に、これと言った意味はないんだけどね」
 言いながら笑い、彼方の案内の元円香さんの部屋へと歩いた。
892Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/18(土) 23:51:54
 案内された先に入ると、いかにも円香さんーといった部屋が……なんて予想通りの展開ではなかった。
「な……これは一体……」
 なんともまぁ、乙女チックな部屋だことで……。
 ピンク系の色で統一された部屋に、本棚の上には所狭しとぬいぐるみ。
 彼方の部屋と間違ったんじゃないのか、これ……。
(し、しまった……忘れてた……)
 声を上げた円香さんを見ると、後悔しているように頭を抱えている。
「なあ円香さん……正直に言って、俺の中で築き上げていた円香さんっていう人間が脆くも崩れ落ちたぞ」
(う、うるさいなぁー! 私にだって可愛いものが好きとかそういう女の子っぽいところだってあるんだからねっ!!)
「……でもなぁ、正直キャラに合わないぞ」
 そんなことはどうでもいいとして、軽く周囲を見渡してみる。
 二年も使われていないのだから埃だらけが普通なのだが、多少の埃はあるものの、概ね現役の部屋という感じの汚れ具合だった。
 というより、むしろ俺の部屋のほうが汚い。
「掃除は彼方が?」
 とすると、やっぱり掃除をする人間がいるんだろう。
 そしてそんな人間なんて、彼方くらいしか思いつかない。
「あ、はい。もしかしたらお姉ちゃんが帰ってくるんじゃないかな……って思って……」
「その『もしかしたら』は、こうやって現実となったわけか」
「そうですね。予想とは違っていましたけど」
893Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/18(土) 23:52:38
 その後、円香さんと二人にさせてくれと頼み、二人で手紙の捜索を始めた。
 まぁ、二人でというより一人で探しているようなものなのだが。
「押入れって言ってたけど……まずその押入れがどこにあるんだ?」
 簡単に見つかるだろうと高を括っていたが、どうやらその兆候はない。
 円香さんが言っていた『押入れ』そのものがないんだから。
(あれ、おかしいなぁ……)
「……ったく、役に立たないやつだ……」
(な、役に立たないってあんたね!? そ、そりゃ私だって、あんたに迷惑ばっかかけて悪いって思ってるわよ……でも、仕方ないでしょ。覚えて、無いんだもん)
 そういった後、しゅんと地面を向いてギュッと手を握った。
「あー、悪かったよ。ごめん、仕方ないよな」
 俺の悪い癖の一つが発動してしまった。
 相手のことを考えず、まず自分の考えを率直に話してしまう。
(……ほんとだよ……取り殺すわよっ!!)
「………………」
 またそれかよ。
894Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/18(土) 23:53:18
 結局、手紙を見つけるまでに三十分ほどかかった。
 ぬいぐるみが並べられている場所の下に、スチールの箱に入れられて放置されていた。
 なるほど、この大量のぬいぐるみをどかす気にはならないから、確かに見つかる可能性は低い場所だ。
 その証拠に、ぬいぐるみだけは埃だらけになっていたわけだし。
 蓋の上を覆っていた埃を窓の向こう側に払いのけ、箱の中を見る。と、確かに数十枚に及ぶ封筒が押し込まれていた。
「じゃあ、見るぞ」
(はいはい、どうぞ)
 日付を見て、過去の物かから順に封筒を開ける。
 音羽円香様
 この度は大変ご迷惑をお掛けしました。心より謝罪申し上げます。
 そんな書き出しから始まり、文面は彼方を心配するような文章だった。
 元気にしているか。自分たちのことがトラウマになってしまっていないか。迷惑はかけていないか。
 そこに見える姿は、間違いなく『親』の言葉だった。
 手紙の所々に見える、円形の滲み。
 そうか……ただ、素直になれなかっただけなのか。
 なんだよ、涙なんか流すくらいならさ……なんで最初から、素直に彼方のことを愛してやれなかったんだ?
「……円香さん。これは、彼方にも見せたほうがいいと思う」
 この手紙を見れば、彼方のトラウマも消え去るかもしれない。
 彼らは彼方のことを憎んでなんていないんだから。
(でもねぇ……いきなりだと驚くかなって思うんだ)
「そりゃたしかにそうだけど……でもこれじゃ、あまりに可哀想だ」
 彼方も。そして、彼方の両親も。
 互いが互いを誤解しあい、互いが互いに素直になれなかった。
 そうしてもたらされたのが、今の歪み。どうしようもなく歪んでしまった、今の形。
 本当はわかり合いたいのに。理解しあいたいのに。それなのに、それをすることが出来ない。
 その悲しみはよくわかる。
 俺だって、親とわかりあえず。理解しあえずに生きてきているんだから。
895Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/18(土) 23:54:50
(……でもさぁ、これを見せて、どうするつもりなのよ)
「俺は、彼方に自分の両親と会ってもらいたいって思ってる。面と向かって、腹を割って話せば、きっと何か変わると思うんだ」
(……どうなんだろうねぇ……。それは、やっぱり彼方自身しかわからないから……。どっちにしても、志紀が言えば会いに行くくらいのことはするかもしれないね)
「俺が?」
(そ。きっと、私が言ってもだめだからね。志紀、あんただけができるんだよ)
 俺だけができる、か……。
 便箋の最後には、住所が書かれていた。
 電車で行けば一時間くらいの場所に住んでいるようだ。最初の住所から最後の住所までそのままなので、きっとその場所に永住しているに間違いは無いだろう。
 一時間くらいなら……今から行って帰ってこれる。
 気付いたら俺は、手紙を持って彼方がいる台所へと駆け出していた。
(あ、ちょっと!?)
896Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/18(土) 23:55:32
 台所の扉を開けると、彼方がゆっくりと紅茶を飲んでくつろいでいるところだった。
「あ、瀬川さん。もう終わったんですか?」
 無言のまま、手紙をテーブルの上におく。
「……これは?」
 不思議そうな顔で、俺を見上げ、その後に手紙を手に取る。
 そうして、目を見開く。差出人の名前に覚えがあるからだろう。
 そして、まさかこんな形でその名前を見ることになるとは思っていなかったんだろう。
「彼方の両親からの手紙だ。円香さんは内緒にしてたみたいだけど、読んでみろ」
 少し何かを考えるような素振りをみせ、恐る恐ると彼方は手紙を手に取る。
 無言のまま、次々と手紙を読み続け、そして最後の手紙を読み終える。
 それと同時に、大きな目からポロリと涙が流れ落ち、雫は机に吸い込まれるように落下していった。
「なんで……」
 俺は黙って、次の言葉を待った。
「なんで今更……やっと、忘れられたのに……」
 その言葉は、俺が想像したものとは違っていた。
「彼方。お前の両親に、会いに行かないか?」
「……嫌……」
「どうして?」
「……私は……あの人たちは……私を……嫌っている……。また、叩かれる……怖い…」
「……彼方」
 ていうか、円香さんどこ行ったんだよ……。
 必要な時にいないなんて……。
「大丈夫だよ。俺も、付いてくから。もし、そんなことになったら、俺がお前を守るから」
 気付いた頃には、そんな言葉が口から、本当に自然に流れていた。
「本当ですか……? 私の事、守ってくれますか?」
 縋るような目だった。
897Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/18(土) 23:56:15
 キュッと胸が締め付けられるような、そんな錯覚に襲われた。
 だから俺は、ただただ頷いて、彼方の願いを聞き入れることしかできなかった。
「約束するよ。俺が、彼方のこと守るから」
 こんなこと今までで一度も言ったことがなかった。
 それは、別段これといって守りたいと思う存在がいなかったから。
 なんだろう、彼方という存在が、俺の中で大きくなっている。
 守ってやらないといけないという義務感ではない。守りたいという、俺の希望。
 あの言葉の中で多くを占めていたのが、その希望という部分だった。
「ずっと……ずっと、私の事、守ってくれますか?」
 答えは、決まっていた。
「ああ、当然だろ」
 それが何を指すのか。
 俺はそれを、理解しているのだろうか。
「……あの、ええと……」
「何?」
「お父さんとお母さんに……会いに行くんですか?」
「ああ、そりゃ行くさ」
「……まさかとは思いますけど、今日なんてことは言いませんよね?」
「え、今日じゃだめか? 住所だけで考えれば、電車で一時間くらいの場所だろ」
 せっかく彼方もおめかししてるわけだし、丁度いいんじゃないかって思ったんだが。
「わ、私にも心の準備が……」
 ああ、確かにそうか……。
 そんなところまで頭が回らなかった。
「そりゃ確かにそうだな……。じゃあ、明日はどうだ?」
「が、頑張ってみます」
 両手を握り、腕を折り曲げてガッツポーズを作る。
 どうでもいいけど、ガッツポーズってのはガッツ石松が発祥らしい。
 ほんとどうでもいいな……。
 ていうか、円香さんどこ行ったんだ? まだ部屋にいるんかな……。
「彼方、ちょっと悪いけど、もう一回円香さんの部屋行ってくるから、待っててくれ」
 それだけ行って、再び円香さんの部屋に向かった。
898Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/18(土) 23:57:21
 扉を開けると、円香さんはベッドに座って窓の外を眺めていた。
「円香さん。何やってんだよ?」
 声をかけるが、円香さんは返事を返す様子が無かった。
 なんだろうと思い、もう一度声をかける。
「円香さん? 寝てるんか?」
 俺が知る限り、円香さんは目を開けたまま眠るという極意は持っていないはずだが。
(…………)
 やっぱり無反応。
「おーい、円香さーん!」
(え、あ、何?)
「何、じゃないだろ。なんで付いて来なかったんだよ?」
(付いて来なかったって、何が?)
「彼方のとこ」
 つーか、それ以外何があるんだよ。
 ったく、風呂とかトイレとかにはついてくるくせに、必要な時には付いて来ないんだから……。
(彼方……何かあったんだっけ?)
「はぁ? なに、その歳で痴呆症?」
 それもかなり強力な痴呆だなこれ。
「彼方の両親に会いに行くって話だよ。とりあえず、彼方の説得はしたからさ、明日に会いに行くことになったから報告。つーか、なんで付いて来なかったんだよ?」
(なんでだろうね……私もよくわかんないや)
「ったく、使えないな……。いらん時には付いてくるくせに」
(……ごめんね)
 そうして、落ち込んだような声を出す。声だけではなく、体全体を使ってマイナスのオーラを放っているように見えた。
 今日の円香さん、どうも調子がおかしいような気がする。
 いつもなら『五月蝿いなぁー! 私には私の考えがあるんだからあんたは黙ってろー!』とか言ってくるのに。
 ごめんね。
 なぜだろうか、円香さんの口からそんな言葉を聞きたくない。
899Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/18(土) 23:58:07
「なあ、体調でも悪いのか?」
 そもそも幽霊に体調が云々なんて話が通用するのかどうかは疑問であるが。
 幽霊は幽霊なりに、体調みたいなのが存在するのかもしれないし。
(んー、よくわかんないんだけど、情緒不安定?)
「情緒不安定? なんだよそれ」
(よくわかんないけどって言ったでしょ)
「確かに言ったけど……。つーか、大丈夫か?」
(わかんない)
 わかんないっておい。
「とりあえず、今日の目的はこれで達成したし。そろそろ帰るか」
 彼方と遊ぶと言うそれもあったが、円香さんの調子が良くないようだし、家に帰って今日はゆっくりすることにしよう。
(え……でも、彼方は?)
「いーんだって。円香さんの調子が悪いから今日は帰るって素直に言えば納得してくれるだろ」
 彼方のことだ。きっと笑って送り出してくれるに違いない。
 それに、円香さんの元気がないと俺まで元気がなくなってくる。
「……ん? ちょっと待て、今俺変なこと考えなかったか……?」
 円香さんの元気が無いと俺まで元気がなくなってくる?
 なんでだおい。そもそも、円香さんは俺にとって厄介ごとであって、むしろ元気がなくて黙っているんだったら万々歳なはずじゃないか。
(どうしたの?)
「い、いや、なんでもない」
 表面の物と、内面の物の矛盾。それに気付いてしまった自分。
 そんな動揺に気付かれぬよう、できる限りぶっきらぼうに言い放つ。
「と、とりあえず、下に降りるぞ」
 それだけ言って、円香さんを連れて彼方がいる台所へ降りていった。
900Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/18(土) 23:58:58
 思ったとおり、彼方は『わかりました』と俺達を送り出し、明日のことについて軽く話をした後に別れた。
 午前九時に最寄の駅に集合。明日は土曜日だし、仕事で留守ということは無いだろう。
 接客業と手紙に書いてあったが、どうやら仕事をしているのは父親だけのようだし、母親はいるはずだ。
 自宅に到着し、とりあえずベッドに座ってテレビを眺めていた。
 陽の明るさも段々と小さくなり、夕日の光が世界を覆いつくす頃。部屋から聞こえていた音は、無機質なアナウンサーの声だけだった。
 チカチカと画面の明かりが部屋を照らし、夕日の朱と混ざり合ってなんともいえない不思議な色合いを作り上げていた。
(ねえ、志紀。テレビ、消さない?)
 そう、唐突に言った。
「いいけど……なんで?」
 尋ねながらも、テレビの電源を落とす。
 プツンっ、と音が鳴り、そうして部屋は静寂に包まれた。
 テレビの音声がなくなって始めて気づく。
 今日は、やけに蝉の鳴き声が小さかった。
 いつもなら五月蝿いくらいに響いてくるのに。今日は微かに聞こえる程度。
(私ね、あんたには感謝してるんだ)
 いきなりの言葉に一瞬硬直する。
「なんだよ、いきなり」
 苦笑を漏らしつつ、なんとかそれだけ口にする。
(初めて私達が出逢ったときのこと、覚えてる?)
「んー……たしか学校の帰りだったよな。丁度梅雨の時期で、雨が降ってたっけ?」
(そんなことないよ。それが、私の最初の言葉だったよね)
「そうだったか……? つーか、なんでそんな昔のことを?」
 あの時、言ってしまえば自分にいいところなんて無いんだが。そんなことを考えた直後だった気がする。
901Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/18(土) 23:59:45
(別に。ただ、なんとなくね。その後さ、あんた私の事幻覚だーとか、幻聴だーとか言って、全力で逃げたでしょ)
「あのなぁ、普通逃げるって」
 あの時は幽霊なんて微塵も思わなかったけど、でも言い知れぬ不安みたいなものから逃げ出したかったんだ。
(探すの、苦労したんだよ?)
「へいへい、そりゃ申し訳なかったな」
(それからさ……)
 しばらくの間、俺と円香さんが歩いてきた道を振り返る。そんな内容の話が続いた。
 市営図書館で円香さんが巻き込まれた事故の記事を見つけたとき。近所のおばさんから、彼方が毎日墓参りをしていると聞いたとき。彼方と初めて出逢ったとき。彼方の過去を知ったとき。
「そういえばさ、円香さん」
(ん、何?)
「初めて円香さんとまともに話したときも、こんな感じだったな」
 そう言って、俺は部屋を見渡した。
 オレンジ色に包まれた部屋。そうだ、こんな感じだった。
 やっと見つけた。
 そう語った半透明の物体は、音羽円香と名乗った。
 そして、自分は幽霊だと話し、未練を探す手伝いをしてくれと申し出た。
 俺は渋々と、それを了承した。
 なんだかんだで、もう長い間。同じ時間を共にしている。
 もう、夏は終わりに近づいている。
 日に日に小さくなっていく蝉の鳴き声。
 この一つの物語は、蝉の鳴き声と共に消えていってしまうのだろうか。
 それとも、まだ続くのだろうか。
902Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/19(日) 00:00:40
(志紀……神様って、いると思う?)
 そしてまた、唐突な質問を投げかけられる。
「神様な……どうなんだろうな」
 幽霊がいるんだから、神様だっていてもおかしくないのかもしれない。
 だけど、イエスとはっきり肯定できない自分がいた。
(私はね、いないと思う。だって、神様がいたらさ……きっと、私の願いも叶うはずだから……)
「円香さんの願いって、成仏するってこと?」
 小さく首を振り、上目遣いに俺の顔を見上げた。
(あなたに……抱きしめてもらいたい。それが、私の願いだよ)



              つづく
903Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/19(日) 00:05:55
以上です。ごめんなさい、手抜き目立ちます。描写適当です。展開早すぎです
なんだかんだでもの凄く長くなってしまいましたが、後二回で終わりになります
最後のはすごい短くまとめるつもりなので、実質次回のやつが最終話に近いです
長々と付き合ってくれた人、ありがとうございました
ヘタレでツンデレとか殆ど関係なくなってしまった文章の集合体でしたが……
これが終わったらちゃんと勉強しなおしてツンデレしっかり書くから許して・・・
904Mr.名無しさん:2006/02/19(日) 00:08:04
これ、過疎ん時じゃなくても、普通に長編として行けんじゃね?
>>1にも、萌えられたらツンデレ以外も良しって書いてあるし
905Mr.名無しさん:2006/02/19(日) 00:08:18
>>902
乙ンデレ〜

容量が480超えたけど次スレどうする?
906Mr.名無しさん:2006/02/19(日) 00:12:53
>>903
俺は円香さんのファンだ!!!
お前が可能な限り書いてくれ!!!


ちっと早いけど920踏みが次スレ立てぐらいでいいんじゃね?
907Mr.名無しさん:2006/02/19(日) 01:41:25
>>905
最後のレスの人が次たてて、そのあいだテカテカしながら待つ
908Mr.名無しさん:2006/02/19(日) 09:01:08
乙んでれ!
909Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/19(日) 11:42:22
あー、昨日投下したばっかだけど、できたんで作品投下
実質これが最終話です。次回の最終話は後日談って感じなんで
ほんと長々とありがとうございました
想像力も文才もないんで、お目汚し程度にしかならなかったと思います
では、 >>902の続きは次のレスからです
910Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/19(日) 11:43:08
 がたん、がたん。
 不思議と心地よい電車の揺れ。流れていく景色。
 俺はそれを、ただ無言で見つめていた。

   Life life 八話

 抱きしめてもらいたい。それが願い。
 そう言った時の表情は、消え入ってしまいそうで。あれが本当に円香さんなのか。そう思ってしまいそうで。
 結局その後『驚いた? うっそー』とか言いながら大笑いしたもんだから、さっさとふて寝したわけだが。
 朝になり、円香さんの様子が昨日にも増しておかしくなっていた。
 話しかけても反応しない。一回目は必ず。
 二回目は微妙。三回目は反応してくれる。
 どうしたのだろうか。本当に体調でも悪いのか?
「どうしたんですか、瀬川さん」
 そんな俺を見かねたのか、彼方がそんな言葉を俺に投げかける。
「あ、いや……なんでもない」
 まったく、これから彼方の両親に会いに行くっていうのに。
 彼方を勇気付ける立場であるはずの俺が、なんでこんなに元気がないんだか。
「……どこか痛いですか?」
「だから、なんでもないって、大丈夫だから。俺より、彼方は自分の心配してろよな」
 それだけ言って、隣に腰掛ける円香さんに目を馳せる。
 やはり、ボーっとしている。目は焦点を結んでいないし、完璧に脱力しきった体はまるで病人のそれのようだ。
 今日は家で休んでいろと言ったのに、無理してでも付いて行くと言い張られてしまったのでこうして連れて来たのだが……やはり休ませておくべきだったかもしれない。
 無言のまま電車に揺られると、車内アナウンスが次の駅を告げる。そしてそれは、俺達が降りる駅だった。
911Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/19(日) 11:44:00
「さて、いよいよだけど……大丈夫か?」
「は、はい……」
 やはり緊張は隠せないようだ。
 言葉とは裏腹に、顔に緊張と恐怖心がはっきりと浮き出していた。
 軽く頭を撫でてやると、その色が少しだけ消えたように見えた。
 言葉なんかより、こうやって何か一つ行動に起こすこと。そっちのほうがよっぽどか手早いし効果も大きい。
 他の人間がどうかは知らないけれど、彼方はそんな人間だった。
「な、なんですか?」
 でも、それを本人は自覚して無いらしい。
「いや別に」
 それだけ言ったところで、電車が止まる。完全に電車が静止した後数秒。扉がプシュウゥゥゥと音を立てて左右に開いた。
 まるで狙い済ましたように、俺と彼方は二人で電車の外に出た。
「……あ、円香さん忘れてた」
 慌てて電車に戻り、相変わらず目が焦点を結んでいない円香さんを電車の外に連れ出すと、改札を通って駅舎の外に出る。
 周囲は俺が住んでいる場所よりも幾分か都会と呼べるが、やはり田舎であることに変わりは無い。
 まあ、地方都市なんてそんなもんか。
 本格的な大都市になど行ったことがないが、少なくても建物と建物の合間に畑があったりとかはしないんだろう。
「さってと、そんじゃあ両親さんが住んでる場所探しますか」
 そんな独り言を呟くと、ポケットに突っ込んだ便箋を取り出す。
 住所を見る限り、駅からそう遠くはないのだが、この辺りの土地勘なんてまったく無い。
 わかる場所なんて言ったら、本屋とコンビニと……あと美味いラーメン屋くらいなもんだ。
「とりあえずー……どうする?」
「……どうすると言われましても……。その、私もこの辺りは知らないんです……」
 こんな地方都市でさえもしどろもどろしてしまう田舎者が二人。
 彼方の両親探しは前途多難……か?
「つーか円香さん。円香さんはわかんねーの?」
 一抹の期待を抱き、円香さんに話を持ちかける。
912Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/19(日) 11:44:30
(…………)
 まあ、予想通りなんだけど。
「おーい、円香さん」
(……なに?)
「あのさ、この辺の土地勘ってある?」
(……ちょっとだけ)
「うし、この際ちょっとだけでもいいよ。この住所ってどの辺なんだ?)
 住所を円香さんに見せる。
 ていうか、さっきから通行人がちらちらとこっちを見てるんだが……なんなんだ?
「あ、あの、瀬川さん……。私がいうのもなんですが……不気味です」
「不気味? 何が」
「……瀬川さんはお姉ちゃんの姿が見えているからいいんですけど……その、普通の人たちは見えていないので……」
 あー、そういうことか。
「……オーケー、よくわかった」
 つまり、あれか。
 俺は端から見たら、ただの精神異常者ってことだな。
 ……笑えねぇ。
913Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/19(日) 11:45:13
 人通りがまったく無い路地裏に逃げ込み、円香さんとの会話を再開する。
「それで円香さん。この住所って……って、あれ? 円香さんは?」
 気付かない間に円香さんの姿が無くなっていた。
 周囲を見渡してみるが、視界に映るのは黒ずんだコンクリートの壁と、それに書きなぐられた落書きと、あとは散らばるゴミ。
「わ、私に聞かれても……」
 そりゃそうだ。元から彼方には、円香さんの姿が見えないんだし……。
 おいおい、どうするよこれ。流石に円香さんを放置したまま彼方の両親を探すのもあれだし……かといって、こんな土地勘の無い場所で当ても無く円香さんを探し回っていたら陽が暮れてしまう。
 少し考えた末
「仕方ない。先に彼方の両親を探そう」
 その答えを導き出す。
 手早く彼方が両親との再会を済まし、余った時間を利用して円香さんを探すしか手が無い。
 円香さんは人に聞いても居場所がわからないが、住所なら地元の人に尋ねれば済む話だ。
「あ、あの、お姉ちゃん……どうかしたんですか?」
「いなくなった。まぁ、ほっとけばそのうち出てくるだろ」
 なんとなくその希望は薄い気がするが。
 まぁ、幽霊なんだし、しばらくの間一人にしても心配ないだろう。通りすがりの霊能力者にお祓いでもされなければの話だが。
 それに、昨日あんなことを言われて以来、どこか恥ずかしくて円香さんの顔を直視できなかったりとかしていたし、円香さんだってたまには一人になりたいかもしれないし。
 そんな自分勝手な想像を押し付け、よくわからない恥ずかしさから逃げ出そうとしている俺が居た。
 それに気付いているのに、その現実を直視できない。逃げ道を見つけ、そうして逃げ出している。
 ああ……情けねぇな俺……。
914Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/19(日) 11:45:50
 それから町を歩き回り、通行人にこの住所はどこかと聞いて周る。
 そうしてわかったのが、この住所だと駅から歩いて三十分くらいの場所ということだった。
 夏場にはしんどい距離だが、バスも次の便まであと一時間。歩いたほうが早いということもあり、結局歩いて向かうことになった。
 歩いていくにつれて景色が移り変わっていく。
 それなりに数多く並んでいた建物は姿を消し、畑や森に囲まれた田舎道を歩いていた。
 時折畑で働く人たちに道を尋ね、そうしてまた歩いて。それを繰り返す。
 歩いていて気付いた。
 蝉の鳴き声が小さい。そして、空の色が段々と秋の色に移り変わっている。
「なあ彼方。今日って何日だっけ?」
 どうも長期休暇の間は日付の感覚が狂ってしまう。今日が日曜日だということは覚えているのだが、何日だったのかまでは思い出せなかった。
「28日ですね」
「……あー、もうそんなになるのか。なんだかんだで、円香さんと生活し始めて二ヶ月以上経つんだな……」
 昨日の夜に思い出話なんてしたもんだから、俺まで感慨深くなってしまっていた。
 二ヶ月。それは長いようで短い時間。
 その時間は、矢のように早く飛んで行ってしまった。
 それはきっと、楽しかったことの証拠なんだろう。
 面倒くさいとか言っていても、結局は楽しかったんだ。
 一人で暮らしていた中に割り込んできた円香さんという存在が、いつの間にか俺の依り代になっていた。
「もう、夏休みも終わりですね」
「そうだな。あー、学校が始まるのか……」
 たったそれだけのことなのに憂鬱になる。
 前までは学校なんてあってもなくても同じもの。別にあるならあるでいいし、無いなら無いで構わないものだったのに。
 こんなに楽しかった夏休みは、生涯通して一度も無かったと思う。
 それは円香さんのおかげでもあるし、やっぱり今となりで歩いているこの少女のおかげでもあるのだろう。
 俺と彼方は学校が違うから、こうやって彼方と一緒にいる時間は減ってしまう。
 柄じゃないが、寂しい。
915Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/19(日) 11:46:35
 歩き続け、そうしてようやく目的の住所に到着する。
 神尾の表札。玄関先にぶら下げられたポストと便箋に書かれた住所を比べると、その家が間違いなくそうだった。
 ふと気付くと、名前が四つある。
 信幸。これは父親だろうか。
 智美。きっと、これは母親だろう。
 そして、彼方。
 最後に、未来。
「……これは……」
 未来。きっとこれは、彼方の妹なのだろう。あれから何年も経っているんだから、再び子を作っていてもおかしくない。
 彼方。この名前は、俺の隣にいる彼方なのだろうか。
 文字は掠れている。未来という文字だけがまだ綺麗だった。
 きっと、両親の名前を書いたときに、一緒に彼方の名前も書いたのだろう。
「……お父さん……お母さん……」
 小さく、彼方が呟いた。ゆっくりと呼び鈴に指を伸ばし、その人差し指は、小さなボタンを押していた。
 家の中から音が響く。
 そうして、パタパタと足音が聞こえた。
 頑張れ。頑張れ彼方。
 俺は、そうやって心の中で願うことしかできない。
 ここから先は、俺が踏み込める領域ではないように思えた。
「はーい、どちらさ……」
 勢いよく扉は開かれ、中から顔を覗かせたのは……優しそうな、柔らかな雰囲気を持つ女の人。
 不自然に言葉は止まり、唖然と口を半開きにさせていた。
「……彼方」
「…………おかあ……さん……」
 彼方の頬に両手を当て、止まらない涙を流し続けていた。
 そうして
「ごめんね……ごめんね……」
 そればかりを繰り返していた。
 その瞬間。
 蝉の鳴き声が止んでいた。
 夏が、終わりを告げる瞬間だった。
916Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/19(日) 11:47:17
「そう……ですか……。円香さんは、亡くなっていたのですか」
 彼方は実の妹である未来という女の子と、二人で遊んでいた。
 縁側で二人、笑いながらシャボン玉を飛ばしている。
 俺はというと、彼方の両親に話を聞きたいと頼まれ、それに応じている最中だった。
「ある日、必ず書いてくれていた手紙の返事が来なくなったので、何かあったのかとは思っていたのですが……」
 そう言ったのは父親。
 母親のほうも驚いたような表情を見せていた。
「お父さん、お母さん。俺は、彼方から色々事情を聞いています。でも、どうにも信じられないのが本音です」
 なんで。なんでこんなどこにでもいるような、優しい両親が。
「……私達は、周囲の反対を押し切って結婚しました」
 重い口を開いたのは母親のほうだった。
 俺は黙って次の言葉を待つ。
「お互いお金は無くて……祝福してくれる人もいない。そんな中で生まれたのは、彼方でした」
 首から上だけを動かし、母親は妹と遊んでいる彼方を、寂しそうな目で見つめる。
 本当に、心が痛くなってしまうような。そんな目で。
「どうかしていました……。望んで産んだのに、私達は……」
 そこまで言って言葉をつまらせる。
「……俺はまだガキだから、あんま難しいことはわかりません。でも……子供は親を選べないんです。俺だって、本当はもっと金持ちで優しくて、小遣いたくさんくれるような親の元に生まれたかった」
 ああ、何言ってるんだろ。
「だけど、子は親を選べないんです。でも、親は子を望むことができる。だから……」
 アホ。やめろよ。格好悪い。恥ずかしい。
 自分自身を心の中で罵倒する。しかし、動き続ける口を止めることが出来ない。
「自分で望んだものじゃないですか……。後悔するくらいなら……なんで、望んだんですか!? 傷つかせるくらいなら……なんであんた達は彼方を生んでしまったんですか!?」
 死人に鞭打つようなマネして楽しいのか? この二人は、もう十分反省してるじゃないか。
 なのになんで……なんで俺は……こんなにも。
「ふざけんなよ! あんたらの所為で、彼方がどんだけ辛い思いしたのかわかってんのかよ!?」
 なんで、こんなにも怒りが溢れ出ているんだよ。
917Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/19(日) 11:48:08
「あんたらの所為で……彼方がどれだけ……」
 なんで、俺が泣いてるんだよ。
 なんで、止まらないんだよ。
 ああ、カッコわりぃ……。
 もういいよ。
 止めろよ。
 いい加減泣き止めよ。
「……っく……」
 こみ上げる嗚咽が抑えきれず、握った拳を地面に叩きつけ、顔を伏せる。
 拳の痛みなんか、まったく感じなかった。
 と、俺の後頭部に何かが触れた。
 そして、そのすぐ後に声が聞こえた。
「おにいちゃん、どこかいたいの?」
 顔を上げると、そこには彼方たちがいた。
 俺に頭を撫でているのは、妹のほう。
「大丈夫だよ……ありがとう」
 右手で涙を払い、笑ってやる。
 きっと、引きつった笑みなんだろうな。
「お父さん、お母さん。お二人に会ったら、まず何を言おうか……考えていました」
 俯き、キュっと手を握る。
「でも、どうでもよくなりました。この子が、私に教えてくれたから」
 少女の頭を撫でると、小さいながらも元気な笑みを見せる少女。ニッコリと柔らかく笑う彼方。
「同じ過ちを犯していれば、私は貴方達を許しませんでした。でも、許すことにします」
 それから俺の顔を見て、微笑むと
「それに、今は今で幸せですから」
 そう言って。
 陳腐な言い方だけど、太陽みたいな笑みを見せた。
「私を産んでくれて……ありがとうございました」
918Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/19(日) 11:48:42
 電車に揺られ、慣れ親しんだ場所へようやく帰ってきた。
 一番時間がかかるであろうと思われていた円香さん捜索は、案外簡単な形で解決された。
 一旦駅に戻ってさて探そうとしたら、いつの間にか俺と彼方のすぐ後ろに円香さんが立っていたんだから驚きだ。
 しかも体調も戻ったようで、今俺の隣で悠々と空を舞う円香さんは、いつもの元気な円香さんだった。
 彼方を自宅まで送り、もうここ数日で何回も通った田舎道を自転車で駆け抜ける。
 残暑はまだ厳しいが、ここ数日で随分と涼しげが増してきた。陽が暮れ始めたこの時間帯は、肌寒いとは言わないまでも心地よい涼しさだ。
 無言で自転車を走らせていると、円香さんが口を開いた。
(志紀。今日、私がどこ行ってたのか聞かないの?)
「そりゃ、気になるっていえば気になるけどな。まぁ、帰ってきたことだし、話してくれるなら聞くけど」
 と、円香さんが動きを止めた。
(人はね……思い出が無いと生きていけない)
「はい? 何をいきなり……」
(でも、思い出だけでも生きていけない。だって、これは夢。私が見た、一つの夢)
「円香さんが見た……夢……」
 それが、この夏の物語。
 でも……夢だったら……。
(夢は、いつか終わるもの。それが、自分の力なのか、他に依存するものなのか。それはわからない。けどさ、やっぱり、夢っていつかは終わっちゃうんだ)
 どんなに楽しい夢でも、時間になれば目覚めなくてはならない。
 そしてその時、俺は悟った。
 この夢は、目覚める時間なのだと。
 今日この日が、夢の終わりなのだと。
(帰らなきゃ。私)
 ……嫌だ……。
 何よりも先に、その思いが俺の行動を支配した。
「帰る場所なら……同じだろ? 俺の、部屋だ」
 わかっているのに。もう終わりだって、わかっているのに。
(ごめんね。もう、時間なんだ)
 嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……。
 行かないでくれ……円香さん……。俺は……俺は!
(志紀。丘並木で待ってる。彼方連れて……来てね)
 そう言って、円香さんの半透明だった体は、フッと大気に飲まれるように消えていった。
 俺は考えるよりも先に、今来た道を引き返していた。
919Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/19(日) 11:49:31
 全力で丘並木への山道を駆け上がる。
 ろくに状況を説明していないままに連れて来た彼方は、目を白黒させながらも必死に走って俺の後を付いてきてくれた。
 何度も転んだ。傷の上に傷ができ、もう痛みなんて感じなかった。
 でも、俺は進まなくてはいけない。
 円香さんのため。
 大切な人のため。
 そして、自分自身のため。
 走った。
 陽が落ち始めている。もう、時間が無い。
 なぜか俺は、そう確信していた。
 東の空に星が見えた。
 もう、夜はすぐそこに迫っていた。
920Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/19(日) 11:50:16
 乱れた呼吸を整えて、丘並木の公園を歩き回る。
「円香さん! 俺はここだ、どこ行ったんだよ!?」
 間に合わなかったのか。そんな不安が胸を過ぎる。
「せ、瀬川さん……あの、どうしたんですか?」
 ごめん彼方、説明はあとだ。まずは円香さんを探さないと……。
 どこ行ったんだよ。ちゃんと来たよ、俺。円香さんの願いどおり、彼方連れて丘並木に来たよ。
 だから、出てきてくれよ。頼むから。
 まだ、伝えてない言葉がたくさんあるんだ。
 いなくなって、ようやくわかったんだよ。
 俺、円香さんのこと好きだよ。だから、それを伝えないといけないから。
 最後に……もう一度だけ……俺の前に出てきてくれよ。
 こっちだよ。
 そう、聞こえた気がした。
 俺は、その声に導かれるように。丘並木で一番大きい桜の下に向かっていた。
「やっほ、志紀」
 そういった声は、いつもの円香さんだった。
 長い髪の毛を風で揺らし、右手を小さく左右に一度だけ振った。
 違うところと言えば……半透明ではないこと。空を飛んでいないこと。
 幽霊ではなく、人間としての、円香さんという存在が。
 その場所に、佇んでいた。
「……おねえ……ちゃん……」
 そして、それは彼方にもようやく見えた。
 今このとき、初めて姉妹が再会した。
 よりにもよって、最後の時間に。もう、終わりの刻に。
「ごめんね、折角来てもらったのに、もうあんまり時間が無いんだ」
 そう言って、円香さんは桜にもたれかかる様に立つ。
 俺達が立っていた方とは逆方向に。
 初めから打ち合わせていたように。俺達は円香さんの反対側に立った。
 一本の桜の木。それをはさみ、俺と彼方。反対側に円香さん。
921Life life ◆yVoA9C7lzI :2006/02/19(日) 11:51:21
「もう、未練は晴れたのか?」
 そんな言葉しか思い浮かばなかった。
 好きだとか、行かないでくれとか。
 それを伝えたいはずなのに。
「んー、正直自分でもよくわかんないんだよね。やっぱりさ、私に未練なんて無かったんじゃないかなって思うんだ」
「じゃあ、なんでだよ」
「だからわかんないんだって」
「そっか……」
 そう言って苦笑を漏らした。
 まったく、最後の最後まで適当なやつだな、ほんと。
「彼方。私がいなくても、もう大丈夫だよね」
 それは問いかけではなく、確認という感じだった。
「うん……ありがとう。もう、大丈夫だから」
「そっかそっか、よかったよ」
 そして、空に抜けるような笑い声を上げる。
 空を見上げると、空はもう夜の色だった。
 ああ、もう終わりなのか。
 これが、この物語の終焉なのか。
「最後には、笑ってさよならしようね」
「……ああ」
「……うん」
 少しずつ、円香さんの声が遠くなっていく。
「彼方。今、笑ってる?」
「……うん」
「別れは、辛くない?」
「うん、辛くない。だって、笑ってるから」
 その声は、震えていた。
 俺でさえも涙がこらえられない。絶えず、目から涙が流れ落ちる。
922Life life ◆yVoA9C7lzI
 でも、顔だけは笑おうと努力を続けた。
「志紀。彼方のこと、よろしくね。次は、あんたの番だよ」
「わかってるよ。任せとけって」
 彼方は、俺が守る。
 大切な人のため。それを誓った。
「あとね、最後にさ……言い逃げになっちゃうけどさ。私、あんたのこと好きだった」
 そんなの、俺もだよ。
 でも、声は涙に負けた。涙を堪え、無理矢理笑みを作ることで精一杯だった。
「円香さんっ……」
 ふわり。
 柔らかく、風が吹いた。
 円香さんの匂いが消えた。
 振り返ると……そこに円香さんはいなかった。
 変わりに……頭上に淡いピンク色が見えた。
 季節はずれの、桜の花だった。