ありがと・・・(つД`)
>>646とか俺のせいかなーと思ったので。
では
>>643の続きでつ。
ちょっと歩いて、ふと横を見ると奈々の姿がない。
「あ、あれ?」
思わず辺りを見渡すが誰もいない。どこだ・・・?
「…ぃた…」
声は下から聞こえた。視線を下ろすと奈々がうずくまっていた。
「ど、どうした!?」
「あ、ちょっと足が…」
見ると、右足首が少し腫れている。さっき脚立から落ちたときにひねったのかもしれない。
「歩けない?」
「ちょっと…ダメ…」
まいったな・・・廊下の真ん中で・・・とりあえずどこか座れる所はないか?
「…」
一番近いのは図書室か・・・
「…んぶ」
保健室は遠いし・・・といって図書室に戻るのもなあ・・・
「…おんぶ!」
「え?」
しゃがんだまま、何かを決意した目で俺を見上げる奈々。おんぶって・・・
「もう、恥ずかしいんだから何度も言わせないでよ!」
「・・・いや、でも、」
しどろもどろもいいとこだ。全く予想していなかったせいで頭がビジー・・応答なし。
「大体あなたが脚立を使えって言うからこうなったんだから…責任取ってよね…」
またまた予想していなかった言葉に、脳、再起動。
「・・・わかったよ。よっ!」
「え?え、ちょっと!?」
腰を落として奈々の体に手を伸ばし、一気に抱え上げる。
「ちょっとなにしてんの!?ねえ!」
おれがやったのは、おんぶじゃなくていわゆるお姫さま抱っこ。
おんぶして、と言うだけでも相当の決断だっただろう奈々は当然のごとく抵抗する。
抵抗する・・・けど、両腕を俺の首にしっかり回しているということは・・・
「じゃ行くよ」
「だから、何でこの格好なの?!」
「いや、おんぶだと足首痛くないかなって思って」
もちろんウソだが。
「痛くない、痛くないから降ろして…」
「もう抱えちゃったし、いいじゃない。足が痛いって言えばみんな変には思わないって」
「そういうことじゃなくて…」
なんか寝顔と同じ、今までからは想像できない恥ずかしがりっぷりだ。
あるいは、これが本当の奈々なのか。普段の顔は何かを演じているのか。
「ああ〜んもう、恥ずかし…」
「まあまあそう言わずに。俺は嬉しいけど?」
「う、嬉しい…?なんで?」
「そりゃ、かわいい君にこんなことできるんだから」
「か、かわいい…?」
「ああ、かわいい」
「…」
黙り込んでしまった。顔を見ると、真っ赤なままうつむいている。
嫌がってるわけじゃ・・・ないと思う。
俺から顔を背けようとするが、真っ赤な顔が周囲にもろに見えてしまう正面を向けずに、
結局俺の方を向いてしまう、この一連の動作もかわいいものだった。
口調は平然としていながら、実はバッコンバッコン言ってる俺の心臓の音を聞いて、
奈々は何を思っているだろう。
いつからかは分からないが、奈々は俺の胸に顔をうずめたまま、俺を見上げていた。
俺は気づいていないふりをしていた。
放課後になってだいぶ経つせいか、誰にも会わずに保健室に到着できた。
よかったよかった。自分からこんな事しといてなんだが、担任なんかと会ってしまったら
どうしようかと思ってたが。
奈々を抱えていて両手がふさがっているので、保健室のドアは奈々に開けてもらう。
中に入ったら閉めてもらう。・・・なんだこの共同作業は。奈々も微妙な表情になってるぞ。
「よ・・・しょっと」
適当なベッドの上に奈々を降ろす。
ようやく恥ずかしい格好から解放された奈々は、「…はぁぁ…」とため息を漏らした。
部屋を見渡してみると、どうも誰もいないようだ。その辺の引き出しを順に開けていくと
湿布を見つけた。適当な大きさに切って奈々に声をかける。
「湿布があったけど、自分で貼る?」
「うん…」
湿布を渡して、近くの椅子に座る。やれやれこれで一段落・・・
「ん…しょ…あれ?」
「・・・」
「もう…どうしてぇ…」
「・・・」
湿布の接着面についているカバー(?)を剥がせないでいるらしい。
小声で湿布に文句を言いながら、必死になって格闘している様子は、やけに微笑ましい光景。
しかしまあ、ずっと見てるわけにもいかないので
「ちょっと貸して」
「あ…うん…」
受け取り、湿布に手を掛ける。簡単にさっと剥がしてみせると多少カッコイイかな?
「…」
「お・・・あれ・・」
「…」
「う・・・くそっこのっ・・」
剥がれない。あーしてもこーしても剥がれない。なんでだ!?
「…クス」
「おらあああ!」
やけになって無理やり引っ張ったら何とか剥がれた。・・・少し破れたけど。
「ふう、どうにかできたよ。」
「うん…ありがと」
さっきの俺が面白かったのか、表情に笑みが浮かんでいた。
こんな予定じゃなかったんだけど。ま・・・いいか。
接着面に触れないようにして奈々に湿布を返す。今度こそ一段落だな。
「ひゃ…冷た…」
湿布を貼った瞬間の冷たさに驚く顔に、思わず見とれてしまった・・・
時計を見ると、6時を回っていた。もうこんな時間か。
「痛み・・・どう?」
「だいぶ…落ち着いた」
「じゃあ、そろそろ帰る?歩けるかい?」
「うん…たぶん」
手を貸しつつ、ゆっくり起き上がらせてベッドから降ろす。何とか立ち上がれるようだ。
「うん…大丈夫」
「よかった。これ、カバン」
奈々が休んでいる間に教室から取ってきたカバンを渡した。
「ありがと…」
やさしく、穏やかな調子のその言葉が、俺の中の何かを満たした気がした。しかし、
「まだ、ちゃんとは歩けないだろうし、よかったら送っていくけど・・・」
「それはやめて」
打って変わった強い否定が、胸をえぐった。
「でも・・・その足じゃ・・・」
「いいの。1人で帰れるから」
「・・・」
少しは信頼されたと思っていた。だが奈々は明らかに、自分の家の場所を知られる、
あるいは家まで俺を連れて行くことを嫌がっていた。
「・・・わかった。じゃあ、気をつけて」
落胆の感情を必死で隠して別れを告げる。ガラにもなく、泣きそうだった。
「さよなら。…ごめんなさい」
少し右足を引きずりながら保健室を出て行く奈々を、俺は呆然と見送っていた。
これでVol.3は終わりです。
4はまた後日。