明日できそうにないので今日投下。続き
横を振り向くと、奈々が固まっていた。よく見ると・・・怯え、てる?
「ど、どうしたの?」
「く、くも…」
顔を動かさず視線をまっすぐ保ったまま答える奈々。足も震えている。
「クモ?」
本のすき間にでも見つけたのだろうか。結構ホコリかぶってる本棚だしいてもおかしくはない。
「えーと、そうだな、その辺の本で向こうに追いやったりとかしてみたら?」
「それ…無理…」
「どうして?」
「わたし…くもは一番ダメなの…」
「じゃあ、降りて別の所を・・・」
「それもダメ…足、動かない…」
これは相当苦手みたいだ。ちょっと意外だが。
「だから、その、お、降りるの…手伝って…?」
今にも泣きそうな顔。こんな表情で言われたら、断るわけにはいかない。
「わかった、今行くから」
脚立から飛び降り、奈々の下に回る。それでえ〜と、どうやったらいいのかな。
「ひゃ!!」
「あ、ごめん」
とりあえず腰に手をあててみたら、恐怖で敏感になっているのかビクンと震えた。
「ここにいるから、落ちる心配はしないでゆっくり降りてごらん」
「で、でも…」
「大丈夫。絶対受け止めるから」
右手を腰の辺りに、左手を彼女の体付近に伸ばした体勢で語りかける。
横から見れば変な光景だったろうが、俺も奈々ももちろん真剣だった。
「…ぅ…ふぁ…」
目をつぶり、勇気を振り絞る。きっと今、奈々は世界で一番頑張っているだろう。
「そうそう、もう少しだ」
1歩目の左足が、段を1つ降りようとしていた。と、
「…ん…あ!?」
体重を支えていた右足がよろけて、奈々が宙に浮く。次は俺が世界で一番頑張る番だ。
「お・・・っと!」
どうにか受け止めることができた。俺に抱きついた格好のまま震える奈々。
今の数分が、それだけ怖かったということだ。そんな奈々に俺が出来る唯一のことといえば、
「よしよし、怖かった怖かった。もう怖くないよ」
彼女を抱きしめつつなだめることだった。
「・・・落ち着いた?」
2分くらいか、そのままの状態でいた俺と奈々。震えが止まってきたのに気づいて聞いた。
「…う、うん…」
とはいえ声はまだか細い。彼女にこれ以上仕事はさせられないな。
「とりあえず、奈々さんはもう何もしなくていいから、その辺で休んでて。あと俺がやるよ」
「あ、でも」
「いいからいいから。図書館より君の体が大事だ」
おお、何気にかっこいい事言ってないか俺。我ながら信じられん。
「うん…じゃ、そうする…」
わかってくれた。俺から離れ、ふらふらと壁に寄りかかって、そのまま座り込む。
震えだけは完全に止まったようだ。
それを見届けてから本棚に向かい、整理を再開する。
どのくらいの大きさかはわからないがクモがいるらしいので、なるべく離れたところを。
・・・いや、追い払ったり殺したりするのが面倒なだけで別に怖がってるわけじゃない。ほんとに。
「はい、今日はお疲れ様でした。それでは解散」
またまた簡単な終わりの挨拶を聞き終え、皆わいわい騒ぎながら図書室を出て行く。
俺は・・・というと、その辺から適当に取ってきた本を読みながら中央テーブルに座っていた。
なぜ帰らないか、それは奈々が隣でまだ休んでいるから。というか眠っているから。
相当疲れているのか、あるいは家でよく眠れなかったのか、
普段の奈々からは想像のつかないほど穏やかな表情だ。起こしちゃ悪い・・・ってのはやっぱり建前で、
自分の本心はこの寝顔をもう少し見ていたいんだということは改めて考えるまでもなかった。
「図書室では静かにしましょう」という貼り紙の前で、俺は全力でそれを守っていた。
「ん…む…」
「!」
・・・起きちゃった。もうちょっと見ていたかったけど仕方ない。
「目が覚めた?」
「…ぇ?」
俺の姿に少し驚く奈々。寝起きで、今いる場所を勘違いしているのかな。
「おはよう。30分くらい眠ってたよ」
「え…あれ?あ、わたし…」
「起こすのも悪いし、放っても帰れないから、待ってた」
「あ…」
「じゃあ、帰ろうか?」
読んでいた本を棚に戻しに行くのを奈々は待っていてくれた。そして、二人並んで図書室を出る。
今日はここまで。続きは近日中に。
まだVol.3続きますよ。