つづき
Vol.2
高校生活が始まってから1週間が経った。そろそろ慣れてきた、なんてもうそんな次元じゃない。
委員長だからという理由で、事あるごとにあの担任に呼び出されて仕事をさせられる。
ひどいときは、小テストの問題作成まで手伝わされた。
「問題作るのを生徒にさせていいんですか?」と聞けば、「別のクラスで使うんだからいいんだよ」
どこまでやる気の無い教師なんだ一体。
そして、もっとわからないのが彼女。そう、田島奈々だ。
今も、担任に言いつけられた書類整理をやっているのだが、担任は俺1人に指図したのにも関わらず
彼女は自分から手伝うと言って、みんな帰った後の教室に残った。
考えてみれば、この1週間ずっとそんなだ。問題を作ったときも、担任は俺だけでいいと言ったのだが
わざわざ職員室まで来るから、担任もそれならと俺たち二人に任せてどこかへ行ってしまった。
どういうつもりなんだろう?帰っていいと言われているのに、あえて居残り作業をするなんて
何かの理由があるとしか思えない。もちろん俺がそんなことを聞くわけにもいかないが、
なんというか、こうずっと続くとやはり気になる。
気になって考えていると、手元が疎かになって書類を散らかしてしまう。
しかし彼女は文句の1つも言わずに落ちた紙を1枚ずつゆっくり拾い、作業を再開する。
これもまた気になってしまう。
どうにも腑に落ちないのだ。わざわざ自分から仕事をやると言うのもそうだが、
もっと気になるのは作業をしている彼女の一連の動作。手先が正確で動きにそつが無くミスもしない。
要領がいいというのだろうか、しかし、時々思い出したように動きがスローペースになる。
まるで時間を引き延ばしているような。なぜ・・・?
家に帰りたくないのか・・・それとも俺と一緒にいたいから・・・
・・・まさかな。
「ねえ…」
「ん、ん?何?」
はっと意識を現実に引き戻す。
「もう少し…離れてくれる?」
「あ、ああごめん・・・」
さっき思った2つ目の理由、即死。まあ・・・当然か。
「終わったわ。確認してくれる?」
「あ、ああ・・・」
受け答えがぎこちなさすぎ・・・もっとしゃんとしろ、俺。
一枚ずつめくって内容を確かめる。途中で、彼女の方をチラと見てみた。
終わったなら帰ればよさそうなものだが、彼女は椅子に座ったまま窓を眺めていた。
いや、窓から見える景色を見ているのだろうか。
二階の、それも教室の真ん中から見えるのはいくつかの建物の屋根と曇った空だけだ。
この曇った空模様が彼女の沈んだ心模様を表している・・・なんてことはないよな。
「うん、いいと思う、これで。先生へは俺から渡しに行くよ。お疲れ様」
軽く挨拶して、カバンを取り教室を出ようとすると
「待って。わたしが行くわ」
「え?いや・・・」
さっと俺の手から書類の束を取り、颯爽と歩いていってしまった。
「お疲れ様。…」
もう一言何か言いたそうな感じだったが、振り向いて、行ってしまった。
遠ざかっていく後ろ姿が、昨日よりも寂しそうに見えた。
つづく
次のVol.3はイベント発生になるんで、うp遅れます。