>>596でつ。
結構期待してくれてる人がいるみたいで嬉しい限りっす。
あまり期待させすぎると内容がショボーンだったときに申し訳ないんでいい加減そろそろうp
Vol.1
入学式も終わり、ぞろぞろと体育館から出て行く。
真新しい制服に身を包み、みんな美しく見えた。
教室に入る。男女混合出席番号順に机に座っていく。
なんだ、両方とも隣は男かよ。と思ったら、前後は女の子だ。よし。
担任と思しき30代くらいの男性教師が名前を呼び始めた。
「・・・武田直人」
「はい!」
「お、いい返事だな」
武田直人(なおひと)。俺の名前だ。
大きく返事をしたら一辺に視線を向けられたが、そんなことで動じる素振りは見せてたまるか。
「田島奈々」
「はい。」
透き通った声が後ろから聞こえた。
なんとなく振り向いてみると、目が合ってしまった。
「…」
「・・・」
まっすぐ見つめられる視線に、不覚にも動揺してしまい、あわてて前を向く。
(俺としたことが・・・いくらちょっとかわいいからって動揺するなんて・・・くそ)
セミロングの髪が印象的だった。
かろうじて肩にかかるくらいの滑らかな黒髪と、窓からの光を反射する白い肌が、
やたらに俺の中でリプレイされていた。
そういえば、緊張しているようには見えなかったな。高校の入学式、多少は緊張しそうなものだが。
それだけ度胸があるってことなのか・・・?それとも逆に、緊張しまくってるからああなのか?
「武田、聞いてるか!?」
「え、あ?」
しまった。彼女―田島奈々のことで頭がビジー状態だった。あわてて再起動する。
「なんすか?」
「クラスの目標を決めたいんだ。それと、来月末にある文化祭の出し物もな」
「ああ、そういうことですか」
「お前、仕切ってみるか?」
「はい?」
「さっきいい返事してたからな。ご褒美だ」
「褒美って意味わかんないすけど。まあそう言うならやりますよ」
立ち上がって黒板の前に行く。内心ではチャンスが来たと思っていた。
こういう外部からの要求でやらされたことを上手くやって見せると、周りの評価は上がる。
仕切りなら、昔からの得意分野だし願ってもない。
「先生、終わりましたよ」
「む、お、お〜そうか」
首を振りながら眼鏡をかける教師。俺に仕切らせたのは自分が寝たかったからか。
「とりあえず、こんな具合でどうですか?」
「ああ、いい、いい。」
黒板に書かれている結果を見ずに教室を出て行こうとする。なんてやる気の無い教師だ・・・
だがそれもいい。本来クラスをまとめなければならない担任があの調子なら、
今しがた会議を仕切ってみせた俺の株が相対的に上がるということ。
高校生活のスタートとしては上等だ。
「あ〜、忘れてた。武田武田、お前委員長な」
「はい?」
「今クラスを仕切ったんだろ。その勢いで、委員長も、な!」
委員長ね・・・出来ればそういう役職にはならずに影から集団を引っ張る、
ってのがいいんだけどなあ。
「毎年委員長決めは揉めるんだ。お前でいいだろ?な?」
ま、担任がこれじゃ影からなんて出来そうもないし、多少の権限もらっといても損はないか。
「はあ・・・わかりました、やりますよ」
「よおし決まりだ!あ、一応だが、異論ある奴は?」
と聞いてもいるわけがない。大体みんなやりたくないんだから。
「それと、副委員長も決めなきゃいけなかったな〜。誰かやりたい人いないか?」
まあ副でもいないだろうな。めんどくさいだけだし。
「なあ、誰かいないか〜?どうせ決めなきゃいけないんだから早く決めときたいんだよ」
明らかにテンションが下がる。大体今決めるほうがおかしいはずなのだが・・・
「わたし…やります」
透き通った声が聞こえた。その方向に皆が一斉に振り向く。
立ち上がったのは、空いている席―つまり俺の席の後ろの女の子。田島奈々だった。
「おおっ、いいね!こんな早く決まるなんて教師生活初めてだよ。じゃよろしく!解散!」
こんな早くって早すぎだよ。入学式当日だぞ。
それにしても・・・彼女が、何でだろう・・・?副委員長とかするタイプには見えないが・・・
緊張が解けた様子で帰っていくクラスメイトの隙間から、俺を見ている彼女を見つけた。
さっきと同じ、表情を変えずにまっすぐ見つめる瞳。また脳がビジーになった俺は、
今度は目をそらすこともできなかった。
つづく。