ただし、ここにあげた特徴は、ライトノベルに分類されるすべての作品に当てはまるわけではない。
ことに、女性作家による異世界ファンタジーの隆盛は別物だという気がしている。
小野不由美は昨年「東京異聞(とうけいいぶん)」「魔性の子」(新潮文庫)をふくむ十二か国シリーズ(講談社X文庫ホワイトハート)で人気の出た人だ。
彼女の作品を読む時、いつも“境界”という言葉が浮かぶ。壁のような高波が地平の果てから猛り狂いながら押し寄せてくる、といったイメージ。
はじめそれは寒気がするほど恐ろしく感じられるのだが、不思議なことに、
ひとたび呑み込まれると本来自分のいるべき世界はこちらであったのだと信じずにはいられない。
麻城ゆうの「地獄使い」や月光界シリーズ(ともに角川スニーカー文庫)も異世界ファンタジーの秀作で、
ことに「地獄使い」の最終部は夢ものとしても非常にすぐれている。
両者とも描写力は抜群である。ライトノベル的な特徴に見をそわせる部分もありながら、内容は決して空疎な作品ではない。
それはおそらく、彼女たちがこの世にあらざる場所を、本気で欲しがっているからだ。
どうしても書かざるをえないから書く、そういった作品に意味のないはずがない。異世界を構築しなければいられないファンタジーの要請の意味をこそ、
わたしたちは考えなければならない。
小野不由美はいつまでもその世界に浸っていたい大長編を、麻城ゆうはアイデアとイメージに満ちあふれた作品を書くだろうと思う。
一読者として、大変期待している。