ところで、いま皆さんの脳裏には、こんな言葉が浮かんでいるのではないだろうか。
「ここまで優秀な主人公がどうして劣等生なの?」
愚かなことだが、人は極端に優れた才能を拒絶する。
それは嫉妬などではなく、単に信じることができないのだ。
100メートルを10秒で走れば賞賛されるだろうが、2秒で走れば疑惑をぶつけられるだろう。
物事は優れていればいいというものではない。常識をこえた才能は時に差別の対象にすらなる。
魔法科高校がテロリストに襲われたとき、活躍したのは優等生の一科生ではなく劣等生の二科生だった。
学校の作った枠のなかでは落ちこぼれかもしれないが、彼らはいつでもX-MENとして出撃できるポテンシャルを秘めていたのだ。
それでも彼らが劣等生であることに変わりはない。
このまま彼らは正当に評価されることなく終わってしまうのだろうか?
そんなことはない、と本作は身をもって示してくれている。
元々本作品はネットで公開されていた、いわゆるWeb小説だった。
3000万PVという圧倒的な支持を得ていたにも関わらず、膨大な設定が足かせとなり新人賞に投稿するにはあまりにも不向きだった。
つまり劣等生だった。
だがやんちゃな劣等生は嫌でも注目されてしまう。
優秀な編集者に発掘され、見事書籍化に至ったのだ。
ちなみに本作品は現在も絶賛ネットで公開中なので、無料で読むことができる
http://ncode.syosetu.com/n2569f/ にも関わらず文庫本が飛ぶように売れ、品薄が続いているという。
いいものは売れる。シンプルな理由だ。
作者の佐島勤先生がこの作品に込めたテーマはおそらく「人から劣等生だと呼ばれても、自分をあきらめるな」
もしくは「しょせん世の中、才能が全てです」のどちからだろう。
個人的には前者であると信じたい。
これは、劣等生のレッテルを貼られた者が突き抜けた才能を見いだされ認められていく物語である。
この物語は作品としてはあまりに規格外で劣等生ですらあった。
だがそこに可能性を見いだされ、世に出てヒット作となった。
物語の中の出来事が、物語そのものとシンクロしている。
この小さな奇跡こそ魔法と呼ぶにふさわしいのではないだろうか。
そんな奇跡をまとった、この長い長い、魔法のように長いプロローグを皆さんにもぜひ体験していただきたい。