六畳間の侵略者!? 1〜4巻(HJ文庫) 健速
昨今ライトノベル業界に限らず、成人向けゲームのライターの方々が非常に高い評価を得ている。
昨年商業的成功を収めた麻枝氏、現在絶賛アニメ放送中の虚淵氏、今後アニメ化が予定されている田中ロミオ氏。
そんな彼らに続くであろう人材、健速氏によるHJ文庫看板作品、『六畳間の侵略者!?』を今回は褒めちぎらせてもらう。
本作品において氏は、ゲーム業界で培ってきた様々な手法やノウハウを遺憾なく発揮している。
氏の関わってきたゲームを数多くプレイしてきた自分が、僭越ながらそれらについて解説をさせていただきたいと思う。
まずは視点である。
氏はゲームにおいて、主人公の行動の直後にヒロインに視点を移動させる、という手法を用いることがある。
これによってヒロインの内面を繊細に描写し、その魅力を何倍にも高める事に成功しているのだ。
この事を意識して読んでいただければ、本作の文章の魅力にも気づく筈だ。
「視点が唐突に変わって気持ち悪いな。悪文だろこれ」という欠点だと勘違いしがちな要素も、実は計算されて生み出されたプラス要素であるのだと理解して貰えるだろう。
次にギャグである。
本作のギャグはハッキリ言ってつまらない。正直クスリとも笑えない。
だがしかし、これは何も氏がギャグセンスが無い、ということだけが理由ではないのだ。
本作はラブコメであると共にヒューマンドラマ、家族ドラマ的な側面も持っている。
国民的ヒューマンドラマ、そして家族ドラマといえば何だろう? 誰もが思い浮かべるのが、そう、「サザエさん」である。
あなたはサザエさんのギャグで毎回爆笑するだろうか?
毎週日曜夕方のお茶の間で、家族一同大爆笑している家庭があなたの知る範囲で存在するだろうか?
無いだろう。
それが答えだ。
それとフォローさせてもらうが、サザエさんはたまに凄い面白い。
最期に物語の構成について語らせてもらう。
健速氏はゲームにおいても、スロースターターとして知られている。
導入部分の退屈さで、投げられてしまう作品は世の中には多い。
当然と言えば当然である。そのつまらなさが冒頭のまま最後まで続いてしまう可能性を思えば、無理に我慢をする気など起きない。
しかし必ず面白くなると保障されていれば、その序盤の退屈さにも耐えられるのではないだろうか?
バネは縮んだ分だけその力を増す。物語は抑圧された分だけカタルシスが得られる。助走は長ければ長いほど、高い場所へと飛ぶ事が出来る。
ここまで語れば、今回1〜4巻という範囲でちぎらせて頂いている理由もお察し頂けただろう。一気買いである。
4巻分の猶予を持てば必ず途中から面白くなる。しかしそう思い挑んだこちらの予想の、健速氏は遥か上をいっていた。
まだ助走なのである。
4巻分かけて、まだ面白さを隠しているのだ。
これほどまでに長い助走をかけた物語が、いったいどれほどの高みへと達するのかもはや想像も出来ない。
まことに残念ながらここから先を確認することは出来ないが、きっとそれは六畳間などに収まりきらない、広大な面白さとなっているだろう。
あなたもこの物語を読んで、長い長い助走を駆け抜けてみてはいかがだろうか?