ここで何度も褒められてるだけあって、乃木坂春香の秘密はすばらしい本だったな。
高嶺の花とのお嬢様との接点は、二人の間の共通の秘密。
この使い古された設定だが、ここで二人が共有するのは「お嬢様がオタク」という単にそれだけの内容。
主人公側が何ら努力をしてなにかしら技能を修得している必要もなく、何かしら生まれに恵まれる必要もない
ターゲットにしたローティーン層に限りなく優しい設定。
「ひょっとしたら、この主人公に俺が置き換わっても大丈夫なんじゃ!?」
そう期待を持たせて読者を引き込む、ピンポイント設定。
あまりの美少女っぷりを表現するのが、ヒロインの「白銀の星屑」という仰々しい二つ名。
現実的じゃないとかそんなツッコミは遠くの彼方にほうり捨てて、ヒロインが別世界の人間、というのを描写する
ためだけにつけられたあだ名。
そしてクライマックスで二人が迎える最大の危機。
コミケカタログを学校に持ってきてしまい、なんとそれがひと目に触れてしまう大事件。
ここのポイントはちら見しただけで、あのブ厚い物体がナンなのか一瞬で理解し、かつ集団でコミケカタログが
いかなるモノかを囃し立てるクラスメートに驚愕するのではない。
コミケに行った事のないであろうローティーンの読者層にとって、コミケカタログとは「分厚い」「すごい」「人いっぱい」と
いう概念だけが先走った恐ろしいモノであるため、読み手は知らず知らずのうちにクラスメート側に感情移入してしまうのだ。
ここに作者が仕掛けた最大のトリックがある。
そこを主人公が男気を見せて、春香のプライドと体面を守り通す。そうして惚れられて一件落着。
自ら動かずとも、ヒロインのオタク趣味を許容すれば、美人で金持ちで性格が優しい彼女が手に入るという、最近の行動力減衰
した若者に向けられたエコノミックな設定がきらりと光る、ベタ褒めされるのも分かる良小説でした。