1 :
イラストに騙された名無しさん:2006/11/03(金) 10:56:09 ID:w5NCZgXF
暇な時に書き込んで行く。
意見・感想レスも一応可。
2 :
イラストに騙された名無しさん:2006/11/03(金) 10:56:57 ID:w5NCZgXF
どこまでも白銀の世界が広がるシュツットガルドの雪原。
生きる者を拒む無情の原は万年の吹雪に覆われていて
Dr.ゲハルドの探検隊が調査に入るまで誰も立ち入ろうと
しなかった土地でもある。
シュツットガルドを南下した居住可能域では古代の人々が
彼の地で狩りをする様が描かれている壁画やシンボルが残って
いるが今では気候も大分変化してしまった様だ。
その死の平原を渡る二体の生物がいた。
「おい本当に場所は合っているのだろうな。」
心なしか気温と吹雪以外の理由で蒼醒めている黒髪の青年が愚痴る。
「うるさいダミーならこのまま死ぬだけの事だ。」
背の低く相当の齢を重ねた様に見える男は、しかし外見に反して
逞しい身振りと足取りからドワーフだろう。
二人が真偽を巡って言い合っているのはこの地に唯一
分け入ったというDr.ゲハルドの探索図の事である。
3 :
イラストに騙された名無しさん:2006/11/03(金) 10:58:48 ID:w5NCZgXF
スンダルのギルドにある日張り出されていた眉唾物の依頼、
『シュツットガルドの地へ採集に同行する者を望む。
報酬はその成果で以てしかるべき物を払うものとする。
ガンツ』
つまり冒険者達のごく世間一般の常識で言い換えると。
北の地へ死にに行きませんか、
しかも報酬は到底あるとは思えませんが成果がある事を
神にでも祈って下さい。
という事である。
誰がこのトンでも依頼を受けるかという話が
流行の冗談になるぐらい当時のギルドに関わる全ての者が
その依頼を嘲笑していた。
だが一人だけとんでもない気紛れ男が引き受けたのである。
この依頼には夢がある、等と言いつつ・・・それがこの
黒髪の男ブルガリである。
4 :
イラストに騙された名無しさん:2006/11/03(金) 10:59:45 ID:w5NCZgXF
その隣を歩く爺、の様に見えるドワーフのガンツであるが
彼とて世のあらゆる鉱物と創作に使える物質を探すスカベンジャー
であり、更に軽い物なら作製も嗜むアルティザンでもあるのだ。
ゆうに300年はその仕事に携わって来た彼だからこそ
ブルガリも更なる確信を得られたのだがどうも雲行きは怪しく感じる。
どこまでも続く雪原と吹雪に見舞われれば無理もない話なのかも
知れないがたった一つの命を無理もないの一言でぞんざいに扱う
訳にもいかず二人は概ね黙って歩を進めながらも若干の焦燥を
覚えていたのである。
5 :
イラストに騙された名無しさん:2006/11/03(金) 11:00:39 ID:w5NCZgXF
おまけに膨大な時間を人が立ち入らずに経過させてきた責か
この地は何か霊的な力が強い様な気がする。
厳か、畏敬とでも形容すべきか人間が入るのを感覚的に
拒絶し禁忌させるような雰囲気がある。
その静かな恐怖は屑々と広大な雪原を渡る間中二人を取り囲んでいた。
事実雪の化身・眷属が度々襲い掛かって来た。
雪の層の中を自由に泳ぎ回る魚や氷の吐息を纏う白い狼、
雪の巨人や霧のような冷気ガス生命体何でもいる。
これでは死の平原だの呪われた地だの有難くない愛称を頂いても
仕方が無い。駆け出しは勿論中級の冒険者でも充分死ねる危険度だ。
いぶかしみながらもある程度落ち着いて愚痴を吐けるのも
300年物のドワーフと上級の傭兵のパーティ故の行為と言える。
6 :
イラストに騙された名無しさん:2006/11/03(金) 11:01:29 ID:w5NCZgXF
実際に足を踏み入れてみて
ガンツの話では膨大な年月を精霊と共に生きたであろう
この土地ならば稀有な石、例えば上物の精霊石やそれが昇華した
魔法金属級の鉱石は望めそうだという。
こう言うと至極単純で棚ボタな儲け話に聞こえるかも知れないが
大体そのお宝という物は見つからないのが当たり前くらいの代物なのだ。
それは秘境過ぎて滞在が難しかったり守護する者の気配が濃過ぎて
物の怪の類が強力だったり、また単純に順路とでも言うべき侵入路を
まやかしで隠してしまったり、と難易度が非常に高く決して容易ではないという
理由が挙げられる。
その為力場に包まれ伝承にだけ伝わる様な土地や建築物
(往々にして危険な怪奇が引き寄せられダンジョン化しているが)
等を制覇した冒険者は英雄だの勇者だの世界の国々から尊敬を
集める事が出来るのである。
おまけにシュツットガルドの情報というのも
考古学の立場から周辺を調査していたゲハルドが興味本位で雪原に足を踏み入れ
命からがら逃げ帰って来た挙句熱病に浮かされながら呟いた言葉が根拠になっている。
故に命を懸けるには余りにも馬鹿らしく笑い話としか扱われてこなかったのだ。
だからこそガンツの依頼を皆笑ったのだ。
7 :
イラストに騙された名無しさん:2006/11/03(金) 11:02:16 ID:w5NCZgXF
だがガンツが探索を決意したのは
稀有な鉱物を入手するという夢もあるが
自身の長年に渡る冒険で身に付けてきた実力と経験と自信も後押した
のもあるし、何よりゲハルドの探索図の入手元が博士の家族という事
が大きい。
信頼出来そうな人物に渡し、ゲハルドの汚名を返上し
雪原地下への侵入路発見によって彼の名誉を挽回したいというのが
その理由らしい。
ガンツはスカベンジャーだし300年のキャリアもある。
悲願を託されてもおかしくはないのである。
という話をガンツに何べんも繰り返されているが
その肝心の入り口が全然見えてこない現状にブルガリは
愚痴を吐いているのである。
「見えて来るのは真っ白な雪と珍しい氷の物の怪ばっかりで、
俺はとても楽しいよガンツ!鈍っていた体もほぐれるし実に
愉快だ。」
「ふん、そうだろうな。酒と女にどっぷり浸かった人間にはいい
運動だろうよ。誰かさんは知らんがドワーフにはこの程度の寒
さ等どうということもないしな。全く素晴らしい旅だわい。」
眉一つ動かさず平然と返すドワーフを傍目にくそ、不公平だと
ブルガリは呟いた。何ともなさそうでもやはり力場で凍結された
死の大地は過酷だ。
更に何が起こってもおかしくない得体の知れぬ霊場だけに別の寒
気すらする。
8 :
イラストに騙された名無しさん:2006/11/03(金) 11:02:58 ID:w5NCZgXF
テントでは飛ばされてしまうので雪を踏み固め真中を刳り貫く
所謂かまくらを作って夜を越す。
とは言え相当に緯度が高く夜というよりは薄明るい白夜である。
ガンツの話によると星の位置からしてもう到達しても良い頃なの
だが大地の裂け目は見えない。
話によると温泉か地熱によって蒸気と共に底の見えない地裂があ
ったというのだが何せ生還したのはゲハルドだけだしその上その
生き証唯一の生き証人も熱に浮かされて死去したという有様であ
る。情報の信用度は怪しい物だがガンツの満足行くまで探索に付
き合うしかないだろう。
交替で番をして眠りに付いた後マーレット社製の冒険用品
ヒデール(携帯用コンロである)で雪を溶かし沸かした干し肉入り
スープを作で腹ごしらえをする。
ドワーフらしく工作以外に料理も得意なガンツがスパイスやら隠
し味を入れ作り上げた逸品は野宿の食事とは思えない旨さだ。
年季が違うからなとにやり笑うその姿はさすが歴戦のスカベンジ
ャーといった所だろう。戦闘でも背丈より高い戦斧を豪快に、し
かし巧みに振り回し冒険の供にはとても頼れる存在だ。
外に出てみると夏の様に激しく照りつける太陽と雪原の反射光で
眩しい白銀の世界が広がっていた。空は晴天なのだがいずこから
か激しい吹雪が吹き付けて来る。
シュツットガルドに足を踏み入れて以来ずっとこんな調子なのだ。
9 :
イラストに騙された名無しさん:2006/11/03(金) 11:03:41 ID:w5NCZgXF
外の光景は相変わらずなのだが怪奇の襲来頻度と手強さが明らかに
上がっている。前はしばらく平穏状態を挟んだりもしたのだが夜を
越ししばらく進んでからはシュツットガルドに足を踏み入れて以来
初めて見る種類が混ざるようになり、ほとんど戦闘をしながら進ま
なければならない状態になった。
どうやら近い、と確信を深めながらブルガリのエンチャントされた
戦弓が雪で出来た大型犬くらいの小さな雪の竜を射抜く。
派手に吹き飛びながら何体もの雪の生物が次々と活動を停止させら
れ、近づいて来た物はガンツの戦斧で粉々に砕かれた。
材質が雪とはいえ相手は竜でブレスもダイヤの様に凍った爪も喰ら
えばただでは済まない。まさしく魔物と言える獰猛さで溢れるバイ
タリティーを以て激しく襲い掛かって来る。
どこから沸いて来るのか視界一杯に点在するそれらを高度に集中さ
れた攻撃を以て撃破する。多分打ち所が悪ければ金属の武器とはい
え竜という強力な魔物の眷属である彼等の鱗には弾かれてしまうだ
ろう。エンチャントされた殺戮の為の武器、それに持ち主の力量が
合わさってこの殺傷能力が生まれているのだ。
10 :
イラストに騙された名無しさん:2006/11/03(金) 11:04:25 ID:w5NCZgXF
不思議な光に燃える矢が次々に魔物の群れを構成する点を貫き爆発すれば
生きているかの様な戦斧が鋭い軌道を描き近寄る雪竜を爆破する。
二人の冒険者の戦う姿はさながら英雄譚に出て来る一枚絵の様なカリスマ
があった。無駄のない動きと鍛え上げられた激しい戦闘能力がもたらす結
果である。
しばらく強行するうちにとうとう眼前の大地が真っ暗な口腔を開けた。
「どうやら着いた様だな!少しは休ませてもらえるかね。」
「ははは!休んでいられないくらいのお宝で溢れ返っておるだろうよ!」
二人は一気に駆け抜け岸壁に突き出た足場に向けて身を躍らせた。
向こうの方に緩いスロープもあったのだが兎に角この魔物の群れから抜け
出したかったのだろう。
ブーツの金属と足場の岩が織り成す激音を穴倉に響かせつつ降りれる所ま
で飛び降りるとどうやら淵にあったスロープと合流している道と足場が合
流しており、魔物達もそこには居ない様子だった。
ブルガリはコシュレム社製の揺れても消えないという携帯ランタンを取り
出し腰に括りつけた。やはり冒険にはこういう便利グッズが重宝する。
昔は様々な系統の術士の能力を借りねば困難な時代もあったのだが文明の
発達は冒険者達の活動範囲を押し広げたのである。
11 :
イラストに騙された名無しさん:2006/11/03(金) 11:05:16 ID:w5NCZgXF
ガンツも体にランプを結びつけているが発光量が多く遠くまで照らしてい
た。どこの会社の商品か聞いてみると自分で作った物らしい。
アルティザンは戦闘よりは制作や創造に興味を持つのでガンツのように冒
険用品会社に雇われないで世界を旅する者は少ない。雇われ人になるかラ
ボを作り毎日コツコツ研究や実務をこなすドワーフが多いからであるが、
スカベンジャーとアルティザンの二束の草鞋を履く者が少ないという方が
正確かも知れない。
二つの光源に照らされた氷の洞窟は幻想的な光景を醸しだしていた。
更に何本もの氷柱が高く天井を押し上げている様子からこの洞窟は地下水
脈から伸びた巨大な霜柱によって形成されているらしい。
入り口になった大地の裂け目も途方も無い冷気によって形成された霜柱が
地下から地表を突き破って出来たのだろう。
裂けた大地に高低差が出来ていたのもその証拠になるかも知れない。
12 :
イラストに騙された名無しさん:2006/11/03(金) 11:05:58 ID:w5NCZgXF
「どうだお目当ての物はありそうなのか?」
辺りを見回し傷薬を塗り付けながらブルガリが聞いた。
ゴーグルの具合を見ていたガンツはしばし考えた後答えた。
「うむ稀少な物が眠っているはずだ。証拠に見ろこの洞窟の様子を。
異常な力場でこの中はおかしくなってしまっておるわ。
これだけの場所に万年の作用を受け続けた鉱物・・・期待出来る。」
暫く戦い続けた体を休ませた後二人は探索に発った。
13 :
イラストに騙された名無しさん:2006/11/03(金) 11:06:57 ID:w5NCZgXF
5時間程地下へ降りただろうか。
巨大な霜柱とそれにこびりついた土壌を伝い下へ降りて行くと
無数の噴き出した冷気の筋が目に見えて空気を歪ませている。
尋常ではない世界の顕現だった。
その中心部にランタンの光ではなく恒星の様に自ら光輝している
氷の塊が無限に地下へ続いておりどこまでも落ちて行きそうな光
景が広がっていた。
そして異世界の力の顕現の最も象徴的な物がその光る氷の床に陣
取っていた。メタリックに輝くブルーの鱗とシュツットガルドの
雪原を思わせる白銀の鱗。異常に白目が大きく黒目が点の様に小
さい目はどこか冥府の生物を思わせた。
「人生で最も会いたくない物に再見してしまったぞ・・・。」
「俺は初めてだがね・・・。」
二人の眼下に『広がって』いたのは今5時間かけて這い降りてきた
霜柱程ある本物のアイスドラゴンだった。
「王国の戦力を挙げて勝てるかどうかだな。まず国が凍り漬けに
なってしまいそうではあるが。」
「採掘出来れば戦う必要等無いのだが・・・奴の腹の下とは何たる
不運か。どうの仕様もないわ。」
この世の神秘と神の悪戯を目の当たりにし、二人は立ち尽くした。
14 :
イラストに騙された名無しさん:2006/11/03(金) 11:07:37 ID:w5NCZgXF
そしてふとブルガリは採掘方法に疑問が沸いた。
「ダイヤはダイヤの粉で研磨するが・・・この金属はどうやって
掘り出すつもりなのだ?」
ガンツの答えによると採取する場合はエンチャントで硬度と切れ
味だけを極限に向上させた鑿と玄翁で簡単に切り出せるそうだ。
ただし極度の指向性の為に規定外の方向から加わった力に弱くな
り柄の横から割れてしまったりする為扱いには職人の手が必要だ
とか。
「ならば俺が時間を稼ごう。その間に精一杯持ち運べるだけ切り
出してくれ。」
世界の終わりでも象徴するかのような禍々しいあのドラゴンを見
て良くそんな気になるとガンツは素直に感心した。そして自らも
リスクを背負い挑戦する事を決めたのだった。
15 :
イラストに騙された名無しさん:2006/11/03(金) 11:08:08 ID:w5NCZgXF
霜柱の中間層によじ登ったブルガリは矢をつがえ戦弓を引いた。
ビシュッァ!というオーラを纏った発射音と共に矢が氷竜の目に
直撃した。が、ギャンッ!という衝突音と共に跳弾してしまった
様だ。(おいおい冗談ではないぞ)と冷や汗が背を伝う。
跳ねた矢がガンツに当たっていない事を祈るばかりだが人の心配
ばかりしてはいられない。発射方向に米粒より小さい影を見た氷
竜が胸を目一杯に膨らませ何かのブレスを爆発させた。
嵐の夜に少しだけ窓をずらした様な凄まじく鋭い音が縦穴全域に
共鳴して耳を劈いた。
一瞬で危機を感じ出来るだけ遠くの足場へ跳躍したブルガリだが
その僅かコンマ何秒か後山のような高さの氷柱が爆音の中砕け散
った。ブレスの正体は何らかのメカニズムで生み出された絶対零
度に近い物に違いない。原子振動が極端に落ち込み凝縮を開始し
た空気が真空を作ったのだ。
顔の皮膚が破けて出血しているし目を開けているだけで酷く痛む。
残った足場で必死に跳躍しながらブルガリは縦穴の入り口に辿り
着いた。
16 :
イラストに騙された名無しさん:2006/11/03(金) 11:09:52 ID:w5NCZgXF
ここまでは別の掲示板に書いた分。
>>1 ●板違いの話題は移動ないし削除されることがあります。
あなたの話題にしたいことに応じた板を選びましょう。
★ライトノベル以外の本の話題――
【文学板】【ミステリー板】【SF・Fantasy・Horror板】【一般書籍板】【絵本板】【児童書板】
★ネット小説・同人誌――【創作文芸板】【同人板】
★成人指定な本――【エロ漫画・小説板】【801板】など。
この場合は創作文芸板
http://book3.2ch.net/bun/かな?
移動よろしく
落雷の様に本能的に恐怖を呼び起こす強烈な破砕音を響かせながら
氷竜が地底を裂いて登って来るのを背後に感じながらブルガリは努
めて冷静に考えた。このまま侵入路に戻れたとて外には雪原の化物
共が群れているし雪上を強行突破するには無理がある。多分シュツ
ットガルドを抜ける前に凍死か過労、若しくは追撃者の死のブレス
で粉々に砕けてしまうだろう。この戦弓を引いたオーラの矢ですら
眼の粘膜程度にも傷を付けられない現状では相手を負傷させて動き
を止める事も難しいだろう。
(考えろ、何か切り抜ける手段があるはずだ!)
焦る心を抑え付けつつ背後の爆音から必死で逃走する。