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『扉の外』
本書は電撃文庫新時代の到来を告げる記念碑的作品である。
諸君らは覚えているであろうか。第一回電撃ゲーム小説大賞「金賞」が高畑京一郎氏であったことを。
まさにゲーム小説にふさわしいテーマとメッセージ性を持った作品であった。
『扉の外』にはそれに通ずるものがある。
1閉鎖空間に閉じこめられた者達のドラマ
2戦略性を要するゲーム的要素
3人ならざる者に支配される不条理さ(しかしそれは人が人を支配するより合理的であることが皮肉である)
4文書という媒体で思考実験をしている点
5原題と発売時のタイトルが違う点
ここでは4について考察する。他の読者から指摘されているように本書は「囚人のディレンマ」について取り扱っている。
しかし、それだけではない。
情報というものの有用性。小社会においても支配者が存在するという原始共産制の否定。何処まで逃げてもつきまとう人間関係。
作者の土橋氏はこれに正面から向かい合っている。これほどのテーマ性を持った小説が電撃から出ることは異常なことである。
ところで、原題が『もしも人工知能が世界を支配していた場合のシミュレーションケース1』であったということはご存じだろうか。
「ケース1」
すなわち続編が存在するのである。同氏の今後の動向に期待したい。
「ハードカバー」若しくは「イラスト無し路線」のきっかけとなった御影瑛路氏のようにならないことを切に願う御影
『扉の外』(土橋真二郎 電撃文庫)
皆さんは電撃小説大賞を御存知だろうか?
ライトノベル界隈で絶大なシェアを誇る電撃文庫。その新人賞である。
今回は、今年度の金賞受賞作である『扉の外』を紹介しよう。
なお、あらすじは上にある褒めちぎりや電撃スレを読んで頂きたい。
「扉の外? ああ読んだよ。あれは興味深い小説だったね」
そう言うのは、電撃文庫を創刊から全て読んでいるという驚異の男、
ブンコー・エレキトリック氏(46歳)だ。
「電撃の缶詰にあったタイトルを見た瞬間、ピンと来るものがあってね。
ケツバット以上に目を引かれたよ」
扉の外の投稿時のタイトルは、『もしも人工知能が世界を支配していた場合のシミュレーションケース1』。
何でもありが信条の電撃文庫らしい、奇抜なタイトルだ。
では、肝心の内容についてブンコー氏に聞いてみよう。
「扉の外を一語で表すとしたら、そうだなあ、――これなんてエロゲ? だな」
と言うと?
「作中、いくつかのエロゲチックポイント(注:ブンコー氏の造語)がある。
一つ。主人公が同級生の少女と性交渉を持つ。周りに他のクラスメイトがいる状態で、だ。
しかし彼らが主人公たちに干渉することはなく、衆人環視の元でも問題無くギシアンできるのさ」
電撃文庫の主要読者である、青少年へのアピールは完璧らしい。
「二つ目は地の文。体言止めやぶつ切れの文章が多い。
また文章の視点も、『主人公寄りの三人称視点』というやつだ。
これは灼眼のシャナ等ライトノベルでもよく見られるが、エロゲーにもわりと多い。
土橋はどういう文章が少年少女にウケるのかよく勉強しているようだ」
では、三つ目はどうなのか。
取材陣が尋ねると、――次の瞬間!!!!!
>594
箇条書き部分を読んで「4からなにやら爆薬の匂いが」と思ったらやっぱり
そこがポイントかw
なんとブンコー氏は、テーブルの上の扉の外に振り上げた拳を叩きつけたのだ!!
「最後は、そう、――ストーリーそのものさ。
主人公たちはシェルターから脱出するにはするが、その先は無い。迷路の行き止まりみたいなものだ。
主人公とヒロインのツンデレ少女が、二人で立ち尽くす。
そして出す結論が、『たったひとつの真実は、私たちがここにいる。それだけなのかもしれない』。
ハッ! 何も解決しちゃいない!」
ブンコー氏は声を荒げたが、また元のニヤニヤ笑いを始めた。
「しかし、解決させないことがこの場合正解なのさ。判るかい?」
そう言われても、判るわけがない。
「作者の土橋は、俺たち全国一千万のワナビに二重の挑戦状を叩きつけたのさ。
『こんな終わり方でも金賞は取れる』。そして、『お前らにこの続きが書けるかい?』だ。
俺は今、亜実タンが氷室に寝取られる続編と蒼井陵辱モノの続編を書き始めている。
書き上げたらどこかにうpするつもりだ」
にわかにブンコー氏の語りが熱を帯びてきた。
それにしてもこのオヤジ、ノリノリである。
「扉の外は、間違い無く今期随一の物語だ。ミミズクも世界平和も、ケツバットも目じゃねえな。
俺も二ヵ月後の次回大賞締め切りに向けて、エロゲ千時間マラソンの修行を始めている。
次の大賞では、必ず大賞を受賞してやる。そしてパーティーの席で土橋に言ってやるのさ。
『よおマイフレンド。てめぇのメッセージ、確かに受け取ったぜ』ってな」
以上、電撃文庫研究家兼ワナビのブンコー・エレキトリック氏でした。
598 :
590:2007/02/11(日) 00:21:38 ID:EpoMEbx+
>>597 >>「作者の土橋は、俺たち全国一千万のワナビに二重の挑戦状を叩きつけたのさ。
『こんな終わり方でも金賞は取れる』。そして、『お前らにこの続きが書けるかい?』だ。
流水大説みたいだ
599 :
1/2:2007/02/11(日) 00:22:59 ID:tDR3ZV8Z
『世界平和は一家団欒の後に』(橋本和也 電撃文庫)
ラ板住人諸氏は、『セカイ系』という単語を聞いたことくらいはあると思う。
wikipediaから引用すると、
『主人公らの人間関係・内面的葛藤・行動等が社会を経ずに世界に直接影響する作品』である。
代表的なものとして、涼宮ハルヒ等がある。
この『世界平和は一家団欒の後に』は、金賞受賞作だけあって非常に見るべき所が多い。
特に注目したいのが、セカイ系へのアンチテーゼとしか思えない設定とストーリーである。
この世界では、世界の危機は一山いくらでそこら中に転がっている。
主人公属する星弓一家(現在七人)は家族全員が人知を超越した能力を備えており、
それでもって世界の危機を解決し続けている。
他人にバレたらどうなるというわけではなく、彼らにとって世界の平和を守ることこそが日常である。
主人公である長男星弓軋人は、七年前に三女軋奈を誤って殺してしまったというトラウマを持っている。
そのことが原因で、軋人は二度ほど家族喧嘩をするハメに陥る。
一度目は弟の次男刻人と。二度目は妹の四女美智乃と。
どちらとの喧嘩も世界の平和を揺るがすような事態になってしまうのだが、
心理的にはともあれ物理的にはあっさりと解決する。
そして軋人は、「世界を救うなんてアホなことは、俺と、俺の家族を救った後ですればいい」
とトラウマを乗り越えるのだ。
600 :
2/2:2007/02/11(日) 00:25:02 ID:tDR3ZV8Z
『親しい人を救うことでセカイを救う』のがセカイ系だが、
『世界を救うことで自分と親しい人を救う』と発想を逆転させたのが、この『世界平和〜』である。
その過程において、胸躍るような冒険譚や心ときめかせる恋愛譚は不必要、邪魔でしかない。
世界平和は労せずして守れるのが星弓家。
家族間に恋愛感情などエロ漫画でもないのに有り得ない。
故に作者は、ストイックなまでに軋人の内面描写に力と文章を割いた。
昨今のライトノベルでは珍しいほどの内面描写は、
感情移入した読者に感動を与えること間違い無しである。
セカイを救うのに、何も風が聖痕だったり禁書が目録で幻想を殺す必要なんか無い。
作中ヒロインのツンデレ(not家族)が出てきても、巨人が暴れる夢の中で彼女とキスをする必要も無い。
ただ、家族と自分を守りさえすれば世界は救える。ついでにツンデレヒロインもゲットできる。
セカイ系の新天地を開拓するこの小説に、私はマキゾエホリックを読んだ時の感動を思い出した。
あの時と同じように、私は読了後感動のあまり体の震えが止まらず、本を何度も落としてしまった。
家族の喧嘩と和解というテーマだけで一冊の長編を書き、金賞を受賞した驚異の男、橋本和也。
『世界平和〜』の続編が夏には出版されるそうだが、小心者の私にはとても買えそうにない。
十傑衆に後を託し、私はこの褒めちぎりを残して去ることにする。