こんなマリみては嫌だ45 Carmen 能 Act. less編
黄薔薇のつぼみの不在
八月の中ごろのある日。
秋葉原は静かだった。
いや、秋葉原だけではない。日本全体が、どこかひっそりとしている。
ヲタがいない。それだけのことなのに。
20万人。それは、1億2千7百万人以上ある日本人口全体から見れば、たいした数ではないかもしれない。
けれど、そこにいつもいるヲタたちがごっそりといなくなってしまえば、やはり閑散という表現がピッタリはまる。
放課後、黄薔薇さまである鳥居江利子は、薔薇の館で一人お茶を飲んでいた。
静かだ。
令はいない。夏コミに逝っている。
勿論写真部のエース・蔦子も逝っている。
理由は言わずもがなである。
「あら、ロサ・フェティダ…今日はあなた独り?」
「ごきげんよう、ロサ・キネンシス」
「ごきげんよう」
ぐるりと見回しても誰の気配もない。
「令は毎年恒例、いつものところへ行ったわ」
「…あぁ、コミケだっけ? 由乃ちゃんも行ったのかしら?」
「知らない」
外ではセミが元気に鳴いている。
蓉子が自分のお茶を持って席に座った。何を話すでもなく二人でお茶を飲む。
「今日は祥子と祐巳ちゃんは来ないの?」
「え? あぁ、今日はデートだって。祐巳ちゃん映画を見るってはしゃいでいたわ」
「映画?」
「えーっと…ゲド戦記っていったかしら」
「そう…喧嘩しなきゃいいわね」
江利子がぽつりとつぶやく。
「先週、山辺さんが誘ってくださったのよ、ソレ」
「観に行ったの? 面白かった?」
「…知らない」