『半分の月がのぼる空2』 橋本紡 電撃文庫
『わかっているぞ。
俺はわかっている。
おそらく、誰もが見過してしまうだろうが、俺は違う。
気付いたぜ。
うれしいか?うれしいよなぁ――。
今まで誰にも認められなかった技を、俺が見切ってやったんだ。
俺だけだ。
俺だけが、お前という男を受けとめてやれるのだ。
俺も、うれしいぜ。
うれしくてうれしくて、イッちまいそうだよ――。
さあ、やるか――
心地よい夜風の中、聞こえていた蟋蟀の鳴き声が止んだ。
それが、合図だった。』
半分の月がのぼる空。
それは病院を舞台にしてはいるが、その実態はルチャが、医者が、患者が、看護婦が、
一切のけれん無しでガチの殴り合いを演じる、今どき珍しいほどピュアな格闘劇である。
深夜の血闘。
ぶつかり合う男の意地。
エキサイトする医者。
倒れた相手への容赦ない追撃。
──弱点を狙うのは闘技者の常。まして人体を知り尽くした医者が、
相手の弱点である肝臓をこれでもかと蹴るのは、むしろ当然の領域だろう。
拳と拳が、鋭い膝が、巨体が、煩悩が、そしてみかんが、縦横無尽に紙面を飛び交うのだ。
男として生まれて、これに興奮しないものはいないと言い切っていい。
でも人から借りた本はもう少し丁寧に扱った方がいいと思う。そこだけが難点か。