ラノベ・ロワイアル Part4

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278・――意志は壁を穿つ。(1/4) ◆J0mAROIq3E :2005/05/16(月) 00:07:18 ID:up/tus9E
 ――072新庄・運切――
 その名は何の感慨もなく、無機質な声で頭に響いた。

 予め、感じてはいた
 詠子の言葉と得体の知れない胸の痛み。
 予め、考えてはいた。
 傷つけることを躊躇う新庄の正しさが、このゲームでは裏目に出ることを。
 ただ一つ。
 心臓を抉られるようなこの痛みだけは、予測できなかった。

「くっ……ぅ……」
 悲しみは脳へ到達する前に胸で激痛へと置換された。
 たまらず地へと崩れ落ち、アスファルトに強く五指を立てる。
 顔色は死人に等しく、滴る汗が路面を濡らす。
「大丈夫?」
 ――なに心配は無用だ。君の知人は息災かね?
 そう言おうと開いた口からは、引きつれた息だけが漏れた。
 認めてしまおう。
 元よりこの女性に心を隠すことはできない。
 ましてや心に亜(に)たものしか持たない役――悪役たる自分が何を隠せるものか。
「詠子君……申し訳ないが、少しばかり周囲を見回ってきてはいただけないだろうか」
 何も言わず、聞かず、詠子は頷いた。
279・――意志は壁を穿つ。(2/4) ◆J0mAROIq3E :2005/05/16(月) 00:08:18 ID:up/tus9E
 新庄・運切。
 その名から思い出される数々の言葉と光景。
 悪役の対極に立つ人。おかしく、有り難い人。共に在りたい人。
 初めての出会い。聖歌・清しこの夜。
 運と切。二つの体。両親を求める記憶喪失の子供。
 根性シューター。人を撃てない優しさ。人を殺せない正しさ。
 長い黒髪。胸から尻、腿の丸さとその手触り。
 照れた頬、はにかむ唇、触れる指先、自分へ紡がれる無数の言葉と想い。

「すまない新庄君。……君の死を、防げなかった」
 意志に反して流れる涙を指で拭う。
 ああ、決して忘れまい。忘れるものか。
 あらゆる瞬間の新庄を。今のこの感情を。これまでの想いを。
 だが、今立ち止まることは許されない。
 新庄が死んでもこの狂ったゲームは少しも変わらない。だから。
「――止めてみせよう」
 嘆きも後悔も、全ては後だ。
 持てる力の全てを以て、自分以外の全ての人間の力を以て。
 脅し利用し騙すことさえ厭わず、この島の歪みを変形するほどに矯正して。
 この馬鹿げた篩を壊し、黒幕連中に教訓を与えよう。
 悪役として。しかし、新庄の望んだであろう形で。
 それが出来なければ、自分に悪役を名乗る資格などありはしない。
 それだけが――今の自分が送れる、最大の手向けなのだから。 
280・――意志は壁を穿つ。(3/4) ◆J0mAROIq3E :2005/05/16(月) 00:09:44 ID:up/tus9E
「……もう、いいかな?」
 立ち上がる背中に詠子の声がかかる。
「ああ。私は前へ進む。何もかもを切り捨てず、進撃する。
 私は人を傷つけることを厭わず、しかし誰も殺さず、主催者さえ殺さずにこのゲームを止める」
 決意の表れを口にする。流す涙は既にない。
 全てを終えるまで意志を貫き通すと、その声が告げている。
「差し当たって、先ほどの放送の内容を教えてもらえるかね?
 恥ずかしながら聞き逃してしまったのでね」
 顔色は悪いままに、言葉はもはや落ち着いている。
「……やっぱり凄いね、『裏返しの法典』君は。自分の優しさと弱さにさえ容赦しないんだから」
 呆れたような称賛するような言葉をこぼし、詠子はマークした名簿と地図を見せた。

「オドー大佐まで、か。聞こえてはいたがにわかには信じられなかったよ。
 生身で機竜の編隊と渡り合える超人が、とはね」
 彼は己の正義に殉じられただろうか、と答えのない問いを想う。
「それじゃあ、そこまでの力を持たない私たちは諦めるのかな?」
 試すような詠子の問いを、佐山は首の一振りで否定。
「断じて否、だ。愚問だね詠子君。私は殺人者も主催者も殺す気はなく、しかし許さず容赦もしない。
 諦めなどその辺にかなぐり捨て、余剰スペースに前進の意志を込めたまえ。
 私はこれより全力で動き始める。同行の危険は今までより大きいかもしれないが……ついてくるかね?」
「それもまた愚問だね。私はあなたが気に入ったの。
 欠けて傷ついて、それでも折れず破れないあなたの魂を私は尊敬するよ。
 あなたは生き続ける限り物語であり続ける。だから、私は最後まで法典君の味方だよ」
 誰にも理解できない理由で、魔女は契約の言葉を口にした。
281・――意志は壁を穿つ。(4/4) ◆J0mAROIq3E :2005/05/16(月) 00:10:26 ID:/EFhPitW
 詠子の言葉に力強く頷き、佐山は懐から一枚の紙片を取り出す。
『ついては君の“魔女”としての力を借りたい。
 君の企んでいること隠していること、全て吐きたまえ。利用させてもらう』
 確信に満ちた笑みを詠子は否定しなかった。
「……ばれちゃってたんだねぇ」
 微かに恥ずかしそうに小首を傾げ、魔女は目だけで満面の笑みを浮かべた。

【C-6/小市街/1日目・12:10】

『Missing Chronicle』
【佐山御言】
[状態]:精神的打撃(親族の話に加え、新庄の話で狭心症が起こる可能性あり)
[装備]:Eマグ、閃光手榴弾一個
[道具]:デイパック(支給品一式、食料が若干減)、地下水脈の地図
[思考]:1.風見、出雲と合流。2.詠子の能力を最大限に利用。3.地下が気になる。
【十叶詠子】
[状態]:健康
[装備]:魔女の短剣、『物語』を記した幾枚かの紙片
[道具]:デイパック(支給品一式、食料が若干減)
[思考]:1.佐山に異界の説明(ただし常人に理解可能な説明ができるかは不明)
     2.物語を記した紙を随所に配置し、世界をさかしまの異界に。
282大佐の決意 ◆RG9zhxsXMI :2005/05/16(月) 00:23:48 ID:7KGU6M60
しずくは泣きながら草原を駆けていた。
もうどうしていいかわからない…だから早く私を見つけて欲しい…でも
彼女の脳裏に宗介の悲痛な表情が浮かぶ…ダメだ言えない。
例えBBや火乃香さんたちにも…一体どうしたらいいの?私一人じゃ抱えきれないよこんなの。
八方塞がりの中、彼女が出来たこと、それはただ野を駆けることだけだった。
見た目に反して頑丈な身体を精一杯動かし、林の中を藪を走る。

気がつくとそこにはムンク小屋があった。

「どうしましょう…」
テッサは小屋の外で頭を抱えていた。
中からはリナとダナティアの口論が聞こえてくる。
本来ならば止めねばならないのだが、彼女らが自分の言葉を聞くとは思えない。

なぜならば彼女らは自分と違い、直接戦場に立ち戦場の匂いを肌で感じ生きている存在。
いかに軍人とはいえ基本的には安全なブリッジの中で命令を下すだけの自分の
言葉が通じるとは思えなかった。
「サガラさん…」
彼女は今、一番そばにいて欲しい人の名前を呼ぶ。
彼は今何をしているのだろう?かなめさんをやはり探しているのだろうか?
もしかすると一緒にいるのかもしれない…。
そう思うと胸が痛んだ、どうして?
そんな時だった…わずかな声が耳に入る。
「ソースケさん」
テッサは声の聞こえた茂みの中に目をやる、そこにはまだ年端のいかない子供が
目を真っ赤にしてさめざめと泣いていた。
283大佐の決意 ◆RG9zhxsXMI :2005/05/16(月) 00:27:45 ID:7KGU6M60
「そんなことが…」
しずくの語る内容はまさに晴天の霹靂だった。
かなめが敵の手におち、そして宗介がその敵の手先とならざるを得ない状況に陥っている。
リナたちに早く教えなければ…いやそれは危険だ。
下手を打てば宗介の命が危なくなる、彼女らは別に宗介のことなどただの他人でしかない。
それに迷惑は掛けられない、彼女らには自分と違い人々を救える明確な力が、
そして大切な役目があるのだ。
これは自分の問題…少なくともかなめに接触し、何らか情報を引き出すことができれば
また状況は変わる、リナやベルガーらに相談するのはその後だ。
「場所はわかるんですね?」
「はい」
地図を見るテッサ、ここまで正確な位置がわかれば、接近し共振を試みることが出来る。
かなり危険な賭けだが、やらねばならない。
今こそ自分が彼らを救わなければ…。


だが…彼女は心の奥底で思う。
情けないと、何故彼女は、かなめは自ら死を選ばなかったのだろうかと。
(私なら…サガラさんの負担になるくらいなら命を絶つのに)
自分にもその覚悟があるのに…でも彼は彼女を選んだ…。
一抹の寂しさを抱えつつも、テッサは携帯電話を軒先に置き、
必ず戻ります、心配しないでとメモを残し
しずくと共にムンク小屋を後にした。
284大佐の決意 ◆RG9zhxsXMI :2005/05/16(月) 00:31:45 ID:7KGU6M60
【しずく】
【状態】機能異常はないがセンサーが上手く働かない。
【装備】エスカリボルグ。(撲殺天使ドクロちゃん)
【道具】荷物一式。
【思考】テッサを教会に案内

【テレサ・テスタロッサ】
[状態]:やや焦っている
[装備]:UCAT戦闘服
[道具]:デイバッグ(支給品一式)
[思考]:教会に向かいかなめに『共振』を試みる。

【G-5/12:40】
285生きろ生きろ生きろ生きろ生きろ ◆lmrmar5YFk :2005/05/16(月) 00:49:03 ID:GHvqjN7o
どくどくどくどくどくどくどくどく。
腹の穴から血が流れていく。
どくどくどくどくどくどくどくどくどく。
意識が朦朧とする。
どくどくどくどくどくどくどくどくどくどく。
目が霞んできた。
どくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどく。
流出する血の量は次第に多くなっていく。

俺は死ぬのか? 胸中で一人自問自答する。いいや、正確には自問だけだ。答えは出ない。
むしろ分かりきっていて出す気にもなりゃしねぇ。 この傷は――そのうち死ぬ。
臨也の糞を殺しておきたかったなぁとか、あの赤毛の野郎を殺しておきたかったなぁとか、
でかいおっさんを殺しておきたかったなぁとか、くだらねぇゲームの主催者を殺しておきたかったなぁとか。
そんな事ばかりが縦横無尽に脳内を駆け巡る。
死の間際にも他者を殺すことしか思いつかない自分が、馬鹿みたいだと思った。
死の間際にも他者を貶すことしか思いつかない自分が、最低だと思った。
そして、死の間際にも自分が自分であるという単純なことが、最高だと思った。

目蓋が鉄を乗せられたように重い。目を閉じて眠ってしまいたい欲求にかられる。
寝たら死ぬかな、と考える。こちらの方も感じ取れる答えは簡単すぎて、わざわざ単語に置換するのが面倒だ。
だが、それでもいいと思う自分がどこかにいる。
俺の中の弱い部分。臆病で臆病で己にすら怯えている、親とはぐれたガキのような部分。
人には決して見せられない心の奥底で、そいつが甘い声を上げて俺を誘惑する。
286大佐の決意 ◆RG9zhxsXMI :2005/05/16(月) 00:49:18 ID:7KGU6M60
>>282-284
はNGとさせていただきます、ご迷惑おかけしました。
287生きろ生きろ生きろ生きろ生きろ ◆lmrmar5YFk :2005/05/16(月) 00:49:45 ID:GHvqjN7o
――もういいだろう、平和島静雄。これでやっとお前はその馬鹿な身体とおさらばできる。
なかなかお前の言うとおりになってくれなかった、力だけは無駄にある最低最悪の身体。
人を傷つけて、恐れさせた身体。お前自身まで怖がっていた、憎んでいた身体。
死ねば、やっとそいつから逃げ出せられるんだぜ? ほら、力を抜けよ――。

鎌を振るった死神が、俺に向けておいでおいでと手招きをする。先に見えるのは、奈落の闇。
その誘いに、ああ、そうかもなと俺は応える。そうだ。俺は今まで何度もこの身体に悩んできた。
自分の物なのに自分の思い通りにならない筋肉を、神経を、髪から足の爪の先までの全てを嫌悪していた。
数え切れないほどの人を傷つけてきた、守りたかった人すらも離れさせた拳の力。
それを捨てられるなら、死ぬのも悪くねぇかもな。けど……。
「……俺はなぁ、もうてめぇの言いなりにはならねぇんだよぉ!」
絶叫して俺は両足に力を込めた。膝ががたがたと震える。
思考停止は何よりも馬鹿らしい。諦めるな。止まるな。生きろ。生きろ生きろ生きろ生きろ生きろ生きろ!
糞下らねぇ俺の身体さんよ。こんな時に使い物にならねぇで一体いつ有効に使えるってんだ。
動け。俺の命令どおりに動きやがれ。歩いて歩いて、血反吐吐いてぶっ倒れる瞬間まで歩きやがれ!
咆哮のような命令に足は応えた。大丈夫だ、これなら十分に動ける。
刺さったままだった槍の柄を握って力任せに抜き取ると、ごぽぅっと耳をふさぎたくなるような音がした。
腹部に走った激痛を、意志の力で無理やり押さえ込む。
そうさ。『痛くはない』。ぶっ飛んだアドレナリンが、俺に痛みんか感じさせずにいてくれる。
シャツの袖を引きちぎって適当に腹に巻きつける。ぎゅっときつく縛ると、布地に黒々と血の染みが生まれた。
抜いた血濡れの槍を杖代わりに床に突き立てると、そのまま一歩足を前に出す。
息が切れる。ぜぇはぁと。吸っても吸っても肺に空気が溜まらない。
前進するたびに鈍痛が下腹をしたたかに襲うのを無視して、俺は歩みを速める。
288生きろ生きろ生きろ生きろ生きろ ◆lmrmar5YFk :2005/05/16(月) 00:51:00 ID:GHvqjN7o
俺を好きほど痛めつけてくれた赤毛の男は、いつのまにかこの場を去っている。
糞、あいつはそのうちぜってぇぶっ殺してやる。余裕な顔しやがって、何様のつもりだ。死ね。
俺が殴ったおっさんの方はまだ脇に倒れたままだったが、生死を確かめるつもりも止めを刺すつもりもなかったので放っておいた。
俺はただ、ここから離れたかった。外に出たかった。空が見たかった。
生きていることを、今まで不要だったこの力が意味を持っていることを実感したかった。
城門を抜けるとそこは晴天で、上空から射す陽光が顔を赤く照らした。
吹く風が心地よく、俺は無意味に大きく深呼吸した。
そのままどこかに歩き出そうとした刹那、俺の耳に二度目の放送が飛び込んできた。
あの場に寝転がっていた間に、いつの間にか三時間近く経っていたことに驚きつつ、
その羅列の中に知っている名前が存在しなかったことに、俺はほっと安堵した。
臨也はどうでもいい。俺の手で殺れねぇのは残念だが、とりあえずまったくもってどうでもいい。
だがセルティは。彼女だけは死なせるわけにはいかない。数少ない自分の友人の彼女だけは。
セルティの強さは知っているから、そう簡単にやられるとは思えない。
とはいえ、さっきの赤毛のような常識以上の異常な存在がいるこの島では、『必ず』なんて言葉は存在しない。
彼女が次の放送まで生きていられる保証など、島中のどこを探してもないのだ。
俺は今、人生で初めて己の力に感謝した。
ああ、二十年以上も生きてきて、こんなに嬉しいのは初めてだ。
歓喜と昂揚で心が奥底からふつふつと煮え立ち、器から溢れたそれが沸騰した湯のように体外へと吹き零れていく。

――この馬鹿げた力が、誰かを守るために使える日が来るなんて。

俺はくすりと笑って、再び歩き出した。
289生きろ生きろ生きろ生きろ生きろ ◆lmrmar5YFk :2005/05/16(月) 00:52:07 ID:GHvqjN7o
【G-4/城門近く/1日目・12:03】

【平和島静雄】
[状態]:下腹部に二箇所刺傷(未貫通・止血済み)
[装備]:山百合会のロザリオ/宝具『神鉄如意』@灼眼のシャナ
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:俺の力でセルティを守る/赤毛(クレア)を見つけたら殺る

【G-4/城の中/1日目・12:03】

【ハックルボーン神父】
 [状態]:全身に打撲・擦過傷多数/気絶中
 [装備]: なし
 [道具]:デイパック(支給品一式)
 [思考]:神に仇なすオーフェンを討つ
290気になる名前 1/5:2005/05/16(月) 02:11:29 ID:T6V6KJRi
「どうやらお互い、知ってる名前の脱落はなかったようだね」
無人のコンビニからくすねた缶コーヒーを飲みながら、折原臨也が声をかけた。
「そうですね、私としてはあのまま、出血で赤き征裁が死んでくれる事を望んでいたのですけど」
同じようにオレンジジュースを飲みながら萩原子荻が答える。
B-3にあるビルの一室、そこで二人は休憩をかね今後の方針を話し合っていた。
「しかし当てが外れたね」
無人のビルに臨也の声が響く。
「ええ、まさか、あの怪我でこの短時間に移動するとは思いませんでした」
哀川潤を撃った事でアジトを追われた二人の行動指針は、仲間を作るといったものだった。
刻印を何とかできる人物を探すためとこのゲームにのっている人物に狙われにくくするため。
よしんば狙われても『仲間』を犠牲にする事で助かる可能性も増える。
駒が多くなればそれだけ打てる策も増えてくる。
そこで出た案が子荻自らが撃った相手との共闘だった。
仲間が一人ライフルで撃たれた、さぞや不安になるだろう
そんな状況下で友好的でゲームにのっていなさそうな人間を見れば
話ぐらいはできるだろうと思ったし、そのためにライフルまで隠しておいたのだが。
「死体も無いって事はどこかに逃げたんだろうけど、よくやるね」
つまらなさそうに臨也が言う。
291気になる名前 2/5:2005/05/16(月) 02:12:00 ID:T6V6KJRi
「ビル内に争った形跡がありますから、それが原因でしょう」
「原因はともかく、これで状況は振り出しだね、どうしようか?」
ここを第2のアジトとして留まるか、それとも仲間を探すため外に出るか。
「とりあえず、動いた方がよさそうですね、思ったよりペースが速いです。
最初に10人程度残るまで共闘といいましたが、下手をすると気づいたときには
私達以外全員が怪物揃い、といった事になりかねません、
そのときのリスクと今犯すリスクを考えれば動くべきでしょう」
もっともな話だ。元々二人の狙いはこの場からの脱出。
そのためには、多少危険でも動くしかない。
そして、その危険に対する保険、切り札もお互い隠し持っているだろう。
「で、荻原さんの方は刻印について知識があって、友好に話が出来そうな人物に心当たりある?」
名簿を広げながら臨也が問う。
「私の世界には異能力を持つ人間はいましたがこの手の物に対しての知識は無いですね。
強いて言えば操想術専門集団『時宮』が近い気がしますが、
いくら彼等が呪い名とはいえ本当にこんな呪いをかけられるわけがありませんし」
同じように地図を広げながら子荻が答える。
「呪い名・・・・・・か、本当に近いようで遠い世界だね」
最初のアジトでの情報交換の際に出た名前だ。
彼女等の世界における一つの勢力『呪い名』そして『殺し名』
情報屋である彼の耳に入ってこないのだから、本当に別世界の話なのだろう。
292気になる名前 3/5:2005/05/16(月) 02:12:25 ID:T6V6KJRi
「そうですね、話を聞いてると、出版されている雑誌や音楽、史実などは完全に同一ですが」
そうなのだ、臨也と子荻の世界は数少ない差違を除けばほとんど同一といっていい。
「パラレルワールドって奴かな?まさかそんな話が本当にあるとは思わなかったけど」
よくSFや遊馬崎達が読んでる小説などに出てくる話だ。
「平行世界ですか、無い話ではないと思っていましたが、
もしかしたら、よくある神隠しや集団失踪事件などのなかには、
私達のように異世界に連れ去られた、というものもあるかもしれませんね」
彼女にしても実際にこんな体験をしなければ鼻で笑い飛ばす話だろう。
「ノーフォーク大隊みたいな話かい?無いとは言い切れないだろうね、実際に遭遇すると。
まあ、そんなことは戻れたら考えよう。今は仲間さがしだけど、俺に一人心当たりがある」
そう言うと、臨也は名簿の一人に○をつけて子荻に渡す。
「彼女は俺の知り合いでね、刻印について、もしかしたら知っているかもしれない」
臨也の台詞に、子荻が名簿に目をやる。
「セルティ・ストゥルルソン・・・・・・ですか?」
外国人としてならば、何の変哲もない名前だが。
「実は、彼女はデュラハンでね、何百年か生きてるそうだ、もっとも記憶喪失らしいけどね
物語の中ではデュラハンは死を告げる妖精だし、もしかしたら刻印に何か心当たりがあるかもしれない」
子荻は流石にデュラハンと何気なく言われて驚いたが、
今までの体験から考えるとデュラハンぐらいはいてもおかしくないとも思えた。
しかし、不安な点もある。
「大丈夫なんですか?というか、意思の疎通ができるんですか?デュラハンと」
はたから聞けば、デュラハンなど零崎や匂宮以上に会いたくない相手だ。
「その点については大丈夫だよ、それじゃあ行こうか、隠しておいたライフルも拾っておかないといけないしね」
ゆっくりと臨也が歩き出す。
多少、半信半疑ながらも子荻も臨也の後を追い歩き出した。
293気になる名前 4/5:2005/05/16(月) 02:12:48 ID:T6V6KJRi
デュラハン、物語の中の生き物。
もし何らかの手段で臨也がそんな怪物を手懐けていて、合流した時に裏切ったとしたら?
(それならそれでいいでしょう)
もし、折原臨也が何かを企んでいたとしても。
(例え相手がデュラハンであろうとも、私の名前は萩原子荻。
私の前では怪物だって全席指定、正々堂々手段を選ばず
真っ向から不意討って見せましょう・・・・・・それよりも)
歩きながら、再び名簿に目をやる。
(この、『いーちゃん』というふざけた名前がやけに気になるのは何故でしょう?)
294気になる名前 5/5:2005/05/16(月) 02:13:08 ID:T6V6KJRi
【B−3/ビル内/1日目・12:25】
【折原臨也(038)】
[状態]:正常
[装備]:不明
[道具]:デイパック(支給品入り)ジッポーライター 禁止エリア解除機
[思考]:セルティを探す/ゲームからの脱出?/萩原子荻に解除機のことを隠す

【萩原子荻(086)】
[状態]:正常 臨也の支給アイテムはジッポーだと思っている
[装備]:ライフル(ビルの近くに隠してある
[道具]:デイパック(支給品入り)
[思考]:セルティを探す/哀川潤から逃げ切る/ゲームからの脱出?
295Refrain(1/6) ◆3LcF9KyPfA :2005/05/16(月) 17:03:47 ID:VK/CbIu8
「正直言うて、俺もキツいんやけどなぁ……」
「すまないな。止血しても、流石に限界で……肩貸してもらわないと、歩けそうにもなくてな」
 クエロが去ったあの後。俺は傷の応急手当をすると、緋崎に肩を貸してもらいD-1の公民館へ向かっていた。
 最初は緋崎から「休憩せなあかん。もう一杯一杯や」と、有り難くも拒否のお言葉を貰っていたが、放送も近いので少し無理をすることにした。
 放送。それがただの定時連絡だったなら何も問題はなかっただろう。だが、問題は禁止エリアだ。
 もしD-1が次の禁止エリアになったりしたら目も当てられない。放送前に、公民館でミズー達と合流する必要がある。
 それと、クエロ……まさか、こんなに早く出会うとは思っていなかった。いや、思いたくなかった、だけかもしれない。
 昔の同僚。昔の相棒。そして――昔の恋人。
 クエロは、俺を許さないと言った。自分が殺すまで生き延びろ、と。
 俺もクエロを許さない。それは同じだ。だが、俺にクエロが殺せるのだろうか……
「……ユス……? おい、ガユス? どないしたんや!? おい、しっかりせんかい!」
「え? あ、いや、すまない。どうやら、考え事に没頭していたらしい」
「……何を、考えてたんや?」
「そのレーザーブレードのこと」
 即答で嘘を吐いた。
 俺はご丁寧にも指を突きつけると、緋崎のベルトに挟んである剣の柄に視線を送る。
「……便利な道具、や。あの白いマントの奴が説明書持ってへんかったからな、細かい使い方までは解らへんけど」
「そのことなんだけどな、ちょっと思いついたことがあって考えてたんだ」
 舌と頭が同時に働く。もしかしたらもうバレているのかもしれないが、それでも嘘は出来る限り隠し通さなければいけない。
 クエロの事を話すには、まだ早い。
 ――俺の、心の準備が。
296Refrain(2/6) ◆3LcF9KyPfA :2005/05/16(月) 17:05:22 ID:VK/CbIu8
「なんや、言うてみい?」
「さっき、最後にクエロが放った咒式だが……」
「『魔法』みたいなもんやな?」
「ああ、そう解釈して構わない。で、その咒式に触れた刃の部分が、咒式の一部を吸収して変色するのが見えた」
「魔法の上乗せが出来る光の剣、っちゅうわけか?」
「おそらくは、な。更に、刃の伸長率にも法則がありそうだ。
 クエロが一度刃を作ってみせた時、長さが白マントのものよりも短かった。多分、魔力だかなんだかの器量によって決まるんだろう」
「ちょい待ち。お前らんとこの世界にも、『魔法』はあるんやろ? そないに差ぁ出るもんやろか?」
「例えば、だ。免許制で限られた人間しか魔法の使えない世界と、大人から子供まで当たり前のように魔法に馴染んでる世界。
 俗に『魔力』って呼ばれるような力を操る潜在能力が、同じだと思うか?」
「……成る程、確かに差ぁ出てもしゃあないな」
 スラスラと言葉が口から滑り出ていく。こんな時でも、俺の舌は絶好調らしかった。
 クエロのことを頭から追い出す為、忌々しい想いを込めていつもの精神安定剤を心の中で言葉にする。
 ギギナに呪いあれ!


「お、ようやく到着やな。ほら、見えてきたで、公民館」
「ようやく、休めるな……もう忘れたがビルの中で追いかけられたような気がしないでもない幻覚を見た時から休んでないからな」
「せやな。もう忘れたがビルの中で追いかけられたような気がしないでもない幻覚を見てから休んでへんもんなぁ」
 本当に、あの熊は一体なんだったんだろうな……でもそれ以上は思考停止。もう忘れた。熊ってなんだ?
 それより、ミズー達はもう公民館に辿り着いてるだろうか?
 いざとなったら新庄の剣があるので、俺達より遅れるということもないとは思うのだが……
「で、どないする? 念の為に裏口回ってく?」
 俺と同じことを考えていたのか、緋崎が目配せをしてくる。
「……いや、正面からでいいだろう。
 確かに彼女達以外の何者かが中にいれば危険だろうが、裏口から回って万が一にでもミズーに敵と間違われたらもっと危ない」
 言って、その状況を想像してしまう。こんな時ばかりは俺の明晰な頭脳が恨めしい。
「というわけで、正面からいくぞ。足音を消す必要まではないと思うが、警戒は怠るなよ」
「先刻承知や」
297Refrain(3/6) ◆3LcF9KyPfA :2005/05/16(月) 17:07:02 ID:VK/CbIu8
 方針が決まり、俺達は公民館に近付いていく。
 ボロボロの俺達を見たら、新庄はまた驚くかもな……膝枕をしてほしいとか言ったらしてくれるだろうか?
 多分盛大に引かれるから言わないけど。
 ミズーはどうだろう? ……きっと呆れたような溜息でも吐くんだろうな。
 悔しいので、またからかってみよう。拗ねた顔が可愛かったし。
 ……勿論後が怖すぎるので自粛するが。多分。
 そして、目の前に公民館の入り口が近付いてくる。
「……ええか?」
 緋崎は小さく「光よ」と呟くと、光の剣を構えて扉の前に立つ。
 あの白マント程は刀身が伸びず、光の剣というよりは光の短剣という風情だったが。
「ああ、いくぞ」
 俺はと言えば、何もできないので時計だけ確認して扉を開ける。

 ……現在、十一時五十七分。俺は、地獄の蓋を開けてしまったようだ。


『――ルツ、014 ミズー・ビアンカ、01――』
 煩い。黙れ。言われなくても解っている。
 目の前に、死体があるんだから。
『――原祥子、072 新庄・運切――』
 あぁ、畜生。頼むからやめてくれ。もう何も言わないでくれ……
「あ……あぁ……」
 何を悲しむガユス? 人の死なんざ見飽きているだろう? 仕方なかったんだ。今はそういう状況なんだ。
「違う……見ろ、この傷。まだ新しい。三十分も経ってはいないだろう。
 つまり、俺が最初から公民館を目指していればこうはならなかったんだ……クエロにも遭わなかったんだ!」
 違うな、冷静になれガユス。お前がいたからといってどうなる?
 咒式も使えず、満足に戦闘行動もできない。そんなお前がいて、彼女達を護れたのか?
 最初から公民館を目指していたとして、本当にクエロに遭わなかったのか?
「関係無い!! 俺は認めない。俺を認めない……黙れ。黙れ! 俺の思考を邪魔するなガユス!
 落ち着け。落ち着け! クエロのことは今は考えるな!」
 そうだ、落ち着け。いつもの俺になれ。冷静沈着な攻性咒式士、それが俺だ。
 クエロのことは忘れろ……
298Refrain(4/5) ◆3LcF9KyPfA :2005/05/16(月) 17:08:10 ID:VK/CbIu8
 ――よし、意味不明で支離滅裂な喚き声はこれで終了。まずは現状を把握だ。
 緋崎は、放送が始まる少し前に「一応、他に誰かおらんか探してくるわ」と言って建物の奥に入っていった。
 放送も聞き逃してしまったし、後で緋崎に聞こう。
 そして、ミズーと新庄の死の原因……恐らく、この女だろう。
 見覚えのない黒髪の女が、ミズーの近くに倒れていた。その胸には、やはり見覚えのない銀の短剣。
 新庄がトイレの中で倒れている状況と照らし合わせる。
 恐らくは一般人の振りをしてここに逃げ込んできた第三の女が、ある程度打ち解けたところで気分が悪いとトイレに行った。
 新庄ならば、心配して覗きに行っただろう。
 その新庄を隠し持っていた短剣で刺し、トイレの入り口で駆けつけたミズーと相討ち。そんなところか。
 女の胸に短剣が残っているのは、犯人がここにいない第三者ではないことの証拠。消去法で犯人は黒髪の女。
 ここで行われた黒髪の女の行動は、つまり――
「……裏切り……」
 また、裏切り。この言葉は、どこまで俺を苦しめれば気が済むというのか。
 さっきの醜態も、裏切りという単語がクエロを連想させたからか……
 それとも、ジヴの代わりをミズーに見出していたのか……
 どちらにせよ、格好悪いことこの上ない。
 ところで……
「あぁ……それにしてもなんで……」

 なんで俺は、泣いているんだろう……
299Refrain(5/5) ◆3LcF9KyPfA :2005/05/16(月) 17:08:43 ID:VK/CbIu8
【D-1/公民館/1日目/12:10】

『罪人クラッカーズ』
【ガユス・レヴィナ・ソレル】
[状態]:右腿負傷(処置済み)、左腿に刺傷(布で止血)、右腕に切傷。戦闘は無理。軽い心神喪失。疲労が限界。
[装備]:グルカナイフ、リボルバー(弾数ゼロ)、知覚眼鏡(クルーク・ブリレ) 、ナイフ
[道具]:支給品一式(支給品の地図にアイテム名と場所がマーキング)
[思考]:これから、どうしようか……
[備考]:十二時の放送を一部しか聞いていません。

【緋崎正介(ベリアル)】
[状態]:右腕・あばらの一部を骨折。精神的、肉体的に限界が近い。
[装備]:探知機 、光の剣
[道具]:支給品一式(ゼルの支給品からペットボトルを補給) 、風邪薬の小瓶
[思考]:カプセルを探す。他に、なんか人おったり物落ちてたりせぇへんかな?
[備考]:六時の放送を聞いていません。 骨折部から鈍痛が響いています。
*刻印の発信機的機能に気づいています(その他の機能は、まだ正確に判断できていません)

【014 ミズー・ビアンカ 死亡】
【061 小笠原祥子 死亡】
【072 新庄運切 死亡】
【残り81人】
300逃走─to so─闘争(1/2) ◆R0w/LGL.9c :2005/05/16(月) 18:44:02 ID:xs2ErB3T
獣から危機一髪に長門を助け出したはいいが妙な女と対峙することになった。
明らかに殺るき満々な相手と対峙したからには、退治してやっても良いが心に秘める事は一つ。
(面倒臭えな)
殺戮は一日一時間だけ、とは言ってもそれは<殺人奇術の匂宮>としての仕事の時の話だ。
引退した今としては殺すのは面倒なだけだった。
問答無用で痛めつける、という手もあるが、そこまで露骨に手加減はできなさそうな相手だ。
それにまだ抱っこしている長門はかなりの疲労だ。お節介としての性格が出てきた。休ませたい。
先ほど降ろせと言われたが、長門の体重程度、抱えても全く問題にならなかった。
マージョリーと向き合いながらほとんど口を動かさずに長門に伝える。
──トンズラこくぜ 『それじゃあ』って言ったらしがみ付け
伝わったかどうかは確認せずにマージョリーに告げた。
「おいおいおねーちゃんよぉ!こっちは一日一時間しか殺戮できねぇっていったよな。
 生憎こんな昼にもなってないところで貴重な一時間を使う気なんてねぇな。
 どうしても戦いたいなら徒党でも組んでくるんだな!一時間で殺せるだけ殺してやるってーの。ぎゃははっ」
「…素敵な挑発ね。あんたの意思は関係ないの。強いんなら戦いなさい」
「そうかい。『それじゃあ』──」
言うが早いか、足元の土を蹴り上げ、盛大な土煙を上げさせた。
「ひゃっほうっ! あばよ、一喰い!」
土煙が収まらないうちにあたりの樹木を<一食い>でなぎ倒し、かく乱する。
そのまま荷物の重さを感じさせない速さで逃走した。
「ぎゃはははははっ! 長門! しっかり捕まってろ!」
「待ちなさい!」
マージョリーの叫びを無視して凄まじい速さで消えていった。
(なんか今回逃げてばっかりだな)
それもいいかも知れない。
殺しをライフワークにしていた殺し屋が誰も殺さずに逃げる。
おにーさん風に言えば──
「戯言だなっ!」
301逃走─to so─闘争(2/2) ◆R0w/LGL.9c :2005/05/16(月) 18:44:38 ID:xs2ErB3T
【残り88人】
【E-4/草原/1日目・07:40】
【匂宮出夢】
[状態]:平常
[装備]:シームレスパイアスはドクロちゃんへ。
[道具]:デイバック一式。
[思考]:生き残る。あんまり殺したくは無い。 とりあえず休める場所へ。長門を休ませた後、一緒に坂井を探す。

【長門有希】
[状態]:疲労が限界/僅かに感情らしきモノが芽生える
[装備]:ライター
[道具]:デイバック一式
[思考]:現状の把握/情報収集/古泉と接触して情報交換/ハルヒ・キョン・みくるを殺した者への復讐?
[備考]:疲労の回復のため昼あたりまで休ませられます(出夢君が強制的に)

【マージョリー・ドー(096)】
[状態]:肋骨を一、二本骨折 (ほとんど治りかけ)
[装備]:神器『グリモア』
[道具]:デイバッグ(支給品入り)
[思考]:シャナ探索。あいつ今度あったら戦う

※E-4の木が数本薙ぎ倒されました
302勘違いと剣舞 その1  ◆I0wh6UNvl6 :2005/05/16(月) 19:29:28 ID:kB3qy5h7
11:00、巨木の下で一休みしているときに放送を聞いた九連内朱巳は、ただただ不機嫌だった。
彼女は被害者に対し感情を吐き捨てる。
(まったく、馬鹿なやつらね。放り込まれて、追い込まれて、助けを求めて、自滅して……。
冗談じゃない、そんな死に方真っ平ゴメンだわ。そういうのを甘えてるっていうのよ!)
彼女にとってこの状況はいつもと変わらなかった。周りに自分より弱い者はいない、
気を抜いてミスをした瞬間に命はない、それはここでも向こうでも同じだった。
彼らの行為はあのシステムの中で『皆で中枢を倒し、自由に生きよう!』等と叫んでいることと変わりがない。
そんな策もない愚かなことをしていれば、3日後にはその姿は消えている。
理想だけでは生き残れない、彼らはそのことを知らなすぎた。
朱巳は他の2人の表情を見る。ヒースロゥの眉間には皺がよっていた。少し話しただけだが彼の思考からして
怒りの矛先は自分とは違い殺した方に向けられているだろう。
屍は相変わらずの顔だ。なんの乱れも生じていない。この程度のこと、彼の言う魔界では日常茶飯事ということか……。

「そういや、あんたの支給品ってなんだったの?」
妙に居心地の悪い空気を変えるため、純粋に気になっていたのもあり朱巳は屍に質問をぶつけてみた。
「特に必要のないものだ。」
「分かんないわよ、使い道のない物を渡す意味なんてないし。」
とは言ってみたものの、朱巳も自らの支給品に使い道を見出せずにいた。
あんなもんを一体どうしろと?
「じゃあ使い道を教えてもらおうか。」
屍がデイバックを開け中身を取り出す。中からでてきたのは素っ気無い椅子だった。
「あら、使い道なんてみえてるんじゃない?」
「・・・・・」
屍は無言で睨み付ける。普通の人間ならそれだけで震えが止まらないほどの威圧感を持っている。
だがそれを受けてなお、朱巳の顔にはニヤニヤとした笑みが張り付いていた。
「とりあえずは普通の椅子だが、何か仕掛け、もしくは罠があるかもしれないな。」
言ったのはヒースだ、怒りが静まり、表情は落ち着きを取り戻している。
303勘違いと剣舞 その2  ◆I0wh6UNvl6 :2005/05/16(月) 19:30:11 ID:kB3qy5h7
「仕掛ける場所なんて見当たらないけど。」
「印象迷彩で隠してあるのかもしれない、迂闊に座ったりしない方がいい。」
「とは言ってもねえ・・・・・。」
椅子を見る朱巳少しめんどくさそうだ。
「用心にこしたことは無い。」
言いながらヒースは鉄パイプで座る場所をつっついてみた。反応は特に無い。
「それで分かんの?」
「いや、他にも体熱で反応したり一定以上の重さを加えないと反応しない場合もある。」
「壊した方が早くないか?」
「まあそうだがもし何か有利になるものだったら・・・・・」
言葉をヒースは途中で切った。屍も気づいたのだろう、先ほどと比べてさらに目つきが鋭くなる。
「・・・・・来るな。」
「ああ・・・・・。」
「よく気づくわね、あんたらやっぱ化け物?」
呆れる様な表情で彼女は呟く。
朱巳も常人に比べたら遥かに気配を感じる能力は優れている。しかし彼らはさらに異常だった。
戦闘タイプの合成人間と同等、いや、それ以上の危険察知能力だった。
「化け物というのは案外鈍感なものだぞ。」
「違いねえ!」
屍の言葉と同時に3人は散開する。直後、彼らのいた場所に1人の男が剣を振り下ろし舞い降りた。
「貴様ら、ヒルルカに暴行をはたらき、挙句殺そうと・・・・・首から下との別れを済ましておけ!」
舞い降りたこの世のものとは思えぬ美しい剣士は周りを睨み付ける。その剣士の名はギギナといった。
304勘違いと剣舞 その3  ◆I0wh6UNvl6 :2005/05/16(月) 19:31:25 ID:kB3qy5h7
突然の襲撃と怒りの言葉を受ける。だが彼らにはさっぱり見に覚えの無いことだった。
ヒースと朱巳はお互いを見て目で確認する。無論互いにそんな覚えはない。
「待て、俺たちはそんな人物は知らないしまして暴行など・・・・・」
「しらばっくれる気か!?」
ギギナの水平切りがヒースを襲った。突然のことだったが後ろに身を引いてヒースはその切っ先をかわした。
それを見てギギナの表情に笑みが浮かぶ。
「ほう、手加減したとはいえ今の一撃をかわすとは、性根は腐っていても腕はいいようだな、面白い!」
2回目の剣撃がヒースを襲った。1回目とは明らかに違う、雷の如き一撃が首を飛ばそうとした。
2回目もヒースはかわす。だが前と違い余裕はない。
鉄パイプを構え、向かい合う。最早話し合いは通じない、ここで倒すつもりだ。
そしてギギナは3度襲い掛かる、2人の(動機の不明な)決闘が今始まった。

「わけわかんないわよ、あいつ何者?」
屍のもとに向かいながら朱巳が愚痴る。
「さあな、だが腕は確かだ、このままじゃ殺されるぞ。」
「なんで?」
そう朱巳がいうのも無理は無い。2人の戦いは5分5分に見えた、決してヒースは劣っていない。
「単純なことだ、獲物に差がありすぎる。」
屍は2人の方を向きながら言う。自ら戦いに参加するつもりは無いようだ。
「見ろ。」
「!」
305勘違いと剣舞 その4  ◆I0wh6UNvl6 :2005/05/16(月) 19:31:57 ID:kB3qy5h7
「楽しいぞ!そんなもので私と舞えるとはな!」
魂砕きが左の足元からヒースの胴を狙う。
鉄パイプで受け止めるも鉄パイプはそのまま真っ二つになり、切っ先はヒースに吸い込まれる!
「くっ!」
ヒースは体を右に捻った。魂砕きによるダメージを最小限に抑える。
だがそれでも避けきれず、わき腹に熱い痛みが走った。
同時に彼の体に生じる脱力感、体に力が入らない。
状況を認識した朱巳は若干かったるそうに呟いた。
「うーん、まずいわね・・・・・まあ恩も売っておいて損はないし、ちょっくら行ってきますか。」
あの手のには慣れてるし。と付け加えると彼女は2人のもとへ歩いていく。
「おい。」
屍が声をかける。彼女があの戦いに割り込んでも即殺されるのがおちだと思ったからだ。
だが彼女はその呼びかけに対し振り向いてニヤッと笑い、
「まあ見てなさいって。『傷物の赤』のお手並み、拝見させてやるわよ。」
とだけ言った。

「ハァ、ハァ。」
息を荒げるヒース、前の7割程の長さになった鉄パイプを相手に向ける。
「さあ、覚悟はいいな。」
対峙するギギナ、息一つ乱していない。
その手に持つ大型剣、魂砕きは血を浴びることが嬉しいのか、その輝きを増す。
完全に窮地に追い込まれたヒース、だがその目は輝きを失っていない。
(止めをさす一太刀には必ず油断が生じるはずだ・・・・・そこに俺の勝機がある!)
集中の極地、2人の目には互いの姿以外何も見えてはいなかった。
「ヒルルカの報いを受けろ・・・・・行くぞ!」
同時に地を蹴る、互いの姿がどんどん近くなる。
と、その間に・・・・・
306勘違いと剣舞 その5  ◆I0wh6UNvl6 :2005/05/16(月) 19:33:05 ID:kB3qy5h7
「はいストップ。」

1人の少女、九連内朱巳が割り込んだ。
「なっ・・・・・!」
「くっ・・・・・!」
2人とも太刀筋をギリギリで止める。魂砕きに至っては髪の毛に触れていた。
思わず止めてしまったギギナは怒りに顔を歪め、押し殺した声で朱巳に言う。
「女・・・・・戦いを汚す気か?
 後で始末はつけてやる。それとも今この場で物言わぬ屍となるか?」
そこにはギラギラとした殺気が篭っていた。
「あら、無抵抗の少女を手にかけるなんて随分と安いプライドね、色男さん。
 そんな接し方だと女の子も逃げちゃうわよ?」
ヘラヘラとした表情で言う。その表情に恐怖は無い。
ギギナは激昂した。女云々ではなく、『安いプライド』などとドラッケン族としての誇りを侮辱したことに。
「貴様、ドラッケン族の誇りを侮辱するとは……」
そのとき朱巳の手がスッと彼の胸元に動いた。
あまりにもゆっくりと、自然な動作で、ギギナは反応できなかった。
奇妙な形に手を捻る。

がちゃん

それは鍵を掛ける仕草に酷似していた。
「あんたもかわったところに鍵があるのね〜。」
言った直後首筋に剣を突きつけられる。
動こうとするヒース、だが朱巳はそれを手で制した。
「貴様…何をした!?」
「だから鍵を掛けたのよ、あんたのその『ムカムカとした気持ち』にね。
 そんなイライラした状態で戦闘が出来るかしら?」
相手が少し手を動かすだけであっさりと自分が死ぬというのに、朱巳の表情はまだかわらぬままだ。
307勘違いと剣舞 その6  ◆I0wh6UNvl6 :2005/05/16(月) 19:34:01 ID:kB3qy5h7
「そんなバカなことが・・・・・」
言いながらも彼は自分の中にチクチクしたようなものが絶えず動き回っているような気がしてならない。
それを見越してか朱巳は言葉を続ける。
「ほらまだ怒ってる。そのままじゃ胃に穴が開くわよ。」
この状況でケラケラと笑っている彼女は、恐怖に鍵でも掛けているのだろうか。
だが事実はそうではない、彼女の手のひらは汗まみれになっていた、単純に隠しているだけだ。
隠しているのはそのことだけじゃない、今この場でついている嘘もだ。
彼女の鍵を掛けるという能力、『レイン・オン・フライデイ』とは全くの嘘っぱちだった。
ただの暗示をかけて、相手をその気にさせているだけだ。
その演技はついに、自らの体を知り尽くしている生体強化系咒式士まで騙したのだ。

「外せ!」
握る剣に力を込める、断った瞬間に掻っ切るという意志が籠められていた。
「外すわよ。あんたがもう襲わないっていうなら。」
「それはできない。」
「は?なんでよ?」
驚く朱巳、ここで終わらせるはずだったのだが。
「貴様らはヒルルカを陵辱した!その行為は万死に値する!」
そういえば。と彼女はこの件の発端となった言葉を思い出した。
「だからヒルルカってだれよ?」
「知らないとは言わせんぞ。今しがたあれだけのことをしていながら・・・・・」
「ちょっと待って、今しがたって・・・・・」
記憶を遡る朱巳、暴行?殺そうと?確かこいつが来る直前に・・・・
308勘違いと剣舞 その7  ◆I0wh6UNvl6 :2005/05/16(月) 19:34:33 ID:kB3qy5h7
屍の言葉が蘇る――

――壊した方が早くないか?

「・・・もしかして・・・・・ヒルルカってあれ?」
彼女の指差す先には先ほど

ヒースが鉄パイプでつっつき、

屍が『壊したほうが早い。』

と言ったあの椅子があった。
「ああ、そうだ。そういえば言ってなかったな、あの椅子の名はヒルルカ、私の愛娘だ。」
激しくため息をつく朱巳。
目を点にするヒース。
くだらんといいそっぽを向く屍。
「……椅子に暴行とか殺害なんて正気?」
ただ疲れたという表情を満面に出しながら朱巳が言った。
「そう、正気の沙汰ではない。だからこそ貴様らは・・・・・」
「「「そういう意味じゃ(ねえ。ない。ないっつーの。)」」」
見事にヒースと朱巳、そして屍までもの声が重なった。


その後、掛けていた暗示を解き、朱巳からの説明が始まった(無論一部を捏造し、一部を改変し、一部を削って)。
309勘違いと剣舞 その8  ◆I0wh6UNvl6 :2005/05/16(月) 19:34:59 ID:kB3qy5h7
そしてギギナはすっかり朱巳の作り話を信じた。
「うむ、貴様らが火にくべられようとしたヒルルカを助けてくれたのか・・・・・。
 ならば今回はその行為に免じてひくとしよう。」
そしてギギナはヒースの方に向きニヤッと笑う。
「貴様との戦いは楽しかった。名を聞いておこう。」
「ヒースロゥ・クリストフだ。」
「そうか、私の名はギギナ・ジャーディ・ドルク・メレイオス・アシュレイ・ブフ。
 次合うときは互いの命を賭け、死の淵まで存分に戦おう。」
一瞬の迷いを見せるがヒースはこの誘いに
「・・・・・ああ。」
と答えた。
「それでは――剣と月の祝福を。」
神をも惚れさせるような微笑を浮かべると、くるりと後ろを向きギギナは歩き出した。
その左手にはヒルルカを持っている。
「どうして仲間に誘わなかったんだ?」
ヒースは朱巳に尋ねた。彼女のことだから自分と同じように誘うと思ったのだった。
「あの手の単細胞タイプに誘いは無理よ。一匹狼気取るのが性分だから。」
(そうかな・・・・・。)
彼は心の中で呟いた。同じ戦闘好きでも彼とフォルテッシモは違う気がしたのだ。
彼の戦い方は1人での戦い方にしては積極的すぎだった。
あの戦い方はそう・・・・・後ろに信頼できる相棒がいるような、そんな戦い方だった。
(きっといい仲間がいるのだろう。)
ヒースはもしギギナが聞いたらその場で全生命力を賭けて否定するようなことを呟いた。
「それに、次仲間にするなら話上手がいいから。無口と堅物じゃやっぱり盛り上がらないわ。」
その言葉にヒースと屍が顔をしかめたが、朱巳は知らん振りした。
そのとき、12時の放送が鳴り響く。
310勘違いと剣舞 その9  ◆I0wh6UNvl6 :2005/05/16(月) 19:36:03 ID:kB3qy5h7
【風により傷物となった屍】
【E3/巨木/一日目12:00】

【九連内朱巳】
【状態】上機嫌
【装備】なし
【道具】パーティゲームいり荷物一式
【思考】エンブリオ探しに付き合う、とりあえず移動。


【屍刑四郎】
【状態】呆れ気味
【装備】なし
【道具】荷物一式
【思考】とりあえずついていってみるか。


【ヒースロゥ・クリストフ】
【状態】背中に軽い打撲
【装備】鉄パイプ
【道具】荷物一式
【思考】EDを探す。九連内朱巳を守る。ffとの再戦を希望する。


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【ギギナ】
[状態]:若干の疲労。かなりご満悦。
[装備]:魂砕き、ヒルルカ
[道具]:デイバッグ一式
[思考]:強者探索
311Drop&Dog 1/10 ◆7Xmruv2jXQ :2005/05/16(月) 19:39:23 ID:CLmyMTtb
「BB、火乃香……」
 この島の中で頼れる数少ない名前を唱えながら、しずくは湖岸を駆ける。
 地下墓地での一幕から二十分ほど。
 放送にはオドーの名前と祥子の名前があった。
 その事実に思考が停止しかけるのを、しずくは必死で耐えた。
 ほんの少しの間とはいえ、一緒にいた人に、もう会えない。
 死という現実に触れる痛みを知ってはいた。それが耐え難いものであることも、また。
 それでも、ここで泣いているわけにはいかないのだ。

(今かなめさんたちを助けられるのは、私しかいない)

 その事実がしずくの背中に確かな重みとなって存在していた。
 幸いにも、元の世界での知り合いたちは無事のようだった。
 ならばなんとしてでも合流して――――いや、彼らでなくてもいい。
 とにかく誰かに、自分が見た情報を伝え、助けを求めなければならない。
 しずくは滲む涙を袖口でぬぐいながら、それでも前を見据えて走り続ける。
 外見は人と変わらなくともしずくは機械知性体だ、その運動能力は生身の人間よりも高い。
 リスクを度外視してでも島を駆け回る覚悟はできていた。
 なにせ、タイムリミットは日没までだ。
 残された時間は決して多くないし、それに日没まで待たなくても宗介がその手を汚してしまう。
312Drop&Dog 2/10 ◆7Xmruv2jXQ :2005/05/16(月) 19:40:22 ID:CLmyMTtb
 千鳥かなめ。相良宗介。
 二人ともいい人だった。こんな島の中ででも、出会えてよかったと思えるほどに。
 だからこそ、しずくは二人を助けたいと思う。
 かなめを救い出したいと思うし、宗介に手を汚して欲しくないと思うのだ。
 再び溢れてきた涙を拭った時、視覚センサーが人影を捉えた。
 幸運としかいいようがない。
 こんなに速く誰かと接触できるのは予想外だった。
 しずくは速度を緩めて歩み寄ると、その人影――――皮のジャケットをまとった男に声をかけた。
「あ、あの!」
 声をかけられても、男は無反応だった。
 俯いているため顔は見えない。
 癖の悪い黒髪と、握り締めた両のこぶしが妙にしずくの印象に残った。
「いきなりすいません! でも、すごい困ってるんです。力を貸して――――」
「悪いな」
 いきなり割り込まれ、しずくは思わず言葉を止めた。
 え? と呟いた後、男の言葉が拒否を表すものだと思い至る。
 そしてそれが誤解だと気づくのに、一秒とかからなかった。
 思わず歩み寄ろうとしたしずくを遮るように、男が右手を突き出し、握る。

「憂さ晴らしだ――――付き合えよ」

 しずくが何かを言うよりも男のほうが速かった。
 その眼光が紅く尖る。

 そして、頭上に巨大な影が出現した。
313Drop&Dog 3/10 ◆7Xmruv2jXQ :2005/05/16(月) 19:41:19 ID:CLmyMTtb

 ナイフのような背びれが空気を切り、筋肉に鎧われた巨体が宙を泳ぐ。
 その動きは見る者が優雅さを感じるほどに滑らかだ。
 大きく裂けた口。
 びっしりと並ぶ牙の群れ。
 赤い眼球。
 縦に長い瞳孔。
 いくつかの点で相違はあるが。
 男の頭上を旋回するそれに近い生物は、しずくの知識の中に確かに存在する。 
(これって……)
 半ば愕然としながら、しずくは認めた。
 彼女の世界では支配種ザ・サード以外は知りえないだろう生物。

 それは三メートルを超える、巨大な鮫だった。


 甲斐氷太は暗い眼差しで少女を見た。
 久しぶりにカプセルを飲んだ高揚感も、悪魔を呼び出した興奮もない。
 体の芯にねっとりとした闇が巣食う感覚。
 血液という血液が死んだように冷たい。
 それもこれも、あの放送のせいだった。
 ありえない。許されない。
 あのウィザードが、物部景が――――……
 そこから先は言葉にせず、現実感が希薄なまま動く手足を確認して、甲斐は黒鮫に命令を下した。
 目の前の少女は細く、脆い。
 餌というのもおこがましい、惰弱な存在だ。
 言葉通り、ただの憂さ晴らしに過ぎない。
 子供がおもちゃを壊すように、あっけなく、容赦なく。

 ――――喰い千切れ。 
314Drop&Dog 4/10 ◆7Xmruv2jXQ :2005/05/16(月) 19:42:06 ID:CLmyMTtb

 猛烈な勢いで黒鮫が迫った。
 鼻先で突き殺そうとするかのような突進。
 切り裂かれた大気が悲鳴を上げ、巻き上げられた風にバランスを崩しかける。
 しずくがその一撃をかわせたのは奇跡に近い。 
 横っ飛びに転がった数センチ横を、黒鮫が一瞬で通過していった。
 風に髪が叩かれる感触は、機械であろうとも背筋が寒くなるものがある。
 デイバックから支給品を取り出しながら叫ぶ。
「は、話を聞いてください!」
 しずくの叫びを甲斐は黙殺。
 その時点でしずくは己の失敗に泣きそうになった。
 完全にゲームに乗った人間に声をかけてしまったらしい。
 それも理屈はわからないが巨大な鮫を操る、とんでもない危険人物に。
 嘆く時間すら、相手は与えれくれない。
 小さな弧を描いて鮫が反転、再びこちらに鼻先を向ける。
 顎が開き、びっしりと並んだ牙が光を弾いた。
 陽光を塗りつぶすように、甲斐の両目が紅蓮に瞬く。

 セカンド・アタック。

 コマ落としにすら感じる突進。
 唸りをあげる大気を従えて、鮫が黒い砲弾と化す。
 しかし一度目よりはわずかに遅い。
 こちらが横に逃げても追撃可能な速度――――つまり今度は横に飛んでも回避できない。
315Drop&Dog 5/10 ◆7Xmruv2jXQ :2005/05/16(月) 19:42:48 ID:CLmyMTtb
 理解すると同時に、いや、それより速く体は動き始めている。
 ザ・サードのデータベースに接続してから吸収した情報は莫大な量だ。
 その中には高度な知識を必要とする先端技術もあれば、辺境の遊びなども含まれている。
 
 
 たとえば、バットの振り方。

 
 凶悪な棘つきバットであるそれを振りかぶり、思いっきりスイングする。
 タイミングを計る必要はなかった。もとより、最速でも分の悪い賭けなのだから。
 激突は刹那のこと。
 黒鮫の顔の側面にバットが当たる。
 一瞬で足が浮き、鮫とバットの接触点を軸に独楽のように弾き飛ばされる。
 瞬間的に手首に甚大な負荷――――破損した。バットを手放す。
 だがそれと引き換えに、しずくの体は宙を飛んだ。
 黒鮫の上をまたぐ形で、ほんのわずかな時間、飛翔する。
 青い空が視界に広がった。
 しずくの故郷とすらいえる、空。
 そこにわずかに見とれながらも、次にくる衝撃に備えて体を丸める。
 ――――激突。
 衝撃は予想よりもひどいものではなかった。
 足の短い草たちが、多少は衝撃を和らげてくれたらしい。
 それでも、行動に障害がでるレベルのダメージだ。
 駆動系の一部に異常。ただでさえ感度の落ちているセンサー類がさらにダウン。
「あ……」
 思わず声が漏れた。
 気がつけば後ろは湖だった。
 水まであと一メートルといったところ。
 あれだけ勢いがついていて落ちなかったのは運がいいといえば運がいいが、次がかわせなければ意味がない。
316Drop&Dog 6/10 ◆7Xmruv2jXQ :2005/05/16(月) 19:43:29 ID:CLmyMTtb
 前髪がちりちりと焼ける気がする。
 三度、黒い鮫と正面から対峙する。
 エスカリボルグは棘が肉に食い込み、鮫の顔面にそのままぶら下がっている。
 手元にもう武器はない。
 体もダメージが残っている。
 どう足掻いても、かわせそうにない。

 サード・アタック。

 鮫の姿が近づいてくる。
 センサーの異常だろうか。
 なぜかゆっくりと見えるその光景を、しずくは自ら閉ざした。
 倒れたままきつく瞼を閉じて、最後を覚悟する。
 脳裏に浮かぶのは火乃香であり、浄眼機であり、オドーであり、祥子であり、
(ごめんなさい。かなめさん、宗介さん……さようなら、BB)
 いっそう強く眼を瞑り、しずくはその瞬間を待った。
 
 一秒、二秒、三秒……。
 
 何もおこらない。
 恐る恐る瞼を上げると、目の前に足が見えた。
「え?」
 呟きをかき消すように、背後で轟音が鳴る。
 そして。
「きゃ!」
 降り注いだ無数の雫を浴びて、しずくは悲鳴をあげた。
 陽光は弾きながら、雨のように水が降り注ぐ。
 視覚センサーを手でかばいながら上空を見れば、まずはびしょ濡れの男が、そのさらに上に黒鮫が見えた。
 どうやら、鮫を湖に突っ込ませたらしい。
 この水滴は鮫の背中に乗った湖水が落ちてきたものだ。
317Drop&Dog 7/10 ◆7Xmruv2jXQ :2005/05/16(月) 19:44:19 ID:CLmyMTtb
 わけがわからず、しずくは目の前の男を見た。
 男――――甲斐氷太はあいもかわらず不機嫌そうに、赤い瞳でこちらを見ている。
 何を言ってくる様子もなく、このままでは埒が明かない。
 しずくは口を開いた。


「あの……」
 少女がそこまでつぶやいて、再び黙る。
 こちらの顔が険悪になったのを見たからだろう。
 甲斐は胸中にわだかまる憎悪を意識した。
 ウィザード――――最高の好敵手を失った、憎悪。
 そう簡単にヘマをする奴ではなかったが、この異常な島ではいつも通りに立ち回れなかったのか。
 それとも他の理由があるのか。
 例えば、連れの女に寝首をかかれた、というような理由が。
 甲斐はぎりっと奥歯を噛み締めた。
 一人、回想する。
 初めて会った公園での対峙、地下街での戦い。
 長い探索を経て、倉庫で再戦を果たす。
 その後はなし崩し的に同盟を組んでセルネットと決戦。
 繁華街で無理やり悪魔戦を繰り広げたこともあった。
 王国では自分だけ犬の姿という理不尽な扱いを受けたが、まあそれはいい。
 塔での戦いでは少し助けてやっただけで、直接は顔を合わせていない。
 そして、この島で、果たされなかった決着をつける……はずだった。

「あの野郎。勝手にくたばってんじゃねえ……よ!」

 こぶしを思いっきり振り下ろした。
 鈍い音が響く。
 亜麻色の髪を数本巻き込み、甲斐のこぶしが少女の頬――――そのすぐ横にぶつかる。
 少女が眼を白黒させているのを見下ろしながら、こぶしを引く。
 濡れた髪から滴る水滴を払い、ぶっきらぼうに言う。
318Drop&Dog 8/10 ◆7Xmruv2jXQ :2005/05/16(月) 19:44:58 ID:CLmyMTtb
「悪かったな。もう行け」
 少女は余計に目を白黒させるが、甲斐は構うことなく背を向けた。
 なんの造作もなしに悪魔を消すと、背に残っていた水が激しく地面を叩く。
 不安定な精神状態にありながら、甲斐はすでに悟っていた。
 悪魔を使うには、いくつかの枷がある。
 一つ目――――恐ろしく燃費が悪い。
 今回甲斐が使用したカプセルは二錠。
 二錠まとめて口に放り込んだのだが、それらが甲斐にもたらした魔力は微々たるものだった。
 カプセルが粗悪品なのか、悪魔のせいなのかはわからない。
 二つ目――――悪魔との同調が鈍い。
 かつては手足のごとく操った悪魔が、どうにも言うことを聞かない。
 悪魔戦のエキスパートである甲斐氷太ですら、完全に制御しきれないのだ。
 シンクロしようとすればするほど、自分から悪魔が遠ざかっていく。
 そして、三つ目。

「……しっかりと見えてやがるな」

 呟きは空気を動かさないほどに小さく、それゆえに強い毒を含んでいた。
 本来、悪魔はカプセルを飲んでいない人間には見えないはずだ。
 しかし、目の前の少女は不可視のはずの攻撃を二度防いだ。
 ヘビーユーザーならカプセルなしでも視認できるが、この少女はその類ではないだろう。
 過去にそういった事例がなかったわけではない。
 甲斐が繁華街で景を追い回したときは、明らかに一般人に悪魔が見えていた。
 これもあの時と同じ現象なのだろうか。
 ならば、ここは王国の亜種のようなものなのだろうか?
 緋崎正介ならなにか知っているかもしれないが、現時点でその推論を確かめる術はない。
 とりあえず、悪魔を使うのなら注意が必要だ。
 それだけを頭の中に留めて、甲斐はびしょ濡れの少女を捉えた。
 その威圧感が緩んだことに、本人だけが気づかない。
319Drop&Dog 9/10 ◆7Xmruv2jXQ :2005/05/16(月) 19:45:50 ID:CLmyMTtb
 どうにも勝手が違ったのは確かだ。
 突撃させるだけという素人以下の操作だったのも認めよう。
 それでも、目の前の線の細い少女はよくがんばった方だと、甲斐は素直に思った。
 悪魔と渡り合う一般人など姫木梓だけだと思っていたが、なかなかにやる。
 ほんの少しだが、楽しめたのは事実だ。
 
 だが、だからこそ、甲斐は許せないのだ。
 こんな素人相手でなく、もしも相手がウィザードなら。
 互いに死力を尽くし、生命を燃やし、ぎりぎりの戦いを行えたのなら。
 それは、最高の時間だったはずだ。
 もはや二度と手に入らない至高の瞬間。
 一度あきらめ、再び鼻先に吊るされた餌が、また寸前で取り上げられてしまった。
 
「俺が望んだのはこんな遊びじゃねえ。ウィザード、お前との――――」
 
 
 
 身を起こしながら、しずくはぼんやりと男を見上げた。
 わけもわからず襲われて、わけもわからず見逃された。
 随分身勝手な人間だとは思うのだが……

(……泣いてるんでしょうか、この人は)

 しずくには、ずぶ濡れで空を見上げるその男が、やけに小さく見えた。
320Drop&Dog 10/10 ◆7Xmruv2jXQ :2005/05/16(月) 19:47:04 ID:CLmyMTtb
【D-7/湖岸/12:20】  

【しずく】
[状態]:右手首破損。身体機能低下。センサーさらに感度低下。濡れ鼠。
[装備]:
[道具]:荷物一式。
[思考]:1、かなめたちの救出のため協力者を探す


【甲斐氷太】
[状態]:左肩に切り傷(軽傷。処置済み)。ちょい欝気味。濡れ鼠。
[装備]:カプセル(ポケットに数錠)
[道具]:煙草(残り14本)、カプセル(大量)、支給品一式
[思考]:1.ウィザードの馬鹿野郎 2.ベリアルと戦いたい。海野をどうするべきか。
    ※『物語』を聞いています。 ※悪魔の制限に気づきました

※エスカリボルグはその辺に落ちてます。二人が別れるかは次の書き手に任せます。
321そして不死人は竜と飛ぶ (1/8)  ◆MXjjRBLcoQ :2005/05/17(火) 10:46:14 ID:CufxhmbP
『……諸君らの健闘を祈る』
 放送が終わった。
「風見」
 BBが異常に気づいて声をかけた。
 風見は答えない。鉛筆をもつ手が061で止まっている。瞳は宙に囚われ、口は半開き。
 BBはこの表情を知っている。
「風見」
 もう一度声をかけた。
 ああ、とつぶやいて風見は手元に視線を落とす、そしてまた止まる。
「風見、放送の内容を告げる、メモの用意だ」
 BBは一字一句正確に放送を再現する。
 風見はのろのろとメモを再開した。
 再放送も終わって、ひどく緩慢な動作で風見はメモを地図に書き込む。

 001 物部景
 線を引く。

――馬鹿なやつ、私に誰かを重ねて見て、私を庇って死ぬなんて。

 全竜交渉でも死者は出ている。風見とてただの小娘ではないし、戦場での死は初めてではない。
 だが、今回は違う、と風見は考えている。景は私をかばって、つまり私のせいで死んだのだ、と。
 彼に失礼だとは分かっていても、風見はその後悔を捨てることが出来ない。
 自分は戦闘訓練を受けていた、というのも今思えば驕りでしかなかった。
 新庄も、オドーでさえも死んでいるというのに。
 まさしくいいとこなし、と言うやつである。
322そして不死人は竜と飛ぶ (2/8)  ◆MXjjRBLcoQ :2005/05/17(火) 10:47:32 ID:CufxhmbP
072 新庄運切
 線を引く。そう、新庄も死んだ。
 風見は新庄の顔を思い出そうとするが、何も浮かんでこなかった。
 すっかり余裕をなくしていることに苦笑する。笑みが自然と自嘲的になる。
 水着を買いにいって、いざ試着のとき男だったなんてこともあった。
 移動の際はいつも楽しそうにそして自慢げに旧式ゲームをしていた。
 よく騙され、からかわれるくせに、佐山の誤魔化しに気づくこともある、警戒心の強いのか弱いのか分からないコ。
 そうだ、新庄という人間はそういう娘だった。
 かわいい、新しい後輩だった。

 075 オドー
 線を引く。
 米国UCAT幹部というより歴戦の戦士だった。
 自分が概念核を用いて対峙した機竜を、腕一本でねじ伏せる男。

 BBは何も言わない。その気遣いが風見にはありがたい。
 新庄、オドーはどんな死に様だったのか。誰に殺されたのだろうか。
 相方が無言をいいことに、風見は自分の世界に沈み込む。
 装備型のEx−stはともかく、オドーの悪臭までは取り上げられてないだろう。
 機竜を打ち砕くオドーすら倒れるこの島で銃ひとつ、その事実に風見は小さく震える。
 やはり先にG−sp2を探すべきだろうか。
 戦闘とあらば文字通り飛んでくる相棒を思い浮かべ、風見は大切なことを忘れていることにようやく気づいた。
「そうだ、飛んでこれるんじゃない」
 がっくりと肩を落とす風見。テンションが急激に下がり、底割れして一回り、結果いつもに戻る。
 どうも今ひとつ調子が出ていない。
 打撃してないのが原因ではあるまいか、と風見は半ば本気で考えた。
「まさかアンタをぶっ飛ばすもいかないわよね、痛そうだし」
 どうも自分にはガンガン突っ込めるタイプの相方が必要らしい。
「何がしたいかは分からないが、それが賢明だろうな」
 律儀に答えるBB。悪いとまでは言わないが、こうもお堅いとさすがにフラストレーションがたまる。
 風見は深呼吸して気を取り直した、G−Sp2がくればBBにも手を痛めずに突っ込める、調子も戻るだろうと考えて、
「さて、ちょっと上をチェックしといて、どこから飛んでくるのか分からないから」
323そして不死人は竜と飛ぶ (3/8)  ◆MXjjRBLcoQ :2005/05/17(火) 10:49:12 ID:CufxhmbP
怪訝な様子のBBを無視して、
「G−sp2!」
声を張った。
 一拍の間をおいて、東から飛来する衝撃音とそれにつづく風切音を二人は捕らえる。
 そして風見は、また一つポカをしたことに気付いて頭を抱えた。

    *    *    *

 時刻は数分ほどさかのぼる。放送のメモを終えて子爵とハーヴェイは移動の準備に取り掛かった。
 少女の遺体を野ざらしにしておくのは忍びなかったが、埋葬する時間はハーヴェイにない。たまたま今回の放送に名前は
無かったが、次の放送でキーリが呼ばれない保障はどこにもない。最悪、今この瞬間にも彼女が死の危地に直面しているか
もしれなのだ。
 子爵もそれを察して、埋葬しようとは言わない。
「これで勘弁してくれ」
 二人は少女の亡骸を木に寄りかからせて、目をそっと瞑らせた。
【さて、放送も終わった。私は流離いの一人旅に出たいと思うのだが、君はどうするかね。尋ね人がいるのなら、協力するの
 にはやぶさかではない。かような私だが言付を預かることぐらいはできるつもりだが?】
「いや、いい。こんな状況で待ち合わせやら伝言やらを頼むのにはアンタにも俺達にも危険だからな」
 ハーヴェイは真っ赤な自称吸血鬼のスライムにキーリの特徴、ウルペンの危険性、炭化銃の性質を教えてお別れを言った。
【それでは君の健闘と君の友人の無事を祈っている】
 子爵が赤い触手のようなものを伸ばしてきた、握手のつもりなのだろうと、彼は判断し、それを生身の手で握り返した。
 ほんのちょっぴり後悔した。 
 子爵は液体となって流れるように去っていく。彼は気取られないようにそっと手を拭きながら見送った。

「武器はこれだけか」
 その後、ハーヴェイは生き残りの手段を求めてウルペンが置き捨てた長槍を手に取った。
 奇妙な形状、用途不明の突起、不可解な装甲。これも非常識な物体なのかと首をひねる。
 直後、コンソールに緑色の光がともった。
『コンニチワ!』
324そして不死人は竜と飛ぶ (4/7)  ◆MXjjRBLcoQ :2005/05/17(火) 10:50:38 ID:CufxhmbP
「ああ、こんにちわ」
 淡々と返すハーヴェイ。
『ビックリシタ?』
「もう慣れた」
 槍は穂首をがっくりと落とした。ハーヴェイがリアクションに困っていると今度は辺りをきょろきょろと眺め始める。
『ヨンダ?』
 ハーヴェイもそれに倣って辺りを探るが気配すらない。
「いや。誰もいないし、というか声すら聞こえなかったぞ」
『キコエタノ!カザミダヨ!』
 疑問視を浮かべて答えるハーヴェイ。
『ハナシテ』
 言われるままに手を離してから、猛烈にいやな予感を覚えた。
『イマイクヨ!』
「ちょっと待て!」
 くるりと長槍が身を翻した。義手がとっさにその柄をつかむ。
 風船を破る、というよりアドバルーンを破るような音がして、ハーヴェイが気が付いたときには、その身ははるか上空を
飛んでいた。
 さすがのハーヴェイも眩暈を覚えた。
「……どこに行く気だよ」
 すさまじい慣性がハーヴェイを後方に引きずる。
 地上を眼下に見下ろしながら、振り落とされないようしがみつくハーヴェイ。
 ほんの数秒の飛行後、ハーヴェイは自分が危機的状況にあるのに気が付いた。
 だんだんとハーヴェイにかかる慣性が消えていく、眼下の景色も地上からだんだんと水平線へ移っていく。
「おいおい、マジか」
 冷や汗が流れる。
「落ちてるぞ……」

 衝撃。そして暗転。

    *     *    *
325そして不死人は竜と飛ぶ (5/7)  ◆MXjjRBLcoQ :2005/05/17(火) 10:52:03 ID:CufxhmbP
 二人は流れ星が墜落するを呆然と見ていた。
「取りに行くか?」
「冗談、あんな大騒ぎになりそうなとこ行ったら幾つ命があっても足りないわ」
 千里は腕組みして鼻を鳴らした。ショックはそれなりに、少なくとも表面上は吹っ飛んでいる。
「G−Sp2には悪いけど、あの子がいないと死ぬわけでもないし……寂しいけど当初の予定通り行きましょ」
「結局悩みの種が一つ増えただけだったな」
 風見は返す拳もない。
「まったくよ」
 いまだけはBBの装甲が恨めしかった。

    *     *     *

 暖かい日差しに目を覚ましたハーヴェイが最初に見たのは、天井に開いた穴とそこからのぞく青い空だった。
 もう、どこまでもブルーである。
「なんだったんだ、今のは」
 全ての原因はG−Sp2に施された個人識別解除処理のためだが、そんなもの風見もハーヴェイもG−Sp2も知るわけ
がない。
 とりあえずハーヴェイは全身をチェック、一箇所を除いて傷らしいものも異常は見られなかった。
 その代償はぼろ雑巾と成り果てた左腕。
 腕一本ですんだのは僥倖と言えた。かばった腕はしばらく使い物にはならないが、行動不能よりはましである。
 しばらくの黙考の後、ハーヴェイは手元に長槍がないことに気が付き、とりあえず穴から上へよじ登った。
 集合住宅の屋上らしき場所、ざっと見渡して確認できるものは、血痕のあと、ディバック、メガホン、そしてコンクリー
トに横たわる槍。人影は死体のみ。
『シクシク』
 コンソールだけで器用に泣くG−Sp2。
 ハーヴェイはやるせない気持ちで、それを眺めていた。
326そして不死人は竜と飛ぶ (6/7)  ◆MXjjRBLcoQ :2005/05/17(火) 10:54:06 ID:CufxhmbP
【残り85人】

【D-4/森の中/1日目・12:10】
【蒼い殺戮者(ブルーブレイカー)】
[状態]:少々の弾痕はあるが、異常なし。
[装備]:梳牙
[道具]:無し(地図、名簿は記録装置にデータ保存)
[思考]:風見と協力して、しずく・火乃香・パイフウを捜索。脱出のために必要な行動は全て行う心積もり。


【風見千里】
[状態]:表面上は問題ないが精神的に傷がある恐れあり、肉体的には異常無し。
[装備]:グロック19(全弾装填済み・予備マガジン無し)、頑丈な腕時計。
[道具]:支給品一式、缶詰四個、ロープ、救急箱、朝食入りのタッパー、弾薬セット。
[思考]:BBと協力する。地下を探索。仲間と合流。景を埋葬したい。とりあえずシバく対象が欲しい。


【C-8/移動中/1日目・12:05】

【ゲルハルト・フォン・バルシュタイン(子爵)】
[状態]:健康状態 
[装備]:なし
[道具]:デイパック一式、 「教育シリーズ 日本の歴史DVD 全12巻セット」
    アメリアのデイパック(支給品一式)
[思考]:アメリアの仲間達に彼女の最後を伝え、形見の品を渡す/祐巳がどうなったか気にしている 。
[補足]:祐巳がアメリアを殺したことに気づいていません。
    この時点で子爵はアメリアの名前を知りません。
    キーリの特徴(虚空に向かってしゃべりだす等)を知っています。
327そして不死人は竜と飛ぶ (7/7)  ◆MXjjRBLcoQ
【C-6/住宅街/1日目・12:10】

【ハーヴェイ】
[状態]:生身の腕大破、他は完治。(回復には数時間必要)
[装備]:G−Sp2
[道具]:支給品一式
[思考]:まともな武器を調達しつつキーリを探す。ゲームに乗った奴を野放しに出来ない。特にウルペン。
[備考]:服が自分の血で汚れてます。
    鳥羽茉理とカザミを勘違いしています。

【C-8】から【C-6】に向けてG−Sp2が飛びました。音に気づき、場合によっては目撃したものがいると思われます。
 放送によりウルペンがハーヴェイの生存に気づいた可能性があります。
 個人識別解除処理が施されているため、G-Sp2は誰にでも使用できますが、呼びかけない限り風見に気づけません。