閉鎖都市巴里
わりぃ、俺読んだ事ないわ。
だってこれあまりに過激な内容でフランスからクレームがきて初版しかないんじゃなかったか?
だって普通は解放者と見られているレジスタンスとドゴール将軍を
撤退するを図るSS中隊の兵士達の側から描いた話だからな。
敗残兵狩りというのは、都市アドベンチャーというには陰惨すぎる。
あの地下道に潜んだ兵士たちの
「ああ、この都市からは空も見えない……」
はちょっと感動したなあ。
途中でパリの歴史やカタコンベについて語りだすメガネの中尉が好きだった。
中盤で生粋のSS野郎に後ろから撃たれたシーンじゃ泣いたよ。
この本読んで以来、リベレーターが陰湿な拷問道具にしか見えなくなって困った。
ナチへの憎しみに狂う人々を描くことで戦争の悲惨さを訴える、という手法はすごい。
取り残された中隊長が、落とされた橋の向こうを撤退する友軍を見たときに言った
「俺たちの虎が、逃げる・・・」という台詞は、今でも戦争物の中で一番好きだ。
上下巻でそれぞれSSとレジスタンスの視点なんだよな。
上層部はともかく兵士には双方に正義があるところが読んでて辛い。ベレニス
は「このナチイヌがっ!」って言ってたけど、ヨハンは根っからのSS野郎じゃ
ないんだよ! むしろヒムラーは嫌いなぐらいで! それなのにリンチ→死亡
・゚・(ノД`)・゚・。ヨハン−!
っつーかまあ、ライトノベルで武器とか戦闘能力とか以外にいわゆるマンガ的
な部分が無いってのもあれだよな……。
あと、武器とかがトンデモになっただけで舞台がファンタジーに見える。それ
ほど閉鎖下のパリってのは異質な場所だったんだな。改めて思い知らされた。
むぅ、でもレジスタンス側も必死だからな
暴発で自分の手をふっ飛ばす覚悟でリベレーター撃ってたし。
幼馴染みを殺されたジャンが激情にかられて
『ラ・マルエイエーズ』を歌いながら発砲するシーンはかなり燃えですた。
でもジャンの幼馴染を殺したナチのヤツも
「俺は絶対故郷のインスブルグに帰るんだ!
帰ってマリーアと結婚式を挙げるんだ!」
で恐慌状態になった、元は気のいい農民だったんだよなあ。
直接には「戦争は愚かしいものです」なんて一言も書いてないけど、
あれほど人の哀しさを描いて、厭戦感に浸らせる作品もそうないよなあ。
なんであの変態SS副司令だけのうのうと生き残っとるんじゃ、てのも含めて。
SS編ラストで、そのムカつく副司令が総統に中隊全滅の報告をする場面が
この物語の意味と言うかキモだしね。勧善懲悪のヒーローものじゃないから。
奮戦して全滅することは最初から決まっている、仕様のないことなんだよ。
だからこそ、「彼らの命は、多忙なる総統に10秒の浪費を強いたのだった。」
って結びの文が、この物語の訴えるテーマとして効いてくるんだと思う。
これほど連合軍のパリ入城が悲しい物語もなかったよ。
あとほんの数時間、閉鎖の解除される時間が早ければ
レジスタンスと中隊は決戦をせず別れられたのに・・・。
パリ市民のまく花吹雪と連合軍の『ラ・マルセイエーズ』大合唱を
淡々と描写するだけの下巻エピローグは、まるで作者が
こうなるまでの経過を思い出せ、って言ってるようで
涙が止まらなかった。
完全映画化してほしいけど、やっぱ無理だろうなあ。