奈須きのこ総合 『空の境界』 夢十三夜

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571ツウのひと声
しばらく前からその「小説」のことは話題になっていた。奈須きのこ『空の境界』。

同人ノベルとして驚異的な売れ行きを示し、それが新たに講談社ノベルスで出版されるにあたって、
先行発売された約一万円の豪華版五千部は三時間で予約完売。今月上旬のノベルスの売れ行きが注目されていた。

事実、いざ発売されてみると、新人としては異例の部数を刷ったにもかかわらず、初速は『バカの壁』や『世界の中心で、愛を叫ぶ』
の売れ行きを超え、三日で品切れの店が続出。版元でも完全品切れ状態で、ちょうどこのコラムが載るころ、重版出来予定だと言う。

八十年代後半、高河ゆんがメジャーデビューした時以来の衝撃である。あの時も初刷り五万部がたちまち売り切れて版元が慌てたというが、
それは漫画の世界の話。小説では異例の出来事といってよい。
572イラストに騙された名無しさん:04/06/18 23:20 ID:e69o19HX
読売には載らないかのう・・・。
573ツウのひと声:04/06/18 23:20 ID:dMLy6LM7
といっても、この小説、はじめから売れたわけではない、最初にネットに発表したときはほとんど反応が無く、コミックマーケットに持っていってもほんのわずかの売り上げだった。

だが、この小説の力を信じた挿画の武内崇氏が奈須氏を説得(2人は中学の同級生で、その頃から将来コンビで本を出そうと言い交わしていたと言う)。
まずは話題作りということで、コンビで美少女述べるゲーム『月姫』を出し、これが同人市場で大ヒット。同じコンビの小説があるらしい、ということで人気に火がついていったらしい。

同人出版された本は、講談社のベルの外見をパロディーする形で作られており、「ノベルスへの愛を感じて」読んだ担当編集者が一年かけて著者を説得。今回の出版へ至ったという。

内容は、というと、主人公は、人であれ、なんらかのシステムであれ。およそ生きているものならば、その死を「視」て「殺す」ことができる。「直死の魔眼」を持つ少・女両義式。
二年前のなぞの自己で、二重人格だった内なる片割れとその記憶を失い、心の中に空洞を抱える彼女の前に現れる若い能力者たちも、それぞれの形で自我の境界の曖昧さを抱えている。
式は思う。<世界はすべて、空っぽの境界でしきられている。だから異常と正常を隔てる壁なんて世界には無い>
だから『空の境界』。
まだ未熟なところも、同人らしさも確かに残ってはいるが、ここには確実に「新しい時代」が始まっている。

藤本由香里(編集者・評論家)
朝日新聞の夕刊五面より