「ある日突然、あんたに12人もの妹姫ができたらどうするのかな?
それも、すこぶる見目麗しく
櫛梳くエルフの髪のごとく素直で
芽吹いた白の木の苗のように愛らしく
じゃがおのが脚で立ったばかりの子馬のように淋しがり屋じゃ。
かててくわえてその妹姫たちはみんながみんな、途方もなく
あんたのことが大好きなんじゃよ。
「じゃが胸痛むことにあんたと妹姫は今は離れ離れに暮らしておる。
実際に会うことができるのは、
ふた月に一度と決められた『お兄ちゃんの日』だけなのじゃ。
大好きなあんたと自由に会えない妹姫はさみしくて、
夜につけ昼につけあんたのことばかりを考えておるのよ。
『どうか、早くお兄ちゃんに会えますように。
冬長きこの国の春の陽射しにも勝るわたしの大切なお兄ちゃん、
会えないでいると、わたしの心は冷たき風に揺らぐ灯火のようです』
「そしてそれゆえ、ようやくふた月に一度の『お兄ちゃんの日』が
めぐり来たり、二人がついにまみえたときには
妹姫は天が下の幸福をすべて己がものにしたかのごとく、
この上ない幸せな気持ちになるじゃろう。
むろん二人は兄妹じゃ。じゃが気分はまるで逢瀬といってよい。
そして妹姫は、あんたのそばにぴったりくっついて
心配そうにあんたの顔をのぞきこみ、こういうじゃろう。
『お兄ちゃんはわたしのこと、好き?』
「なぜとなれば、妹姫たちは幼少の砌からこの日に至るまで
ただ純粋にあんたのことだけを愛しておるからじゃ。
心優しく、高貴で丈高く、この世にただひとり、
あんたが自分だけの大切なお兄ちゃんだからじゃよ。
かくてこそ、いつもいつもあんたとともにありたいと思い、
あんたの目を自分に向けてほしいと思っておるのじゃ。
わしが伝えるのはそんな清らかな乙女たちのことじゃ。
見た目もその性質もまったく違う12人の妹姫たちじゃが、
その心だけはほとんど差異が見られぬほどみな等しくあろうぞ。
そう『お兄ちゃん、大好き!』とな!」
瀬田貞二氏 訳