軽書校の平和な第二校舎。

このエントリーをはてなブックマークに追加
27いつもどおりのしあわせ 1
「頭、痛い……」
 いつものように卓球場でひとりラケットを振っていた私は、ふいに訪れた鈍い痛みに額を押さえた。
 それは『激痛』というほどのものではなく、しかも数分くらい卓球台に手をついて大人しくしていたら、じきにスーッと楽になった。
 ただ、最近こんな頭痛を覚える瞬間がときたまある。
 最初は確か、8月19日の深夜1時ごろだったと記憶している。
(これはいったい、どういうことだろう?)
 何か悪い病気にでもかかったのかと思って、医者の扉を叩いたこともあるのだが、しかし診てくれた医者は「何にもない」というのだ。
『しかし、おかしなこともあるものです。最近、あなたと同じ軽書校の生徒さんたちが何人も、
あなたと同じような症状を訴えて診察に来るんですよ……あの学校、何かあるんですかねぇ?』
 首を傾げる医者に対して、私は何の心当たりを伝えることもできなかった。
 そういえば、ここのところ変な夢も見る。
 なぜか私が、この卓球場で黒い顔をした怖い人たちに襲われる夢だ。
 そのあと、私は……
(あれ、思い出せない――?)
 私はしかし、それを思い出したいとは思わなかった。
 そういえば、頭痛が始まったのはあの夢を見るようになってからだ。
 このふたつは、何か関係があるのだろうか?
 これは、いったい……?
28いつもどおりのしあわせ 2:03/09/09 23:05 ID:U1azrxNS
「……野村さん?」
「えっ! あ……お、乙一くん……?」
 いつの間にか、乙一くんが私の顔を不思議そうに覗き込んでいた。
 なぜだかわからないけれど。
 私は、乙一くんの顔を見るのがとてもとても久しぶりに感じた。
 そんなこと、ないのに。
 昨日だって、ここで一緒に部活したのに。
 何がなんだか、さっぱりわかんない。
「どうしたの?」
「え? ……あ! いや、えと、あの……その……!」
 どきどきどき!
 乙一くんの顔が近い。
 ほんの数ミリ、くちびるを前に突き出したら、届いてしまうくらいに。
 乙一くんの顔が、近づいてくる。
「乙一くん……!」
 あわてる私に気づきもしないで。乙一くんの額が、私の額に触れた。
「あ……っ」
「熱があるみたい、だけど?」
「ち、違……っ!」
 これは、ただ……
 ……私が、色惚けしている、だけだよ……
「熱とかじゃないの!」
 私はあわてて乙一くんの胸を押して引き離した。
「大丈夫。大丈夫だから」
 そして、戸惑う乙一くんにニッコリと笑ってみせた。
「ほら。わたし、元気だよっ!」
「……そ、そう」
 面食らった乙一くんが、あまりにも可愛らしくて。
 私は、もっともっと笑える気がした。
29いつもどおりのしあわせ 3:03/09/09 23:05 ID:U1azrxNS
「さあ、乙一くん」
「うん」
「部活しようっ!」
「……うん」

 こうしてまた、いつものように、新しい今日が始まる――