「夕陽の中で・b」および「a」に登場するウィルという人物はけっこう
気になる人だ。もしかしたら、彼はキノの「シャドウ」もしくは「キノより
もう少し自分のことを把握している、キノと同病の人物」として時雨沢氏が
用意したキャラなのではないだろうか。
ウィルには世界が「美しく」見える。そして彼は、世界は本当は美しくなど
ないことを知っていて、それでも美しく見えてしまう自分が心の病を抱えて
いる可能性について考えている。彼にとって「世界が美しく見える」という
ことは「心がおかしくて、狂っていて、壊れている」ことの症例なのだ。
だから、時々、考えてしまう。やはりキノという人物の性格設定の根底には
「狂気」が置かれているのではないか。世界に美など感じず、与えられた
世界(国の城壁の内側)で暮らす人々を、実は時雨沢氏は「正常な人間」と
肯定しており、ありもしない世界の美を見るために、憑かれたように旅をし、
旅を強引に続けるために容赦なく人を殺すキノは、作者によって「狂った人」
と設定されているのではないか。
自らの狂気に気づかないキノの実像を説明するための人物として、時雨沢氏は
ウィルという人物を書いたような気がする。
そういえば、キノもウィルも自分のことを「ボク」っていうね。